Torelliの定理(Torelli theorem)とは、代数閉体上の種数 $g\ge1$ の滑らかな射影曲線 $C$ が、その Jacobi 多様体 $J(C)$ とテータ因子 $\Theta_C$ の定める主偏極 $\lambda_C$ の組から同型を除いて復元されるという定理である。すなわち $(J(C),\lambda_C)\cong(J(C'),\lambda_{C'})$ なら $C\cong C'$ である。種数 $2$ ではテータ因子が曲線の像そのものなので証明は直接的で、一般の種数ではテータ因子の平行移動の交わりから曲線の像を取り出す。偏極を忘れると成り立たず、Jacobi 多様体がアーベル多様体として同型でも同型でない曲線の組がある。
前提知識: Jacobi多様体, テータ因子, 双対アーベル多様体, Abel–Jacobiの定理, アーベル曲面
Torelli の定理(Torelli theorem)は、代数曲線がその Jacobi 多様体とテータ因子から復元されるという定理である。種数 $g$ の滑らかな射影曲線 $C$ には $g$ 次元のJacobi多様体 $J(C)$ が付随し、$J(C)$ には $C$ の $g-1$ 個の点の和の像としてテータ因子 $\Theta_C$ が定まる。$\Theta_C$ は $J(C)$ の主偏極 $\lambda_C$ を与える。Torelli の定理は、2 つの曲線 $C,C'$ について、主偏極を込めて $(J(C),\lambda_C)\cong(J(C'),\lambda_{C'})$ ならば $C\cong C'$ であることを主張する。
Jacobi 多様体は曲線の因子の理論を線形代数的な対象に移したものなので、この定理は「その移しかえで情報が失われない」ことを保証する。複素数体上では、Jacobi 多様体は正則 1 形式の周期の格子で決まるので、曲線は周期行列から(偏極を込めて)決まる、とも言いかえられる。ただし偏極を忘れると成り立たない。Jacobi 多様体どうしが偏極を込めずに同型でも、曲線は同型とは限らない(ex-tor-counterexamples)。
この記事では、一般の種数での主張を述べ、種数 $1$ と $2$ では完全に証明する。種数 $2$ ではテータ因子が曲線そのものの像になるので、証明は短い。一般の種数の証明は、テータ因子の平行移動のなす族の交わりを調べる組合せ的な議論で、ここでは筋だけを述べる。なお K3曲面 の周期についての定理も Torelli 型の定理と呼ばれるが、それとは別の定理である。
以下 $k$ を代数閉体とし、曲線 は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲線を指す。
$C$ を種数 $g\ge1$ の曲線、$J=J(C)$ をその Jacobi 多様体($\operatorname{Pic}^0_{C/k}$、Jacobi多様体 の定義「Jacobi 多様体(代数的な定義)」)とする。点 $P\in C$ について Abel–Jacobi 写像 $f_P\colon C\to J$、$Q\mapsto[\mathcal{O}_C(Q-P)]$ は閉埋め込みである(Mil86 命題 2.3, p. 172)。$0\le r\le g$ について、$r$ 個の点の和の像
$$
W^r:=\{f_P(Q_1)+\cdots+f_P(Q_r)\mid Q_1,\dots,Q_r\in C\}\subset J
$$
を考える($W^0=\{0\}$、$W^1=f_P(C)$)。$W^r$ は既約な閉部分多様体で、$\Theta_C:=W^{g-1}$ は $J$ の因子である(Mil86 §5, p. 182 と p. 186)。$P$ を取り替えると $\Theta_C$ は平行移動するだけである。$\lambda_C:=\varphi_{\mathcal{O}_J(\Theta_C)}\colon J\to J^\vee$ は同型である(Mil86 定理 6.6, p. 186。この記事では証明しない)。
ここで $A^\vee$ は双対アーベル多様体、$\beta^\vee$ は双対準同型である。
$C,C'$ を代数閉体 $k$ 上の種数 $g\ge1$ の曲線、$f=f_P$、$f'=f_{P'}$ をそれぞれの Abel–Jacobi 写像とする。主偏極アーベル多様体の同型 $\beta\colon(J(C),\lambda_C)\to(J(C'),\lambda_{C'})$ があれば、曲線の同型 $\alpha\colon C\to C'$ と $c\in J(C')(k)$ があって
$$
f'\circ\alpha=\pm\beta\circ f+c
$$
