米田の補題(∞圏)

同義語:∞圏の米田の補題

概要

米田の補題(∞圏)は、表現可能な空間値前層から任意の空間値前層への自然変換の空間が、表現対象での前層の値と同値になることを述べる。準圏を基本モデルとし、豊穣前層・右ファイブレーションとの対応、通常の米田の補題への帰着を説明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 米田の補題、単体的集合、ホモトピー

動機

通常の米田の補題は、対象を「すべての試験対象からどのような射が入るか」によって捉える。∞圏では、射だけでなく、射の間のホモトピーとその間の高次ホモトピーも観測に含めなければならない。その観測をまとめるのが写像空間である。
米田の補題の∞圏版は、対象 $c$ から作る空間値前層 $y(c)$ と任意の空間値前層 $F$ の間の写像空間が、$F(c)$ と同値になることを述べる。恒等射で評価するという仕組みは通常の補題と同じだが、「一つの要素から一意に自然変換が定まる」は、「一つの点を指定したとき、それを実現する自然変換と整合性の選択の空間が可縮になる」へ強化される。
本記事でいう∞圏は $(\infty,1)$-圏であり、基本モデルを quasicategory(準圏) に固定する。一般の $(\infty,n)$-圏や、非可逆な2射も持つ2圏の米田の補題とは区別する。定理を記述するための定義は以下で与える。一般のモデル圏論は標準的な背景として参照するが、米田評価に実際に使う局所Kan表示、前層比較、写像空間比較、恒等射評価の一致は、同じ写像を保った固定構成として証明中で追跡する。

定義の準備

準圏・空間・写像空間

準圏と空間のモデル

$\Delta$ を有限非空全順序集合 $[n]=\{0,\ldots,n\}$ と順序保存写像の圏とする。単体的集合は関手 $\Delta^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ であり、$\Delta^n$$[n]$ で表現される標準単体を表す。ホーン $\Lambda_i^n\subset\Delta^n$ は、$i$ 番目以外の余次元1の面を合わせた部分単体的集合である。
単体的集合 $\mathcal C$準圏であるとは、$n\geq2$$0< i< n$ に対するすべての写像 $\Lambda_i^n\to\mathcal C$$\Delta^n\to\mathcal C$ に延長できることである。これが内部ホーン充填条件である。対象は頂点、射は辺、合成の整合性は高次の単体に符号化される。充填の一意性は要求しない。
すべての $n\geq1$$0\leq i\leq n$ のホーンを充填できる単体的集合を Kan複体という。本記事では空間をKan複体で表し、空間の同値とは弱ホモトピー同値、すなわち $\pi_0$ とすべての基点での $\pi_n$$n\geq1$)を同型にする写像をいう。可縮な空間とは一点空間と同値な空間である(HTT09 §1.1.2)。

対象 $c,d$ に対する写像空間には複数の同値なモデルがある。本記事で一つの具体的モデルが必要なときは、
$$ \operatorname{Map}^{R}_{\mathcal C}(c,d)_n =\{\sigma:\Delta^{n+1}\to\mathcal C\mid \sigma|_{\Delta^{\{0,\ldots,n\}}}\text{ は }c\text{ で定数},\ \sigma(n+1)=d\} $$
を使う。面・退化は最初の $n+1$ 個の頂点側で誘導する。これはKan複体であり、HTTでは $\operatorname{Hom}^{R}_{\mathcal C}(c,d)$ と記される(HTT09 §1.2.2、命題1.2.2.3)。以下の $\operatorname{Map}_{\mathcal C}(c,d)$ は、このモデルが表す空間を意味する。モデル間の比較を含む式では、単体的集合としての等号ではなく空間の同値 $\simeq$ を用いる。
定数にするのは最初の面の全体であり、頂点の像をすべて $c$ にするだけではない。末尾で定義するスライス $\mathcal C_{/d}\to\mathcal C$ の、定値な $c$ 上の厳密なファイバーがこのモデルである。スライスの射影が右ファイブレーションで、その各ファイバーがKanになることが、ここでのKan性を説明する。
このモデルの頂点は射 $c\to d$ である。連結成分だけを取ると、通常の圏であるホモトピー圏の射集合
$$ \operatorname{Hom}_{h\mathcal C}(c,d)=\pi_0\operatorname{Map}_{\mathcal C}(c,d) $$
になる。$\mathcal C$ の射が同値であるとは、その像が $h\mathcal C$ で同型になることをいう。しかし $h\mathcal C$ は写像空間の高次の情報を失うので、そこで通常の米田の補題を適用するだけでは本記事の定理にはならない。

空間値前層

大きさを明示するため宇宙 $\mathbb U\in\mathbb V$ を固定し、$\mathcal C$$\mathbb U$-小さい準圏とする。$\mathcal S=\mathcal S_{\mathbb U}$$\mathbb U$-小さい空間の∞圏であり、それ自身や前層∞圏はより大きい宇宙 $\mathbb V$ で扱う。
具体的には、$\mathbb U$-小さいKan複体を対象とし、写像単体的集合を
$$ \underline{\operatorname{Map}}(K,L)_n =\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}(K\times\Delta^n,L) $$
とする単体的豊穣圏 $\mathbf{Kan}_{\mathbb U}$ を取る。そのホモトピー整合的脈体 $N_{\mathrm{hc}}(\mathbf{Kan}_{\mathbb U})$$\mathcal S$ のモデルである。$\mathrm{sSet}$ は単体的集合の圏を表す。$L$ がKan複体なので上の写像単体的集合もKan複体となる。$N_{\mathrm{hc}}$ の具体的構成は本記事末尾の補足で与える。

空間値前層とその間の自然変換

空間値前層とは∞関手、すなわち準圏間の単体的写像
$$ F:\mathcal C^{\mathrm{op}}\longrightarrow\mathcal S $$
である。$\mathcal C^{\mathrm{op}}$ は単体の頂点の順序を反転させて作る反対準圏である。前層∞圏を
$$ \mathcal P(\mathcal C):=\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal S) $$
と定める。一般に $\operatorname{Fun}(K,D)$$n$-単体は写像 $K\times\Delta^n\to D$ であり、$D$ が準圏ならこれも準圏となる。
$\mathcal P(\mathcal C)$ の対象は前層、辺 $F\to G$ は自然変換である。自然変換の空間とは二対象間の写像空間 $\operatorname{Map}_{\mathcal P(\mathcal C)}(F,G)$ をいう。成分の写像だけでなく、それらの自然性を実現するホモトピーと全高次の整合性を含む(HTT09 §1.2.7、KerY26 §8.3.1)。

