擬距離(pseudometric)とは、距離の公理から「距離が $0$ なら同じ点」という条件だけを外した、二点に実数を与える関数である。開球で距離と同じように位相が定まり、その位相は第 1 可算で完全正則性条件と正規性条件を満たすが、$T_0$ になるのは擬距離が距離であるときに限る。距離が $0$ の点を同一視すると距離空間が得られ、それは $T_0$ 空間への連続写像がすべて経由する Kolmogorov 商である。さらに、位相が擬距離の族で定まることは完全正則性条件と同値であり、可算族なら一つの擬距離にまとめられる。
距離空間 の距離は、異なる二点の距離が正であること(分離性)を要求する。この条件だけを外し、異なる二点の距離が $0$ になることを許したものが 擬距離 である。「二点を区別しない測り方」は自然に現れる。ベクトルの一部の座標だけを見る測り方、関数を $L^p$ ノルムで測るとき、写像で送った先の距離で元の点を測るとき、などである。擬距離からも距離と同じく開球で位相が定まるが、距離が $0$ の二点は位相でも区別できなくなる。
この記事では、擬距離とその位相を定義し、次を示す。擬距離の位相は完全正則性条件と正規性条件を満たし、$T_0$ であることと距離であることが同値になること(prop-pseudometric-topology)。距離が $0$ の点を同一視すると距離空間が得られ、それが連続写像についての普遍性をもつこと(thm-pseudometric-identification)。位相空間の位相が擬距離の族で定まることと、完全正則性条件を満たすことが同値であること(thm-pseudometric-completely-regular)。
集合 $X$ 上の関数 $d\colon X\times X\to\mathbb{R}$ が次の 3 条件を満たすとき、$d$ を $X$ 上の 擬距離(pseudometric)といい、組 $(X,d)$ を 擬距離空間 という。すべての $x,y,z\in X$ について
擬距離は非負である。$0=d(x,x)\le d(x,y)+d(y,x)=2d(x,y)$ だからである(距離空間 の記事の命題「非負性はほかの条件から従う」と同じ計算)。
$(X,d)$ を擬距離空間とする。$x\in X$、$r>0$ について $B_d(x,r):=\{y\in X\mid d(x,y)< r\}$ を 開球 という。部分集合 $U\subset X$ で、各 $x\in U$ について $B_d(x,r)\subset U$ となる $r>0$ があるものの全体 $\tau_d$ を、$d$ が 定める位相(誘導する位相)という。位相空間 $(X,\tau)$ について $\tau=\tau_d$ となる擬距離 $d$ があるとき、$X$ は 擬距離化可能 であるという。
$\tau_d$ が位相であり、開球全体がその開基で、各開球が開集合であることは、距離の場合と同じ証明で示せる。距離空間 の記事の命題「開球が生成する位相」と系「開球と開集合」の証明は、三角不等式と対称性だけを使い、分離性を使わないからである。
3 条件を満たす $d\colon X\times X\to[0,\infty]$ を 拡張擬距離 という。距離空間の空でない部分集合の間の Hausdorff 距離(Gromov-Hausdorff距離 の記事の定義「部分集合の間の Hausdorff 距離」)はその例である。拡張擬距離 $d$ に対して $d'(x,y):=\min\{d(x,y),1\}$ は値が有限の擬距離で(三角不等式は prop-pseudometric-countable の証明の最初の段と同じ計算で確かめられる)、$r\le1$ のとき $B_{d'}(x,r)=B_d(x,r)$ なので、$d$ と同じ位相を定める。位相だけを問題にするときは、擬距離は値が $1$ 以下だとしてよい。
$\mathbb{R}^2$ 上の $p((x_1,x_2),(y_1,y_2)):=|x_1-y_1|$ は擬距離であり、$(0,0)\ne(0,1)$ なのに $p((0,0),(0,1))=0$ なので距離ではない(距離空間 の記事の定義の直後の例)。同じように、実ベクトル空間 $V$ 上の関数 $q\colon V\to\mathbb{R}$ が $q(\lambda v)=|\lambda|q(v)$ と $q(v+w)\le q(v)+q(w)$ を満たす(半ノルムである)とき、$d(v,w):=q(v-w)$ は擬距離であり、距離であることと「$q(v)=0$ なら $v=0$」は同値である。たとえば $[0,1]$ 上の実数値連続関数の空間で $q(f):=|f(0)|$ とすると、$d(f,g)=|f(0)-g(0)|$ は $0$ での値が同じ関数どうしを区別しない。
