強大数の法則

同義語:strong law of large numbers大数の強法則

概要

強大数の法則(strong law of large numbers)とは、2 つずつ独立で同じ分布に従う確率変数 $X_1,X_2,\dots$ が $E|X_1|<\infty$ を満たすとき、標本平均 $\frac{X_1+\dots+X_n}n$ が確率 $1$ で期待値 $E[X_1]$ に収束するという定理である。確率収束を述べる弱法則より強く、試行の列 1 本ごとに標本平均が数列として収束することを主張する。証明は切り捨て、Chebyshev の不等式、幾何級数的な部分列での Borel–Cantelli の補題、単調性による補間からなる。互いに独立で同じ分布の列では可積分性は必要でもあり、Monte Carlo 積分や経験分布関数の収束の根拠になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 確率論, 大数の法則, 測度

同じ分布に従う確率変数 $X_1,X_2,\dots$ を独立にとり、標本平均 $\frac{S_n}n:=\frac{X_1+\dots+X_n}n$ を作る。$E|X_1|<\infty$ なら、確率 $1$ で数列 $\frac{S_n}n$ は期待値 $\mu:=E[X_1]$ に収束する。これが強大数の法則(strong law of large numbers)である。独立性は 2 つずつの独立性で足りる。
大数の法則 が証明する弱法則は、各 $n$ について $\frac{S_n}n$ が $\mu$ から離れる確率が小さいことを述べる。強法則はそれより強く、試行の列を 1 本固定したとき、その列の上で標本平均が数列として $\mu$ に収束することを述べる。収束しない列も存在しうるが、それらの全体の確率が $0$ である。「長い目で見た平均が期待値になる」という期待値の読み方は、この定理によって 1 本 1 本の試行の列についての主張になる。
この記事では、確率 $1$ の収束(概収束)を定義して確率収束との関係を示し、2 つずつ独立で同じ分布に従う可積分な確率変数について強大数の法則を完全に証明する。証明は、切り捨て、分散の評価と Chebyshev の不等式、幾何級数的に伸びる部分列での Borel–Cantelli の補題、部分列のあいだの単調性による補間からなる。さらに、互いに独立な場合に可積分性が必要であること、期待値が $+\infty$ の場合、Monte Carlo 法・経験分布関数・再生過程への応用を述べる。有界な場合の 4 乗の期待値による短い証明は 確率論 の定理「有界な独立確率変数の大数の強法則」にある。

設定と言葉

確率空間 $(\Omega,\mathcal F,P)$、確率変数、期待値、確率変数の独立性は 確率論 の定義「確率論の基本用語」のとおりとする。期待値は $\int_\Omega X\,dP$(Lebesgue積分)であり、$E|X|<\infty$ のとき $X$ は可積分であるという。

  • 確率変数の列 $X_1,X_2,\dots$ が 2 つずつ独立(pairwise independent)であるとは、$i\ne j$ なら $X_i$ と $X_j$ が独立であることをいう。互いに独立なら 2 つずつ独立であるが、逆は成り立たない(独立性(確率論) の例「反例:対ごとに独立だが互いに独立でない事象」)。
  • $X_1,X_2,\dots$ が 同じ分布に従う とは、すべての $k$ と Borel 集合 $B$ について $P(X_k\in B)=P(X_1\in B)$ となることをいう。
  • 確率変数 $X$ の分布を $P_X(B):=P(X\in B)$ とすると、Borel 可測関数 $g\ge0$ について $E[g(X)]=\int_{\mathbb R}g\,dP_X$ である(Dur19 Theorem 1.6.9(p. 32)。この記事では証明しない)。したがって $E[g(X_k)]$ は $X_k$ の分布だけで決まり、同じ分布に従う列では $E[g(X_k)]=E[g(X_1)]$ である。
    確率変数 $X,Y$ が独立で可積分なら $E[XY]=E[X]E[Y]$ である(Dur19 Theorem 2.1.13(p. 49)。この記事では証明しない)。$g,h$ が Borel 可測なら $\{g(X)\in B\}=\{X\in g^{-1}(B)\}$ なので、2 つずつ独立な列の各項に Borel 可測関数を当てた列も 2 つずつ独立である。これらから、2 つずつ独立で 2 乗可積分な $Y_1,\dots,Y_n$ について、分散の和の公式
    $$ V\Bigl[\sum_{j=1}^nY_j\Bigr]=\sum_{j=1}^nV[Y_j] $$
    が成り立つ(展開して、$i\ne j$ の交差項 $E[(Y_i-E Y_i)(Y_j-E Y_j)]$ が $0$ になる)。
概収束