ここでは被覆や位相を指定していないので、前層に層条件は課さない。また自然変換の各成分が同値である必要もない。写像空間は、固定した $F,G$ 間のすべての自然変換を点に持つ空間であって、「自然同値だけの集合」でも「前層∞圏全体の最大部分亜群」でもない。

表現可能前層をどう作るか

米田前層と米田埋め込み

写像空間のホモトピー整合的な双関手
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal C}(-,-): \mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C\longrightarrow\mathcal S $$
を一つ選ぶ。これを第二変数についてまとめた関手
$$ y:\mathcal C\longrightarrow\mathcal P(\mathcal C),\qquad y(c)=\operatorname{Map}_{\mathcal C}(-,c) $$
米田埋め込みという。その値 $y(c)$$c$ が表す前層という。前層 $F$表現可能であるとは、ある $c$ に対し $F\simeq y(c)$ となることである。
$u:x'\to x$ に対する $y(c)$ の作用は前合成 $f\mapsto f\circ u$、射 $v:c\to d$ に対する $y(v)$ の作用は後合成 $f\mapsto v\circ f$ に対応する。ただし準圏では、これらは高次の整合性を含む関手の記述である。各二対象にKan複体を割り当てただけでこの双関手が自動的に定義できたとはしない。

以下では、各HomがKan複体である単体的豊穣圏 $A_{\mathcal C}$ と一つの同値 $\eta_{\mathcal C}:\mathcal C\xrightarrow{\simeq}N_{\mathrm{hc}}A_{\mathcal C}$ を固定する。$A_{\mathcal C}$ の豊穣米田関手を前層∞圏へ送る固定比較 $T_{\mathcal C}$ を用い、
$$ \bar y=N_{\mathrm{hc}}y_{A_{\mathcal C}}\eta_{\mathcal C}, \qquad y_{\mathcal C}=T_{\mathcal C}\bar y $$
と構成したものを、本文の $y$ とする。$T_{\mathcal C}$ の実準逆の変更や、第一変数をこの $y_{\mathcal C}$ に制限した評価源の変更は、後述の意味で自然同値により結ばれる。一方、任意の完全なHom双関手や、その単位点を含むすべての模型の選択が可縮に一意である、という一般化まではここで主張しない。
同じ $y(c)$ には、$c$ に入る射のスライス $\mathcal C_{/c}\to\mathcal C$ を用いる表示もある。これは「射の集まりから前層を作る」道筋であり、末尾で右ファイブレーションとして定義する。

定理

米田の補題(∞圏)

$\mathcal C$$\mathbb U$-小さい準圏、$c\in\mathcal C$$F\in\mathcal P(\mathcal C)$ とする。恒等射 $\operatorname{id}_c\in y(c)(c)$ での評価は空間の同値
$$ \operatorname{ev}_{\operatorname{id}_c}: \operatorname{Map}_{\mathcal P(\mathcal C)}(y(c),F) \xrightarrow{\ \simeq\ }F(c) $$
を与える。これは $c\in\mathcal C^{\mathrm{op}}$$F\in\mathcal P(\mathcal C)$ の両方について自然である(KerY26 命題8.3.1.3の双対、両変数の自然性は KerN26 命題8.4.2.5)。

評価は、まず対象 $c$ で評価して $\operatorname{Map}_{\mathcal S}(y(c)(c),F(c))$ に送り、次に点 $\operatorname{id}_c:\Delta^0\to y(c)(c)$ と前合成し、$\operatorname{Map}_{\mathcal S}(\Delta^0,F(c))\simeq F(c)$ と同一視する写像である。点の記法では $\alpha\mapsto\alpha_c(\operatorname{id}_c)$ となる。
結論は $\pi_0$ の全単射だけでなく、対応する基点でのすべてのホモトピー群の同型を含む。点 $\xi\in F(c)$ を指定すると、この評価写像のホモトピーファイバー、すなわち自然変換と「その評価を $\xi$ と結ぶ道」を合わせた選択の空間は可縮である。一般のモデルで厳密な集合論的ファイバーが一点になる、という主張ではない。

道を含める理由:空の厳密ファイバーと一点のホモトピーファイバー

二対象 $0,1$ の間に、向きを指定すると射がただ一つある亜群を考える。その脈体 $K$$K_m=\{0,1\}^{m+1}$ で、面は座標の削除、退化は重複である。ホーンは未指定の頂点を補って頂点列にすれば埋まるので、$K$ はKan複体である。
$0$ を選ぶ $f:\Delta^0\to K$ はホモトピー同値である。実際、頂点列 $(v_j)$$u:[m]\to[1]$ を、$u(j)=0$ なら $0$$u(j)=1$ なら $v_j$ となる列へ送ると、定値 $0$ と恒等写像を結ぶ単体的ホモトピーになる。
ところが $1$ 上の厳密ファイバーは空である。道を含めたファイバーの $m$-単体は、両端がそれぞれ定値 $0,1$ である写像 $\Delta^m\times\Delta^1\to K$ である。$K$ への写像は頂点の像だけで決まり、この場合は全頂点の像が指定されているから、各 $m$ でただ一つ存在する。従ってホモトピーファイバーは $\Delta^0$ そのものになる。「同値で対応する」ことを、モデル上の点の厳密な等号だけで捉えられない例である。

共変形も同じ定理である。$G:\mathcal C\to\mathcal S$ に対して
$$ \operatorname{Map}_{\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal S)} \bigl(\operatorname{Map}_{\mathcal C}(c,-),G\bigr)\simeq G(c) $$
を得る。これは $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ に反変形を適用したもので、通常版の記事が主に使う向きはこちらである。