$(M,\rho)$ を擬距離空間、$X$ を集合、$f\colon X\to M$ を写像とし、$d_f(x,y):=\rho(f(x),f(y))$ とおく。$d_f$ は $X$ 上の擬距離であり、$\rho$ が距離のとき、$d_f$ が距離であることと $f$ が単射であることは同値である。さらに
$$
\tau_{d_f}=\{f^{-1}(W)\mid W\text{ は }(M,\tau_\rho)\text{ の開集合}\}
$$
であり、$\tau_{d_f}$ は $f$ を連続にする最も粗い位相(始位相)である。
要点は $B_{d_f}(x,r)=f^{-1}(B_\rho(f(x),r))$ である。
擬距離の 3 条件は $\rho$ の 3 条件から従う。$\rho$ が距離なら、$d_f(x,y)=0\iff f(x)=f(y)$ なので、後半の同値が分かる。$W$ が開集合で $x\in f^{-1}(W)$ なら、$B_\rho(f(x),r)\subset W$ となる $r$ について $B_{d_f}(x,r)\subset f^{-1}(W)$ なので、$f^{-1}(W)\in\tau_{d_f}$ である。逆に $U\in\tau_{d_f}$ とし、$B_{d_f}(x,r)\subset U$ となる組 $(x,r)$($x\in U$)すべてにわたる開球 $B_\rho(f(x),r)$ の和集合を $W$ とする。$W$ は開集合で、$f^{-1}(W)$ は $B_{d_f}(x,r)$ たちの和集合なので $U$ に含まれ、各 $x\in U$ を含むので $U=f^{-1}(W)$ である。$\square$
そのほかの例を挙げる。恒等的に $0$ の擬距離は密着位相を定める(密着位相 の記事の例「恒等的に 0 の擬距離」)。測度空間上の $p$ 乗可積分な関数全体($1\le p<\infty$)に $\|f-g\|_p$ を考えると擬距離になり、ほとんど至るところ等しい関数どうしの距離が $0$ になる(商空間の分離公理 の例「擬距離空間の Kolmogorov 商」)。測度空間の可測集合の間の $\mu(A\mathbin{\triangle}B)$ は拡張擬距離であり、測度が有限なら擬距離である(対称差 の記事の命題「測度による擬距離」)。
$(X,d)$ を擬距離空間とし、$X$ に $\tau_d$ を入れる。
要点は、点と集合の距離 $d(\cdot,A)$ が連続関数で、その零点の集合がちょうど閉包になることである。
1:$a\in A$ について $d(x,a)\le d(x,y)+d(y,a)$ なので、下限をとって $d(x,A)\le d(x,y)+d(y,A)$ である。$x,y$ を入れ替えれば不等式を得る。よって $d(y,x)<\varepsilon$ なら $|d(y,A)-d(x,A)|<\varepsilon$ であり、$x\mapsto d(x,A)$ は連続である。$x\in\overline A$ であることは、すべての $r>0$ で $B_d(x,r)$ が $A$ と交わること、すなわちすべての $r>0$ で $d(x,A)< r$ であることと同値であり、これは $d(x,A)=0$ と同値である。$A=\{x\}$ とすれば最後の主張になる。
2:$d(x,y)=0$ とする。$x$ を含む開集合 $U$ は、ある $B_d(x,r)$ を含み、$y\in B_d(x,r)$ なので $y\in U$ である。$x,y$ を入れ替えても同じである。逆に $d(x,y)=r>0$ なら、開集合 $B_d(x,r)$ は $x$ を含み $y$ を含まない。
3:(b) ⇒ (a) は定義から従う。(a) ⇒ (c):$x\ne y$ で $d(x,y)=0$ なら、2 により $x,y$ の一方だけを含む開集合がなく、$T_0$ でない。(c) ⇒ (b):$x\ne y$ なら $r:=d(x,y)>0$ で、$B_d(x,r/2)$ と $B_d(y,r/2)$ は三角不等式により交わらない。
4:$\{B_d(x,1/n)\mid n\ge1\}$ が $x$ の基本近傍系である。$F$ が閉集合で $x\notin F$ のとき、$F=\emptyset$ なら定数関数 $0$ を使う。$F\ne\emptyset$ なら 1 により $\delta:=d(x,F)>0$ で、$f(z):=\max\{0,1-d(z,F)/\delta\}$ は連続、$f(x)=0$、$F$ の上で $f=1$ である。互いに素な空でない閉集合 $A,B$ については、$d(z,A)=d(z,B)=0$ なら 1 により $z\in A\cap B$ となるので分母が正で、$g(z):=d(z,A)/(d(z,A)+d(z,B))$ は連続であり、$g^{-1}([0,1/2))$ と $g^{-1}((1/2,1])$ が $A,B$ を分ける開集合である。$A,B$ の一方が空なら $\emptyset$ と $X$ で分けられる。$\square$
