Hilbert–Mumfordの判定法

同義語:Hilbert–Mumfordの数値的判定法Hilbert–Mumford criterionHilbert–Mumford numerical criterion

概要

Hilbert–Mumfordの判定法(Hilbert–Mumford criterion)とは、代数閉体上の簡約群 $G$ の有限次元表現 $V$ の点 $x\ne0$ について、軌道の閉包が原点を含む(不安定)ことと、ある 1 径数部分群 $\lambda$ で $t\to0$ のとき $\lambda(t)x\to0$ となることが同値であり、軌道が閉で固定部分群が有限(安定)であることと、自明でないすべての $\lambda$ に関して $x$ が正と負の重みをもつことが同値である、という定理である。軌道の閉包の問題を 1 次元の群の重みの計算に帰着し、幾何学的不変式論で商に入れる点を決めるのに使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 簡約群, 代数的トーラス, 群作用, Zariski位相, 凸錐

Hilbert–Mumfordの判定法(Hilbert–Mumford criterion)は、簡約群 $G$ の線形表現 $V$ の点 $x$ が不安定・半安定・安定のどれであるかを、$G$ の 1 径数部分群 $\lambda\colon\mathbb{G}_m\to G$ に関する $x$ の重みだけで判定する定理である。たとえば $x$ が不安定、すなわち軌道 $G\cdot x$ の閉包が原点を含むことは、ある 1 径数部分群 $\lambda$ について $t\to0$ で $\lambda(t)x\to0$ となることと同値である。軌道の閉包という大域的で扱いにくい条件が、1 次元の群の作用という具体的な計算に帰着される。
Hilbert は 2 元形式などの不変式論でこの考え方を用い、Mumford が幾何学的不変式論の基礎として一般の簡約群について定式化した。代数多様体や層のモジュライ空間を群の作用による商として作るとき、商に入れる点(半安定点・安定点)を決めるのにこの判定法が使われる。
この記事では、安定性と重みを定義し、判定法を述べる。そのうえで「容易な向き」を一般の群について、判定法全体を代数的トーラスの場合に凸幾何を使って証明し、2 元形式・行列の共役・平面 3 次曲線に当てはめる。一般の簡約群の場合の残りの向きは証明しない。

設定と定義

以下、$k$ を代数閉体、$G$ を $k$ 上の簡約群(連結とする)とし、$G$ は有限次元の $k$ 線形空間 $V$ に線形に作用するとする(表現 $G\to\mathrm{GL}(V)$)。$x\in V$ の軌道 $G\cdot x$ の Zariski位相 での閉包を $\overline{G\cdot x}$ と書き、固定部分群を $G_x:=\{g\in G\mid gx=x\}$ と書く。

不安定・半安定・安定

$x\in V$、$x\ne0$ とする。

  1. $0\in\overline{G\cdot x}$ のとき、$x$ は 不安定(unstable)であるという。
  2. $0\notin\overline{G\cdot x}$ のとき、$x$ は 半安定(semistable)であるという。
  3. $G\cdot x$ が $V$ の閉集合で、$G_x$ が有限群であるとき、$x$ は 安定(stable)であるという。
    射影空間 $\mathbb{P}(V)$ の点 $[x]$ は、その持ち上げ $x\in V\setminus\{0\}$ が不安定・半安定・安定であるとき、それぞれそう呼ぶ。

$G$ の作用はスカラー倍と可換なので $G\cdot(cx)=c\,(G\cdot x)$ であり、射影空間の点についての定義は持ち上げの選び方によらない。安定な $x\ne0$ は半安定である。実際 $G\cdot x$ は閉なので $\overline{G\cdot x}=G\cdot x$ であり、$gx=0$ なら $x=g^{-1}0=0$ となるから $0\notin G\cdot x$ である。不安定の反対は半安定であって、安定ではないことに注意する。