証明

用いる基礎定理と証明の範囲

モデル圏は、弱同値・ファイブレーション・コファイブレーションを指定し、持ち上げと分解によってホモトピー不変な計算を行う枠組みである。単体的モデル圏では、cofibrantな始域とfibrantな終域の間の豊穣写像空間が導来写像空間を計算する。
本証明では、次のデータを一組固定し、途中で別の「同値な模型」へ取り替えない。
$$ A=A_{\mathcal C},\qquad \eta_{\mathcal C}:\mathcal C\xrightarrow{\simeq}N_{\mathrm{hc}}A, \qquad \mathcal E=P_{\mathrm{cf}}(A),\qquad U_A=N_{\mathrm{hc}}\mathcal E. $$
ここで $P_{\mathrm{cf}}(A)$ は、projectiveモデル構造を入れた単体的豊穣前層
$A^{\mathrm{op}}\to\mathrm{sSet}_{\mathbb U}$ のうち、cofibrantかつfibrantな対象のなす局所Kanな豊穣圏である。評価から作る固定比較を
$$ T_A:U_A\longrightarrow \mathcal P(N_{\mathrm{hc}}A),\qquad T_{\mathcal C}=(\eta_{\mathcal C}^{\mathrm{op}})^*T_A: U_A\longrightarrow\mathcal P(\mathcal C) $$
とする。
必要な比較のうち、$\eta_{\mathcal C}$ の構成、自由セルによる前層の置換、$T_A$ の全写像空間での充満忠実性と対象の本質的全射、$T_{\mathcal C}$ の実準逆、豊穣Homと準圏の標準写像空間を結ぶmax/pinch比較は、同じ写像を保つように順に構成できる。一般のJoyal–Bergner比較やモデル圏論の全定理をここで再証明するわけではないが、米田評価に使う比較を定理名だけで置き換えることもしない。
$T_{\mathcal C}$ の実準逆を一つ
$$ g_{\mathcal C}:\mathcal P(\mathcal C)\longrightarrow U_A $$
とり、自然同値
$$ \epsilon:T_{\mathcal C}g_{\mathcal C}\Rightarrow \operatorname{id}_{\mathcal P(\mathcal C)},\qquad \delta:g_{\mathcal C}T_{\mathcal C}\Rightarrow\operatorname{id}_{U_A}, \qquad \bar\delta:\operatorname{id}_{U_A}\Rightarrow g_{\mathcal C}T_{\mathcal C} $$
を三角形が整合するように固定する。$y_A(a)=A(-,a)$ とし、
$$ \bar y=N_{\mathrm{hc}}y_A\eta_{\mathcal C},\qquad y_{\mathcal C}=T_{\mathcal C}\bar y $$
と置く。これが定理文の米田関手 $y$ の具体的な選択である。
一般の対称モノイダル閉圏を基礎とする豊穣米田の補題は、別稿「米田の補題(豊穣圏)」で扱う。以下では、その単体的集合の場合の評価を全次元で直接確認し、さらに上の固定比較を通して同じ恒等射評価へ戻す。

全次元での恒等射評価

豊穣前層モデルでの証明

$a_c=\eta_{\mathcal C}(c)$ とし、豊穣表現可能前層を $h_{a_c}=A(-,a_c)$ と書く。$P\in\mathcal E$ に対し、まず豊穣自然変換の単体的集合に厳密な同型
$$ \underline{\operatorname{Nat}}_{\Delta}(h_{a_c},P) \cong P(a_c) $$
があることを示す。
左辺の $n$-単体は、各対象 $x$ に対する単体的写像
$$ \alpha_x:\Delta^n\times A(x,a_c)\longrightarrow P(x) $$
の豊穣自然な族である。$a_c$ で恒等射を代入すれば、単体 $\xi:\Delta^n\to P(a_c)$ を得る。逆に、この単体と前層の作用
$$ A(x,a_c)\times P(a_c)\longrightarrow P(x) $$
を組み合わせると $\alpha_x$ が得られる。すなわち、パラメータを $t$ と書けば $\alpha_x(t,f)=P(f)(\xi(t))$ である。この式は頂点だけの処方ではなく、上の単体的写像の略記である。
作用の結合律が豊穣自然性を保証し、単位律から恒等射評価が元の $\xi$ を返す。逆に任意の $\alpha$ に豊穣自然性を適用すれば、その全成分はこの作用で復元される。構成は $\Delta^m\to\Delta^n$ によるパラメータ変更と可換なので、各次元の全単射が単体的集合の同型になる。
次に、この厳密な計算が導来写像空間を計算していることを確認する。$h_{a_c}$ はprojectiveモデル構造でcofibrantである。実際、任意の自明なファイブレーション $E\to B$ と射 $h_{a_c}\to B$ に対する持ち上げ問題は、上の対応で $B(a_c)$ の頂点を $E(a_c)$ へ持ち上げる問題になる。$E(a_c)\to B(a_c)$ は自明なKanファイブレーションなので持ち上げが存在する。また各 $A(x,a_c)$ はKan複体なので $h_{a_c}$ はfibrantでもある。
$\mathcal H_{\mathcal E}$$\mathcal E$ の豊穣Homが定める実双関手とする。実準逆を用いて、前層∞圏上の一つのtransported Hom模型を
$$ \mathcal H_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}} =\mathcal H_{\mathcal E}(g_{\mathcal C}^{\mathrm{op}}\times g_{\mathcal C}) $$
と定め、第一変数を $y_{\mathcal C}$ に制限して
$$ L^{\mathrm{tr}}(c,F)= \mathcal H_{\mathcal E} \bigl(g_{\mathcal C}T_{\mathcal C}\bar y(c),g_{\mathcal C}F\bigr) $$
と置く。次の三つの写像を考える。
$$ \begin{aligned} \gamma_1:L^{\mathrm{tr}}(c,F)&\longrightarrow \mathcal H_{\mathcal E}(\bar y(c),g_{\mathcal C}F),\\ \gamma_2:\mathcal H_{\mathcal E}(\bar y(c),g_{\mathcal C}F) &\xrightarrow{\ \cong\ }(T_{\mathcal C}g_{\mathcal C}F)(c),\\ \gamma_3:(T_{\mathcal C}g_{\mathcal C}F)(c)&\longrightarrow F(c). \end{aligned} $$
$\gamma_1$
$\bar\delta_{\bar y(c)}:\bar y(c)\to g_{\mathcal C}T_{\mathcal C}\bar y(c)$
をHomの第一変数の反変性で読む写像である。$\gamma_2$ は上で全次元について証明した豊穣米田評価、$\gamma_3$$\epsilon_F$$c$ で評価した写像である。したがって
$$ \Gamma_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}} =\gamma_3\gamma_2\gamma_1: L^{\mathrm{tr}}\xRightarrow{\simeq} Ev_{\mathcal C},\qquad Ev_{\mathcal C}(c,F)=F(c) $$
は、対象ごとにばらばらに選んだ同値ではなく、$\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal P(\mathcal C)$ 全体の一つの自然同値になる。
準圏の標準写像空間から $\mathcal H_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}}$ への指定比較を $\ell$ とする。これは豊穣Homと標準Homのmax/pinch比較、および同じ $T_{\mathcal C}$ から作られ、各成分がホモトピー同値である。従って
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal P(\mathcal C)}(y_{\mathcal C}(c),F) \xrightarrow{\ \ell\ }L^{\mathrm{tr}}(c,F) \xrightarrow{\ \Gamma_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}}\ }F(c) $$
は空間の同値である。
最後に、この合成が定理文の恒等射評価そのものであることを確認する。$\delta_{\bar y}$$\bar\delta$ から作る自然同値を
$$ \chi:\mathcal H_{\mathcal E}(\bar y(-),-) \Longrightarrow (\operatorname{id}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}\times T_{\mathcal C})^* L^{\mathrm{tr}} $$
とすると、ホモトピー圏で
$$ \bigl[(\operatorname{id}\times T_{\mathcal C})^* \Gamma_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}}\bigr][\chi]=[e_{\mathcal C}] $$
となる。ここで $e_{\mathcal C}$ は先に直接計算した豊穣恒等射評価である。また $\ell$ は、同じmax/pinch比較 $\kappa^{\mathcal E}$ に対して
$$ [\ell]\,[H(T_{\mathcal C})]\,[\kappa^{\mathcal E}]=[\chi] $$
を満たす。二式を続けると、上の合成は $h_{a_c}(a_c)$ の恒等射を代入する同じ評価へ戻る。これで、抽象的に同型な二空間を得ただけでなく、定理文の $\operatorname{ev}_{\operatorname{id}_c}$ を全二変数で得た。

