Gelfond–Schneiderの定理(Gelfond–Schneider theorem)とは、$0,1$ でない代数的数 $\alpha$ と有理数でない代数的数 $\beta$ について、$\alpha$ の対数の値 $\ell$ をどう選んでも $\alpha^\beta=e^{\beta\ell}$ が超越数であるという定理で、Hilbert の第 7 問題の解決である。$2^{\sqrt2}$、$e^{\pi}$、$i^{\,i}$ の超越性が従い、代数的数の対数の比は有理数か超越数であると言い換えられる。証明の要は、Siegel の補題で多くの点に高い位数の零点をもたせた整数係数の指数関数の和について、最初に $0$ でなくなる微分係数が、ノルムによる下からの評価と最大値原理による上からの評価を同時には満たせないことである。
前提知識: 超越数, 代数的数, 代数体, 最大値原理(複素解析)
$\sqrt2$ は無理数であるが、$\sqrt2$ を $\sqrt2$ 乗した数 $\sqrt2^{\sqrt2}$ はどうだろうか。Hilbert は 1900 年の問題講演で、代数的数 $\alpha\neq0,1$ と代数的な無理数 $\beta$ について $\alpha^\beta$ が超越数かどうかを問うた(第 7 問題)。これを 1934 年に Gelfond と Schneider がそれぞれ独立に、異なる方法で肯定的に解いた(HW60 p. 177)。これが Gelfond–Schneider の定理である。この定理から $2^{\sqrt2}$、$\sqrt2^{\sqrt2}$、$e^{\pi}$、$i^{\,i}$ がすべて超越数であることが分かる。
Lindemann–Weierstrassの定理 は指数 $\alpha$ が代数的数の場合の $e^\alpha$ を扱うが、$2^{\sqrt2}=e^{\sqrt2\log2}$ の指数 $\sqrt2\log2$ は超越数なので、その定理は使えない。証明には別の考え方が要る。整数係数の指数関数の和 $F(z)=\sum c_{ab}e^{(a+b\beta)z}$ を、多くの点で高い位数の零点をもつように Siegel の補題(鳩の巣原理)で作り(補助関数)、その最初の $0$ でない微分係数を、代数的整数のノルムによる下からの評価と、最大値原理(複素解析) による上からの評価で挟む。
$\alpha\neq0$ を複素数とすると、$e^\ell=\alpha$ を満たす複素数 $\ell$($\alpha$ の対数の値)は $2\pi i$ の整数倍の差を除いて定まる。そのような $\ell$ を 1 つ固定して、複素数 $\beta$ に対し $\alpha^\beta:=e^{\beta\ell}$ と定める。この値は $\ell$ の選び方に依存する。たとえば $\alpha=-1$ に $\ell=i\pi$ をとると $(-1)^{-i}=e^{\pi}$、$\ell=-i\pi$ をとると $(-1)^{-i}=e^{-\pi}$ である。
$\beta$ を有理数でない代数的数とする。
2 は 1 から従う。$\alpha\neq1$ なので $\ell\neq0$ だからである。1 は節「証明」の prf-gs-main で示す。証明は、lem-gs-siegel で作った補助関数が点 $\ell,2\ell,\dots,M\ell$ で高い位数の零点をもつことを使い、lem-gs-norm と 最大値原理(複素解析) で矛盾を導く。$\beta$ が有理数でないことは、補助関数が恒等的に $0$ にならないこと(指数 $a+b\beta$ が相異なること)にだけ使う。1 は $e^\ell=1$、$\ell=2\pi ik$($k\neq0$)の場合も含む。たとえば $e^{2\pi i\sqrt2}$ は超越数である。
超越数 の記事の定理「Gelfond–Schneider の定理(冪の超越性)」は 2 の形で述べている。次の系は、代数的数の対数の比についての言い換えである。
$\ell_1,\ell_2$ を $0$ でない複素数とし、$e^{\ell_1}$ と $e^{\ell_2}$ は代数的数であるとする。このとき $\ell_2/\ell_1$ は有理数であるか超越数である。言い換えると、$\ell_1,\ell_2$ が $\mathbb{Q}$ 上線形独立なら、代数的数全体の体 $\overline{\mathbb{Q}}$ 上でも線形独立である。
$\beta:=\ell_2/\ell_1$ が有理数でない代数的数なら、thm-gs-main の 1 により $e^{\beta\ell_1}=e^{\ell_2}$ は超越数となり、仮定に反する。後半:代数的数 $\beta_1,\beta_2$ で少なくとも一方が $0$ でないものについて $\beta_1\ell_1+\beta_2\ell_2=0$ とする。$\beta_2=0$ なら $\beta_1\ell_1=0$ から $\beta_1=0$ となるので $\beta_2\neq0$ であり、$\ell_2/\ell_1=-\beta_1/\beta_2$ は代数的数である。前半によりこれは有理数であり、$\ell_1,\ell_2$ は $\mathbb{Q}$ 上線形従属である。$\square$
