Radonの定理(凸幾何)(Radon's theorem)とは、$\mathbb{R}^n$ の $n+2$ 個以上の点は、交わらない空でない 2 組に分けて、両方の組の凸包が交わるようにできる、という定理である。点の組がこのような分け方(Radon 分割)をもつことは、係数の和が $0$ の自明でない 1 次関係をもつこと(アフィン従属)と同値であり、$n+2$ 個の点はつねにアフィン従属なので定理が従う。$n+1$ 個のアフィン独立な点は Radon 分割をもたないので、個数 $n+2$ は減らせない。Helly の定理の証明の鍵であり、$\mathbb{R}^n$ の半空間で $n+2$ 個の点のすべての部分集合を切り出すことはできない、という事実の根拠でもある。
平面に 4 点 $(0,0)$、$(4,0)$、$(0,4)$、$(1,1)$ をとる。$(1,1)$ は残りの 3 点の作る三角形の内部にあるので、4 点を $\{(1,1)\}$ と $\{(0,0),(4,0),(0,4)\}$ の 2 組に分けると、1 点と三角形が交わる。正方形の 4 頂点 $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$(0,1)$ なら、向かい合う頂点どうしの 2 組 $\{(0,0),(1,1)\}$ と $\{(1,0),(0,1)\}$ に分けると、2 本の対角線が中心 $\bigl(\tfrac12,\tfrac12\bigr)$ で交わる。平面のどの 4 点も、このように 凸包が交わる 2 組 に分けられる。一般に、$\mathbb{R}^n$ の $n+2$ 個の点はつねにこのように分けられる。これが Radon の定理 である。
証明は、$n+2$ 個の点のあいだに「係数の和が $0$ の 1 次関係」がかならずあること(アフィン従属)を示し、その係数を正の部分と負の部分に分けて読むだけである。それでもこの定理は、Hellyの定理 の最も短い証明の鍵であり、$\mathbb{R}^n$ の半空間では $n+2$ 個の点を思いどおりには切り分けられないこと(prop-rd-halfspace)もすぐに導く。測度論の Radon測度 や Radon–Nikodymの定理 とは別の話題である。
以下 $\mathbb{R}^n$ は $n$ 次元 Euclid空間 で、$e_1,\dots,e_n$ はその標準基底、$a\cdot x$ は内積とする。点 $x_1,\dots,x_m$ の凸結合 $\sum_i\lambda_ix_i$($\lambda_i\ge0$、$\sum_i\lambda_i=1$)の全体が凸包 $\operatorname{conv}\{x_1,\dots,x_m\}$ である(凸集合 の定理「凸包と凸結合」)。点の列には同じ点が重複して現れてもよいとし、添字の集合 $I\subset\{1,\dots,m\}$ について $x_I:=\{x_i\mid i\in I\}$ と書く。
$x_1,\dots,x_m\in\mathbb{R}^n$ が アフィン従属(affinely dependent)であるとは、すべては $0$ でない実数 $\mu_1,\dots,\mu_m$ で
$$
\mu_1x_1+\cdots+\mu_mx_m=0,\qquad\mu_1+\cdots+\mu_m=0
$$
を満たすものがあることをいう。このような $\mu=(\mu_1,\dots,\mu_m)$ を アフィン関係 と呼ぶ。アフィン従属でないとき、アフィン独立(affinely independent)という。
$\mu_1=-(\mu_2+\cdots+\mu_m)$ を代入すると、アフィン関係の第 1 式は $\sum_{i\ge2}\mu_i(x_i-x_1)=0$ と書き直せる。よって $x_1,\dots,x_m$ がアフィン独立であることは、差 $x_2-x_1,\dots,x_m-x_1$ が線形独立であることと同値であり、アフィン部分空間 の記事でいうアフィン独立と一致する。たとえば平面の 3 点がアフィン独立であることは、3 点が一直線上にないことである。また、$\mathbb{R}^{n+1}$ のベクトル $\hat x_i:=(x_i,1)$($x_i$ の座標の後に $1$ を付け加えたもの)の線形関係 $\sum_i\mu_i\hat x_i=0$ は、成分ごとに見るとアフィン関係そのものである。したがって、$x_1,\dots,x_m$ がアフィン独立であることと $\hat x_1,\dots,\hat x_m$ が線形独立であることは同値である。アフィン関係の係数は和が $0$ で全部は $0$ でないから、正のものと負のものがかならずある。
$x_1,\dots,x_m\in\mathbb{R}^n$ について、添字の集合 $\{1,\dots,m\}$ を交わらない空でない 2 つの部分 $I,J$($I\cup J=\{1,\dots,m\}$)に分けたもので
$$
\operatorname{conv}x_I\cap\operatorname{conv}x_J\ne\emptyset
$$
となるものを Radon 分割(Radon partition)といい、この共通部分の点を Radon 点 という。
$I$ と $J$ を入れ替えたものは同じ分割とみなす。重複 $x_i=x_j$($i\ne j$)があれば、$I=\{i\}$、$J$ を残り全部とすると $x_i=x_j\in\operatorname{conv}x_J$ なので、それだけで Radon 分割がある。
