複素ベクトル束

同義語:complex vector bundle複素ベクトルバンドル

概要

複素ベクトル束(complex vector bundle)とは、各ファイバーが複素ベクトル空間で、局所的には $U\times\mathbb C^n$ と複素線形に同一視できるベクトル束である。階数 $2n$ の実ベクトル束に、ファイバーごとに線形で $J^2=-1$ をみたす連続な写像 $J$(複素構造)を与えることと同じであり、$J$ から複素局所自明化が作れる。実化には標準的な向きが入り、パラコンパクト Hausdorff 空間の上では複素直線束と向き付けられた階数 $2$ の実ベクトル束が同じものになる。複素多様体の接束やトートロジー直線束が代表例で、Chern 類はこの束に対して定義される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, 複素化, 概複素構造, Hermite計量

複素ベクトル束(complex vector bundle)とは、各ファイバーが複素ベクトル空間で、局所的には $U\times\mathbb C^n$ と複素線形に同一視できるベクトル束である。複素数倍を実数倍に制限すると階数 $2n$ の実ベクトル束が得られ、$i$ 倍はファイバーごとの線形写像 $J$ で $J^2=-1$ をみたす。逆に、実ベクトル束にこのような $J$(複素構造)を連続に与えれば、複素ベクトル束が得られる。複素多様体の接束、複素射影空間のトートロジー直線束、実ベクトル束の複素化が代表的な例であり、Chern 類(Chern類)はこの複素ベクトル束に対して定義される。
複素構造は実ベクトル束に付け加わる情報である。同じ実ベクトル束が互いに同型でない 2 つの複素構造をもつことがあり、逆に複素構造をもてない実ベクトル束もある。実化には標準的な向きが入るので、向き付けできない実ベクトル束は複素構造をもたない。
この記事では、主定理として、複素構造から複素局所自明化が作れることを証明する。さらに、実化に標準的な向きが入ること(ベクトル空間での計算 $\det A_{\mathbb R}=|\det A|^2$ は 概複素構造 による)、パラコンパクト Hausdorff 空間の上では複素直線束と向き付けられた階数 $2$ の実ベクトル束が同じものであることを示す。

定義

位相空間 $X$ の上のベクトル束は ベクトル束 の定義「ベクトル束」の意味とし、底空間に条件を課すときは明記する。

複素ベクトル束

位相空間 $X$ の上の階数 $n$ の複素ベクトル束とは、連続写像 $\pi\colon E\to X$ と、各ファイバー $E_x:=\pi^{-1}(x)$ の上の複素ベクトル空間の構造の組で、次をみたすものである:各点 $x\in X$ に開近傍 $U$ と同相写像 $\phi\colon\pi^{-1}(U)\to U\times\mathbb C^n$ があって、$\phi$ は各 $E_y$($y\in U$)を $\{y\}\times\mathbb C^n$ へ複素線形同型に写す。$\phi$ を複素局所自明化という。2 つの複素ベクトル束の間の束写像は、ファイバーを保つ連続写像で各ファイバー上で複素線形なものとし、逆も束写像である全単射な束写像を同型という。階数 $1$ の複素ベクトル束を複素直線束という。

これは ベクトル束 の定義で係数体を $\mathbb C$ としたものと同じである(MS74 §13、p. 149)。2 つの複素局所自明化の変換関数は $GL(n,\mathbb C)$ に値をとる連続写像で、コサイクル条件をみたす(ベクトル束 の定義「変換関数」)。$X$ が複素多様体で変換関数が正則にとれるものが 正則ベクトル束 である。
複素ベクトル束 $E$ の複素数倍を実数倍に制限したものを $E$ の実化といい、$E_{\mathbb R}$ と書く。$\mathbb C^n$ を $\mathbb R^{2n}$ と同一視すれば複素局所自明化は実の局所自明化でもあるので、$E_{\mathbb R}$ は階数 $2n$ の実ベクトル束である。$E$ の $i$ 倍 $J(v):=iv$ は、複素局所自明化の上では $(y,z)\mapsto(y,iz)$ なので連続で、$J\circ J=-\mathrm{id}$ をみたす。

