Lagrange部分多様体

同義語:ラグランジュ部分多様体Lagrangian submanifold

概要

Lagrange部分多様体(Lagrangian submanifold)とは、$2n$ 次元のシンプレクティック多様体 $(M,\omega)$ の $n$ 次元の部分多様体 $L$ で、$\omega$ の $L$ への制限が $0$ になるものをいう。余接束 $T^*X$ では零切断、ファイバー、閉 1 次形式のグラフ、部分多様体の余法束が典型例である。運動量の正の実数倍で保たれる(錐的な)部分多様体については、Lagrange であることは次元が $n$ で正準 1 形式 $\sum_ip_i\,dq_i$ の制限が $0$ であることと同値であり、射影の階数が一定の所では局所的に余法束の開集合になる。ファイバーに横断的な Lagrange 部分多様体は、局所的に関数 $h$ の微分のグラフ $\{(q,dh_q)\}$ として表せる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: シンプレクティック多様体, 部分多様体, 微分形式, 余接空間

Lagrange 部分多様体(Lagrangian submanifold)とは、$2n$ 次元のシンプレクティック多様体 $(M,\omega)$ の $n$ 次元の部分多様体 $L$ で、$\omega$ を $L$ に制限すると $0$ になるものをいう。シンプレクティック形式が制限して $0$ になる部分多様体の次元は $n$ 以下なので、Lagrange 部分多様体はその中で最大のものである。古典力学の相空間 $T^*Q$ では、配置空間 $Q$ そのもの(零切断)、1 点の上の運動量の全体(ファイバー)、関数 $h$ の微分のグラフ $\{(q,dh_q)\}$ が Lagrange 部分多様体である。
余接束 $T^*X$ の中では、部分多様体 $S\subset X$ の 余法束($S$ の接ベクトルを消す余接ベクトルの全体)が Lagrange 部分多様体の典型である。余法束は運動量の正の実数倍で保たれる(錐的である)。この記事の主定理は、錐的な部分多様体が Lagrange であることが正準 1 形式 $\sum_ip_i\,dq_i$ の制限が $0$ になることと同値であり、錐的な Lagrange 部分多様体は、射影の階数が一定の所では局所的に余法束の開集合になることを述べる。この形の条件は、層のマイクロ台や標数 $0$ の特異台が Lagrange 錐になるという定理(マイクロ台、特異台(エタール層))の中で使われる。また、ファイバーに横断的な Lagrange 部分多様体は局所的に関数の微分のグラフ(母関数による表示)になる。

定義

この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体とし、部分多様体は部分空間位相をもつもの(部分多様体)とする。$(M,\omega)$ を $2n$ 次元のシンプレクティック多様体とする。シンプレクティックベクトル空間の部分空間 $W$ の直交補空間 $W^\omega$、等方的・余等方的・Lagrange 部分空間は シンプレクティック多様体 の定義「シンプレクティックベクトル空間」に従う。

Lagrange部分多様体

$M$ の部分多様体 $L$ が 等方的(余等方的、Lagrange)であるとは、各点 $p\in L$ で $T_pL$ が $(T_pM,\omega_p)$ の等方部分空間(余等方部分空間、Lagrange 部分空間)であることをいう。Lagrange である部分多様体を Lagrange 部分多様体 という。$n$ 次元の多様体 $L$ からのはめ込み $f\colon L\to M$ で $f^*\omega=0$ となるものを Lagrange はめ込み という。

$L$ の包含写像を $\iota$ とすると、$L$ が等方的であることは $\iota^*\omega=0$ と同値である。シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 2 により $\dim W+\dim W^\omega=2n$ なので、等方部分空間の次元は $n$ 以下であり、Lagrange 部分空間は次元 $n$ の等方部分空間にほかならない。したがって、$L$ が Lagrange 部分多様体であることは、$\dim L=n$ かつ $\iota^*\omega=0$ であることと同値である。$\omega$ を $-\omega$ に替えても Lagrange 部分多様体は変わらない。
余接束の規約. $X$ を $n$ 次元の多様体、$\pi\colon T^*X\to X$ を余接束とする。$T^*X$ の 正準 1 形式(標準 1 形式)$\lambda$ とシンプレクティック形式 $\omega:=-d\lambda$ は シンプレクティック多様体 の命題「余接束の標準シンプレクティック形式」に従う。すなわち $\lambda_{(q,\xi)}(v)=\xi(d\pi\,v)$ であり、$X$ の座標 $q_i$ と、余接ベクトルを $\xi=\sum_ip_i\,dq_i$ と書いて得られる座標 $(q,p)$ について
$$ \lambda=\sum_ip_i\,dq_i,\qquad\omega=\sum_idq_i\wedge dp_i $$
である。$c>0$ について $\rho_c(q,\xi):=(q,c\,\xi)$ とおく。部分集合 $Z\subset T^*X$ が 錐的(conic)であるとは、すべての $c>0$ について $\rho_c(Z)\subset Z$ となることをいう。

