形式体系

同義語:形式的体系formal system

概要

形式体系(formal system)とは、記号の集合、記号列のうち論理式として認めるものの決定可能な集合、公理の決定可能な集合、有限個の決定可能な推論規則の組であり、公理から規則を有限回使って得られる論理式を定理とよぶ。定理の全体は公理を含み規則で閉じた最小の集合なので、公理がもち規則で保たれる性質を見つければ、ある式が定理でないことを示せる。定理の全体はつねに帰納的可算であり、可算言語の一階の理論では、帰納的可算な公理の集合を同じ定理を与える決定可能な公理の集合に取り替えられる。一階論理の証明体系や Peano 算術がその代表例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 形式言語, 一階論理の証明体系, 帰納的可算集合

形式体系(formal system)とは、記号の並べ方だけで「何が証明できるか」を決める仕組みである。使う記号の集合、記号列のうち意味のある式として認めるもの(論理式)、出発点にする式(公理)、式から式を作る規則(推論規則)の 4 つを決めておき、公理から規則を有限回使って得られる式を 定理 とよぶ。式の意味や真偽は一切参照しない。そのため、与えられた式の列が正しい導出になっているかどうかは機械的に検査できる。一階論理の証明体系 や Hilbert流の証明体系 は形式体系の代表例であり、Peano算術 や ZFC公理系 のような数学の理論も、論理の公理に理論の公理を加えた形式体系として扱える。
形式体系を考える利点は、「この公理系からこの命題は証明できるか」「この公理系は矛盾するか」「定理かどうかを判定する手順はあるか」という問いを、記号列の集合についての数学の問題に置き換えられることにある。この記事では、形式体系を一般の形で定め、論理と関係のない小さな体系で定理の全体を決定する例を示す。次に、定理の全体が帰納的可算であること、帰納的可算な公理の集合は同じ定理を与える決定可能な公理の集合に取り替えられることを証明する。

定義

記号の集合 $\Sigma$ は有限集合か可算無限集合とし、可算無限のときは「$n$ 番目の記号」が $n$ から機械的に求まるように並べておく。$\Sigma$ の元を有限個並べた列(文字列)の全体を $\Sigma^*$ と書く(形式言語 の定義「アルファベットと文字列」)。$\Sigma^*$ の部分集合や $\Sigma^*$ の元の組の集合が 決定可能 であるとは、与えられた元がその集合に属するかどうかを有限の手順で判定する方法があることをいう。正確には、文字列を自然数で符号化し(Gödel数化)、符号の集合が決定可能であることと定める。帰納的可算も同じように符号の集合で定める(帰納的可算集合 の定義「帰納的可算集合」の後の段落)。

形式体系

形式体系 $S$ とは、次の 4 つの組 $S=(\Sigma,F,A,R)$ である。

  1. 記号の集合 $\Sigma$。
  2. 決定可能な部分集合 $F\subset\Sigma^*$。$F$ の元を $S$ の 論理式(式)という。
  3. 決定可能な部分集合 $A\subset F$。$A$ の元を 公理 という。
  4. 有限個の 推論規則 の集合 $R$。各推論規則 $\rho\in R$ は、ある $k\ge1$ について $F^{k}\times F$ の決定可能な部分集合である。$(\varphi_1,\dots,\varphi_k;\psi)\in\rho$ のとき、$\psi$ は $\rho$ により $\varphi_1,\dots,\varphi_k$ から得られるという。
    $\Gamma\subset F$ からの 導出 とは、論理式の有限列 $\psi_1,\dots,\psi_n$($n\ge1$)で、各 $\psi_i$ が次のどれかを満たすものをいう。
  • $\psi_i\in A$ である。
  • $\psi_i\in\Gamma$ である。
  • ある $\rho\in R$ と $j_1,\dots,j_k< i$ について $(\psi_{j_1},\dots,\psi_{j_k};\psi_i)\in\rho$ である。
    最後の行が $\varphi$ である $\Gamma$ からの導出があるとき $\Gamma\vdash_S\varphi$ と書く。$\emptyset\vdash_S\varphi$ を $\vdash_S\varphi$ と書き、$\varphi$ を $S$ の 定理 という。定理の全体を $\operatorname{Thm}(S)$ と書く。

