K位相(K-topology)とは、$K=\{1/n\mid n\ge1\}$ として、開区間 $(a,b)$ と $(a,b)\setminus K$ の全体を開基とする実数直線 $\mathbb{R}$ 上の位相であり、この位相を入れた空間を $\mathbb{R}_K$ と書く。開集合は通常の開集合から $K$ の部分集合を除いたものにちょうど一致し、通常の位相との違いは点 $0$ だけに現れる。$\mathbb{R}_K$ は第 2 可算で、二点を連続関数で分けられるが、点 $0$ と閉集合 $K$ を開集合で分けられず正則でないので、距離化可能でない。コンパクト部分集合は通常の意味でコンパクトで $K$ と有限個の点でしか交わらない集合であり、$\mathbb{R}_K$ は連結だが弧状連結でない。
実数直線の通常の位相に、$0$ に集積する点列 $1/n$ の全体 $K$ を取り除いた開区間を開集合として付け加えると、K 位相 が得られる。開集合を増やしただけなので Hausdorff 性は保たれるが、点 $0$ と閉集合 $K$ を開集合で分けることができなくなる。「位相を細かくすると正則性が壊れうる」「Hausdorff でも正則とは限らない」「第 2 可算 Hausdorff でも距離化可能とは限らない」といった含意の破れを、すべてこの一つの空間で見せることができる。
この記事では、K 位相の開集合と閉集合をすべて書き下し(prop-k-open-sets)、次を示す。任意の二点は連続関数で分けられるが、正則性条件は満たさないこと(thm-k-separation)。コンパクトな部分集合は「通常の意味でコンパクトで、$K$ の点を有限個しか含まない集合」であること(thm-k-compact)。全体は連結だが、弧状連結成分は $(-\infty,0]$ と $(0,\infty)$ の二つであること(thm-k-connected)。
$K:=\{1/n\mid n\in\mathbb{Z}_{>0}\}\subset\mathbb{R}$ とする。開区間 $(a,b)$ の全体と、開区間から $K$ を除いた集合 $(a,b)\setminus K$ の全体を合わせた族を $\mathcal{B}_K$ とする。$\mathcal{B}_K$ を開基とする $\mathbb{R}$ 上の位相を K 位相(K-topology)といい、K 位相を入れた実数直線を $\mathbb{R}_K$ と書く。
$\mathcal{B}_K$ は $\mathbb{R}$ を覆い、二つの元の共通部分は空か、開区間か、開区間から $K$ を除いた集合なので、開基の条件を満たす。開区間はすべて $\mathbb{R}_K$ の開集合なので、K 位相は通常の位相より細かい。以下、「通常の開集合」「通常の閉集合」「通常の意味でコンパクト」は、$\mathbb{R}$ の通常の位相についての言葉とする。
要点は、$K$ の各点 $1/n$ が $K$ の中で孤立していることである。
1:開基の元はこの形である。$V_\lambda\setminus B_\lambda$ の和集合は、$V:=\bigcup_\lambda V_\lambda$ と $B:=V\setminus\bigcup_\lambda(V_\lambda\setminus B_\lambda)$ によって $V\setminus B$ と書け、$B$ の点 $x$ はある $V_\lambda$ に属して $V_\lambda\setminus B_\lambda$ に属さないので $x\in B_\lambda\subset K$ である。よって開集合はこの形である。逆に $x\in V\setminus B$ とし、$x\in I\subset V$ となる開区間 $I$ をとる。$x\notin K$ なら $I\setminus K$ は $x$ を含み $V\setminus B$ に含まれる開基の元である。$x=1/n\in K$ なら、$I$ を小さくとって $I\cap K=\{1/n\}$ とできる($1/(n+1)<1/n<1/(n-1)$、$n=1$ では $1/2<1<2$)。$x\notin B$ なので $I\subset V\setminus B$ である。よって $V\setminus B$ は開集合である。
2:$\mathbb{R}\setminus(V\setminus B)=(\mathbb{R}\setminus V)\cup(B\cap V)$ と $\mathbb{R}\setminus(E\cup B)=(\mathbb{R}\setminus E)\setminus B$ から、1 の補集合をとればよい。
