絶対Hodgeサイクル

同義語:absolute Hodge cycle絶対Hodge類absolute Hodge class絶対ホッジサイクル

概要

絶対Hodgeサイクル(absolute Hodge cycle)とは、$\mathbb{Q}$ 上の超越次数が有限な代数閉体 $k$ の上の滑らかな射影多様体の de Rham 類とエタール類の組で、$k$ の複素数体へのどの埋め込みについても有理的な Hodge 類になるものである。代数的サイクルの類は絶対Hodgeであり、絶対Hodgeサイクルは Hodge 類である。有理類が Hodge 類であることは $(0,0)$ 型であることと同値で、Galois 群は絶対Hodgeサイクルに有限商を通して作用する。Deligne はアーベル多様体の Hodge 類がすべて絶対Hodgeであることを証明し、これを射とするモチーフの圏は半単純な Tannakian 圏になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hodge構造, Hodge予想, de Rhamコホモロジー, エタールコホモロジー

絶対Hodgeサイクル(absolute Hodge cycle)とは、標数 0 の体 $k$ の上の滑らかな射影多様体 $X$ の de Rham コホモロジーと $\ell$ 進コホモロジーの類の組で、$k$ を複素数体に埋め込むどの方法 $\sigma\colon k\to\mathbb C$ をとっても、複素多様体 $\sigma X$ の上で有理的な Hodge 類になるもののことである。Deligne が導入した。
代数的サイクルの類はつねに絶対Hodgeサイクルであり、絶対Hodgeサイクルは(1 つの埋め込みについての)Hodge 類である。
$$ \text{代数的な類}\ \Longrightarrow\ \text{絶対Hodgeサイクル}\ \Longrightarrow\ \text{Hodge 類} $$
Hodge予想 は両端が一致することを主張する。後半の矢印の逆、すなわち「Hodge 類はすべて絶対Hodgeである」は Hodge 予想より弱い予想であり、Deligne はこれをアーベル多様体について証明した(thm-ahc-deligne)。絶対Hodgeサイクルを射に使うと、標準予想を仮定せずに半単純な Tannakian 圏としてのモチーフの圏が作れる(モチーフ的Galois群 の節「絶対Hodge cycleのモチーフ」)。
この記事では定義を述べ、有理的な類について Hodge 類であることが $(0,0)$ 型であることと同値なこと(prop-ahc-type)、$\mathbb C$ への埋め込みが $\mathbb C$ の自己同型の違いしかないこと(lem-ahc-embeddings)、射影直線の場合の計算(ex-ahc-p1)、Galois 群が絶対Hodgeサイクルに有限群を通して働くこと(thm-ahc-galois-finite)を証明する。

設定

以下、$k$ は $\mathbb Q$ 上の超越次数が有限な代数閉体とし、$X$ を $k$ 上の滑らかな射影多様体とする。$\mathbb A_f:=\widehat{\mathbb Z}\otimes\mathbb Q$ を有限アデールの環とする。

  • de Rham 成分. $H^n_{\mathrm{dR}}(X)$ を代数的 de Rham コホモロジー(有限次元 $k$ ベクトル空間)とし、Hodge フィルトレーション $F^\bullet$ をもつ。Tate 捻り $H^n_{\mathrm{dR}}(X)(m)$ は同じ空間でフィルトレーションを $F^i(H(m))=F^{i+m}H$ とずらしたものである。
  • エタール成分. $H^n_{\mathrm{et}}(X)(m):=\bigl(\varprojlim_rH^n_{\mathrm{et}}(X,\mu_r^{\otimes m})\bigr)\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Q$ とおく($\mathbb A_f$ 加群。エタールコホモロジー、Tate捻り)。
  • これらの積を $H^n_{\mathbb A}(X)(m):=H^n_{\mathrm{dR}}(X)(m)\times H^n_{\mathrm{et}}(X)(m)$ と書く。
    埋め込み $\sigma\colon k\to\mathbb C$ に対し、$\sigma X:=X\otimes_{k,\sigma}\mathbb C$ の複素多様体としての有理係数コホモロジーを $H^n_B(\sigma X)(m):=H^n(\sigma X,\mathbb Q)\otimes(2\pi i)^m\mathbb Q$ と書く。比較同型(de Rham の定理と GAGA、および Artin の比較定理)により
    $$ H^n_B(\sigma X)(m)\otimes_{\mathbb Q}(\mathbb C\times\mathbb A_f)\ \cong\ \bigl(H^n_{\mathrm{dR}}(X)(m)\otimes_{k,\sigma}\mathbb C\bigr)\times H^n_{\mathrm{et}}(X)(m) $$
    がある(Del82 §2、p. 15)。$t\in H^n_{\mathbb A}(X)(m)$ の右辺での像を $\sigma(t)$ と書く。$H^n_B(\sigma X)(m)$ は左辺に $v\mapsto v\otimes(1,1)$ で埋め込まれる。
絶対Hodgeサイクル