Baker は、代数的数の対数 $\ell_1,\dots,\ell_n$ が $\mathbb{Q}$ 上線形独立なら $\overline{\mathbb{Q}}$ 上でも線形独立であること(さらに $1,\ell_1,\dots,\ell_n$ が $\overline{\mathbb{Q}}$ 上線形独立であること)を、一般の個数 $n$ で証明した(Bakerの定理(対数の一次形式) の定理「Baker の定理(質的な形)」)。cor-gs-log-ratio はその $n=2$ の場合である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\beta$ は有理数でない | $\alpha=2$、$\ell=\log2$、$\beta=1/2$ | $2^{1/2}=\sqrt2$ は代数的数 |
| $\beta$ は代数的数 | $\alpha=2$、$\ell=\log2$、$\beta=\log3/\log2$ | $2^\beta=e^{\log3}=3$ は代数的数 |
| $e^\ell$($=\alpha$)は代数的数 | $\ell=\sqrt2\log2$、$\beta=\sqrt2$ | $e^{\beta\ell}=e^{2\log2}=4$ は代数的数 |
| $\ell\neq0$ | $\ell=0$($\alpha=1$)、$\beta=\sqrt2$ | $e^{\beta\ell}=1$ は代数的数 |
各行は thm-gs-main の 1 の仮定のうち 1 つだけを破る。
1 行目:$e^\ell=2$ は代数的数、$\ell\neq0$、$\beta=1/2$ は代数的数であるが有理数である。$e^{\ell/2}=\sqrt2$。
2 行目:$\beta=\log3/\log2$ は ex-gs-examples の 5 により有理数でも代数的数でもない。他の仮定($e^\ell=2$、$\ell\neq0$)は満たす。
3 行目:$\beta=\sqrt2$ は有理数でない代数的数で、$\ell\neq0$ であるが、$e^\ell=2^{\sqrt2}$ は ex-gs-examples の 1 により超越数である。
4 行目:$e^0=1$ は代数的数、$\beta=\sqrt2$ は有理数でない代数的数であるが、$\ell=0$ である。同じ $\alpha=1$ でも $\ell=2\pi i$ をとれば $e^{2\pi i\sqrt2}$ は超越数である(rem-gs-outline)。2 の形で $\alpha\neq1$ を課すのは、$\ell=0$ の値を除くためである。
この節では $K\subset\mathbb{C}$ を $\mathbb{Q}$ 上 $d$ 次の代数体、$\sigma_1,\dots,\sigma_d$ をその複素埋め込みの全体とし、$\sigma_1$ は包含写像とする(代数体 の定理「埋め込みの個数と符号数」)。$x\in K$ に対し、その共役の絶対値の最大値を
$$
\overline{\lvert x\rvert}:=\max_{1\le j\le d}\lvert\sigma_j(x)\rvert
$$
と書く。$\overline{\lvert x+y\rvert}\le\overline{\lvert x\rvert}+\overline{\lvert y\rvert}$、$\overline{\lvert xy\rvert}\le\overline{\lvert x\rvert}\,\overline{\lvert y\rvert}$ である。$K$ の整数環($K$ に属する代数的整数の全体)を $\mathcal{O}_K$ と書く。
$q>p\ge1$ とし、整数 $a_{ij}$($1\le i\le p$、$1\le j\le q$)は $\lvert a_{ij}\rvert\le A$($A\ge1$)を満たすとする。このとき連立 1 次方程式
$$
\sum_{j=1}^{q}a_{ij}x_j=0\qquad(i=1,\dots,p)
$$
は、すべてが $0$ ではない整数解 $x_1,\dots,x_q$ で $\max_j\lvert x_j\rvert\le(qA)^{p/(q-p)}$ を満たすものをもつ。
$B:=\lfloor(qA)^{p/(q-p)}\rfloor$ とおくと $B\ge1$ である。$0\le x_j\le B$ を満たす整数の組 $x=(x_1,\dots,x_q)$ は $(B+1)^q$ 個ある。各 $i$ について、$y_i:=\sum_ja_{ij}x_j$ は、$a_{ij}$ の負の項の和の $B$ 倍以上、正の項の和の $B$ 倍以下の整数であり、その範囲の幅は $qAB$ 以下なので、$y_i$ のとりうる値は $qAB+1$ 個以下である。よって $y=(y_1,\dots,y_p)$ のとりうる値は $(qAB+1)^p$ 個以下である。一方、$B+1>(qA)^{p/(q-p)}$ から $(B+1)^{q-p}>(qA)^p$ であり、
