双線形形式

同義語:双線型形式bilinear form

概要

双線形形式(bilinear form)とは、体 $K$ 上のベクトル空間 $V,W$ について、各変数について線形な写像 $f\colon V\times W\to K$ のことで、内積・行列式・Minkowski 形式・トレース形式などを含む。基底をとると $f(x,y)=x^{\top}Gy$ と行列で表され、基底の取り替えで $G$ は $S^{\top}GT$ に変わり、有限次元では $f$ が非退化であることは $G$ が正則であることとも、$V$ から $W$ の双対空間への写像が同型であることとも同値である。直交が対称な関係になる形式は対称形式か交代形式に限られ、交代形式はシンプレクティック基底で標準形になり階数は偶数、対称形式は標数が $2$ でなければ直交基底をもち、実数上では階数と符号数で分類される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 双線形写像, 双対空間(線形代数), 行列

$\mathbb{R}^3$ の内積 $x\cdot y=x_1y_1+x_2y_2+x_3y_3$、平面の 2 つのベクトルの張る平行四辺形の符号つき面積 $x_1y_2-x_2y_1$、時空の 2 つのベクトルの「Minkowski の内積」$x_0y_0-x_1y_1-x_2y_2-x_3y_3$ は、どれも 2 つのベクトルから 1 つの数を作り、それぞれの変数について線形である。このような写像を 双線形形式 という。内積は「長さと角度」、面積は「向きと大きさ」、Minkowski の内積は「光の速さを基準にした時間と空間の隔たり」を測る道具であり、性質はまったく違う。双線形形式の理論は、これらを 1 つの枠組みで扱い、何が共通で何が違うのかを明らかにする。
この記事では、体上の有限次元ベクトル空間の双線形形式について、行列による表示を確認したうえで、すべてのベクトルが相手を見つけられること(非退化性)の判定、直交補空間の次元、「直交」が対称な関係になる形式は対称か交代的に限られること、交代形式の標準形(シンプレクティック基底)を証明する。高校数学の円の接線・極線の公式が、対称な双線形形式で説明できることも確かめる。

定義

以下、$K$ は体、$V,W$ は $K$ 上のベクトル空間とする。とくに断らない限り $V,W$ は有限次元とする。

双線形形式

写像 $f\colon V\times W\to K$ が、各 $w\in W$ について $v\mapsto f(v,w)$ が線形であり、各 $v\in V$ について $w\mapsto f(v,w)$ が線形であるとき、$f$ を $V\times W$ 上の 双線形形式(bilinear form)という。$W=V$ のとき、単に $V$ 上の双線形形式という。$V$ 上の双線形形式 $f$ は、すべての $x,y$ で $f(x,y)=f(y,x)$ のとき 対称(symmetric bilinear form)、すべての $x$ で $f(x,x)=0$ のとき 交代的(alternating)という。

これは 双線形写像 の記事の定義「加群の間の双線形写像」で値の加群を $K$ にとったものであり、対称・交代的の定義も同記事の定義「対称・交代・歪対称」と同じである(Axl24 9.1・9.9・9.14、pp. 333–339)。交代的な形式は歪対称($f(x,y)=-f(y,x)$)であり、標数が $2$ でなければ逆も成り立つ(同記事の命題「交代的と歪対称の関係」)。
$V$ の基底 $e_1,\dots,e_m$、$W$ の基底 $u_1,\dots,u_n$ をとり、$G:=\bigl(f(e_i,u_j)\bigr)_{i,j}\in M_{m,n}(K)$ を $f$ の 行列(Gram 行列)とすると、座標の列ベクトル $x,y$ について $f(x,y)=x^{\top}Gy$ であり、基底を取り替える行列を $S,T$ とすると新しい行列は $S^{\top}GT$ になる(双線形写像 の記事の命題「基底による行列表示」)。$G$ の階数は基底によらないので、これを $f$ の 階数 という。$V$ 上の形式では $T=S$ であり、行列は $G\mapsto S^{\top}GS$(合同)で変わる。$f$ が対称であることは $G^{\top}=G$(対称行列)と同値である。