3:$\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は通常の開集合である。$B\subset K$ は $0$ 以外に集積点をもたないので $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ の中で通常の閉集合であり、$(V\setminus B)\cap(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ は $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ の中で通常の開集合である。逆向きは K 位相が通常の位相より細かいことによる。$0$ を含む開基の元は $(a,b)$ か $(a,b)\setminus K$($a<0< b$)で、どちらも $(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K$($\varepsilon=\min\{-a,b\}$)を含む。$\square$
3 により、$\mathbb{R}_K$ は $0$ 以外の点のまわりでは通常の実数直線と同じであり、違いはすべて点 $0$ に集まっている。$0$ の近傍は $K$ の点を避けてよいので、$K$ の点列 $1/n$ は $\mathbb{R}_K$ では $0$ に収束しない。
K 位相は通常の位相より真に細かい($(-1,1)\setminus K$ は K 位相で開だが、通常の位相では開でない)。Sorgenfrey直線 の位相とは比較不能である(位相の強弱 の例「実数直線上の位相」、Mun00 Lemma 13.4・Exercise 13.6、pp. 82–83)。また端点が有理数の開区間と、それから $K$ を除いた集合の全体は可算開基なので、$\mathbb{R}_K$ は第2可算公理を満たす(Urysohnの距離化定理 の例「反例:K 位相の実数直線」)。
1:$f(t):=\min\{1,|t-x|/|y-x|\}$ は通常の位相について連続である。K 位相は通常の位相より細かいので、$[0,1]$ の開集合の $f$ による逆像は K 位相でも開であり、$f$ は $\mathbb{R}_K$ 上で連続である。$f(x)=0$、$f(y)=1$ である。$U:=f^{-1}([0,1/3))$、$V:=f^{-1}((2/3,1])$ は $x,y$ の開近傍で、閉包はそれぞれ閉集合 $f^{-1}([0,1/3])$、$f^{-1}([2/3,1])$ に含まれるので交わらない。
2:$K$ が閉集合であることは prop-k-open-sets の 2 による。$U,V$ をそれぞれ $0$、$K$ を含む開集合とする。prop-k-open-sets の 3 により、ある $\varepsilon>0$ で $(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K\subset U$ である。$1/n<\varepsilon$ となる $n$ をとる。$1/n\in V$ で $1/n\ne0$ なので、同じく 3 により $V$ は $1/n$ を含む開区間 $I\subset(-\varepsilon,\varepsilon)$ を含む。$I$ の中の無理数 $s$ は $K$ に属さないので $s\in U\cap V$ であり、$U\cap V\ne\emptyset$ である。$\square$
2 は 分離公理 の例「$T_2$ から $T_3$ は従わない」、正則空間 の例「反例:Hausdorff だが正則でない空間」、Mun00 §31 Example 1(p. 197)と同じ事実である。1 と合わせると、$\mathbb{R}_K$ は $T_{2.5}$(二点を関数で分けられるという、さらに強い意味でも)を満たすが $T_3$ でない。分離公理 の定理「$T_3$ は Urysohn である」の逆は成り立たない。
$\mathbb{R}_K$ は次のどれでもない:$T_3$ 空間、Tychonoff空間、正規性条件を満たす空間、距離化可能空間、擬距離の族で位相が定まる空間。一方 $\mathbb{R}_K$ は第 2 可算な Hausdorff 空間である。
Tychonoff 空間・距離化可能空間・擬距離の族で位相が定まる空間はどれも正則性条件を満たす(完全正則性条件を満たす空間では、分離関数 $f$ の $f^{-1}([0,1/2))$ と $f^{-1}((1/2,1])$ が点と閉集合を分ける。擬距離の族については 擬距離 の定理「擬距離の族による完全正則性の特徴づけ」)。正規性条件は、閉集合 $\{0\}$ と $K$ が開集合で分けられないので満たさない。第 2 可算性は rem-k-comparison による。$\square$