確率変数の列 $Z_n$ と確率変数 $Z$ について、事象 $\{\omega\mid Z_n(\omega)\to Z(\omega)\}$ の確率が $1$ であるとき、$Z_n$ は $Z$ に 概収束 する(almost surely, a.s. に収束する、確率 $1$ で収束する)といい、$Z_n\to Z$ a.s. と書く。

この集合は
$$ \{Z_n\to Z\}=\bigcap_{k\ge1}\bigcup_{N\ge1}\bigcap_{n\ge N}\Bigl\{|Z_n-Z|<\frac1k\Bigr\} $$
と書けるので事象である。可算個の確率 $1$ の事象の共通部分は確率 $1$ なので、可算個の「a.s. に成り立つ」主張は同時に a.s. に成り立つ。以下の証明ではこれを何度も使う。

概収束は確率収束を導く

$Z_n\to Z$ a.s. なら、すべての $\varepsilon>0$ について $P(|Z_n-Z|\ge\varepsilon)\to0$ である。逆は成り立たない。

$A_N:=\bigcup_{n\ge N}\{|Z_n-Z|\ge\varepsilon\}$ は $N$ について減少する事象の列で、$\bigcap_NA_N$ に属する $\omega$ では $|Z_n(\omega)-Z(\omega)|\ge\varepsilon$ となる $n$ が無限個あるので $Z_n(\omega)\not\to Z(\omega)$ である。よって $P\bigl(\bigcap_NA_N\bigr)=0$ であり、測度 の定理「測度の連続性」から $P(A_N)\to0$ である。$P(|Z_N-Z|\ge\varepsilon)\le P(A_N)$ なので主張を得る。
逆が成り立たない例:$[0,1]$ の上の Lebesgue 測度を確率とし、測度 の例「区間を往復する列」の区間 $E_n$ をとって $Z_n:=\mathbf 1_{E_n}$ とおく。$P(|Z_n|\ge\varepsilon)\le\lambda(E_n)\to0$ なので $Z_n$ は $0$ に確率収束するが、すべての $x\in[0,1]$ は無限個の $E_n$ に属し、また $E_n$ の長さは $0$ に近づくので無限個の $E_n$ の外にもあり、$Z_n(x)$ は $0$ と $1$ を無限回とって収束しない。$\square$

主定理

強大数の法則

確率変数 $X_1,X_2,\dots$ は 2 つずつ独立で同じ分布に従い、$E|X_1|<\infty$ を満たすとする。$\mu:=E[X_1]$、$S_n:=X_1+\dots+X_n$ とおくと
$$ \frac{S_n}n\to\mu\quad\text{a.s.} $$
である。

証明の組み立て

$X_k$ は 2 乗可積分とは限らないので、Chebyshev の不等式をそのままは使えない。そこで $|X_k|\le k$ の部分だけを残して切り捨て、切り捨てで変わる項が a.s. に有限個であることを Borel–Cantelli の補題で示す。切り捨てた和の分散は $n^2$ よりは小さいが、$\sum_nP(\cdots)$ が収束するほど小さいとは限らないので、添字を $\lfloor\alpha^n\rfloor$($\alpha>1$)の形の部分列に限って Borel–Cantelli の補題を使い、部分列のあいだは $X_k\ge0$ の場合の単調性で埋める。$X_k\ge0$ への帰着は正の部分と負の部分に分けて行う。証明の前に、裾の確率と切り捨てた 2 次の積率についての 2 つの評価を示す。どちらも、$0$ 以上の項の和と期待値の順序の交換(単調収束定理)による。