となる。とくに $C\cong C'$ である。
これは Mil86 定理 12.1 (a)(p. 202)の主張で、一般の種数の証明は同 §13(pp. 204–208)にある(この記事では種数 $1$ と $2$ の場合だけを証明し、一般の種数は下の「一般の種数での証明の筋」で筋を述べる)。同定理 (b) によれば、$g\ge2$ で $C$ が超楕円曲線でなければ $\alpha$、符号、$c$ は $\beta,P,P'$ から一意に決まり、$C$ が超楕円曲線なら符号は任意に選べて、選べば $\alpha$ と $c$ が一意に決まる。種数 $2$ の曲線はすべて超楕円曲線なので(標準因子の線形系が次数 $2$ の射 $C\to\mathbb{P}^1$ を与える。Har77 IV §5, p. 341)、種数 $2$ では符号は $+$ にとれる。
複素数体上では、この定理は周期の言葉で言いかえられる。$H_1(C,\mathbb{Z})$ の交点形式に関するシンプレクティック基底と、それに合わせて正規化した正則 1 形式の基底をとると、周期行列は $(I_g\ \tau)$ の形になり、$\tau$ は $g$ 次の対称行列で虚部が正定値である(Riemann の双線形関係)。$(J(C),\lambda_C)$ は テータ因子 の記事の Siegel の標準形 $(X_\tau,H_\tau)$ に同型で、基底の取り替えは $\tau$ への $\operatorname{Sp}_{2g}(\mathbb{Z})$ の作用で表される(この段落の事実はこの記事では証明しない)。Torelli の定理は、$\tau$ の $\operatorname{Sp}_{2g}(\mathbb{Z})$ 軌道が曲線を決めることを言っている。
証明の出発点は、主偏極がテータ因子を平行移動を除いて指定していることである。
$(A,\lambda)$ を代数閉体上の主偏極アーベル多様体とする。
要点:$\lambda=\varphi_L$ について $\deg\varphi_L=\chi(L)^2=1$ なので $h^0(L)=1$ であり、$\varphi$ を変えない可逆層の取り替えは平行移動に限られる。
1:$\lambda=\varphi_L$($L$ は豊富)とする。双対アーベル多様体 の定理「偏極の基本性質」の 2 により $\deg\varphi_L=\chi(L)^2$、$\chi(L)=h^0(L)$ で、$\varphi_L$ は同型なので $h^0(L)=1$ である。よって $L\cong\mathcal{O}_A(\Theta)$ となる有効因子 $\Theta$ がただ一つあり、テータ因子である。$\Theta'$ もテータ因子なら $\varphi_{\mathcal{O}(\Theta')\otimes\mathcal{O}(\Theta)^{-1}}=0$(同記事の命題「準同型 $\varphi_L$ の関手性」の 1)なので、同定理の 3 により $\mathcal{O}(\Theta')\otimes\mathcal{O}(\Theta)^{-1}\in\operatorname{Pic}^0(A)=A^\vee(k)$ である。$\lambda$ は $A(k)$ から $A^\vee(k)$ への全単射なので、ある $b$ について $\mathcal{O}(\Theta')\cong t_b^*\mathcal{O}(\Theta)\cong\mathcal{O}(\Theta-b)$ で、$h^0=1$ から $\Theta'=\Theta-b$ である。逆に $\varphi_{t_b^*L}=\varphi_L$(同命題の 2)なので平行移動もテータ因子である。$\Theta+a=\Theta$ なら $t_{-a}^*L\cong L$ で、$-a\in\ker\lambda=0$ である。
2:同命題の 4 により $\varphi_{\beta^*\mathcal{O}(\Theta')}=\beta^\vee\circ\varphi_{\mathcal{O}(\Theta')}\circ\beta=\beta^\vee\circ\mu\circ\beta=\lambda$ であり、$\beta^*\mathcal{O}(\Theta')=\mathcal{O}(\beta^{-1}(\Theta'))$ なので $\beta^{-1}(\Theta')$ はテータ因子である。1 により $\beta^{-1}(\Theta')=\Theta+a$ となる $a$ があり、$\beta(\Theta)=\Theta'-\beta(a)$ である。$\square$