1 径数部分群と重み

1 径数部分群とは、代数群の準同型 $\lambda\colon\mathbb{G}_m\to G$ のことである。$\mathbb{G}_m$ の有限次元表現は対角化可能なので(MilAG Theorem 14.12, p. 229)、$V$ は
$$ V=\bigoplus_{r\in\mathbb{Z}}V_r,\qquad V_r:=\{v\in V\mid \lambda(t)v=t^rv\ (t\in k^\times)\} $$
と分解する。$x=\sum_rx_r$($x_r\in V_r$)と書くとき、$x_r\ne0$ となる $r$ の全体を $\lambda$ に関する $x$ の重み といい、その最小値を $\mu(x,\lambda)$ と書く。$\lambda(t)x=\sum_rt^rx_r$ なので、次が成り立つ。

  • $\mu(x,\lambda)>0$ なら、射 $\mathbb{G}_m\to V$、$t\mapsto\lambda(t)x$ は $0$ を $0$ に写す射 $\mathbb{A}^1\to V$ に延びる。このとき $\lim_{t\to0}\lambda(t)x=0$ と書く。
  • $\mu(x,\lambda)\ge0$ なら、同じ射は $0$ を $x_0$(重み $0$ の成分)に写す射に延びる。
  • $\lambda^{-1}(t):=\lambda(t^{-1})$ に関する重みは、$\lambda$ に関する重みの符号を変えたものである。
    $\lambda(t)x$ は $\lambda(\mathbb{G}_m)\cdot x\subset G\cdot x$ に属し、$\mathbb{G}_m$ は $\mathbb{A}^1$ で稠密なので、延びた射の $0$ での値は $\overline{G\cdot x}$ に属する。

主定理

Hilbert–Mumfordの判定法

$k$ を代数閉体、$G$ を簡約群、$V$ を $G$ の有限次元表現、$x\in V\setminus\{0\}$ とする。

  1. $x$ が不安定であるための必要十分条件は、$\mu(x,\lambda)>0$ となる 1 径数部分群 $\lambda$ があること、すなわち $\lim_{t\to0}\lambda(t)x=0$ となる $\lambda$ があることである。
  2. $x$ が半安定であるための必要十分条件は、すべての 1 径数部分群 $\lambda$ について $\mu(x,\lambda)\le0$ となることである。
  3. $x$ が安定であるための必要十分条件は、自明でないすべての 1 径数部分群 $\lambda$ について $\mu(x,\lambda)<0$ となること、すなわち $x$ が $\lambda$ に関して正と負の両方の重みをもつことである。

2 は 1 の言い換えである。3 で「正と負の両方」と言い換えられるのは、$\mu(x,\lambda^{-1})<0$ が $\lambda$ に関する正の重みの存在を意味するからである。

主定理の出典と証明の配置

言明は Mum77 1.1 の表(p. 41)と 1.2 の注意(pp. 42–43)にある(同所では重みと不安定性の向きがこの記事と同じ規約で書かれている)。1 の「$\lambda$ があれば不安定」と 3 の「安定なら負の重みがある」は容易な向きで、次の prop-hm-easy で一般の $G$ について証明する。残りの向きはこの記事では証明しない。Mum77 1.2 の注意 vii(p. 43)によれば、それは $k[\![t]\!]$ と $k((t))$ に値をとる $G$ の点について、両側剰余類 $G(k[\![t]\!])\backslash G(k((t)))/G(k[\![t]\!])$ が 1 径数部分群の像で代表されることから導かれる。$G$ がトーラスの場合は、この記事の thm-hm-torus で完全に証明する。

容易な向き

$G$ を $k$ 上の任意の線形代数群とし、$x\in V\setminus\{0\}$ とする。

  1. $\mu(x,\lambda)>0$ となる 1 径数部分群 $\lambda$ があれば、$x$ は不安定である。
  2. $x$ が安定なら、自明でないすべての 1 径数部分群 $\lambda$ について $\mu(x,\lambda)<0$ である。
極限点の固定部分群

