佐藤–Tate予想(Sato–Tate conjecture)とは、代数体上の虚数乗法をもたない楕円曲線 $E$ について、良い還元の素イデアル $v$ での Frobenius の跡を $a_v=2\sqrt{q_v}\cos\theta_v$($0\le\theta_v\le\pi$)と書いたとき、角 $\theta_v$ が測度 $\frac{2}{\pi}\sin^2\theta\,d\theta$ に関して一様分布するという主張である。この測度は $\mathrm{SU}(2)$ の Haar 測度を共役類の空間に押し出したものであり、一様分布は Chebyshev 多項式 $U_m$($m\ge1$)の値の平均がすべて $0$ に収束することと同値である。虚数乗法をもつ曲線では成り立たず、総実体上と CM 体上の曲線では証明されている。
有理数体上の楕円曲線 $E$ を素数 $p$ で還元すると、良い還元の素数では有限体 $\mathbb{F}_p$ 上の楕円曲線が得られ、その点の個数は $\#\tilde E(\mathbb{F}_p)=p+1-a_p$ と書ける。Hasseの定理(楕円曲線) により $\lvert a_p\rvert\le2\sqrt p$ なので、$a_p=2\sqrt p\cos\theta_p$ をみたす角 $\theta_p\in[0,\pi]$ がただ 1 つ定まる。$p$ を動かしたときこの角がどう分布するかを述べたのが 佐藤–Tate予想(Sato–Tate conjecture)である。$E$ が虚数乗法をもたないなら、$\theta_p$ は確率測度
$$
\mu_{\mathrm{ST}}=\frac{2}{\pi}\sin^2\theta\,d\theta
$$
に従って分布する、と予想する。角は $\pi/2$ の近くに多く、$0$ と $\pi$ の近く($a_p$ が $\pm2\sqrt p$ に近い素数)は少ない。
この測度は、特殊ユニタリ群 $\mathrm{SU}(2)$ の Haar測度 を共役類の空間 $[0,\pi]$ に押し出したものである(thm-st-haar)。正規化した Frobenius の固有値 $e^{\pm i\theta_p}$ は $\mathrm{SU}(2)$ の共役類を 1 つ定めるので、予想は「Frobenius の共役類が $\mathrm{SU}(2)$ の中で一様に分布する」と言い換えられる。この記事では、この言い換えと、Chebyshev 多項式による判定法(thm-st-criterion)、モーメントが Catalan 数になること(cor-st-moments)を証明し、虚数乗法をもつ曲線 $y^2=x^3-x$ では予想の結論が成り立たないこと(prop-st-cm)を示す。予想は総実体上と CM 体上の楕円曲線(虚数乗法をもたないもの)について証明されている。どの場合に証明されているかは節「知られている場合」にまとめる。
名前は佐藤幹夫(Mikio Sato, 1928–2023)と J. Tate による。佐藤は 1963 年 3 月に、虚数乗法をもたない曲線の $\theta_p$ が $\frac{2}{\pi}\sin^2\theta$ の密度に従うらしいことを数値計算で見つけた。Tate は 1963 年 12 月に代数的サイクルとゼータ関数の極についての予想(Tate予想)を発表し、これを楕円曲線の冪 $E^n$ に当てはめて、予想と整合する対称な分布はこの密度しかないことを発見的に導いた。Serre はこの議論を厳密に扱い、主張を佐藤–Tate 予想と呼んだ(Mil21 Aside IV.9.5, p. 150)。
$K$ を代数体、$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$S$ を $E$ が悪い還元をもつ $K$ の素イデアルの集合(有限集合)とする。$v\notin S$ について、剰余体を $k(v)$、その元の個数を $q_v$、還元を $\tilde E_v$ とし、
$$
a_v:=q_v+1-\#\tilde E_v(k(v))
$$
とおく。Hasseの定理(楕円曲線) により $\lvert a_v\rvert\le2\sqrt{q_v}$ なので、
$$
\frac{a_v}{2\sqrt{q_v}}=\cos\theta_v,\qquad 0\le\theta_v\le\pi
$$
をみたす $\theta_v$ がただ 1 つある。これを $v$ での Frobenius 角という。$x\ge2$ について $\pi_{K,S}(x):=\#\{v\notin S\mid q_v\le x\}$ とおく。
