オペラッド

同義語:operad対称オペラッドsymmetric operad

概要

オペラッド(operad)とは、空間の列 $P(n)$($n\ge0$)に、対称群 $\Sigma_n$ の右作用、演算どうしを代入する合成、単位を与え、結合律・単位律・同変性を課した構造である。$P(n)$ の元を $n$ 項演算とみなし、空間 $X$ 上の写像 $X^n\to X$ のなす自己準同型オペラッドへの射を $X$ 上の $P$ 代数の構造という。モノイドは結合オペラッドの代数、可換モノイドは各 $P(n)$ が 1 点の可換オペラッドの代数であり、集合 $X$ 上の自由な $P$ 代数は $P(n)\times_{\Sigma_n}X^n$ の非交和として作られる。一方、群はどの集合のオペラッドの代数としても表せない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 対称群, 群作用, モノイド, 可換モノイド

オペラッド(operad)は、「$n$ 個の入力から 1 つの出力を作る演算」の集まりを、演算どうしの代入(合成)と入力の並べ替えとともに抽象化した構造である。空間 $X$ 上の写像 $X^n\to X$ の全体は、写像の代入と変数の入れ替えによってオペラッドをなし、これを $X$ の自己準同型オペラッドという。抽象的なオペラッド $P$ からこの自己準同型オペラッドへの射を与えることを、$X$ に $P$ 代数の構造を与えるという。
モノイド、可換モノイド、群の作用をもつ集合などの代数構造は、それぞれ一つのオペラッドの代数として表される。オペラッドの見方の要点は、代数構造を「演算と等式の一覧」としてではなく「演算のなす空間と、その合成の規則」として扱うことにある。演算の集合を位相空間に置き換えると、結合律や可換律が「ホモトピーを除いて」成り立つ構造も表せる。これがループ空間の研究から生まれた E_nオペラッド の考え方である。
この記事では、集合と位相空間のオペラッドを定義し、代数の 2 通りの記述が一致することを示す。そのうえで、モノイドと可換モノイドがそれぞれ結合オペラッドと可換オペラッドの代数であることを証明し、自由代数を構成する。最後に、群はどの集合のオペラッドの代数としても表せないことを示す。

定義

以下、空間 は集合または位相空間を指し、位相空間の場合は写像をすべて連続とする。位相空間では、写像の空間と直積がよく振る舞うよう、コンパクト生成空間の圏で考える(May72 p. 2)。$n\ge0$ について $\Sigma_n$ を $\{1,\dots,n\}$ の対称群とする($\Sigma_0$ は自明な群)。

列の並べ替えとブロックの置換

$\Sigma_n$ は長さ $n$ の列 $x=(x_1,\dots,x_n)$ に左から
$$ (\sigma\cdot x)_m:=x_{\sigma^{-1}(m)} $$
で作用する。$x_i$ を $\sigma(i)$ 番目の位置へ動かす操作であり、$\sigma\cdot(\tau\cdot x)=(\sigma\tau)\cdot x$ が成り立つ。
$j_1,\dots,j_k\ge0$、$j=j_1+\cdots+j_k$ とし、$\{1,\dots,j\}$ を左から長さ $j_1,\dots,j_k$ の $k$ 個のブロックに分ける。長さ $j$ の列もこれに合わせて $x=(x^{(1)},\dots,x^{(k)})$ と書く。

  • $\sigma\in\Sigma_k$ について、$\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle\in\Sigma_j$ を、第 $s$ ブロックを中の順序を保ったまま $\sigma(s)$ 番目のブロックの位置へ動かす置換とする。列への作用では $\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle\cdot x=(x^{(\sigma^{-1}(1))},\dots,x^{(\sigma^{-1}(k))})$ である。
  • $\tau_s\in\Sigma_{j_s}$ について、$\tau_1\oplus\cdots\oplus\tau_k\in\Sigma_j$ を、ブロックを動かさず第 $s$ ブロックの中で $\tau_s$ として働く置換とする。列への作用では $(\tau_1\oplus\cdots\oplus\tau_k)\cdot x=(\tau_1\cdot x^{(1)},\dots,\tau_k\cdot x^{(k)})$ である。