$x_1,\dots,x_m\in\mathbb{R}^n$ が Radon 分割をもつことと、アフィン従属であることは同値である。より詳しく、アフィン関係 $\mu$ があれば、$I:=\{i\mid\mu_i>0\}$、$J:=\{j\mid\mu_j\le0\}$ は Radon 分割であり、
$$
p:=\sum_{i\in I}\frac{\mu_i}{s}\,x_i=\sum_{j\in J}\frac{-\mu_j}{s}\,x_j,\qquad s:=\sum_{i\in I}\mu_i>0
$$
はその Radon 点である。
アフィン関係 $\mu$ があるとする。$\mu$ には正の係数と負の係数がともにあるので、$I$ と $J$ はどちらも空でなく、交わらず、合わせて $\{1,\dots,m\}$ である。$\sum_i\mu_i=0$ から $s=\sum_{i\in I}\mu_i=\sum_{j\in J}(-\mu_j)$ であり、$s>0$ である。$\sum_i\mu_ix_i=0$ を
$$
\sum_{i\in I}\mu_ix_i=\sum_{j\in J}(-\mu_j)x_j
$$
と移項して $s$ で割ると、$p$ の 2 つの表示が等しいことが分かる。左の表示の係数 $\mu_i/s$ は正で和が $1$、右の表示の係数 $-\mu_j/s$ は $0$ 以上で和が $1$ なので、$p\in\operatorname{conv}x_I\cap\operatorname{conv}x_J$ である。
逆に Radon 分割 $I,J$ と Radon 点 $p$ があるとし、$p=\sum_{i\in I}\alpha_ix_i=\sum_{j\in J}\beta_jx_j$($\alpha_i,\beta_j\ge0$、$\sum_{i\in I}\alpha_i=\sum_{j\in J}\beta_j=1$)と書く。$\nu_i:=\alpha_i$($i\in I$)、$\nu_j:=-\beta_j$($j\in J$)とおくと、$\sum_k\nu_kx_k=p-p=0$、$\sum_k\nu_k=1-1=0$ であり、$\sum_{i\in I}\alpha_i=1$ なので $\nu$ は全部は $0$ でない。よって $\nu$ はアフィン関係であり、$x_1,\dots,x_m$ はアフィン従属である。$\square$
$m\ge n+2$ なら、$x_1,\dots,x_m\in\mathbb{R}^n$ はつねにアフィン従属である。
$\hat x_i=(x_i,1)\in\mathbb{R}^{n+1}$ を考える。$n+1$ 次元の空間の $m\ge n+2$ 個のベクトルは線形独立でない(基底と次元)ので、すべては $0$ でない $\mu_i$ で $\sum_i\mu_i\hat x_i=0$ となるものがある。この等式の最初の $n$ 成分が $\sum_i\mu_ix_i=0$、最後の成分が $\sum_i\mu_i=0$ である。$\square$
$m\ge n+2$ とし、$x_1,\dots,x_m\in\mathbb{R}^n$ とする(重複があってもよい)。このとき $x_1,\dots,x_m$ は Radon 分割をもつ。すなわち、添字の集合を交わらない空でない 2 つの部分 $I,J$ に分けて
$$
\operatorname{conv}x_I\cap\operatorname{conv}x_J\ne\emptyset
$$
とできる。
lem-rd-dependence により $x_1,\dots,x_m$ はアフィン従属である。prop-rd-iff により、そのアフィン関係 $\mu$ の正の係数の添字 $I$ と、残りの添字 $J$ が Radon 分割を与える。$\square$
証明はそのまま計算の手順になっている。$\hat x_i=(x_i,1)$ を列とする $(n+1)\times m$ 行列の核から $0$ でないベクトル $\mu$ を 1 つ求め(連立 1 次方程式を解くだけである)、$\mu_i$ の符号で添字を分ければよい。
平面の 4 点が 1 と 2 のどちらの形になるかは配置で決まり、点が「ばらけて」いれば両方が同時に起こることはない。これは次の一意性から分かる。
$x_1,\dots,x_{n+2}\in\mathbb{R}^n$ のうち、どの $n+1$ 個もアフィン独立であるとする。このとき Radon 分割は($I$ と $J$ の入れ替えを除いて)ただ 1 つであり、Radon 点もただ 1 つである。
$\hat x_i=(x_i,1)$ を列とする $(n+1)\times(n+2)$ 行列を $A$ とすると、アフィン関係は $A$ の核の $0$ でないベクトルである。仮定と def-rd-affine の後の注意により、$A$ のどの $n+1$ 列も線形独立なので、$A$ の階数は $n+1$ で、核は 1 次元である。核を張るベクトルを $\mu$ とする。もし $\mu_k=0$ となる $k$ があれば、$\mu$ から第 $k$ 成分を除いたものは $k$ 以外の $n+1$ 点のアフィン関係になり、仮定に反する。よって $\mu$ の成分はすべて $0$ でない。