$T$ を $K$ の素イデアルの有限集合、$(\theta_v)_{v\notin T}$ を $[0,\pi]$ の点の族、$\mu$ を $[0,\pi]$ 上の Borel 確率測度とする。$[0,\pi]$ 上のすべての実数値連続関数 $f$ について
$$
\lim_{x\to\infty}\frac{1}{\pi_{K,T}(x)}\sum_{v\notin T,\ q_v\le x}f(\theta_v)=\int_{[0,\pi]}f\,d\mu
$$
が成り立つとき、$(\theta_v)$ は $\mu$ に関して 一様分布する(equidistributed)という。
有限個の $v$ を族から除いても、加えても、この性質は変わらない($\pi_{K,T}(x)\to\infty$ で、有限個の項は平均に影響しない)。$\mu$ が連続な密度をもつときは、連続関数の代わりに区間で言い換えられる。
$\mu=\rho(\theta)\,d\theta$($\rho\ge0$ は $[0,\pi]$ 上の連続関数)とする。$(\theta_v)$ が $\mu$ に関して一様分布することと、すべての $0\le\alpha\le\beta\le\pi$ について
$$
\lim_{x\to\infty}\frac{\#\{v\notin T\mid q_v\le x,\ \alpha\le\theta_v\le\beta\}}{\pi_{K,T}(x)}=\int_\alpha^\beta\rho(\theta)\,d\theta
$$
が成り立つことは同値である。
要点:区間の指示関数を、積分の差が小さい 2 つの連続関数で上下から挟む。逆向きは、連続関数を階段関数で一様に近似する。
平均を $A_x(f):=\pi_{K,T}(x)^{-1}\sum_{q_v\le x}f(\theta_v)$ と書く。$A_x$ は線形で、$f_1\le f_2$ なら $A_x(f_1)\le A_x(f_2)$ である。$M:=\max\rho$ とする。
一様分布を仮定し、$I=[\alpha,\beta]$、$\varepsilon>0$ をとる。$g$ を、$I$ の外で $0$、$[\alpha+\varepsilon,\beta-\varepsilon]$ で $1$、その間で 1 次式の連続関数とする($\beta-\alpha<2\varepsilon$ なら $g=0$)。$h$ を、$I$ で $1$、$[\alpha-\varepsilon,\beta+\varepsilon]$ の外で $0$、その間で 1 次式の連続関数とする($[0,\pi]$ に制限する)。$g\le1_I\le h$ で、$h-g$ は長さ $4\varepsilon$ 以下の集合の外で $0$、値は $1$ 以下だから $\int(h-g)\,d\mu\le4M\varepsilon$ である。よって$$\int g\,d\mu=\lim A_x(g)\le\liminf A_x(1_I)\le\limsup A_x(1_I)\le\lim A_x(h)=\int h\,d\mu$$で、両端は $\mu(I)$ と $4M\varepsilon$ 以内で一致する。$\varepsilon$ は任意なので $A_x(1_I)\to\mu(I)$ である。
逆に区間で成り立つとし、$f$ を連続関数、$\varepsilon>0$ とする。$f$ は一様連続なので、$[0,\pi]$ を有限個の区間 $I_1,\dots,I_r$(端点を共有するものは一方に寄せて互いに交わらないようにする。半開区間の値は閉区間と 1 点の差で、1 点 $\{\gamma\}=[\gamma,\gamma]$ の割合は $\int_\gamma^\gamma\rho=0$ に収束する)に分け、階段関数 $s=\sum_jf(\gamma_j)1_{I_j}$($\gamma_j\in I_j$)が $\lvert f-s\rvert\le\varepsilon$ をみたすようにできる。$A_x(s)\to\int s\,d\mu$ であり、$\lvert A_x(f)-A_x(s)\rvert\le\varepsilon$、$\lvert\int f\,d\mu-\int s\,d\mu\rvert\le\varepsilon$ なので、$\limsup\lvert A_x(f)-\int f\,d\mu\rvert\le2\varepsilon$ である。$\square$
