Chowの補題

同義語:Chow's lemmaChow lemma

概要

Chowの補題(Chow's lemma)とは、Noether スキーム $S$ 上の分離的な有限型スキーム $X$ に対して、$S$ 上準射影的なスキーム $X'$ と射影的な全射 $g\colon X'\to X$ で、$X$ の稠密な開集合 $U$ の上では $g^{-1}(U)\to U$ が同型になるものが存在するという定理であり、$X$ が $S$ 上固有なら $X'$ は射影的にとれる。$X$ を有限個のアフィン開集合で覆って各々を射影空間にはめ込み、共通部分のグラフの閉包を $X'$ とすることで証明され、分離性の仮定を外すと成り立たない。固有であることは射影スキームの全射像であることと同値になり、連接層の高次順像の有限性・形式関数の定理・GAGA などを射影的な場合から固有射の場合へ移すのに使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 固有射, 射影射, 分離射, 整スキーム

Chowの補題(Chow's lemma)は、固有射が射影射からそれほど遠くないことを述べる定理である。固有射は射影射の一般化だが、射影的でない固有スキームは実際に存在する(固有射 の例「反例:射影的でない固有スキーム」)。Chow の補題によれば、Noether スキーム $S$ 上で固有な $X$ に対し、$S$ 上射影的なスキーム $X'$ と射影的な全射 $g\colon X'\to X$ で、$X$ の稠密な開集合の上では同型になるものがとれる。つまり固有スキームは、射影スキームを「小さな閉集合の上だけでつぶした」ものとして上から押さえられる。
この補題は、固有射についての定理を射影射の場合に帰着させるときの標準的な道具である。射影射なら $\mathbb{P}^N$ の座標を使った計算ができるので、まず射影的な場合に定理を示し、Chow の補題と Noether 帰納法で一般の固有射へ移す、という流れが連接層の有限性定理・形式関数の定理・GAGA などで使われる。この記事では $X$ が整スキームの場合に Chow の補題を完全に証明し、そこから「固有であることは射影スキームの全射像であることと同値」という系を導く。

定義と主張

射影射 の記事と同じく、射 $X\to S$ が射影的であるとは、閉埋め込み $X\to\mathbb{P}^N_S$ と射影 $\mathbb{P}^N_S\to S$ の合成に書けることをいう(Har77 II §4)。射 $Z\to Y$ がはめ込みであるとは、$Y$ のある開部分スキーム $V$ への閉埋め込み $Z\to V$ と包含 $V\to Y$ の合成に書けることをいう。$X$ が $S$ 上準射影的とは、はめ込み $X\to\mathbb{P}^N_S$ で $S$ 上の射であるものが存在することである(射影射 の定義とは「開部分スキームの閉部分スキーム」か「閉部分スキームの開部分スキーム」かの違いがあるが、この記事でははめ込みの形を使う)。$S$ が Noether スキームで $X$ が $S$ 上有限型なら 2 つの意味は一致する。$X$ は Noether なので、はめ込み $X\to\mathbb{P}^N_S$ は準コンパクトであり、そのスキーム論的像 $\overline{X}$ への開埋め込みと閉埋め込み $\overline{X}\to\mathbb{P}^N_S$ に分解する(射影射 の定理「合成・底変換・積で閉じること」の証明)。逆に $\mathbb{P}^N_S$ の閉部分スキーム $Z$ の開部分スキーム $X=Z\cap V'$($V'$ は開)は、開部分スキーム $V'$ の閉部分スキームである。

Chowの補題

$S$ をNoetherスキーム、$X$ を空でない整スキーム、$f\colon X\to S$ を分離的な有限型の射とする。このとき整スキーム $X'$、整数 $N\ge0$、$S$ 上の射 $g\colon X'\to X$ と $h\colon X'\to\mathbb{P}^N_S$ で、次をみたすものが存在する。

  1. $h$ ははめ込みである。とくに $X'$ は $S$ 上準射影的である。
  2. $g$ は射影的かつ全射である。
  3. $X$ の空でない開集合 $U$ があって、$g$ は $g^{-1}(U)\to U$ の同型を引き起こす。$U$ は $X$ で、$g^{-1}(U)$ は $X'$ で稠密である。
  4. $f$ が固有ならば $h$ は閉埋め込みであり、$X'$ は $S$ 上射影的である。