一階論理の証明体系 の記事の定義「証明体系・導出・証明可能性」は、$F$ を一階言語の論理式の全体にとった場合にあたる。導出の定義も同じであり、同記事の命題「導出可能性の基本性質」(反射性・単調性・有限性・推移性)の証明は公理と規則の中身を使わないので、そのまま一般の形式体系で成り立つ。以下ではこの 4 つの性質を断らずに使う。この定義の形は OLT26 Definition 22.1〜22.4(pp. 334–335)の導出・定理の定義と同じである。

同値・拡大・無矛盾
  1. 同じ $F$ をもつ形式体系 $S,S'$ は、$\operatorname{Thm}(S)=\operatorname{Thm}(S')$ のとき 同値 であるという。
  2. $S'=(\Sigma',F',A',R')$ が $S$ の 拡大 であるとは、$F\subset F'$ かつ $\operatorname{Thm}(S)\subset\operatorname{Thm}(S')$ であることをいう。
  3. $\Sigma$ が否定の記号 $\lnot$ を含み、$\varphi\in F$ なら $\lnot\varphi\in F$ であるとする。$\vdash_S\varphi$ と $\vdash_S\lnot\varphi$ をともに満たす $\varphi$ がないとき、$S$ は 無矛盾 であるという。否定の記号によらず、$\operatorname{Thm}(S)\ne F$ のとき $S$ は 絶対無矛盾 であるという。

一階論理の証明体系 の体系 $\mathbf H$ に文の集合 $T$ を公理として加えた形式体系では、無矛盾と絶対無矛盾は同じ条件になる。矛盾すればどの論理式も導出できるからである(無矛盾性 の命題「矛盾の言い換え」)。

直感

形式体系は、記号列を書き換えて新しい記号列を作るゲームの規則表である。ゲームの進め方(導出)は誰でも検査できるが、ある記号列が作れるかどうかは、作り方を探さなければ分からない。作れないことを示すには、公理がもち規則で保たれる性質(不変量)を見つけ、目的の記号列がその性質をもたないことを確かめればよい。数学の公理系についての問い、たとえば「Peano 算術から $0=1$ が導出できないか」も、この形の問いである。

例

まず、論理と無関係な体系で、定理の全体が完全に決まる例を挙げる。

対応のとれた文字列を作る体系

$\Sigma=\{a,b\}$、$F=\Sigma^*\setminus\{\varepsilon\}$(空でない文字列の全体、$\varepsilon$ は空列)、$A=\{ab\}$ とし、推論規則を次の 2 つとする。

  • 規則 (R1):$x$ から $axb$ を得る($1$ 個の前提)。
  • 規則 (R2):$x$ と $y$ から $xy$ を得る($2$ 個の前提)。
    この形式体系を $D$ とよぶ。$a$ を開き括弧、$b$ を閉じ括弧と読むと、(R1) は全体を括弧でくくる規則、(R2) は 2 つを並べる規則である。たとえば
    $$ ab\ (\text{公理}),\quad aabb\ (1\text{ に R1}),\quad aabbab\ (2,\ 1\text{ に R2}) $$
    は導出であり、$aabbab$ は $D$ の定理である。

文字列 $w$ と $w$ の始切片 $p$($w=pq$ となる $p$)について、$h(p):=(p\text{ の中の }a\text{ の個数})-(p\text{ の中の }b\text{ の個数})$ とおく。$h(w)=0$ で、$w$ のすべての始切片 $p$ について $h(p)\ge0$ となる文字列を 対応のとれた文字列 という。$ab$、$aabbab$ は対応がとれており、$ba$、$aab$、$abb$ は対応がとれていない。