裾の確率の和

確率変数 $X$ について
$$ \sum_{k=1}^\infty P(|X|>k)\le E|X|\le1+\sum_{k=1}^\infty P(|X|\ge k) $$
である。

各 $\omega$ について、$\sum_{k\ge1}\mathbf 1_{\{|X|>k\}}(\omega)$ は $k<|X(\omega)|$ となる自然数 $k\ge1$ の個数なので $|X(\omega)|$ 以下であり、$\sum_{k\ge1}\mathbf 1_{\{|X|\ge k\}}(\omega)$ は $k\le|X(\omega)|$ となる $k\ge1$ の個数 $\lfloor|X(\omega)|\rfloor$ なので $|X(\omega)|-1$ 以上である。単調収束定理 により $0$ 以上の可測関数の級数の期待値は項ごとの期待値の和なので、$E[\mathbf 1_A]=P(A)$ と合わせて不等式を得る。$\square$

切り捨てた 2 次の積率の和

確率変数 $X$ について
$$ \sum_{k=1}^\infty\frac{E\bigl[X^2\mathbf 1_{\{|X|\le k\}}\bigr]}{k^2}\le2E|X| $$
である。

実数 $a\ge1$ について、$m:=\lceil a\rceil$ とおくと
$$ \sum_{k\ge a}\frac1{k^2}=\sum_{k\ge m}\frac1{k^2}\le\frac1{m^2}+\int_m^\infty\frac{dt}{t^2}=\frac1{m^2}+\frac1m\le\frac2m\le\frac2a $$
である($k\ge m+1$ の項は $\int_{k-1}^k t^{-2}\,dt$ 以下)。単調収束定理 で和と期待値を入れ替えると、左辺は $E\bigl[X^2\sum_{k\ge\max(1,|X|)}k^{-2}\bigr]$ に等しく、これは $E\bigl[2X^2/\max(1,|X|)\bigr]$ 以下である。$|X|\ge1$ なら $2X^2/|X|=2|X|$、$|X|<1$ なら $2X^2\le2|X|$ なので、全体は $2E|X|$ 以下である。$\square$

