虚数乗法(complex multiplication)とは、標数 $0$ の体上の楕円曲線が整数倍写像以外の自己準同型をもつことであり、このとき自己準同型環は虚 2 次体の整環になる。複素数体上では曲線を $\mathbb{C}/\Lambda$ と書くと、自己準同型は $\alpha\Lambda\subset\Lambda$ となる複素数 $\alpha$ 倍で、それが整数以外にあるのは格子の基底の比が 2 次の代数的数のときに限る。整数環 $\mathcal{O}_K$ による虚数乗法をもつ曲線の同型類はイデアル類群と一対一に対応し、その $j$ 不変量は代数的整数で、$K$ に添加すると Hilbert 類体が得られる。楕円曲線と類体論を結ぶ理論の出発点である。
楕円曲線 $E$ の自己準同型には、整数倍の写像 $[n]\colon P\mapsto nP$ がいつも含まれる。標数 $0$ の体の上では、ほとんどの楕円曲線の自己準同型はこれだけだが、$y^2=x^3-x$ の $(x,y)\mapsto(-x,iy)$ のように、「$i$ 倍」にあたる自己準同型をもつ曲線がある。このとき $E$ は虚数乗法(complex multiplication、CM)をもつという。複素数体の上では、$E=\mathbb{C}/\Lambda$ の自己準同型は複素数 $\alpha$ による掛け算 $z\mapsto\alpha z$ で、$\alpha\Lambda\subset\Lambda$ となる $\alpha$ の環は $\mathbb{Z}$ か虚 2 次体の整環である(thm-cm-multiplier、thm-cm-torus-hom)。自己準同型環が虚 2 次体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ になる曲線の同型類は $K$ のイデアル類群と一対一に対応し(thm-cm-class-group)、その $j$ 不変量は代数的数で(thm-cm-algebraic)、$K$ に添加すると Hilbert 類体が得られる(thm-cm-weber)。虚数乗法は、楕円曲線と類体論を結ぶ最初の橋である。
以下、$K$ は虚 2 次体($\mathbb{Q}$ 上 2 次の体で $\mathbb{R}$ に含まれないもの)とし、$\mathbb{C}$ の部分体とみなす。$\mathcal{O}_K$ を $K$ の整数環($K$ の元で整数係数のモニック多項式の根になるもの全体)とする。
$K$ の部分環 $\mathcal{O}$ で、加法群として階数 $2$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群であるものを $K$ の整環(order)という。
整環の元は有限生成 $\mathbb{Z}$ 加群に掛け算で作用するので代数的整数であり、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_K$ である。$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\omega$ と書くと、$\mathcal{O}$ の元の $\omega$ の係数のなす $\mathbb{Z}$ の部分群は $f\mathbb{Z}$($f\ge1$)の形で、$\mathcal{O}\supset\mathbb{Z}$ なので $\mathcal{O}=\mathbb{Z}+f\mathcal{O}_K$ となる。正の整数 $f$ を $\mathcal{O}$ の導手といい、$\mathcal{O}_K$ は導手 $1$ のただ 1 つの整環で、整環の中で最大である。
$E$ を体 $k$ 上の楕円曲線とする。$E$ の自己準同型とは、代数閉包 $\bar k$ の上で定義された射 $E\to E$ で原点 $O$ を $O$ に写すもの(定数写像 $O$ と、同種写像 $E\to E$)であり、その全体 $\operatorname{End}(E)$ は点ごとの和と合成で環になる。$n\in\mathbb{Z}$ に $n$ 倍写像 $[n]$ を対応させる環準同型 $\mathbb{Z}\to\operatorname{End}(E)$ は単射である(Sil09 Proposition III.4.2 (a), p. 68)。
標数 $0$ の体 $k$ 上の楕円曲線 $E$ が虚数乗法をもつ(has complex multiplication)とは、$\operatorname{End}(E)\neq\mathbb{Z}$、すなわち整数倍写像でない自己準同型をもつことをいう。このとき $\operatorname{End}(E)$ はある虚 2 次体 $K$ の整環 $\mathcal{O}$ と同型であり(cor-cm-end、一般の標数 $0$ の体では Sil09 Corollary III.9.4, p. 102)、$E$ は $\mathcal{O}$ による虚数乗法をもつ、あるいは $K$ による虚数乗法をもつという。虚数乗法をもつ楕円曲線を CM 楕円曲線ともいう。
$\mathbb{C}$ の格子 $\Lambda$ に対し、
$$
R(\Lambda):=\{\alpha\in\mathbb{C}\mid\alpha\Lambda\subset\Lambda\}
$$
を $\Lambda$ の乗数環という。$\mathbb{Z}\subset R(\Lambda)$ で、$R(\Lambda)$ は $\mathbb{C}$ の部分環である。相似な格子は同じ乗数環をもつ($\beta\in\mathbb{C}^\times$ について $R(\beta\Lambda)=R(\Lambda)$)。
自己準同型を $k$ 上で定義されたものに限る流儀、有限体上の扱い、高次元のアーベル多様体への一般化について。