$t=(t_{\mathrm{dR}},t_{\mathrm{et}})\in H^{2p}_{\mathbb A}(X)(p)$ が埋め込み $\sigma$ について Hodge サイクルであるとは、

  1. (有理性)$\sigma(t)$ が有理部分空間 $H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ に入り、
  2. (Hodge 条件)$t_{\mathrm{dR}}\in F^0H^{2p}_{\mathrm{dR}}(X)(p)=F^pH^{2p}_{\mathrm{dR}}(X)$ である
    ことをいう。すべての埋め込み $\sigma\colon k\to\mathbb C$ について Hodge サイクルであるものを絶対Hodgeサイクル(絶対 Hodge 類)といい、その全体を $C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ と書く。

定義の 2 つの条件はどちらも $\mathbb Q$ 線形なので、$C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ は $\mathbb Q$ ベクトル空間である。1 つの $\sigma$ を固定すると、比較同型から $t$ は $\sigma(t)\in H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ で決まるので、$t\mapsto\sigma(t)$ は単射 $C^p_{\mathrm{AH}}(X)\hookrightarrow H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ であり、$C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ は有限次元である(Del82 p. 18)。$k$ が代数閉でない体や超越次数が無限の体の場合にも、モデルをとる方法と Galois 不変部分をとる方法で定義が延びる(同書 p. 19「Definitions (arbitrary $k$)」)。

Hodge 類と $(0,0)$ 型

Hodge 条件は、有理的な類については「$(0,0)$ 型であること」と言い換えられる。

重さ 0 の Hodge 構造の有理的な元

$V$ を重さ $0$ の $\mathbb Q$ Hodge 構造(Hodge構造)とし、$V_{\mathbb C}=\bigoplus_aV^{a,-a}$、$F^0V_{\mathbb C}=\bigoplus_{a\ge0}V^{a,-a}$ とする。このとき
$$ V\cap F^0V_{\mathbb C}=V\cap V^{0,0} $$
である。とくに $H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ は重さ $0$ の Hodge 構造で $V^{a,-a}=H^{p+a,p-a}$ なので、有理性の条件を満たす $t$ について、Hodge 条件は $\sigma(t)$ の Betti 成分が $(p,p)$ 型の類であることと同値である。

$V^{0,0}\subset F^0V_{\mathbb C}$ なので右辺は左辺に含まれる。逆に $v\in V\cap F^0V_{\mathbb C}$ とする。$V_{\mathbb C}$ の複素共役は $V^{a,-a}$ を $V^{-a,a}$ に写す(Hodge 構造の定義)ので、$\overline{F^0V_{\mathbb C}}=\bigoplus_{a\le0}V^{a,-a}$ である。$v$ は有理的なので $\bar v=v$ であり、$v\in F^0V_{\mathbb C}\cap\overline{F^0V_{\mathbb C}}$ となる。直和分解から $F^0V_{\mathbb C}\cap\overline{F^0V_{\mathbb C}}=V^{0,0}$ なので $v\in V^{0,0}$ である。
後半:$\sigma X$ の Hodge 分解 $H^{2p}(\sigma X,\mathbb C)=\bigoplus_{i+j=2p}H^{i,j}$(Hodge分解)で、$\mathbb Q(p)$ は $(-p,-p)$ 型なので、$H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ の $(a,-a)$ 成分は $H^{p+a,p-a}$ であり、$F^0$ は $F^p$ にあたる。比較同型は Hodge フィルトレーションを保つので、$t_{\mathrm{dR}}\in F^p$ は $\sigma(t)$ が $F^0$ に入ることと同値であり、前半から $(0,0)$ 成分、すなわち $H^{p,p}$ に入ることと同値である。$\square$

