モデル完全性(model completeness)とは、理論 $T$ のモデルどうしの包含 $M\subseteq N$ がいつでも初等的、すなわち $M\preccurlyeq N$ となる性質である。Robinson の判定法により、これは $T$ のモデルの包含で存在論理式の真偽が一致することとも、すべての論理式が存在論理式と $T$ 同値であることとも同値になる。量化記号消去をもつ理論はモデル完全で、代数閉体の理論はその例かつ体の理論のモデル同伴であり、そこから弱零点定理が導ける一方、環の言語での実閉体の理論は量化記号消去をもたないがモデル完全である。
前提知識: 構造(モデル理論), 初等部分モデル, 量化記号消去, コンパクト性定理(一階論理)
モデル完全性(model completeness)は、理論 $T$ のモデルどうしの包含 $M\subseteq N$ が、いつでも初等的($M\preccurlyeq N$)になるという性質である。部分構造は一般には初等部分モデルではない。たとえば有理数体 $\mathbb Q$ は $\mathbb Q(\sqrt2)$ の部分体だが、文 $\exists y\,(y\cdot y=1+1)$ は $\mathbb Q(\sqrt2)$ でだけ真である。モデル完全な理論では、このような食い違いが起こらない。名前は A. Robinson による(Wil96 p. 1052、HS24 §2)。
モデル完全性は 量化記号消去 より弱い性質である。量化記号消去はすべての論理式を量化記号のない論理式に書き直せることだが、モデル完全性は、すべての論理式を存在量化記号 $\exists$ だけを先頭にもつ論理式に書き直せることと同値になる(Robinson の判定法、thm-mc-robinson)。この記事では、この判定法を証明し、完全性との関係、存在閉なモデルとモデル同伴、Hilbert の零点定理への応用、量化記号消去をもたないモデル完全な理論の例を扱う。
$L$ を一階言語とし、$L$ の文の集合を 理論 という。構造・部分構造・埋め込みは 構造(モデル理論) の記事、初等部分モデル $M\preccurlyeq N$ は 初等部分モデル の記事の定義に従う。論理式 $\varphi(\bar x),\psi(\bar x)$ が $T$ 同値 であることは 量化記号消去 の記事の定義「$T$ 同値と量化記号消去」に従う。$\bar x=(x_1,\dots,x_n)$ と書いたとき、論理式の自由変数は $\bar x$ の中にあるものとする。
量化記号のない論理式 $\theta$ を使って $\exists y_1\cdots\exists y_k\,\theta$ と書ける論理式を 存在論理式、$\forall y_1\cdots\forall y_k\,\theta$ と書ける論理式を 全称論理式 という($k=0$ も許す)。存在論理式の否定は全称論理式と論理的に同値であり、その逆も成り立つ。存在論理式どうしの $\land$・$\lor$ は、束縛変数の名前を付け替えて量化記号を前に出せば、また存在論理式と論理的に同値になる。全称論理式も同様である。
$M\subseteq N$ のとき、量化記号のない論理式の真偽は $M$ と $N$ で一致する(初等埋め込み の記事の命題「埋め込みが保つ式」の (i))。このことから、$\bar a\in M^n$ について、存在論理式は $M$ で真なら $N$ で真であり($M$ の中の証人がそのまま $N$ の証人になる)、全称論理式は $N$ で真なら $M$ で真である。
理論 $T$ が モデル完全 であるとは、$T$ の任意のモデル $M,N$ で $M\subseteq N$ であるものについて、$M\preccurlyeq N$ となることをいう。$L$ 構造 $M$ がモデル完全であるとは、$M$ で真な文の全体 $\operatorname{Th}(M)$ がモデル完全であることをいう。
$L$ 構造 $M\subseteq N$ について、$M$ が $N$ の中で 存在閉 であるとは、任意の存在論理式 $\varphi(\bar x)$ と $\bar a\in M^n$ について、$N\models\varphi(\bar a)$ ならば $M\models\varphi(\bar a)$ であることをいう。$M\preccurlyeq_1N$ と書く。
逆向きの「$M\models\varphi(\bar a)$ なら $N\models\varphi(\bar a)$」は存在論理式についていつでも成り立つので、$M\preccurlyeq_1N$ は「存在論理式の真偽が $M$ と $N$ で一致する」ことと同じである。量化記号のない論理式は原子論理式とその否定(リテラル)の連言の選言と同値で、$\exists$ は $\lor$ と交換できるので、$\theta$ がリテラルの連言である $\exists\bar y\,\theta(\bar x,\bar y)$ の形の論理式について確かめれば十分である。