$X$ と $X'$ は既約なので、3 は $g$ が双有理であること(稠密な開集合の上で同型であること)を意味する(体上の多様体なら 双有理射 の意味の双有理射である)。体 $k$ 上の代数多様体の言葉でいえば、完備な代数多様体 $X$ に対して、射影多様体 $X'$ と双有理な全射 $X'\to X$ がとれる、ということである。

一般の形と文献

整性を仮定しない形も成り立つ。$S$ が Noether で $X\to S$ が分離的な有限型の射なら、$S$ 上準射影的な $X'$ と射影的な全射 $g\colon X'\to X$ で、ある稠密な開集合 $U$ の上で $g^{-1}(U)\to U$ が同型、かつ $g^{-1}(U)$ が $X'$ で稠密となるものが存在する(Stacks Tag 0200(Lemma 30.18.1)・Tag 0201(Remark 30.18.2))。この記事ではその場合を証明しない。$X$ が $S$ 上固有なら、そこで得られる $X'$ は $S$ 上固有なので、下の証明の段階 7 と同じ議論ではめ込み $X'\to\mathbb{P}^N_S$ は閉埋め込みになり、$X'$ は射影的である。

証明

証明の方針は次のとおりである。$X$ をアフィン開集合 $U_1,\dots,U_n$ で覆うと、各 $U_i$ は射影空間 $P_i$ の中へはめ込める。これらのはめ込みは $X$ 全体には延びないが、共通部分 $U=\bigcap U_i$ の上ではすべて定義されているので、$U$ を $X\times_SP_1\times_S\cdots\times_SP_n$ のグラフとして埋め込み、その閉包を $X'$ とする。$X'\to X$ は $U$ の上では同型であり、$X'\to P_1\times_S\cdots\times_SP_n$ がはめ込みであることを、各 $U_i$ の上で「グラフは閉」という分離性の議論で確かめる。

アフィン開集合のはめ込み

定理の仮定のもとで、$X$ は有限個の空でないアフィン開集合 $U_1,\dots,U_n$ で覆われ、各 $i$ について整数 $m_i$、射影空間 $P_i:=\mathbb{P}^{m_i}_S$ の開部分スキーム $W_i$、$S$ 上の閉埋め込み $j_i\colon U_i\to W_i$ が存在する。

$S$ は Noether なので有限個のアフィン開集合 $S_k=\operatorname{Spec}R_k$ で覆われる。有限型の射の定義により、各 $f^{-1}(S_k)$ はアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$($A$ は有限生成 $R_k$ 代数)で覆われる。$X$ は Noether スキーム上有限型なので Noether であり、とくに準コンパクトだから、このような $\operatorname{Spec}A$ の有限個 $U_1,\dots,U_n$ で $X$ が覆われる。空なものは除く。
$U_i=\operatorname{Spec}A_i\subset f^{-1}(S_k)$ とし、全射 $R_k[x_1,\dots,x_m]\to A_i$ を 1 つ選ぶ。これは閉埋め込み $U_i\to\mathbb{A}^m_{R_k}$ を与える。射影 $p\colon\mathbb{P}^m_S\to S$ について $p^{-1}(S_k)=\mathbb{P}^m_{R_k}$ は開であり、$\mathbb{A}^m_{R_k}$ はその中の開集合 $D_+(x_0)$ である。そこで $m_i=m$、$W_i=D_+(x_0)\cap p^{-1}(S_k)$ とおけばよい。$j_i$ は $R_k$ 上の射なので $S$ 上の射である。$\square$