$[0,\pi]$ 上の確率測度 $\mu_{\mathrm{ST}}:=\frac{2}{\pi}\sin^2\theta\,d\theta$ を 佐藤–Tate 測度(Sato–Tate measure)という。
$\int_0^\pi\sin^2\theta\,d\theta=\pi/2$ なので全測度は $1$ である。$E$ が 虚数乗法をもつとは、$\bar K$ 上の自己準同型環 $\operatorname{End}_{\bar K}(E)$ が $\mathbb{Z}$ より大きいことをいう(虚数乗法)。
$K$ 上の楕円曲線 $E$ が虚数乗法をもたないなら、Frobenius 角の族 $(\theta_v)_{v\notin S}$ は $\mu_{\mathrm{ST}}$ に関して一様分布する。
この形は Sil09 Conjecture C.21.1(p. 458)であり、lem-st-intervals によりそこでの区間の形と同じである。$x_v:=\cos\theta_v=a_v/(2\sqrt{q_v})\in[-1,1]$ に移すと測度は $\frac{2}{\pi}\sqrt{1-t^2}\,dt$ に、$2\cos\theta_v=a_v/\sqrt{q_v}\in[-2,2]$ に移すと半円の密度 $\frac{1}{2\pi}\sqrt{4-t^2}\,dt$ になる(BLGHT11 Corollary 8.9, p. 96 は前者、Sil09 Remark C.21.3, p. 459 は後者の形で述べる)。
$\mathrm{SU}(2)$ はコンパクト群なので、全測度 $1$ の左 Haar 測度 $\mu_H$ がただ 1 つある(Haar測度 の定理「コンパクト群のHaar測度の存在」と定理「コンパクト群のHaar測度の一意性」)。共役類の空間は区間 $[0,\pi]$ と同一視でき、$\mu_H$ をそこへ押し出すと佐藤–Tate 測度になる。
要点:1 はユニタリ行列の対角化である。2 では $\mathrm{SU}(2)$ を 3 次元球面 $S^3$ と見ると、左からの積は $\mathbb{R}^4$ の直交変換なので球面の面積測度が Haar 測度になり、跡は 1 つの座標の 2 倍になる。球面座標で面積要素は $\sin^2\theta\,d\theta\,d\sigma_2$ である。
1:$g$ はユニタリなので、ユニタリ行列 $U$ で $U^{-1}gU$ が対角行列になる。$\lambda^2=\det U^{-1}$ となる複素数 $\lambda$($\lvert\lambda\rvert=1$)で $U$ を $\lambda U$ に替えれば $U\in\mathrm{SU}(2)$ としてよい。固有値は絶対値 $1$ で積が $\det g=1$ だから $e^{i\theta}$、$e^{-i\theta}$ と書け、$w=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}\in\mathrm{SU}(2)$ による共役で 2 つの対角成分を入れ替えられるので $\theta\in[0,\pi]$ にとれる。$\operatorname{tr}g=2\cos\theta$ で、$\cos$ は $[0,\pi]$ で単射なので $\theta$ は $g$ から決まる。
2:特殊ユニタリ群 の例「次数の低い特殊ユニタリ群」の 2 により、$g=\begin{pmatrix}a&-\bar b\\b&\bar a\end{pmatrix}$ を第 1 列 $(a,b)\in\mathbb{C}^2=\mathbb{R}^4$ に写す写像は $\mathrm{SU}(2)$ から単位球面 $S^3$ への同相である。$h\in\mathrm{SU}(2)$ について $hg$ の第 1 列は $h\,(a,b)^{\mathsf T}$ で、$h$ は $\mathbb{C}^2$ のユニタリ変換、したがって $\mathbb{R}^4$ の直交変換である。直交変換は $S^3$ の面積測度 $\sigma$ を保つので、$\sigma/\sigma(S^3)$ は左不変な Borel 確率測度であり、一意性から $\mu_H=\sigma/\sigma(S^3)$ である。