種数 $1$ の曲線 $E,E'$ について、アーベル多様体として $J(E)\cong J(E')$ なら $E\cong E'$ である。さらに、1 次元の主偏極アーベル多様体はどれも、ある種数 $1$ の曲線の標準的に偏極された Jacobi 多様体と同型である。
種数 $1$ では Abel–Jacobi 写像 $f_P\colon E\to J(E)$ は閉埋め込みで、$J(E)$ は 1 次元で既約なので、$f_P$ は同型である(Jacobi多様体 の命題「種数 0 と種数 1 の Jacobi 多様体」の 2 も参照)。よって $E\cong J(E)\cong J(E')\cong E'$ である。後半:1 次元のアーベル多様体 $A$ は種数 $1$ の曲線で(アーベル多様体 の例「楕円曲線の場合」)、$A\cong J(A)$ である。主偏極 $\lambda=\varphi_L$ について、lem-tor-theta の証明のとおり $\chi(L)=1$ であり、種数 $1$ の曲線上の Riemann–Roch の定理 $\chi(L)=\deg L$ から $\deg L=1$、テータ因子は 1 点 $p$ である。1 点の因子どうしは平行移動で移りあい、$\varphi$ は平行移動で変わらないので、$\lambda=\varphi_{\mathcal{O}(p)}$ は $p$ によらず、1 次元のアーベル多様体の主偏極はただ一つである。$J(A)$ では $\Theta_A=W^0$ が 1 点なので、その主偏極は $\lambda_A$ に一致し、$A\cong J(A)$ はこの一つの主偏極を保つ。$\square$
種数 $1$ では偏極は自動的に一致し、Jacobi 多様体そのものが曲線である。種数 $2$ では、テータ因子 $W^1$ がちょうど曲線の像になる。
$C,C'$ を種数 $2$ の曲線とし、$\beta\colon(J(C),\lambda_C)\to(J(C'),\lambda_{C'})$ を主偏極アーベル多様体の同型とする。このとき $c\in J(C')(k)$ と曲線の同型 $\alpha\colon C\to C'$ で $f'\circ\alpha=\beta\circ f+c$ となるものがある。
$g=2$ なので $\Theta_C=W^1=f(C)$、$\Theta_{C'}=f'(C')$ である。lem-tor-theta の 2 により $\beta(f(C))$ は $f'(C')$ の平行移動で、$\beta(f(C))=f'(C')-c$ となる $c\in J(C')(k)$ がある。$f\colon C\to f(C)$、$f'\colon C'\to f'(C')$ は同型(閉埋め込みの像への同型)で、$\beta$ と平行移動 $t_c$ は同型なので
$$
\alpha:=f'^{-1}\circ t_c\circ\beta\circ f\colon C\to f(C)\to f'(C')-c\to f'(C')\to C'
$$
は曲線の同型であり、$f'\circ\alpha=\beta\circ f+c$ を満たす。$\square$
この証明は、アーベル曲面 の分類定理(主偏極アーベル曲面のテータ因子が既約なら、その曲面はテータ因子の Jacobi 多様体である)と組になっている。2 つを合わせると、種数 $2$ の曲線の同型類と、テータ因子が既約な主偏極アーベル曲面の同型類とが、$C\mapsto(J(C),\lambda_C)$ と $(A,\lambda)\mapsto\Theta$ によって互いに逆の対応で結ばれる。
Torelli の定理を $C'=C$、$P'=P$ に当てると、偏極を保つ Jacobi 多様体の自己同型が曲線の自己同型から来ることがわかる。曲線の自己同型 $\alpha$ について、Jacobi 多様体の普遍性(Mil86 命題 6.1, p. 185:$P$ を $0$ に写す $C$ からアーベル多様体への射は、$f$ と準同型の合成としてただ一通りに書ける)により、準同型 $\alpha_*\colon J\to J$ で $\alpha_*\circ f=f\circ\alpha-f(\alpha(P))$ となるものがただ一つある。点の上では $\alpha_*[D]=[\alpha(D)]$($D$ は次数 $0$ の因子)である。
$C$ を種数 $g\ge1$ の曲線とする。主偏極アーベル多様体 $(J(C),\lambda_C)$ の自己同型 $\beta$($\beta(0)=0$ で $\lambda_C$ を保つアーベル多様体の自己同型)は、ある曲線の自己同型 $\alpha$ と符号により $\beta=\pm\alpha_*$ と書ける。