オペラッドとその射

オペラッド

オペラッド $P$ は次のデータからなる。

  1. 空間の列 $P(n)$($n\ge0$)と、各 $P(n)$ への $\Sigma_n$ の右作用 $(p,\sigma)\mapsto p\sigma$。$P(n)$ の元を $P$ の $n$ 項演算 という。
  2. $k\ge0$、$j_1,\dots,j_k\ge0$ ごとの 合成 $\gamma\colon P(k)\times P(j_1)\times\cdots\times P(j_k)\to P(j_1+\cdots+j_k)$。
  3. 単位 $1\in P(1)$。
    これらは、$p\in P(k)$、$q_s\in P(j_s)$、$j=\sum_s j_s$、$r_1,\dots,r_j$($r_t\in P(i_t)$)について次を満たす。
  • 結合律:$\gamma\bigl(\gamma(p;q_1,\dots,q_k);r_1,\dots,r_j\bigr)=\gamma(p;f_1,\dots,f_k)$。ここで $f_s:=\gamma(q_s;r_{J_{s-1}+1},\dots,r_{J_s})$、$J_s:=j_1+\cdots+j_s$ とする。
  • 単位律:$\gamma(1;q)=q$($q\in P(n)$)、$\gamma(p;1,\dots,1)=p$($p\in P(k)$)。
  • 同変性:$\sigma\in\Sigma_k$、$\tau_s\in\Sigma_{j_s}$ について
    $$ \gamma(p\sigma;q_1,\dots,q_k)=\gamma\bigl(p;q_{\sigma^{-1}(1)},\dots,q_{\sigma^{-1}(k)}\bigr)\,\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle,\qquad \gamma(p;q_1\tau_1,\dots,q_k\tau_k)=\gamma(p;q_1,\dots,q_k)\,(\tau_1\oplus\cdots\oplus\tau_k). $$
    オペラッドの 射 $\phi\colon P\to Q$ は、$\Sigma_n$ 同変な写像の列 $\phi_n\colon P(n)\to Q(n)$ で、合成と単位を保つものである。

これは May72 定義 1.1(p. 2)の定義で、$P(0)$ を 1 点に限らない形にしたものである。$k=0$ のとき合成は $P(0)\to P(0)$ で、単位律の第 2 式によりこれは恒等写像である。したがって結合律の $f_s$ は、$j_s=0$ のとき $q_s$ そのものである。$P(n)$ の元を「$n$ 本の入力線と 1 本の出力線をもつ頂点」と描くと、$\gamma(p;q_1,\dots,q_k)$ は $p$ の第 $s$ 入力線に $q_s$ の出力線をつないだ木であり、結合律は 3 段の木の合成の仕方によらないことを、同変性は入力線の番号の付け替えと合成が両立することを表す。

流儀の違い
  1. 対称群の作用と同変性を除いた構造を 非対称オペラッド という。Lei04 は非対称のものを単にオペラッドと呼び、作用をもつものを対称オペラッドと呼ぶ(定義 2.2.1, p. 42、定義 2.2.21, p. 54。呼び方の注意は p. 43)。この記事では作用をもつものをオペラッドと呼ぶ。
  2. May72 は位相空間のオペラッドで $P(0)$ を 1 点とし、基点付き空間に作用させる。この記事では $P(0)$ に制限を置かない。
  3. 空間の代わりに対称モノイダル圏の対象を使い、直積をテンソル積に替えても同じ定義ができる(Lei04 p. 43)。たとえば体上のベクトル空間の圏で考えると、$n$ 項演算は多重線形写像 $V^{\otimes n}\to V$ のように振る舞う。
  4. 色を複数許し、入力と出力に色を指定したものが有色オペラッド(多重圏)である(∞オペラッド の定義「有色オペラッド」)。

部分合成

部分合成

$p\in P(k)$、$1\le i\le k$、$q\in P(m)$ について、$q$ を $i$ 番目に置き、ほかを単位とした合成
$$ p\circ_iq:=\gamma(p;1,\dots,1,q,1,\dots,1)\in P(k+m-1) $$
を 部分合成 という。

部分合成は「$p$ の第 $i$ 入力に $q$ を 1 つだけ代入する」操作である。合成は部分合成の繰り返しで書ける。

合成は部分合成で書ける

$p\in P(k)$、$q_s\in P(j_s)$ について
$$ \gamma(p;q_1,\dots,q_k)=\Bigl(\cdots\bigl((p\circ_kq_k)\circ_{k-1}q_{k-1}\bigr)\cdots\Bigr)\circ_1q_1 . $$

