カラー近傍定理(collar neighborhood theorem)とは、滑らかな境界付き多様体 $M$ の境界 $\partial M$ が、$\partial M\times[0,1)$ と微分同相な開近傍(カラー)をもち、その微分同相写像で $\partial M$ が $\partial M\times\{0\}$ に対応するという定理である。境界で内側を向くベクトル場を 1 の分割で作り、境界の各点からその積分曲線に沿って点ごとに決めた時間だけ進むことで証明される。境界の近くで $M$ を積として扱えるので、境界に沿った貼り合わせ(二重化など)、境界を定める関数の構成、$M$ と内部のホモトピー同値などに使われる。
前提知識: 境界付き多様体, ベクトル場の流れ, 初期値への滑らかな依存性, 1の分割
閉円板 $D^2$ の縁の円周 $S^1$ のすぐ内側は、細い円環 $S^1\times[0,1)$ と同じ形をしている。カラー近傍定理(collar neighborhood theorem)は、これがどの滑らかな境界付き多様体でも成り立つことを述べる:境界 $\partial M$ は、$\partial M\times[0,1)$ と微分同相な開近傍をもち、その微分同相写像で $\partial M$ は $\partial M\times\{0\}$ に対応する。この近傍をカラー(collar、襟)という。証明の考え方は、境界で内側を向くベクトル場を作り、境界の各点からその積分曲線に沿って少しだけ内側へ進むことである。
カラーがあると、境界の近くでは $M$ を積 $\partial M\times[0,1)$ として扱える。2 つの境界付き多様体を境界に沿って貼り合わせる操作(多様体の二重化)や、境界を定める関数の構成、$M$ と内部 $\operatorname{Int}M$ のホモトピー同値などは、この定理から従う。
この記事では、境界付き多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級の境界付き多様体とし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。記号 $\mathbb{H}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n\ge0\}$、$\partial\mathbb{H}^n$、境界の点・内部の点、座標近傍、半空間の開集合の上の $C^\infty$ 級写像($\mathbb{R}^n$ の開集合への延長が $C^\infty$ 級であること)は、境界付き多様体 の記事の定義に従う。境界付き多様体の間の写像 $F\colon M\to N$ が滑らかであるとは、座標近傍で書いた $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}$ がすべてこの意味で $C^\infty$ 級であることをいい、滑らかな全単射で逆写像も滑らかなものを微分同相写像という。
$\partial M$ は $(n-1)$ 次元の境界のない多様体である(境界付き多様体 の命題「内部と境界の多様体構造」)。したがって積 $\partial M\times[0,1)$ は、同記事の命題「境界のない多様体との積」により、境界が $\partial M\times\{0\}$ の $n$ 次元の境界付き多様体である。
$M$ を $n$ 次元の滑らかな境界付き多様体とする。$\partial M$ のカラーとは、$\partial M$ を含む $M$ の開集合 $V$ と、微分同相写像
$$
c\colon\partial M\times[0,1)\to V,\qquad c(p,0)=p\quad(p\in\partial M)
$$
の組のことである。$V$ をカラー近傍という。
$\partial M=\emptyset$ のときは $V=\emptyset$ がカラーであり、以下では $\partial M\ne\emptyset$ の場合を考える。カラーの定義域を $\partial M\times[0,\infty)$ とする流儀もある(Hir76 Ch. 4 §6、p. 113)が、$[0,1)$ と $[0,\infty)$ は微分同相 $t\mapsto t/(1-t)$ で移り合うので、どちらでも同じ概念になる。
3 番目の例が示すように、一般には境界の点ごとに進める距離が違う。下の証明でも、流れの時間を境界の点の関数 $\delta(p)$ として選ぶ。