例

Lagrange部分多様体の例
  1. 曲面の中の曲線:シンプレクティック多様体が 2 次元なら、1 次元の部分多様体はすべて Lagrange 部分多様体である(1 次元の多様体の上の 2 次形式は $0$)。
  2. 座標平面:$(\mathbb{R}^{2n},\sum_idx_i\wedge dy_i)$ の $\{y=0\}$ と $\{x=0\}$ は Lagrange 部分多様体である。
  3. 直積:$L_j\subset(M_j,\omega_j)$($j=1,2$)が Lagrange 部分多様体なら、$L_1\times L_2$ は $(M_1\times M_2,\ \mathrm{pr}_1^*\omega_1+\mathrm{pr}_2^*\omega_2)$ の Lagrange 部分多様体である(引き戻しは $\mathrm{pr}_1^*(\iota_1^*\omega_1)+\mathrm{pr}_2^*(\iota_2^*\omega_2)=0$、次元は半分)。たとえば $\mathbb{C}^n=(\mathbb{R}^2)^n$ の中の円周の直積 $\{\lvert z_1\rvert=r_1,\dots,\lvert z_n\rvert=r_n\}$($r_j>0$)は、1 と合わせて Lagrange トーラスである。
  4. 余接束の零切断・ファイバー・閉形式のグラフ:$T^*X$ の零切断と、各ファイバー $T_q^*X$ は Lagrange 部分多様体である(ファイバーの上では $\pi$ が定数なので $\lambda$ の制限は $0$、零切断の上では $\xi=0$ なので $\lambda$ の制限は $0$ であり、どちらも次元は $n$)。1 次形式 $\alpha$ のグラフ $\{(q,\alpha_q)\}$ が Lagrange 部分多様体であることは $d\alpha=0$ と同値である(シンプレクティック多様体 の命題「閉 1 次形式のグラフ」)。
  5. Legendre 部分多様体から作る例:接触多様体の Legendre 部分多様体 $N$ が部分空間位相をもつ部分多様体なら、$\mathbb{R}\times N$ はシンプレクティック化の Lagrange 部分多様体である(一般の Legendre 部分多様体では Lagrange はめ込みになる)(接触多様体 の命題「シンプレクティック化」)。
シンプレクティック同相写像のグラフ

$(M_1,\omega_1)$、$(M_2,\omega_2)$ を $2n$ 次元のシンプレクティック多様体とし、$M_1\times M_2$ に $\tilde\omega:=\mathrm{pr}_1^*\omega_1-\mathrm{pr}_2^*\omega_2$ を入れる。微分同相写像 $\varphi\colon M_1\to M_2$ のグラフ $\Gamma_\varphi:=\{(p,\varphi(p))\}$ が Lagrange 部分多様体であることと、$\varphi^*\omega_2=\omega_1$ は同値である。

要点:グラフへの埋め込み $\gamma(p)=(p,\varphi(p))$ について $\gamma^*\tilde\omega=\omega_1-\varphi^*\omega_2$ である。

詳しい証明を開く

$\tilde\omega$ は閉形式で、各点で $T_{p_1}M_1\oplus T_{p_2}M_2$ の上の $\omega_1\oplus(-\omega_2)$ なので非退化であり、シンプレクティック形式である。$\gamma\colon M_1\to M_1\times M_2$ は $\mathrm{pr}_1$ を左逆写像にもつはめ込みで、像の上への同相写像なので埋め込みであり、$\Gamma_\varphi$ は $2n$ 次元の部分多様体である(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の定理「埋め込みの像は部分多様体」)。$\mathrm{pr}_1\circ\gamma=\mathrm{id}$、$\mathrm{pr}_2\circ\gamma=\varphi$ から $\gamma^*\tilde\omega=\omega_1-\varphi^*\omega_2$ であり、次元 $2n$ は $4n$ の半分なので、主張が従う。$\square$