存在閉であることから初等性を導くために、次の補題を使う。
$L$ 構造 $M\subseteq N$ について $M\preccurlyeq_1N$ ならば、$L$ 構造 $M^*$ で、$N\subseteq M^*$ かつ $M\preccurlyeq M^*$ となるものがある。
$M$ の初等図式 $\operatorname{Th}(M_M)$ のモデルに、$N$ を $M$ の上で埋め込む。
$L_M$ と $M_M$ は 構造(モデル理論) の記事の「図式の補題」の節の記号とし、$T':=\operatorname{Th}(M_M)$($M_M$ で真な $L_M$ の文の全体)とおく。$N$ を $c_a\mapsto a$($a\in M$)で $L_M$ 構造 $N_M$ に拡張する。
$N_M$ が $T'$ の論理的帰結である全称文をすべて満たすことを示す。$M_M$ は $T'$ のモデルなので、そのような全称文は $M_M$ で真な全称文 $\forall\bar y\,\chi(c_{\bar a},\bar y)$($\chi(\bar x,\bar y)$ は量化記号のない $L$ の論理式、$\bar a\in M^n$)である。$N_M$ で偽なら、存在論理式 $\exists\bar y\,\lnot\chi(\bar x,\bar y)$ が $N$ で $\bar a$ について真であり、$M\preccurlyeq_1N$ により $M$ でも真となって、$M_M$ で真であることに反する。
よって 構造(モデル理論) の記事の系「理論のモデルに埋め込める構造」により、$N_M$ は $T'$ のモデル $M'$ に埋め込める。この埋め込み $j$ は定数を保つので $j(a)=c_a^{M'}$($a\in M$)である。$M'\models T'$ なので、$L$ の論理式 $\varphi$ と $\bar a\in M^n$ について $M\models\varphi(\bar a)$ なら $\varphi(c_{\bar a})\in T'$ で $M'\models\varphi(j(\bar a))$ であり、否定をとれば逆も成り立つ。つまり $j$ を $M$ に制限したものは初等埋め込みである。最後に、$M'|_L$ の元のうち $j(N)$ に属さないものの名前を $N$ と交わらない集合の元に付け替え、$j(b)$ を $b$ に戻した同型な構造を $M^*$ とすれば、$N\subseteq M^*$ で、包含 $M\subseteq M^*$ は初等埋め込みである。$\square$
$T$ を理論とする。次の 4 条件は同値である。
2 から 1 を導く部分を Robinson の判定法とよぶことが多い。$T$ がモデルをもたなければ 4 条件はどれも自明に成り立つ。モデル完全性を示すには、存在論理式、すなわち連立方程式・不等式の解の存在が $M$ と $N$ で一致することだけを見ればよい。
1 ⇒ 2 は定義からただちに従う。3 と 4 の同値は、$\lnot\varphi$ に当てて否定をとればよい(存在論理式の否定は全称論理式と、全称論理式の否定は存在論理式と論理的に同値)。残りの 2 ⇒ 1、1 ⇒ 4、3 ⇒ 1 を示す。
2 ⇒ 1. $T$ のモデル $M\subseteq N$ をとり、$M_0:=M$、$N_0:=N$ とおく。2 により $M_0\preccurlyeq_1N_0$ なので、lem-mc-embed により $N_0\subseteq M_1$、$M_0\preccurlyeq M_1$ となる $M_1$ がある。$M_1$ は $M_0$ と初等同値なので $T$ のモデルであり、$N_0\subseteq M_1$ に 2 を当てると $N_0\preccurlyeq_1M_1$ となる。再び lem-mc-embed により $M_1\subseteq N_1$、$N_0\preccurlyeq N_1$ となる $N_1$ がある。これをくり返して、$M_0\subseteq N_0\subseteq M_1\subseteq N_1\subseteq M_2\subseteq\cdots$ で $M_i\preccurlyeq M_{i+1}$、$N_i\preccurlyeq N_{i+1}$ となる列を得る。部分構造の鎖として、$(M_i)$ の和と $(N_i)$ の和は同じ構造 $U$ である。初等部分モデル の記事の定理「初等鎖の和」により $M\preccurlyeq U$、$N\preccurlyeq U$ なので、$\bar a\in M^n$ について $M\models\varphi(\bar a)\iff U\models\varphi(\bar a)\iff N\models\varphi(\bar a)$ となり、$M\preccurlyeq N$ である。