核・非退化・直交補空間

$f\colon V\times W\to K$ を双線形形式とする。

  1. $\{v\in V\mid \text{すべての }w\in W\text{ で }f(v,w)=0\}$ を $f$ の 左核、$\{w\in W\mid \text{すべての }v\in V\text{ で }f(v,w)=0\}$ を 右核 という。左核と右核がともに $0$ のとき、$f$ は 非退化(nondegenerate)であるという。
  2. $V$ 上の形式 $f$ と部分空間 $U\subset V$ について、$U^{\perp}:=\{v\in V\mid \text{すべての }u\in U\text{ で }f(u,v)=0\}$ を $U$ の 直交補空間 という。
  3. $V$ 上の形式 $f$ が、すべての $x,y$ について「$f(x,y)=0\iff f(y,x)=0$」を満たすとき、$f$ は 反射的(reflexive)であるという。対称な形式と交代的な形式は反射的である。

反射的な形式では、$x$ が $y$ に直交することと $y$ が $x$ に直交することが同じなので、左核と右核は一致し、これを単に $f$ の 核 という(Lan02 Chapter XV §1、pp. 571–572)。$f$ が非退化であることは、写像
$$ f^{\flat}\colon V\to W^{*},\quad v\mapsto f(v,-),\qquad f^{\sharp}\colon W\to V^{*},\quad w\mapsto f(-,w) $$
がともに単射であることと同じである($W^{*}$ は双対空間(線形代数))。$f^{\flat}$ と $f^{\sharp}$ がともに同型であるとき $f$ を 完全対(perfect pairing)という。有限次元では完全対であることと非退化であることは同じである(thm-bf-nondegenerate)が、無限次元では完全対のほうが強い条件である(ex-bf-infinite)。

直感

双線形形式は、2 つのベクトルを「組み合わせて測る」道具である。行列 $G$ は基底ベクトルどうしの測り方の表であり、基底を取り替えると、線形写像の行列のように $S^{-1}GS$ と変わるのではなく $S^{\top}GS$ と変わる。$S^{\top}GS$ は相似ではないので、固有値は基底の取り替えで変わってしまい、双線形形式の不変量にならない。代わりに基底によらない量になるのは階数であり、実数上の対称形式ではさらに符号数である。交代形式は階数だけで決まる(thm-bf-alternating)。
非退化性は「どの $0$ でないベクトルにも、それを $0$ でない値で測る相手がいる」ことであり、このとき $f$ は $V$ と $W^{*}$ を同一視する(thm-bf-nondegenerate)。内積は非退化だが、非退化な形式は一般には内積のようにふるまわない。Minkowski の内積では $0$ でないベクトル $(1,1,0,0)$ が自分自身と直交する(光の進む方向)。こうした 等方的 なベクトルがあると、部分空間とその直交補空間が重なることがあり、内積空間の直感が通用しなくなる(ex-bf-hyperbolic)。

例と反例

双線形形式の例
  1. 標準の双線形形式:$K^n$ 上の $x\cdot y=\sum_ix_iy_i$。行列は単位行列で、非退化かつ対称である。$K=\mathbb{R}$ なら内積である。
  2. Minkowski 形式:$\mathbb{R}^4$ 上の $\eta(x,y)=x_0y_0-x_1y_1-x_2y_2-x_3y_3$。行列 $\operatorname{diag}(1,-1,-1,-1)$ は正則なので非退化で、対称だが正定値でない(Minkowski空間)。
  3. 行列式の形式:$K^2$ 上の $\omega(x,y)=x_1y_2-x_2y_1=\det(x\ y)$。行列 $\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ は正則で、$\omega$ は非退化な交代形式である。
  4. トレース形式:$M_n(K)$ 上の $(X,Y)\mapsto\operatorname{tr}(XY)$。$\operatorname{tr}(XY)=\operatorname{tr}(YX)$ なので対称である。$E_{ij}$ を $(i,j)$ 成分だけが $1$ の行列とすると $\operatorname{tr}(E_{ij}E_{kl})$ は $(k,l)=(j,i)$ のとき $1$、それ以外で $0$ なので、行列は各行・各列に $1$ がちょうど 1 つある置換行列であり、正則である。よって非退化である。
  5. 評価の対:$V^{*}\times V\to K$、$(\varphi,v)\mapsto\varphi(v)$。双対基底に関する行列は単位行列で、非退化である。
円の極線と接線