証明の要点は二つある。第一に、豊穣米田の計算をすべての $n$-単体で行うこと。第二に、その同型を前層∞圏へ移すとき、同じ $T_{\mathcal C},g_{\mathcal C},\ell$ を使って恒等射評価まで回収することである。これにより、「各対象対の写像空間がたまたま同じホモトピー型を持つ」という弱い主張を避けている。

帰結

米田埋め込みの充満忠実性

任意の $c,d\in\mathcal C$ に対し、後合成が誘導する写像
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal C}(c,d) \longrightarrow\operatorname{Map}_{\mathcal P(\mathcal C)}(y(c),y(d)) $$
は同値である。すなわち $y$ は∞圏の意味で充満忠実である。これがHTTで「∞圏の米田の補題」と呼ばれる命題5.1.3.1の、準圏の場合の主張である(HTT09)。

充満忠実性

$F=y_{\mathcal C}(d)$ とする。$y_{\mathcal C}$ が標準写像空間に誘導する写像の後に、上の比較 $\ell$ と評価 $\Gamma_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}}$ を続けたものを
$$ \rho_{c,d}= [\Gamma^{\mathrm{tr}}_{c,y_{\mathcal C}(d)}]\, [\ell_{y_{\mathcal C}(c),y_{\mathcal C}(d)}]\, [H(y_{\mathcal C})_{c,d}] $$
と書く。$a_c=\eta_{\mathcal C}(c)$ とすると、$T_{\mathcal C}$ の評価定義によって $\rho_{c,d}$ の終域を $A(a_c,a_d)$ と同一視できる。一方、固定した局所Hom比較から
$$ q_{c,d}=[\kappa^A]^{-1}[H(\eta_{\mathcal C})]: H_{\mathcal C}(c,d)\longrightarrow A(a_c,a_d) $$
を得る。豊穣米田で後合成による自然変換を $\operatorname{id}_{a_c}$ で評価すると元の射へ戻るため、
$$ [\rho_{c,d}]=[q_{c,d}] \qquad\text{in }\mathrm{hKan} $$
となる。これは単に始域と終域が同値な空間だという主張ではなく、同じ実関手 $y_{\mathcal C}$ が誘導する写像を比較した等式である。$q_{c,d}$$\ell$$\Gamma_{\mathcal C}^{\mathrm{tr}}$ はいずれもホモトピー同値なので、$H(y_{\mathcal C})_{c,d}$ もホモトピー同値である。

対象の同値の検出

$c\simeq d$ であることと $y(c)\simeq y(d)$ であることは同値である。

同値の検出

関手は同値を保つので順方向は従う。逆に $y(c)\simeq y(d)$ とその逆を選ぶ。充満忠実性から、それらのホモトピー類は $h\mathcal C$ の射 $c\to d$$d\to c$ に対応する。合成は恒等射の類に対応するから互いに逆であり、元の射は $\mathcal C$ の同値である。

固定した前層 $F$ の表現は対象 $c$ だけでなく、同値 $\phi:y(c)\simeq F$ との組である。さらに、二つの組 $(c,\phi)$$(d,\psi)$ の間には、$c\to d$ の同値と $\psi\circ y(u)\simeq\phi$ を結ぶ道、およびその全高次整合性も含める。このように表現データ全体を空間として比較すると、$F$ が表現可能でなければ空、表現可能なら任意の基点を固定した収縮を持つ。これは米田埋め込みの充満忠実性により、表現データの空間が本質像の一点上の経路付きホモトピーファイバーになるためである。一方、同値 $\phi$ を忘れて「表現対象の自己同値はただ一つ」と述べるのは誤りである。対象自身は非自明な自己同値を持ち得る。

通常の米田の補題との一致

通常の圏と集合値前層への制限

$\mathcal A_0$ を小さい通常の圏とし、その脈体 $N\mathcal A_0$ を準圏とみなす。通常の前層 $F_0:\mathcal A_0^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}_{\mathbb U}$ の値を離散Kan複体とみなし、空間値前層 $F$ を作る。このとき∞圏の米田の補題は
$$ \operatorname{Nat}\bigl(\operatorname{Hom}_{\mathcal A_0}(-,a),F_0\bigr) \cong F_0(a) $$
という通常の全単射に一致する(KerC26 注意8.3.1.4の双対)。