したがって、$\sigma$ について Hodge サイクルであることは、$\sigma(t)$ が Hodge予想 の記事の意味の Hodge 類($H^{2p}(\sigma X,\mathbb Q)\cap H^{p,p}$ の元を捻ったもの)であり、さらにその de Rham 成分が $k$ の上で定義され、エタール成分も与えられていることである(Del82 p. 15 の「Equivalent condition」)。

埋め込みと $\mathbb C$ の自己同型

「すべての埋め込み」は、$\mathbb C$ の自己同型で言い換えられる。

埋め込みは $\mathbb C$ の自己同型に延びる

$k\subset\mathbb C$ を $\mathbb Q$ 上の超越次数が有限な部分体とする。任意の体の埋め込み $\sigma\colon k\to\mathbb C$ について、$\tau|_k=\sigma$ となる $\tau\in\operatorname{Aut}(\mathbb C)$ がある。したがって、包含 $\sigma_0\colon k\subset\mathbb C$ を固定すると、$k$ の埋め込みの全体は $\{\tau\circ\sigma_0\mid\tau\in\operatorname{Aut}(\mathbb C)\}$ である。

$k$ は $\mathbb Q$ のある有限個の元を添加した体の上で代数的なので可算であり、$\sigma(k)\cong k$ も可算である。可算な体 $F\subset\mathbb C$ について、$\mathbb C/F$ の超越基底 $B$ をとると、$\mathbb C$ は $F(B)$ の上で代数的なので $|\mathbb C|=\max(|B|,\aleph_0)$ であり、$\mathbb C$ は非可算だから $|B|=|\mathbb C|$ である(超越次数)。そこで $\mathbb C/k$ の超越基底 $B$ と $\mathbb C/\sigma(k)$ の超越基底 $B'$ をとると $|B|=|B'|$ であり、全単射 $\beta\colon B\to B'$ がある。$B$ は $k$ 上代数的に独立なので、$\sigma$ と $\beta$ は体の同型 $k(B)\to\sigma(k)(B')$ に一意に延びる。$\mathbb C$ は代数閉で $k(B)$ の上で代数的なので $k(B)$ の代数閉包であり、同じく $\sigma(k)(B')$ の代数閉包である。代数閉包の一意性(代数閉包)により、この同型は $\tau\colon\mathbb C\to\mathbb C$ に延びる。$\square$

この補題により、$k\subset\mathbb C$ とみたとき、$t$ が絶対Hodgeであることは、すべての $\tau\in\operatorname{Aut}(\mathbb C)$ について $t$ が $\tau\circ\sigma_0$ について Hodge サイクルであることと同値である。$\tau$ が恒等写像でも複素共役でもなければ $\tau$ は連続でなく、$\sigma_0X$ と $(\tau\circ\sigma_0)X$ の Betti コホモロジーの間の写像を位相から直接には与えない。そのため、各 $\tau$ についての有理性は別々の条件になる。

例

代数的サイクルの類

$Z\subset X$ を余次元 $p$ の代数的サイクルとし、$t:=(\mathrm{cl}_{\mathrm{dR}}(Z),\mathrm{cl}_{\mathrm{et}}(Z))$ とおく(サイクル類写像)。どの $\sigma$ についても $\sigma(t)$ は $\sigma Z$ の Betti のサイクル類 $\mathrm{cl}_B(\sigma Z)$ であって有理的であり、$(p,p)$ 型である。よって $t$ は絶対Hodgeサイクルである(Del82 Example 2.1 (a)、p. 15。サイクル類写像と比較同型の両立はこの記事では証明しない)。同じ箇所の (b)・(c) により、対角線の類の Künneth 成分や、超平面の類の冪 $\eta^{d-2p}$ を掛ける写像で互いに写る類も絶対Hodgeである。