体系 D の定理

$D$ の定理の全体は、空でない対応のとれた文字列の全体に等しい。

規則で保たれる性質と、最初に高さ 0 に戻る位置での分解

定理なら対応がとれている。 後の prop-formal-system-inductive により、空でない対応のとれた文字列の全体が $ab$ を含み (R1)・(R2) で閉じていることを示せばよい。$ab$ の始切片 $\varepsilon,a,ab$ の $h$ は $0,1,0$ である。$x$ が対応のとれた文字列なら、$axb$ の始切片は $\varepsilon$、$ap$($p$ は $x$ の始切片)、$axb$ のどれかで、$h$ の値はそれぞれ $0$、$1+h(p)\ge1$、$1+h(x)-1=0$ である。$x,y$ が対応のとれた文字列なら、$xy$ の始切片は $x$ の始切片 $p$ か $xp'$($p'$ は $y$ の始切片)で、$h(p)\ge0$、$h(xp')=h(x)+h(p')=h(p')\ge0$、$h(xy)=0$ である。
対応がとれていれば定理。 空でない対応のとれた文字列 $w$ の長さに関する帰納法で示す。長さ $1$ の始切片の $h$ が $0$ 以上なので、$w$ は $a$ で始まる。$h$ は 1 文字ごとに $\pm1$ ずつ変わり、$h(w)=0$ なので、長さが正で $h$ が $0$ になる始切片のうち最も短いもの $u$ がある。$w=uv$ と書く。$u$ より短い空でない始切片の $h$ は正なので、$u$ の最後の文字は $b$ であり、$u=au'b$ と書ける。$u'$ の始切片 $p$ について、$ap$ は $u$ より短い空でない始切片なので $h(p)=h(ap)-1\ge0$ であり、$h(u')=h(u)-1+1=0$ だから、$u'$ は対応のとれた文字列か空列である。$v$ についても、$h(up')=h(p')$ から対応のとれた文字列か空列である。
$u'=\varepsilon$ なら $u=ab$ は公理である。$u'\ne\varepsilon$ なら $u'$ は $w$ より短いので帰納法の仮定により定理であり、(R1) により $u$ も定理である。$v=\varepsilon$ なら $w=u$ で終わる。$v\ne\varepsilon$ なら $v$ は帰納法の仮定により定理であり、(R2) により $w=uv$ も定理である。$\square$

とくに $ba$ や $aab$ は $D$ の定理でない。どちらも $h$ の条件を破るからである。また、与えられた文字列が $D$ の定理かどうかは、左から $h$ を数えるだけで判定できる。定理を「作れるかどうか」の問いが、作り方を探さずに解けた例である。対応のとれた文字列の全体は 文脈自由言語 の典型例でもある。

論理と理論の形式体系
  1. 命題論理。 Hilbert流の証明体系 の体系 $\mathbf H_0$ は、命題変数と $\lnot,\to$、括弧を記号とし、論理式の全体を $F$、公理図式 (A1)〜(A3) の実例の全体を $A$、前件肯定(MP)を唯一の規則とする形式体系である。論理式であるかどうか、公理図式の実例であるかどうかは、記号列の形を調べて判定できる。
  2. 一階の理論。 可算な一階言語 $L$(記号は上の約束で並べておく)と $L$ の文の決定可能な集合 $T$ をとる。一階論理の証明体系 の体系 $\mathbf H$ の論理公理の集合 $\Lambda$ に $T$ を加えた $A:=\Lambda\cup T$ を公理とし、MP を規則とする形式体系 $S_T$ の定理は、$T\vdash\varphi$ となる論理式 $\varphi$ にほかならない($T$ を前提とする $\mathbf H$ の導出は、$S_T$ の導出と同じ列である)。$T$ が決定可能でないと、$A$ は一般には決定可能でなく、この記事の定義の形式体系にならないことがある。
  3. 算術と集合論。 Peano算術 は、有限個の公理と帰納法の公理図式の実例からなり、与えられた文が公理かどうかは形を調べて判定できる(OLT26 Example 33.10、p. 526)。ZFC公理系 の分出と置換の公理図式も同じである。したがってどちらも 2 の意味の形式体系を与える。

性質

定理の全体の特徴づけ

定理の全体は規則で閉じた最小の集合

形式体系 $S=(\Sigma,F,A,R)$ と $\Gamma\subset F$ について、$\{\varphi\mid\Gamma\vdash_S\varphi\}$ は、$A\cup\Gamma$ を含み推論規則で閉じた($\varphi_1,\dots,\varphi_k\in X$ かつ $(\varphi_1,\dots,\varphi_k;\psi)\in\rho\in R$ なら $\psi\in X$)$F$ の部分集合 $X$ のうちで最小のものである。