2 により、$d(x,y)=0$ の二点は位相では見分けがつかない。3 は、擬距離空間が $T_0$ になれば自動的に距離空間になることを述べている。Hausdorff でない例としては、ex-pseudometric-seminorm の $\mathbb{R}^2$ で、定数の点列 $(0,0),(0,0),\dots$ が $(0,0)$ にも $(0,1)$ にも収束する。
距離が $0$ の点どうしを一つの点にまとめると、距離空間が得られる。
$(X,d)$ を擬距離空間とし、$x\sim y\iff d(x,y)=0$ と定める。
1:$d(x,x)=0$ と対称性から $\sim$ は反射的かつ対称的であり、$d(x,y)=d(y,z)=0$ なら $d(x,z)\le0+0$ なので推移的である。$x\sim x'$、$y\sim y'$ なら三角不等式により $d(x',y')\le d(x',x)+d(x,y)+d(y,y')=d(x,y)$ で、入れ替えて逆向きの不等式も得るので $d(x,y)=d(x',y')$ である。よって $\hat d$ は定まり、擬距離の 3 条件を $d$ から受け継ぐ。$\hat d([x],[y])=0$ なら $x\sim y$、すなわち $[x]=[y]$ なので、$\hat d$ は距離である。最後の式は定義そのものである。
2:1 の式から $q^{-1}(B_{\hat d}(q(x),r))=B_d(x,r)$ と $q(B_d(x,r))=B_{\hat d}(q(x),r)$ が成り立つ。前者から、$W$ が開集合なら $q^{-1}(W)$ は $\tau_d$ の開集合であり、$q$ は連続である。逆に $U\in\tau_d$ とする。prop-pseudometric-topology の 2 により、$x\in U$ と $x\sim y$ から $y\in U$ が従うので、$U=q^{-1}(q(U))$ である。$x\in U$ について $B_d(x,r)\subset U$ なら $B_{\hat d}(q(x),r)=q(B_d(x,r))\subset q(U)$ なので、$q(U)$ は開集合である。よって $U$ は開集合 $q(U)$ の逆像であり、$q$ は開写像である。商位相との一致:$\hat X$ の部分集合 $W$ について $q^{-1}(W)\in\tau_d$ なら、$q$ が開写像で全射なので $W=q(q^{-1}(W))$ は $\hat d$ の開集合である。逆は $q$ の連続性である。
3:$x\sim y$ で $f(x)\ne f(y)$ だったとすると、$Z$ が $T_0$ なので、$f(x),f(y)$ の一方だけを含む開集合 $W$ があり、$f^{-1}(W)$ は $x,y$ の一方だけを含む開集合になる。これは prop-pseudometric-topology の 2 に反する。よって $f$ は各同値類の上で一定で、$\hat f([x]):=f(x)$ が定まり、$f=\hat f\circ q$ である。$q$ は全射なので $\hat f$ はただ一つである。$Z$ の開集合 $W$ について $q^{-1}(\hat f^{-1}(W))=f^{-1}(W)$ は開集合なので、2 の商位相との一致により $\hat f^{-1}(W)$ は開集合であり、$\hat f$ は連続である。最後の不等式は $\rho(\hat f([x]),\hat f([y]))=\rho(f(x),f(y))\le C\,d(x,y)=C\,\hat d([x],[y])$ である。$\square$
prop-pseudometric-topology の 2 により、$\sim$ は「含まれる開集合が同じ」という関係に一致する。したがって $\hat X$ は位相空間 $X$ の Kolmogorov 商(商空間の分離公理 の定理「Kolmogorov 商の分離性」)にほかならない。3 は、$X$ から $T_0$ 空間への連続写像がすべて $\hat X$ を経由すること、つまり $\hat X$ が「$X$ を $T_0$ にするいちばん効率のよい方法」であることを述べている。$L^p$ ノルムの場合、$\hat X$ はほとんど至るところ等しい関数を同一視した $L^p(\mu)$ である。
位相空間 $X$ が擬距離化可能であることと、その Kolmogorov 商 $X_0$ が距離化可能空間であることは同値である。とくに、擬距離化可能な $T_0$ 空間は距離化可能である。