円 $x^2+y^2=r^2$($r>0$)を、$(x,y,1)$ を代入すると $0$ になる対称な双線形形式
$$ F(X,Y):=X_1Y_1+X_2Y_2-r^2X_3Y_3\qquad(X,Y\in\mathbb{R}^3) $$
で表す。$Q(X):=F(X,X)$ とおくと、点 $(x,y)$ が円上にあることは $Q(x,y,1)=0$ と同値である。点 $P=(p,q,1)$ に対し、$F(P,X)=0$ を満たす点 $X=(x,y,1)$ の全体は直線
$$ px+qy=r^2 $$
であり、これを $P$ の 極線 という。高校数学の「円上の点 $(p,q)$ における接線の方程式 $px+qy=r^2$」(円の接線と極線)は、$P$ が円上にあるときの極線である。
実際に接線であることを確かめる。$P$ が円上にあり($Q(P)=0$)、$X=(x,y,1)$ が極線上にある($F(P,X)=0$)とする。双線形性と対称性により
$$ Q(X)=Q\bigl(P+(X-P)\bigr)=Q(P)+2F(P,X-P)+Q(X-P)=-Q(P)+2F(P,X)+Q(X-P)=Q(X-P) $$
であり、$X-P=(x-p,y-q,0)$ なので $Q(X-P)=(x-p)^2+(y-q)^2$ である。よって極線上の点 $X$ が円上にある($Q(X)=0$)のは $X=P$ のときに限り、極線は円と $P$ だけで交わる。すなわち接線である。円の場合は $Q(X-P)$ が正の値をとることを使った。行列が正則な 2 次曲線 $Q(x,y,1)=0$(非退化な 2 次曲線)では一段を足す。極線上の点を $X=P+td$($d$ は極線の方向で第 3 成分が $0$)と書くと、$F(P,P)=Q(P)=0$ と $F(P,X)=0$ から $F(P,d)=0$ であり、$Q(X)=t^2Q(d)$ となる。$Q(d)=0$ なら、$P$ と $d$ の張る 2 次元の部分空間 $U$ の上で $F$ が恒等的に $0$ となり $U\subset U^{\perp}$ だが、thm-bf-orthogonal の 1 により $\dim U^{\perp}=3-2=1$ なので起こらない。よって $Q(d)\ne0$ で、極線は曲線と $P$ だけで交わる。行列が正則でない曲線(たとえば $x^2-y^2=0$ と $P=(1,1)$ では極線 $x-y=0$ が曲線に含まれる)では、この結論は成り立たない。

反例:非退化でも部分空間への制限は退化しうる

$K^2$ 上の $f(x,y)=x_1y_2+x_2y_1$ は行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$(行列式 $-1$)をもつので、非退化な対称形式である。しかし $U:=Ke_1$ では $f(e_1,e_1)=0$ なので、$f$ の $U$ への制限は零形式で退化している。$U^{\perp}=\{v\mid f(e_1,v)=v_2=0\}=U$ であり、$U\cap U^{\perp}=U\ne0$、$U+U^{\perp}=U\ne K^2$ である。この例は「$f$ が非退化」を満たすが「$f|_U$ が非退化」を満たさないので、内積空間で成り立つ直和分解 $V=U\oplus U^{\perp}$(直交補空間 の記事の定理「有限次元の部分空間の直交分解」)が崩れる。thm-bf-orthogonal の 3 が正しい条件を与える。$K=\mathbb{R}$ なら、2 次形式 $f(x,x)=2x_1x_2$ は $x_1=u_1+u_2$、$x_2=u_1-u_2$ とおくと $2(u_1^2-u_2^2)$ になり、符号数 $(1,1)$ の形式である。

反例:直交が対称な関係にならない形式

$K^2$ 上の $f(x,y)=x_1y_2$(行列 $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$)では $f(e_1,e_2)=1$、$f(e_2,e_1)=0$ であり、$e_2$ は $e_1$ に直交するが $e_1$ は $e_2$ に直交しない。左核は $\{v\mid v_1y_2=0\ (\forall y)\}=Ke_2$、右核は $\{w\mid x_1w_2=0\ (\forall x)\}=Ke_1$ で、別の部分空間である。この $f$ は対称でも交代的でもなく、thm-bf-reflexive のとおり反射的でない。