段 0($X_j\ge0$ への帰着)。 $X_j^+:=\max(X_j,0)$、$X_j^-:=\max(-X_j,0)$ は $X_j$ の Borel 可測関数なので、列 $(X_j^+)$ と $(X_j^-)$ はそれぞれ 2 つずつ独立で同じ分布に従い、$0\le X_j^\pm\le|X_j|$ から可積分である。$0$ 以上の場合に定理が示されれば、$\frac1n\sum_{j\le n}X_j^+\to E[X_1^+]$ と $\frac1n\sum_{j\le n}X_j^-\to E[X_1^-]$ がそれぞれ a.s. に成り立ち、2 つの確率 $1$ の事象の共通部分の上で $\frac{S_n}n\to E[X_1^+]-E[X_1^-]=\mu$ である。以下 $X_j\ge0$ とする。
段 1(切り捨て)。 $Y_j:=X_j\mathbf 1_{\{X_j\le j\}}$、$T_m:=Y_1+\dots+Y_m$ とおく。同じ分布であることと lem-slln-tail から
$$ \sum_{j=1}^\infty P(X_j\ne Y_j)=\sum_{j=1}^\infty P(X_j>j)=\sum_{j=1}^\infty P(X_1>j)\le E[X_1]<\infty $$
である。測度 の定理「Borel–Cantelliの補題」により、a.s. に $X_j\ne Y_j$ となる $j$ は有限個であり、そのような $\omega$ では $|S_m(\omega)-T_m(\omega)|$ は $m$ によらない数 $R(\omega)$ で押さえられ、$\frac{S_m-T_m}m\to0$ である。よって $\frac{T_m}m\to\mu$ a.s. を示せばよい。
段 2(期待値)。 $E[Y_j]=E[X_1\mathbf 1_{\{X_1\le j\}}]$ であり、$j\to\infty$ で $X_1\mathbf 1_{\{X_1\le j\}}\to X_1$(各点)、$0\le X_1\mathbf 1_{\{X_1\le j\}}\le X_1$ なので、優収束定理 により $E[Y_j]\to\mu$ である。収束する数列の平均は同じ極限に収束するので、$\frac{E[T_m]}m=\frac1m\sum_{j\le m}E[Y_j]\to\mu$ である。
段 3(部分列での収束)。 $\alpha>1$ を固定し、$n\ge1$ について $\ell(n):=\lfloor\alpha^n\rfloor$ とおく。$\ell(n)\ge1$ であり、$y\ge1$ なら $\lfloor y\rfloor\ge\frac y2$ なので $\ell(n)^{-2}\le4\alpha^{-2n}$ である。$Y_j$ は $0\le Y_j\le j$ なので 2 乗可積分で、2 つずつ独立である。$\varepsilon>0$ について、Chebyshevの不等式 の定理「Chebyshev の不等式」と分散の和の公式から
$$ \sum_{n=1}^\infty P\bigl(|T_{\ell(n)}-E[T_{\ell(n)}]|\ge\varepsilon\,\ell(n)\bigr)\le\frac1{\varepsilon^2}\sum_{n=1}^\infty\frac1{\ell(n)^2}\sum_{j=1}^{\ell(n)}V[Y_j]=\frac1{\varepsilon^2}\sum_{j=1}^\infty V[Y_j]\sum_{n:\,\ell(n)\ge j}\frac1{\ell(n)^2} $$
である($0$ 以上の項の二重級数なので和の順序を入れ替えてよい)。$\ell(n)\ge j$ なら $\alpha^n\ge j$ なので、$\alpha^{n_0}\ge j$ となる最小の $n_0$ をとると
$$ \sum_{n:\,\ell(n)\ge j}\frac1{\ell(n)^2}\le\sum_{n\ge n_0}4\alpha^{-2n}=\frac{4\alpha^{-2n_0}}{1-\alpha^{-2}}\le\frac{4}{(1-\alpha^{-2})\,j^2} $$
である。$V[Y_j]\le E[Y_j^2]=E\bigl[X_1^2\mathbf 1_{\{X_1\le j\}}\bigr]$ と lem-slln-second から、上の和は $\frac{8E[X_1]}{\varepsilon^2(1-\alpha^{-2})}$ 以下で有限である。Borel–Cantelli の補題により、a.s. に十分大きいすべての $n$ で $|T_{\ell(n)}-E[T_{\ell(n)}]|<\varepsilon\,\ell(n)$ である。$\varepsilon=\frac1r$($r=1,2,\dots$)の可算個について同時に成り立つので、$\frac{T_{\ell(n)}-E[T_{\ell(n)}]}{\ell(n)}\to0$ a.s. であり、$\ell(n)\to\infty$ と段 2 から $\frac{T_{\ell(n)}}{\ell(n)}\to\mu$ a.s. である。
段 4(部分列のあいだ)。 $Y_j\ge0$ なので $T_m$ は $m$ について単調非減少である。$m\ge\ell(1)$ について、$\ell(n)\le m$ となる最大の $n$ をとると $\ell(n)\le m<\ell(n+1)$ であり、
$$ \frac{\ell(n)}{\ell(n+1)}\cdot\frac{T_{\ell(n)}}{\ell(n)}=\frac{T_{\ell(n)}}{\ell(n+1)}\le\frac{T_m}m\le\frac{T_{\ell(n+1)}}{\ell(n)}=\frac{\ell(n+1)}{\ell(n)}\cdot\frac{T_{\ell(n+1)}}{\ell(n+1)} $$
である。$m\to\infty$ のとき $n\to\infty$ であり、$\alpha^n-1<\ell(n)\le\alpha^n$ から $\frac{\ell(n+1)}{\ell(n)}\to\alpha$ である。段 3 の事象の上で
$$ \frac\mu\alpha\le\liminf_{m\to\infty}\frac{T_m}m\le\limsup_{m\to\infty}\frac{T_m}m\le\alpha\mu $$
である。$\alpha=1+\frac1r$($r=1,2,\dots$)の可算個について同時に成り立つので、$\frac{T_m}m\to\mu$ a.s. である。段 1 とあわせて定理が示された。$\square$

