二重懸垂定理

同義語:double suspension theoremCannon–Edwardsの定理二重懸垂double suspension多重懸垂定理二重懸垂予想

概要

二重懸垂定理(double suspension theorem)とは、任意のホモロジー $n$ 球面 $H$ について、2 回懸垂した空間 $\Sigma^2H$ が球面 $S^{n+2}$ と同相であるという定理で、Edwards と Cannon による。$H$ が単連結でなくてもよく、Poincaré ホモロジー球面 $P$ の懸垂 $\Sigma P$ は懸垂点で多様体にならないが、二重懸垂は $S^5$ になる。1 回の懸垂ではリンクの基本群が障害になるが、2 回目の懸垂でリンクは単連結になる。帰結として、多様体でない $\mathring{c}P$ と $\mathbb{R}$ の積が $\mathbb{R}^5$ と同相になり、$S^5$ に組合せ的でない三角形分割ができる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ホモロジー球面, 結(位相), 錐(位相), 三角形分割可能な多様体

二重懸垂定理(double suspension theorem)とは、任意のホモロジー $n$ 球面 $H$(整数係数のホモロジー群が $S^n$ と同じ閉位相多様体)について、2 回懸垂した空間 $\Sigma^2H$ が球面 $S^{n+2}$ と同相であるという定理である。Edwards がまず多くの場合に証明し、Cannon が一般の場合を完成させた(Cannon–Edwards の定理)。
この定理の驚きは、$H$ が単連結でなくてもよいことにある。たとえば Poincaré ホモロジー球面 $P$ は基本群が位数 $120$ の群で、1 回懸垂した $\Sigma P$ は懸垂点で多様体にならない。ところがもう 1 回懸垂すると、懸垂の「継ぎ目」の特異性が消えて $S^5$ になる。その結果、$S^5$ に組合せ的でない三角形分割ができ、三角形分割された空間が位相多様体になるための条件が「リンクのホモロジーと頂点のリンクの単連結性」だけで述べられるようになった(三角形分割可能な多様体)。
この記事では、定理そのものは所在を示して引用する。そのうえで、$k$ 重懸垂 $\Sigma^kY$ の局所構造(懸垂の球面の点のまわりが開錐と Euclid 空間の積になること)、$\Sigma^kY$ が多様体になるには $Y$ がホモロジー球面であることが必要なこと、1 回の懸垂ではリンクの基本群が障害になるが 2 回目の懸垂でその障害が消えることを完全に証明する。帰結として、多様体でない開錐 $\mathring cP$ と $\mathbb R$ の積が $\mathbb R^5$ と同相であることを導く。

定義と主張

空間 $W$ の懸垂 $\Sigma W$ は、$W\times[-1,1]$ の $W\times\{1\}$ と $W\times\{-1\}$ をそれぞれ 1 点 $v_+$、$v_-$ につぶした空間であり、2 点空間 $S^0$ との結(位相) $S^0\ast W$ と同じものである(結(位相) の例「錐と懸垂」)。$\Sigma^1W:=\Sigma W$、$\Sigma^kW:=\Sigma(\Sigma^{k-1}W)$ とおき、$\Sigma^2W$ を二重懸垂という。$\Sigma S^m\cong S^{m+1}$ である(結(位相) の命題「球面のジョイン公式」)。
開錐 $\mathring cW$ を、$W\times[0,1)$ の $W\times\{0\}$ を 1 点 $v$(頂点)につぶした空間とする。$W$ がコンパクトなら、$W\times[0,t)$ の像 $C_t$($0< t\le1$)は頂点の近傍の基本系であり(チューブ補題による)、$C_t\setminus\{v\}\cong W\times(0,t)$ である。$\mathring cW$ は頂点へ縮む写像 $([w,s],u)\mapsto[w,(1-u)s]$ により可縮空間である。$\Sigma W$ から $v_-$ を除いた空間は、$v_+$ を頂点とする開錐 $\mathring cW$ と同相である。
ホモロジー $n$ 球面は ホモロジー球面 の定義「ホモロジー球面」のとおり、整数係数のホモロジー群が $S^n$ と同じ連結な閉位相多様体とする。