実ベクトル束の複素構造

階数 $2n$ の実ベクトル束 $\pi\colon E\to X$ の複素構造とは、連続写像 $J\colon E\to E$ で、各ファイバー $E_x$ を自分自身へ実線形に写し、$J\circ J=-\mathrm{id}_E$ をみたすものである。

この定義は MS74 §13(pp. 149–150)による。接束の複素構造は 概複素構造 にほかならない。

主定理:複素構造から複素ベクトル束へ

複素構造と複素ベクトル束

$\pi\colon E\to X$ を階数 $2n$ の実ベクトル束、$J$ をその複素構造とする。各ファイバーに
$$ (a+bi)\,v:=av+b\,Jv\qquad(a,b\in\mathbb R) $$
で複素数倍を入れると、$E$ は階数 $n$ の複素ベクトル束になる。すなわち、各点の近くに複素局所自明化がある。逆に、複素ベクトル束の $i$ 倍はその実化の複素構造である。この 2 つの対応は互いに逆であり、複素ベクトル束とは「複素構造をもつ実ベクトル束」のことである。

実の局所自明化の中で複素基底を延ばす

第 1 段:ファイバーは $n$ 次元の複素ベクトル空間.$J$ は実線形なので、上の式は加法について分配的であり、$i(iv)=J(Jv)=-v$ から $(\lambda\mu)v=\lambda(\mu v)$($\lambda,\mu\in\mathbb C$)が成り立つ。よって $E_x$ は複素ベクトル空間で、実次元が $2n$ なので複素次元は $n$ である。
第 2 段:近くの点まで複素基底を延ばす.点 $x_0\in X$ を固定し、実の局所自明化 $\psi\colon\pi^{-1}(U)\to U\times\mathbb R^{2n}$ をとる。$E_{x_0}$ の複素基底 $v_1,\dots,v_n$ を選ぶ。このとき $v_1,Jv_1,\dots,v_n,Jv_n$ は $E_{x_0}$ の実基底である。実際、これらの実係数の 1 次結合の全体は $v_j$ の複素係数の 1 次結合の全体、すなわち $E_{x_0}$ であり、個数 $2n$ は実次元に等しい。
$\psi(v_j)=(x_0,w_j)$ として、連続な切断 $s_j(y):=\psi^{-1}(y,w_j)$($y\in U$)を定めると $s_j(x_0)=v_j$ である。$J$ は連続なので $Js_j$ も連続な切断である。$2n$ 個の切断 $s_1,Js_1,\dots,s_n,Js_n$ を $\psi$ で $\mathbb R^{2n}$ の列ベクトルとみて並べた行列を $S(y)$ とすると、$S$ は $U$ 上の連続な行列値関数で、$\det S(x_0)\ne0$ である。よって $x_0$ の開近傍 $U'\subset U$ があって、$U'$ の各点で $\det S(y)\ne0$、すなわち $s_1(y),Js_1(y),\dots,s_n(y),Js_n(y)$ は $E_y$ の実基底である。このとき $s_1(y),\dots,s_n(y)$ の複素係数の 1 次結合はこの実基底の実係数の 1 次結合をすべて含むので $E_y$ 全体を張り、$E_y$ の複素次元は $n$ だから、$s_1(y),\dots,s_n(y)$ は $E_y$ の複素基底である。
第 3 段:複素局所自明化.写像
$$ \Phi\colon U'\times\mathbb C^n\to\pi^{-1}(U'),\qquad\Phi(y,z):=\sum_{j=1}^nz_j\,s_j(y)=\sum_{j=1}^n\bigl((\operatorname{Re}z_j)\,s_j(y)+(\operatorname{Im}z_j)\,Js_j(y)\bigr) $$
を考える。右辺の表示から $\Phi$ は連続で、第 2 段により各 $y$ で $\mathbb C^n\to E_y$ の複素線形同型である。$\psi\circ\Phi(y,z)=(y,S(y)\,\underline z)$($\underline z:=(\operatorname{Re}z_1,\operatorname{Im}z_1,\dots,\operatorname{Re}z_n,\operatorname{Im}z_n)$)であり、逆行列 $S(y)^{-1}$ も $y$ について連続なので、$\Phi$ の逆写像 $\psi^{-1}(y,w)\mapsto(y,S(y)^{-1}w)$ も連続である。よって $\phi:=\Phi^{-1}$ は $U'$ 上の複素局所自明化である。
第 4 段:逆の対応.複素ベクトル束の $i$ 倍が実化の複素構造であることは定義の直後に見た。複素ベクトル束 $E$ から $J=i$ をとって上の式で複素数倍を入れ直すと $(a+bi)v=av+b(iv)$ で元の複素数倍に戻る。逆に $J$ から作った複素ベクトル束の $i$ 倍は $J$ そのものである。$\square$