導出をつなぐ向きと、行に沿った帰納法の向き

$Y:=\{\varphi\mid\Gamma\vdash_S\varphi\}$ とおく。$A\cup\Gamma$ の元は 1 行の導出をもつので $Y$ に属する。$\varphi_1,\dots,\varphi_k\in Y$ で $(\varphi_1,\dots,\varphi_k;\psi)\in\rho$ なら、$\varphi_1,\dots,\varphi_k$ の導出を順に並べ、最後に $\psi$ を書いた列は導出である($\psi$ の行は、前にある $\varphi_1,\dots,\varphi_k$ の行から $\rho$ で得られる)。よって $Y$ は規則で閉じている。
逆に $X$ が $A\cup\Gamma$ を含み規則で閉じているとする。$\Gamma$ からの導出 $\psi_1,\dots,\psi_n$ の各行が $X$ に属することを $i$ に関する帰納法で示す。$\psi_i\in A\cup\Gamma$ なら $\psi_i\in X$ である。$\psi_i$ が前の行 $\psi_{j_1},\dots,\psi_{j_k}$ から規則で得られるなら、帰納法の仮定によりそれらは $X$ に属し、$X$ は規則で閉じているので $\psi_i\in X$ である。よって $Y\subset X$ である。$\square$

この命題から、不変量による非導出性の判定 が得られる。論理式の性質 $P$ が、すべての公理と $\Gamma$ の元で成り立ち、各推論規則で前提から結論へ受け継がれるなら、$P$ をもつ論理式の全体は $A\cup\Gamma$ を含み規則で閉じているので、$\Gamma$ から導出できる論理式はすべて $P$ をもつ。thm-formal-system-dyck の前半はこの使い方であり、一階論理の証明体系 の記事の定理「健全性定理」も、$P$ を「与えられた構造と割り当てのもとで真」にとった同じ形の議論である。

定理の全体は帰納的可算

定理の全体は帰納的可算

形式体系 $S=(\Sigma,F,A,R)$ と帰納的可算な $\Gamma\subset F$ について、$\{\varphi\mid\Gamma\vdash_S\varphi\}$ は帰納的可算である。とくに $\operatorname{Thm}(S)$ は帰納的可算である。

有限列をすべて並べて検査する

$\Gamma$ の元を、ある計算可能な手順で $\gamma_0,\gamma_1,\gamma_2,\dots$ と書き出せるとする($\Gamma=\emptyset$ の場合は下の手順で前提を使わないだけである。帰納的可算集合 の定理「帰納的可算集合の言い換え」の 1 と 2 の同値性)。$\Sigma^*$ の元の有限列 $(w_1,\dots,w_n)$ と自然数 $m$ の組を、すべて漏れなく 1 つずつ並べる(記号が可算個で番号から求まるので、組の全体も符号化により自然数で番号付けられる)。各組について、次を検査する。

  1. 各 $w_i$ が $F$ に属するか($F$ は決定可能)。
  2. 各 $w_i$ について、$w_i\in A$ であるか($A$ は決定可能)、$w_i$ が $\gamma_0,\dots,\gamma_m$ のどれかに等しいか、またはある $\rho\in R$ と $i$ より前の行の組 $(w_{j_1},\dots,w_{j_k})$ について $(w_{j_1},\dots,w_{j_k};w_i)\in\rho$ であるか。$R$ は有限で、各 $\rho$ について前の行の組は有限個しかなく、各 $\rho$ は決定可能なので、この検査は有限の手順で終わる。
    検査に通った組について最後の行 $w_n$ を書き出す。導出の各行で前提として使った $\Gamma$ の元は有限個なので、ある $m$ でそれらがすべて $\gamma_0,\dots,\gamma_m$ に現れる。したがって $\Gamma\vdash_S\varphi$ ならば、$\varphi$ を最後の行とする導出と十分大きい $m$ の組が検査に通り、$\varphi$ が書き出される。逆に書き出されるのは導出の最後の行だけである。こうして $\{\varphi\mid\Gamma\vdash_S\varphi\}$ を計算可能な手順で書き出せた(この集合は $A\cup\Gamma$ が空でなければ空でなく、空なら導出は存在しない)。符号化すると、この集合は「$\varphi$ を最後の行とする組が検査に通る」という決定可能な関係の射影なので、帰納的可算集合 の定理「帰納的可算集合の言い換え」の 4 により帰納的可算である。$\square$

一階の理論についての同じ主張は OLT26 Lemma 36.7(p. 576)にある。この定理は「定理を 1 つずつ書き出す手順」を与えるが、与えられた論理式が定理でないときに有限時間でそう答える手順は与えない。実際、定理の全体が決定可能でない形式体系がある。一階述語論理の妥当な文の全体は帰納的可算だが、文が妥当かどうかを常に判定する手順は存在しない(一階論理の証明体系 の注意「導出の列挙と決定不能性」、Zac25 Theorem 15.16、p. 329。この記事では証明しない)。したがって、そこで使われる言語の体系 $\mathbf H$ の定理の全体は決定可能でない。一方、thm-formal-system-dyck の体系 $D$ では定理の全体は決定可能である。