thm-tor-main により $f\circ\alpha=\varepsilon\,\beta\circ f+c$($\varepsilon=\pm1$)となる $\alpha$ と $c$ がある。$g=1$ では $f$ が同型なので $\alpha:=f^{-1}\circ\beta\circ f$、$\varepsilon=1$、$c=0$ でよく、$g=2$ では thm-tor-genus-two による。$g\ge3$ では、この記事では証明していない thm-tor-main の一般の場合(Mil86 定理 12.1)を使う。$P$ で値をとると $f(P)=0$、$\beta(0)=0$ なので $c=f(\alpha(P))$ である。よって $\varepsilon\beta\circ f=f\circ\alpha-f(\alpha(P))=\alpha_*\circ f$ で、$\varepsilon\beta$ と $\alpha_*$ はどちらも準同型なので、普遍性の一意性から $\varepsilon\beta=\alpha_*$、すなわち $\beta=\varepsilon\alpha_*$ である。$\square$
$C$ を種数 $g\ge2$ の超楕円曲線、$\pi\colon C\to\mathbb{P}^1$ を次数 $2$ の射、$\iota$ を $\pi\circ\iota=\pi$ を満たす自明でない自己同型(超楕円対合)とする。$\pi$ のファイバー $Q+\iota(Q)$ はどれも $\pi^*(\text{点})$ なので互いに線形同値であり、$Q+\iota(Q)\sim P+\iota(P)$ である。したがって
$$
\iota_*f(Q)=[\iota(Q)-\iota(P)]=[P-Q]=-f(Q)
$$
であり、$f(C)$ は $J$ を生成するので $\iota_*=-1$ である。とくに $g=2$ では、cor-tor-automorphism の $-1$ 倍は $\iota_*$ に吸収され、$(J(C),\lambda_C)$ の自己同型はすべて $\alpha_*$ の形になる。超楕円曲線では thm-tor-main の符号が任意に選べるのはこのためである。
$g\ge3$ ではテータ因子 $W^{g-1}$ は曲線より次元が大きく、曲線を直接は含まない。証明は、$W^{g-1}$ の平行移動たちの交わりから小さい $W^r$ を取り出す議論になる。以下 Mil86 §13 の記号で筋を述べる。
$C$ の標準因子 $K_C$(次数 $2g-2$)の $J$ での像を $\kappa:=f(K_C)$ とし、$J$ の部分多様体 $Z$ について $Z^*:=\{\kappa-z\mid z\in Z\}$ とおく。$Z_a:=Z+a$ と書く。
$k=\mathbb{C}$ とする。種数 $g$ の曲線の同型類の集合を $\mathcal{M}_g$、$g$ 次元の主偏極アーベル多様体の同型類の集合を $\mathcal{A}_g$ とし、
$$
t_g\colon\mathcal{M}_g\to\mathcal{A}_g,\qquad C\mapsto(J(C),\lambda_C)
$$
を Torelli 写像 という。Torelli の定理は $t_g$ が単射であることを言っている。$\mathcal{A}_g$ は Siegel 上半空間($g$ 次の対称行列で虚部が正定値なものの全体)の $\operatorname{Sp}_{2g}(\mathbb{Z})$ による商で、次元は $g(g+1)/2$ である(Deb99 VII.1, p. 92)。一方 $g\ge2$ では $\mathcal{M}_g$ は次元 $3g-3$ の既約な準射影多様体である(Har77 IV 注意 5.5.4, p. 347。この記事では証明しない)。
| $g$ | $\dim\mathcal{M}_g$ | $\dim\mathcal{A}_g$ | 像について |
|---|---|---|---|
| $1$ | $1$ | $1$ | 全単射(prop-tor-genus-one) |
| $2$ | $3$ | $3$ | 像の補集合は楕円曲線の積(アーベル曲面 の分類定理) |
| $3$ | $6$ | $6$ | 次元は等しい |
| $g\ge4$ | $3g-3$ | $g(g+1)/2$ | $3g-3 < g(g+1)/2$ で、像は真に小さい |