反例:無限次元では非退化でも双対と同型にならない

多項式の空間 $V=K[t]$ 上で、基底 $1,t,t^2,\dots$ について $f(t^i,t^j)=\delta_{ij}$ となる対称形式 $f$ を考える。$v=\sum_ic_it^i\ne0$ なら $c_i\ne0$ となる $i$ で $f(v,t^i)=c_i\ne0$ なので、$f$ は非退化である。しかし線形汎関数 $\varphi(t^i):=1$(すべての $i$)は $f(v,-)$ の形に書けない。$v$ は有限個の $t^i$ の線形結合なので、$t^i$ が $v$ に現れない大きな $i$ で $f(v,t^i)=0\ne1$ だからである。この例は「有限次元」を満たさないので、thm-bf-nondegenerate の「非退化なら $f^{\flat}$ は同型」が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
$U$ への制限が非退化ex-bf-hyperbolic の $U=Ke_1$$V=U\oplus U^{\perp}$
反射的(対称または交代的)$f(x,y)=x_1y_2$左核と右核が一致すること、直交が対称な関係であること
有限次元$K[t]$ 上の $f(t^i,t^j)=\delta_{ij}$非退化なら $V\cong V^{*}$
交代的標準の双線形形式 $x\cdot y$階数が偶数であること($K^3$ で階数 $3$)
標数が $2$ でない$\mathbb{F}_2$ 上の $g(x,y)=x_1y_2+x_2y_1$対称形式が直交基底をもつこと

最後の行:$\mathbb{F}_2^2$ 上の $g(x,y)=x_1y_2+x_2y_1$ は対称かつ交代的($g(x,x)=2x_1x_2=0$)なので、直交基底 $v_1,v_2$ をもてば行列は対角で、対角成分 $g(v_i,v_i)=0$ から $g=0$ となって矛盾する。よって $g$ は直交基底をもたない。4 行目は thm-bf-alternating で確かめる。

性質

非退化性の判定

非退化であるための条件

$f\colon V\times W\to K$ を双線形形式、$m:=\dim V$、$n:=\dim W$、$G$ をある基底に関する $f$ の行列、$r:=\operatorname{rank}G$ とする。

  1. 左核の次元は $m-r$、右核の次元は $n-r$ である。$f^{\flat}\colon V\to W^{*}$ と $f^{\sharp}\colon W\to V^{*}$ の階数はどちらも $r$ である。
  2. 次は同値である。(a) $f$ は非退化である。(b) $m=n$ かつ $\det G\ne0$ である。(c) $f^{\flat}$ は同型である。(d) $f^{\sharp}$ は同型である。
  3. $m=n$ なら、左核が $0$ であることと右核が $0$ であることは同値である。
座標で核を行列の核に直す

基底を $e_1,\dots,e_m$、$u_1,\dots,u_n$ とし、$G=(f(e_i,u_j))$ とする。1:$v=\sum_ix_ie_i$ とすると、$f(v,-)$ は線形なので、$v$ が左核に入ることは $f(v,u_j)=0$($j=1,\dots,n$)と同値である。$f(v,u_j)=\sum_ix_if(e_i,u_j)=(G^{\top}x)_j$ なので、左核は座標で見ると $\ker G^{\top}$ である。$\operatorname{rank}G^{\top}=r$(階数(線形代数) の記事の定理「列階数と行階数は等しい」)と次元定理(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)により、その次元は $m-r$ である。同様に $w=\sum_jy_ju_j$ が右核に入ることは $f(e_i,w)=(Gy)_i=0$(すべての $i$)と同値で、右核は $\ker G$ にあたり、次元は $n-r$ である。$f^{\flat}$ の核は左核なので、次元定理により $\operatorname{rank}f^{\flat}=m-(m-r)=r$ であり、$f^{\sharp}$ も同様である。
2:(a) は $m-r=0$ かつ $n-r=0$、すなわち $m=n=r$ と同値であり、$G$ が $n$ 次正方行列で階数 $n$ であること、すなわち (b) と同値である(行列式)。$\dim W^{*}=n$(双対空間(線形代数) の記事の命題「双対基底の性質」)なので、$f^{\flat}$ が同型であることは $\operatorname{rank}f^{\flat}=r$ が $m$ とも $n$ とも等しいこと、すなわち $m=n=r$ と同値である。(d) も同じである。
3:$m=n$ なら $m-r=0$ と $n-r=0$ は同値である。$\square$