$$
(B+1)^q>(qA)^p(B+1)^p=(qAB+qA)^p\ge(qAB+1)^p
$$
である。鳩の巣原理により、相異なる組 $x,x'$ で同じ $y$ を与えるものがある。$x-x'$ は $0$ でない整数解で、各成分の絶対値は $B$ 以下である。$\square$
$x\in\mathcal{O}_K$、$x\neq0$ ならば $\overline{\lvert x\rvert}\ge1$ であり、
$$
\lvert x\rvert\ge\overline{\lvert x\rvert}^{\,-(d-1)}
$$
である。
$x$ のノルム $N(x)=\prod_{j=1}^{d}\sigma_j(x)$(代数体 の定理「ノルムとトレースは共役の積と和」)は有理数である。各 $\sigma_j(x)$ は $x$ と同じモニックな整数係数の多項式の根なので代数的整数であり、その積 $N(x)$ も代数的整数である。よって $N(x)$ は整数であり(代数的整数 の命題「有理数である代数的整数は整数」)、$\sigma_j$ は単射なので $N(x)\neq0$ である。したがって $1\le\lvert N(x)\rvert\le\lvert\sigma_1(x)\rvert\,\overline{\lvert x\rvert}^{\,d-1}\le\overline{\lvert x\rvert}^{\,d}$ であり、主張が従う。$\square$
$\omega_1,\dots,\omega_d$ を $\mathcal{O}_K$ の整数底とする(判別式(代数体) の定理「整数底の存在」)。$K$ と整数底だけで決まる定数 $c_0\ge1$ があって、$x=\sum_ix_i\omega_i\in\mathcal{O}_K$($x_i\in\mathbb{Z}$)について $\max_i\lvert x_i\rvert\le c_0\overline{\lvert x\rvert}$ が成り立つ。
行列 $B:=\bigl(\sigma_k(\omega_i)\bigr)_{i,k}$ は $(\det B)^2=d_K\neq0$ を満たすので正則である(判別式(代数体) の命題「共役による表示」と定義「代数体の判別式」)。$\sigma_k(x)=\sum_ix_i\sigma_k(\omega_i)$ なので、縦ベクトルとして $(\sigma_k(x))_k=B^{\mathsf T}(x_i)_i$、すなわち $(x_i)_i=(B^{\mathsf T})^{-1}(\sigma_k(x))_k$ である。$(B^{\mathsf T})^{-1}$ の成分の絶対値の最大値を $u$ として、$c_0:=\max(1,du)$ とすればよい。$\square$
thm-gs-main の 1 を示す。$\ell\neq0$、$\alpha:=e^\ell$ は代数的数、$\beta$ は有理数でない代数的数とし、$\gamma:=e^{\beta\ell}$ が代数的数であると仮定して矛盾を導く。$\alpha,\gamma\neq0$ である。$K:=\mathbb{Q}(\alpha,\beta,\gamma)$、$d:=[K:\mathbb{Q}]$ とし、正の整数 $\delta$ で $\delta\alpha,\delta\beta,\delta\gamma$ がすべて代数的整数になるものをとる(代数的整数 の命題「代数的数の整数倍」)。点の個数を $M:=2d+2$ と定め、$h_0:=\max(1,\overline{\lvert\alpha\rvert},\overline{\lvert\gamma\rvert})$ とおく。以下の $c_1,c_2,\dots$ は $1$ 以上の定数で、$\alpha,\beta,\gamma,\ell,\delta,d,M$ と lem-gs-coordinates の $c_0$ だけで決まり、下の $r,n,s$ によらない。
段 1(補助関数の構成).$r$ を $2dM$ の倍数で $r\ge2dM^2$ を満たす正の整数とし、$n:=r^2/(2dM)$ とおく。$n$ は整数で、$rM\le n$ である。$0\le a,b\le r-1$ の整数 $c_{ab}$ を係数とする関数
$$
F(z):=\sum_{a=0}^{r-1}\sum_{b=0}^{r-1}c_{ab}\,e^{(a+b\beta)z}
$$
で、$0\le k\le n-1$、$1\le m\le M$ について $F^{(k)}(m\ell)=0$ となるものを探す。$e^{(a+b\beta)m\ell}=\alpha^{am}\gamma^{bm}$ なので、条件は
$$
F^{(k)}(m\ell)=\sum_{a,b}c_{ab}\,(a+b\beta)^k\alpha^{am}\gamma^{bm}=0
$$