$\mathbb{C}/\Lambda$ の上で $z\mapsto\alpha z$ が定義できるのは、$\alpha$ 倍が格子の点を格子の点に写すときに限る。整数 $\alpha$ はいつもそうである。整数でない $\alpha$ で $\alpha\Lambda\subset\Lambda$ となるには、$\alpha$ 倍が格子の基底を基底の整数係数の 1 次結合に写す必要があり、$\alpha$ は整数行列の固有値、つまり 2 次の代数的整数になる。正方格子 $\mathbb{Z}[i]$ は $90^\circ$ 回転 $i$ で、正六角形の格子 $\mathbb{Z}[\rho]$ は $60^\circ$ 回転で保たれる。一般には $\alpha$ は回転と拡大の合成で、格子の「形」$\tau$ が特別な値(虚 2 次の数)のときだけ現れる。格子の形を並べた上半平面の中で、虚数乗法をもつ点は可算個しかない特別な点であり、その点での $j$ 関数の値が整数論的な情報(類数・Hilbert 類体)を担う。
$\Lambda=\mathbb{Z}\omega_1+\mathbb{Z}\omega_2$ を格子とし、$\tau:=\omega_2/\omega_1\in\mathfrak{H}$ となるように基底を並べる。
$R(\beta\Lambda)=R(\Lambda)$ なので、$\Lambda=\Lambda_\tau=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau$ としてよい。$\alpha\in R(\Lambda)$ とすると、整数 $n,m,q,p$ により
$$
\alpha\cdot1=n+m\tau,\qquad\alpha\tau=q+p\tau
$$
と書ける。第 1 式を第 2 式に代入すると $(n+m\tau)\tau=q+p\tau$、すなわち
$$
m\tau^2+(n-p)\tau-q=0
$$
である。
1.$\tau$ が 2 次の代数的数でないとする($\tau\notin\mathbb{R}$ なので有理数でもない)。上の式の係数はすべて $0$ でなければならず、$m=0$ である。よって $\alpha=n\in\mathbb{Z}$ で、$R(\Lambda)=\mathbb{Z}$ である。
2.$\tau$ が $a\tau^2+b\tau+c=0$($\gcd(a,b,c)=1$、$a>0$)を満たすとする。$\tau\notin\mathbb{R}$ なので判別式 $D=b^2-4ac$ は負で、$K=\mathbb{Q}(\tau)=\mathbb{Q}(\sqrt D)$ は虚 2 次体である。$\alpha=n+m\tau$($n,m\in\mathbb{Z}$)が $R(\Lambda)$ に入るのは $\alpha\tau\in\Lambda$ のときで、$\tau^2=-(b\tau+c)/a$ から
$$
\alpha\tau=n\tau+m\tau^2=-\frac{mc}{a}+\Bigl(n-\frac{mb}{a}\Bigr)\tau
$$
なので、条件は $a\mid mb$ かつ $a\mid mc$ である。$\gcd(a,b,c)=1$ より $\gcd(a,\gcd(b,c))=1$ なので、これは $a\mid m$ と同値である。よって $R(\Lambda)=\{n+m\tau\mid a\mid m\}=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}a\tau$ である。$a\tau$ は $(a\tau)^2+b(a\tau)+ac=0$ を満たすので、$\mathbb{Z}+\mathbb{Z}a\tau$ は環で、階数 $2$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群だから $K$ の整環である。$\bar\tau$ は $\tau$ のもう一つの根なので $(a\tau-a\bar\tau)^2=a^2\bigl((\tau+\bar\tau)^2-4\tau\bar\tau\bigr)=a^2(b^2/a^2-4c/a)=D$ である。$\square$
上半平面 の記事の命題「格子の相似類とモジュラー群の軌道」により、格子の相似類は $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})\backslash\mathfrak{H}$ の点である。虚数乗法をもつ格子に対応するのは、$\mathfrak{H}$ の中の 2 次の代数的数 $\tau$(CM 点)であり、これは可算個しかない。上半平面 の記事の例「固定点と格子の対称性」の $i$ と $\rho$ はその最も簡単な例である。
$\Lambda_1,\Lambda_2$ を格子とする。$\phi\colon\mathbb{C}/\Lambda_1\to\mathbb{C}/\Lambda_2$ が $\phi(0)=0$ を満たす正則写像であるための必要十分条件は、$\alpha\Lambda_1\subset\Lambda_2$ を満たす $\alpha\in\mathbb{C}$ があって $\phi(z+\Lambda_1)=\alpha z+\Lambda_2$ となることである。$\alpha$ は $\phi$ から一意に決まる。とくに、$0$ を保つ $\mathbb{C}/\Lambda$ の正則な自己写像のなす環は $R(\Lambda)$ と同型である。
要点:$\phi$ を普遍被覆 $\mathbb{C}$ への正則な持ち上げ $F$($F(0)=0$)に直す。鍵の一段は、$F(z+\lambda)-F(z)$ が離散集合 $\Lambda_2$ に値をとる連続関数なので一定、したがって $F'$ が $\Lambda_1$ 周期の整関数で有界になり、Liouvilleの定理(複素解析) で $F(z)=\alpha z$ となることである。
$\alpha\Lambda_1\subset\Lambda_2$ なら $z\mapsto\alpha z$ は $\Lambda_1$ の同値類を $\Lambda_2$ の同値類に写し、局所的には $z\mapsto\alpha z$ なので正則である。$\alpha z\equiv\beta z\pmod{\Lambda_2}$ がすべての $z$ で成り立てば、連続写像 $z\mapsto(\alpha-\beta)z$ の値は離散集合 $\Lambda_2$ に入り、$\mathbb{C}$ は連結なので一定値 $0$ をとり、$\alpha=\beta$ である。