右から 1 つずつ代入する

要点:右端から代入していけば、次に代入する位置の左にはまだ単位しかないので、位置の番号がずれない。

詳しい証明を開く

$0\le m\le k$ について、右辺の内側から $m$ 回の部分合成を行ったものが $\gamma(p;1,\dots,1,q_{k-m+1},\dots,q_k)$ に等しいことを $m$ の帰納法で示す。$m=0$ では単位律の第 2 式である。$m$ で成り立つとし、$u:=\gamma(p;1,\dots,1,q_{k-m+1},\dots,q_k)$ とおく。$u$ の入力のうち最初の $k-m$ 個は単位 $1\in P(1)$ のそれぞれ 1 本の入力なので、$u\circ_{k-m}q_{k-m}$ は $u$ に対し、$k-m$ 番目に $q_{k-m}$、ほかに単位を並べた合成である。結合律により、これは $\gamma(p;f_1,\dots,f_k)$ に等しく、$f_s=\gamma(1;1)=1$($s< k-m$)、$f_{k-m}=\gamma(1;q_{k-m})=q_{k-m}$、$f_s=\gamma(q_s;1,\dots,1)=q_s$($s>k-m$)である(単位律)。よって $m+1$ でも成り立ち、$m=k$ が主張である。$\square$

代数

自己準同型オペラッド

自己準同型オペラッド

空間 $X$ について、$\operatorname{End}_X(n)$ を写像 $X^n\to X$ の空間とする($X^0$ は 1 点なので、$\operatorname{End}_X(0)$ は $X$ と同一視される)。合成を $\gamma(f;g_1,\dots,g_k):=f\circ(g_1\times\cdots\times g_k)$、単位を恒等写像、$\Sigma_n$ の作用を $(f\sigma)(x):=f(\sigma\cdot x)$ で定める。これを $X$ の 自己準同型オペラッド という(May72 定義 1.2, p. 3、Lei04 例 2.2.8, p. 46)。

自己準同型オペラッドの公理

$\operatorname{End}_X$ はオペラッドである。

列への作用で書き下す

要点:結合律と単位律は写像の合成の結合律であり、同変性は列への作用の式 $\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle\cdot x=(x^{(\sigma^{-1}(1))},\dots)$ から出る。

詳しい証明を開く

右作用であること:$((f\sigma)\tau)(x)=(f\sigma)(\tau\cdot x)=f(\sigma\cdot(\tau\cdot x))=f((\sigma\tau)\cdot x)=(f(\sigma\tau))(x)$。

結合律:$x=(x^{(1)},\dots,x^{(k)})$ を、さらに $r_t$ の入力ごとに細かく分ける。両辺とも $x$ を $f\bigl(g_1(r_1(\cdots),\dots),\dots,g_k(\dots,r_j(\cdots))\bigr)$ に写す。単位律は明らかである。

同変性の第 1 式:左辺は $x$ を $(f\sigma)(g_1(x^{(1)}),\dots,g_k(x^{(k)}))=f\bigl(g_{\sigma^{-1}(1)}(x^{(\sigma^{-1}(1))}),\dots,g_{\sigma^{-1}(k)}(x^{(\sigma^{-1}(k))})\bigr)$ に写す。右辺は $x$ を $\gamma(f;g_{\sigma^{-1}(1)},\dots)$ に $\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle\cdot x=(x^{(\sigma^{-1}(1))},\dots,x^{(\sigma^{-1}(k))})$ を入れた値に写し、これは左辺と同じである。第 2 式:両辺とも $x$ を $f\bigl(g_1(\tau_1\cdot x^{(1)}),\dots,g_k(\tau_k\cdot x^{(k)})\bigr)$ に写す。位相空間の場合、合成と作用が連続であることはコンパクト生成空間の圏での写像空間の性質による。$\square$

代数の定義と構造写像

オペラッドの代数

オペラッド $P$ について、$P$ 代数 とは空間 $X$ とオペラッドの射 $\theta\colon P\to\operatorname{End}_X$ の組 $(X,\theta)$ である。$P$ 代数の 射 $f\colon(X,\theta)\to(Y,\theta')$ とは、写像 $f\colon X\to Y$ で、すべての $p\in P(n)$ について $f\circ\theta_n(p)=\theta'_n(p)\circ f^n$ を満たすものである($f^n=f\times\cdots\times f$)。

構造写像による記述

空間 $X$ 上の $P$ 代数の構造 $\theta$ は、$\theta_n(p;x):=\theta_n(p)(x)$ によって、次の 3 条件を満たす写像の族 $\theta_n\colon P(n)\times X^n\to X$($n\ge0$)と 1 対 1 に対応する。