公理の取り替え

ex-formal-system-logic の 2 では、公理に加える $T$ が決定可能であることを要求した。次の定理は、$T$ が帰納的可算でありさえすれば、同じ定理を与える決定可能な公理の集合が見つかることを示す。以下、言語 $L$ は可算で、記号は上の約束で並べておく。$\varphi\land\psi$ は $\lnot(\varphi\to\lnot\psi)$ の略記である(一階論理の証明体系 の節「言語と意味」)。

帰納的可算な公理の集合は決定可能な公理の集合に取り替えられる

$T$ を $L$ の文の帰納的可算な集合とする。このとき $L$ の文の決定可能な集合 $T'$ で、すべての論理式 $\varphi$ について $T\vdash\varphi\iff T'\vdash\varphi$ となるものがある($\vdash$ は体系 $\mathbf H$ の導出可能性)。

文を何回も重ねて、書き出された時刻を形に刻む

$T=\emptyset$ なら $T'=\emptyset$ でよい。$T\ne\emptyset$ なら、帰納的可算集合 の定理「帰納的可算集合の言い換え」の 2 により、計算可能な写像 $n\mapsto\sigma_n$ で $T=\{\sigma_n\mid n\in\mathbb N\}$ となるものがある。文 $\sigma$ と $n\ge0$ について、$\sigma$ を $n+1$ 個左から順に $\land$ で結んだ文を
$$ \sigma^{(0)}:=\sigma,\qquad\sigma^{(n+1)}:=\bigl(\sigma^{(n)}\land\sigma\bigr) $$
で定め、$T':=\{\sigma_n^{(n)}\mid n\in\mathbb N\}$ とおく。
$T'$ は決定可能である。 文 $\psi$ が与えられたとする。$\sigma^{(n)}$ の長さは $n$ とともに増えるので、$\psi=\sigma^{(n)}$ となりうる $n$ は $\psi$ の長さ以下である。各 $n$ について、$\psi$ が $\sigma^{(n)}$ の形かどうかは、外側から $\lnot(\ \cdot\ \to\lnot\ \cdot\ )$ の形をはがしていけば判定でき、その形ならはがし方は 1 通りで $\sigma$ も 1 つに決まる(論理式 の定理「一意読み取り」)。その $\sigma$ と $\sigma_n$ を計算して比べればよい。調べる $n$ は有限個なので、この手順は必ず終わる。
定理は同じである。 各 $n$ で、$\sigma_n^{(n)}$ と $\sigma_n$ はどの構造でも真偽が一致するので、$\{\sigma_n\}\models\sigma_n^{(n)}$ かつ $\{\sigma_n^{(n)}\}\models\sigma_n$ である。文の間では健全性と完全性により $\models$ と $\vdash$ が一致する(Gödelの完全性定理)ので、$\{\sigma_n\}\vdash\sigma_n^{(n)}$ かつ $\{\sigma_n^{(n)}\}\vdash\sigma_n$ である。よって $T$ から $T'$ のすべての元が、$T'$ から $T$ のすべての元が導出でき、一階論理の証明体系 の命題「導出可能性の基本性質」の 4(推移性)により、$T\vdash\varphi$ と $T'\vdash\varphi$ は同値である。$\square$

$T'$ は「$\sigma_n$ が $n$ 番目に書き出された」ことを、文を重ねる回数 $n$ として文の形に書き込んでいる。そのため、$\psi$ が $T'$ に属するかを調べるときは、書き出しの手順を $n$ 段まで動かせば足り、終わらない探索が起きない。この定理と thm-formal-system-re を合わせると、可算言語の理論 $T$ について次の 3 つは同値である:決定可能な公理系をもつ(決定可能な理論 の定義の意味で公理化可能)、帰納的可算な公理系をもつ、$\{\varphi\mid T\vdash\varphi\}$ が帰納的可算である。
完全な理論については、さらに強いことがいえる。決定可能な公理系をもつ完全な理論は決定可能である(完全な理論 の定理「決定可能な公理系をもつ完全な理論は決定可能」、OLT26 Lemma 36.8、p. 576)。$\varphi$ と $\lnot\varphi$ のどちらかが必ず書き出されるので、thm-formal-system-re の手順を待てば答えが出るからである。

