グラフ理論(graph theory)とは、頂点の集合と 2 頂点を結ぶ辺の集合からなるグラフについて、つながり方、すべての辺や頂点を通る経路、頂点の塗り分け、平面や曲面への描き方、マッチングや被覆の大きさ、ある部分グラフを含まないための辺の本数、隣接行列の固有値などを調べる数学の分野であり、組合せ論の中心的な小分野である。Königsberg の橋の問題に始まり、最短経路や流れなどの最適化の問題にも使われる。代表例として、連結で橋のないグラフには、どの頂点からどの頂点へも進める辺の向きの付け方がある(Robbins の定理)。
グラフ理論(graph theory)は、点(頂点)と、2 点を結ぶ線(辺)からなるグラフを研究する数学の分野である。Königsberg の 7 つの橋をちょうど 1 回ずつ渡る散歩ができるかという問題を、陸地を点、橋を線に置き換えて解いた Euler の仕事が、その始まりとされる(一筆書きとグラフ、Euler閉路 の例「Königsberg の橋」)。その後、地図の塗り分け、回路網、化学の分子の形、交通や通信の網、計算機の計算の構造など、「ものとものの間のつながり」が現れるところで、グラフは共通の言葉になった。
この記事では、グラフ理論が扱う対象と主な問いを定義とともに述べ、小分野と代表的な定理を、それを扱う記事とともに一覧にする。続いて、Königsberg の橋にちなむ定理として、橋(除くと連結でなくなる辺)をもたない連結なグラフにはどの頂点からどの頂点へも行ける一方通行の付け方がある、という Robbins の定理を完全に証明し、仮定を外した反例を示す。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。
有限集合 $V$ と、$V$ の 2 元部分集合からなる集合 $E$ の組 $G=(V,E)$ を(単純な)グラフ という。$V$ の元を 頂点、$E$ の元を 辺 といい、辺 $\{u,v\}$ を $uv$ と書く。グラフの性質(つながり方、部分構造、大きさを表す量)と、グラフについての問題を解く方法を研究する数学の分野を グラフ理論(graph theory)という。
この定義は、グラフ の記事の定義「グラフの定義」で頂点の集合を有限にしたもの(有限グラフ)である。グラフの基本の言葉(隣接、次数、部分グラフ、道、閉路、連結)は グラフ の記事で定義されている。目的に応じて、定義は次のように変えられる。
Petersenグラフ $P$($\{1,\dots,5\}$ の 2 元部分集合を頂点とし、交わらないものどうしを結んだ 10 頂点のグラフ)について、上の問いの答えを、それを証明している記事とともに挙げる。
| 問い | 答え | 記事 |
|---|---|---|
| 最も短い閉路の長さ(内周) | $5$ | Petersenグラフ の命題「共通の隣接頂点と内周」 |
| Hamilton 閉路をもつか | もたない | Petersenグラフ の定理「Petersen グラフは Hamilton 閉路をもたない」 |
| 彩色数 | $3$ | Petersenグラフ の命題「Petersen グラフの彩色数」 |
| 平面グラフか | 平面グラフでない | 平面グラフ の例「Petersenグラフは平面グラフでない」 |
| 独立数 | $4$ | 独立集合 の例「Petersen グラフの独立数」 |
| 支配数 | $3$ | 支配集合 の例「基本的なグラフの支配数」 |
1 つのグラフについて、つながり方・通り道・塗り分け・描き方・覆い方の問いがそれぞれ別の答えをもち、別の方法で証明される。Petersen グラフは、多くの予想や主張の反例になることでも知られている。
| 小分野 | 主な対象と問い | 記事の例 |
|---|---|---|
| 構造グラフ理論 | 連結性、木、閉路、マイナー | 木, 全域木, 閉路, 連結度(グラフ), ブロック(グラフ) |
| 彩色 | 頂点と辺の塗り分け | 彩色数, 辺彩色, 彩色多項式, Brooksの定理, Vizingの定理 |
| 位相的グラフ理論 | 平面・曲面への描き方 | 平面グラフ, Kuratowskiの定理, 位相的グラフ理論, 四色定理 |
| マッチングと被覆 | 辺や頂点の組み合わせ方 | マッチング(グラフ理論), Hallの結婚定理, 独立集合, 支配集合 |
| 極値グラフ理論と Ramsey 理論 | 最大・最小と必ず現れる構造 | 極値グラフ理論, Mantelの定理, Turánの定理, Ramseyの定理 |
| 代数的・スペクトルグラフ理論 | 行列・群・固有値 | 隣接行列, Laplacian行列(グラフ), スペクトルグラフ理論, 強正則グラフ, Cayleyグラフ |
| 有向グラフ | 向きのある辺、到達可能性 | 有向グラフ, 非巡回有向グラフ, トーナメント(グラフ理論), 有向全域木 |
| 算法と組合せ最適化 | 探索、最短経路、流れ、割り当て | 深さ優先探索, 幅優先探索, Dijkstra法, ネットワークフロー, 割当問題 |
| 定理 | 主張の要点 | 記事 |