1:重みの節で見たとおり、$\lim_{t\to0}\lambda(t)x=0$ は $\overline{G\cdot x}$ に属する。
2:自明でない $\lambda$ について $\mu(x,\lambda)\ge0$ と仮定して矛盾を導く。重みの節により極限 $x_0:=\lim_{t\to0}\lambda(t)x$ があり、$x_0\in\overline{G\cdot x}=G\cdot x$ なので $x_0=gx$ となる $g\in G$ がある。$x_0$ は重み $0$ の成分なので $\lambda(\mathbb{G}_m)$ で固定され、$\lambda(\mathbb{G}_m)\subset G_{x_0}=gG_xg^{-1}$ である。$\lambda$ は自明でないので、その核は $\mathbb{G}_m$ の真の閉部分群、すなわち有限群 $\mu_n$ であり、像 $\lambda(\mathbb{G}_m)$ は無限群である。これは $G_x$ が有限であることに反する。$\square$

トーラスの場合の証明

$T\cong\mathbb{G}_m^r$ を代数的トーラスとする。指標 $\chi\colon T\to\mathbb{G}_m$ の群 $X(T)$ と 1 径数部分群の群 $Y(T)$ はどちらも $\mathbb{Z}^r$ と同一視でき、$\chi\circ\lambda(t)=t^{\langle\chi,\lambda\rangle}$ で定まる対 $\langle\ ,\ \rangle$ は $\mathbb{Z}^r$ の標準内積になる。$T$ の表現は指標ごとの固有空間に分解する(MilAG Theorem 14.12, p. 229)。
$$ V=\bigoplus_{\chi\in X(T)}V_\chi,\qquad V_\chi:=\{v\mid tv=\chi(t)v\}. $$
$x=\sum_\chi x_\chi$ について $\operatorname{wt}(x):=\{\chi\mid x_\chi\ne0\}$ を $x$ の 重みの集合 という。$\lambda\in Y(T)$ に関する $x$ の重みは $\{\langle\chi,\lambda\rangle\mid\chi\in\operatorname{wt}(x)\}$ である。

トーラスの場合の判定法

$x\in V\setminus\{0\}$、$W:=\operatorname{wt}(x)\subset\mathbb{Z}^r$ とする。

  1. $x$ が不安定 $\iff$ すべての $\chi\in W$ で $\langle\chi,\lambda\rangle>0$ となる $\lambda\in\mathbb{Z}^r$ がある $\iff$ $0$ は $W$ の凸包に属さない。
  2. $x$ が安定 $\iff$ どの $\lambda\in\mathbb{Z}^r\setminus\{0\}$ にも $\langle\chi,\lambda\rangle<0$ となる $\chi\in W$ がある。
証明の配置

証明は、整数ベクトルの有限集合についての凸幾何の補題 2 つ(lem-hm-rational、lem-hm-cone)のあとの prf-thm-hm-torus で与える。

有理化

$W\subset\mathbb{Z}^r$ を有限集合、$u\in\mathbb{Z}^r$ とする。

  1. $u=\sum_{w\in W}a_ww$ となる実数 $a_w\ge0$ があれば、有理数 $a_w\ge0$ でもそう書ける。
  2. すべての $w\in W$ で $\langle w,y\rangle\ge0$、かつ $\langle u,y\rangle<0$ となる $y\in\mathbb{R}^r$ があれば、そのような $y\in\mathbb{Z}^r$ もある。$u$ についての条件 $\langle u,y\rangle<0$ を外し「すべての $w$ で $\langle w,y\rangle>0$」とした形でも同じである。
有理部分空間の有理点は稠密

有理数係数の 1 次方程式系が実数解をもてば、解の全体は有理数解 $p$ と有理数ベクトルを基底とする線形空間 $U$ の和 $p+U$ であり(Gauss の消去法は有理数の中で進む)、その有理点は $p+U$ で稠密である。
1:実数解 $a^*$ をとり、$W_+:=\{w\mid a^*_w>0\}$ とする。方程式系 $\sum_wa_ww=u$、$a_w=0$($w\notin W_+$)は有理数係数で $a^*$ を解にもつので、$a^*$ の近くに有理数解 $a$ があり、近ければ $a_w>0$($w\in W_+$)を保つ。
2:$W_0:=\{w\in W\mid\langle w,y\rangle=0\}$ とし、有理数係数の線形空間 $U:=\{z\mid\langle w,z\rangle=0\ (w\in W_0)\}\ni y$ をとる。条件「$\langle w,z\rangle>0$($w\in W\setminus W_0$)、$\langle u,z\rangle<0$」は $U$ の中の開条件で $y$ がみたすので、$y$ の近くの有理点 $z\in U$ もみたす。$z$ に分母の公倍数を掛ければ $\mathbb{Z}^r$ の元になる。後半の形も同じ議論である。$\square$