  1. $\theta_j\bigl(\gamma(p;q_1,\dots,q_k);x\bigr)=\theta_k\bigl(p;\theta_{j_1}(q_1;x^{(1)}),\dots,\theta_{j_k}(q_k;x^{(k)})\bigr)$。
  2. $\theta_1(1;x)=x$。
  3. $\theta_n(p\sigma;x)=\theta_n(p;\sigma\cdot x)$。
随伴に移す

写像 $P(n)\to\operatorname{End}_X(n)$ と写像 $P(n)\times X^n\to X$ は、$\theta_n(p;x)=\theta_n(p)(x)$ で 1 対 1 に対応する(集合なら定義から、コンパクト生成空間なら写像空間の随伴による)。この対応で、1 は $\theta$ が合成を保つこと、2 は単位を保つこと、3 は $\Sigma_n$ 同変であることにそれぞれ書き換わる。たとえば 3 は $\theta_n(p\sigma)=\theta_n(p)\sigma$、すなわち $\theta_n(p\sigma)(x)=\theta_n(p)(\sigma\cdot x)$ のことである。$\square$

これは May72 補題 1.4(p. 4)の主張である。1 は「演算を合成してから値を求めても、内側の演算の値を外側に入れても同じ」、3 は「演算の入力の番号を付け替えることは、入力の列を並べ替えることと同じ」と読める。代数の射は、$f(\theta_n(p;x))=\theta'_n(p;f(x_1),\dots,f(x_n))$ を満たす写像のことである。

結合オペラッドと可換オペラッド

可換オペラッドと結合オペラッド
  1. 可換オペラッド $\mathrm{Com}$:$\mathrm{Com}(n)$ を 1 点 $\{c_n\}$ とし、作用・合成は唯一の写像、単位を $c_1$ とする。公理はどれも 1 点の間の等式なので成り立つ。任意のオペラッド $P$ から $\mathrm{Com}$ への射はただ一つある。
  2. 結合オペラッド $\mathrm{Ass}$:$\mathrm{Ass}(n)$ を、$1,\dots,n$ を重複なく並べた列 $\omega=(i_1,\dots,i_n)$ の集合とする($\omega$ は全順序 $i_1< \cdots< i_n$ と同じものである)。$\iota_n:=(1,2,\dots,n)$ と書き、単位を $\iota_1$ とする。作用を $\omega\sigma:=(\sigma^{-1}(i_1),\dots,\sigma^{-1}(i_n))$ で定める。$\omega=(i_1,\dots,i_k)\in\mathrm{Ass}(k)$ と $\omega_s\in\mathrm{Ass}(j_s)$ の合成 $\gamma(\omega;\omega_1,\dots,\omega_k)$ は、第 $s$ ブロック $\{J_{s-1}+1,\dots,J_s\}$ の中を $\omega_s$ の順に並べた列($\omega_s=(a_1,\dots,a_{j_s})$ なら $(J_{s-1}+a_1,\dots,J_{s-1}+a_{j_s})$)を、ブロックの順 $s=i_1,\dots,i_k$ につなげた列とする。

$\mathrm{Ass}$ の合成は「ブロックの順を $\omega$ で、ブロックの中の順を $\omega_s$ で決める」辞書式の合成である(Lei04 例 2.2.20, pp. 51–52)。$\iota_n\sigma=(\sigma^{-1}(1),\dots,\sigma^{-1}(n))$ なので、$\omega=(i_1,\dots,i_n)$ に対し $\omega=\iota_n\sigma$ となる $\sigma$ は $\sigma^{-1}(m)=i_m$ で決まるただ一つの置換である。すなわち $\Sigma_n$ は $\mathrm{Ass}(n)$ に自由かつ推移的に作用し、$\mathrm{Ass}(n)$ は $\Sigma_n$ と 1 対 1 に対応する。

結合オペラッドの公理と積の作用

$M$ をモノイドとし、$\omega=(i_1,\dots,i_n)$ について $\theta_n(\omega;x):=x_{i_1}x_{i_2}\cdots x_{i_n}$($n=0$ なら単位元)とおく。

  1. この $\theta$ は prop-op-structure-maps の 1〜3 の式を満たす。
  2. $\mathrm{Ass}$ はオペラッドである。
自由モノイドに埋め込む