離散空間での回収

通常の脈体の $n$-単体は $n$ 本の合成可能な射の列である。写像空間の右モデルでは最初の $n$ 本が恒等射に固定されるので、残る情報は一本の射 $x\to a$ だけである。従って
$$ \operatorname{Map}_{N\mathcal A_0}(x,a) \cong\operatorname{Hom}_{\mathcal A_0}(x,a)_{\mathrm{disc}}. $$
離散集合値の前層間には非自明な高次ホモトピーがない。より具体的には、離散集合全体は $\mathcal S$ の中で通常の集合の圏の脈体をなし、そこへの関手と自然変換は通常の前層と自然変換である。このため、それらの間の写像空間は通常の自然変換集合を離散化したものになる。
主定理は二つの離散空間の同値、すなわち全単射に帰着する。その写像は $\alpha\mapsto\alpha_a(\operatorname{id}_a)$ であり、逆は $\xi\mapsto(f:x\to a\mapsto F_0(f)(\xi))$ なので、通常の米田対応そのものである。

通常版の記事の共変形 $\operatorname{Hom}(a,-)$ は、ここで $\mathcal A_0$$\mathcal A_0^{\mathrm{op}}$ に替えて回収される。通常の圏の脈体に制限するだけでなく、前層の値も集合として離散化することが、通常の補題との比較の条件である。一般の空間値前層を $\pi_0F$ に置き換えて同じ情報が残る、と主張してはいけない。

例と誤解の切り分け

一点圏でも空間全体を回収する

$\mathcal C=\Delta^0$ とすると $\mathcal P(\mathcal C)\simeq\mathcal S$ であり、唯一の対象 $*$ の米田前層は一点空間である。前層の値をKan複体 $K$ とすると、補題は
$$\operatorname{Map}_{\mathcal S}(*,K)\simeq K$$
となる。単体的写像のモデルでは左辺の $n$-単体は $\Delta^n\to K$ だから、これは全次元の情報を保つ。一点から $K$ への写像のホモトピー類だけを数えるのではない。

順序集合の主イデアル

半順序集合 $P$$x\leq a$ のときだけ射 $x\to a$ が一つある圏とみなす。$N(P)$ の米田前層は、$x\leq a$ なら一点、それ以外なら空集合を値とする。集合値前層 $F$ への自然変換は、$a$ での一要素を選び、それを各 $x\leq a$ へ制限して得られる。ここでは写像空間が離散的なので、通常の米田の補題と∞圏版は同じ計算になる。

亜群から経路空間へ

通常の亜群の脈体では、対象間の写像空間は射集合の離散化である。一方、一般のKan複体 $K$ 自身を∞亜群とみなすと、$\operatorname{Map}_K(x,c)$$x$ から $c$ への経路空間のホモトピー型を表す。$y(c)$ は経路を、その経路間のホモトピーも含めて各試験点に割り当てる。単に到達可能かどうかや経路のホモトピー類だけを割り当てる前層ではない。

反例:ホモトピー圏のHom集合では情報が足りない

一対象亜群 $B\mathbb Z$ を、自己射を整数、合成を加法とする圏とし、$K=N(B\mathbb Z)$ と置く。通常亜群の脈体なので $K$ はKan複体であり、頂点は一つだから $\pi_0K=\{*\}$ である。一方、通常の圏の脈体の写像空間を直接計算すると
$$ \operatorname{Map}^{R}_{K}(*,*)\cong\mathbb Z_{\mathrm{disc}}, $$
その合成は整数の加法である。従って
$\pi_1(K,*)=\operatorname{Aut}_{hK}(*)\cong\mathbb Z$ となる。
空間の∞圏のうち $*$$K$ が張る小さい充満部分∞圏を $\mathcal C$ とする。このとき
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal C}(*,K)\simeq K, \qquad \operatorname{Hom}_{h\mathcal C}(*,K)=\pi_0K=\{*\}. $$
前者には非自明な基本群 $\mathbb Z$ が残り、後者には残らない。∞圏の米田埋め込みは前者を表現可能前層間の写像空間として回収する。従って、$h\mathcal C$ に通常の米田埋め込みを施しても、元の $\mathcal C$ の写像空間まで復元したことにはならない。

補足:モデルを替える箇所

ホモトピー整合的脈体の具体的な定義

単体的豊穣圏は、通常の射集合を単体的集合に替え、合成を単体的写像として与えた圏である。合成と単位はこのモデルでは厳密な等式を満たす。
$\mathfrak C[\Delta^n]$ を次の単体的豊穣圏とする。対象は $0,\ldots,n$$i\leq j$ のHomは、両端 $i,j$ を含む $\{i,\ldots,j\}$ の部分集合全体を包含で順序づけた圏の脈体であり、$i>j$ のHomは空である。合成は部分集合の和集合によって与える。このとき
$$ (N_{\mathrm{hc}}\mathcal A)_n =\operatorname{Fun}_{\Delta}(\mathfrak C[\Delta^n],\mathcal A) $$
がホモトピー整合的脈体の定義である。面・退化は順序保存写像による前合成で定まる。これは $\mathcal A$ のHomの頂点だけを残した通常の圏の脈体とは異なる。
$\mathfrak C[K]$ は各単体 $\Delta^n\to K$ に対する $\mathfrak C[\Delta^n]$ の余極限として定められ、$\mathfrak C\dashv N_{\mathrm{hc}}$ となる。HomがKan複体である $\mathcal A$ の脈体は準圏であり、先のモデル比較はこの随伴による(HTT09 定義1.1.5.5、命題1.1.5.10、定理2.2.5.1)。これで本文中の $\mathcal S$ と豊穣前層モデルの意味が定まる。