境界の点 $p$ における接ベクトルは、座標近傍 $(U,\varphi)$ での成分 $v=(v^1,\dots,v^n)$ で表され、$v^n>0$ のとき内向きという。これが座標近傍の選び方によらないことは 境界付き多様体 の補題「外向きかどうかは座標によらない」による。$M$ 上のベクトル場 $X$ が滑らかであるとは、各座標近傍で $X=\sum_iX^i\,\partial/\partial x^i$ と書いた成分 $X^i\circ\varphi^{-1}$ が $\varphi(U)$ の上の $C^\infty$ 級関数であることをいう。
$M$ を滑らかな境界付き多様体とする。$M$ 上の滑らかなベクトル場 $X$ で、すべての $p\in\partial M$ で $X_p$ が内向きであるものが存在する。
各 $p\in\partial M$ に座標近傍 $(U_p,\varphi_p)$ をとり、$U_p$ の上のベクトル場 $X_p:=\partial/\partial x^n$($\varphi_p$ の第 $n$ 座標の方向)を考える。$U_0:=\operatorname{Int}M$ とすると $\{U_0\}\cup\{U_p\}_{p\in\partial M}$ は $M$ の開被覆であり、これに従属する滑らかな 1 の分割 $\{\rho_0\}\cup\{\rho_p\}$ がある(境界付き多様体の 1 の分割の存在は Lee13 Theorem 2.23、p. 43)。$\rho_pX_p$ は $\operatorname{supp}\rho_p\subset U_p$ の外で $0$ とおけば $M$ 全体の滑らかなベクトル場になり、台が局所有限なので $X:=\sum_{p}\rho_pX_p$ は滑らかなベクトル場である。
$q\in\partial M$ とし、$q$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$ をとる。$\operatorname{supp}\rho_0\subset\operatorname{Int}M$ なので $\rho_0(q)=0$、したがって $\sum_p\rho_p(q)=1$ である。$\rho_p(q)>0$ となる各 $p$ について、$(X_p)_q$ は $\varphi_p$ の座標で成分 $(0,\dots,0,1)$ をもつので内向きであり、座標によらないことから $\varphi$ での第 $n$ 成分 $(X_p)_q^n$ は正である。よって $X_q^n=\sum_p\rho_p(q)(X_p)_q^n$ は、和が $1$ の非負の重みによる正の数の平均なので正であり、$X_q$ は内向きである。$\square$
以下、$X$ を lem-col-inward の内向きのベクトル場とする。$\operatorname{Int}M$ は境界のない多様体なので、$X$ の $\operatorname{Int}M$ への制限は極大流れ $\theta\colon\mathcal{D}\to\operatorname{Int}M$ をもち、$\mathcal{D}\subset\mathbb{R}\times\operatorname{Int}M$ は開集合、$\theta$ は滑らかで、$\theta_t$ は開集合の間の微分同相写像である(ベクトル場の流れ の定理「流れの基本定理」)。問題は境界の点から出発する積分曲線で、これは $\operatorname{Int}M$ の流れには含まれない。
$p\in\partial M$ とし、$0< b\le\infty$ とする。写像 $\gamma\colon[0,b)\to M$ が $p$ から出る積分曲線であるとは、$\gamma(0)=p$ であり、$0< t< b$ で $\gamma(t)\in\operatorname{Int}M$ であり、$\gamma$ が $C^1$ 級($t=0$ では片側微分)で、すべての $t\in[0,b)$ で $\gamma'(t)=X_{\gamma(t)}$ となることをいう。
境界の点の座標近傍 $(U,\varphi)$ で $X$ の成分を並べた写像を $F\colon\varphi(U)\to\mathbb{R}^n$ とすると、$\varphi\circ\gamma$ は $\gamma$ が $U$ にある間、常微分方程式 $x'=F(x)$ の解である。$F$ は半空間の開集合の上でしか定義されていないので、延長して $\mathbb{R}^n$ の開集合の上の方程式として扱う。