1 ⇒ 4. 論理式 $\varphi(\bar x)$ をとり、新しい定数記号 $\bar c=(c_1,\dots,c_n)$ を用意する。$\Gamma$ を、$T$ のすべてのモデル $M$ と $\bar a\in M^n$ について「$M\models\varphi(\bar a)$ なら $M\models\psi(\bar a)$」を満たす全称論理式 $\psi(\bar x)$ の全体とする。
(a) $T\cup\{\psi(\bar c)\mid\psi\in\Gamma\}\cup\{\lnot\varphi(\bar c)\}$ がモデルをもたないことを示す。モデル $(N,\bar b)$ があったとし、$T^\sharp:=T\cup\{\varphi(\bar c)\}$ とおく。$T^\sharp$ の論理的帰結である全称文 $\forall\bar y\,\chi(\bar c,\bar y)$ をとると、$T$ のモデル $M$ と $M\models\varphi(\bar a)$ となる $\bar a$ について、$M$ を $\bar c\mapsto\bar a$ で拡張したものは $T^\sharp$ のモデルなので $M\models\forall\bar y\,\chi(\bar a,\bar y)$ である。よって $\forall\bar y\,\chi(\bar x,\bar y)\in\Gamma$ であり、$(N,\bar b)$ はこの文を満たす。構造(モデル理論) の記事の系「理論のモデルに埋め込める構造」により、$(N,\bar b)$ は $T^\sharp$ のモデル $(M,\bar a)$ に埋め込める。埋め込み $j$ は $j(\bar b)=\bar a$ を満たし、$j(N)$ は $N$ と同型なので $T$ のモデルで、$j(N)\subseteq M$ である。1 により $j(N)\preccurlyeq M$ で、$M\models\varphi(\bar a)$ から $j(N)\models\varphi(\bar a)$、同型で戻して $N\models\varphi(\bar b)$ となり、矛盾する。
(b) (a) と コンパクト性定理(一階論理) の記事の系「帰結の有限性」により、有限個の $\psi_1,\dots,\psi_k\in\Gamma$ で $T\cup\{\psi_1(\bar c),\dots,\psi_k(\bar c)\}$ のモデルでは $\varphi(\bar c)$ が真となるものがある。$\psi:=\psi_1\land\cdots\land\psi_k$($k=0$ なら $\forall y\,(y=y)$)は全称論理式と論理的に同値である。$T$ のモデル $M$ と $\bar a$ について、$M\models\psi(\bar a)$ なら $\bar c\mapsto\bar a$ で拡張して $M\models\varphi(\bar a)$ であり、逆は $\psi_i\in\Gamma$ による。よって $\varphi$ と $\psi$ は $T$ 同値である。
3 ⇒ 1. 3 と(3 から従う)4 により、$\varphi(\bar x)$ は存在論理式 $\varphi^\exists$ とも全称論理式 $\varphi^\forall$ とも $T$ 同値である。$T$ のモデル $M\subseteq N$ と $\bar a\in M^n$ について、$M\models\varphi(\bar a)$ なら $M\models\varphi^\exists(\bar a)$ で、存在論理式は上に保たれるので $N\models\varphi^\exists(\bar a)$、よって $N\models\varphi(\bar a)$ である。$N\models\varphi(\bar a)$ なら $N\models\varphi^\forall(\bar a)$ で、全称論理式は下に保たれるので $M\models\varphi^\forall(\bar a)$、よって $M\models\varphi(\bar a)$ である。$\square$
3 の存在論理式による書き直しは Wil96 p. 1052 がモデル完全性の定義として採る形であり、2 の形は同書 p. 1055 で同値な言い換えとして紹介されている。HS24 §2 は 3 との同値を Robinson に帰している。量化記号消去は、3 の $\psi$ を量化記号のない論理式にとれるという、より強い条件である。
モデル完全な理論は完全とは限らない(ACF では標数の違うモデルが異なる文を満たす)。すべてのモデルに埋め込めるモデルがあれば完全になる。