Kan性が合成の整合性を支える仕組み

$\mathcal A$ の各HomがKanなら $N_{\mathrm{hc}}\mathcal A$ が準圏になることを確認する。$0< i< n$ とし、内部ホーン $\Lambda_i^n\to N_{\mathrm{hc}}\mathcal A$ を与え、頂点jの像を $A_j$ と書く。
$a< b$ のとき、$\mathfrak C[\Delta^n](a,b)$ は、内部頂点の在不在を座標とする立方体 $I^{b-a-1}$$I=\Delta^1$)である。$a=b$ では一点、$a>b$ では空集合となる。$(a,b)\ne(0,n)$ のHomの写像は、ホーンに含まれる最初または最後の面から既に決まる。残る $Q=I^{n-1}$ の座標を $t_1,\ldots,t_{n-1}$ と書くと、$t_j=0$ は頂点jを除く面、$t_k=1$ はkを経由する合成を表す。
従って $Q$ の全ての1面と、$j\ne i$ の0面には、既に $\mathcal A(A_0,A_n)$ への写像がある。二つの0面ではホーンの一致条件、二つの1面では合成の結合律、0面と1面ではその面内の合成保存によって貼り合う。埋めるべき領域は、$t_i=0$ 以外の面を合わせた部分、すなわち立方体のホーンである。
この包含がKan充填で延長できることも説明できる。$L=I^{n-2}$ とし、$\partial L$ を座標の0面・1面の和とすると、領域は
$$ (L\times\{1\})\cup(\partial L\times I)\subset L\times I. $$
$n=2$ では $L=\Delta^0,\partial L=\emptyset$ と読む。一般に単体的集合の単射を非退化単体の境界付着へ分解すると、この種の角柱は
$$ (\Delta^m\times\{1\})\cup(\partial\Delta^m\times I)\subset\Delta^m\times I $$
へ帰着する。右辺の最大単体を
$$ ((0,0),\ldots,(k,0),(k,1),\ldots,(m,1)),\qquad k=0,\ldots,m $$
の順に付けると、各回の未付着面は番号 $k+1$ の面だけである。他の面は角柱の側面・上面または直前の単体に含まれるので、各回はホーンの充填で延長できる。
得られた $Q$ 全体の写像は、全ての $t_k=1$ 面で既存の合成と一致する。したがって全Homの写像を合わせると単体的関手 $\mathfrak C[\Delta^n]\to\mathcal A$ になり、元の内部ホーンを充填する(HTT09 命題1.1.5.10)。

この証明でのKan性は、個々の射を変形できるというだけでなく、既に決めた低次元の合成と同時に整合する高次データを選べることに使われている。ただし、これだけで元の豊穣Homと準圏の写像空間の比較や、豊穣自然変換と∞自然変換の比較まで証明したことにはならない。それらは米田の評価を移す際の別の論点である。

豊穣Homと準圏の写像空間を結ぶ比較

局所Kanな豊穣圏のHom比較

$\mathcal A$ の各HomがKan複体なら、指定した比較写像
$$ \theta^R:\mathcal A(X,Y)\longrightarrow \operatorname{Map}^R_{N_{\mathrm{hc}}\mathcal A}(X,Y) $$
は単体的ホモトピー逆を持つ。この比較は単体的豊穣関手に関して自然で、恒等射を恒等射へ送る。両辺が単体的集合として同じという主張ではない(KerM26 定理4.6.7.5と注意4.6.7.9、本記事の包含規約では右比較を使用)。

比較写像は具体的に書ける。$\sigma:\Delta^n\to\mathcal A(X,Y)$ に対し、$\mathfrak C[\Delta^{n+1}]$ の対象 $0,\ldots,n$$X$、最後を $Y$ に送る。最初のブロック内のHomは恒等射に固定する。$a\le n$ に対するHomは、両端を含む部分集合 $S\subseteq\{a,\ldots,n+1\}$
$$ S\longmapsto\max(S\setminus\{n+1\})\in[n] $$
に送り、その脈体に $\sigma$ を続けて定める。最大値は包含に関して単調であり、中間点を経由する和集合とも合成条件を満たす。また順序保存写像は非空有限集合の最大値と可換するので、この処方は全ての面・退化と整合する。
同値性の証明の要点も説明する。逆包含規約の左写像空間では、比較の構成を、標準単体を単体的集合 $Q^n$ に替える関手 $\Phi$ によって整理できる。$Q^n$$m$-単体は、非空集合の減少鎖
$$ S_0\supseteq\cdots\supseteq S_m\subseteq[n],\qquad S_m=\{b\},\quad \max S_j=b $$
である。$m>0$$i< m$ の面は $S_i$ の削除、退化は指定した項の重複である。最後の面 $d_m$ だけは、残る集合を $\min S_{m-1}$ 以下に切り詰める。順序保存写像 $\alpha:[n]\to[p]$ は各集合の直接像 $S_j\mapsto\alpha(S_j)$ を取り、写像 $Q(\alpha):Q^n\to Q^p$ を与える。写像 $\rho_n:Q^n\to\Delta^n$ は最小値の列を取り、これらの構造写像と可換する。$Q^0$ は一点で、$n\ge1$$Q^n$$Q^{n-1}\times\Delta^1$ の底の一端を一点へ潰したものだから、各 $Q^n$ には具体的な収縮がある(KerM26 例4.6.7.27–補題4.6.7.29)。
一般の $K$ については、その全ての単体と単体間の写像を添字として
$$ \Phi K=\operatorname*{colim}_{\Delta^n\to K}Q^n $$
と定める。各 $\Delta^n\to K$$\rho_n:Q^n\to\Delta^n$ を合成した写像を貼り合わせると $\rho_K:\Phi K\to K$ が得られる。下の $\Psi M$ の面・退化は、$Q(\alpha)$ への前合成で定める。
ただし、標準単体を一つずつ収縮させただけでは、一般の $K$ の面どうしが一致するとは限らない。ここでは $\Phi$ が単射と余極限を保つことを、鎖の一意な表示から確認する。そのうえで $\rho_K:\Phi K\to K$ の写像円柱を使い、境界を先に合わせてから非退化単体を付ける。Kan複体 $M$ への持上げによって、任意の $K$ に対し
$$ [K,M]\cong[\Phi K,M]\cong[K,\Psi M], \qquad (\Psi M)_n=\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}(Q^n,M) $$
を得る。ここで $[K,M]$ は単体的ホモトピー類を表す。$\Psi M$ もKanである。逆包含規約の脈体を $N_K$ と書くと、$M=\mathcal B(X,Y)$ に対する $\Psi M$ は、$N_K\mathcal B$左写像空間に同型となる。これは最初の頂点を $X$、残りの面全体を $Y$ に固定するモデルである。指定比較 $M\to\Psi M$$\sigma\mapsto\sigma\rho_n$ で与えられる。$K=\Psi M$ で比較の右逆を取り、$K=M$ で左逆の条件を確認すると、比較写像のホモトピー逆が得られる。これは $M$ 自身の連結成分だけを比較した議論ではなく、全ての試験対象 $K$ からの写像を比較する議論である。
最後に規約を戻す。部分集合の包含と逆包含を交換すると各豊穣Homの単体反転が現れ、左と右の写像空間を交換するともう一つ反転が現れる。この二つを合わせると反転が消え、上で書いた右比較の最大値の処方になる。文献間で $N_{\mathrm{hc}}$ という記号が同じでも、左右と順序の規約は一緒に確認する必要がある。この局所比較を得ても、豊穣前層と関手準圏の比較や、一般の $\mathcal C$ での米田関手の構成まで自動的に済んだわけではない。