要点:2 は、$\widetilde F^n>0$ なので境界から出た解の第 $n$ 座標が増え、すぐに $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に入ることによる。1 は、$t=0$ の近くでは延長した方程式の解の一意性、$t>0$ では $\operatorname{Int}M$ の中の積分曲線の一意性による。
2:$X_{p_0}$ は内向きなので $F^n(a)>0$ である。$F$ は $C^\infty$ 級なので $a$ の開近傍の上の $C^\infty$ 級の延長 $\widetilde F$ がある。$\varphi(U)=O\cap\mathbb{H}^n$($O$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合)と書き、$W$ を $a$ を中心とし、$O$ と延長の定義域に含まれ、その上で $\widetilde F^n>0$ となる小さな開球にとれば、条件がそろう。$\Omega$ は $\mathbb{R}\times W$ の開集合で $\phi$ は $C^\infty$ 級である(初期値への滑らかな依存性 の定理「初期値への滑らかな依存性」)ので、$B$ と $\varepsilon$ がとれる。$\xi:=\varphi(q)\in B\cap\partial\mathbb{H}^n$ について $\phi^n(0,\xi)=0$ であり、$\partial_t\phi^n(t,\xi)=\widetilde F^n(\phi(t,\xi))>0$ なので、$0< t<\varepsilon$ で $\phi^n(t,\xi)>0$ である。よって $\phi(t,\xi)\in W\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n\subset\varphi(U)$ であり、$\varphi^{-1}(\phi(t,\xi))$ は $\operatorname{Int}M$ の点である。この曲線は $C^\infty$ 級で、座標で書いた速度は $\widetilde F(\phi(t,\xi))=F(\phi(t,\xi))$、すなわち $X$ である。
1:$\gamma\colon[0,b)\to M$、$\delta\colon[0,b')\to M$ を $p$ から出る積分曲線とし、$b'':=\min\{b,b'\}$ とおく。2 と同じく $p$ のまわりに $(U,\varphi)$、$W$、$\widetilde F$ をとる。連続性から小さい $\eta>0$ について $[0,\eta)$ の上で $\varphi\circ\gamma$、$\varphi\circ\delta$ は $W\cap\mathbb{H}^n$ に値をとり、そこで $F=\widetilde F$ なので、どちらも $x'=\widetilde F(x)$、$x(0)=\varphi(p)$ の $[0,\eta)$ 上の解である。$\widetilde F$ は $C^1$ 級なので局所 Lipschitz 条件をみたし、区間の端を初期時刻とする解も含めて 2 つの解は一致する(Picard–Lindelöfの定理 の系「局所 Lipschitz 条件の下での存在と一意性」。同記事の解の定義は端点を含む区間を許す)。よって $[0,\eta)$ で $\gamma=\delta$ である。開区間 $(0,b'')$ の上では、$\gamma$ と $\delta$ は $\operatorname{Int}M$ の中の $X$ の積分曲線で $t=\eta/2$ で一致するので、ベクトル場の流れ の補題「積分曲線の一意性」により一致する。$\square$
1 により、$p$ から出る積分曲線すべての和をとった極大な積分曲線 $\gamma_p\colon[0,b_p)\to M$ が定まる。
$$
D:=\{(p,t)\in\partial M\times[0,\infty)\mid t< b_p\},\qquad\Phi(p,t):=\gamma_p(t)
$$
とおく。$\Phi$ を $X$ による境界からの流れ出し(boundary flowout)という。
$X$ を内向きの滑らかなベクトル場とし、$D$、$\Phi$ を上のとおりとする。$D$ は $\partial M\times\{0\}$ を含む $\partial M\times[0,\infty)$ の開集合であり、$\Phi\colon D\to M$ は $D$ から $M$ の開集合 $\Phi(D)\supset\partial M$ への微分同相写像で、$\Phi(p,0)=p$ である。