逆に $\phi$ を $\phi(0)=0$ の正則写像とする。射影 $\pi_2\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}/\Lambda_2$ は被覆写像で、$\mathbb{C}$ は単連結かつ局所弧状連結なので、$\phi\circ\pi_1$ は $\pi_2$ に沿って持ち上がる(Hat02 Proposition 1.33, p. 61)。すなわち連続写像 $F\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ で $F(0)=0$、$\pi_2\circ F=\phi\circ\pi_1$ となるものがある。$F$ は局所的に「$\pi_2$ の局所的な逆写像と $\phi\circ\pi_1$ の合成」なので正則である。$\lambda\in\Lambda_1$ を固定すると、$F(z+\lambda)-F(z)$ は $z$ について連続で値が $\Lambda_2$ に入るので、一定である。微分して $F'(z+\lambda)=F'(z)$ を得る。$F'$ は $\Lambda_1$ の周期をもつ整関数なので、基本平行四辺形の閉包(コンパクト集合)での値で全体の値が尽くされ、有界である。Liouvilleの定理(複素解析) により $F'$ は定数 $\alpha$ で、$F(0)=0$ より $F(z)=\alpha z$ である。$F(\lambda)-F(0)=\alpha\lambda\in\Lambda_2$ なので $\alpha\Lambda_1\subset\Lambda_2$ である。
最後の主張について、$\phi_\alpha(z)=\alpha z$ と書くと $\phi_\alpha+\phi_\beta=\phi_{\alpha+\beta}$、$\phi_\alpha\circ\phi_\beta=\phi_{\alpha\beta}$ なので、$\alpha\mapsto\phi_\alpha$ は環 $R(\Lambda)$ から $0$ を保つ正則な自己写像の環への全単射な環準同型である。$\square$
$\mathbb{C}$ 上の楕円曲線 $E$ は、ある格子 $\Lambda$ について複素トーラス $\mathbb{C}/\Lambda$ と複素解析的に群として同型である(楕円曲線 の記事の定理「一意化定理」)。さらに、楕円曲線の間の同種写像と、対応する複素トーラスの間の $0$ を保つ正則写像とは一対一に対応する(Sil09 Theorem VI.4.1 (b), pp. 171–172。この記事では証明しない)。これと thm-cm-torus-hom、thm-cm-multiplier を合わせると次を得る。
$E$ を $\mathbb{C}$ 上の楕円曲線、$\Lambda$ を対応する格子とすると、$\operatorname{End}(E)\cong R(\Lambda)$ である。したがって $\operatorname{End}(E)$ は $\mathbb{Z}$ か虚 2 次体の整環であり、$E$ が虚数乗法をもつことと、$\Lambda$ の基底の比 $\tau$ が 2 次の代数的数であることは同値である(Sil09 Theorem VI.5.5, p. 176)。
上の対応により $\operatorname{End}(E)$ は $0$ を保つ $\mathbb{C}/\Lambda\to\mathbb{C}/\Lambda$ の正則写像の環と同型であり、thm-cm-torus-hom によりそれは $R(\Lambda)$ と同型である。あとは thm-cm-multiplier による。$\square$
イデアル類群 の記事の定義「分数イデアル」のとおり、$\mathcal{O}_K$ の分数イデアルとは、$K$ の $0$ でない $\mathcal{O}_K$ 部分加群 $I$ で、$0$ でない $d\in\mathcal{O}_K$ により $dI\subset\mathcal{O}_K$ となるもののことである。分数イデアルの群を単項分数イデアル $x\mathcal{O}_K$($x\in K^\times$)の群で割ったものがイデアル類群 $\operatorname{Cl}(\mathcal{O}_K)$ で、その位数 $h_K$ は有限である(同記事の定理「類数の有限性」)。
$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\omega$ と書くと、$\omega\notin\mathbb{R}$ なので $\mathcal{O}_K$ は格子である。
1.$\mathfrak{a}$ は $0$ でない元 $x$ を含むので $x\mathcal{O}_K\subset\mathfrak{a}$ であり、また $d\mathfrak{a}\subset\mathcal{O}_K$ なので $\mathfrak{a}\subset d^{-1}\mathcal{O}_K$ である。$\mathfrak{a}$ は格子 $d^{-1}\mathcal{O}_K$ の部分群なので離散で、階数 $2$ 以下の自由 $\mathbb{Z}$ 加群であり、$\mathbb{R}$ 上線形独立な $x,x\omega$ を含むので階数はちょうど $2$ で、その基底は $\mathbb{R}$ 上線形独立である。よって $\mathfrak{a}$ は格子である。$\mathfrak{a}$ は $\mathcal{O}_K$ 加群なので $\mathcal{O}_K\subset R(\mathfrak{a})$ である。thm-cm-multiplier により $R(\mathfrak{a})$ は $\mathbb{Z}$ でないので $K$ の整環で、整環は $\mathcal{O}_K$ に含まれるから $R(\mathfrak{a})=\mathcal{O}_K$ である。