余法束

余法束

$S$ を $X$ の $k$ 次元の部分多様体とする。
$$ T^*_SX:=\{(q,\xi)\in T^*X\mid q\in S,\ \xi(v)=0\ (v\in T_qS)\} $$
を $S$ の 余法束(conormal bundle)という。

余法束のLagrange性

$T^*_SX$ は $T^*X$ の錐的な $n$ 次元の部分多様体で、$\lambda$ の制限は $0$ である。とくに $T^*_SX$ は Lagrange 部分多様体である。$S$ が 1 点 $\{q\}$ ならファイバー $T_q^*X$、$S=X$ なら零切断である。

要点:$S$ のスライス座標から作った $T^*X$ の座標 $(q,p)$ で、$T^*_SX=\{q_{k+1}=\dots=q_n=0,\ p_1=\dots=p_k=0\}$ となり、その上で $\lambda=\sum_ip_i\,dq_i$ の各項が消える。

詳しい証明を開く

$q_0\in S$ のまわりの $S$ のスライス座標 $(U;q_1,\dots,q_n)$、すなわち $S\cap U=\{q_{k+1}=\dots=q_n=0\}$ となる座標をとる。$T_qS$($q\in S\cap U$)は $\partial/\partial q_1,\dots,\partial/\partial q_k$ で張られるので、$\xi=\sum_ip_i\,dq_i$ が $T_qS$ を消すことは $p_1=\dots=p_k=0$ と同値である。よって$$T^*_SX\cap T^*U=\{q_{k+1}=\dots=q_n=0,\ p_1=\dots=p_k=0\}$$であり、$T^*U$ の座標 $(q,p)$ は $T^*_SX$ の $n$ 次元のスライス座標である。したがって $T^*_SX$ は $n$ 次元の部分多様体である。$T^*_SX$ の上では、$i\le k$ について $p_i=0$、$i>k$ について $q_i$ は定数なので $dq_i$ の制限は $0$ であり、$\lambda=\sum_ip_i\,dq_i$ の制限は $0$ である。引き戻しと外微分の可換性から $\omega=-d\lambda$ の制限も $0$ であり、次元は $n$ なので Lagrange 部分多様体である。錐的であることは定義から明らかである。$\square$

錐的な Lagrange 部分多様体

余法束では、運動量 $\xi$ を正の実数倍しても点は余法束にとどまる。この性質をもつ Lagrange 部分多様体は、正準 1 形式 $\lambda$ だけで特徴づけられ、局所的には余法束から作られる。

錐的なLagrange部分多様体

$\Lambda$ を $T^*X$ の錐的な部分多様体とし、$\iota\colon\Lambda\to T^*X$ を包含写像とする。

  1. $\Lambda$ が等方的であることと $\iota^*\lambda=0$ は同値である。とくに、$\Lambda$ が Lagrange 部分多様体であることは、$\dim\Lambda=n$ かつ $\iota^*\lambda=0$ であることと同値である。
  2. $\Lambda$ が Lagrange 部分多様体で、$\pi|_\Lambda\colon\Lambda\to X$ の階数が点 $x_0$ の近くで一定値 $k$ をとるとする。このとき $x_0$ の $\Lambda$ における開近傍 $V$ と $X$ の $k$ 次元の部分多様体 $S$ があり、$V$ は余法束 $T^*_SX$ の開集合である。
  3. $\pi|_\Lambda$ の階数が局所的に一定である点の全体は、$\Lambda$ の稠密な開集合である。したがって、錐的な Lagrange 部分多様体は、稠密な開集合の上で局所的に余法束の開集合になっている。

1 の要点は、運動量を拡大する流れの速度ベクトル場(Euler ベクトル場)$E=\sum_ip_i\,\partial/\partial p_i$ が $\iota_E\omega=-\lambda$ をみたし、錐的な部分多様体にはつねに接していることである。