$X$ の位相が擬距離 $d$ で定まるなら、thm-pseudometric-identification の 2 とその直後の注意により、$X_0=\hat X$ の位相は距離 $\hat d$ で定まる。逆に $X_0$ の位相が距離 $\rho$ で定まるとし、$q\colon X\to X_0$ を商写像として $d(x,y):=\rho(q(x),q(y))$ とおく。ex-pseudometric-pullback により $\tau_d$ は $X_0$ の開集合の逆像の全体であり、商空間の分離公理 の定理「Kolmogorov 商の分離性」の (i) により、これは $X$ の開集合の全体に等しい。最後の主張は prop-pseudometric-topology の 3 による。$\square$
一つの擬距離では足りない位相も、擬距離をたくさん集めると記述できることがある。
$X$ を集合、$\mathcal{D}$ を $X$ 上の擬距離の族とする。$x\in X$、有限部分族 $\mathcal{F}\subset\mathcal{D}$、$r>0$ について $B_{\mathcal{F}}(x,r):=\bigcap_{d\in\mathcal{F}}B_d(x,r)$ とおく($\mathcal{F}=\emptyset$ なら $X$)。各 $x\in U$ について $B_{\mathcal{F}}(x,r)\subset U$ となる有限の $\mathcal{F}$ と $r>0$ があるような $U\subset X$ の全体 $\tau_{\mathcal{D}}$ を、$\mathcal{D}$ が 定める位相 という。
$\tau_{\mathcal{D}}$ は位相であり、すべての $\tau_d$($d\in\mathcal{D}$)を含む最も粗い位相である。
和集合で閉じることは定義から分かる。$U,U'\in\tau_{\mathcal{D}}$、$x\in U\cap U'$ で $B_{\mathcal{F}}(x,r)\subset U$、$B_{\mathcal{F}'}(x,r')\subset U'$ なら、$B_{\mathcal{F}\cup\mathcal{F}'}(x,\min\{r,r'\})\subset U\cap U'$ である。$\mathcal{F}=\{d\}$ ととれば $\tau_d\subset\tau_{\mathcal{D}}$ が分かる。逆に $y\in B_{\mathcal{F}}(x,r)$ なら $s:=\min_{d\in\mathcal{F}}(r-d(x,y))>0$ について三角不等式から $B_{\mathcal{F}}(y,s)\subset B_{\mathcal{F}}(x,r)$ なので、$\tau_{\mathcal{D}}$ の開集合は、有限個の開球の共通部分 $B_{\mathcal{F}}(x,r)$ の和集合である。これはすべての $\tau_d$ を含む位相に必ず属する。
位相空間 $(X,\tau)$ について次は同値である。
3 ⇒ 2 は明らかである。
2 ⇒ 1:$F$ を閉集合、$x\notin F$ とする。$X\setminus F$ は $x$ を含む開集合なので、有限個の $d_1,\dots,d_k\in\mathcal{D}$ と $r>0$ で $B_{\{d_1,\dots,d_k\}}(x,r)\subset X\setminus F$ となるものがある。$m(z):=\max_id_i(x,z)$($k=0$ なら $m=0$)とし、$f(z):=\min\{1,m(z)/r\}$ とおく。prop-pseudometric-topology の 1 により $z\mapsto d_i(x,z)=d_i(z,\{x\})$ は $\tau_{d_i}$ について連続で、$\tau_{d_i}\subset\tau$ なので $\tau$ についても連続である。よって $f$ は連続で、$f(x)=0$ である。$z\in F$ なら $z\notin B_{\{d_1,\dots,d_k\}}(x,r)$ なので、ある $i$ で $d_i(x,z)\ge r$ となり、$f(z)=1$ である($k=0$ のときは $X\setminus F=X$ で $F=\emptyset$ である)。
1 ⇒ 3:$\sigma:=\tau_{\mathcal{D}_C}$ とおく。連続関数 $f$ について、ex-pseudometric-pullback により $\tau_{d_f}$ は $[0,1]$ の開集合の $f$ による逆像の全体なので、$\tau_{d_f}\subset\tau$ である。$\sigma$ はこれらを含む最も粗い位相なので $\sigma\subset\tau$ である。逆に $U\in\tau$、$x\in U$ とし、閉集合 $F:=X\setminus U$ について 1 の $f$ をとる。$z\in B_{d_f}(x,1)$ なら $|f(z)|<1$ なので $z\notin F$ である。よって $B_{d_f}(x,1)\subset U$ であり、$U\in\sigma$ である。