全パラメータの三角形による合成の比較

準圏 $\mathcal C$ の頂点列 $x_0,\ldots,x_r$ に対し、$H_{\mathcal C}(x_0,\ldots,x_r)$$n$-単体を、各面 $\{j\}\times\Delta^n$ の全体が $x_j$ で定数となる写像 $\Delta^r\times\Delta^n\to\mathcal C$ とする。面・退化は第二因子への前合成である。$r=1$ は両端を固定した標準写像空間$r=2$ はパラメータ付き三角形の空間であり、いずれもKan複体となる。
隣接辺への制限は、任意の有限列について全ての単射に対する右持ち上げ性を持つ。これはSegal制限と呼ばれる。隣接辺を合わせた部分を $\operatorname{Sp}[r]\subset\Delta^r$ とすると、単射 $B\hookrightarrow D$ に対する問題は
$$ (\Delta^r\times B)\cup(\operatorname{Sp}[r]\times D) \longrightarrow\Delta^r\times D $$
からの延長である。$\operatorname{Sp}[r]\hookrightarrow\Delta^r$ は内部ホーンの付着で作れ、この包含と単射から作る上の包含も、内部ホーンの押し出し・超限合成・レトラクトで得られるため、準圏の充填条件が使える。全ての頂点の柱は既に固定されている。
三角形の場合、隣接辺への制限を $q:H_{\mathcal C}(x,y,z)\to H_{\mathcal C}(y,z)\times H_{\mathcal C}(x,y)$、長辺への制限を $\ell$ とする。合成は
$$ \mu_{\mathcal C}=[\ell]\,[q]^{-1} $$
で定まる。ここで角括弧はKan複体間の単体的ホモトピー類を表し、その圏を $\mathrm{hKan}$ と書く。持ち上げ性から $q$ の切断を選べ、異なる切断も底を固定したホモトピーで結ばれる。従ってこれは $\mathrm{hKan}$ での合成であり、選んだ写像が厳密に結合的だという主張ではない。単位則は退化した三角形から、結合律は四頂点の空間からの面制限を比べて得られる(KerComp26 系4.6.8.5、構成4.6.8.9、命題4.6.8.11–12)。
$\mathcal A$ の各HomがKanで、$\mathcal C=N_{\mathrm{hc}}\mathcal A$ の場合、先の $\theta^R$ に、$(0,j)\mapsto j,\ (1,j)\mapsto n+1$ という $\Delta^1\times\Delta^n\to\Delta^{n+1}$ への前合成を続け、標準写像空間への比較 $e_{X,Y}$ を得る。この写像もホモトピー同値である。合成との適合には、各 $n$$\tau:\Delta^n\to\mathcal A(X,Y)$$\sigma:\Delta^n\to\mathcal A(Y,Z)$ に対し、三辺がそれぞれ $e(\tau),e(\sigma),e(\sigma\circ\tau)$ となる写像 $\Delta^2\times\Delta^n\to\mathcal C$ を作る。最大値の処方を三つの頂点群に適用するとこの族が得られ、長辺では二つの最大値が一致して同じパラメータの合成になる。面・退化とも可換するこの三辺の一致により、$e$ は豊穣合成と $\mu_{\mathcal C}$$\mathrm{hKan}$ で結び付ける(KerComp26 命題4.6.8.19の、本記事の右比較への対応)。一つの三角形だけを選ぶ議論や、$\pi_0$ 上の一致だけではない。ただし、これだけで一般のHom双関手や前層∞圏の比較まで構成したことにはならない。

単体的豊穣圏による複数の表示

単体的豊穣圏を使う方法は一つの出発点に限られない。具体的には、次の表示を使い分ける。

出発点使用する豊穣圏本記事の計算との関係
各HomがKan複体の単体的圏 $A$$A$ 自身$N_{\mathrm{hc}}A$ を準圏として使い、厳密合成からHom双関手を作る
単体的モデル圏の前層cofibrant–fibrant対象の充満豊穣部分圏 $P_{\mathrm{cf}}(A)$本文の前層比較 $T_{\mathcal C}$ と導来写像空間の計算に使う

弱同値を持つ通常圏からハンモック局所化などの単体的局所化を作る方法もある。しかし、その表示と上の固定した $A$$P_{\mathrm{cf}}(A)$ を結ぶDK同値の全比較は、本記事の米田評価には使わない。ここでDK同値とは、各Homに弱ホモトピー同値を誘導し、Homの $\pi_0$ で作るホモトピー圏に圏同値を誘導する単体的関手をいう。別の単体的局所化を本文の模型へ交換するには、Homのホモトピー型だけでなく、合成・単位・米田関手・恒等射評価を保つ比較を改めて確認する必要がある。

モデルの構成と同値性の証明

$\omega\in\mathbb U$ を仮定する(自然数全体も宇宙の要素として扱う)。$D=\mathfrak C[\mathcal C]$ から、対象を変えずに各HomをKanにする単体的圏 $\mathcal A$ と関手 $j:D\to\mathcal A$ を作れる。Homを別々に置換するのではなく、ホーンの充填を新しい射として自由に加え、その射を含む合成も同時に加える。全ての対象対・全てのホーンにこの操作を施し、新たに生じたホーンも次の段階で埋める。旧Homを部分として保った可算回の反復では、最終的なホーンは有限個の非退化単体で決まるため、ある段階に現れて次で埋まる。このことが全HomのKan性を保証する。
随伴単位 $u_{\mathcal C}:\mathcal C\to N_{\mathrm{hc}}D$ と合わせれば、
$$ \eta_{\mathcal C}=N_{\mathrm{hc}}(j)u_{\mathcal C}: \mathcal C\longrightarrow N_{\mathrm{hc}}\mathcal A $$
を得る。終域は準圏で、頂点集合も元と同じである。ただし、この自由なKan化だけでは $\eta_{\mathcal C}$ の同値性はまだ出ない。先の局所比較は $A(X,Y)$$\operatorname{Map}^R_{N_{\mathrm{hc}}A}(X,Y)$ の比較であり、$\operatorname{Map}^R_{\mathcal C}(X,Y)$ との比較が別に必要だからである。本記事の主証明では、同じ $\eta_{\mathcal C}$ について標準単体、有限付着、可算骨格の順にこの比較を組み立て、実準逆まで得た後に用いている。さらに、米田関手と恒等射評価を保つことは $T_{\mathcal C}$$\ell$$\chi$ を通して別に確認した。