$T$ をモデル完全な理論とし、$T$ のモデル $M_0$ が $T$ のどのモデルにも埋め込めるとする。このとき $T$ の任意の 2 つのモデルは初等同値である。すなわち $T$ は 完全な理論 である。
$T$ のモデル $M$ と埋め込み $j\colon M_0\to M$ をとる。$j(M_0)$ は $M_0$ と同型なので $T$ のモデルで、$j(M_0)\subseteq M$ だから、モデル完全性により $j(M_0)\preccurlyeq M$ である。よって $M$ は $M_0$ と同じ文を満たす。$M$ は任意だったので、$T$ のどの 2 つのモデルも $M_0$ と、したがって互いに初等同値である。$\square$
$p$ を素数または $0$ とし、$\mathrm{ACF}_p$ を標数 $p$ の代数閉体の理論とする。$\mathrm{ACF}_p$ は完全である。
素体 $P$($\mathbb Q$ または $\mathbb F_p$)の 代数閉包 $\Omega_p$ が、標数 $p$ のどの代数閉体 $K$ にも埋め込めることを示せば、prop-mc-complete から従う。$\mathrm{ACF}_p$ のモデルは ACF のモデルなので、ex-mc-first の 1 により $\mathrm{ACF}_p$ もモデル完全である。$K$ は $P$ を含み、$K$ の中で $P$ 上代数的な元の全体 $A$ は $P$ の代数閉包である(代数閉包 の記事の命題「代数閉体の中での相対的閉包」)。$\Omega_p$ は $P$ の代数拡大なので、同記事の定理「代数拡大の埋め込み」により $P$ 上 $A\subseteq K$ に埋め込める。体の埋め込みは環の言語の構造の埋め込みである。$\square$
この系は 量化記号消去 の記事の系「代数閉体の理論の帰結」の 1 と同じ主張で、そこでは量化記号のない文の真偽が標数だけで決まることから導いている。
$T$ を理論とする。
thm-mc-robinson の 1 ⇒ 2 により、$T$ がモデル完全であることと、$T$ のすべてのモデルが存在閉なモデルであることは同値である。
体 $K$ について、次の 2 条件は同値である。
1 ⇒ 2:$K\subseteq L$ を体とし、$\Omega$ を $L$ の 代数閉包 とする(同記事の定理「代数閉包の存在」)。$K\subseteq\Omega$ はどちらも代数閉体なので、ex-mc-first の 1 により $K\preccurlyeq\Omega$ である。$K$ の元をパラメータにもつ存在論理式が $L$ で真なら、$L\subseteq\Omega$ なので $\Omega$ で真であり、$K\preccurlyeq\Omega$ により $K$ で真である。
2 ⇒ 1:$f\in K[Y]$ を定数でない多項式とし、その既約因子 $q$ をとる。$L:=K[Y]/(q)$ は $K$ を含む体で、$Y$ の類は $f$ の根である。$f$ の係数をパラメータにもつ存在論理式 $\exists y\,(f(y)=0)$ は $L$ で真なので、2 により $K$ で真であり、$f$ は $K$ に根をもつ。
モデル同伴であること:どの体も代数閉包に埋め込め、代数閉体は体であり、ACF はモデル完全である(ex-mc-first の 1)。$\square$
$T_1^*,T_2^*$ がどちらも理論 $T$ のモデル同伴なら、$T_1^*$ と $T_2^*$ のモデルの全体は一致する。
$T_1^*$ のモデル $M_0$ をとる。$M_0$ は $T$ のモデルに、それは $T_2^*$ のモデルに埋め込めるので、$M_0$ は $T_2^*$ のあるモデル $N_0$ に埋め込める。同様に $N_0$ は $T_1^*$ のあるモデル $M_1$ に埋め込める。これをくり返し、各段で元の名前を付け替えて埋め込みを包含にすると、$M_0\subseteq N_0\subseteq M_1\subseteq N_1\subseteq\cdots$($M_i\models T_1^*$、$N_i\models T_2^*$)を得る。$T_1^*$、$T_2^*$ はモデル完全なので $M_i\preccurlyeq M_{i+1}$、$N_i\preccurlyeq N_{i+1}$ である。和 $U$ について、初等部分モデル の記事の定理「初等鎖の和」により $M_0\preccurlyeq U$、$N_0\preccurlyeq U$ なので、$M_0$ は $N_0$ と初等同値であり、$T_2^*$ のモデルである。$T_1^*$ と $T_2^*$ を入れ替えれば逆の包含も得られる。$\square$
言語 $\{<\}$ の全順序の理論(量化記号消去 の記事の定義「端点のない稠密な全順序の理論」の 1)のモデル同伴は DLO である。DLO はモデル完全で(ex-mc-first の 1)、DLO のモデルは全順序である。全順序 $(P,<)$ に対し、$P\times\mathbb Q$ に辞書式の順序($(a,r)<(b,s)\iff a< b$、または $a=b$ かつ $r< s$)を入れると DLO のモデルになり、$a\mapsto(a,0)$ は埋め込みである。