1. $x=(q,\xi)\in\Lambda$ について、曲線 $s\mapsto\rho_{e^s}(x)=(q,e^s\xi)$ の $s=0$ での速度ベクトルを $E_x$ とおく。座標では $\rho_{e^s}(q,p)=(q,e^sp)$ なので $E=\sum_ip_i\,\partial/\partial p_i$ であり、
$$ \iota_E\omega=\sum_i\bigl(dq_i(E)\,dp_i-dp_i(E)\,dq_i\bigr)=-\sum_ip_i\,dq_i=-\lambda $$
である。$\Lambda$ は錐的なので、この曲線は $\Lambda$ に含まれ、$\Lambda$ は部分多様体なので はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の命題「終域を部分多様体に制限する」により $\Lambda$ の中の滑らかな曲線であり、$E_x\in T_x\Lambda$ である。よって $v\in T_x\Lambda$ について $\lambda(v)=-\omega(E_x,v)$ となる。$\Lambda$ が等方的なら右辺は $0$ で、$\iota^*\lambda=0$ である。逆に $\iota^*\lambda=0$ なら $\iota^*\omega=-d\iota^*\lambda=0$ である。後半は定義の後の注意による。
2. 階数定理(Lee13 Theorem 4.12、p. 81)により、$x_0$ を中心とする $\Lambda$ の座標 $(U,\phi)$ と $q_0:=\pi(x_0)$ を中心とする $X$ の座標 $(W,\psi)$ で、$\pi(U)\subset W$ かつ
$$ \psi\circ\pi\circ\phi^{-1}(u_1,\dots,u_n)=(u_1,\dots,u_k,0,\dots,0) $$
となるものがある。$U$ を小さくして $\phi(U)=C'\times C''$($C'\subset\mathbb{R}^k$、$C''\subset\mathbb{R}^{n-k}$ は原点中心の開直方体)とする。$S:=\pi(U)=\psi^{-1}(C'\times\{0\})$ は、開集合 $W':=W\cap\psi^{-1}(C'\times\mathbb{R}^{n-k})$ の上で $S=W'\cap\{\psi_{k+1}=\dots=\psi_n=0\}$ と書けるので、$X$ の $k$ 次元の部分多様体である。
$V:=U$ とし、$x=(q,\xi)\in V$ をとる。$\pi|_V\colon V\to S$ は $C^\infty$ 級なので $d\pi(T_xV)\subset T_qS$ であり、左辺の次元は階数 $k$、右辺の次元は $k$ なので $d\pi(T_x\Lambda)=T_qS$ である。1 により、$v\in T_x\Lambda$ について $0=\lambda(v)=\xi(d\pi\,v)$ なので、$\xi$ は $T_qS$ を消し、$x\in T^*_SX$ である。よって $V\subset T^*_SX$ である。包含写像 $V\to T^*_SX$ は、$T^*_SX$ が部分多様体(thm-lag-conormal)なので $C^\infty$ 級で、$T^*X$ への包含ははめ込みなのでこれもはめ込みである。次元はともに $n$ なので、逆関数定理により局所微分同相写像であり、$V$ は $T^*_SX$ の開集合である。
3. 点 $x$ での $\pi|_\Lambda$ の階数を $r(x)$ とする。$r(x)\ge m$ なら $x$ での Jacobi 行列に $0$ でない $m$ 次の小行列式があり、連続性から $x$ の近くでも $0$ でないので、$\{r\ge m\}$ は開集合である。$\Lambda$ の空でない開集合 $O$ について、$O$ の上での $r$ の最大値を $m$ とすると、$O\cap\{r\ge m\}=O\cap\{r=m\}$ は空でない開集合で、その上で $r$ は一定である。よって階数が局所的に一定である点の全体は稠密であり、定義から開集合である。2 と合わせて後半が従う。$\square$

Lagrange 錐. $T^*X$ の錐的な閉集合 $Z$ について、$Z$ の点のうち、その近くで $Z$ が $n$ 次元の部分多様体になる点の全体 $Z_{\mathrm{reg}}$ は、$n$ 次元の部分多様体である。$\rho_c$ は $Z$ を保つ微分同相写像なので $Z_{\mathrm{reg}}$ も錐的であり、thm-lag-conic の 1 により、$Z_{\mathrm{reg}}$ が Lagrange 部分多様体であることと、$Z_{\mathrm{reg}}$ の上で $\lambda$ の制限が $0$ になることは同値である。特異台(エタール層) の Lagrange 錐の定義(次元が $n$ で、滑らかな点の上で正準 1 形式の制限が $0$)は、同じ形の条件を代数多様体の余接束で述べたものである。マイクロ台 の記事では $\omega$ の代わりに $d\lambda=-\omega$ を使うが、Lagrange 部分多様体は同じである。