錐の補題

$W\subset\mathbb{Z}^r$ を空でない有限集合とする。

  1. すべての $w\in W$ で $\langle w,\lambda\rangle>0$ となる $\lambda\in\mathbb{Z}^r$ がなければ、$0$ 以上の整数 $a_w$(すべては $0$ でない)で $\sum_wa_ww=0$ となるものがある。とくに $0$ は $W$ の凸包に属する。
  2. すべての $w\in W$ で $\langle w,\lambda\rangle\ge0$ となる $\lambda\in\mathbb{Z}^r\setminus\{0\}$ がなければ、任意の $u\in\mathbb{Z}^r$ について、整数 $N\ge1$ と $0$ 以上の整数 $a_w$ で $Nu=\sum_wa_ww$ となるものがある。
Farkas の補題と有理化

1:$\mathbb{R}^{r+1}$ のベクトル $(w,1)$($w\in W$)と $(0,1)$ に 凸錐 の系「Farkas の補題(錐の形)」を当てる。その 2 が成り立つとすると、$(v,s)$ で $\langle w,v\rangle+s\ge0$($w\in W$)かつ $s<0$ となるものがあり、$\langle w,v\rangle\ge-s>0$ となる。lem-hm-rational の 2 の後半の形により $\lambda\in\mathbb{Z}^r$ がとれて仮定に反する。よって 1 が成り立ち、$\sum_wa_w(w,1)=(0,1)$ となる実数 $a_w\ge0$ がある。lem-hm-rational の 1 により有理数にとれ、分母を払えば整数で、$\sum_wa_w=1$ だったのですべては $0$ でない。$\sum a_ww/\sum a_w=0$ なので $0$ は凸包に属する。
2:$W$ と $u$ に Farkas の補題を当てる。その 2 が成り立つとすると、$\langle w,y\rangle\ge0$($w\in W$)、$\langle u,y\rangle<0$ となる $y$ があり、lem-hm-rational の 2 により $y\in\mathbb{Z}^r$ にとれる。$\langle u,y\rangle<0$ なので $y\ne0$ で、仮定に反する。よって $u=\sum_wa_ww$(実数 $a_w\ge0$)であり、有理数にとって分母の公倍数 $N$ を掛ければよい。$\square$

不変な単項式で軌道の閉包を調べる

要点:$x$ の座標を取り出す 1 次式の積は、指標の和が $0$ なら $T$ 不変な多項式になり、軌道の閉包の上で一定である。重みの間の整数関係は lem-hm-cone が与える。

詳しい証明を開く

準備:$\chi\in W$ ごとに、$V_\chi$ 上の線形形式で $x_\chi$ での値が $1$ のものを射影 $V\to V_\chi$ と合成して $\ell_\chi\in V^*$ を作る。$\ell_\chi(ty)=\chi(t)\ell_\chi(y)$($t\in T$、$y\in V$)が成り立つ。

1 の後半の同値:$\langle\chi,\lambda\rangle>0$($\chi\in W$)なら $W$ の凸結合と $\lambda$ の対も正なので $0\notin\operatorname{conv}W$。逆は lem-hm-cone の 1 の対偶である。