これらは単体的豊穣圏の枠内での複数の表示方法であり、その三行が三つの独立したモデル構造という意味ではない。豊穣版の別稿では、一般の豊穣化からこの接続に進むための定義・条件をまとめている。

スライスと右ファイブレーションによる表示

右ファイブレーションと表現可能スライス

単体的写像 $p:E\to\mathcal C$右ファイブレーションであるとは、$n\geq1$$0< i\leq n$ のホーン包含に対して右持ち上げ性を持つことである。つまり $\Lambda_i^n\to E$$\Delta^n\to\mathcal C$ の可換な組を、底の単体を保って $\Delta^n\to E$ に延長できることをいう。各頂点上のファイバー $E_c$ はKan複体となる。
スライス $\mathcal C_{/c}$$n$-単体は $\Delta^n\star\Delta^0\cong\Delta^{n+1}\to\mathcal C$ で、最後の頂点が $c$ であるものと定める。$\star$ は単体的集合のjoinで、ここでは標準単体に最後の頂点を加える操作である。最初の $n+1$ 個の頂点への制限が射影 $\mathcal C_{/c}\to\mathcal C$ を与える。この射影は右ファイブレーションであり、$x$ 上のファイバーは先の $\operatorname{Map}^{R}_{\mathcal C}(x,c)$ に一致する(HTT09 §1.2.9、§2.1.1–2.1.2の双対)。

右ファイブレーションでは、底の射 $u:x\to z$ と終点上の点 $e\in E_z$ を指定して持ち上げることで、逆向きの輸送 $E_z\to E_x$ が得られる。その選択を高次まで整合的にまとめると、空間値前層になる。この比較を体系化するのが straightening–unstraightening(直線化・非直線化) である。反変モデル構造の右ファイブレーションと、豊穣前層のprojectiveモデル構造は、置換後に同じホモトピー理論を記述する(HTT09 定理2.2.1.2)。
スライス $\mathcal C_{/c}\to\mathcal C$$x$ 上の厳密ファイバーは、上で固定した右写像空間 $\operatorname{Map}^{R}_{\mathcal C}(x,c)$ である。この意味で、スライスは表現可能前層の幾何学的な候補を、少なくとも各値について直接与える。ただし「各ファイバーが同値」であることだけから、主証明で固定した同じ実関手 $y_{\mathcal C}$ とその評価自然変換まで一致するとは結論しない。これにはstraighteningの比較、単位、恒等射評価を同じデータに沿って結ぶ追加の整合性が必要である。
その整合性を供給した場合、主定理の右ファイブレーション表示は
$$ \mathbf R\operatorname{Map}_{/\mathcal C}(\mathcal C_{/c},E_F) \simeq (E_F)_c $$
という形になる。左辺は反変モデル構造での導来写像空間で、評価点はスライス内の $\operatorname{id}_c$ である。本記事の主証明はこの表示を前提にせず、固定した $A_{\mathcal C},T_{\mathcal C},g_{\mathcal C}$ の側で評価を証明した。
ここで、スライスを恒等射へ収縮することと、底 $\mathcal C$ を固定したまま写像を変形することは別である。$x\to c$$\operatorname{id}_c$ へ移すと、射影先も $x$ から $c$ へ動き得る。底の上の評価には、単なる収縮ではなく、底を固定した持上げが必要になる。
共変前層に対応するのは左ファイブレーションで、ホーンの範囲は $0\leq i< n$、表現可能な例は $\mathcal C_{c/}\to\mathcal C$ となる。左右とスライスの向きを同時に反転させる必要がある。

何をモデルに依存させ、何を依存させないか

表示本記事で担う役割区別すべき点
準圏対象の∞圏、関手、前層∞圏の主言語内部ホーン充填で定義する
Kan複体空間、写像空間、評価先 $F(c)$すべてのホーンを充填し、準圏一般とは異なる
単体的豊穣圏と豊穣前層合成と自然性を厳密な式に移して全次元で計算導来写像の計算にはcofibrant・fibrant条件を確認する
右ファイブレーション前層を底の上の一つの幾何学的対象として表示前層の値はファイバー、反変作用は逆向きの輸送

これらは同じ定理を別々の追加公理で定義し直すものではない。準圏で対象を定義し、必要な比較を通して別表示で構成・計算する。本記事の定理は、一つの固定表示 $A_{\mathcal C},T_{\mathcal C},g_{\mathcal C},y_{\mathcal C}$ と、そこから作る同じ評価写像について証明した。
実準逆 $g_{\mathcal C}$ の変更、および第一変数を $y_{\mathcal C}$ に制限した評価源の変更については、選択の空間が可縮であり、二つの選択が自然同値と評価に整合するホモトピーで結ばれる。一方、任意の完全なHom双関手、単位点を含むpointed Homデータ、普遍左ファイブレーションの全選択について可縮な一意性が成り立つ、とは本記事では主張しない。この限定は単なる技術上の遠慮ではない。第一変数を表現可能前層に制限した値だけでは、その双関手が第一変数の余極限を極限へ送る等の完全性を別に課さない限り、一般の第一変数での値を復元できない。実際、$\mathcal C=\Delta^0$ のときでさえ、表現可能な第一変数上では自然同値だが、全体では同値でない空間値双関手がある。
HTTとKerodonは、定理の外部での標準形と一般理論の出典として参照する。本文の証明では、これらの定理名を評価の代用にせず、三つの比較と恒等射への回収を固定模型上で追跡した。complete Segal spaceなど別の高次圏モデルへ移す場合にも、米田関手・写像空間・恒等射評価を保つ比較を確認する必要がある。

関連項目

参考文献

[1]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Annals of Mathematics Studies 170, Princeton University Press, 2009, §§1.1.2, 1.1.5, 1.2.2, 1.2.7, 1.2.9, 2.1–2.2; Theorem 2.2.1.2; Theorem 2.2.5.1; Proposition 4.2.4.4; §5.1.3; Appendices A.3.3–A.3.4

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