$g\ge4$ では、どの主偏極アーベル多様体が曲線の Jacobi 多様体になるかを特徴づける問題(Schottky の問題)が生じる。種数 $1$ の行は、$\mathcal{M}_1$ と $\mathcal{A}_1$ がどちらも $j$ 不変量の直線と同一視されることによる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 基礎体が代数閉体 | 実数体上の円錐曲線 $x^2+y^2+z^2=0$ と $\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ | Jacobi 多様体はどちらも $0$ で一致するが、曲線は $\mathbb{R}$ 上同型でない |
| 偏極を込めた同型 | 種数 $2$ の曲線の組(Howe の族) | Jacobi 多様体はアーベル多様体として同型だが、曲線は同型でない |
| 逆向き(像) | 積の偏極をもつ $E_1\times E_2$ | 主偏極アーベル多様体だが、どの曲線の標準的に偏極された Jacobi 多様体とも、偏極を込めて同型でない |
1 行目.$C\colon x^2+y^2+z^2=0$ は $\mathbb{P}^2_{\mathbb{R}}$ の滑らかな円錐曲線で、実数の点をもたない($x,y,z$ が実数で $x^2+y^2+z^2=0$ なら $x=y=z=0$)。$\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ は実数の点をもつので、$C$ と $\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ は $\mathbb{R}$ 上同型でない。どちらも $\mathbb{C}$ 上では $\mathbb{P}^1$ と同型で種数 $0$ なので、Jacobi 多様体は $0$ 次元で $0$ である。この例は「主偏極を込めて Jacobi 多様体が同型」を満たすが、基礎体が代数閉体でないため「曲線が同型」が破れる。種数 $0$ は thm-tor-main の仮定 $g\ge1$ の外にあるが、代数閉体の上では種数 $0$ の曲線はすべて $\mathbb{P}^1$ と同型なので主張は自明に成り立ち、この例で破れているのは基礎体の条件だけである。$g\ge1$ を保つ例として、有理点をもたない種数 $1$ の曲線とその Jacobi 多様体(有理点をもつ楕円曲線)の組もある(Mil86 注意 12.5, p. 204。そこでは種数 $1$ の同様の例も述べられ、種数 $2$ 以上・完全体の上では偏極を込めた同型が曲線の同型を導くことが系 12.2(p. 203)で示されている)。
2 行目.標数 $2$ でない体 $K$ と $t\in K$ で $t(t^2-1)(t^2+1)\ne0$ のものについて、
$$
C(t)\colon\ (t+1)y^2=(2x^2-t)\bigl(4t^2x^4+4(t^2+t+1)x^2+1\bigr)
$$
は種数 $2$ の曲線で、$C(t)$ と $C(-t)$ の Jacobi 多様体は $K$ 上アーベル多様体として同型だが、$K$ の標数が $11$ で $t^2\in\{-3,-4\}$ の場合を除いて $C(t)$ と $C(-t)$ は代数閉包の上でも同型でない(How05 Theorem 1, p. 2。この記事では証明しない)。Torelli の定理により、これらの Jacobi 多様体の間のどの同型も標準的な主偏極を保たない。偏極は Jacobi 多様体という群の情報に付け加わった本質的な情報である。
3 行目.$E_1\times E_2$ の積の偏極のテータ因子は $E_1\times\{0\}+\{0\}\times E_2$ で可約である(アーベル曲面 の分類定理の証明の段 4)。一方、曲線 $C$ の $\Theta_C=W^{g-1}$ は $C^{g-1}$ の像なので既約である。主偏極アーベル多様体の同型はテータ因子を平行移動を除いて保つ(lem-tor-theta の 2)ので、積の偏極をもつ $E_1\times E_2$ はどの曲線の標準的に偏極された Jacobi 多様体とも同型でない。この例は「主偏極アーベル多様体である」を満たすが「Jacobi 多様体である」を満たさず、$t_2$ が全射でないことを示す。同じ理由で、正の次元の 2 つの主偏極アーベル多様体の積に積の偏極を入れたものは、どの曲線の標準的に偏極された Jacobi 多様体とも同型でない(テータ因子 $\Theta_1\times A_2+A_1\times\Theta_2$ が可約になる)。ここでの「同型でない」は偏極を込めた同型についての主張で、偏極を忘れたアーベル多様体としての同型を否定するものではない。
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