|---|---|---|
| 次数の総和 | 次数の総和は辺の本数の 2 倍 | 次数(グラフ) の定理「次数の総和と辺数」 |
| Euler の定理 | 辺をもつ連結なグラフに Euler 閉路があるのは、すべての次数が偶数のとき | Euler閉路 |
| 木の特徴づけ | $n$ 頂点の連結なグラフが木であるのは、辺が $n-1$ 本のとき | 全域木 の命題「木の判定」 |
| 行列木定理 | 全域木の個数は Laplacian 行列の小行列式 | 行列木定理, 有向全域木 |
| 二部グラフの特徴づけ | 二部グラフであるのは、奇数の長さの閉路をもたないとき | 二部グラフ の定理「閉路の長さによる特徴付け」 |
| König の定理 | 二部グラフの最大マッチングの大きさは最小の頂点被覆の大きさ | マッチング(グラフ理論) |
| Hall の結婚定理 | 一方の部を覆うマッチングがあるための近傍の条件 | Hallの結婚定理 |
| Turán の定理 | $K_{r+1}$ を含まない $n$ 頂点のグラフの辺の本数の最大値 | Turánの定理 |
| Ramsey の定理 | 十分大きい完全グラフの辺の 2 色の塗り分けには大きな単色の完全部分グラフがある | Ramseyの定理 |
| 四色定理 | 平面グラフは 4 色で頂点を塗れる | 四色定理 |
| Kuratowski の定理 | 平面グラフであるのは、$K_5$ と $K_{3,3}$ の細分を含まないとき | Kuratowskiの定理 |
| Robbins の定理 | 連結で橋のないグラフには強連結な向き付けがある | この記事の thm-gt-robbins |
グラフ理論の証明でよく使われる方法を挙げる。
ある町の道路をすべて一方通行にしたい。どの交差点からどの交差点へも行けるようにするには、道路網にどんな条件が要るか。交差点を頂点、道路を辺とすれば、これはグラフの各辺に向きを付けて、強連結な有向グラフを作る問題である。
単純なグラフ $G=(V,E)$ の 向き付け とは、各辺 $uv$ について $(u,v)$ と $(v,u)$ のちょうど一方を選んで得られる有向グラフであり(有向グラフ の記事の定義「基礎グラフと向き付け」)、有向グラフが 強連結 であるとは、頂点があって、どの頂点からどの頂点へも有向歩道があることである(同記事の定義「到達可能性と強連結性」)。辺 $e$ が 橋 であるとは、$e$ を除くと連結成分が増えることである(閉路 の定義「橋」)。閉路 の定理「閉路に含まれる辺と橋」により、辺が橋でないことと、その辺がある閉路に含まれることは同値である。
$G=(V,E)$ を連結で橋をもたない単純なグラフとし、$S$ を $V$ の空でない真部分集合とする。このとき、頂点の列 $x_0,x_1,\dots,x_k$($k\ge2$)で、次を満たすものがある。
$S$ の頂点と $S$ にない頂点をとり、それらを結ぶ $G$ の道($G$ は連結)をたどると、$S$ の頂点 $u$ から $S$ にない頂点 $v$ へ進む辺 $uv$ がある。$uv$ は橋でないので、ある閉路 $C$ に含まれる。$C$ を $u=y_0,v=y_1,y_2,\dots,y_m=u$($m\ge3$、$y_0,\dots,y_{m-1}$ は相異なる)と表すと、$C$ の $m$ 本の辺 $y_{j-1}y_j$ は相異なる。$y_m=u\in S$ なので、$y_j\in S$ となる最小の $j\ge1$ を $k$ とすると、$y_1=v\notin S$ から $k\ge2$ である。$x_i:=y_i$($0\le i\le k$)とおけば、$x_1,\dots,x_{k-1}$ は相異なり $S$ に属さず、辺は $C$ の相異なる辺である。$\square$
連結な単純グラフ $G$ が強連結な向き付けをもつためには、$G$ が橋をもたないことが必要十分である。
必要性:$G$ が橋 $e=uv$ をもつとし、強連結な向き付け $D$ があったとする。$D$ で $e$ が $(u,v)$ の向きであるとしてよい。$D$ には $v$ から $u$ への有向歩道があり、頂点がくり返す区間を除くと、頂点が相異なる有向道 $v=z_0,z_1,\dots,z_l=u$ が得られる。この道が辺 $e$ を使うとすると、向きは $(u,v)$ なので $u$ が終点より前に現れ、頂点が相異なることに反する。よってこの道は $G-e$ の道であり、$u$ と $v$ は $G-e$ でつながっている。すると $G-e$ に $e$ を戻しても連結成分は合わさらないので、$G-e$ と $G$ の連結成分の個数は等しく、$e$ が橋であることに反する。
十分性:頂点を 1 つとり $S:=\{s\}$、$F:=\emptyset$ から始め、次の性質を保ちながら $S$ を大きくする。
(i) $F$ は、両端点が $S$ に属する $G$ の辺のいくつかにそれぞれ向きを 1 つ付けた有向辺の集合である。
(ii) 有向グラフ $(S,F)$ は強連結である。