この主張は MS74 Problem 13-A(p. 152)で演習とされている。証明が使ったのは、$J$ の連続性と $J\circ J=-\mathrm{id}$、実の局所自明化の存在だけである。滑らかなベクトル束と滑らかな $J$ から始めれば、同じ構成で $s_j$ が滑らかになり、滑らかな複素局所自明化が得られる。

概複素多様体の接束

概複素多様体 $(M,J)$(概複素構造 の定義「概複素構造と概複素多様体」)の接束 $TM$ は、$J$ を $i$ 倍とする複素ベクトル束である。とくに複素多様体の接束は複素ベクトル束である。

複素多様体 $X$ では、$(TX,J)$ は複素化した接束の $(1,0)$ 部分 $T^{1,0}X$ と複素ベクトル束として同型である(複素化 の命題「実化の複素化」の直後の説明)。

束の構成

複素ベクトル束からは、ファイバーごとの複素線形代数の操作で新しい複素ベクトル束が作られる。

  • 直和・テンソル積・Hom・双対・外冪・引き戻し.$E\oplus F$、$E\otimes_{\mathbb C}F$、$\operatorname{Hom}_{\mathbb C}(E,F)$、双対 $E^\vee=\operatorname{Hom}_{\mathbb C}(E,\mathbb C)$、外冪 $\bigwedge^kE$、連続写像 $f\colon Y\to X$ による引き戻し $f^*E$。変換関数はそれぞれ $g\oplus g'$、$g\otimes g'$ などである(MS74 §13、p. 149)。最高次の外冪は 行列式束 である。
  • 共役.$-J$ も複素構造なので、thm-cvb-structure により、同じ実ベクトル束に $\lambda$ 倍を $\bar\lambda$ 倍として入れ直した複素ベクトル束 $\overline E$ が得られる。これを $E$ の共役という(Pontryagin類 の定義「複素化と共役」)。
  • 複素化.実ベクトル束 $F$ について、$F\oplus F$ に複素構造 $J(x,y)=(-y,x)$ を入れたものが複素化 $F\otimes\mathbb C$ である(同じ定義)。
    底空間がパラコンパクト Hausdorff なら、複素ベクトル束は Hermite 計量をもち(MS74 §14、p. 157。滑らかな場合は Hermite計量 の定理「Hermite 計量の存在」)、それを使うと $\overline E\cong E^\vee$ となる(Pontryagin類 の命題「共役と奇数番目の Chern 類」の証明の 1)。複素化については $F\otimes\mathbb C\cong\overline{F\otimes\mathbb C}$ であり(同じ命題の 2)、実化の複素化は $E_{\mathbb R}\otimes\mathbb C\cong E\oplus\overline E$ と分解する(Pontryagin類 の補題「実化の複素化」)。

