有理数空間

同義語:有理数の空間space of rational numbers

概要

有理数空間(space of rational numbers)とは、有理数全体 $\mathbb Q$ に実数直線からの相対位相、すなわち距離 $|x-y|$ の定める位相を入れた空間である。可算で孤立点をもたず、端点が無理数の開区間が開かつ閉な開基をなすので完全不連結だが、離散空間でも局所コンパクトでもなく、Baireの範疇定理によりその位相を定める完備な距離もない。Sierpiński の定理により、空でない可算な距離化可能空間で孤立点をもたないものはすべて $\mathbb Q$ と同相であり、$\mathbb Q\times\mathbb Q$ や $p$ 進距離を入れた $\mathbb Q$ もその例である。さらに、可算な距離化可能空間はすべて $\mathbb Q$ の閉部分空間として実現できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 距離空間, 有理数, 同相写像

有理数空間(space of rational numbers)は、有理数全体 $\mathbb Q$ に実数直線 $\mathbb R$ からの相対位相を入れた位相空間である。$\mathbb Q$ は $\mathbb R$ で稠密なので、どの有理数のまわりにも別の有理数がいくらでも近くにある。その一方で、どの二つの有理数の間にも無理数があるので、$\mathbb Q$ はその無理数のところで二つの開かつ閉な部分に切り離せる。この二つの性質が同時に成り立つために、有理数空間は完全不連結空間なのに離散空間ではない空間の代表例になり、局所コンパクト空間でも完備距離空間でもない例として繰り返し現れる。
有理数空間を特徴づけるのが Sierpiński の定理(thm-ratsp-sierpinski)である。空でない可算な距離化可能空間で孤立点をもたないものは、すべて $\mathbb Q$ と同相になる。たとえば $\mathbb Q\times\mathbb Q$ や、$p$ 進距離を入れた $\mathbb Q$ も、位相空間としては有理数空間と区別がつかない(cor-ratsp-examples)。さらに、可算な距離化可能空間はすべて有理数空間の閉部分空間として実現できる(cor-ratsp-universal)。

定義

有理数空間

有理数全体の集合 $\mathbb Q$ に距離 $d(x,y)=|x-y|$ を入れた距離空間、またはその距離が定める位相を入れた位相空間を有理数空間という。この位相は、$\mathbb R$ の通常の位相から $\mathbb Q$ に誘導される相対位相と一致する。有理数の空間ともいう。

$a< b$ を実数とするとき、$\mathbb Q$ の部分集合 $(a,b)\cap\mathbb Q=\{q\in\mathbb Q\mid a< q< b\}$ を $\mathbb Q$ の開区間と呼ぶ。端点を有理数に限った開区間の全体は可算個であり、有理数空間の開基をなす。端点を無理数に限った開区間の全体も開基をなす(prop-ratsp-basic の 3)。
以下で使う位相空間の用語を確認しておく。位相空間 $X$ の点 $x$ が孤立点であるとは、一点集合 $\{x\}$ が開集合であることをいう。$X$ が距離化可能であるとは、$X$ の位相を定める距離が存在することをいう(距離化可能空間)。開集合かつ閉集合である部分集合を開かつ閉集合(clopen set)という(開かつ閉集合)。距離空間の部分集合 $A$ の直径を $\operatorname{diam}A=\sup\{d(a,b)\mid a,b\in A\}$($A=\emptyset$ なら $0$)とする。

直感

$\mathbb Q$ は $\mathbb R$ の中で「どこにでもある」が、「隙間だらけ」でもある。一点 $q$ のまわりの開区間 $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)\cap\mathbb Q$ はつねに無限個の点を含むので、$q$ は孤立していない。しかし、その開区間の中にも無理数 $c$ があり、$\mathbb Q$ を $c$ の左と右に分けると、どちらも開集合で互いの補集合になる。$\mathbb Q$ の中だけで見ると、$c$ の位置には点がないので、切り口が両側から閉じている。
この「孤立点はないが、どこでも細かく切り離せる」という性質は、可算であることと合わせると、空間の形を完全に決めてしまう。Sierpiński の定理の証明は、二つの空間を同じ形の「開かつ閉な小片」に何度も細かく分け、小片どうしを対応させていくことで同相写像を作る。