要点:1 は一般結合律である。2 は、文字の列の積を作る写像によって $\mathrm{Ass}$ を自由モノイドの自己準同型オペラッドに単射で埋め込み、そこで公理を確かめる。

詳しい証明を開く

1:式 1 の左辺は、$x$ の成分を「ブロックは $i_1,\dots,i_k$ の順、第 $s$ ブロックの中は $\omega_s$ の順」に並べた積である。右辺は $\theta_{j_{i_1}}(\omega_{i_1};x^{(i_1)})\cdots\theta_{j_{i_k}}(\omega_{i_k};x^{(i_k)})$ で、一般結合律により同じ積である。式 2 は $\theta_1(\iota_1;x)=x$ である。式 3:$(\sigma\cdot x)_i=x_{\sigma^{-1}(i)}$ なので $\theta_n(\omega;\sigma\cdot x)=x_{\sigma^{-1}(i_1)}\cdots x_{\sigma^{-1}(i_n)}=\theta_n(\omega\sigma;x)$ である。

2:$W$ を文字 $a_1,a_2,\dots$ の上の自由モノイド(文字の有限列の全体と連結)とし、$\Phi_n\colon\mathrm{Ass}(n)\to\operatorname{End}_W(n)$、$\Phi_n(\omega):=\theta_n(\omega;-)$ とおく。1 の 3 つの式はそれぞれ $\Phi(\gamma(\omega;\omega_1,\dots,\omega_k))=\gamma(\Phi(\omega);\Phi(\omega_1),\dots,\Phi(\omega_k))$、$\Phi(\iota_1)=\operatorname{id}$、$\Phi(\omega\sigma)=\Phi(\omega)\sigma$ を意味する。また $\Phi_n(\omega)(a_1,\dots,a_n)=a_{i_1}\cdots a_{i_n}$ から $\omega$ が読み取れるので、$\Phi_n$ は単射である。$\mathrm{Ass}$ の公理の各式の両辺を $\Phi$ で写すと、$\Phi$ が合成・単位・作用と両立するので、$\operatorname{End}_W$ の対応する式の両辺になる。後者は prop-op-end により等しく、$\Phi$ は単射なので、元の両辺も等しい。作用が右作用であることも同じ議論で従う。$\square$

モノイドと可換モノイドの記述

$X$ を集合とする。

  1. $X$ 上の $\mathrm{Ass}$ 代数の構造とモノイドの構造は、$xy:=\theta_2(\iota_2;x,y)$、$e:=\theta_0(\iota_0)$ と、逆向きの $\theta_n(\omega;x):=x_{i_1}\cdots x_{i_n}$(lem-op-ass)によって 1 対 1 に対応する。
  2. $X$ 上の $\mathrm{Com}$ 代数の構造と可換モノイドの構造は、$xy:=\theta_2(c_2;x,y)$、$e:=\theta_0(c_0)$ と、逆向きの $\theta_n(c_n;x):=x_1\cdots x_n$ によって 1 対 1 に対応する。
    どちらの対応でも、代数の射とモノイドの準同型は同じものである。
2 項演算と 0 項演算に集約する

要点:$\iota_3=\gamma(\iota_2;\iota_2,\iota_1)=\gamma(\iota_2;\iota_1,\iota_2)$ が結合律を、$\gamma(\iota_2;\iota_0,\iota_1)=\iota_1$ が単位律を与え、ほかの演算は 2 項演算の繰り返しと並べ替えで決まる。可換性は $\mathrm{Com}(2)$ への互換の作用が自明なことから出る。

詳しい証明を開く

1:$\mathrm{Ass}$ 代数 $(X,\theta)$ から始める。辞書式の合成の定義から $\gamma(\iota_2;\iota_2,\iota_1)=\iota_3=\gamma(\iota_2;\iota_1,\iota_2)$ なので、prop-op-structure-maps の 1 により $(xy)z=\theta_3(\iota_3;x,y,z)=x(yz)$ である。$\gamma(\iota_2;\iota_0,\iota_1)=\iota_1=\gamma(\iota_2;\iota_1,\iota_0)$ と同 2 により $ex=\theta_1(\iota_1;x)=x=xe$ である。よって $X$ はモノイドである。さらに $\iota_n=\gamma(\iota_2;\iota_{n-1},\iota_1)$($n\ge2$)から帰納的に $\theta_n(\iota_n;x)=x_1\cdots x_n$ がわかり、$\omega=\iota_n\sigma$($\sigma^{-1}(m)=i_m$)について同 3 から $\theta_n(\omega;x)=\theta_n(\iota_n;\sigma\cdot x)=x_{i_1}\cdots x_{i_n}$ である。したがって $\theta$ はこのモノイドから lem-op-ass で作った構造に一致する。逆にモノイドから lem-op-ass で作った代数の $\theta_2(\iota_2;-)$ と $\theta_0(\iota_0)$ は、元の積と単位元である。よって 2 つの対応は互いに逆である。