二重懸垂定理

$H$ をホモロジー $n$ 球面とすると、二重懸垂 $\Sigma^2H$ は $S^{n+2}$ と同相である。したがって、すべての $k\ge2$ について $\Sigma^kH\cong S^{n+k}$ である。

1 回の懸垂との違い

$H$ が球面でないホモロジー球面(たとえば Poincaré ホモロジー球面)のとき、1 回の懸垂 $\Sigma H$ は多様体ではない。懸垂点の近くの局所的な形が $H$ を底とする錐になり、$H$ が単連結でないからである(後の命題「1回の懸垂の障害」)。定理は、もう 1 回懸垂すると多様体になるばかりか、球面と同相になると主張する。

この記事では証明しない。主張は Edw06 の序(p. v)の Double Suspension Theorem であり、同所によれば Edwards 自身は $n+k\ge6$($k\ge2$)で $\Sigma^kH\cong S^{n+k}$ を示し、残る $\Sigma^2H^3\cong S^5$ は Cannon の一般的な定理(Annals of Mathematics 110 (1979), 83–112)の帰結として得られた(Edw06 の Abstract と序 p. v)。後半は $\Sigma S^m\cong S^{m+1}$ を繰り返し使えばよい。
証明の流れは次のとおりである(Edw80 §7–§8, pp. 117–119)。

  • 任意の $l\ge2$ について、球面 $S^{n+l}$ から $\Sigma^lH$ への細胞的写像(cell-like map。各点の逆像が、どの近傍の中でも 1 点に縮められるコンパクト集合であるような写像)が作れる(p. 119)。
  • Cannon は、空間 $X$ の disjoint disc property(2 つの 2 次元円板からの写像を、いくらでも近い、像の交わらない写像で近似できること)を導入した(p. 117)。Edwards の近似定理によれば、次元 $m\ge5$ の多様体から ANR $X$ への細胞的写像が同相写像で近似できることと、$X$ が disjoint disc property をもつことは同値である(p. 118)。
  • $n\ge3$ なら $\Sigma^lH$($l\ge2$)は disjoint disc property をもつ(p. 119)。このとき次元は $n+l\ge5$ なので、細胞的写像 $S^{n+l}\to\Sigma^lH$ は同相写像で近似され、$\Sigma^lH\cong S^{n+l}$ となる。$n\le2$ のホモロジー $n$ 球面は $S^n$ と同相なので、この場合は $\Sigma S^m\cong S^{m+1}$ から直ちに従う。
    Edw06 は、Mazur のホモロジー 3 球面の二重懸垂が $S^5$ であること(Part I)、可縮な多様体の境界になるホモロジー $n$ 球面の二重懸垂が球面であること(Part II。$n\ge4$ のすべてのホモロジー球面を含む)、任意のホモロジー 3 球面の二重懸垂が $S^5$ の細胞的な像であること(Part III)、任意のホモロジー 3 球面の三重懸垂が $S^6$ であること(Part IV)を示している(Abstract と序、pp. iv–v)。

懸垂の局所構造

$k\ge1$ とし、$Y$ を空でないコンパクト Hausdorff 空間とする。$\Sigma^kY$ の中の懸垂の球面 $S_k$ を、$S_1:=\{v_+,v_-\}\subset\Sigma Y$、$S_k:=\Sigma S_{k-1}\subset\Sigma(\Sigma^{k-1}Y)$(部分空間の懸垂)で定める。$S_k\cong S^{k-1}$ である。

開錐の積

$X$、$Z$ を空でないコンパクト Hausdorff 空間とすると、頂点の組を頂点に写す同相写像 $\mathring cX\times\mathring cZ\cong\mathring c(X\ast Z)$ がある。これは、空でない閉部分空間 $X'\subset X$ について $\mathring cX'\times\mathring cZ$ を $\mathring c(X'\ast Z)$ に写し、$\{v_X\}\times\mathring cZ$ を端 $Z\subset X\ast Z$ の上の開錐 $\mathring cZ$ に写す。とくに $\mathring cW\times\mathbb R\cong\mathring c(\Sigma W)$ で、$(v,0)$ は頂点に、$\{v\}\times\mathbb R$ は 2 つの懸垂点の上の開錐に写る。