辞書式の順序は全順序である。$(a,r)<(b,s)$ のとき、$a=b$ なら $(a,\frac{r+s}2)$ が、$a< b$ なら $(a,r+1)$ が間にあるので稠密である。$(a,r\pm1)$ が $(a,r)$ の前後にあるので端点はない。$a< b\iff(a,0)<(b,0)$ なので $a\mapsto(a,0)$ は埋め込みである。
モデル完全性は、「大きな体で解ける方程式は小さな体でも解ける」という形の主張を導く。
$K$ を代数閉体とし、$I$ を多項式環 $K[x_1,\dots,x_n]$ の $K[x_1,\dots,x_n]$ と異なるイデアルとする。このとき、$I$ のすべての元が $0$ になる点 $\bar a\in K^n$ がある。
Hilbertの基底定理 により $I=(f_1,\dots,f_k)$ と有限個の元で生成される。$I$ を含む極大イデアル $\mathfrak m$ をとる(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。$F:=K[x_1,\dots,x_n]/\mathfrak m$ は体で、$K\to F$ は体の準同型なので単射であり、$K\subseteq F$ とみなせる。$\Omega$ を $F$ の 代数閉包 とし、$\xi_j\in\Omega$ を $x_j$ の類とすると、$f_i(\xi_1,\dots,\xi_n)=0$($i=1,\dots,k$)である。$f_i$ の係数をパラメータにもつ存在論理式
$$
\exists y_1\cdots\exists y_n\ \bigl(f_1(\bar y)=0\land\cdots\land f_k(\bar y)=0\bigr)
$$
は $\Omega$ で真であり、$K\subseteq\Omega$ はどちらも代数閉体なので、ex-mc-first の 1 により $K$ でも真である。その証人 $\bar a\in K^n$ で $f_1,\dots,f_k$ が、したがって $I$ のすべての元が $0$ になる。$\square$
これは Hilbertの零点定理 の記事の定理の 2(弱零点定理)の別証明である。同記事の証明は剰余体の決定による代数的なものだが、ここでは ACF の量化記号消去(同じく代数的な議論)をモデル完全性の形で使った。証明の要点は、$F$ の中にはいつでも解があり、それを $K$ に引き戻すのが存在閉性だという点にある。強零点定理は、同記事のとおり新しい変数を 1 つ加える方法で弱零点定理から導ける。
環の言語 $L_{\mathrm{ring}}=\{+,-,\cdot,0,1\}$ の次の文からなる理論を $\mathrm{RCF}_{\mathrm{ring}}$ とおく:体の公理、各 $m\ge1$ について $\lnot\exists x_1\cdots\exists x_m\,(x_1^2+\cdots+x_m^2+1=0)$、$\forall x\,\exists y\,(x=y^2\lor-x=y^2)$、各奇数 $d$ について「$d$ 次のモニック多項式は根をもつ」。
1 は 実閉体 の記事の同値条件に帰着させ、2 は順序が平方で定義できることと順序環の言語での量化記号消去から、3 は $\mathbb R$ での反例から従う。
1:実閉体が公理を満たすことは、実体の定義、実閉体 の記事の補題「実閉体における平方」の 1、定理「実閉体の同値条件」の 1 ⇒ 2 による。逆に $K$ が公理を満たすとする。平方の和 $s=x^2+y^2$ をとると、公理により $s=z^2$ か $-s=z^2$ である。後者で $(x,y,z)\ne(0,0,0)$ なら $x^2+y^2+z^2=0$ を $0$ でない成分の平方で割って $-1$ が平方の和になり矛盾するので、後者なら $s=0=0^2$ である。よって 2 つの平方の和は平方であり、これをくり返して有限個の平方の和も平方である。同記事の定理「実閉体の同値条件」の 1 ⇒ 2 の証明の前半(実体であること、平方の和が平方であること、$a$ か $-a$ が平方であることだけを使う)により、$0$ でない平方の全体を正の元とする順序で $K$ は順序体になり、正の元は平方である。奇数次の多項式はモニックにして根をもつので、同定理の 2 ⇒ 1 により $K$ は実閉体である。