1 の前半:$\lambda$ があれば prop-hm-easy の 1 により不安定である。$\lambda$ がないとすると、lem-hm-cone の 1 により $0$ 以上の整数 $a_\chi$(すべては $0$ でない)で $\sum_\chi a_\chi\chi=0$ となるものがある。$f:=\prod_{\chi\in W}\ell_\chi^{a_\chi}$ は次数 $\sum a_\chi\ge1$ の斉次多項式で、$f(ty)=\bigl(\prod\chi(t)^{a_\chi}\bigr)f(y)=f(y)$ なので $T$ 不変である。$f(x)=1$ なので $f$ は $T\cdot x$ の上で、したがって閉集合 $f^{-1}(1)$ に含まれる $\overline{T\cdot x}$ の上で $1$ であり、$f(0)=0$ だから $0\notin\overline{T\cdot x}$ である。

2 の「$\Leftarrow$」:条件を (C) と書く。固定部分群:$W$ が $\mathbb{Q}^r$ を張らなければ、$W$ のすべての元と直交する $\lambda\in\mathbb{Z}^r\setminus\{0\}$ があり (C) に反する。よって 1 次独立な $\chi_1,\dots,\chi_r\in W$ がとれる。$T_x=\{t\mid\chi(t)=1\ (\chi\in W)\}$ は準同型 $\varphi\colon T\to\mathbb{G}_m^r$、$t\mapsto(\chi_i(t))_i$ の核に含まれる。座標で $\chi_i(t)=\prod_jt_j^{A_{ij}}$ と書くと、$A$ は行列式が $0$ でない整数行列であり、Smith標準形 により $A=PDQ$($P,Q\in\mathrm{GL}_r(\mathbb{Z})$、$D=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r)$、$d_i\ne0$)と書ける。$P,Q$ は $\mathbb{G}_m^r$ の自己同型(単項式による座標変換)を定めるので、$\ker\varphi$ は $\prod_i\{s\in k^\times\mid s^{d_i}=1\}$ と同型で、各因子は高々 $|d_i|$ 個の元からなる。よって $T_x$ は有限である。

軌道が閉であること:$T\cdot x$ は閉部分空間 $V_x:=\bigoplus_{\chi\in W}kx_\chi$ に含まれ、$V_x$ の座標 $c_\chi=\ell_\chi$ で $x=(1,\dots,1)$、$T$ は $c_\chi\mapsto\chi(t)c_\chi$ と作用する。$\chi_0\in W$ を固定する。(C) より lem-hm-cone の 2 の仮定がみたされるので、$u=-\chi_0$ に当てて $N(-\chi_0)=\sum_\chi a_\chi\chi$($N\ge1$、$a_\chi\ge0$)を得る。$g:=c_{\chi_0}^N\prod_\chi c_\chi^{a_\chi}$ は 1 の前半と同じ理由で $T$ 不変で $g(x)=1$ なので、$\overline{T\cdot x}$ の上で $g=1$、とくに $c_{\chi_0}\ne0$ である。$\chi_0$ は任意なので $\overline{T\cdot x}\subset\mathbb{G}_m^W$(すべての座標が $0$ でない点の集合)である。一方 $T\cdot x$ は準同型 $T\to\mathbb{G}_m^W$、$t\mapsto(\chi(t))_\chi$ の像であり、代数群の準同型の像は閉部分群である(MilAG Theorem 6.18, p. 101、Proposition 1.27, p. 24)。よって $\overline{T\cdot x}=\overline{T\cdot x}\cap\mathbb{G}_m^W$ は $T\cdot x$ の $\mathbb{G}_m^W$ での閉包、すなわち $T\cdot x$ 自身である。

2 の「$\Rightarrow$」:prop-hm-easy の 2 である。$\square$

一般の簡約群への帰着

$G$ の 1 径数部分群 $\lambda$ の像はトーラスなので、ある極大トーラスに含まれる。$k$ は代数閉なので極大トーラスは互いに共役である(MilAG Theorem 18.67, p. 330)。極大トーラス $T$ を 1 つ固定すると、$\lambda=g^{-1}\lambda'g$($\lambda'\in Y(T)$、$g\in G$)と書け、$\lambda$ に関する $x$ の重みは $\lambda'$ に関する $gx$ の重みに等しい($\lambda(t)x=g^{-1}\lambda'(t)gx$)。したがって thm-hm-main は次の形に言い換えられる。