2.$\Lambda=\mathbb{Z}\omega_1+\mathbb{Z}\omega_2$ とし、$\tau=\omega_2/\omega_1$ とする。prf-cm-multiplier の 2 により $R(\Lambda)\subset\mathbb{Q}(\tau)$ で、$R(\Lambda)=\mathcal{O}_K\neq\mathbb{Z}$ から $\mathbb{Q}(\tau)=K$ である。よって $\omega_1^{-1}\Lambda=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau\subset K$ であり、これは $R(\omega_1^{-1}\Lambda)=\mathcal{O}_K$ により $\mathcal{O}_K$ 部分加群である。$\tau$ の分母を払う $0$ でない整数 $d$ をとれば $d(\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau)\subset\mathcal{O}_K$ なので、$\omega_1^{-1}\Lambda$ は分数イデアルである。
3.$\mathfrak{b}=x\mathfrak{a}$($x\in K^\times$)なら、もちろん相似である。逆に $\mathfrak{b}=\beta\mathfrak{a}$($\beta\in\mathbb{C}^\times$)とし、$0$ でない $a\in\mathfrak{a}$ をとると、$\beta a\in\mathfrak{b}\subset K$ なので $\beta\in K^\times$ である。
最後の主張は、楕円曲線の同型類と格子の相似類の対応(一意化)と cor-cm-end を 1–3 に合わせればよい。
最後の主張について。$\mathbb{C}$ 上の楕円曲線の同型類は格子の相似類と一対一に対応する(楕円曲線 の記事の定理「一意化定理」)。cor-cm-end の同型 $\operatorname{End}(E)\cong R(\Lambda)$ で、$R(\Lambda)$ は $\mathbb{C}$ の部分環である。$R(\Lambda)$ が環として $\mathcal{O}_K$ と同型なら、$R(\Lambda)\otimes\mathbb{Q}$ は $K$ と同型な $\mathbb{C}$ の部分体である。$\mathbb{C}$ の中で $K$ と同型な部分体は $K$ 自身だけ($K=\mathbb{Q}(\sqrt{-m})$ の像は $\sqrt{-m}$ を $\pm\sqrt{-m}$ に写すので同じ集合)なので、$R(\Lambda)$ は $K$ の整環で、$\mathcal{O}_K$ と同型だから整閉であり、$\mathcal{O}_K$ に等しい。よって $\operatorname{End}(E)\cong\mathcal{O}_K$ となる $E$ の同型類は、$R(\Lambda)=\mathcal{O}_K$ となる格子の相似類と対応し、1–3 によりそれは $\operatorname{Cl}(\mathcal{O}_K)$ と一対一に対応する。$\square$
この対応は Sil09 Appendix C, Proposition 11.1(p. 426)にある。整環 $\mathcal{O}$ が $\mathcal{O}_K$ でないときは、$R(\Lambda)=\mathcal{O}$ となる格子の相似類は、$\mathcal{O}$ の可逆な分数イデアルの類のなす群 $\operatorname{Pic}(\mathcal{O})$ と対応する(CF67 Chapter XIII, §1, pp. 292–293。この記事では証明しない)。個数が有限であることは、整環によらず次のように直接示せる。
虚 2 次体の整環 $\mathcal{O}$ を 1 つ固定すると、$\operatorname{End}(E)\cong\mathcal{O}$ となる $\mathbb{C}$ 上の楕円曲線 $E$ の同型類は有限個である。とくに、そのような $E$ の $j$ 不変量は有限集合 $J(\mathcal{O})$ をなす。
要点:格子を相似で取り替えて $\Lambda=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau$、$\tau\in\mathcal{F}$ とする。$\tau$ は $a\tau^2+b\tau+c=0$($b^2-4ac=D$)の根で、$\mathcal{F}$ の条件は $\lvert b\rvert\le a\le c$ を意味し、$\lvert D\rvert=4ac-b^2\ge3a^2$ から $(a,b,c)$ は有限通りしかない。
$\mathcal{O}$ の判別式を $D<0$ とする($\mathcal{O}=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\theta$ について $D=(\theta-\bar\theta)^2$。基底の取り方によらない)。$E$ に対応する格子 $\Lambda$ を相似で取り替えて、上半平面 の記事の定理「基本領域」により $\Lambda=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau$、$\tau\in\mathcal{F}$($\lvert\operatorname{Re}\tau\rvert\le\frac12$、$\lvert\tau\rvert\ge1$)としてよい。$R(\Lambda)\cong\mathcal{O}$ で、環の同型は商体の同型に延び、虚 2 次体のただ 1 つの非自明な自己同型(複素共役)と可換なので判別式を保つ。