という $c_{ab}$ の 1 次方程式である。両辺に $\delta^{\,n-1+2(r-1)M}$ を掛けると係数は $\mathcal{O}_K$ に属し、その共役の絶対値は $\delta^{\,n+2rM}\bigl(r(1+\overline{\lvert\beta\rvert})\bigr)^nh_0^{2rM}\le c_1^nr^n$ 以下である($rM\le n$ を使う)。lem-gs-coordinates で係数を整数底の座標に分けると、1 つの条件は整数係数の $d$ 本の方程式になり、係数の絶対値は $A:=c_0c_1^nr^n$ 以下である。方程式は全部で $p=dMn=r^2/2$ 本、未知数は $q=r^2$ 個なので、lem-gs-siegel($p/(q-p)=1$)により、すべてが $0$ ではない整数 $c_{ab}$ で
$$
\lvert c_{ab}\rvert\le r^2A=c_0c_1^n\,r^{n+2}
$$
を満たすものがとれる。
$\delta^k(a+b\beta)^k=(a\delta+b\cdot\delta\beta)^k$、$\delta^{am}\alpha^{am}=(\delta\alpha)^{am}$、$\delta^{bm}\gamma^{bm}=(\delta\gamma)^{bm}$ は代数的整数であり、$k+am+bm\le n-1+2(r-1)M$ なので、残りの $\delta$ の冪を掛けても代数的整数である。共役については $\lvert\sigma_j(a+b\beta)\rvert\le r(1+\overline{\lvert\beta\rvert})$、$\lvert\sigma_j(\alpha)^{am}\rvert\le h_0^{rM}$、$\lvert\sigma_j(\gamma)^{bm}\rvert\le h_0^{rM}$ を使う。$rM\le n$ なので $\delta^{n+2rM}h_0^{2rM}\le(\delta^3h_0^2)^n$ であり、$c_1:=\delta^3h_0^2(1+\overline{\lvert\beta\rvert})$ とすればよい。$\mathcal{O}_K$ の元が $0$ であることは整数底の座標がすべて $0$ であることと同値なので、整数の方程式の解は元の条件を満たす。
段 1 と同じく $\eta\in\mathcal{O}_K$ である。各共役は $r^2\max\lvert c_{ab}\rvert\cdot\delta^{s+2rM}\bigl(r(1+\overline{\lvert\beta\rvert})\bigr)^sh_0^{2rM}$ 以下であり、段 1 の評価と $rM\le n\le s$ から $c_0c_1^s\delta^{3s}(1+\overline{\lvert\beta\rvert})^sh_0^{2s}\,r^{n+s+4}$ 以下である。$r^2=2dMn\le2dMs$ と $n\le s$ から $r^{n+s+4}\le(r^2)^{s+2}\le(2dMs)^{s+2}\le(2dM)^{3s}4^ss^s$($s^2\le4^s$)なので、$\overline{\lvert\eta\rvert}\le c_2^ss^s$ となる定数 $c_2$ がとれる。
$\lvert m_0\ell\rvert\le M\lvert\ell\rvert\le R/2$ なので $m_0\ell$ は円板 $\lvert z\rvert\le R$ の内部にあり、$\lvert z\rvert=R$ では $\lvert z-m\ell\rvert\ge R-M\lvert\ell\rvert\ge R/2$ である。$\lvert e^{(a+b\beta)z}\rvert\le e^{\lvert a+b\beta\rvert R}\le e^{r(1+\lvert\beta\rvert)R}$ であり、$r\le\sqrt{2dMs}$ から $rR\le\sqrt{2dM}\,s$ である。よって $\lvert F(z)\rvert\le r^2\max\lvert c_{ab}\rvert\,e^{(1+\lvert\beta\rvert)\sqrt{2dM}\,s}\le c_0c_1^s\,r^{n+4}e^{(1+\lvert\beta\rvert)\sqrt{2dM}\,s}$ で、$r^{n+4}\le(2dMs)^{(s+4)/2}\le(2dM)^{3s}4^ss^{s/2}$ なので $c_4$ がとれる。$\lvert(m_0-m)\ell\rvert\le M(1+\lvert\ell\rvert)$、$s!\le s^s$ も使った。
この証明は、Lan02 Appendix 1 の定理(pp. 867–872。微分で閉じた環を生成する有限位数の有理型関数たちの超越次数が 2 以上なら、それらがそろって代数体の値をとる点の個数は有限で上から抑えられる、という定理)の証明を、関数 $e^z$、$e^{\beta z}$ と点 $\ell,2\ell,\dots,M\ell$ の場合に書き下したものである。同書は Gelfond–Schneider の定理をその Corollary 2(p. 868)として導いている。lem-gs-siegel は同書の Lemma 1(p. 868)にあたる。
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