非退化な形式 $f\colon V\times W\to K$ があると $W\cong V^{*}$ であり、$V$ と $W$ は互いに相手の双対とみなせる。たとえば代数曲線の Serre の双対定理は、2 つのコホモロジー群の間の非退化な対(留数 の記事の「完全対」)を与え、両者の次元が等しいことを導く。ex-bf-infinite のとおり、2 の (a) ⇒ (c) には有限次元の仮定が要る。

直交補空間の次元

直交補空間と直和分解

$f$ を $n$ 次元の $V$ 上の非退化な反射的形式とし、$U\subset V$ を部分空間とする。

  1. $\dim U^{\perp}=n-\dim U$ である。
  2. $(U^{\perp})^{\perp}=U$ である。
  3. 次は同値である。(a) $f$ の $U$ への制限は非退化である。(b) $U\cap U^{\perp}=0$。(c) $V=U\oplus U^{\perp}$。(d) $f$ の $U^{\perp}$ への制限は非退化である。
双対空間への写像の核として数える

1:$\rho\colon V^{*}\to U^{*}$ を線形汎関数の $U$ への制限とする。$\rho$ の核は零化空間 $U^{0}$ であり、$\dim U^{0}=n-\dim U$(双対空間(線形代数) の記事の定理「零化空間の次元」)なので、$\rho$ の像の次元は $n-(n-\dim U)=\dim U=\dim U^{*}$ であり、$\rho$ は全射である。$f^{\sharp}\colon V\to V^{*}$ は thm-bf-nondegenerate により同型なので、合成 $\rho\circ f^{\sharp}\colon v\mapsto f(-,v)|_U$ は全射であり、その核は定義から $U^{\perp}$ である。次元定理により $\dim U^{\perp}=n-\dim U$ である。
2:$u\in U$、$v\in U^{\perp}$ なら $f(u,v)=0$ であり、反射性から $f(v,u)=0$ である。よって $u\in(U^{\perp})^{\perp}$ であり、$U\subset(U^{\perp})^{\perp}$ である。1 を 2 回使うと $\dim(U^{\perp})^{\perp}=n-(n-\dim U)=\dim U$ なので、両者は等しい。
3:$f$ の $U$ への制限 $f_U$ は反射的なので左核と右核は一致し、それは $\{u\in U\mid \text{すべての }u'\in U\text{ で }f(u',u)=0\}=U\cap U^{\perp}$ である。$U$ は有限次元なので、thm-bf-nondegenerate の 3 により (a) ⇔ (b) である。1 により $\dim U+\dim U^{\perp}=n$ なので、(b) ⇔ (c) である。$U^{\perp}$ に同じことを使うと、2 により $(U^{\perp})^{\perp}=U$ なので、(d) は $U^{\perp}\cap U=0$ と同値であり、(b) と同じ条件である。$\square$

内積空間では $u\ne0$ なら $f(u,u)>0$ なので、どの部分空間でも (a) が成り立ち、$V=U\oplus U^{\perp}$ がいつも成り立つ(直交補空間)。一般の非退化な形式では (a) が成り立つとは限らず、ex-bf-hyperbolic はその例である。3 の同値は Lan02 Chapter XV, Proposition 1.2(p. 573)にある。