極大トーラスへの帰着

$T\subset G$ を極大トーラスとする。$x\in V\setminus\{0\}$ が $G$ について半安定(安定)であるための必要十分条件は、すべての $g\in G$ について $gx$ が $T$ について半安定(thm-hm-torus の 2 の条件をみたす)ことである。

1 つの $T$ だけでは足りず、$g$ を動かす必要がある(反例の表の 2 行目)。

例

乗法群の作用
  1. $\mathbb{G}_m$ が $k^2$ に $t\cdot(a,b)=(ta,t^{-1}b)$ と作用するとする。$x=(1,0)$ の重みは $\{1\}$ なので、$\lambda=\mathrm{id}$ について $\mu>0$ であり不安定である(実際 $t\to0$ で $(t,0)\to0$)。$x=(1,1)$ の重みは $\{1,-1\}$ で、$\lambda(t)=t^n$($n\ne0$)に関する重みは $\{n,-n\}$ なので安定である。実際、軌道は閉曲線 $\{ab=1\}$ で、固定部分群は自明である。
  2. $\mathbb{G}_m$ が $k^n$ にスカラー倍で作用すると、$x\ne0$ の重みは $\{1\}$ だけなので、すべての点が不安定であり、$\mathbb{P}^{n-1}$ には半安定点がない。

$\mathrm{SL}_2$ は 2 変数 $x,y$ の $d$ 次斉次多項式(2 元形式)の空間 $V_d$ に $(g\cdot f)(v):=f(g^{-1}v)$ で作用する。$\lambda_m(t):=\operatorname{diag}(t^m,t^{-m})$ とすると、$\lambda_m(t)$ は単項式 $x^{d-i}y^i$ を $t^{m(2i-d)}$ 倍する。

$\mathrm{SL}_2$ の 1 径数部分群

$\mathrm{SL}_2$ の任意の 1 径数部分群は、ある $g\in\mathrm{SL}_2$ と整数 $m\ge0$ により $t\mapsto g\lambda_m(t)g^{-1}$ と書ける。

$\lambda$ による $k^2$ の $\mathbb{G}_m$ 表現は対角化可能なので(MilAG Theorem 14.12)、固有ベクトルの基底 $v_1,v_2$ で $\lambda(t)v_1=t^av_1$、$\lambda(t)v_2=t^bv_2$ となる。$\det\lambda(t)=t^{a+b}=1$ から $b=-a$ である。$v_2$ を定数倍して $\det(v_1,v_2)=1$ とし、$a<0$ なら $(v_2,-v_1)$ に取り替えると、$g:=(v_1\ v_2)\in\mathrm{SL}_2$、$m:=|a|$ について $\lambda(t)=g\lambda_m(t)g^{-1}$ である。$\square$

2 元形式の安定性

$f\in V_d\setminus\{0\}$($d\ge1$)とする。thm-hm-main により次が成り立つ(Mum77 1.7, p. 45)。

  • $f$ が半安定 $\iff$ $f$ のどの根($\mathbb{P}^1$ の点)の重複度も $d/2$ 以下。
  • $f$ が安定 $\iff$ $f$ のどの根の重複度も $d/2$ 未満。
    実際、$f=\sum_ia_ix^{d-i}y^i$ の $\lambda_m$($m>0$)に関する重みは $\{m(2i-d)\mid a_i\ne0\}$ であり、すべて正であることは $i\le d/2$ で $a_i=0$、すなわち $f$ が $y^{\lfloor d/2\rfloor+1}$ で割り切れて点 $[1:0]$ が重複度 $>d/2$ の根であることと同値である。同様に、すべて $0$ 以上であることは $[1:0]$ が重複度 $\ge d/2$ の根であることと同値である。lem-hm-sl2 により任意の自明でない 1 径数部分群は $g\lambda_mg^{-1}$($m>0$)の形で、その重みは $g^{-1}f$ の $\lambda_m$ に関する重みに等しく、$g^{-1}f$ の根は $f$ の根を $g^{-1}$ で写したものである。$\mathrm{SL}_2$ は $\mathbb{P}^1$ に推移的に作用するので、主張が従う。
    とくに $d=2$ では、相異なる 2 根をもつ $xy$ も重複度 $1=d/2$ の根をもつので安定でなく、$d=3$ では相異なる 3 根をもつことと安定が同値である。$d=4$ では、3 重根をもたないことと半安定が同値である。
行列の共役