基本的な性質

有理数空間の基本的な性質

有理数空間 $\mathbb Q$ について次が成り立つ。

  1. $\mathbb Q$ は可算集合であり、可算な開基をもつ(第2可算公理を満たす)。
  2. $\mathbb Q$ は孤立点をもたない。とくに空でない開集合はすべて無限集合である。
  3. 端点が無理数である開区間 $(a,b)\cap\mathbb Q$($a< b$ は無理数)は開かつ閉集合であり、その全体は開基をなす。とくに $\mathbb Q$ は完全不連結である。
  4. $\mathbb Q$ のどの点も、コンパクトな近傍をもたない。とくに $\mathbb Q$ は局所コンパクトでない(Mun00 §29 Example 1, p. 182)。

要点:1・2 は有理数の稠密性、3 は無理数の稠密性、4 は無理数に収束する有理数列による。

詳しい証明を開く

1:$\mathbb Q$ は可算である(有理数)。端点が有理数の開区間の全体は $\mathbb Q\times\mathbb Q$ と高々同じ濃度なので可算である。$q\in U$($U$ は開集合)なら $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)\cap\mathbb Q\subset U$ となる $\varepsilon>0$ があり、有理数 $a,b$ を $q-\varepsilon< a< q< b< q+\varepsilon$ ととれば $q\in(a,b)\cap\mathbb Q\subset U$ である。

2:$q\in\mathbb Q$ と $\varepsilon>0$ に対し、正の整数 $n$ を $1/n< \varepsilon$ ととると $q+1/n$ は $q$ と異なる有理数で $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)$ に入る。よって $\{q\}$ は開集合でない。空でない開集合 $U$ が有限集合 $\{u_1,\dots,u_k\}$ なら、$\varepsilon$ を $u_1$ と他の $u_i$ との距離の最小値より小さくとると $(u_1-\varepsilon,u_1+\varepsilon)\cap U=\{u_1\}$ は開集合になり、$u_1$ が孤立点になって矛盾する。

3:$a,b$ が無理数なら $(a,b)\cap\mathbb Q=[a,b]\cap\mathbb Q$ なので、この集合は $\mathbb R$ の開集合とも閉集合とも $\mathbb Q$ の共通部分であり、開かつ閉である。$q\in U$($U$ は開集合)なら、1 と同様に $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)\cap\mathbb Q\subset U$ となる有理数 $\varepsilon>0$ がとれ、無理数 $a=q-\varepsilon/(2\sqrt2)$、$b=q+\varepsilon/(2\sqrt2)$ は $q-\varepsilon< a< q< b< q+\varepsilon$ を満たす。異なる $q< q'$ は無理数 $c=q+(q'-q)/\sqrt2$ で $(-\infty,c)\cap\mathbb Q$ と $(c,\infty)\cap\mathbb Q$ に分けられるので、完全不連結である(完全不連結空間 の例「有理数空間の例」)。

4:$q\in\mathbb Q$ がコンパクトな近傍 $K$ をもつとする。$K$ は $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)\cap\mathbb Q$ を含む。無理数 $c$ を $q< c< q+\varepsilon$ ととり、$c$ と $q+\varepsilon$ の間の有理数 $b$ をとる。$L=[q,b]\cap\mathbb Q$ は $\mathbb Q$ の閉集合で $K$ に含まれるので、コンパクトである。$c$ に収束する有理数列 $(r_n)$ を $L$ の中にとると、$\mathbb R$ でのどの部分列の極限も $c\notin\mathbb Q$ なので、$(r_n)$ は $L$ の中に収束する部分列をもたない。距離空間ではコンパクト性と点列コンパクト性が一致するので、これは矛盾である。$\square$