要点:閉じた錐についての同相写像 $C(X\ast Z)\cong CX\times CZ$ が、底面を「どちらかの成分が底面にある点」の集合に写すことを確かめる。

詳しい証明を開く

結(位相) の命題「錐との関係」は、閉じた錐(頂点は $s=1$、底面は $s=0$)について同相写像 $\bar\Psi\colon C(X\ast Z)\to CX\times CZ$、$\bigl[\,[x,z,t],s\,\bigr]\mapsto\bigl([x,\alpha(t,s)],[z,\beta(t,s)]\bigr)$ を与える。ここで $(\alpha,\beta)(t,s)=(1-s)\ell(t)+s(1,1)$、$\ell$ は正方形の 2 辺 $\{0\}\times I\cup I\times\{0\}$ を動く道であり、$s=\min\{\alpha,\beta\}$ である。したがって $s=0$(底面)であることは $\alpha=0$ または $\beta=0$、すなわち像の少なくとも一方の成分が底面にあることと同値であり、$\bar\Psi$ は底面の補集合を、両成分が底面にない点の集合 $(CX\setminus X)\times(CZ\setminus Z)$ の上に同相に写す。閉じた錐から底面を除いた空間は、$s\mapsto1-s$ により開錐と同相であり、$s=1$ の頂点は $(v_X,v_Z)$ に写る。$\bar\Psi$ の式は $x$ を動かさないので、$X'\ast Z$ の点の錐は $CX'\times CZ$ に写る。端 $Z$($t=1$)の上では $(\alpha,\beta)(1,s)=(1-s)(1,0)+s(1,1)=(1,s)$ なので、像は $(v_X,[z,s])$ であり、$\{v_X\}\times\mathring cZ$ にちょうど写る。後半は $Z=S^0$ とし、$\mathring cS^0$ が 2 本の半開区間を端点で貼り合わせた開区間で、頂点が $0$ に対応することと、$W\ast S^0\cong S^0\ast W=\Sigma W$(結(位相) の命題「関手性と可換性」)から従う。$\square$

懸垂の局所模型

$k\ge1$、$Y$ を空でないコンパクト Hausdorff 空間とする。

  1. $\Sigma^kY\setminus S_k$ は $Y\times\mathbb R^k$ と同相である。
  2. $S_k$ の各点 $x$ は、$(v,0)\in\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ に対応する同相写像で $\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ と同相な開近傍をもつ。この開近傍の中で $S_k$ は $\{v\}\times\mathbb R^{k-1}$ に対応する。
  3. $\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ は、$(v,0)$ を頂点に写す同相写像で $\mathring c(\Sigma^{k-1}Y)$ と同相である($\Sigma^0Y:=Y$)。$k\ge2$ なら、この同相写像で $\{v\}\times\mathbb R^{k-1}$ は懸垂の球面の上の開錐 $\mathring cS_{k-1}$ に対応する。
  4. $Y$ が $n$ 次元閉位相多様体なら、$\Sigma^kY$ が位相多様体であることと、$\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ が位相多様体であることは同値であり、そのとき $\Sigma^kY$ の次元は $n+k$ である。