母関数

ファイバーに横断的な Lagrange 部分多様体は、局所的に 1 つの関数で記述できる。

母関数による局所表示

$L$ を $T^*X$ の Lagrange 部分多様体、$x_0\in L$ とし、$d(\pi|_L)_{x_0}\colon T_{x_0}L\to T_{q_0}X$($q_0:=\pi(x_0)$)が同型であるとする。このとき $x_0$ の $L$ における開近傍 $V$、$q_0$ の開近傍 $U$、関数 $h\in C^\infty(U)$ で
$$ V=\{(q,dh_q)\mid q\in U\} $$
となるものがある。$U$ が連結なら、$h$ は定数の差を除いて一意である。$h$ を $L$ の 母関数(generating function)という。

要点:逆関数定理で $L$ を局所的に 1 次形式 $\alpha$ のグラフとして書くと、閉 1 次形式のグラフの判定により $d\alpha=0$ であり、Poincaré の補題で $\alpha=dh$ となる。

詳しい証明を開く

$\pi|_L$ は $C^\infty$ 級で、$x_0$ で微分が同型なので、逆関数定理により $x_0$ の開近傍 $V_0\subset L$ と $q_0$ の開近傍 $U_0$ で $\pi|_{V_0}\colon V_0\to U_0$ が微分同相写像となるものがある。$U\subset U_0$ を $q_0$ のまわりの座標球にとり、$V:=(\pi|_{V_0})^{-1}(U)$、$\sigma:=(\pi|_V)^{-1}\colon U\to V\subset T^*X$ とおく。$\pi\circ\sigma=\mathrm{id}_U$ なので $\sigma(q)\in T_q^*X$ であり、$\alpha_q:=\sigma(q)$ は $U$ の上の 1 次形式で、$\sigma$ はそのグラフへの写像である。グラフ $\sigma(U)=V$ は $L$ の開集合なので Lagrange 部分多様体であり、シンプレクティック多様体 の命題「閉 1 次形式のグラフ」($X$ を $U$ に替えて使う)により $d\alpha=0$ である。$U$ は座標で星状な開集合と微分同相なので、微分形式 の定理「Poincaré の補題」により $\alpha=dh$ となる $h$ がある。$dh=dh'$ なら $d(h-h')=0$ なので、連結な $U$ の上で $h-h'$ は定数である。$\square$

ファイバー $T_q^*X$ のようにファイバーに横断的でない Lagrange 部分多様体は、このままでは母関数で表せない(下の反例の表)。

Weinstein の近傍定理

コンパクトな Lagrange 部分多様体 $L\subset(M,\omega)$ には、$L$ の近傍と、余接束 $T^*L$ の零切断の近傍との間のシンプレクティック同相写像で、$L$ を零切断に写すものがある(Weinstein の管状近傍定理、CdS06 Theorem 9.3(pp. 51–52)。証明は同書の Weinstein の Lagrange 近傍定理 Theorem 8.4(pp. 48–49)に帰着される)。この記事では証明しない。この定理によれば、コンパクトな Lagrange 部分多様体の近くのシンプレクティック幾何は $L$ の微分構造だけで決まる。さらにこの同一視のもとで、$L$ の近くの Lagrange 部分多様体のうち零切断の上のグラフとして表せるものは、シンプレクティック多様体 の命題「閉 1 次形式のグラフ」により $L$ の上の閉 1 次形式と対応する。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$\Lambda$ が錐的$T^*\mathbb{R}$ の $\{p=1\}$$\lambda$ の制限が $0$(thm-lag-conic の 1)
$\pi\vert_\Lambda$ の階数が一定$T^*\mathbb{R}^2$ の $\Lambda_{\mathrm{c}}$(下の尖点の余法方向)局所的に余法束の開集合(thm-lag-conic の 2)
$d(\pi\vert_L)$ が同型$T^*\mathbb{R}$ のファイバー $T_0^*\mathbb{R}$母関数による局所表示
反例の確かめ