射影直線

$X=\mathbb P^1_k$ とすると $C^1_{\mathrm{AH}}(X)=\mathbb Q\cdot\mathrm{cl}(\mathrm{pt})$ である。実際、$H^2_{\mathrm{dR}}(X)(1)$、$H^2_{\mathrm{et}}(X)(1)$、$H^2_B(\sigma X)(1)$ はそれぞれ $k$、$\mathbb A_f$、$\mathbb Q$ の上の階数 $1$ の自由加群で、点の類が基底になる(de Rham と Betti は Weilコホモロジー の命題「射影空間のコホモロジー」による。エタール成分は、Kummer 列と $\operatorname{Pic}\mathbb P^1_k=\mathbb Z$、$\operatorname{Br}\mathbb P^1_k=0$($k$ は代数閉体)から各 $r$ で $H^2_{\mathrm{et}}(X,\mu_r)\cong\mathbb Z/r$ が点の類で生成されることによる)。$t=(a\,\mathrm{cl}_{\mathrm{dR}}(\mathrm{pt}),b\,\mathrm{cl}_{\mathrm{et}}(\mathrm{pt}))$($a\in k$、$b\in\mathbb A_f$)について、ex-ahc-algebraic から $\sigma(t)=(\sigma(a),b)\cdot\mathrm{cl}_B(\mathrm{pt})$ であり、これが $\mathbb Q\cdot\mathrm{cl}_B(\mathrm{pt})$ の対角的な像に入るのは $\sigma(a)=b\in\mathbb Q$ のとき、すなわち $a=b\in\mathbb Q$ のときである。一方 $F^1H^2_{\mathrm{dR}}(X)=H^2_{\mathrm{dR}}(X)$ なので Hodge 条件はいつも成り立つ。したがって絶対Hodgeサイクルは $\mathbb Q\cdot(\mathrm{cl}_{\mathrm{dR}}(\mathrm{pt}),\mathrm{cl}_{\mathrm{et}}(\mathrm{pt}))$ の元に限る。有理性の条件を外すと、Hodge 条件だけを満たす類は $k\times\mathbb A_f$ 全体になり、$\mathbb Q$ 上無限次元である($k\supset\overline{\mathbb Q}$ は $\mathbb Q$ 上無限次元)。

Galois 群の作用の有限性

$k_0\subset k$ を部分体で $k$ がその代数閉包であるものとし、$X_0$ を $k_0$ 上の滑らかな射影多様体、$X:=X_0\otimes_{k_0}k$ とする。$g\in\operatorname{Gal}(k/k_0)$ は $X=X_0\times_{k_0}\operatorname{Spec}k$ の自己同型 $\mathrm{id}\times\operatorname{Spec}(g)$ を定め、その引き戻しで $H^{2p}_{\mathbb A}(X)(p)$ に作用する(de Rham 成分では $H_{\mathrm{dR}}(X_0)\otimes_{k_0}k$ の上の $1\otimes g$)。埋め込み $\sigma$ について、$X\otimes_{k,\sigma\circ g}\mathbb C$ と $X\otimes_{k,\sigma}\mathbb C$ はどちらも $X_0\otimes_{k_0,\sigma|_{k_0}}\mathbb C$ に等しく、この同一視のもとで、$t$ が $\sigma\circ g$ について Hodge サイクルであることは $g$ で写した類が $\sigma$ について Hodge サイクルであることと同値になる。こうして $\operatorname{Gal}(k/k_0)$ は $C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ に $\mathbb Q$ 線形に作用する(Del82 Proposition 2.9 (b) の証明、p. 18)。