最後の主張:$X$ が $T_{3.5}$ なら一点集合 $\{y\}$ は閉集合なので、$x\ne y$ について 1 から $f(x)=0$、$f(y)=1$ となる $f$ があり、$d_f(x,y)=1$ である。よって $\mathcal{D}_C$ は点を分離する。逆に点を分離する $\mathcal{D}$ で $\tau=\tau_{\mathcal{D}}$ なら、$x\ne y$ について $d(x,y)=:r>0$ となる $d\in\mathcal{D}$ をとると、$B_d(x,r/2)$ と $B_d(y,r/2)$ は交わらない開集合なので $X$ は Hausdorff、とくに $T_1$ であり、1 と合わせて $T_{3.5}$ である。$\square$
この定理から、完全正則性条件は「位相が距離のような測り方の集まりで記述できる」ことの言い換えだと分かる。点を分離し、二つの元の最大値をとる操作で閉じた擬距離の族は、分離的な一様空間の一様構造を定める(Eng89 Proposition 8.1.18、p. 433。この記事では証明しない)。完全正則性条件と一様化可能性の関係は 一様空間 の定理「一様化可能性の判定」が述べている。族が可算なら、一つの擬距離にまとめられる。
$\mathcal{D}=\{d_1,d_2,\dots\}$ を $X$ 上の擬距離の可算族とし(有限族でもよい)、
$$
d(x,y):=\sum_{n}2^{-n}\min\{d_n(x,y),1\}
$$
とおく。$d$ は擬距離で、$\tau_d=\tau_{\mathcal{D}}$ である。とくに、可算個の擬距離の族で定まる位相は擬距離化可能であり、族が点を分離すれば $d$ は距離である。
要点は、$d$ の小さい球が有限個の $d_n$ の小さい球に挟まれることである。
段 1($\min\{d_n,1\}$ は擬距離):三角不等式だけが問題である。$\min\{d_n(x,y),1\}$ と $\min\{d_n(y,z),1\}$ の一方が $1$ なら右辺は $1$ 以上で左辺 $\min\{d_n(x,z),1\}$ は $1$ 以下である。どちらも $1$ 未満なら右辺は $d_n(x,y)+d_n(y,z)\ge d_n(x,z)$ である。級数は $1$ 以下に収束するので、$d$ は擬距離である。
段 2($\tau_{\mathcal{D}}\subset\tau_d$):$r\le1$ とする。$d(x,y)<2^{-n}r$ なら $2^{-n}\min\{d_n(x,y),1\}<2^{-n}r$ なので $d_n(x,y)< r$ である。よって $B_d(x,2^{-N}r)\subset B_{\mathcal{F}}(x,r)$($\mathcal{F}\subset\{d_1,\dots,d_N\}$)であり、$\tau_{\mathcal{D}}$ の開集合は $\tau_d$ の開集合である。
段 3($\tau_d\subset\tau_{\mathcal{D}}$):$s>0$ について $2^{-N}< s/2$ となる $N$ をとる。$y\in B_{\{d_1,\dots,d_N\}}(x,s/2)$ なら、$d(x,y)<\sum_{n\le N}2^{-n}(s/2)+\sum_{n>N}2^{-n}< s/2+2^{-N}< s$ である。よって $B_d(x,s)$ は $x$ のまわりに $\tau_{\mathcal{D}}$ の開集合を含み、三角不等式から $B_d(x,s)$ の各点 $y$ のまわりでも同じこと(半径 $s-d(x,y)$ で)が言えるので、$\tau_d$ の開集合は $\tau_{\mathcal{D}}$ の開集合である。
最後の主張:族が点を分離するなら、$x\ne y$ である $d_n(x,y)>0$ から $d(x,y)>0$ である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 距離の分離性「$d(x,y)=0$ なら $x=y$」 | $\mathbb{R}^2$ 上の $\lvert x_1-y_1\rvert$ | 位相が Hausdorff であること |
| thm-pseudometric-completely-regular の完全正則性条件 | K位相 の実数直線 $\mathbb{R}_K$ | 位相が擬距離の族で定まること |