2 つずつの独立性は、段 3 の分散の和の公式にだけ使った。段 3 の Borel–Cantelli の補題は事象の独立性を必要としないので、互いに独立であることは要らない。部分列を幾何級数的にとると、$\sum_{n:\,\ell(n)\ge j}\ell(n)^{-2}$ が $j^{-2}$ の定数倍で押さえられ、可積分性だけから出る lem-slln-second で足りる。その代わりに比 $\frac{\ell(n+1)}{\ell(n)}$ が $1$ に近づかないので、段 4 で $\alpha\to1$ とする。4 乗の期待値が有限で互いに独立なら、部分列をとらずに直接 Borel–Cantelli の補題が使える(確率論 の定理「有界な独立確率変数の大数の強法則」の証明)。

可積分性が必要であること

互いに独立な列では、Borel–Cantelli の補題の逆向きが成り立つ。

第 2 の Borel–Cantelli の補題

確率変数 $X_1,X_2,\dots$ は互いに独立とし、Borel 集合 $B_n$ について $A_n:=\{X_n\in B_n\}$ とおく。$\sum_nP(A_n)=\infty$ なら、a.s. に $A_n$ は無限個の $n$ について起こる。

$M< N$ とする。$\Omega\setminus A_n=\{X_n\in\mathbb R\setminus B_n\}$ なので、独立性の定義から $P\bigl(\bigcap_{n=M}^N(\Omega\setminus A_n)\bigr)=\prod_{n=M}^N(1-P(A_n))$ であり、$1-x\le e^{-x}$ からこれは $\exp\bigl(-\sum_{n=M}^NP(A_n)\bigr)$ 以下で、$N\to\infty$ で $0$ に近づく。測度 の定理「測度の連続性」により $P\bigl(\bigcap_{n\ge M}(\Omega\setminus A_n)\bigr)=0$、すなわち $P\bigl(\bigcup_{n\ge M}A_n\bigr)=1$ である。$M=1,2,\dots$ の可算個の共通部分をとれば、無限個の $A_n$ が起こる事象の確率は $1$ である。$\square$

可積分でない場合

確率変数 $X_1,X_2,\dots$ は互いに独立で同じ分布に従い、$E|X_1|=\infty$ とする。このとき a.s. に $|X_n|\ge n$ となる $n$ が無限個あり、$\frac{S_n}n$ が実数に収束する事象の確率は $0$ である。

lem-slln-tail と同じ分布であることから $\sum_nP(|X_n|\ge n)=\sum_nP(|X_1|\ge n)\ge E|X_1|-1=\infty$ なので、lem-slln-bc2 により前半が成り立つ。$\frac{S_n(\omega)}n\to c\in\mathbb R$ となる $\omega$ では
$$ \frac{X_n(\omega)}n=\frac{S_n(\omega)}n-\frac{n-1}n\cdot\frac{S_{n-1}(\omega)}{n-1}\to c-c=0 $$
なので、$|X_n(\omega)|\ge n$ となる $n$ は有限個しかない。よってその事象は前半の確率 $1$ の事象と交わらず、確率 $0$ である。$\square$