1 行目:$\{p=1\}$ は 1 次形式 $dq$ のグラフなので Lagrange 部分多様体だが(満たす性質)、$c\ne1$ について $\rho_c$ で保たれず錐的でない(満たさない性質)。$\lambda=p\,dq$ の制限は $dq\ne0$ である。
2 行目:$\Phi(t,s):=\bigl((t^2,t^3),\ s(3t,-2)\bigr)$($t\in\mathbb{R}$、$s>0$)の像を $\Lambda_{\mathrm{c}}$ とする。座標では $\Phi(t,s)=(t^2,t^3,3st,-2s)$ である。$\Lambda_{\mathrm{c}}$ は錐的な Lagrange 部分多様体だが(満たす性質)、$\pi\circ\Phi(t,s)=(t^2,t^3)$ の階数は $t\ne0$ で $1$、$t=0$ で $0$ である(満たさない性質)。

確かめを開く

$\Phi$ は単射で、逆写像 $s=-p_2/2$、$t=p_1/(3s)$ は像の上で連続である。$\partial_t\Phi=(2t,3t^2,3s,0)$、$\partial_s\Phi=(0,0,3t,-2)$ の $(p_1,p_2)$ 成分の行列式は $-6s\ne0$ なので、$\Phi$ ははめ込みであり、埋め込みである。よって $\Lambda_{\mathrm{c}}$ は 2 次元の部分多様体である(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の定理「埋め込みの像は部分多様体」)。$\rho_c\Phi(t,s)=\Phi(t,cs)$ なので錐的であり、$\Phi^*\lambda=3st\cdot2t\,dt+(-2s)\cdot3t^2\,dt=0$ なので thm-lag-conic の 1 により Lagrange 部分多様体である。

$x_0:=\Phi(0,1)=((0,0),(0,-2))$ のある開近傍 $V$ が、ある $k$ 次元の部分多様体 $S$ の余法束の開集合であるとする。$V$ は小さな $\delta>0$ について $\Phi((-\delta,\delta)\times(1-\delta,1+\delta))$ を含むので、$S\supset\pi(V)\supset\{(t^2,t^3)\mid\lvert t\rvert<\delta\}$ である。$k=0$ なら $S$ の点は孤立しているが、原点に収束する $S$ の点列 $(t^2,t^3)$ があるので矛盾する。$k=2$ なら $S$ は開集合で、余法束は零切断だが、$x_0$ の運動量は $0$ でないので矛盾する。$k=1$ なら、$(0,-2)$ が $T_0S$ を消すので $T_0S$ は $q_1$ 軸の方向であり、部分多様体 の定理「部分多様体の局所的な特徴づけ」の (c) により、原点の近くで $S$ は $q_1$ を変数とするグラフ $q_2=g(q_1)$ である($q_2$ を変数とするグラフなら接線は $q_1$ 軸の方向にならない)。ところが小さな $t\ne0$ について $(t^2,t^3)$ と $(t^2,-t^3)$ がともに $S$ に属し、$q_1$ 座標が等しく $q_2$ 座標が異なるので矛盾する。


3 行目:ファイバー $T_0^*\mathbb{R}=\{q=0\}$ は Lagrange 部分多様体だが(満たす性質)、$\pi$ の制限は定値写像で微分は $0$ である(満たさない性質)。関数の微分のグラフは $\pi$ で開集合の上に全単射に写るが、ファイバーの像は 1 点なので、ファイバーのどの開集合もグラフとして表せない。

補足

  • 文献:Lagrange 部分多様体と閉形式のグラフは CdS06 §3(pp. 16–17)、余法束は同書 Definition 3.5・Proposition 3.6・Corollary 3.7(pp. 17–18)、シンプレクティック同相写像のグラフは同書 Proposition 3.8(pp. 18–19)、階数定理は Lee13 Theorem 4.12(p. 81)による。余法束が部分多様体であることは CdS06 p. 18 で演習とされている主張で、この記事ではスライス座標で示した。thm-lag-conic の 1 は Euler ベクトル場による独自の短い証明で、2・3 は 1 と階数定理から導いた。
  • 接触幾何との関係:Lagrange 部分多様体は、接触多様体 の Legendre 部分多様体の偶数次元版にあたる。1 ジェット空間 $\mathbb{R}\times T^*X$ の Legendre 部分多様体 $\{(h(q),dh_q)\}$ を $T^*X$ に射影すると、thm-lag-generating の微分のグラフになる。

関連項目

参考文献

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