可算な副有限群は有限

コンパクト Hausdorff な位相群 $G$ が可算集合なら、$G$ は有限群である。とくに可算な副有限群は有限である。

$G=\bigcup_{g\in G}\{g\}$ は閉集合の可算個の和である。コンパクト Hausdorff 空間は Baire 空間なので(Baireの範疇定理)、ある $\{g\}$ は内点をもち、開集合である。左からの移動 $x\mapsto hg^{-1}x$ は同相写像なので、すべての 1 点集合が開であり、$G$ は離散である。離散でコンパクトな空間は有限である。$\square$

Galois 群は有限商を通して作用する

上の設定で、$\operatorname{Gal}(k/k_0)$ の $C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ への作用は有限な商群を通して働く。

素数 $\ell$ を固定する。$t\mapsto t_\ell$(エタール成分の $\ell$ 成分)による写像 $C^p_{\mathrm{AH}}(X)\to H^{2p}_{\mathrm{et}}(X,\mathbb Q_\ell)(p)$ は単射である。実際、$\sigma(t)$ は有理的な類 $v\in H^{2p}_B(\sigma X)(p)$ で、$t_\ell$ は $v\otimes1\in H^{2p}_B(\sigma X)(p)\otimes\mathbb Q_\ell$ の比較同型による像であり、$H^{2p}_B(\sigma X)(p)\to H^{2p}_B(\sigma X)(p)\otimes_{\mathbb Q}\mathbb Q_\ell$ は単射だからである。この写像は Galois 作用と両立し、$\operatorname{Gal}(k/k_0)$ の $H^{2p}_{\mathrm{et}}(X,\mathbb Q_\ell)(p)$ への作用は連続である(Del82 p. 19 の証明 (ii))。
$C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ の $\mathbb Q$ 基底 $t_1,\dots,t_m$ をとる。各 $t_i$ の固定部分群は、連続な作用での $1$ 点の固定部分群なので閉であり、その共通部分 $H$ は作用の核で、閉正規部分群である。$\operatorname{Gal}(k/k_0)/H$ は副有限群で(閉正規部分群による副有限群の商は副有限群である)、作用を通して $\operatorname{GL}(C^p_{\mathrm{AH}}(X))\cong\operatorname{GL}_m(\mathbb Q)$ に単射で写る。$\operatorname{GL}_m(\mathbb Q)$ は可算なので $\operatorname{Gal}(k/k_0)/H$ は可算であり、lem-ahc-countable-profinite により有限である。$\square$

Del82 は同じ命題に 3 通りの証明を与えており、そのひとつは偏極が $C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ の上に Galois 不変な正定値形式を与えることを使う(同書 p. 19 の (iii))。作用の核 $H$ は指数有限の閉部分群なので開であり、$k_0$ の有限次拡大 $k_1$ について $H=\operatorname{Gal}(k/k_1)$ となる。したがって $C^p_{\mathrm{AH}}(X)$ の元の $\ell$ 成分は、すべて $\operatorname{Gal}(k/k_1)$ で固定される $\ell$ 進の類である。$k_0$ が $\mathbb Q$ 上有限生成なら $k_1$ もそうなので、これは Tate予想 の記事で扱う Galois 不変な類にあたり、下の「帰結」の Corollary 6.2 はこの事実を使う。

Deligne の定理と 2 つの原理

Deligne の定理

$k$ を $\mathbb C$ に埋め込める代数閉体、$X$ を $k$ 上のアーベル多様体とし、$t\in H^{2p}_{\mathbb A}(X)(p)$ とする。$t$ がある 1 つの埋め込み $\sigma\colon k\to\mathbb C$ について Hodge サイクルなら、$t$ は絶対Hodgeサイクルである。