以下、補題の $U_i,P_i,W_i,j_i$ を固定する。$Y_i:=j_i(U_i)$ を $W_i$ の閉部分スキームとみなし、同型 $U_i\cong Y_i$ の逆を $\psi_i\colon Y_i\to U_i$ と書く。
構成。$X$ は既約なので、空でない開集合の有限個の共通部分 $U:=U_1\cap\cdots\cap U_n$ は空でなく、$X$ で稠密である。$P:=P_1\times_S\cdots\times_SP_n$ とおき、射影を $p_i\colon P\to P_i$ と書く。射影射の積と合成は射影的なので(射影射 の定理「合成・底変換・積で閉じること」)、$P\to S$ は射影的であり、とくに分離的である。$p_i\circ\varphi=j_i|_U$ $(i=1,\dots,n)$ で定まる射 $\varphi\colon U\to P$ をとり、そのグラフ
$$ \Gamma=(\mathrm{id}_U,\varphi)\colon U\longrightarrow U\times_SP $$
を考える。$P\to S$ が分離的なので $\Gamma$ は閉埋め込みである(分離射 の命題「分離射への 2 つの射の一致点集合」)。$U\times_SP$ は $X\times_SP$ の開集合なので、$\Gamma(U)$ は $X\times_SP$ の局所閉集合である。その閉包に被約な閉部分スキームの構造を入れたものを $X'$ とし、
$$ g:=\mathrm{pr}_1|_{X'}\colon X'\to X,\qquad h:=\mathrm{pr}_2|_{X'}\colon X'\to P $$
とおく。$X'$ は既約集合 $\Gamma(U)$ の閉包なので既約であり、被約だから整である。また $X'_i:=g^{-1}(U_i)$、$V_i:=p_i^{-1}(W_i)$ とおく。$X'_i$ は $X'$ の開集合で $X'$ を覆い、$V_i$ は $P$ の開集合である。