$a=x_0+ix_1$ と書くと $\operatorname{tr}g=a+\bar a=2x_0$ なので、1 から $\cos\theta(g)=x_0$ である。$\Phi(\theta,\omega):=(\cos\theta,\ \sin\theta\,\omega)$($0<\theta<\pi$、$\omega\in S^2\subset\mathbb{R}^3$)は $S^3$ から 2 点 $(\pm1,0,0,0)$ を除いた集合への微分同相で、$\theta(\Phi(\theta,\omega))=\theta$ である。$\partial_\theta\Phi=(-\sin\theta,\cos\theta\,\omega)$ は長さ $1$ で、$\omega$ の方向の接ベクトル $t\in T_\omega S^2$ は $(0,\sin\theta\,t)$ に写る。$\langle\omega,t\rangle=0$ なのでこれらは $\partial_\theta\Phi$ と直交し、$S^2$ の方向は $\sin\theta$ 倍に伸びる。よって面積要素は $d\sigma=\sin^2\theta\,d\theta\,d\sigma_2(\omega)$($\sigma_2$ は $S^2$ の面積測度、$\sigma_2(S^2)=4\pi$)で、$$\sigma(\{\theta(g)\in A\})=4\pi\int_A\sin^2\theta\,d\theta,\qquad\sigma(S^3)=4\pi\cdot\frac{\pi}{2}=2\pi^2$$である(2 点は測度 $0$)。比をとって $\mu_H(\{\theta(g)\in A\})=\frac{2}{\pi}\int_A\sin^2\theta\,d\theta$ を得る。$\square$
楕円曲線とのつながりは次のとおりである。$v\notin S$ について $\alpha_v,\beta_v$ を $T^2-a_vT+q_v$ の 2 根とすると、有限体上の楕円曲線 の定理「Frobeniusの特性多項式」の 2 により $\alpha_v,\beta_v$ は互いに複素共役で絶対値 $\sqrt{q_v}$ をもち、$\alpha_v/\sqrt{q_v}=e^{\pm i\theta_v}$ である。$T^2-a_vT+q_v$ は、素数 $\ell$ を $q_v$ と素にとったときの $\ell$ 進表現 $\rho_\ell\colon\operatorname{Gal}(\bar K/K)\to\mathrm{GL}_2(\mathbb{Q}_\ell)$ での Frobenius 元の固有多項式でもある(跡が $a_v$、行列式が $q_v$。Sil09 Remark C.21.3, p. 459。表現は Galois表現 の例「楕円曲線の $\ell$ 進表現」)。したがって $\rho_\ell(\mathrm{Frob}_v)/\sqrt{q_v}$ は(係数を $\mathbb{C}$ に移して)$\mathrm{SU}(2)$ の元に共役で、その共役類が $\theta_v$ である。thm-st-haar により、佐藤–Tate 予想は「$\rho_\ell(\mathrm{Frob}_v)/\sqrt{q_v}$ の共役類が $\mathrm{SU}(2)$ の Haar 測度に関して一様分布する」ことと同じである(Sil09 Remark C.21.3, p. 459)。
$m\ge0$ について
$$
U_m(\theta):=\frac{\sin((m+1)\theta)}{\sin\theta}=\sum_{j=0}^me^{i(m-2j)\theta}\qquad(0<\theta<\pi)
$$
とおき、$\theta=0,\pi$ では連続に延ばす(値は $(\pm1)^m(m+1)$)。右辺は $\operatorname{diag}(e^{i\theta},e^{-i\theta})$ の $m$ 次対称冪 $\operatorname{Sym}^m$ の跡であり、$U_m$ は $\mathrm{SU}(2)$ の $m+1$ 次元既約表現の指標を $[0,\pi]$ 上の関数と見たものである(Peter–Weylの定理)。等式 $\sin((m+2)\theta)+\sin(m\theta)=2\sin((m+1)\theta)\cos\theta$ から
$$
U_0=1,\qquad U_1=2\cos\theta,\qquad U_{m+1}=2\cos\theta\,U_m-U_{m-1}
$$
が成り立つ。よって $U_m$ は $\cos\theta$ の $m$ 次多項式で、最高次の係数は $2^m$ である(第 2 種の Chebyshev 多項式。Chebyshev多項式 の第 1 種と同じ漸化式をもつ)。