互いに独立で同じ分布に従う列では、thm-slln-main と合わせて、「$\frac{S_n}n$ が a.s. に実数に収束する」ことと「$E|X_1|<\infty$」は同値であり、そのとき極限は $E[X_1]$ である。

期待値が $+\infty$ の場合

$X_1,X_2,\dots$ は $0$ 以上で、2 つずつ独立で同じ分布に従い、$E[X_1]=\infty$ とする。このとき $\frac{S_n}n\to\infty$ a.s. である。

自然数 $M$ について $\min(X_j,M)$ は thm-slln-main の仮定を満たすので、a.s. に $\liminf_n\frac{S_n}n\ge\lim_n\frac1n\sum_{j\le n}\min(X_j,M)=E[\min(X_1,M)]$ である。$M=1,2,\dots$ について同時に成り立ち、単調収束定理 により $E[\min(X_1,M)]\to E[X_1]=\infty$ である。$\square$

St. Petersburg のゲーム

公平な硬貨を表が出るまで投げ、$j$ 回目に初めて表が出たら $2^j$ を受け取る。賞金 $X$ は $P(X=2^j)=2^{-j}$($j\ge1$)を満たし、$E[X]=\sum_j2^j\cdot2^{-j}=\infty$ である。独立に繰り返したときの賞金の平均は、cor-slln-infinite により a.s. に $+\infty$ に発散する。どれだけ高い参加料を固定しても、長く続ければ平均の賞金がそれを超える。

応用

Monte Carlo 積分

$U_1,U_2,\dots$ を互いに独立で区間 $[0,1]$ 上の一様分布に従う確率変数とし、$g$ を $[0,1]$ 上の Borel 可測で Lebesgue 可積分な関数とする。$g(U_j)$ は 2 つずつ独立で同じ分布に従い、$E|g(U_1)|=\int_0^1|g(x)|\,dx<\infty$ である(期待値は分布による積分)。thm-slln-main により、a.s. に
$$ \frac1n\sum_{j=1}^ng(U_j)\to\int_0^1g(x)\,dx $$
である。$g$ の連続性や有界性は要らない。誤差の大きさについては、$g$ が 2 乗可積分なら 中心極限定理 が $\frac1{\sqrt n}$ 程度であることを述べる。

経験分布関数

$X_1,X_2,\dots$ が互いに独立で分布関数 $F$ の同じ分布に従うとき、$F_n(x):=\frac1n\#\{j\le n\mid X_j\le x\}$ とおく。$x$ を固定すると $\mathbf 1_{\{X_j\le x\}}$ は 2 つずつ独立で同じ分布に従い期待値 $F(x)$ なので、$F_n(x)\to F(x)$ a.s. である。さらに $\sup_x|F_n(x)-F(x)|\to0$ a.s. が成り立つ(Glivenko–Cantelli の定理、Dur19 Theorem 2.4.9(p. 79)。この記事では証明しない)。標本から作った分布関数は、真の分布関数に一様に近づく。

再生過程の数え上げ

$X_1,X_2,\dots$ は互いに独立で同じ分布に従い、$0< X_1<\infty$、$\mu:=E[X_1]<\infty$ とする。$S_n:=X_1+\dots+X_n$ と $N_t:=\#\{n\ge1\mid S_n\le t\}$($t>0$)とおくと、$t\to\infty$ で $\frac{N_t}t\to\frac1\mu$ a.s. である。

要点:$S_{N_t}\le t< S_{N_t+1}$ を $N_t$ で割り、$N_t\to\infty$ と thm-slln-main を使う。

詳しい証明を開く

$X_j>0$ なので $S_n$ は狭義増加であり、$\frac{S_n}n\to\mu>0$ となる確率 $1$ の事象の上では $S_n\to\infty$ で、$N_t$ は有限である。その上で $t$ が大きく $N_t\ge1$ なら、$N_t$ の定義から $S_{N_t}\le t< S_{N_t+1}$ である。各 $S_n$ は有限なので、$t\to\infty$ で $N_t\to\infty$ である。$\frac{S_{N_t}}{N_t}\le\frac t{N_t}<\frac{S_{N_t+1}}{N_t+1}\cdot\frac{N_t+1}{N_t}$ で、$N_t\to\infty$ から左辺と右辺はどちらも $\mu$ に近づく($\frac{S_n}n\to\mu$ の部分列)。よって $\frac t{N_t}\to\mu$、$\frac{N_t}t\to\frac1\mu$ である。$\square$