直交が対称な関係になる形式

反射的な形式は対称か交代的

$V$ を任意の(無限次元でもよい)ベクトル空間とし、$f$ を $V$ 上の反射的な双線形形式とする。このとき $f$ は対称であるか、交代的である。

3 つのベクトルの恒等式から

$x,y,z\in V$ とする。$w:=f(x,y)z-f(x,z)y$ とおくと $f(x,w)=f(x,y)f(x,z)-f(x,z)f(x,y)=0$ なので、反射性から $f(w,x)=0$、すなわち
$$ f(x,y)f(z,x)=f(x,z)f(y,x)\qquad(\ast) $$
がすべての $x,y,z$ で成り立つ。$(\ast)$ で $z=x$ とおくと $f(x,x)\bigl(f(x,y)-f(y,x)\bigr)=0$ である。したがって
(i) $f(x,y)\ne f(y,x)$ なら $f(x,x)=0$ であり、$x,y$ の役割を入れ替えて $f(y,y)=0$ でもある。
$f$ が対称でないとし、$f(x,y)\ne f(y,x)$ となる $x,y$ を 1 組固定する。任意の $z$ について $f(z,z)=0$ を示せば、$f$ は交代的である。$f(z,x)\ne f(x,z)$ なら (i) により $f(z,z)=0$ であり、$f(z,y)\ne f(y,z)$ のときも同じである。そこで $f(z,x)=f(x,z)$ かつ $f(z,y)=f(y,z)$ とする。$(\ast)$ から $f(z,x)\bigl(f(x,y)-f(y,x)\bigr)=0$ なので $f(z,x)=f(x,z)=0$ である。$(\ast)$ で $x$ と $y$ の役割を入れ替えたもの $f(y,x)f(z,y)=f(y,z)f(x,y)$ から同様に $f(z,y)=f(y,z)=0$ である。すると
$$ f(x,y+z)=f(x,y),\qquad f(y+z,x)=f(y,x) $$
なので $f(x,y+z)\ne f(y+z,x)$ であり、(i) を $x,\ y+z$ に使うと $f(y+z,y+z)=0$ である。展開すると $f(y,y)+f(y,z)+f(z,y)+f(z,z)=0$ であり、$f(y,y)=0$((i))、$f(y,z)=f(z,y)=0$ なので $f(z,z)=0$ である。$\square$

直交 $f(x,y)=0$ が対称な関係であることを求めるだけで、形式は対称か交代的に限られる。双線形形式の構造論は、対称形式と交代形式の 2 つの型を扱う(Lan02 Chapter XV の冒頭、p. 571 は、これに複素共役を含む Hermite 形式を加えた 3 つの型を扱う)。

交代形式の標準形

交代形式の標準形

$f$ を $n$ 次元の $V$ 上の交代形式とする($K$ の標数は問わない)。$V$ の基底 $e_1,f_1,\dots,e_k,f_k,z_1,\dots,z_s$($2k+s=n$)で、
$$ f(e_i,f_i)=1,\qquad f(f_i,e_i)=-1 $$
であり、それ以外の基底ベクトルの組での値がすべて $0$ となるものがある。とくに $f$ の階数 $2k$ は偶数であり、$f$ が非退化なら $n$ は偶数である。

双曲平面を 1 つずつ切り出す

$n$ についての帰納法で示す。$f=0$ なら任意の基底を $z_1,\dots,z_n$ とすればよい($n=0$ もこれに含まれる)。$f\ne0$ とし、$f(x,y)\ne0$ となる $x,y$ をとって $e_1:=x$、$f_1:=y/f(x,y)$ とおく。$f(e_1,f_1)=1$ であり、交代的なので $f(e_1,e_1)=f(f_1,f_1)=0$、$f(f_1,e_1)=-1$ である(双線形写像 の記事の命題「交代的と歪対称の関係」の 1)。$f_1=ce_1$ なら $f(e_1,f_1)=cf(e_1,e_1)=0$ となるので、$e_1,f_1$ は線形独立である。$P:=\operatorname{span}\{e_1,f_1\}$、$P':=\{v\in V\mid f(e_1,v)=f(f_1,v)=0\}$ とおく。
$V=P\oplus P'$ を示す。$v\in V$ に対し $p:=-f(f_1,v)e_1+f(e_1,v)f_1\in P$ とおくと、$f(e_1,v-p)=f(e_1,v)-f(e_1,v)=0$、$f(f_1,v-p)=f(f_1,v)+f(f_1,v)f(f_1,e_1)=0$ なので $v-p\in P'$ であり、$V=P+P'$ である。$ae_1+bf_1\in P'$ なら $f(e_1,ae_1+bf_1)=b=0$、$f(f_1,ae_1+bf_1)=-a=0$ なので $P\cap P'=0$ である。
$f$ の $P'$ への制限は $n-2$ 次元の空間上の交代形式なので、帰納法の仮定により $P'$ に求める形の基底 $e_2,f_2,\dots,e_k,f_k,z_1,\dots,z_s$ がある。$w\in P'$ について $f(e_1,w)=f(f_1,w)=0$ であり、歪対称性から $f(w,e_1)=f(w,f_1)=0$ でもある。よって $e_1,f_1$ をこの基底に加えたものが $V$ の求める基底である。
この基底に関する $f$ の行列は、$\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ を $k$ 個と $s$ 次の零行列を対角に並べたものなので、階数は $2k$ である。$f$ が非退化なら階数は $n$ に等しい(thm-bf-nondegenerate)ので、$n=2k$ は偶数である。$\square$