2:$\mathrm{Com}$ 代数でも、$\gamma(c_2;c_2,c_1)=c_3=\gamma(c_2;c_1,c_2)$、$\gamma(c_2;c_0,c_1)=c_1=\gamma(c_2;c_1,c_0)$ から同様にモノイドになる。互換 $\tau\in\Sigma_2$ について $c_2\tau=c_2$ なので、$yx=\theta_2(c_2;\tau\cdot(x,y))=\theta_2(c_2\tau;x,y)=xy$ であり、可換である。逆に可換モノイドについて $\theta_n(c_n;x)=x_1\cdots x_n$ は、1 と 2 を一般結合律から、3 を可換性から満たす。2 つの対応が互いに逆であることは 1 と同じである。

射:代数の射は $\theta_2$ と $\theta_0$ を保つのでモノイドの準同型である。逆にモノイドの準同型は積をすべて保つので、上の形の $\theta_n$ を保つ。$\square$

同じ証明で、位相空間の場合には $\mathrm{Ass}$ 代数が位相モノイドに、$\mathrm{Com}$ 代数が可換な位相モノイドに対応する(May72 定義 3.1・命題 3.2, p. 12、Lei04 例 2.2.2, p. 44)。

そのほかの例
  1. 群の作用:群 $G$ について $P(1):=G$、$P(n):=\emptyset$($n\ne1$)とし、合成を $G$ の積、単位を単位元とする。$P$ 代数は $g\cdot x:=\theta_1(g;x)$ によって $G$ の左作用をもつ集合と同じものである。prop-op-structure-maps の 1 が $(gh)\cdot x=g\cdot(h\cdot x)$、2 が $e\cdot x=x$ にあたる(Lei04 例 2.2.4, p. 44 はモノイドの作用について述べている)。
  2. Lie 環:ベクトル空間の圏のオペラッドで、その代数がちょうど Lie 環であるものがある(Lei04 例 2.2.6, p. 45。この記事では扱わない)。
  3. 小立方体:$n$ 次元の立方体の中に互いに交わらない小さな立方体を並べる仕方の空間は、位相空間のオペラッドをなし、$n$ 重ループ空間はその代数である(E_nオペラッド)。

自由代数

集合 $X$ から「$P$ の演算を $X$ の元に形式的に施したもの」を集めると、$X$ で生成される自由な $P$ 代数ができる。$P(n)\times X^n$ に $\Sigma_n$ を $(p,x)\mapsto(p\sigma,\sigma^{-1}\cdot x)$ で右から作用させた軌道の集合を $P(n)\times_{\Sigma_n}X^n$ と書き、$(p,x)$ の軌道を $[p;x]$ と書く。$[p\sigma;x]=[p;\sigma\cdot x]$ である。

自由代数の構成

$P$ を集合のオペラッド、$X$ を集合とし、
$$ F_P(X):=\coprod_{n\ge0}P(n)\times_{\Sigma_n}X^n,\qquad \theta_k\bigl(p;[q_1;x^{(1)}],\dots,[q_k;x^{(k)}]\bigr):=\bigl[\gamma(p;q_1,\dots,q_k);x^{(1)},\dots,x^{(k)}\bigr] $$
とおく。$\eta\colon X\to F_P(X)$ を $\eta(x):=[1;x]$ とする。

  1. $(F_P(X),\theta)$ は $P$ 代数である。
  2. 任意の $P$ 代数 $(A,\theta')$ と写像 $f\colon X\to A$ について、$\bar f\circ\eta=f$ を満たす $P$ 代数の射 $\bar f\colon F_P(X)\to A$ がただ一つあり、$\bar f([q;x_1,\dots,x_n])=\theta'_n(q;f(x_1),\dots,f(x_n))$ である。
同変性で代表元の取り替えを吸収する