電球が切れるたびに取り替えるとき、$X_j$ を $j$ 本目の電球の寿命とすると、$N_t$ は時刻 $t$ までに切れた本数であり、長い時間の平均では単位時間あたり $\frac1\mu$ 本が切れる。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
2 つずつ独立すべての $j$ で $Y_j:=Y_1$($Y_1=\pm1$ を確率 $\frac12$ ずつ)$\frac{S_n}n=Y_1$ は $E[Y_1]=0$ に近づかない
同じ分布$Y_j:=j\,(2d_j-1)$($d_j$ は 2 進展開の第 $j$ 桁。互いに独立、$E[Y_j]=0$、各 $Y_j$ は可積分)どの点でも $\frac{S_n}n$ は $0$ に収束しない
$E\lvert X_1\rvert<\infty$互いに独立で同じ分布に従い、$P(X_1=\pm2^j)=2^{-j-1}$($j\ge1$)$\frac{S_n}n$ は a.s. に実数に収束しない
反例の確かめ

1 行目:$Y_j$ は同じ分布に従い可積分だが、$P(Y_1=1,Y_2=-1)=0\ne\frac14$ なので独立でない。2 行目は 確率論 の例「反例の確かめ」の 2 行目と同じ列で、そこで収束しないことを確かめている。3 行目:$E|X_1|=\sum_j2^j\cdot2^{-j}=\infty$ なので、thm-slln-converse による。分布は $0$ について対称で、「期待値 $0$ に収束する」と考えたくなるが、期待値そのものが定まらない。$\square$

補足

弱法則との関係と一般化

prop-slln-as-prob により、強法則は弱法則(大数の法則 の定理「大数の弱法則」)を含む。ただし弱法則は有限な分散と 2 つずつの独立性から、Chebyshev の不等式だけで具体的な確率の評価 $P(|\frac{S_n}n-\mu|\ge\varepsilon)\le\frac{\sigma^2}{n\varepsilon^2}$ を与える。同じ分布を仮定しない場合には、互いに独立で $\sum_nV[X_n]/n^2<\infty$ なら $\frac{S_n-E[S_n]}n\to0$ a.s. である(Kolmogorov の判定法。Dur19 Theorem 2.5.6(p. 84)と Kronecker の補題 Theorem 2.5.9(p. 85)から従う。この記事では証明しない)。独立でなく、時間をずらしても分布が変わらない列への一般化は エルゴード定理 である。

名前と文献

thm-slln-main は Dur19 Theorem 2.4.1(p. 76、証明は pp. 76–78)にあり、2 つずつ独立で足りる形と、正の部分と負の部分に分けて部分列 $\lfloor\alpha^n\rfloor$ と単調性を使う証明は Etemadi による。この記事の lem-slln-tail と lem-slln-second は、同書が裾の確率の積分で示す評価を、級数と期待値の交換で示したものである。thm-slln-converse は同書 Theorem 2.3.8(p. 70)、lem-slln-bc2 は Theorem 2.3.7(p. 70)、同書 Theorem 2.4.5(p. 78)は、互いに独立で同じ分布に従い $E[X_1^+]=\infty$、$E[X_1^-]<\infty$ の場合に cor-slln-infinite と同じ結論を述べ、Theorem 2.4.7(p. 78)は $\mu=\infty$ の場合も含めて prop-slln-renewal を述べている。

関連項目

参考文献

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