$\mathbb{R}_K$ は第 2 可算な Hausdorff 空間なのに距離化可能でない。Urysohnの距離化定理 の「正則」を Hausdorff に、さらには「二点を関数で分けられる」に弱めることもできない。
$C\subset\mathbb{R}$ について、$C$ が $\mathbb{R}_K$ の部分空間としてコンパクトであることと、$C$ が通常の意味でコンパクトで $C\cap K$ が有限集合であることは同値である。
$C$ が $\mathbb{R}_K$ でコンパクトだとする。恒等写像 $\mathbb{R}_K\to\mathbb{R}$ は連続なので(K 位相は通常の位相より細かい)、像 $C$ は通常の意味でコンパクトである。$K$ は $\mathbb{R}_K$ の閉集合なので、$C\cap K$ は $C$ の閉集合であり、コンパクトである。$C\cap K$ の各点 $1/n$ は、$K$ と $1/n$ だけで交わる開区間(prop-k-open-sets の証明の 1 で使った区間)をとれば $C\cap K$ の中で孤立しているので、$C\cap K$ は離散空間である。コンパクトな離散空間は有限集合なので、$C\cap K$ は有限である。
逆に $C$ が通常の意味でコンパクトで $C\cap K$ が有限だとし、$C$ の二つの相対位相(K 位相から入るものと、通常の位相から入るもの)が一致することを示す。prop-k-open-sets の 1 により、K 位相の開集合 $V\setminus B$($V$ は通常の開集合、$B\subset K$)について $(V\setminus B)\cap C=(V\cap C)\setminus(B\cap C)$ である。$B\cap C$ は有限集合なので通常の閉集合であり、これは通常の位相の相対位相で開である。逆向きの包含は K 位相が細かいことによる。$C$ は通常の位相の相対位相でコンパクトなので、$\mathbb{R}_K$ でもコンパクトである。$\square$
1:$[0,1]\cap K=K$ は無限集合である。2:$N$ を $0$ の近傍とし、$N\subset C$ となるコンパクト集合 $C$ があったとする。prop-k-open-sets の 3 により $N\supset(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K$ となる $\varepsilon>0$ がある。thm-k-compact により $C$ は通常の意味でコンパクト、したがって通常の閉集合なので、$(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K$ の通常の閉包 $[-\varepsilon,\varepsilon]$ を含み、$K$ の点を無限個含む。これは thm-k-compact に反する。$x\ne0$ なら、$0$ を含まず $K$ と高々 1 点で交わる閉区間 $[x-\delta,x+\delta]$ は thm-k-compact によりコンパクトで、その内部は $x$ の近傍である。$\square$
局所コンパクト Hausdorff 空間は正則なので(正則空間 の命題「局所コンパクト Hausdorff 空間は正則」)、局所コンパクトでないことは thm-k-separation の 2 からも分かる。上の証明は、壊れているのがちょうど点 $0$ であることを示している。
$(0,\infty)$ は $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ の開集合なので、prop-k-open-sets の 3 によりその相対位相は通常のものである。$(-\infty,0]$ は $K$ と交わらないので、K 位相の開集合 $V\setminus B$($B\subset K$)との共通部分は $V\cap(-\infty,0]$ であり、やはり相対位相は通常のものである。よってどちらも弧状連結であり、とくに連結である。
1:$0$ の近傍 $(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K$ は正の数(たとえば $K$ に属さない正の無理数)を含むので、$0$ は $(0,\infty)$ の閉包に属する。連結集合 $A$ について $A\subset A'\subset\overline A$ なら $A'$ は連結なので、$\{0\}\cup(0,\infty)$ は連結である。これと連結集合 $(-\infty,0]$ は点 $0$ を共有するので、和 $\mathbb{R}$ は連結である。