要点:代表元を取り替えたときのずれは、合成の同変性の第 2 式で吸収される。代数の公理はオペラッドの公理から、普遍性は $[q;x]=\theta_n(q;\eta(x_1),\dots,\eta(x_n))$ から出る。

詳しい証明を開く

$\theta_k$ が定まること:第 $s$ 成分の代表元を $(q_s\tau,x')$($x^{(s)}=\tau\cdot x'$)に取り替える。同変性の第 2 式により $\gamma(p;\dots,q_s\tau,\dots)=\gamma(p;\dots,q_s,\dots)(1\oplus\cdots\oplus\tau\oplus\cdots\oplus1)$ であり、$[u\pi;y]=[u;\pi\cdot y]$ と $(1\oplus\cdots\oplus\tau\oplus\cdots\oplus1)\cdot(\dots,x',\dots)=(\dots,\tau\cdot x',\dots)$ から、値は変わらない。

1:prop-op-structure-maps の 3 を確かめる。$z_s=[q_s;x^{(s)}]$ とすると、同変性の第 1 式により $\theta_k(p\sigma;z)=\bigl[\gamma(p;q_{\sigma^{-1}(1)},\dots)\,\sigma\langle j_1,\dots,j_k\rangle;x\bigr]=\bigl[\gamma(p;q_{\sigma^{-1}(1)},\dots);x^{(\sigma^{-1}(1))},\dots\bigr]=\theta_k(p;\sigma\cdot z)$ である。2 は単位律 $\gamma(1;q)=q$、1 は結合律から、どちらも代表元の上の等式として従う。

2:$\bar f$ が定まること:$\theta'_n(q\sigma;f(x_1),\dots)=\theta'_n(q;\sigma\cdot(f(x_1),\dots))=\theta'_n(q;f((\sigma\cdot x)_1),\dots)$ なので、$[q\sigma;x]$ と $[q;\sigma\cdot x]$ の値は一致する。$\bar f$ が射であること:$\bar f(\theta_k(p;z))=\theta'_j(\gamma(p;q_1,\dots,q_k);f(x))$ は、$A$ の構造写像の 1 により $\theta'_k(p;\bar f(z_1),\dots,\bar f(z_k))$ に等しい。$\bar f(\eta(x))=\theta'_1(1;f(x))=f(x)$ である。一意性:単位律 $\gamma(q;1,\dots,1)=q$ により $[q;x_1,\dots,x_n]=\theta_n(q;\eta(x_1),\dots,\eta(x_n))$ なので、$g\circ\eta=f$ を満たす射 $g$ は $g([q;x])=\theta'_n(q;f(x_1),\dots,f(x_n))$ を満たし、$\bar f$ に一致する。$\square$

自由モノイドと自由可換モノイド
  1. $P=\mathrm{Ass}$ では、$\Sigma_n$ が $\mathrm{Ass}(n)$ に自由かつ推移的に作用するので、各軌道は $[\iota_n;x]$ の形の代表元をただ一つもつ($[\iota_n\sigma;x]=[\iota_n;\sigma\cdot x]$)。よって $F_{\mathrm{Ass}}(X)=\coprod_nX^n$ は $X$ の元の有限列の全体であり、thm-op-monoid の対応で連結を積とする自由モノイドになる。
  2. $P=\mathrm{Com}$ では、$\mathrm{Com}(n)\times_{\Sigma_n}X^n=X^n/\Sigma_n$ は $X$ の元を重複を許して $n$ 個選んだ多重集合の全体であり、$F_{\mathrm{Com}}(X)$ は $X$ 上の自由可換モノイドである。

$F_P$ は集合の圏の上のモナドになり、その代数は $P$ 代数と同じものである(この記事では確かめない)。基点付き空間についての同様の構成が May72 構成 2.4(p. 8)と命題 2.8(p. 10)にある。この意味で、オペラッドは「代入の規則が入力の個数ごとに分かれている」特別な形のモナドを与える。

群は表せない

結合律や単位律、可換律は、両辺に同じ変数が 1 回ずつ現れる等式である。オペラッドの代数の公理は、演算に入力を 1 回ずつ入れる形の等式しか課せない。群の公理 $x^{-1}x=e$ は左辺に $x$ を 2 回使い、右辺には使わないので、この形ではない。実際、次が成り立つ。

群は集合のオペラッドの代数でない

集合のオペラッド $P$ で、次を満たすものは存在しない:各集合 $X$ について、$X$ 上の群の構造と $X$ 上の $P$ 代数の構造の間に 1 対 1 の対応があり、写像が群の準同型であることと、対応する $P$ 代数の射であることが同値になる。