完備距離化できないこと。 $\mathbb Q$ の各一点集合は閉集合で内部が空なので、$\mathbb Q=\bigcup_{q\in\mathbb Q}\{q\}$ は $\mathbb Q$ 自身を可算個の疎集合の和集合として表す。Baireの範疇定理 は、空でない完備距離空間がそのような和集合にならないことを述べるので、$\mathbb Q$ の位相を定める完備な距離は存在しない。詳しくは Baireの範疇定理 の例「有理数全体は Baire 空間でない」を見よ(Mun00 §48 Example 2, p. 295、Theorem 48.2, p. 296)。同じ定理から、$\mathbb Q$ は $\mathbb R$ の Gδ集合 でもない(F_σ-集合 の命題「有理数全体は $G_\delta$-集合でない」)。通常の距離について $\mathbb Q$ が完備でないこと($\sqrt2$ に収束する有理数列)は易しいが、ここで述べたのは、$\mathbb Q$ の位相を変えずに距離だけを取り替えても完備にできない、というより強い主張である。

Sierpiński の定理

Sierpiński の定理は、上の 1・2 の性質(可算・孤立点なし)に距離化可能性を合わせるだけで有理数空間が決まることを述べる。証明の道具は、可算な距離空間を「直径の小さい開かつ閉な小片」に分ける次の補題である。

可算距離空間の開かつ閉な小片への分割

$(Y,\rho)$ を孤立点をもたない可算な距離空間とする。

  1. $y\in Y$ に対し、可算集合 $R_y=\{\rho(y,z)\mid z\in Y\}$ に属さない $r>0$ について、球 $B(y,r)=\{z\in Y\mid\rho(y,z)< r\}$ は開かつ閉集合である。
  2. $U\subset Y$ を空でない開かつ閉集合、$\varepsilon>0$、$F\subset U$ を有限集合とする。このとき $U$ は、可算無限個の空でない開かつ閉集合 $U_0,U_1,\dots$ の互いに交わらない和集合に分けられ、各 $U_k$ は直径が $\varepsilon$ 未満で、$F$ の点を高々 $1$ 個しか含まない。

1:$r\notin R_y$ なら $\{z\mid\rho(y,z)\le r\}=\{z\mid\rho(y,z)< r\}$ であり、左辺は閉集合、右辺は開集合である。
2:$Y$ の空でない開集合は無限集合である(prop-ratsp-basic の 2 の証明は、孤立点をもたない距離空間でそのまま通る)。$\delta>0$ を、$3\delta< \varepsilon$ かつ $F$ の相異なる二点の距離がすべて $3\delta$ 以上になるようにとる。$U=\{u_0,u_1,\dots\}$ と番号を付け、各 $k$ について $r_k\in(0,\delta)\setminus R_{u_k}$ を選び
$$ W_k=\bigl(U\cap B(u_k,r_k)\bigr)\setminus(W_0\cup\cdots\cup W_{k-1}) $$
とおく。1 により $W_k$ は開かつ閉集合の有限回の共通部分と差なので開かつ閉であり、$\operatorname{diam}W_k\le2r_k< 2\delta< \varepsilon$ である。直径が $2\delta$ 未満なので、$W_k$ は $F$ の点を高々 $1$ 個しか含まない。$u_k\in W_0\cup\cdots\cup W_k$ なので、空でない $W_k$ の全体は $U$ の分割 $\mathcal W$ をなす。
$\mathcal W$ が無限個の元をもてば、これを番号付けて $U_0,U_1,\dots$ とすればよい。有限個なら、$\mathcal W$ の一つの元 $W$ を次のように無限個に分ける。$W=\{w_0,w_1,\dots\}$ と番号を付け、$V_0=W$ とおく。空でない開かつ閉集合 $V_n$ が定まったら、$V_n$ に属する $w_j$ のうち番号最小のものを $a_n$ とし、$a_n$ と異なる $b\in V_n$ と $r\in(0,\rho(a_n,b))\setminus R_{a_n}$ を選んで
$$ A_n=V_n\cap B(a_n,r),\qquad V_{n+1}=V_n\setminus A_n $$
とおく。$A_n$ は $a_n$ を、$V_{n+1}$ は $b$ を含む空でない開かつ閉集合である。各段で番号最小の残りの点が取り除かれるので、$w_0,\dots,w_n$ は $A_0\cup\cdots\cup A_n$ に入り、$W$ は $A_0,A_1,\dots$ の互いに交わらない和集合になる。$\mathcal W$ の中で $W$ を $A_0,A_1,\dots$ に取り替えると、求める分割が得られる。$A_n\subset W$ なので、直径と $F$ の点の個数の条件は保たれる。$\square$