$m,n\ge0$ について $\int_0^\pi U_mU_n\,d\mu_{\mathrm{ST}}=\delta_{mn}$ である。とくに $m\ge1$ なら $\int U_m\,d\mu_{\mathrm{ST}}=0$ である。
$\int U_mU_n\,d\mu_{\mathrm{ST}}=\frac{2}{\pi}\int_0^\pi\sin((m+1)\theta)\sin((n+1)\theta)\,d\theta$ であり、積和の公式から右辺は $m\ne n$ で $0$、$m=n$ で $\frac{2}{\pi}\cdot\frac{\pi}{2}=1$ である。後半は $n=0$($U_0=1$)の場合である。$\square$
$(\theta_v)_{v\notin T}$ を $[0,\pi]$ の点の族とする。$(\theta_v)$ が $\mu_{\mathrm{ST}}$ に関して一様分布することと、すべての $m\ge1$ について
$$
\lim_{x\to\infty}\frac{1}{\pi_{K,T}(x)}\sum_{v\notin T,\ q_v\le x}U_m(\theta_v)=0
$$
が成り立つことは同値である。
$U_m$ は連続なので、一様分布なら平均は $\int U_m\,d\mu_{\mathrm{ST}}=0$(lem-st-orthonormal)に収束する。
逆を示す。平均を $A_x(f)$ と書く。$U_0,\dots,U_m$ は $\cos\theta$ の次数がちょうど $0,\dots,m$ の多項式なので、$\cos\theta$ の $m$ 次以下の多項式 $P(\cos\theta)$ はそれらの 1 次結合で書ける。仮定と $A_x(U_0)=1=\int U_0\,d\mu_{\mathrm{ST}}$ から、すべての多項式 $P$ について $A_x(P(\cos\theta))\to\int P(\cos\theta)\,d\mu_{\mathrm{ST}}$ である。
$f$ を $[0,\pi]$ 上の連続関数、$\varepsilon>0$ とする。$\cos$ は $[0,\pi]$ から $[-1,1]$ への同相写像なので、$g(t):=f(\arccos t)$ は $[-1,1]$ 上連続であり、Weierstrassの近似定理 により $\lvert g(t)-P(t)\rvert\le\varepsilon$($t\in[-1,1]$)となる多項式 $P$ がある。$t=\cos\theta$ とすると $\lvert f(\theta)-P(\cos\theta)\rvert\le\varepsilon$ である。よって
$$
\Bigl\lvert A_x(f)-\int f\,d\mu_{\mathrm{ST}}\Bigr\rvert\le\varepsilon+\Bigl\lvert A_x(P(\cos\theta))-\int P(\cos\theta)\,d\mu_{\mathrm{ST}}\Bigr\rvert+\varepsilon
$$
で、右辺の中央の項は $0$ に収束する。$\varepsilon$ は任意なので $A_x(f)\to\int f\,d\mu_{\mathrm{ST}}$ である。$\square$
$m=1$ の条件は $\sum_{q_v\le x}a_v/\sqrt{q_v}=o(\pi_{K,S}(x))$ である。$m\ge2$ の条件は、$a_v$ の冪の平均についての主張に書き直せる。
$k\ge0$ について
$$
\int_0^\pi(2\cos\theta)^{2k}\,d\mu_{\mathrm{ST}}=\frac{1}{k+1}\binom{2k}{k},\qquad\int_0^\pi(2\cos\theta)^{2k+1}\,d\mu_{\mathrm{ST}}=0
$$
である。右辺の左の値は Catalan数 $C_k$($1,1,2,5,14,\dots$)である。したがって佐藤–Tate 予想が成り立つ曲線では、$(a_v/\sqrt{q_v})^{2k}$ の平均は $C_k$ に収束する。
$h(\theta)=\sum_jc_je^{ij\theta}$ が有限和で $c_{-j}=c_j$ をみたすとき、$\frac1\pi\int_0^\pi h\,d\theta=c_0$ である($\cos(j\theta)$ の積分は $j\ne0$ で $0$)。$\sin^2\theta=\frac14(2-e^{2i\theta}-e^{-2i\theta})$ を掛けると $h\sin^2\theta$ の定数項は $\frac14(2c_0-c_2-c_{-2})=\frac12(c_0-c_2)$ なので、