2:実閉体 $K\subseteq L$(部分体)をとる。実閉体 の記事の系「順序の一意性」により、実閉体の順序の正の元は $0$ でない平方の全体である。$a\in K$ が $K$ で正なら $a=b^2$($b\ne0$)で $L$ でも正であり、$K$ で負なら $-a$ が $L$ で正である。よって $(K,\le)$ は $(L,\le)$ の順序環の言語での部分構造である。順序環の言語では実閉体の理論は量化記号消去をもつ(量化記号消去 の記事の「実閉体」の節。この記事では証明しない)ので、同記事の命題「量化記号消去の帰結」の 1 により $(K,\le)\preccurlyeq(L,\le)$ であり、$L_{\mathrm{ring}}$ の論理式についてもとくに $K\preccurlyeq L$ である。
3:$\mathrm{RCF}_{\mathrm{ring}}$ が量化記号消去をもてば、$\exists y\,(y\cdot y=x)$ と $T$ 同値な量化記号のない論理式 $\psi(x)$ があり、モデル $\mathbb R$ で両者は同じ集合 $[0,\infty)$ を定める。これは 量化記号消去 の記事の反例の表の 4 行目($\mathbb R$ で量化記号のない論理式が定める集合は有限集合か有限集合の補集合)に反する。$\square$
2 の証明が示すように、順序 $x\ge0\iff\exists y\,(x=y^2)$ は存在論理式で定義でき、補集合 $x<0\iff\exists y\,(y\ne0\land-x=y^2)$ も存在論理式で定義できる。この 2 つの存在論理式で順序を置き換えるのがモデル完全性の正体である。
実数の解析的な構造でも、量化記号消去は成り立たないがモデル完全性は成り立つ例が知られている。$\mathbb R$ に $[0,1]^m$ に制限した実解析関数をすべて加えた構造はモデル完全だが量化記号消去をもたない(Gabrielov と Osgood。Wil96 p. 1052 の紹介による)。Wilkie は、指数関数を加えた $(\mathbb R,+,\cdot,-,0,1,<,\exp)$ がモデル完全であることを証明した(Wil96 p. 1054 の Second Main Theorem。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $N$ が $T$ のモデル(thm-mc-robinson の 2 ⇒ 1 の使い方) | $T=\mathrm{ACF}$、$\mathbb C\subseteq\mathbb C(t)$ | $\mathbb C\preccurlyeq_1\mathbb C(t)$ から $\mathbb C\preccurlyeq\mathbb C(t)$ を導くこと |
| 共通に埋め込めるモデル(prop-mc-complete) | 標数を固定しない ACF | 完全であること |
| 端点がない(DLO のモデル完全性) | 最小元と最大元をもつ稠密な全順序、$[0,1]\subseteq[0,2]$ | モデル完全であること |
| 言語に順序がある(量化記号消去) | $\mathrm{RCF}_{\mathrm{ring}}$ | 量化記号消去(モデル完全性は残る) |
1 行目は存在閉性と初等性の差、2 行目は標数の文、3 行目は ex-mc-first の 3、4 行目は prop-mc-rcf-ring による。
1 行目:$\mathbb C(t)$ は体だが代数閉体でない。prop-mc-ec-fields の 1 ⇒ 2 により $\mathbb C\preccurlyeq_1\mathbb C(t)$ である。一方、文 $\forall x\,\exists y\,(y\cdot y=x)$ は $\mathbb C$ で真だが、$\mathbb C(t)$ では $x=t$ について偽である($y=g/h$ なら $g^2=th^2$ で、両辺の $t$ についての次数の偶奇が合わない)。よって $\mathbb C\not\preccurlyeq\mathbb C(t)$ である。存在閉性から初等性を導くには、拡大の側もモデルであることが要る。
2 行目:ACF はモデル完全だが、文 $1+1=0$ は $\mathbb F_2$ の代数閉包で真、$\mathbb Q$ の代数閉包で偽なので、ACF は完全でない。標数の違う体の間には体の埋め込みがないので、すべてのモデルに埋め込めるモデルはない。
3 行目:$[0,1]$ と $[0,2]$ はどちらも最小元と最大元をもつ稠密な全順序で、$[0,1]\subseteq[0,2]$ は部分構造だが、ex-mc-first の 3 のとおり初等的でない。端点のない場合の DLO はモデル完全である。
4 行目:prop-mc-rcf-ring の 2・3 による。$\mathrm{RCF}_{\mathrm{ring}}$ に順序の記号を加え、順序を平方で定める文を足すと、量化記号消去をもつ(量化記号消去 の記事の「実閉体」の節)。
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