よって $R(\Lambda)$ は判別式 $D$ の整環であり、thm-cm-multiplier により $\tau$ は $a\tau^2+b\tau+c=0$($\gcd(a,b,c)=1$、$a>0$、$b^2-4ac=D$)を満たす。$\tau=\frac{-b+\sqrt{D}}{2a}$ なので、$\lvert\operatorname{Re}\tau\rvert\le\frac12$ は $\lvert b\rvert\le a$、$\lvert\tau\rvert^2=c/a\ge1$ は $c\ge a$ を意味する。すると$$\lvert D\rvert=4ac-b^2\ge4a^2-a^2=3a^2$$なので $a\le\sqrt{\lvert D\rvert/3}$、$\lvert b\rvert\le a$ で、$c=(b^2-D)/(4a)$ は $a,b$ で決まる。よって $(a,b,c)$ は有限通り、$\tau$ も有限個で、$E$ の同型類も有限個である。$\square$
この証明の $(a,b,c)$ の条件は、二元二次形式 の記事の定義「簡約形式と類数」の簡約形式の条件から境界の規約($\lvert b\rvert=a$ または $a=c$ のとき $b\ge0$)を除いたものであり、虚数乗法をもつ格子と判別式 $D$ の二元二次形式は同じものの 2 つの見方である。
$E$ を虚数乗法をもつ $\mathbb{C}$ 上の楕円曲線とすると、$j(E)$ は $\mathbb{Q}$ 上代数的である。すなわち、$\tau\in\mathfrak{H}$ が 2 次の代数的数なら $j(\tau)$ は代数的数である。
要点:$\mathbb{C}$ の部分体の埋め込み $\sigma$ で Weierstrass 方程式と自己準同型の係数を動かすと、虚数乗法をもつ曲線は虚数乗法をもつ曲線に移り、$j$ は $\sigma(j)$ に移る。$j$ が超越数なら $\sigma(j)$ を無限個の異なる値にとれるが、prop-cm-finite により移り先の $j$ は有限個に限られるので矛盾する。
$E\colon y^2=x^3+Ax+B$ とし、整数倍でない自己準同型 $\alpha$ を 1 つとる。$\alpha$ は $x,y$ の有理式で $(x,y)\mapsto(r_1(x,y),r_2(x,y))$ と書ける。$A,B$ と $r_1,r_2$ の係数で生成される $\mathbb{Q}$ 上有限生成の体を $M\subset\mathbb{C}$ とする。$\operatorname{End}(E)$ は $\mathbb{Z}$ 上階数 $2$ なので、$\alpha$ は整数 $t,n$ による $\alpha^2-t\alpha+n=0$ を満たし、$\alpha\notin\mathbb{Z}$ から $t^2-4n<0$ である(cor-cm-end)。
$j:=j(E)=1728\cdot4A^3/(4A^3+27B^2)\in M$ が $\mathbb{Q}$ 上超越的だと仮定する。$j$ を含む $M$ の $\mathbb{Q}$ 上の超越基底 $\{j,t_2,\dots,t_s\}$ をとる。整数 $N$ ごとに、$j\mapsto j+N$、$t_i\mapsto t_i$ は $\mathbb{Q}(j,t_2,\dots,t_s)$ から $\mathbb{C}$ への体の埋め込みを定め($\{j+N,t_2,\dots,t_s\}$ も代数的独立)、$M$ はその有限次代数拡大なので、代数閉体 $\mathbb{C}$ への埋め込み $\sigma_N\colon M\to\mathbb{C}$ に延びる(有限次拡大は単純拡大の繰り返しで、各段で最小多項式の像の根を 1 つ選べばよい)。
$\sigma_N$ を係数に施した曲線 $E^{\sigma_N}\colon y^2=x^3+\sigma_N(A)x+\sigma_N(B)$ は、判別式 $\sigma_N(\Delta)\neq0$ をもつ楕円曲線で、$j(E^{\sigma_N})=\sigma_N(j)=j+N$ である。$E$ と $\alpha$ は $M$ 上で定義されている($\alpha$ の座標 $r_1,r_2$ は関数体 $M(E)$ の元で、滑らかな曲線からの有理写像は射に延びる。Sil09 Proposition II.2.1, p. 19)。体の埋め込み $\sigma_N$ による係数の取り替え(基底変換 $-\times_{M,\sigma_N}\mathbb{C}$)は、$M$ 上の多様体の射を $\mathbb{C}$ 上の多様体の射に写して直積と合成を保ち、$E$ を $E^{\sigma_N}$ に、原点 $[0:1:0]$ を原点に、$E$ の加法の射($\mathbb{Q}(A,B)$ 係数の式で定まる)を $E^{\sigma_N}$ の加法の射に写す。よって $\alpha$ の係数に $\sigma_N$ を施した $\alpha^{\sigma_N}$ は $E^{\sigma_N}$ の自己準同型であり、射の等式 $\alpha\circ\alpha-[t]\circ\alpha+[n]=[0]$ を移して $(\alpha^{\sigma_N})^2-t\alpha^{\sigma_N}+n=0$ を満たす。$t^2-4n<0$ なのでこの 2 次式は整数の根をもたず、$\alpha^{\sigma_N}\notin\mathbb{Z}$、すなわち $E^{\sigma_N}$ は虚数乗法をもつ。$\operatorname{End}(E^{\sigma_N})$ は $\mathbb{Z}[\alpha^{\sigma_N}]\cong\mathbb{Z}[x]/(x^2-tx+n)$ を含む整環で、$\mathbb{Q}(\sqrt{t^2-4n})$ の整環のうち与えられた整環 $\mathbb{Z}+f\mathcal{O}_K$ を含むものは、$\mathbb{Z}+f'\mathcal{O}_K\supset\mathbb{Z}+f\mathcal{O}_K$ が $f'\mid f$ と同値なので($\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\omega$ として $f\omega\in\mathbb{Z}+f'\mathcal{O}_K$ を見る)、有限個である。よって prop-cm-finite により $j(E^{\sigma_N})=j+N$ は、$N$ によらない有限集合に入る。これは $N$ が無限個の整数を動くことに反する。$\square$