$$
\int h\,d\mu_{\mathrm{ST}}=\frac2\pi\int_0^\pi h\sin^2\theta\,d\theta=c_0-c_2
$$
である。$h=(e^{i\theta}+e^{-i\theta})^n$ では $c_j$ は $\binom{n}{(n+j)/2}$($n+j$ が偶数のとき)で、他は $0$ である。$n=2k$ なら $c_0-c_2=\binom{2k}{k}-\binom{2k}{k+1}=\binom{2k}{k}\bigl(1-\frac{k}{k+1}\bigr)=\frac{1}{k+1}\binom{2k}{k}$ である。$n$ が奇数なら $c_0=c_2=0$ である。後半は $2\cos\theta_v=a_v/\sqrt{q_v}$ と、$(2\cos\theta)^n$ が連続であることによる。$\square$
$m\ge1$ について、$v\notin S$ での因子を
$$
L_v(\operatorname{Sym}^mE,s):=\prod_{j=0}^m\bigl(1-\alpha_v^{m-j}\beta_v^{\,j}\,q_v^{-s}\bigr)^{-1}
$$
とし、その積を $L_S(\operatorname{Sym}^mE,s)$ とおく。$\lvert\alpha_v^{m-j}\beta_v^j q_v^{-s}\rvert=q_v^{m/2-\operatorname{Re}s}$ なので、積は $\operatorname{Re}s>1+m/2$ で絶対収束する。$\sum_j\alpha_v^{m-j}\beta_v^j=q_v^{m/2}U_m(\theta_v)$ だから、$\log L_S(\operatorname{Sym}^mE,s)$ の主要部は $\sum_vU_m(\theta_v)\,q_v^{m/2-s}$ である。$m=1$ では $L_S(\operatorname{Sym}^1E,s)$ は楕円曲線のL関数から $S$ の因子を除いたものである。虚数乗法をもたない $E$ について、すべての $m\ge1$ で $L_S(\operatorname{Sym}^mE,s)$ が $\operatorname{Re}s\ge1+m/2$ まで正則に延び $0$ にならないなら、thm-st-criterion の条件が成り立ち、佐藤–Tate 予想が従う。これは 素数定理 を $\zeta(s)$ の直線 $\operatorname{Re}s=1$ 上の非零性から導く議論(Wiener–Ikeharaの定理)と同じ型のタウバー型の議論で、Serre による。この記事では証明しない。BLGHT11 は総実体の場合に $L(\operatorname{Sym}^mE,s)$ の延長と非零性を示し(Corollary 8.8, p. 95)、この議論で予想を導いている(Corollary 8.9 とその証明, p. 96)。
予想の仮定「虚数乗法をもたない」は外せない。たとえば有理数体上の虚数乗法をもつ曲線 $y^2=x^3-x$ では、半分の素数で $a_p=0$ となり、角が $\pi/2$ に集中する。
$E\colon y^2=x^3-x$ を有理数体上の楕円曲線とする(判別式は $64$ で、悪い還元の素数は $2$ だけ)。
1:$i=\sqrt{-1}\in\bar{\mathbb{Q}}$ について $[i](x,y):=(-x,iy)$ とおくと、$(iy)^2=-(x^3-x)=(-x)^3-(-x)$ なので $[i]$ は $E$ の自己準同型で、$[i]\circ[i]=[-1]$ である。$\operatorname{End}_{\bar{\mathbb{Q}}}(E)=\mathbb{Z}$ なら $[i]=[n]$($n\in\mathbb{Z}$)で $n^2=-1$ となり矛盾するので、$\operatorname{End}_{\bar{\mathbb{Q}}}(E)\supsetneq\mathbb{Z}$ である。
2:有限体上の楕円曲線 の例「$p\equiv3\pmod4$ での $y^2=x^3-x$」である($\chi$ を Legendre 記号とすると $\#E(\mathbb{F}_p)=p+1+\sum_x\chi(x^3-x)$ で、$x\mapsto-x$ と $\chi(-1)=-1$ から和は $0$)。