段 1($t=0$ の近く).$p_0\in\partial M$ とし、lem-col-local の 2 の $(U,\varphi)$、$\widetilde F$、$\phi$、$B$、$\varepsilon$ をとる。$\partial M$ の座標を $u=\pi(\varphi(q))\in\mathbb{R}^{n-1}$($\pi$ は最後の成分を落とす写像)とし、
$$
G(u,t):=\phi\bigl(t,(u,0)\bigr)\qquad\bigl((u,0)\in B,\ \lvert t\rvert<\varepsilon\bigr)
$$
とおく。同補題の 1・2 により、$\varphi(q)=(u,0)\in B$、$0\le t<\varepsilon$ なら $(q,t)\in D$ かつ $\varphi(\Phi(q,t))=G(u,t)$ である。$G$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合の上の $C^\infty$ 級写像で、$G(u,0)=(u,0)$、$\partial_tG=\widetilde F\circ G$ なので、$u_0:=\pi(\varphi(p_0))$ での Jacobi 行列は
$$
DG(u_0,0)=\begin{pmatrix}I_{n-1}&*\\0&\widetilde F^n(\varphi(p_0))\end{pmatrix},\qquad\det DG(u_0,0)=\widetilde F^n(\varphi(p_0))>0
$$
である。逆関数定理により、$(u_0,0)$ の開近傍 $A=A'\times(-\varepsilon',\varepsilon')$($A'\times\{0\}\subset B$、$\varepsilon'\le\varepsilon$)で $G|_A$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合 $G(A)$ への微分同相写像になるものがある。$G^n(u,0)=0$ かつ $\partial_tG^n=\widetilde F^n(G)>0$ なので、$A$ の上で $G^n(u,t)$ は $t$ と同じ符号をもつ。したがって $G$ は $A\cap\{t\ge0\}$ を $G(A)\cap\mathbb{H}^n$($\subset W\cap\mathbb{H}^n\subset\varphi(U)$)の上へ写し、$\Phi$ は $(p_0,0)$ の $D$ における開近傍を、$p_0$ の $M$ における開近傍 $\varphi^{-1}(G(A)\cap\mathbb{H}^n)$ の上へ微分同相に写す(座標で書くと $G$ と $G^{-1}$ の制限である)。
段 2($t>0$).$(p,t)\in D$、$t>0$ とする。段 1 を $p_0=p$ として使い、$0< s<\min\{t,\varepsilon'\}$ をとる。$q$ が $p$ の近くにあり $\tau\ge s$ のとき、
$$
\tau< b_q\iff(\tau-s,\Phi(q,s))\in\mathcal{D},\qquad\text{そのとき}\quad\Phi(q,\tau)=\theta\bigl(\tau-s,\Phi(q,s)\bigr)
$$
が成り立つ。
$\tau< b_q$ なら、$u\mapsto\gamma_q(s+u)$($-s< u< b_q-s$)は $\operatorname{Int}M$ の中の $X$ の積分曲線で $u=0$ で $\Phi(q,s)$ を通るので、流れの基本定理の (R1) により極大な積分曲線 $u\mapsto\theta(u,\Phi(q,s))$ の制限であり、$\tau-s$ はその定義域に入って値が一致する。逆に $(\tau-s,\Phi(q,s))\in\mathcal{D}$ なら、$\gamma_q$ を $[0,s]$ に制限したものに $u\mapsto\theta(u-s,\Phi(q,s))$ をつなぐと、$s$ の前後で $\theta$ の積分曲線に一致するので $C^1$ 級であり、$q$ から出る積分曲線で定義域が $\tau$ を含む。$\gamma_q$ の極大性から $\tau< b_q$ である。
$M$ を滑らかな境界付き多様体とする。$\partial M$ はカラーをもつ。すなわち、$\partial M$ を含む $M$ の開集合 $V$ と、微分同相写像 $c\colon\partial M\times[0,1)\to V$ で $c(p,0)=p$ となるものがある。