この議論は Sil09 Appendix C, Corollary 11.1.1 (b)(p. 426)の証明を、$\mathbb{C}$ の自己同型のかわりに部分体の埋め込みで行ったものである。実際にはもっと強いことが成り立つ。
$K$ を虚 2 次体、$\mathfrak{a}_1,\dots,\mathfrak{a}_h$ を $\operatorname{Cl}(\mathcal{O}_K)$ の代表とし、$j(\mathfrak{a})$ を格子 $\mathfrak{a}$ の $j$ 不変量とする。
この定理はこの記事では証明しない(Sil09 Appendix C, Theorem 11.2, p. 426、CF67 Chapter XIII(J.-P. Serre, Complex Multiplication), §1, pp. 292–293)。$j(\mathfrak{a})$ が代数的数であること(整数であることを除く)は thm-cm-algebraic で示した。
さらに $K$ の最大アーベル拡大 $K^{\mathrm{ab}}$ は、$\operatorname{End}(E)\cong\mathcal{O}_K$ となる $E$ について、$j(E)$ と、$E$ の有限位数の点での Weber 関数の値を $K$ に添加して得られる(Sil09 Appendix C, Theorem 11.5, p. 428)。$\mathbb{Q}$ の最大アーベル拡大が $e^{2\pi iz}$ の有理点での値(1 の冪根)で生成されるという Kronecker–Weberの定理 の、虚 2 次体での類似である。
$\Lambda=\mathbb{Z}[i]$、$\tau=i$ は $\tau^2+1=0$($a=1$、$b=0$、$c=1$)を満たすので、thm-cm-multiplier により $R(\Lambda)=\mathbb{Z}[i]$、判別式は $-4$ である。対応する曲線は $y^2=4x^3-g_2x$(Weierstrassの楕円関数 の記事の例「Gauss整数の格子では $g_3=0$」)で、$z\mapsto iz$ は $\wp(iz)=-\wp(z)$、$\wp'(iz)=i\wp'(z)$ により $(x,y)\mapsto(-x,iy)$ にあたる。$\mathbb{Q}(i)$ の類数は $1$ なので、$\operatorname{End}(E)\cong\mathbb{Z}[i]$ となる曲線は同型を除いてこの 1 つで、$j=1728$ である。楕円曲線 の記事の例「曲線 $y^2=x^3-x$ と虚数乗法」はこの曲線の $\mathbb{Q}$ 上のモデルである。
$\Lambda=\mathbb{Z}[\rho]$($\rho=e^{2\pi i/3}$)では $\rho^2+\rho+1=0$ から $R(\Lambda)=\mathbb{Z}[\rho]$、判別式は $-3$ である。$\rho\Lambda=\Lambda$ なので $g_2(\Lambda)=0$ で、曲線は $y^2=4x^3-g_3$、自己準同型 $z\mapsto\rho z$ は $(x,y)\mapsto(\rho x,y)$ にあたる($\wp(\rho z)=\rho^{-2}\wp(z)=\rho\wp(z)$、$\wp'(\rho z)=\rho^{-3}\wp'(z)=\wp'(z)$)。類数は $1$ で $j=0$ である。
$\tau=2i$ は $\tau^2+4=0$ を満たすので $R(\Lambda_{2i})=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}2i=\mathbb{Z}+2\mathbb{Z}[i]$ で、$\mathbb{Q}(i)$ の導手 $2$ の整環、判別式は $-16$ である。$i\cdot1=i\notin\Lambda_{2i}$ なので $\Lambda_{2i}$ は $\mathbb{Z}[i]$ 加群でなく、$\mathbb{Z}[i]$ の分数イデアルと相似でない。$\Lambda_{2i}\subset\Lambda_i$ なので恒等写像は次数 $2$ の同種写像 $\mathbb{C}/\Lambda_{2i}\to\mathbb{C}/\Lambda_i$ を引き起こすが、2 つの曲線は自己準同型環が異なるので同型でない。実際 $j(2i)=287496=2^3\cdot3^3\cdot11^3$ である(CF67 Chapter XIII, §2, p. 295)。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の類数は $2$ で、2 つのイデアル類は $\Lambda_{\sqrt{-5}}$ と $\Lambda_{(1+\sqrt{-5})/2}$ に対応し、$j(\sqrt{-5})=632000+282880\sqrt5$ とその共役が現れる。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ では $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$、判別式は $-20$、類数は $2$ である。2 つのイデアル類の代表 $\mathcal{O}_K$ と $\mathfrak{a}=(2,1+\sqrt{-5})$ は、相似で $\Lambda_{\sqrt{-5}}$ と $\Lambda_{(1+\sqrt{-5})/2}$ になる($2\Lambda_{(1+\sqrt{-5})/2}=\mathbb{Z}2+\mathbb{Z}(1+\sqrt{-5})=\mathfrak{a}$)。