2:$(-\infty,0]$ と $(0,\infty)$ はそれぞれ弧状連結なので、$a\le0< x$ を結ぶ道がないことを示せば、この二つが弧状連結成分である。さらに、$a$ と $x$ を結ぶ道があれば、$(-\infty,0]$ の中で $0$ と $a$ を結ぶ道とつないで $0$ と $x$ を結ぶ道が得られるので、$a=0$ の場合を示せば足りる。連続写像 $\gamma\colon[0,1]\to\mathbb{R}_K$ で $\gamma(0)=0$、$\gamma(1)=x$ となるものがあったとする。恒等写像 $\mathbb{R}_K\to\mathbb{R}$ との合成は通常の位相について連続なので、中間値の定理により $\gamma([0,1])\supset[0,x]$ である。一方 $\gamma([0,1])$ はコンパクト空間の連続像なので $\mathbb{R}_K$ でコンパクトであり、thm-k-compact により $K$ の点を有限個しか含まない。$[0,x]$ は $K$ の点 $1/n$($1/n\le x$)を無限個含むので、矛盾する。
3:$0$ の開近傍 $W:=(-1,1)\setminus K$ を考える。$n\ge1$ について $J_n:=(1/(n+1),1/n)$ は $W$ に含まれる開区間で、$W$ の開集合である。$J_n$ の $\mathbb{R}_K$ での閉包は通常の閉包 $[1/(n+1),1/n]$ に含まれ、両端は $K$ の点なので $W$ に属さない。よって $J_n$ は $W$ の閉集合でもある。$W$ の中で $0$ を含む連結成分は、$0$ を含まない開かつ閉な集合 $J_n$ のどれとも交わらないので、$W\setminus\bigcup_nJ_n=(-1,0]$ に含まれる。$\mathbb{R}_K$ が $0$ で局所連結なら、$0$ を含む連結な開集合 $U\subset W$ があり、$U$ は $0$ を含む成分に含まれるので $U\subset(-1,0]$ となる。しかし prop-k-open-sets の 3 により $U$ はある $(-\delta,\delta)\setminus K$ を含み、正の数を含むので矛盾する。ここで点 $0$ で局所連結であるとは、$0$ のどの近傍も $0$ を含む連結な開集合を含むことをいう(Mun00 §25、p. 161)。$\square$
$[0,1]$ がコンパクトでないこと、$\mathbb{R}_K$ が連結で弧状連結でないことは、Mun00 §27 Exercise 3(pp. 177–178)の演習である。
$\mathbb{R}_K$ は、よく知られた定理から一つの仮定を外すと結論が崩れることを示す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| Urysohnの距離化定理 の「正則」(Hausdorff だけを残す) | $\mathbb{R}_K$ | 第 2 可算なら距離化可能 |
| 「有界閉区間はコンパクト」の「位相は通常の位相」(細かい位相に替える) | $\mathbb{R}_K$ の $[0,1]$ | 有界閉区間はコンパクト |
| 「連結かつ局所弧状連結なら弧状連結」の局所弧状連結性 | $\mathbb{R}_K$ | 連結なら弧状連結 |
1 行目は cor-k-consequences、2 行目は cor-k-compact($[0,1]$ は通常の閉集合なので $\mathbb{R}_K$ でも閉集合である)、3 行目は thm-k-connected である($\mathbb{R}_K$ は点 $0$ で局所連結でないので、とくに局所弧状連結でない)。
$\mathbb{R}_K$ で閉集合 $K$ を一点につぶした商空間は $T_1$ だが Hausdorff でない。これは 商空間の分離公理 の例「反例:K 位相の直線で K をつぶした空間」で詳しく扱われており、Hausdorff 空間の閉な商写像による像が Hausdorff とは限らないことを示す(Mun00 §22 Exercise 6、p. 145 も参照)。同じ現象の原因は、thm-k-separation の 2 で $0$ と $K$ を分けられないことである。
「K 位相」の K は、取り除く集合の名前 $K=\{1/n\}$ に由来する記号であり、Mun00 §13(p. 82)の記法に従っている。$K$ が $0$ を含まず $0$ に集積することが、この空間の性質の源である。$K$ のかわりに通常の閉集合 $K\cup\{0\}$ を除いても、$(a,b)\setminus(K\cup\{0\})$ はもともと通常の開集合なので、通常の位相から何も変わらない。
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