反例:条件を外すと成り立たない

以下、$K$ は自己停止集合(停止問題 の定義「停止問題」)、$\star^m$ は記号 $\star$ を $m$ 個並べた文字列とする。

外す条件反例成り立たなくなること
公理の集合が決定可能(def-formal-system-main の 3)$\Sigma=\{\star\}$、$F=\Sigma^*\setminus\{\varepsilon\}$、公理 $\{\star^{n+1}\mid n\notin K\}$、規則なし定理の全体が帰納的可算(thm-formal-system-re)
推論規則が決定可能(def-formal-system-main の 4)同じ $\Sigma,F$、公理 $\{\star\}$、規則 $\{(\star;\,\star^{n+2})\mid n\notin K\}$定理の全体が帰納的可算(thm-formal-system-re)
体系 $D$ が規則 (R2) をもつ(thm-formal-system-dyck)$D$ から (R2) を除いた体系 $D_1$定理の全体が空でない対応のとれた文字列の全体に等しいこと
公理に加える文の集合が帰納的可算(thm-formal-system-craig)定数記号 $0$、1 項関数記号 $s$、1 項関係記号 $P$ の言語と $T=\{P(s^n0)\mid n\notin K\}$同じ定理を与える決定可能な $T'$ が存在すること
表の確かめ

1 行目:規則がないので、prop-formal-system-inductive により定理の全体は公理の集合そのものである。これが帰納的可算なら、$n\notin K\iff\star^{n+1}$ が定理、により $\mathbb N\setminus K$ が帰納的可算になり、帰納的可算集合 の系「補集合が帰納的可算でない集合」に反する。
2 行目:prop-formal-system-inductive により定理の全体は $\{\star\}\cup\{\star^{n+2}\mid n\notin K\}$ である(この集合は $\star$ を含み規則で閉じており、規則の結論はすべてこの集合に入る)。1 行目と同じく、これは帰納的可算でない。
3 行目:$\{a^nb^n\mid n\ge1\}$ は $ab$ を含み、(R1) で $a^nb^n\mapsto a^{n+1}b^{n+1}$ と閉じているので、prop-formal-system-inductive により $D_1$ の定理はすべてこの形である。$abab$ は対応がとれているが、この形でないので $D_1$ の定理でない。
4 行目:$s^n0$ は $0$ に $s$ を $n$ 回施した項である。$n\notin K$ なら $P(s^n0)\in T$ なので $T\vdash P(s^n0)$ である。$n\in K$ なら、台集合 $\mathbb N$、$0$ を $0$、$s$ を $m\mapsto m+1$、$P$ を $\mathbb N\setminus K$ と解釈した構造は $T$ を満たし $P(s^n0)$ を偽にするので、健全性(一階論理の証明体系 の定理「健全性定理」)により $T\not\vdash P(s^n0)$ である。決定可能な $T'$ で定理が同じものがあれば、thm-formal-system-re により $\{n\mid T\vdash P(s^n0)\}=\mathbb N\setminus K$ が帰納的可算になり、矛盾する。$n\mapsto P(s^n0)$ は計算可能なので、この帰着は正当である。

補足

  • 不完全性定理。 算術の言語の理論で、Peano算術 の公理をすべて含み、無矛盾で、決定可能な公理系をもつものには、その文自身も否定も定理でない文がある(Gödelの不完全性定理)。形式体系の言葉でいえば、このような形式体系は、算術の文について「定理か、否定が定理か」を決め尽くせない。公理系が決定可能という仮定は外せない。標準モデルで真な文の全体(真の算術)は無矛盾で完全だが、決定可能な公理系をもたない(決定可能な理論 の系「真の算術は公理化可能でない」)。
  • 木で書く体系。 自然演繹 や シーケント計算 では導出を論理式の列でなく木として書く。シーケント(仮定の有限列と結論の組)を論理式とみなし、各規則を「上のシーケントから下のシーケントを得る」規則と読めば、これもこの記事の意味の形式体系である。導出の木を、葉から順に節点を並べた列に書き直せば、列としての導出が得られる。
  • 文法。 句構造言語 の文法は、1 個の前提から書き換えで 1 個の結論を得る規則だけをもつ形式体系とみなせる。生成される言語は、定理のうち終端記号だけからなるものの全体である。

関連項目

参考文献

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