$e_1,f_1,\dots,e_k,f_k$ を シンプレクティック基底(symplectic basis)という。行列で言えば、対角成分が $0$ の反対称行列(交代行列)$A$ は、正則行列 $S$ により $S^{\top}AS$ を上の標準形にでき、階数はつねに偶数である。とくに奇数次の交代行列の行列式は $0$ である。たとえば $\begin{pmatrix}0&a&b\\-a&0&c\\-b&-c&0\end{pmatrix}$ の行列式は $-a\cdot bc+b\cdot ac=0$ である。この標準形から、2 つの交代形式は階数が等しければ基底の取り替えで互いに移り合う(非退化な場合は Lan02 Chapter XV, Theorem 8.1・Corollary 8.2、pp. 586–587)。この標準形は多様体上のシンプレクティック形式の各点での形であり、ex-bf-examples の 3 は $k=1$ の場合である。

対称形式の分類との比較

標数が $2$ でなければ、対称な双線形形式は直交基底(行列が対角になる基底)をもつ。行列で言えば、対称行列 $G$ は正則行列 $S$ によって $S^{\top}GS$ を対角行列にできる。証明は 2次形式 の記事の定理「平方完成による対角化」にある(Lan02 Chapter XV, Theorem 3.1、p. 575、Axl24 9.12、p. 337)。対角成分のうちどれだけの情報が基底によらないかは体によって違い、交代形式の場合と比べると次のようになる。

形式と体基底を取り替えて得られる標準形分類する不変量
交代形式(任意の体)$\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ を $k$ 個と零行列階数 $2k$
対称形式($\mathbb{C}$ のように各元が平方である体)$\operatorname{diag}(1,\dots,1,0,\dots,0)$階数
対称形式($\mathbb{R}$)$\operatorname{diag}(1,\dots,1,-1,\dots,-1,0,\dots,0)$階数と符号数
対称形式($\mathbb{Q}$ など)対角行列対角成分の積の平方類など、体ごとに異なる

2 行目は、直交基底 $v_1,\dots,v_n$ をとって $f(v_i,v_i)=d_i\ne0$ となる $v_i$ を $v_i/\sqrt{d_i}$ に取り替えればよい。3 行目は $|d_i|$ の平方根で割ったもので、$1$ と $-1$ の個数が基底によらないことが Sylvester の慣性法則(2次形式 の記事の定理「実2次形式の係数の符号の不変性」)である。

補足

半双線形形式と Hermite 形式

複素ベクトル空間では、第 2 変数について共役線形な半双線形形式と、その中で $h(y,x)=\overline{h(x,y)}$ を満たす Hermite形式 が、双線形形式に代わって中心になる。複素内積は正定値な Hermite 形式である(内積)。Hermite 形式の行列は Hermite行列 であり、基底の取り替えで $G\mapsto S^{*}GS$ と変わる。実数の場合の対称形式と同じく、直交基底をもち、非退化なら正・負の係数の個数は基底によらない(Lan02 Chapter XV, Theorem 5.1、p. 579)。

文献

双線形形式の定義と行列、基底の取り替え、対称形式・交代形式は Axl24 9.1・9.4・9.7・9.9・9.12・9.14・9.16(§9A、pp. 333–340)にある。非退化性・直交和、対称形式の直交基底、交代形式の標準形は Lan02 Chapter XV §1・§3・§8(pp. 571–575、586–587)にある。

関連項目

参考文献

[2]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter XV §1(pp. 571–572)・Proposition 1.2(p. 573)、§3 Theorem 3.1(p. 575)、§5 Theorem 5.1(p. 579)、§8 Theorem 8.1・Corollary 8.2(pp. 586–587)

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