3。 $k$ についての帰納法による。$k=1$ は自明である。lem-ds-cone-product の後半を $W=\Sigma^{k-2}Y$(コンパクト Hausdorff。結(位相) の系「コンパクトHausdorff空間のジョイン」)に使うと $\mathring c(\Sigma^{k-1}Y)\cong\mathring c(\Sigma^{k-2}Y)\times\mathbb R$ であり、帰納法の仮定から $\mathring cY\times\mathbb R^{k-2}\times\mathbb R$ と同相で、頂点どうしが対応する。$S_{k-1}$ について:$k=2$ では $S_1$ は $Y\ast S^0$ の端 $S^0$ なので、lem-ds-cone-product の端についての主張により $\mathring cS_1$ は $\{v\}\times\mathbb R$ に対応する。$k\ge3$ では $S_{k-1}=\Sigma S_{k-2}$ は $\Sigma^{k-2}Y\ast S^0$ の部分空間 $S_{k-2}\ast S^0$ なので、lem-ds-cone-product の $X'$ についての主張により $\mathring cS_{k-1}$ は $\mathring cS_{k-2}\times\mathbb R$ に対応し、帰納法の仮定からこれは $\{v\}\times\mathbb R^{k-2}\times\mathbb R$ に対応する。
1 と 2。 $k$ についての帰納法による。$k=1$:$\Sigma Y\setminus\{v_\pm\}=Y\times(-1,1)\cong Y\times\mathbb R$ であり、$v_+$ は $\Sigma Y\setminus\{v_-\}\cong\mathring cY$ という開近傍をもつ($v_-$ も同様)。$k\ge2$ とし、$W:=\Sigma^{k-1}Y$ について主張が成り立つとする。$\Sigma W$ の新しい 2 つの懸垂点を $w_\pm$ とすると、$\Sigma W\setminus\{w_\pm\}=W\times(-1,1)$ であり、この中で $S_k\setminus\{w_\pm\}=S_{k-1}\times(-1,1)$ である。よって
$$ \Sigma^kY\setminus S_k=(W\setminus S_{k-1})\times(-1,1)\cong Y\times\mathbb R^{k-1}\times\mathbb R $$
である。$S_{k-1}\times(-1,1)$ の点 $(x,u)$ は、$x$ の開近傍 $N\cong\mathring cY\times\mathbb R^{k-2}$ を使った開近傍 $N\times(-1,1)\cong\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ をもつ。残る $w_+$ は開近傍 $\Sigma W\setminus\{w_-\}\cong\mathring cW=\mathring c(\Sigma^{k-1}Y)$ をもち、3 によりこれは $\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ と同相で、$w_+$ は $(v,0)$ に対応する($w_-$ も同様)。$S_k$ が $\{v\}\times\mathbb R^{k-1}$ に対応すること:$w_+$ の開近傍 $\mathring cW$ の中で $S_k$ は開錐 $\mathring cS_{k-1}$ なので、3 の後半による。$N\times(-1,1)$ の形の近傍では帰納法の仮定から直ちに従う。点を $(v,u)$ から $(v,0)$ に移すには $\mathbb R^{k-1}$ の平行移動を使えばよい。
4。 1 により、$\Sigma^kY\setminus S_k\cong Y\times\mathbb R^k$ は $(n+k)$ 次元多様体である。2 により、$\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ が多様体なら $S_k$ の各点も Euclid 空間と同相な近傍をもつ。$\Sigma^kY$ はコンパクト Hausdorff である(結(位相) の系「コンパクトHausdorff空間のジョイン」)ので、多様体である。逆に $\Sigma^kY$ が多様体なら、2 の開近傍 $\mathring cY\times\mathbb R^{k-1}$ は多様体の開集合なので多様体である。次元:$S_k$ の点のまわりの座標近傍は、$S_k$ の外の空でない開集合(2 の模型の中の $(\mathring cY\setminus\{v\})\times\mathbb R^{k-1}$ の部分)と交わり、そこは $(n+k)$ 次元なので、領域不変性と位相多様体の次元の一意性 の系「位相多様体の次元の一意性」により座標近傍も $(n+k)$ 次元である。$\square$

この命題は Edw06 の序(p. iv)が「$\Sigma^kH$ の特異点になりうる集合は懸垂の $(k-1)$ 球面で、そこで $\Sigma^kH$ は $\mathring cH\times\mathbb R^{k-1}$ と局所同相である」と述べていることの証明である。二重懸垂定理は、$\mathring cH\times\mathbb R$ が多様体であることと同値になる。

必要条件:ホモロジー球面であること

懸垂の球面の点の近くの局所ホモロジーを計算すると、$\Sigma^kY$ が多様体であるためには $Y$ がホモロジー球面でなければならないことが分かる。

懸垂が多様体ならホモロジー球面

$Y$ を $n$ 次元閉位相多様体($n\ge1$)、$k\ge1$ とする。$\Sigma^kY$ が位相多様体なら、$Y$ はホモロジー $n$ 球面である。