実化の標準的な向き

実化の標準的な向き
  1. $A\in GL(n,\mathbb C)$ を $\mathbb C^n=\mathbb R^{2n}$ の実線形写像 $A_{\mathbb R}$ とみると、$\det A_{\mathbb R}=|\det A|^2>0$ である。
  2. 複素ベクトル空間 $V$ の複素基底 $v_1,\dots,v_n$ について、実基底 $v_1,iv_1,\dots,v_n,iv_n$ の定める $V_{\mathbb R}$ の向きは、複素基底の選び方によらない。
  3. 複素ベクトル束 $E$ の各ファイバーに 2 の向きを入れると、$E_{\mathbb R}$ は向き付けられた実ベクトル束になる。

要点:1 と 2 は 概複素構造 の命題「次元の偶数性と標準的な向き」の 2 とその証明による($\mathbb C^n$ の上の $A$ について、2 つの実基底の変換行列の行列式は $|\det A|^2$ である)。3 は変換関数に 1 を当てる。

3 の証明を開く

3.複素局所自明化 $\phi$ の上で、標準基底から作る局所的な枠の向きは 2 の向きに一致する。2 つの複素局所自明化の変換関数 $g$ は 1 により $\det g_{\mathbb R}>0$ をみたすので、向きは局所的に定数で、向き付けの定義をみたす。$\square$

MS74 Lemma 14.1(p. 155)は 2 を $GL(n,\mathbb C)$ の連結性から示している。共役束 $\overline E$ のファイバーでは $i$ 倍が $-i$ 倍に替わるので、$\overline E_{\mathbb R}=E_{\mathbb R}$ の標準的な向きは $v_1,-iv_1,\dots,v_n,-iv_n$ で定まり、$E_{\mathbb R}$ の向きと $(-1)^n$ だけ違う(MS74 Lemma 14.9 の証明、p. 168)。
複素多様体はこの向きによって標準的に向き付けられる(概複素構造 の命題「概複素多様体は偶数次元で向き付け可能」)。逆に、向き付けできない実ベクトル束は複素構造をもたない。例えば $S^1$ 上の Möbius 束 $\mu$(ベクトル束 の例「Möbius 束」)と自明な直線束 $\varepsilon$ の直和は階数 $2$ であるが、最高次の外冪 $\bigwedge^2(\mu\oplus\varepsilon)\cong\mu$ が自明でないので向き付けできず(行列式束 の定理「向き付け可能性と行列式束」)、複素直線束の実化にならない。

複素直線束と向き付けられた実平面束

階数 $2$ の実ベクトル束を実平面束とよぶ。向きと計量を与えた実平面束には「$90^\circ$ の回転」が定まり、これが複素構造になる。

複素直線束と向き付けられた実平面束

$X$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とする。複素直線束 $L$ に、実化 $L_{\mathbb R}$ と prop-cvb-orientation の向きの組を対応させる写像
$$ \Phi\colon\{X\text{ 上の複素直線束}\}/\cong\ \longrightarrow\ \{X\text{ 上の向き付けられた実平面束}\}/\cong $$
は全単射である。右辺の同型は向きを保つ同型とする。