Sierpiński の定理

空でない可算な距離化可能空間 $X$ で、孤立点をもたないものは、有理数空間 $\mathbb Q$ と同相である。

この定理は Eng89 Exercise 6.2.A(d)(p. 370)に演習として載っている。以下の証明は、二つの空間を開かつ閉な小片へ同時に細かく分けていく往復論法である。

$X$ の位相を定める距離 $\rho$ を一つ固定し、$\mathbb Q$ には $|x-y|$ を使う。どちらも孤立点をもたない可算距離空間で、空でない開集合は無限集合なので、$X=\{x_0,x_1,\dots\}$、$\mathbb Q=\{q_0,q_1,\dots\}$ と番号を付けられる。
$n=0,1,2,\dots$ について、次のものを帰納的に作る:$X$ の空でない開かつ閉集合への分割 $\mathcal U_n$、$\mathbb Q$ の同様の分割 $\mathcal V_n$、全単射 $\varphi_n\colon\mathcal U_n\to\mathcal V_n$、有限集合 $\operatorname{dom}f_n\subset X$ 上の単射 $f_n\colon\operatorname{dom}f_n\to\mathbb Q$。条件は次のとおりである。

  • (a) $n\ge1$ なら、$\mathcal U_n$ と $\mathcal V_n$ の元の直径は $2^{-n}$ 未満である。
  • (b) $\mathcal U_{n+1}$ の各元 $U'$ は $\mathcal U_n$ のある元 $U$ に含まれ、そのとき $\varphi_{n+1}(U')\subset\varphi_n(U)$ である。$\mathcal V_{n+1}$ の各元も $\mathcal V_n$ のある元に含まれる。
  • (c) $f_n\subset f_{n+1}$($f_{n+1}$ は $f_n$ の拡張)であり、$x_0,\dots,x_{n-1}\in\operatorname{dom}f_n$、$q_0,\dots,q_{n-1}\in f_n(\operatorname{dom}f_n)$ である。
  • (d) $x\in\operatorname{dom}f_n$ と $U\in\mathcal U_n$ について、$x\in U\iff f_n(x)\in\varphi_n(U)$。
    $\mathcal U_0=\{X\}$、$\mathcal V_0=\{\mathbb Q\}$、$\varphi_0(X)=\mathbb Q$、$f_0=\emptyset$ から始める。$n$ 段目までできたとする。