局所ホモロジーの計算。 空でないコンパクト Hausdorff 空間 $W$ の開錐の頂点 $v$ で、
$$ H_i(\mathring cW,\mathring cW\setminus\{v\})\cong\tilde H_{i-1}(W) $$
である。実際、$\mathring cW$ は可縮で、$\mathring cW\setminus\{v\}\cong W\times(0,1)$ は $W$ とホモトピー同値なので、被約ホモロジーの対の長完全列(相対ホモロジーと長完全列 の命題「被約ホモロジーの対の長完全列」)から従う。
懸垂同型。 空でない $Z$ について $\tilde H_j(\Sigma Z)\cong\tilde H_{j-1}(Z)$ である。実際、$A:=\Sigma Z\setminus\{v_-\}$、$B:=\Sigma Z\setminus\{v_+\}$ はともに開錐と同相で可縮、$A\cap B=Z\times(-1,1)$ は $Z$ とホモトピー同値なので、被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列(Mayer–Vietoris完全列 の命題「被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列」)の接続準同型が同型になる。
結論。 $x\in S_k$ をとる。prop-ds-local-model の 2・3 により、$x$ は $(\mathring cW,v)$($W=\Sigma^{k-1}Y$)と同相な開近傍をもつ。局所ホモロジーは開近傍で計算できる(特異ホモロジーの切除定理 の定理「Euclid 空間の局所ホモロジーと次元の不変性」の後の注意)ので、上の 2 つの計算を合わせて
$$ H_i(\Sigma^kY,\Sigma^kY\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(\Sigma^{k-1}Y)\cong\tilde H_{i-k}(Y) $$
である。$\Sigma^kY$ が多様体なら、prop-ds-local-model の 4 によりその次元は $n+k$ で、$(n+k)$ 次元多様体の局所ホモロジーは $i=n+k$ で $\mathbb Z$、ほかで $0$ である(同じ定理と Hat02 p. 231)。よって $\tilde H_j(Y)$ は $j=n$ で $\mathbb Z$、ほかで $0$ である。$n\ge1$ なので $\tilde H_0(Y)=0$、すなわち $Y$ は連結で、$Y$ のホモロジー群は $S^n$ と同じである。$\square$

Edw06 の序(p. iv)は同じ結論を、懸垂の $(k-1)$ 球面の補集合 $H\times\mathbb R^k$ に Alexander 双対を使って導いている。整数係数が必要なことに注意する。たとえば $\mathbb{RP}^3$ は有理数係数ではホモロジーが $S^3$ と同じだが、$H_1(\mathbb{RP}^3;\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2\mathbb Z$ なので、どの $k$ でも $\Sigma^k\mathbb{RP}^3$ は多様体でない。

リンクの基本群:1 回と 2 回の違い

局所ホモロジーの条件は、$Y$ がホモロジー球面なら $k=1$ でも満たされる。1 回の懸垂を多様体でなくしているのは基本群である。

1回の懸垂の障害

$n\ge2$ とし、$Y$ を連結な $n$ 次元閉位相多様体で $\pi_1(Y)\neq1$ となるものとする。このとき $\Sigma Y$ は懸垂点 $v_\pm$ で多様体でなく、開錐 $\mathring cY$ も多様体でない。

要点:多様体なら、懸垂点の小さな近傍から懸垂点を除いた集合の中の閉道は、少し大きな近傍の中で縮む($n+1\ge3$ 次元の球体から中心を除いた空間は単連結)。ところが錐の近傍から頂点を除くと $Y\times(0,t)$ で、$Y$ の縮まない閉道が残る。