いま Radon 分割 $I,J$ と Radon 点 $p$ が与えられたとする。prf-rd-iff の後半の作り方で、$I$ 上で $0$ 以上、$J$ 上で $0$ 以下のアフィン関係 $\nu$ が得られ、$\nu|_I$ は $p$ を表す凸結合の係数である。$\nu$ は核に属するので、ある $c\ne0$ について $\nu=c\mu$ であり、$\nu$ の成分もすべて $0$ でない。したがって $I=\{i\mid\nu_i>0\}$ であり、これは $c>0$ なら $\{i\mid\mu_i>0\}$、$c< 0$ なら $\{i\mid\mu_i< 0\}$ である。どちらの場合も、分割は $\{\mu_i>0\}$ と $\{\mu_i< 0\}$ の組に一致する。さらに $\sum_{i\in I}\nu_i=1$ から $c$ が決まるので、係数 $\nu|_I$ と点 $p=\sum_{i\in I}\nu_ix_i$ も一つに決まる。$\square$
平面の 4 点で、どの 3 点も一直線上にないものについて、次のどちらか一方だけが起こる。
平面の 3 点がアフィン独立であることは一直線上にないことなので、prop-rd-unique の仮定が成り立つ。thm-rd-main により Radon 分割があり、2 つの部分はどちらも空でないので、点の個数の組は $(2,2)$ か $(1,3)$ である。2 点の凸包は線分なので $(2,2)$ は 1 にあたり、1 点の凸包はその点なので $(1,3)$ は 2 にあたる。逆に 1 や 2 が起これば、その 2 組は Radon 分割である。prop-rd-unique により Radon 分割はただ 1 つなので、1 と 2 が同時に起こることはない。$\square$
一般の位置という仮定を外すと、Radon 分割は 1 つに決まらない(ex-rd-counterexamples の 3)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 点の個数が $n+2$ 以上(thm-rd-main) | $\mathbb{R}^n$ の $n+1$ 点 $0,e_1,\dots,e_n$ | Radon 分割をもつこと |
| 空間が有限次元であること(thm-rd-main の $\mathbb{R}^n$) | 有限個の項を除いて $0$ である実数列の空間の点 $0,e_1,\dots,e_m$ | ある個数以上の点がつねに Radon 分割をもつこと |
| どの $n+1$ 個もアフィン独立であること(prop-rd-unique) | 平面の 4 点 $(0,0)$、$(1,0)$、$(2,0)$、$(0,1)$ | Radon 分割がただ 1 つであること |
$\mathbb{R}^n$ の凸集合 $C_1,\dots,C_m$($m\ge n+2$)で、どの $m-1$ 個にも共通点があるとする。$C_k$ 以外のすべてに属する点 $x_k$ をとり、$x_1,\dots,x_m$ に thm-rd-main を使って Radon 分割 $I,J$ と Radon 点 $p$ をとる。$k\notin I$ なら $x_I$ はすべて $C_k$ に属するので、$C_k$ の凸性から $p\in\operatorname{conv}x_I\subset C_k$ であり、$k\in I$ なら $k\notin J$ なので同様に $p\in\operatorname{conv}x_J\subset C_k$ である。よって $p$ はすべての $C_k$ に属する。この議論を個数についての帰納法と組み合わせると、「どの $n+1$ 個にも共通点があれば全体に共通点がある」という Hellyの定理 が得られる(同記事の定理「Hellyの定理」)。
$a\in\mathbb{R}^n$($a\ne0$)と $b\in\mathbb{R}$ について、$\{x\mid a\cdot x\le b\}$ を 閉半空間、$\{x\mid a\cdot x< b\}$ を 開半空間 という。どちらも凸集合であり、閉半空間の補集合は開半空間、開半空間の補集合は閉半空間である。
点の集合のどの部分集合も「ある半空間との共通部分」として切り出せるとき、その集合は半空間で 粉砕される(shattered)という。prop-rd-halfspace は、$\mathbb{R}^n$ では $n+1$ 個のアフィン独立な点は粉砕され、$n+2$ 個以上の点は決して粉砕されないことを示している。機械学習の言葉では、これは $\mathbb{R}^n$ の半空間の族の VC 次元が $n+1$ であることにあたる。
J. Radon は Rad21 で、E. Helly から伝えられた定理(Hellyの定理)の証明を発表した。その証明(p. 114)は、$C_i$ を除く全部に属する点 $x^{(i)}$ をとり、$\sum_i\lambda_ix^{(i)}=0$、$\sum_i\lambda_i=0$ の自明でない解を符号で 2 組に分け、両方の組の重心として同じ点 $\xi$ を得るものである。この記事の prop-rd-iff と thm-rd-main は、この議論のうち点の組についての部分を取り出したものにあたる。Radon 自身はこれを独立した命題としては述べていない。同じアフィン関係の係数を 1 つずつ $0$ に押し下げる議論からは、凸包の点を少ない点の凸結合で書く Carathéodoryの定理(凸幾何) が得られる。
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