計量と向きから $90^\circ$ の回転を作る

$\Phi$ が定まること.複素線形な同型 $f\colon L\to L'$ は、実基底 $(v,iv)$ を $(f(v),if(v))$ に写すので、標準的な向きを保つ。
回転 $J_g$.向き付けられた実平面束 $E$ と、そのファイバーごとの内積 $g$ で連続なもの(Euclid 計量)をとる。Euclid 計量はパラコンパクト Hausdorff 空間の上で存在する(ベクトル束の計量 の命題「計量の存在と凸性」)。$v\ne0$ について、$|w|=|v|$、$g(v,w)=0$ で $(v,w)$ が正の向きの基底になる $w$ はただ 1 つなので、それを $J_gv$ とし、$J_g0:=0$ とする。点の近くで正の向きの局所的な枠を Gram–Schmidtの直交化 で正規直交化した枠 $(e_1,e_2)$ をとると、$J_ge_1=e_2$、$J_ge_2=-e_1$ である。よって $J_g$ はこの枠で定数行列 $\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ で表され、連続で $J_g\circ J_g=-\mathrm{id}$ をみたす。thm-cvb-structure により複素直線束 $L(E,g)$ が得られ、その標準的な向き $(v,J_gv)$ は $E$ の向きに一致する。
同型と計量の取り替え.向きを保つ等長な同型 $f\colon(E,g)\to(E',g')$ は、定義の 3 条件を保つので $f\circ J_g=J_{g'}\circ f$ をみたし、複素線形な同型 $L(E,g)\to L(E',g')$ である。同じ $E$ の 2 つの Euclid 計量 $g_0,g_1$ について、$g_1(v,w)=g_0(Av,w)$ をみたすファイバーごとの $g_0$ 対称な正定値の写像 $A$ をとる($g_0$ の正規直交枠では $g_1$ の Gram 行列で、連続)。$2\times2$ の正定値対称行列には
$$ B:=\frac{A+\sqrt{\det A}\,I}{\sqrt{\operatorname{tr}A+2\sqrt{\det A}}} $$
が $B^2=A$ をみたす正定値対称行列として連続に定まる(Cayley–Hamilton の式 $A^2=(\operatorname{tr}A)A-(\det A)I$ から $(A+\sqrt{\det A}\,I)^2=(\operatorname{tr}A+2\sqrt{\det A})A$)。$g_0(Bv,Bw)=g_0(B^2v,w)=g_1(v,w)$ かつ $\det B>0$ なので、$B\colon(E,g_1)\to(E,g_0)$ は向きを保つ等長な同型であり、$L(E,g_1)\cong L(E,g_0)$ である(任意の階数の束でのこの同型の存在は ベクトル束の計量 の定理「計量の一意性」)。向きを保つ同型 $f\colon E\to E'$ と $E'$ の計量 $g'$ については、$g:=f^*g'$ とすれば $f$ は等長なので $L(E,g)\cong L(E',g')$ である。以上で $\Psi(E):=L(E,g)$ は同型類の写像を定める。
互いに逆であること.$\Phi\Psi(E)$ は $E$ に $(v,J_gv)$ の向きを入れたもので、これは $E$ の向きである。逆に複素直線束 $L$ に Hermite 計量 $h$(第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形。MS74 §14、p. 157)を入れ、$g:=\operatorname{Re}h$ とする。$v\ne0$ について $h(v,iv)=-i\,h(v,v)$ なので $g(v,iv)=0$、また $|iv|=|v|$ であり、$(v,iv)$ は標準的な向きで正である。よって $J_g$ は $i$ 倍に等しく、$\Psi\Phi(L)=L$ である。$\square$

この全単射のもとで、複素直線束の第 1 Chern 類は実平面束の Euler 類に対応する(MS74 §14 の Chern 類の構成、Euler類)。例えば $S^2$ 上の複素直線束は整数 $\langle c_1,[S^2]\rangle$ で分類される(Chern類 の定理「直線束の分類」)ので、$S^2$ 上の向き付けられた実平面束も整数(Euler 数)で分類される。

例

複素射影空間のトートロジー直線束

$\mathbb{CP}^n$ の点 $\ell$($\mathbb C^{n+1}$ の複素直線)に $\ell$ 自身を対応させる $\mathcal O(-1)=\{(\ell,v)\mid v\in\ell\}\subset\mathbb{CP}^n\times\mathbb C^{n+1}$ は複素直線束である(ベクトル束 の例「射影空間上のトートロジー束」の複素版、Hermite計量 の例「射影空間の同語反復直線束」)。その双対が $\mathcal O(1)$ で、$c_1(\mathcal O(1))=h$ は超平面類である(Chern類 の定義「Chern類の公理的定義」)。