グラフの閉包による構成

段階 1:$U$ の上での同型。$g^{-1}(U)=X'\cap(U\times_SP)$ である。$\Gamma(U)$ は開集合 $U\times_SP$ の中で閉なので、その閉包と $U\times_SP$ の共通部分は $\Gamma(U)$ 自身である。よって開部分スキーム $g^{-1}(U)$ は、$U\times_SP$ の閉集合 $\Gamma(U)$ に被約な構造を入れた閉部分スキームである。一方 $\Gamma$ は被約な $U$ からの閉埋め込みで、像は同じ閉集合 $\Gamma(U)$ である。閉集合の上の被約な閉部分スキームの構造はただ 1 つなので(台の等しい被約な閉部分スキーム $Z_1,Z_2$ について、イデアル層の和で定まる閉部分スキーム $Z_1\cap Z_2$ は $Z_1$ の閉部分スキームで台が $Z_1$ 全体であり、被約なスキームの閉部分スキームで台が全体のものは全体に限るので(分離射 の系「稠密な開集合で一致する射」の証明)$Z_1\cap Z_2=Z_1$、同様に $Z_1\cap Z_2=Z_2$ である)、$\Gamma$ は $U$ から $g^{-1}(U)$ への同型を与える。$g\circ\Gamma=\mathrm{pr}_1\circ\Gamma=\mathrm{id}_U$ だから、$g^{-1}(U)\to U$ はその逆射であり同型である。$g^{-1}(U)$ は既約な $X'$ の空でない開集合なので稠密である。
段階 2:$g$ は射影的な全射。$X\times_SP\to X$ は射影射 $P\to S$ の底変換なので射影的であり、閉埋め込み $X'\to X\times_SP$ との合成 $g$ も射影的である(射影射 の定理「合成・底変換・積で閉じること」の 1・2・4)。射影射は固有なので(射影射 の定理「射影射は固有である」)$g(X')$ は閉集合であり、稠密な $U$ を含むから $g(X')=X$ である。
段階 3:$X'_i$ 上で $p_i\circ h=j_i\circ g$。段階 1 の同型 $\Gamma\colon U\cong g^{-1}(U)$ について $h\circ\Gamma=\varphi$、$g\circ\Gamma=\mathrm{id}_U$ だから、$g^{-1}(U)$ 上では $h=\varphi\circ g$ であり $p_i\circ h=p_i\circ\varphi\circ g=j_i\circ g$ である。$X'_i$ は被約で、$g^{-1}(U)$ はその稠密な開集合であり、$P_i\to S$ は分離的である。したがって 2 つの $S$ 射 $p_i\circ h|_{X'_i}$ と $j_i\circ g|_{X'_i}\colon X'_i\to P_i$ は等しい(分離射 の系「稠密な開集合で一致する射」)。とくに $p_i(h(X'_i))\subset Y_i\subset W_i$、すなわち $X'_i\subset h^{-1}(V_i)$ である。
段階 4:$h^{-1}(V_i)=X'_i$。$Z:=h^{-1}(V_i)$ は $X'$ の開集合で、段階 3 により $g^{-1}(U)\subset X'_i\subset Z$ だから、$g^{-1}(U)$ は $Z$ で稠密である。$Z$ の閉集合 $(p_i\circ h|_Z)^{-1}(Y_i)$ は $g^{-1}(U)$ を含むので $Z$ 全体である。$Z$ は被約なので、$p_i\circ h|_Z\colon Z\to W_i$ は閉部分スキーム $Y_i$ を経由する($W_i$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B$ の上で $Y_i$ が $\operatorname{Spec}B/\mathfrak b$ のとき、その逆像に含まれる $Z$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}C$ では $\mathfrak b$ の元の像がすべての点で消えるので冪零であり、$C$ は被約だから $0$ である。よって $B\to C$ は $B/\mathfrak b$ を経由し、閉埋め込みはモノ射なので、これらの経由は貼り合う)。その射を $q\colon Z\to Y_i$ とし、2 つの $S$ 射 $g|_Z$ と $\psi_i\circ q\colon Z\to U_i\subset X$ を比べる。包含 $Y_i\to W_i$ を $\iota_i$ と書くと $j_i=\iota_i\circ\psi_i^{-1}$ であり、$g^{-1}(U)$ の上では段階 3 により $\iota_i\circ q=p_i\circ h=j_i\circ g=\iota_i\circ\psi_i^{-1}\circ g$ となる。$\iota_i$ はモノ射なので $q=\psi_i^{-1}\circ g$、すなわち $\psi_i\circ q=g$ が $g^{-1}(U)$ の上で成り立つ。$X\to S$ は分離的なので、再び「稠密な開集合で一致する射」により $Z$ 全体で $g=\psi_i\circ q$ であり、$g(Z)\subset U_i$、すなわち $Z\subset X'_i$ である。
段階 5:$h|_{X'_i}\colon X'_i\to V_i$ は閉埋め込み。$X'_i=X'\cap(U_i\times_SP)$ は開集合 $U_i\times_SP$ の閉部分スキームである。$U_i\times_SP$ 上の 2 つの射 $j_i\circ\mathrm{pr}_1$、$p_i\circ\mathrm{pr}_2$ の一致点を表す閉部分スキームを $E_i$ とする(分離射 の命題「分離射への 2 つの射の一致点集合」)。段階 3 により包含 $X'_i\to U_i\times_SP$ は $E_i$ を経由し、$X'_i\to E_i$ は閉埋め込みである。次に $E_i$ と、閉埋め込み $Y_i\to W_i$ の $p_i|_{V_i}$ による底変換 $p_i^{-1}(Y_i):=V_i\times_{W_i}Y_i$ を比べる。$S$ スキーム $T$ に対し、$E_i$ の $T$ 値点は $j_i\circ u=p_i\circ v$ をみたす組 $(u,v)\in U_i(T)\times P(T)$ である。この等式は「$p_i\circ v$ が $Y_i$ を経由し、その経由の射が $j_i$ を通じて $u$ に対応する」ことと同値であり、$Y_i\to P_i$ はモノ射なので経由の射は一意である。よって $(u,v)\mapsto v$ は $E_i(T)$ から $p_i^{-1}(Y_i)(T)$ への全単射で、逆は $v\mapsto(\psi_i\circ(p_i\circ v),v)$ である。$T$ について自然なので、$\mathrm{pr}_2$ は同型 $E_i\cong p_i^{-1}(Y_i)$ を与える。以上から $h|_{X'_i}$ は閉埋め込みの合成
$$ X'_i\longrightarrow E_i\xrightarrow{\ \cong\ }p_i^{-1}(Y_i)\longrightarrow V_i $$
である。
段階 6:$h$ ははめ込み。$V:=V_1\cup\cdots\cup V_n$ は $P$ の開集合で、段階 4 から $h^{-1}(V)=X'$、$h^{-1}(V_i)=X'_i$ である。閉埋め込みであることは底の上で局所的なので、段階 5 により $h\colon X'\to V$ は閉埋め込みであり、$h\colon X'\to P$ ははめ込みである。$P$ は Segre 埋め込みにより $S$ 上のある $\mathbb{P}^N_S$ の閉部分スキームになる(射影射 の命題「Segre埋め込みは閉埋め込みである」)。$V=P\cap V'$ となる $\mathbb{P}^N_S$ の開集合 $V'$ をとれば $X'\to V\to V'$ は閉埋め込みなので、合成 $X'\to\mathbb{P}^N_S$ もはめ込みである。これで 1・2・3 が示された。
段階 7:固有な場合。$f$ が固有なら、$X\times_SP\to X\to S$ は固有射の合成で固有であり、その閉部分スキーム $X'$ も $S$ 上固有である(固有射 の系「固有射の像と閉部分スキーム」)。$P\to S$ は分離的なので、$S$ 射 $h\colon X'\to P$ は固有であり、$h(X')$ は $P$ の閉集合である。$h$ は $X'$ から閉集合 $h(X')$ への同相で、$P$ の開被覆 $\{V,\ P\setminus h(X')\}$ の各開集合の上で閉埋め込みである(後者の上では始域が空)。よって $h\colon X'\to P$ は閉埋め込みであり、$P\to\mathbb{P}^N_S$ との合成も閉埋め込みだから $X'$ は $S$ 上射影的である。$\square$