| prop-pseudometric-countable の「可算」 | 非可算個の $\{0,1\}$ の直積 $\{0,1\}^{\mathbb{R}}$ | 一つの擬距離で位相が定まること |
| 対称性 $d(x,y)=d(y,x)$ | $\mathbb{R}$ 上の $e(x,y)=y-x$($y\ge x$)、$1$($y< x$) | 開球の生成する位相が擬距離化可能であること |
1 行目:prop-pseudometric-topology の直後に見たとおり、$(0,0)$ と $(0,1)$ を交わらない開集合で分けられない。
2 行目:$\mathbb{R}_K$ は Hausdorff だが正則性条件を満たさない(K位相 の記事)。完全正則性条件は正則性条件を導く(分離関数 $f$ について $f^{-1}([0,1/2))$ と $f^{-1}((1/2,1])$ が分ける)ので、thm-pseudometric-completely-regular の 2 ⇒ 1 により、$\mathbb{R}_K$ の位相を定める擬距離の族はない。
3 行目:$\{0,1\}$ に離散位相を入れ、直積 $X:=\{0,1\}^{\mathbb{R}}$ に直積位相を入れる。直積位相は射影の族の始位相であり、$d_t(x,y):=|x_t-y_t|$($t\in\mathbb{R}$)の族が定める位相に等しい(ex-pseudometric-pullback により $\tau_{d_t}$ は射影 $x\mapsto x_t$ を連続にする最も粗い位相で、$\tau_{\mathcal{D}}$ はそれらすべてを含む最も粗い位相だからである)。一方 $X$ はどの点 $x$ でも第 1 可算でない。$x$ の近傍 $V_1,V_2,\dots$ が与えられたとすると、各 $V_n$ は有限個の座標の集合 $S_n$ で決まる基本近傍を含み、$S:=\bigcup_nS_n$ は可算なので $t\notin S$ がとれる。開集合 $W:=\{y\mid y_t=x_t\}$ はどの $V_n$ も含まない($V_n$ は第 $t$ 座標だけを変えた点を含む)。擬距離の位相は第 1 可算なので(prop-pseudometric-topology の 4)、$X$ は擬距離化可能でない。
4 行目:$e(x,x)=0$ は定義から分かる。三角不等式 $e(x,z)\le e(x,y)+e(y,z)$ を確かめる。$z< x$ なら左辺は $1$ であり、$y< x$ のときは $e(x,y)=1$、$y\ge x$ のときは $y>z$ なので $e(y,z)=1$ である。$z\ge x$ なら左辺は $z-x$ であり、$x\le y\le z$ のときは右辺が $(y-x)+(z-y)=z-x$、$y>z$ のときは $e(x,y)=y-x>z-x$、$y< x$ のときは $e(y,z)=z-y>z-x$ である。一方 $e(0,1/2)=1/2$、$e(1/2,0)=1$ なので、$e$ は対称でない。$r\le1$ のとき $\{y\mid e(x,y)< r\}=[x,x+r)$ なので、開球の生成する位相は Sorgenfrey直線 の位相である。Sorgenfrey 直線は $T_1$ で可分だが第 2 可算でない(Sorgenfrey直線 の命題「$T_1$ 性と正則性」「第1可算性と可分性」「第2可算公理を満たさないこと」)。擬距離化可能なら cor-pseudometrizable-kolmogorov により距離 $d$ で位相が定まり、可算な稠密集合 $Q$ について開球 $B_d(p,1/n)$($p\in Q$、$n\ge1$)が可算開基になる($x\in U$ で $B_d(x,2/n)\subset U$ なら、$p\in Q\cap B_d(x,1/n)$ について $x\in B_d(p,1/n)\subset U$)ので、矛盾する。
擬距離をわざわざ考える理由は二つある。一つは、関数空間などで「本来は同じとみなしたいもの」を一旦区別したまま扱えることで、同一視は最後に thm-pseudometric-identification でまとめて行えばよい。もう一つは、thm-pseudometric-completely-regular のように、一つの距離では記述できない位相を、擬距離をたくさん並べて記述できることである。後者で使った $d_f(x,y)=|f(x)-f(y)|$ は、関数 $f$ が見分けない点を区別しないので、$f$ が単射でない限り距離にならない(ex-pseudometric-pullback)。この記事の擬距離は Eng89 §4.1(p. 248)の pseudometric と同じものである。
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