$n\ge2$ とし、$\mathrm{SL}_n$ が $n$ 次正方行列の空間 $M_n(k)$ に共役 $g\cdot A=gAg^{-1}$ で作用するとする。

  1. $A\ne0$ が不安定 $\iff$ $A$ は冪零行列。
  2. 安定な点はない。
    1:特性多項式 $\det(sI-A)=s^n+c_1(A)s^{n-1}+\dots+c_n(A)$ の係数 $c_i$ は次数 $i$ の不変な斉次多項式である。$A$ が冪零でなければある $c_i(A)\ne0$ であり、$c_i$ は $\overline{G\cdot A}$ の上で $c_i(A)$ に等しく $c_i(0)=0$ なので、$A$ は半安定である。$A$ が冪零なら、$g$ で狭義上三角行列 $N=gAg^{-1}$ に共役できる。$\lambda(t):=\operatorname{diag}(t^{n-1},t^{n-3},\dots,t^{-(n-1)})$(指数は $a_i=n+1-2i$、和は $0$)とすると、$\lambda(t)N\lambda(t)^{-1}$ の $(i,j)$ 成分は $t^{a_i-a_j}N_{ij}$ で、$i< j$ なら $a_i-a_j=2(j-i)>0$ である。よって 1 径数部分群 $g^{-1}\lambda g$ について $\mu(A,g^{-1}\lambda g)>0$ であり、prop-hm-easy の 1 により不安定である。
    2:任意の $A$ は上三角行列 $U=gAg^{-1}$ に共役できる。上の $\lambda$ について $U$ の成分 $(i,j)$($i\le j$)の重みは $a_i-a_j\ge0$ なので、$\mu(A,g^{-1}\lambda g)\ge0$ であり、prop-hm-easy の 2 により $A$ は安定でない。
平面 3 次曲線の安定性

$\mathrm{SL}_3$ が 3 変数の 3 次形式の空間に $(g\cdot F)(v)=F(g^{-1}v)$ で作用するとする。$\lambda(t)=\operatorname{diag}(t^a,t^b,t^c)$($a+b+c=0$)は単項式 $x^iy^jz^l$ を $t^{-(ai+bj+cl)}$ 倍する。

  1. 尖点をもつ $F=y^2z-x^3$ は不安定である。$(a,b,c)=(-1,-2,3)$ とすると、$y^2z$ と $x^3$ の重みは $1$ と $3$ でともに正なので、prop-hm-easy の 1 による。
  2. 結節点をもつ $F=xyz+x^3+y^3$($z=1$ での最低次の項 $xy$ が相異なる 2 本の接線を与える)は安定でない。$(a,b,c)=(-1,-1,2)$ とすると、$xyz$・$x^3$・$y^3$ の重みは $0$・$3$・$3$ で負のものがないので、prop-hm-easy の 2 による。
    Mum77 1.11(p. 48)は、thm-hm-main の判定から、非特異な 3 次曲線は安定、結節点だけをもつ 3 次曲線は半安定だが安定でなく、尖点や 3 重点をもつ 3 次曲線は不安定であることを導いている。安定な曲線の $\mathrm{SL}_3$ 軌道は j不変量 で区別される。