Riemann 球面の接束と共役

$S^2=\mathbb{CP}^1$ の接束 $T$ は複素直線束であり、$c_1(T)=2h$ である(Chern類 の例「複素射影空間の接束」)。共役 $\overline T$ は $c_1(\overline T)=-2h$ をみたす(Pontryagin類 の命題「共役と奇数番目の Chern 類」)ので、$T$ と $\overline T$ は複素ベクトル束として同型でない。2 つの実化はどちらも $S^2$ の接束 $TS^2$ である。すなわち $TS^2$ は同型でない 2 つの複素構造 $J$ と $-J$ をもつ(MS74 §14、pp. 167–168 には、$S^2$ 上に連続な接線の場がないことによる別の証明がある)。

実ベクトル束の複素化

実ベクトル束 $F$ の複素化 $F\otimes\mathbb C=F\oplus F$ は、$J(x,y)=(-y,x)$ による複素ベクトル束である。$S^1$ 上の Möbius 束 $\mu$ は向き付けできず複素構造をもたない(階数が奇数)が、$\mu\oplus\mu=\mu\otimes\mathbb C$ は複素直線束である。$H^2(S^1;\mathbb Z)=0$ と Chern類 の定理「直線束の分類」から、$\mu\otimes\mathbb C$ は複素直線束として自明である。直接にも、$\mu\oplus\mu$ は $[0,1]\times\mathbb C$ の両端を $-1$ 倍で貼ったもので、$-1=e^{i\pi}$ は $e^{i\pi t}$ で $1$ と結べるので、$(t,z)\mapsto(t,e^{-i\pi t}z)$ が自明束への複素線形な同型を与える。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
$J$ の連続性(thm-cvb-structure)$\mathbb R\times\mathbb R^2\to\mathbb R$ で、$x\ge0$ では $J_x=R$、$x<0$ では $J_x=-R$($R$ は $90^\circ$ の回転)$x=0$ の近くの複素局所自明化の存在
向きを対応に含めること(thm-cvb-oriented-plane)$\mathbb{CP}^1$ 上の $\mathcal O(1)$ と $\mathcal O(-1)$実化(向きを忘れたもの)からの同型類の単射性
階数が偶数であること$\mathbb R^3$ の上の自明束 $\mathbb R^3\times\mathbb R^3$複素構造 $J$ の存在

1 行目:各ファイバーは複素直線になるが、複素局所自明化 $\phi^{-1}(y,z)=z\,s(y)$ があれば、$s$ と $J s=\phi^{-1}(y,i)$ はともに連続である。$x<0$ から $x\to0$ とすると $J_xs(x)=-Rs(x)\to-Rs(0)$、一方 $J_xs(x)\to J_0s(0)=Rs(0)$ でなければならず、$s(0)\ne0$ に矛盾する。
2 行目:$\overline{\mathcal O(1)}\cong\mathcal O(1)^\vee=\mathcal O(-1)$ なので、$\mathcal O(1)$ と $\mathcal O(-1)$ の実化は同じ実平面束である。一方 $c_1$ が $h$ と $-h$ で違うので、2 つは複素直線束として同型でない。実化に向きを付ければ、2 つの向きは互いに逆である(prop-cvb-orientation の後の注意で $n=1$)。
3 行目:概複素構造 の命題「次元の偶数性と標準的な向き」の 1 のとおり、$J^2=-1$ なら $(\det J)^2=\det(-I)=(-1)^m$($m$ は階数)なので、$m$ が奇数ならそのような実線形写像はない。
複素構造の存在と障害.偶数階数で向き付けられた実ベクトル束でも複素構造をもつとは限らない。例えば $S^4$ の接束は複素構造をもたない(概複素構造 の節「反例と注意」)。複素構造の存在は、構造群 $SO(2n)$ を $U(n)$ に縮小できるかという問題であり(主束 の節「構造群の縮小」)、特性類による障害がある。

関連項目

参考文献

[1]
John W. Milnor, James D. Stasheff, Characteristic Classes, Princeton University Press, 1974, §13 複素ベクトル束と複素構造の定義(pp. 149–150)、Problem 13-A(p. 152);§14 Lemma 14.1(p. 155)、Hermite 計量(pp. 156–157)、共役束と $\mathbb P^1$ の接束の例(pp. 167–168)、Lemma 14.9(p. 168)

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