最初は (i)(ii) が成り立つ。$S\ne V$ なら、lem-gt-ear により $S$ の耳 $x_0,\dots,x_k$ がある。耳の各辺は $x_1,\dots,x_{k-1}$ のどれかを端点にもつので、両端点が $S$ に属する辺ではなく、まだ向きが付いていない。これらに $(x_0,x_1),(x_1,x_2),\dots,(x_{k-1},x_k)$ の向きを付けて $F$ に加え、$S$ に $x_1,\dots,x_{k-1}$ を加える。新しい $S$ の 2 頂点 $a,b$ をとる。$a$ が耳の内側の頂点 $x_i$ なら、耳に沿って $x_k\in S$ へ進める。$b$ が耳の内側の頂点 $x_j$ なら、$x_0$ から耳に沿って $x_j$ へ進める。古い $S$ の中では (ii) によりどの頂点からどの頂点へも進めるので、$a\to(x_k)\to\dots\to(x_0)\to b$ とつなげば $a$ から $b$ への有向歩道がある。よって (i)(ii) は保たれる。$k\ge2$ なので $S$ は真に大きくなり、有限回で $S=V$ となる。
最後に、まだ向きの付いていない辺に任意に向きを付ける。有向辺を加えても有向歩道は残るので、得られる向き付けは強連結である。$\square$
強連結な向き付けでは、どの辺も「回り道」をもつ。次の命題は、橋がないことの有向グラフの側からの言い換えである。
ループをもたない有向グラフ $D$ が強連結なら、$D$ のどの有向辺もある有向閉路に含まれる。
有向辺 $(u,v)$ をとる(ループがないので $u\ne v$)。強連結性から $v$ から $u$ への有向歩道があり、頂点がくり返す区間を除くと、頂点が相異なる有向道 $v=z_0,\dots,z_l=u$($l\ge1$)が得られる。$u,z_0,z_1,\dots,z_l$ は、$z_0,\dots,z_l$ が相異なり $z_l=u$ なので、有向辺 $(u,v)$ を含む有向閉路である(有向グラフ の記事の定義「有向歩道・有向道・有向閉路」)。$\square$
thm-gt-robbins の向き付けで有向閉路の向きを忘れると、長さ $3$ 以上なら $G$ の閉路になる。長さ $2$ の有向閉路 $(u,v),(v,u)$ は、各辺に向きを 1 つしか付けない向き付けには現れない。したがって prop-gt-arc-cycle から、強連結な向き付けをもつ連結なグラフのどの辺も閉路に含まれ、橋でないことが再び分かる。
thm-gt-robbins は BM76 の Theorem 10.5(p. 184)にあり、同書は Robbins(1939 年)によるとしている。同書の証明は、閉路から始めて、辺を共有しない 2 本の道を付け加えていく形で、上の証明とは組み立て方が違う。
Euler閉路 の例「Königsberg の橋」と同じく、Kneiphof 島を $A$、北岸を $B$、南岸を $C$、もう一方の中州を $D$ とする。橋は $A$—$B$ に 2 本、$A$—$C$ に 2 本、$A$—$D$、$B$—$D$、$C$—$D$ に 1 本ずつある。$A$—$B$ の 2 本を $A\to B$ と $B\to A$、$A$—$C$ の 2 本を $A\to C$ と $C\to A$ とし、残りを $A\to D$、$D\to B$、$C\to D$ とする。すると $A$ から $B,C,D$ へ直接行け、$B,C$ からは直接 $A$ へ、$D$ からは $B$ を通って $A$ へ戻れるので、どの陸地からどの陸地へも行ける。Königsberg の橋を 1 回ずつ渡って戻る散歩はできない(Euler閉路)が、橋をすべて一方通行にしても町の行き来はできる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 連結 | 共通の頂点をもたない 2 つの三角形(橋はない) | 強連結な向き付けをもつ |
| 橋がない | 1 本の辺だけのグラフ(道 $P_2$) | 強連結な向き付けをもつ |
| 各辺に向きを 1 つだけ付ける | 道 $P_2$ の辺を両向きの 2 本の有向辺にする | 強連結になるのは橋がないときに限る |
どの行も、左の条件だけを外している。
1 行目:各辺は三角形に含まれるので、閉路 の定理「閉路に含まれる辺と橋」により橋でない。しかし向き付けは辺の向きを変えるだけで、2 つの三角形の間には辺がないので、一方の三角形の頂点から他方へ行く有向歩道はない。
2 行目:$P_2$ は連結で、ただ 1 本の辺を除くと 2 頂点がばらばらになるので、その辺は橋である。向き付けは $1\to2$ か $2\to1$ で、どちらも逆向きには進めない。
3 行目:$P_2$ は連結で橋をもつが、辺 $12$ を $(1,2)$ と $(2,1)$ の 2 本にすれば強連結である。これは向き付けではない(向き付けは各辺について一方だけを選ぶ)。
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