反例

仮定や条件を 1 つ外すと判定法は成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
$G$ が簡約 → 加法群 $\mathbb{G}_a$$\mathbb{G}_a$ が $k^2$ に $s\cdot(a,b)=(a+sb,b)$ と作用、$x=(1,0)$自明でない 1 径数部分群がないので 3 の条件は成り立つが、$G_x=\mathbb{G}_a$ は有限でなく $x$ は安定でない
すべての 1 径数部分群 → 固定した極大トーラスのものだけ$\mathrm{SL}_2$、$f=(x+y)^2\in V_2$、対角トーラス対角トーラスのどの自明でない $\lambda$ にも正と負の重みがあるが、$f$ は不安定
安定の定義の「固定部分群が有限」 → 「軌道が閉」だけ$\mathrm{SL}_2$、$f=xy\in V_2$軌道は閉だが、$\lambda_m$ に関する重みは $0$ だけで負の重みがない
反例の確かめ

1 行目:準同型 $\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_a$ は $\varphi(t)=\sum_nc_nt^n\in k[t,t^{-1}]$ で $\varphi(st)=\varphi(s)+\varphi(t)$ をみたすものである。$n\ne0$ の項 $c_ns^nt^n$ は右辺に現れないので $c_n=0$、残る $c_0=2c_0$ から $\varphi=0$ である。$x$ の軌道は 1 点 $\{x\}$ で閉、$G_x=\mathbb{G}_a$ である。$\mathbb{G}_a$ は簡約群でない(それ自身が連結な冪単正規部分群)。
2 行目:対角トーラスの $\lambda_m$ に関する $f=x^2+2xy+y^2$ の重みは $\{-2m,0,2m\}$ である。一方、$g:=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}$($g^{-1}(x,y)=(x,y-x)$)について $(g\cdot f)(x,y)=f(x,y-x)=y^2$ で、$y^2$ の $\lambda_1$ に関する重みは $2>0$ なので、$\mu(f,g^{-1}\lambda_1g)>0$ であり $f$ は不安定である。
3 行目:$q=\alpha x^2+\beta xy+\gamma y^2$ の判別式 $\beta^2-4\alpha\gamma$ は $\mathrm{SL}_2$ 不変である。判別式が $1$ の $q$ は、相異なる 1 次式の積 $\ell_1\ell_2$ に分解し、$\ell_1,\ell_2$ の係数を行とする行列 $M$ について判別式は $(\det M)^2$ に等しい。$\ell_1,\ell_2$ を入れ替えて $\det M=1$ とすると $q(v)=(xy)(Mv)$、すなわち $q=M^{-1}\cdot(xy)$ である。よって $xy$ の軌道は閉集合 $\{\beta^2-4\alpha\gamma=1\}$ である。$xy$ は $\lambda_m$ に関して重み $0$ だけをもち、$G_{xy}\supset\lambda_1(\mathbb{G}_m)$ は無限群なので $xy$ は安定でない。

補足

商と不変式

Mum77 1.1 の表(p. 41)は、$x$ が半安定であることを「$f(x)\ne0$ となる定数でない $G$ 不変な斉次多項式 $f$ がある」こととも言い換えている($G$ の幾何学的簡約性による。同 1.2 の注意 vi、p. 42)。ex-hm-matrices の 1 はその例である。$\mathbb{P}(V)$ の半安定点の集合を $\mathbb{P}(V)^{ss}$ と書くと、不変式環 $k[V]^G$ の Proj への射 $\mathbb{P}(V)^{ss}\to\operatorname{Proj}k[V]^G$ が定まり、2 点が同じ点に写るのは軌道の閉包が半安定点で交わるときであり、安定点の上では軌道をちょうど分ける(Mum77 命題 1.3, p. 43)。不変式環が有限生成であることは、作用が Reynolds 作用素をもつ場合(有限群、完全可約な表現、複素数体上の $\mathrm{GL}_m$ の有理表現など)について Hilbertの有限性定理(不変式論) で扱われている。モジュライ空間の構成では、Quotスキーム などのパラメータ空間に簡約群が作用し、その半安定点の集合をこの方法で割る。

関連項目

参考文献

[1]
David Mumford, Stability of projective varieties, L'Enseignement Mathématique 23, 1977, §1:1.1 の表(p. 41)、1.2 の注意 i–vii(pp. 42–43)、命題 1.3(p. 43)、1.7(p. 45)、1.11(p. 48)

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