定理の所在と証明の筋

この記事では証明しない(Del82 Main Theorem 2.11、p. 19。証明は同書 §2–§6)。証明は次の 2 つの原理を組み合わせる。

  • 原理 B(同書 Theorem 2.12、p. 20):滑らかで連結な複素代数多様体 $S$ の上の、滑らかな複素代数多様体の固有で滑らかな射 $X\to S$ で、Gauss–Manin 接続について水平な大域切断 $t$ が各ファイバーで $F^0$ に入るとき、$t$ が 1 つのファイバーで絶対Hodgeならすべてのファイバーで絶対Hodgeである(Gauss–Manin接続)。
  • 原理 A(同書 Theorem 3.8、p. 26):Betti コホモロジーとその双対と $\mathbb Q(1)$ のテンソル空間の絶対Hodgeサイクル $t_1,\dots,t_N$ をすべて固定する元のなす代数群が、同じ型のテンソル空間の類 $t$ も固定するなら、$t$ も絶対Hodgeである。
    原理 B で一般のアーベル多様体を CM 型の場合に帰着し、CM 型では Hodge 類を固定する群(Mumford–Tate群)を明示的な絶対Hodgeサイクルで切り出して原理 A を使う。

帰結. アーベル多様体 $A$ について Tate 予想(Tate予想)が成り立てば Hodge 予想も成り立つ(Del82 Corollary 6.2、p. 43)。絶対Hodgeサイクルを射とする純粋モチーフの圏は半単純な Tannakian 圏である(DM22 Proposition 6.5、p. 60)。「すべての Hodge 類は絶対Hodgeである」という予想は、Betti 実現 $H_\sigma$ がこのモチーフの圏から $\mathbb Q$ Hodge 構造の圏への充満忠実な関手であることと言い換えられ(同書 Conjecture 6.24、p. 67。$k$ は代数閉体)、代数閉体 $k$ の上では、アーベル多様体と 0 次元の多様体(Artinモチーフ)の生成する部分圏でこれが成り立つ(同書 Theorem 6.25、p. 67)。とくに、アーベル多様体・0 次元の多様体・曲線・次元 $3$ 以下の単有理多様体・Fermat 超曲面・K3曲面 の積の上の Hodge 類はすべて絶対Hodgeである(同書 Proposition 6.26・Corollary 6.27、p. 68)。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
定義の有理性の条件$\mathbb P^1$ の $t=(a\,\mathrm{cl}_{\mathrm{dR}}(\mathrm{pt}),\mathrm{cl}_{\mathrm{et}}(\mathrm{pt}))$、$a\in k\setminus\mathbb Q$(ex-ahc-p1)類の全体が有限次元の $\mathbb Q$ ベクトル空間になること
prop-ahc-type の重さが $0$ であること楕円曲線 $E$ の $V=H^1(E,\mathbb Q)$(ex-ahc-counter-weight)$V\cap F^0V_{\mathbb C}=V\cap V^{0,0}$
prop-ahc-type の元が有理的であること$H^2(E\times E,\mathbb Q)(1)$ の $(1,-1)$ 成分の元(ex-ahc-counter-weight)$F^0$ の元が $(0,0)$ 型であること
lem-ahc-countable-profinite の可算性$p$ 進整数の加法群 $\mathbb Z_p$有限であること
反例:重さと有理性の条件

$E$ を複素楕円曲線とする。$V=H^1(E,\mathbb Q)$ は重さ $1$ で $V_{\mathbb C}=V^{1,0}\oplus V^{0,1}$ であり、$F^0V_{\mathbb C}=V_{\mathbb C}$ なので $V\cap F^0V_{\mathbb C}=V\ne0$ だが、$V^{0,0}=0$ である。重さ $0$ の $W=H^2(E\times E,\mathbb Q)(1)$ では、$W^{1,-1}=H^{2,0}(E\times E)$ は $dz_1\wedge dz_2$ で張られて $0$ でなく、$F^0W_{\mathbb C}$ に含まれるが $(0,0)$ 型でない。この元は複素共役で $W^{-1,1}$ に写るので有理的でない。また $\mathbb Z_p$ はコンパクト Hausdorff な無限群で、非可算である。

文献

文献

定義と記号は Del82 §2(pp. 15–19)に従う。Deligne の定理と原理 A・B は同書 Main Theorem 2.11、Theorem 2.12、Theorem 3.8、帰結は Corollary 6.2 である。絶対Hodgeサイクルによるモチーフの圏については DM22 §6 を見よ。prop-ahc-type、lem-ahc-embeddings、ex-ahc-p1、lem-ahc-countable-profinite、thm-ahc-galois-finite は、引用した性質から記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

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