点を足す。 $x_n\notin\operatorname{dom}f_n$ なら、$x_n\in U\in\mathcal U_n$ となる $U$ をとる。$\varphi_n(U)$ は無限集合なので、$f_n$ の像に入らない $y\in\varphi_n(U)$ を選び、$x_n\mapsto y$ を付け加える。続いて $q_n$ が像に入っていなければ、$q_n\in V\in\mathcal V_n$ となる $V$ をとり、まだ定義域に入らない $x\in\varphi_n^{-1}(V)$ を選んで $x\mapsto q_n$ を付け加える。こうして得た単射を $f_{n+1}$ とする。$\mathcal V_n$ の元は互いに交わらないので、付け加えた点についても (d) が $\mathcal U_n,\varphi_n$ に対して成り立つ。
細かく分ける。 各 $U\in\mathcal U_n$ について、$V=\varphi_n(U)$ とおく。lem-ratsp-partition を $U$、$\varepsilon=2^{-(n+1)}$、$F=U\cap\operatorname{dom}f_{n+1}$ に当てて $U$ を小片 $U_0,U_1,\dots$ に分け、$V$、同じ $\varepsilon$、$F'=V\cap f_{n+1}(\operatorname{dom}f_{n+1})$ に当てて $V$ を小片 $V_0,V_1,\dots$ に分ける。(d) により $f_{n+1}$ は $F$ から $F'$ への全単射である。$F$ の点 $x$ を含む小片 $U_k$ には $f_{n+1}(x)$ を含む小片 $V_l$ を対応させる。各小片は $F$ または $F'$ の点を高々 $1$ 個しか含まないので、これは単射である。残りの小片は両側とも可算無限個あるので、任意の全単射で対応させる。すべての $U\in\mathcal U_n$ についての小片を集めて $\mathcal U_{n+1}$、$\mathcal V_{n+1}$、$\varphi_{n+1}$ とする。(a)・(b) は作り方から成り立つ。(d) を確かめる。$x\in\operatorname{dom}f_{n+1}$ が小片 $U'$ に入れば、$f_{n+1}(x)\in\varphi_{n+1}(U')$ である。逆に $f_{n+1}(x)\in\varphi_{n+1}(U'')$ なら、$x$ を含む小片 $U'$ について $f_{n+1}(x)\in\varphi_{n+1}(U')$ でもあるので、$\mathcal V_{n+1}$ の元が交わらないことと $\varphi_{n+1}$ の単射性から $U''=U'\ni x$ である。
同相写像を作る。 $f=\bigcup_nf_n$ とおく。(c) により $f$ は $X$ 全体で定義された $\mathbb Q$ への全単射である。各 $n$ と $U\in\mathcal U_n$ について $f(U)=\varphi_n(U)$ を示す。$x\in U$ をとり、$x\in\operatorname{dom}f_m$ となる $m\ge n$ をとる。$x$ を含む $U'\in\mathcal U_m$ は (b) を繰り返し使うと $U$ に含まれ、$\varphi_m(U')\subset\varphi_n(U)$ である。(d) により $f(x)=f_m(x)\in\varphi_m(U')\subset\varphi_n(U)$ となる。よって $f(U)\subset\varphi_n(U)$ である。$\mathcal U_n$ と $\mathcal V_n$ はどちらも分割で $\varphi_n$ は全単射なので、$f$ が全単射であることと合わせて $f(U)=\varphi_n(U)$ が従う。
最後に、$x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対し $2^{-n}< \varepsilon$ となる $n\ge1$ をとり、$x\in U\in\mathcal U_n$ とすると、$U$ は $x$ の開近傍で、$f(U)=\varphi_n(U)$ は直径 $2^{-n}$ 未満なので $f(U)\subset(f(x)-\varepsilon,f(x)+\varepsilon)$ である。よって $f$ は連続である。同じ議論を $\varphi_n(U)$ と $f^{-1}(\varphi_n(U))=U$ に当てれば $f^{-1}$ も連続である。したがって $f$ は同相写像である。$\square$

証明の中で $f$ の値は各段で有限個ずつしか決めていない。極限をとる段で点が「行き場を失う」ことがないのは、どの点もある段で定義域や像に加えられ、その後は (d) によって小片の対応に縛られ続けるからである。小片の直径を $0$ に近づけるだけで点を加えないと、$\mathbb Q$ は完備でないので、対応する小片の減少列の共通部分が空になりうる。

例と帰結

有理数空間と同相な空間

次の空間はどれも有理数空間 $\mathbb Q$ と同相である。

  1. $\mathbb Q\times\mathbb Q$、より一般に $n\ge1$ について $\mathbb Q^n$(積位相)。
  2. $\mathbb R$ の部分空間 $\mathbb Q\cap[0,1]$、$\mathbb Q\setminus\{0\}$、$\mathbb Q\cup\{\sqrt2\}$。
  3. 素数 $p$ について、$\mathbb Q$ に $p$ 進距離 $d_p(x,y)=|x-y|_p$ を入れた空間(p進数)。