$\tau=(1+\sqrt{-5})/2$ は $2\tau^2-2\tau+3=0$ を満たし、thm-cm-multiplier で $R=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}2\tau=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ となって確かに $\mathcal{O}_K$ である。2 点 $\sqrt{-5}$、$(1+\sqrt{-5})/2$ は基本領域 $\mathcal{F}$ に入り、prop-cm-finite の $(a,b,c)$ は $(1,0,5)$、$(2,-2,3)$ である(二元二次形式 の記事の例「判別式 $-20$:$x^2+5y^2$ と $2x^2+2xy+3y^2$」の 2 つの簡約形式に対応する)。thm-cm-weber により $j(\sqrt{-5})$ と $j((1+\sqrt{-5})/2)$ は互いに共役な 2 次の代数的整数で、和と積は整数である。その値は数値計算で$$j(\sqrt{-5})+j\Bigl(\tfrac{1+\sqrt{-5}}2\Bigr)=1264000,\qquad j(\sqrt{-5})\,j\Bigl(\tfrac{1+\sqrt{-5}}2\Bigr)=-681472000$$と定まり(近似値が整数から十分近いことで値が確定する)、$j(\sqrt{-5})=632000+282880\sqrt5$ である。$K(j(\sqrt{-5}))=K(\sqrt5)=\mathbb{Q}(\sqrt{-5},\sqrt{-1})$ が $K$ の Hilbert 類体である。
$j(E)\in\mathbb{Q}$ となる CM 楕円曲線は、thm-cm-weber とその整環版により、$\operatorname{Pic}(\mathcal{O})$ が自明な整環 $\mathcal{O}$ に対応するものに限られ、$\bar{\mathbb{Q}}$ 上の同型を除いてちょうど 13 個ある(Sil09 Appendix C, Examples 11.3.1–11.3.2, p. 427、CF67 Chapter XIII, §2, p. 295)。
| 判別式 $D$ | 整環 | $j$ |
|---|---|---|
| $-3$ | $\mathbb{Z}[\rho]$ | $0$ |
| $-4$ | $\mathbb{Z}[i]$ | $2^6\cdot3^3=1728$ |
| $-7$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-7}}2]$ | $-3^3\cdot5^3=-3375$ |
| $-8$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ | $2^6\cdot5^3=8000$ |
| $-11$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-11}}2]$ | $-2^{15}=-32768$ |
| $-12$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ | $2^4\cdot3^3\cdot5^3=54000$ |
| $-16$ | $\mathbb{Z}[2i]$ | $2^3\cdot3^3\cdot11^3=287496$ |
| $-19$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-19}}2]$ | $-2^{15}\cdot3^3=-884736$ |
| $-27$ | $\mathbb{Z}[3\rho]$ | $-2^{15}\cdot3\cdot5^3=-12288000$ |
| $-28$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-7}]$ | $3^3\cdot5^3\cdot17^3=16581375$ |
| $-43$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-43}}2]$ | $-2^{18}\cdot3^3\cdot5^3$ |
| $-67$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-67}}2]$ | $-2^{15}\cdot3^3\cdot5^3\cdot11^3$ |
| $-163$ | $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-163}}2]$ | $-2^{18}\cdot3^3\cdot5^3\cdot23^3\cdot29^3$ |
$D=-3,-4,-7,-8,-11,-19,-43,-67,-163$ の 9 個は類数 $1$ の虚 2 次体の整数環で(イデアル類群 の記事の注意「類数 1 の 2 次体」)、残りの 4 個が導手 $2$ または $3$ の整環である。
$e^{\pi\sqrt{163}}$ は整数 $640320^3+744$ から $10^{-12}$ 程度しか離れていない。これは虚数乗法による $j$ の整数性から説明される。
$\tau=\frac{1+\sqrt{-163}}2$ では $q=e^{2\pi i\tau}=-e^{-\pi\sqrt{163}}$ で、$\lvert q\rvert\approx3.8\times10^{-18}$ はきわめて小さい。j不変量 の記事の展開 $j(\tau)=q^{-1}+744+196884q+\cdots$ に表の値 $j(\tau)=-640320^3$($640320=2^6\cdot3\cdot5\cdot23\cdot29$)を入れると$$e^{\pi\sqrt{163}}=640320^3+744+196884q+\cdots\approx640320^3+744-7.5\times10^{-13}$$となり、$e^{\pi\sqrt{163}}$ は整数 $640320^3+744$ から $10^{-12}$ 程度しか離れていない。虚数乗法による $j(\tau)$ の整数性が、超越数のこの「偶然」の説明である。