自然数への足し算の作用で調べる

要点:どの $P$ も $\mathrm{Com}$ へ写るので、自然数の足し算は $P$ 代数の構造を与える。群の積と逆元は自由代数の元で表され、その元は自然数の上では足し算の非負整数倍の和として働くが、それでは逆元が作れない。

詳しい証明を開く

そのような $P$ があったとし、$P$ 代数 $A$ に対応する群を $A^{\mathrm{grp}}$ と書く。

段 1:$F:=F_P(\{1,2\})$ とし、$F^{\mathrm{grp}}$ で$\eta(1)$ と $\eta(2)$ の積を $w$、$\eta(1)$ の逆元を $v$ とする。$w=[q;i_1,\dots,i_m]$、$v=[q';i'_1,\dots,i'_{m'}]$($i_t,i'_t\in\{1,2\}$)と書き、$c_1,c_2$ を $i_t=1$、$i_t=2$ となる $t$ の個数、$c'$ を $i'_t=1$ となる $t$ の個数とする。

段 2:自然数の集合 $\mathbb{N}$ の上に、唯一の射 $P\to\mathrm{Com}$ と可換モノイド $(\mathbb{N},+,0)$ の $\mathrm{Com}$ 代数の構造(thm-op-monoid)を合成して、$\theta_n(p;a_1,\dots,a_n)=a_1+\cdots+a_n$ となる $P$ 代数 $N$ を作る。$a,b\in\mathbb{N}$ について、thm-op-free の射 $\varphi\colon F\to N$($\varphi(\eta(1))=a$、$\varphi(\eta(2))=b$)は仮定により群の準同型 $F^{\mathrm{grp}}\to N^{\mathrm{grp}}$ である。よって $N^{\mathrm{grp}}$ の積と逆元は $a\cdot b=\varphi(w)=\theta_m(q;\varphi(\eta(i_1)),\dots,\varphi(\eta(i_m)))=c_1a+c_2b$、$a^{-1}=\varphi(v)=c'a+c''b$ と書ける($c''$ は $i'_t=2$ の個数)。$b=0$ とおくと $a^{-1}=c'a$ である。

段 3:$N^{\mathrm{grp}}$ の単位元を $e$ とする。$a\cdot e=a$ に $a=0,1$ を入れると $c_2e=0$、$c_1+c_2e=1$ なので $c_1=1$ である。$e\cdot a=a$ から同様に $c_1e=0$、$c_2=1$ なので $e=0$ である。すると $1\cdot1^{-1}=1+c'\ge1$ は $e=0$ にならず、矛盾する。$\square$

Lei04 例 2.2.5(p. 45)は、非対称オペラッドで表せる代数系が、各変数が両辺に同じ順に 1 回ずつ現れる等式で定まるものに限られることを述べ、可換モノイドと群の理論がその形に書けないことの確かめ方を 例 4.1.6(p. 104)で与えている(特徴づけは同書 定理 C.1.1(p. 302)で、証明は pp. 302–307)。対称群の作用を許すと可換モノイドは表せるようになるが、上の定理のとおり群は表せない。一般の等式で定まる代数系は Lawvere理論 で扱う。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
対称群の作用各 $P(n)$ が 1 点の非対称オペラッド代数は可換とは限らないモノイドで、可換性を表せない
等式の各辺に各変数が 1 回ずつ現れること群の公理($x^{-1}x=e$)どの集合のオペラッドの代数としても表せない(thm-op-groups)
表の確かめ

1 行目.非対称オペラッドでは同変性の条件がなく、代数の公理は prop-op-structure-maps の 1 と 2 だけである。各 $P(n)=\{c_n\}$ のとき、thm-op-monoid の証明の前半($c_3=\gamma(c_2;c_2,c_1)=\gamma(c_2;c_1,c_2)$ などを使う部分)だけがそのまま働き、代数はモノイドと同じものになる(Lei04 例 2.2.2, p. 44)。たとえば 2 文字の上の自由モノイドは $ab\ne ba$ なので可換でない。演算の集合は $\mathrm{Com}$ と同じ 1 点ずつでも、対称群の作用とその同変性がなければ可換性は課されない。
2 行目.thm-op-groups による。群の公理を等式の形を変えて書き直しても、この定理は群の圏そのものについての主張なので、どの書き方でも表せない。

関連項目

参考文献

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