どれも空でない可算集合で、距離化可能なので、孤立点がないことを確かめれば thm-ratsp-sierpinski から従う。1:$\mathbb Q^n$ の位相は距離 $\max_i|x_i-y_i|$ で定まり、点 $(q_1,\dots,q_n)$ に $(q_1+1/m,q_2,\dots,q_n)$ がいくらでも近づく。2:$0$ には $1/m$、$\sqrt2$ には $\sqrt2$ の小数展開を $m$ 桁で切った有理数が近づき、その他の点にも有理数がいくらでも近づく。3:$|p^m|_p=p^{-m}$ なので、$x\ne x+p^m$ かつ $d_p(x,x+p^m)=p^{-m}\to0$ である。$\square$

2 の空間は、$\mathbb R$ の中では見かけが違う。$\mathbb Q\cap[0,1]$ には端の点 $0,1$ があり、$\mathbb Q\setminus\{0\}$ は二つの部分に分かれ、$\mathbb Q\cup\{\sqrt2\}$ には無理数が一つ混じっている。それでも位相空間としては $\mathbb Q$ と区別できない。$\mathbb Q$ では「端の点」も「切れ目」も位相的な特徴にならないからである。

反例:恒等写像は同相写像でない

cor-ratsp-examples の 3 で、通常の距離と $p$ 進距離の空間は同相だが、恒等写像 $\mathbb Q\to\mathbb Q$ はどちら向きにも連続でない。実際、$p^{-m}\to0$(通常の距離)だが $d_p(p^{-m},0)=p^m\to\infty$ であり、$d_p(p^m,0)=p^{-m}\to0$ だが $|p^m-0|\to\infty$ である。Sierpiński の定理が与える同相写像は、点の並び方をまったく保たない。

可算距離化可能空間は有理数空間に埋め込める

可算な距離化可能空間 $X$ は、有理数空間 $\mathbb Q$ のある閉部分空間と同相である。

$X=\emptyset$ なら空集合をとればよい。$X\ne\emptyset$ とし、$X$ の位相を定める距離 $\rho$ をとる。$X\times\mathbb Q$ は距離 $\max\{\rho(x,x'),|q-q'|\}$ で距離化され、可算で、点 $(x,q)$ には $(x,q+1/m)$ が近づくので孤立点をもたない。thm-ratsp-sierpinski により同相写像 $h\colon X\times\mathbb Q\to\mathbb Q$ がある。$X\times\{0\}$ は射影 $X\times\mathbb Q\to\mathbb Q$ による閉集合 $\{0\}$ の逆像なので閉集合で、$x\mapsto(x,0)$ により $X$ と同相である。よって $X$ は $\mathbb Q$ の閉部分空間 $h(X\times\{0\})$ と同相である。$\square$

たとえば $\{0\}\cup\{1/m\mid m\ge1\}$ のように孤立点をもつ可算空間も、$\mathbb Q$ の閉部分空間として現れる。逆に、$\mathbb Q$ の部分空間は可算で距離化可能なので、可算な距離化可能空間とは $\mathbb Q$ の部分空間のことにほかならない。

反例の表

thm-ratsp-sierpinski の仮定を一つずつ外すと、結論が成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
可算無理数全体 $\mathbb R\setminus\mathbb Q$(距離化可能、孤立点なし、空でない)非可算なので $\mathbb Q$ との全単射がなく、同相でない
孤立点をもたない整数全体 $\mathbb Z$(可算、距離化可能、空でない)すべての点が孤立点なので、孤立点のない $\mathbb Q$ と同相でない
距離化可能補有限位相 を入れた $\mathbb N$(可算、空でない、無限集合なので一点集合は開でなく孤立点なし)異なる二点の開近傍がつねに交わり Hausdorff空間 でないので、距離化可能な $\mathbb Q$ と同相でない
空でない空集合$\mathbb Q$ は空でないので同相でない

関連項目

参考文献

[1]
Ryszard Engelking, General Topology, Sigma Series in Pure Mathematics 6, Heldermann Verlag, 1989, Exercise 6.2.A(d)(p. 370、Sierpiński の定理。演習として主張と方針のみ)
[2]
James R. Munkres, Topology, 2nd edition, Prentice Hall, 2000, §29 Example 1(p. 182、有理数空間は局所コンパクトでない)、§48 Example 2(p. 295、有理数空間は Baire 空間でない)、Theorem 48.2(p. 296、Baire の範疇定理)

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