詳しい証明を開く

$\Sigma Y$ が多様体とすると、prop-ds-local-model の 4 により次元は $n+1$ である。$v_+$ のまわりの座標近傍 $g\colon U\to g(U)\subset\mathbb R^{n+1}$、$g(v_+)=0$ をとる。$v_+$ の開近傍 $\Sigma Y\setminus\{v_-\}\cong\mathring cY$ の中で、$C_t$($Y\times[0,t)$ の像)は $v_+$ の近傍の基本系なので、$C_t\subset U$ となる $t$、$g(C_t)$ に含まれる $0$ 中心の開球 $B$、$C_{t'}\subset g^{-1}(B)$ となる $t'< t$ を順にとれる。$Y$ の中の $0$ にホモトピックでない閉道 $\gamma_0$ をとり、$\gamma(\theta):=[\gamma_0(\theta),t'/2]$ とおくと、$\gamma$ は $C_{t'}\setminus\{v_+\}\subset g^{-1}(B\setminus\{0\})$ の中の閉道である。$B\setminus\{0\}$ は $S^n$ に強変位レトラクトし、$n\ge2$ なので単連結である(球面のホモトピー群 の命題「消滅域と対角線」)。よって $g\circ\gamma$ は $B\setminus\{0\}$ の中で $0$ にホモトピックで、$g^{-1}$ で戻すと $\gamma$ は $g^{-1}(B\setminus\{0\})\subset C_t\setminus\{v_+\}\cong Y\times(0,t)$ の中で $0$ にホモトピックである。第 1 成分への射影を合成すると $\gamma_0$ が $Y$ の中で $0$ にホモトピックになり、矛盾する。$\mathring cY$ は $\Sigma Y$ の開集合 $\Sigma Y\setminus\{v_-\}$ と同相なので、同じ議論で頂点で多様体でない。$\square$

これは 三角形分割可能な多様体 の命題「単連結でない多様体の懸垂は多様体でない」を、三角形分割を仮定しない形にしたものである(議論は同じ)。Edw80 §8(p. 118)も、Poincaré ホモロジー球面のように単連結でない $H$ では 1 回の懸垂が懸垂点で多様体になりえないことを述べている。

2回目の懸垂でリンクが単連結になる

$Y$ を空でない弧状連結なコンパクト Hausdorff 空間、$k\ge2$ とする。$S_k$ の各点 $x$ は、いくらでも小さい開近傍 $N$ で、$N\setminus\{x\}$ が $\Sigma^{k-1}Y$ とホモトピー同値なものをもち、$\Sigma^{k-1}Y$ は単連結である。$Y$ がホモロジー $n$ 球面なら、$\Sigma^{k-1}Y$ はさらにホモロジーが $S^{n+k-1}$ と同じである。

prop-ds-local-model の 2・3 により、$x$ は $(\mathring cW,v)$($W=\Sigma^{k-1}Y$)と同相な開近傍をもつ。$W$ はコンパクトなので $C_t$($0< t\le1$)は $v$ の近傍の基本系で、$C_t\setminus\{v\}\cong W\times(0,t)$ は $W$ とホモトピー同値である。
$W=\Sigma Z$、$Z:=\Sigma^{k-2}Y$ とおく。$Y$ が弧状連結なら懸垂も弧状連結なので $Z$ は弧状連結である。$A:=W\setminus\{v_-\}$、$B:=W\setminus\{v_+\}$ は開錐と同相で可縮(とくに単連結)、$A\cap B=Z\times(-1,1)$ は弧状連結なので、Van Kampenの定理 により $\pi_1(W)$ は $\pi_1(A)$ と $\pi_1(B)$ で生成され、自明である。ホモロジーについての主張は、prf-ds-necessary の懸垂同型を $k-1$ 回使えば従う。$\square$

$k=1$ では $N\setminus\{x\}\simeq Y$ で基本群が残るが、$k\ge2$ では $N\setminus\{x\}\simeq\Sigma^{k-1}Y$ となり、懸垂が基本群を消してしまう。$Y$ がホモロジー球面なら、リンクにあたる $\Sigma^{k-1}Y$ は単連結なホモロジー球面になり、局所ホモロジーと局所基本群のどちらからも多様体であることを否定できない。二重懸垂定理は、実際に障害がないことを主張している。$\Sigma^{k-1}Y$ 自身が多様体である必要はない($k=2$ の $\Sigma P$ は多様体でない)ことに注意する。