3:$\vartheta(x):=\sum_{p\le x,\ p\equiv3\ (4)}\log p$ とおくと $\vartheta(x)\le\log x\cdot\#\{p\le x\mid p\equiv3\pmod4\}$ である。$\psi(x;4,3)=\sum_{n\le x,\ n\equiv3\ (4)}\Lambda(n)$ との差は $k\ge2$ の素数冪 $p^k\le x$ からの寄与で、その個数は $\sqrt x\log_2x$ 以下、各項は $\log x$ 以下なので $o(x)$ である。Siegel–Walfiszの定理 の系「対数の冪の誤差と指標の和」の 1($q=4$、$a=3$)により $\psi(x;4,3)\sim x/2$ だから $\vartheta(x)\sim x/2$ である。素数定理 により $\pi(x)\sim x/\log x$ なので
$$
\frac{\#\{p\le x\mid p\equiv3\ (4)\}}{\pi(x)}\ge\frac{\vartheta(x)}{\log x\cdot\pi(x)}\to\frac12
$$
である。
4:$0<\delta<\pi/2$ について、$f_\delta$ を $\pi/2$ で $1$、$\lvert\theta-\pi/2\rvert\ge\delta$ で $0$、その間で 1 次式の連続関数とする。$0\le f_\delta\le1$ なので $\int f_\delta\,d\mu_{\mathrm{ST}}\le\frac2\pi\cdot2\delta$ で、$\delta<\pi/8$ なら $\frac12$ 未満である。一方 2 から $p\equiv3\pmod4$ では $f_\delta(\theta_p)=1$ で、他の項は $0$ 以上だから、3 により平均の下極限は $\frac12$ 以上である($p=2$ を除くことは極限に影響しない)。よって平均は $\int f_\delta\,d\mu_{\mathrm{ST}}$ に収束しない。$\square$
次の例の表で $y^2=x^3-x$ の列の値は、$\pi/2$ での点の質量 $\frac12$ と $[0,\pi]$ 上の一様分布 $\frac{1}{2\pi}d\theta$ を足した測度のモーメント $\frac12\binom{2k}{k}$($k\ge1$)に近い。
$p<10^5$ の素数(悪い還元の素数を除く)について $a_p$ を数え、$(a_p/\sqrt p)^{2k}$ の平均を計算すると次のようになる(有限の計算であり、極限についての証明ではない)。曲線 $E_{37}\colon y^2+y=x^3-x$ は判別式 $37$、$j$ 不変量 $110592/37$ で、悪い還元の素数は $37$ だけである。
| $2k$ | $E_{37}$ の平均 | $C_k$(cor-st-moments) | $y^2=x^3-x$ の平均 | $\frac12\binom{2k}{k}$ |
|---|---|---|---|---|
| $2$ | $0.996$ | $1$ | $0.998$ | $1$ |
| $4$ | $1.989$ | $2$ | $2.992$ | $3$ |
| $6$ | $4.975$ | $5$ | $9.965$ | $10$ |
| $8$ | $13.945$ | $14$ | $34.860$ | $35$ |
$a_p=0$ となる素数の割合は、$E_{37}$ では $0.32\%$、$y^2=x^3-x$ では $50.1\%$ だった。$[0,\pi]$ を 6 等分した区間に入る $\theta_p$ の割合は $E_{37}$ で $0.029,\ 0.162,\ 0.306,\ 0.305,\ 0.170,\ 0.028$ で、$\mu_{\mathrm{ST}}$ の値 $0.029,\ 0.167,\ 0.304,\ 0.304,\ 0.167,\ 0.029$ に近い。$E_{37}$ の $j$ 不変量は整数でないので、$E_{37}$ については佐藤–Tate 予想は証明されている(Sil09 Theorem C.21.2, p. 459)。