各行は、記事の主張の仮定を 1 つ外したときに結論が崩れる例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\tau$ が 2 次の代数的数(thm-cm-multiplier の 2) | $\tau=i\sqrt[3]2$($\mathbb{Q}$ 上 6 次) | $R(\Lambda_\tau)\neq\mathbb{Z}$(虚数乗法をもつこと) |
| $\Lambda$ が離散(格子であること) | $\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt2\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ | $R$ が $\mathbb{Z}$ か虚 2 次体の整環であること |
| 自己準同型環が $\mathcal{O}_K$(thm-cm-class-group) | $\Lambda_{2i}$($R=\mathbb{Z}[2i]$) | 分数イデアルと相似であること |
| 標数 $0$(def-cm、prop-cm-finite) | $\mathbb{F}_5$ 上の $y^2=x^3-x$ と Frobenius 写像 | 整数倍でない自己準同型をもつ曲線が、各整環について有限個の $j$ に限られること |
各行で、外した条件以外の仮定は満たされている。
1 行目:$\alpha:=i\sqrt[3]2$ は $\alpha^3=-2i$ を満たすので $\mathbb{Q}(\alpha)\ni i$、したがって $\sqrt[3]2=\alpha/i\in\mathbb{Q}(\alpha)$ で、$[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]$ は $[\mathbb{Q}(i):\mathbb{Q}]=2$ と $[\mathbb{Q}(\sqrt[3]2):\mathbb{Q}]=3$ の倍数、$\alpha^6=-4$ より $6$ 以下なので $6$ である。2 次でないので thm-cm-multiplier の 1 により $R(\Lambda_\tau)=\mathbb{Z}$ で、$\mathbb{C}/\Lambda_\tau$ は虚数乗法をもたない。
2 行目:$\Lambda=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt2$ は階数 $2$ の部分群だが $\mathbb{R}$ の中で稠密で、格子でない。$\sqrt2\Lambda=\mathbb{Z}\sqrt2+\mathbb{Z}2\subset\Lambda$ なので $R(\Lambda)\supset\mathbb{Z}[\sqrt2]$ で、これは実 2 次体の整環である。prf-cm-multiplier は $\tau=\omega_2/\omega_1\notin\mathbb{R}$ を使って 2 次式の判別式が負であることを導いているが、ここでは $\tau=\sqrt2$ は実数である。
3 行目:$R(\Lambda_{2i})=\mathbb{Z}[2i]$ は ex-cm-conductor のとおりで、$\Lambda_{2i}$ が分数イデアル $\mathfrak{a}$ と相似なら $\mathbb{Z}[2i]=R(\Lambda_{2i})=R(\mathfrak{a})=\mathbb{Z}[i]$ となり矛盾する。
4 行目:$q=5$ 乗の Frobenius 写像 $\phi(x,y)=(x^5,y^5)$ は、$\mathbb{F}_5$ 上の曲線 $E$ では $E$ の自己準同型で、次数は $5$ である(Sil09 Proposition II.2.11 (c), p. 25)。整数倍写像の次数は $\deg[m]=m^2$(Sil09 Theorem III.6.2 (d), p. 83)で $5$ は平方数でないので、$\phi\notin\mathbb{Z}$ である。有限体の上ではどの楕円曲線もその Frobenius 写像をもつので(Sil09 Remark III.4.3, p. 69)、$\bar{\mathbb{F}}_p$ のすべての $j$ の値の曲線が整数倍でない自己準同型をもち、特別な $j$ に限られるという標数 $0$ の現象(prop-cm-finite、thm-cm-algebraic)は起こらない。
虚数乗法をもつ楕円曲線を素数 $p$ で還元すると、通常か超特異かが $p$ の $K$ での分解の仕方で決まる。$y^2=x^3-x$($\mathbb{Z}[i]$ による虚数乗法)では、$p\equiv3\pmod4$ なら超特異、$p\equiv1\pmod4$ なら通常である(超特異楕円曲線 の記事の例「曲線 $y^2=x^3-x$」と例「反例:通常楕円曲線の自己準同型環」)。超特異な還元では自己準同型環が四元数環の整環に大きくなり、通常な還元では虚 2 次体の整環のままである。
虚数乗法は Birch–Swinnerton-Dyer 予想や周期の理論にも現れる。
虚数乗法の点は、モジュラー曲線の上の特別な点(CM 点、Heegner 点)として、楕円曲線の有理点の構成や Birch–Swinnerton-Dyer予想 の部分的な解決に使われる。Tate–Shafarevich群 の記事にあるように、$L$ 関数の $s=1$ での零の位数が小さいときの Tate–Shafarevich 群の有限性について、虚数乗法をもつ曲線では Rubin の結果がある。周期の側では、虚数乗法をもつ楕円曲線の周期は Γ関数 の有理数点での値で書ける(周期(代数多様体) の記事)。
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