帰結

開錐と直線の積

$H$ をホモロジー $n$ 球面とすると、$\mathring cH\times\mathbb R$ は $\mathbb R^{n+2}$ と同相である。とくに Poincaré ホモロジー球面 $P$ について、$\mathring cP$ は多様体でないが $\mathring cP\times\mathbb R\cong\mathbb R^5$ である。

lem-ds-cone-product の後半により $\mathring cH\times\mathbb R\cong\mathring c(\Sigma H)$ である。$\mathring c(\Sigma H)$ は $\Sigma(\Sigma H)$ から一方の懸垂点を除いた空間と同相で、thm-ds-main により $\Sigma^2H\cong S^{n+2}$ なので、これは $S^{n+2}$ から 1 点を除いた空間、すなわち $\mathbb R^{n+2}$ と同相である。$P$ は基本群が位数 $120$ の群をもつ連結な閉 $3$ 次元多様体でホモロジー $3$ 球面なので(ホモロジー球面 の定理「Poincaré ホモロジー球面の基本性質」)、prop-ds-single により $\mathring cP$ は多様体でない。$\square$

多様体でない空間 $X$ と $\mathbb R$ の積が多様体になりうる、という現象の最も簡単な例である。Edw80 §8(pp. 119–120)は、多様体からの細胞的写像の像である ANR $X$ について $X\times\mathbb R^2$ が常に多様体になることを、Daverman の議論による系として述べている。
組合せ的でない三角形分割。 $P$ の三角形分割 $K_P$ の二重懸垂 $\partial\Delta^2\ast K_P$ は、定理により $S^5$ の三角形分割であり、頂点のリンクに $\Sigma K_P$(多様体でない)が現れるので組合せ的でない(三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」、Man16 Example 2.2, p. 4)。Edw06 Theorem 1(p. 2)はさらに、$q\ge5$ のすべての次元で、三角形分割をもつが PL 多様体とホモトピー同値でない位相多様体 $Q^q=(M^4\cup c(\partial M^4))\times T^{q-4}$($c(\partial M^4)$ は境界の上の閉じた錐)($M^4$ は $E_8$ 形式の plumbing。E8多様体)を挙げ、その特異点集合の上で多様体であることを二重懸垂定理から導いている。
多面体が多様体であるための条件。 次元が $4$ でない単体複体 $K$ について、$K$ の多面体が境界のない位相多様体であることと、(1) 各単体 $\sigma$ のリンクのホモロジーが球面 $S^{\dim K-\dim\sigma-1}$ と同じで、(2) $\dim K>2$ なら各頂点のリンクが単連結であることは同値である(Edw80 §8, pp. 118–119 の条件 (1)(2) と Polyhedral-topological manifold characterization theorem。Ran96 §5, p. 21 も、次元 $5$ 以上の組合せ的ホモロジー多様体について同じ形の定理を Edwards の定理として述べている)。この記事では証明しない。二重懸垂定理はこの定理の特別な場合($K$ がホモロジー球面の三角形分割の二重懸垂)であり、逆に定理の証明の要でもある。条件のうちリンクの単連結性が頂点だけに課されていることが、prop-ds-links の「2 回目の懸垂でリンクが単連結になる」現象に対応している。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
懸垂が 2 回以上($k\ge2$)Poincaré ホモロジー球面の懸垂 $\Sigma P$$\Sigma^kH$ が多様体である
$Y$ が(整数係数の)ホモロジー球面$\mathbb{RP}^3$(有理ホモロジー球面)ある $k$ で $\Sigma^kY$ が多様体になる
位相多様体として見る$S^5$ の三角形分割 $\partial\Delta^2\ast K_P$三角形分割が組合せ的(PL 多様体の三角形分割)である
積の因子が Euclid 空間$\mathring cP\times\mathbb R\cong\mathbb R^5$$X\times\mathbb R$ が多様体なら $X$ も多様体である