$\Delta(z)=q\prod_{n\ge1}(1-q^n)^{24}=\sum_{n\ge1}\tau(n)q^n$ は重さ $12$ の尖点形式で、Hecke作用素 の同時固有形式である。Deligne の定理により $\lvert\tau(p)\rvert\le2p^{11/2}$ であり(Mil21 Chapter V §4, pp. 198–199)、$\tau(p)/(2p^{11/2})\in[-1,1]$ は $[-1,1]$ 上の測度 $\frac2\pi\sqrt{1-t^2}\,dt$ に関して一様分布する(BLGHT11 Corollary C, p. 32)。楕円曲線でなく尖点形式の係数についての佐藤–Tate 型の定理である。
次の表の主張はこの記事では証明しない。「虚数乗法をもたない」を仮定から外せないことは prop-st-cm で示した。
| 対象 | 主張 | 所在 |
|---|---|---|
| 有理数体上の楕円曲線で $j$ 不変量が整数でないもの | 佐藤–Tate 予想が成り立つ(Clozel・Harris・Shepherd-Barron・Taylor の仕事による Taylor の証明) | Sil09 Theorem C.21.2, p. 459 |
| 総実体上の虚数乗法をもたない楕円曲線 | 佐藤–Tate 予想が成り立つ | BLGHT11 Corollary 8.9, p. 96 |
| CM 体上の虚数乗法をもたない楕円曲線 | 佐藤–Tate 予想が成り立つ | ACC+18 Corollary 7.1.14, p. 202 |
| 重さ $k\ge2$、自明な指標の正規化された新形式 $f=\sum a_nq^n$ で虚数乗法をもたないもの | $p\nmid N$ について $a_p/(2p^{(k-1)/2})$ が $\frac2\pi\sqrt{1-t^2}\,dt$ に関して一様分布する | BLGHT11 Theorem B の 3, pp. 31–32 |
有理数体は総実体なので、2 行目は有理数体上の虚数乗法をもたないすべての楕円曲線を含む。表の 2 行目と 3 行目以外の代数体の上の楕円曲線は、この表の結果には含まれない。いずれの証明も、rem-st-serre の対称冪の L 関数を、有限次拡大の上で保型表現の L 関数として表すこと(潜在的保型性)によっている(BLGHT11 p. 29 の要約と Theorem 8.7, p. 95、ACC+18 Theorem 1.0.1, p. 3)。新形式の指標 $\psi$ が自明でないときは、$\psi(p)$ の値ごとに素数を分けた主張になる(BLGHT11 Theorem B の 3)。
曲線を固定せず、素数 $p$ を固定して $\mathbb{F}_p$ 上の楕円曲線の同型類すべてにわたる $a_p(E)$ の角の分布を見ると、$p\to\infty$ で同じ測度 $\mu_{\mathrm{ST}}$ に近づく(Birch の定理。Sil09 Theorem C.21.4, p. 460。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 曲線が虚数乗法をもたない(conj-st-main) | $y^2=x^3-x$ | $\mu_{\mathrm{ST}}$ に関する一様分布 |
| すべての $m\ge1$ で平均が $0$(thm-st-criterion) | すべての $v$ で $\theta_v=\pi/2$ とした族 | $m=1$ の条件だけから一様分布を導くこと |
| 判定に使う関数が連続(def-st-equidistribution) | $E_{37}$ の角の集合 $A=\{\theta_p\}$ の指示関数 $1_A$ | 平均が $\int 1_A\,d\mu_{\mathrm{ST}}$ に収束すること |
1. prop-st-cm の 4 である。
2. $U_1(\pi/2)=2\cos(\pi/2)=0$ なので $m=1$ の平均はつねに $0$ である。一方 $U_2(\pi/2)=\sin(3\pi/2)/\sin(\pi/2)=-1$ なので $m=2$ の平均は $-1$ で、lem-st-orthonormal の値 $0$ と異なる。よってこの族は一様分布しない。
3. $A$ は可算集合なので $\mu_{\mathrm{ST}}(A)=0$($\mu_{\mathrm{ST}}$ は密度をもち、1 点の測度は $0$)だが、すべての $p$ で $1_A(\theta_p)=1$ なので平均は $1$ である。$E_{37}$ が def-st-equidistribution の意味で一様分布しても(Sil09 Theorem C.21.2)、連続でない関数にまで収束を広げることはできない。$\square$
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