証明で $X$ の分離性を使ったのは段階 4 だけである。そこでは、$X'$ のうち $P$ の側から見て「$U_i$ の上にあるはずの点」が実際に $g$ で $U_i$ に写ることを、$X$ への 2 つの射の一致から導いた。この段階が分離性なしには成り立たないことは、下の ex-chow-lemma-doubled-origin でわかる。

系:固有性と射影スキームの像

射影スキームの全射像としての固有スキーム

$S$ を Noether スキーム、$X\to S$ を分離的な有限型の射とする。

  1. $S$ 上固有なスキーム $X'$(たとえば $S$ 上射影的なスキーム)からの全射 $S$ 射 $X'\to X$ が存在すれば、$X$ は $S$ 上固有である。
  2. $X$ が整で $S$ 上固有ならば、$S$ 上射影的な整スキーム $X'$ と全射 $S$ 射 $X'\to X$ が存在する。

1:分離性と有限型は仮定にあるので、普遍閉であることを示せばよい。$T\to S$ を任意の射とし、底変換 $g_T\colon X'_T\to X_T$、$X'_T\to T$、$X_T\to T$ を考える。全射は底変換で保たれるので(Stacks Tag 01S1)$g_T$ は全射である。$X_T$ の閉集合 $C$ について、$g_T$ が全射だから $C$ の $T$ での像は $g_T^{-1}(C)$ の像に等しく、$g_T^{-1}(C)$ は $X'_T$ の閉集合で $X'_T\to T$ は閉写像だから、これは閉集合である。よって $X_T\to T$ は閉写像である。
2:thm-chow-lemma の 2 と 4 から従う。$\square$

整でない $X$ についての 2 も、rem-chow-lemma-general の一般の形から同じように従う。1 と合わせると、Noether スキーム上の分離的な有限型スキームについて「固有」と「ある射影スキームの全射像」は同じことになる。

例と反例

射影スキームと射影的でない固有スキーム

$X$ が $S$ 上射影的なら、$X'=X$、$g=\mathrm{id}$ ととれる。しかし一般には $g$ を同型にはとれない。Hironaka は、$\mathbb{C}$ 上完備で非特異な 3 次元代数多様体で射影的でないものを構成した(Har77 Appendix B 例 3.4.1、p. 443。固有射 の例「反例:射影的でない固有スキーム」)。この $X$ に Chow の補題を当てると、射影多様体 $X'$ と双有理な全射 $X'\to X$ が得られるが、$X'\to X$ は同型ではありえない。同型なら $X$ が射影的になるからである。Chow の補題が与えるのは「双有理な修正をすれば射影的になる」ことまでである。

反例:アフィン直線

$k$ を体とし、$X=\mathbb{A}^1_k$、$S=\operatorname{Spec}k$ とする。$X$ は整で $k$ 上分離的な有限型だが固有でない(固有射 の例「反例:アフィン直線」)。thm-chow-lemma の 1〜3 は $X'=X$、$g=\mathrm{id}$ で成り立つ($X$ は $\mathbb{P}^1_k$ の開部分スキーム)。一方、$k$ 上射影的な $X'$ からの全射 $X'\to X$ は存在しない。存在すれば cor-chow-lemma-proper-image の 1 により $X$ が固有になってしまうからである。したがって 4 の「$X'$ を射影的にとれる」には $f$ の固有性が必要である。