各行を確かめる。1 行目:$P$ は $n=3\ge2$ の連結な閉多様体で $\pi_1(P)\neq1$ なので、prop-ds-single により $\Sigma P$ は多様体でない。prop-ds-links の証明で $k\ge2$ を使ったのは、リンク $\Sigma^{k-1}Y$ が懸垂であることで、$k=1$ ではリンクが $P$ 自身になり基本群が残る。2 行目:$H_1(\mathbb{RP}^3;\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2\mathbb Z\neq0$ なので prop-ds-necessary により、どの $k\ge1$ でも $\Sigma^k\mathbb{RP}^3$ は多様体でない。有理数係数のホモロジーは $S^3$ と同じなので、定理の仮定は整数係数でなければならない。3 行目:三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」による。位相的には球面でも、懸垂点のリンク $\Sigma K_P$ が多様体でないので PL の意味では球面でない。4 行目:cor-ds-manifold-factor による。

関連する結果

  • 多重懸垂と次元。 $k\ge3$ の $\Sigma^kH$ は二重懸垂の懸垂なので、定理から直ちに球面である。歴史的には、Edwards の三重懸垂定理(任意のホモロジー 3 球面の三重懸垂は $S^6$)が先に得られた(Edw06 Part IV、序の p. vi と Prologue の p. 2)。
  • 三角形分割予想。 Galewski–Stern と松本の結果により、5 次元以上のすべての位相多様体が三角形分割できるかどうかは、Rokhlin 不変量が $1$ で自分自身の向きを逆にしたものとホモロジー同境になるホモロジー 3 球面が存在するかどうかに帰着され、この帰着でも二重懸垂定理が使われる(Edw06 p. 3)。Manolescu はそのようなホモロジー 3 球面が存在しないことを示した(三角形分割予想)。
  • 細胞的写像と多様体の認識。 二重懸垂定理の証明に使われた近似定理は、多様体の細胞的な像が多様体であるための条件(disjoint disc property)を与えるもので、分解空間論の中心的な結果である(Edw80 §7, pp. 117–118)。

関連項目

参考文献

[1]
Robert D. Edwards, Suspensions of homology spheres, arXiv:math/0610573, 2006, 1970 年代の原稿を F. Ancel・C. Guilbault・G. Venema が編集して公開したもの。頁は arXiv 版に印刷された頁:Abstract(Part I〜IV の主定理と Cannon, Annals of Math. 110 (1979) 83–112 による一般の場合)、序 p. iv(懸垂が多様体ならホモロジー球面、懸垂の球面に沿った局所模型 c̊H×ℝ^{k−1}、Double Suspension Conjecture)、p. v(Double Suspension Theorem、n+k≥6 での Edwards の結果、Part II が n≥4 を含むこと)、Prologue p. 2(三重懸垂定理が先に知られていたこと)、p. 2(Theorem 1 と多様体 Q^q)、p. 3(Galewski–Stern と松本の帰着)
[2]
Robert D. Edwards, The topology of manifolds and cell-like maps, Proceedings of the International Congress of Mathematicians (Helsinki, 1978), 1980, pp. 111–127。§7(Cannon の disjoint disc property、p. 117;Approximation Theorem、p. 118)、§8(多面体の条件 (1)(2) と Multiple Suspension Question、1 回の懸垂が多様体にならないこと、p. 118;細胞的写像 S^{m+l}→Σ^l H^m と disjoint disc property、Polyhedral-topological manifold characterization theorem、p. 119;X×ℝ^2 についての系、pp. 119–120)
[3]
Ciprian Manolescu, Lectures on the triangulation conjecture, arXiv:1607.08163, 2016, Proceedings of the 22nd Gökova Geometry-Topology Conference(arXiv:1607.08163v3)。Example 2.2(二重懸垂定理と組合せ的でない三角形分割、p. 4)
[4]
Andrew Ranicki, On the Hauptvermutung, The Hauptvermutung Book, 1996, A. A. Ranicki (ed.), The Hauptvermutung Book, K-Monographs in Mathematics 1, Kluwer, 1996, pp. 3–31(DOI 10.1007/978-94-017-3343-4_1)。頁は著者のサイトの版の頁:§5 Homology Manifolds(二重懸垂の例と Edwards の定理、p. 21)

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