反例:原点を 2 重にした直線

$k$ を体とし、$\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ の 2 つのコピーを開集合 $\mathbb{A}^1_k\setminus\{0\}$ に沿って恒等写像で貼り合わせたスキームを $X$ とする(分離射 の例「反例:原点を 2 重にした直線」)。$X$ は整で $k$ 上有限型だが分離的でない。2 つの原点を $0_1,0_2$ と書く。
このとき、$k$ 上分離的なスキーム $X'$ と固有射 $g\colon X'\to X$ で、$X$ の空でない開集合 $U$ の上で $g^{-1}(U)\to U$ が同型になり、かつ $g$ が全射であるものは存在しない。とくに thm-chow-lemma の結論($X'$ は $\mathbb{P}^N_k$ にはめ込まれるので分離的、$g$ は射影的なので固有)は成り立たない。
実際、そのような $X'$、$g$、$U$ があったとする。$R=k[t]_{(t)}$、$K=k(t)$ とし、$\sigma_\nu\colon\operatorname{Spec}R\to X$ $(\nu=1,2)$ を $\nu$ 番目のコピーへの射とする。$\sigma_1,\sigma_2$ の $\operatorname{Spec}K$ への制限はともに $X$ の生成点への同じ射 $\eta$ であり、生成点は $U$ に入る。$\tau:=(g|_{g^{-1}(U)})^{-1}\circ\eta\colon\operatorname{Spec}K\to X'$ とおくと $g\circ\tau=\eta$ である。$g$ は固有なので、固有射 の定理「固有性の付値判定法」(Har77 II 定理 4.7)により、$\tau$ を延長し $g\circ\ell_\nu=\sigma_\nu$ をみたす $\ell_\nu\colon\operatorname{Spec}R\to X'$ がそれぞれ存在する。$X'$ は $k$ 上分離的なので、分離射 の定理「分離性の付値判定法」(Har77 II 定理 4.3)により、$\tau$ の延長は一意であり $\ell_1=\ell_2$ である。すると $\sigma_1=g\circ\ell_1=g\circ\ell_2=\sigma_2$ となるが、$\sigma_1$ は閉点を $0_1$ に、$\sigma_2$ は $0_2$ に写すので矛盾である。(全射性は使っていない。$g$ が $0_1$ の上と $0_2$ の上の両方に点を持つことが、分離的な $X'$ と両立しない。)

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
$X\to S$ が固有(4 の仮定)$X=\mathbb{A}^1_k$$k$ 上射影的な $X'$ からの全射 $X'\to X$ が存在しない(ex-chow-lemma-affine-line)
$X\to S$ が分離的原点を 2 重にした直線分離的な $X'$ からの固有射で、稠密な開集合の上で同型になるものが存在しない(ex-chow-lemma-doubled-origin)

結論の側の限界として、$g$ を同型にとることは一般にはできない(ex-chow-lemma-hironaka)。

使われ方

Chow の補題は、固有射についての主張を次の形で射影射の場合に帰着させるために使われる。主張が「$X$ の閉部分スキームについて成り立てば $X$ についても成り立つ」形の Noether 帰納法に乗るとき、Chow の補題の $g\colon X'\to X$ を使って、$X'$(射影的)での結果を $X$ へ押し出し、$g$ が同型でない閉集合 $X\setminus U$ の上の誤差を帰納法の仮定で処理する。

  • 固有射による連接層の高次順像が連接であること(EGA3 定理 3.2.1)。射影射の場合は $\mathbb{P}^N$ 上の計算に帰着し、一般の固有射の場合を Chow の補題と Noether 帰納法で導く(固有射 の定理「固有射による連接層の押し出し」)。
  • 形式関数の定理(EGA3 定理 4.1.5)は、上の有限性定理とその次数付き版(EGA3 3.3.1)から導かれる。Chow の補題はこの有限性定理を通じて使われる。
  • GAGA の固有スキームへの拡張(GAGA の定理「固有スキームへの拡張」)も、射影的な場合の比較定理から Chow の補題で導かれる。
    いずれもこの記事では証明しない。どの場合も、射影的な $X'$ では射影空間の座標と豊富な可逆層が使えることが証明の要である。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, II §4(射影射の定義 p. 103、定理 4.3 p. 97、定理 4.7 p. 101)、Appendix B 例 3.4.1(p. 443)
[2]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique III : Étude cohomologique des faisceaux cohérents, Première partie, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1961, 3.2.1(固有射の有限性定理)、3.3.1、4.1.5(形式関数の定理)

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