lem-col-inward で内向きの滑らかなベクトル場 $X$ をとり、prop-col-flowout の微分同相写像 $\Phi\colon D\to\Phi(D)$ を作る。残るのは、$D$ の中に $\{(p,t)\mid 0\le t<\delta(p)\}$ の形の集合を、滑らかな正の関数 $\delta$ で見つけることである。
各 $p\in\partial M$ について、$D$ は $(p,0)$ を含む開集合なので、$p$ の $\partial M$ における開近傍 $V_p$ と $\varepsilon_p>0$ で $V_p\times[0,\varepsilon_p)\subset D$ となるものがある。$\partial M$ は境界のない多様体なので、開被覆 $\{V_p\}$ に従属する滑らかな 1 の分割 $\{\rho_i\}_{i\in I}$ がある(1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」)。$\operatorname{supp}\rho_i\subset V_{p_i}$ となる $p_i$ を選び、
$$
\delta:=\sum_{i\in I}\varepsilon_{p_i}\rho_i\colon\partial M\to(0,\infty)
$$
とおく。台が局所有限なので $\delta$ は滑らかであり、$\sum_i\rho_i=1$ なので $\delta>0$ である。$q\in\partial M$ について、$\rho_i(q)>0$ となる $i$ は有限個で、そのどれについても $q\in V_{p_i}$ である。$\delta(q)$ はそれらの $\varepsilon_{p_i}$ の重み付き平均なので、その最大値 $\varepsilon_{p_j}$ 以下であり、$\{q\}\times[0,\delta(q))\subset\{q\}\times[0,\varepsilon_{p_j})\subset D$ となる。よって
$$
D_\delta:=\{(p,t)\in\partial M\times[0,\infty)\mid t<\delta(p)\}\subset D
$$
である。$D_\delta$ は連続関数 $(p,t)\mapsto\delta(p)-t$ で正になる点の集合なので開集合である。
$\sigma(p,s):=(p,s\,\delta(p))$ は $\partial M\times[0,1)$ から $D_\delta$ への全単射で、逆写像は $(p,t)\mapsto(p,t/\delta(p))$ であり、どちらも滑らかである。したがって
$$
c:=\Phi\circ\sigma\colon\partial M\times[0,1)\to V:=\Phi(D_\delta)
$$
は微分同相写像である。$\Phi$ は開集合 $D_\delta$ を開集合に写すので $V$ は $M$ の開集合であり、$c(p,0)=\Phi(p,0)=p$ なので $V\supset\partial M$ である。$\square$
証明の流れを図式にまとめる。$\iota(p):=(p,0)$ とすると、
$$
\xymatrix{
\partial M \ar[r]^-{\iota} \ar[dr]_{\text{包含}} & \partial M\times[0,1) \ar[r]^-{\sigma} \ar[d]^{c} & D_\delta \ar[dl]^{\Phi} \\
& V &
}
$$
は可換である。すなわち $c=\Phi\circ\sigma$ であり、$c\circ\iota$ は包含写像 $\partial M\hookrightarrow V$ に等しい。$\sigma$ は流れの時間を点ごとに $\delta(p)$ 倍する写像で、ex-col-basic の 3 のように一定の幅をとれない場合にも働く。$\partial M$ がコンパクトなら、$\delta$ は正の定数にとれる($\delta$ の最小値をとればよい)。
境界のない多様体の中の余次元 $1$ の部分多様体 $S$ については、両側に同じ形の近傍 $S\times(-1,1)$(両側カラー)があるとは限らない(ex-col-counterexamples の 3 行目)。境界 $\partial M$ は $M$ の片側にしかないので、この問題が起こらない。
$M$ を滑らかな境界付き多様体とし、$N\subset M$ を $\partial M$ を含む開集合とする。像が $N$ に含まれる $\partial M$ のカラーがある。
$N$ は $M$ の開集合なので、$M$ の座標近傍を $N$ に制限したものを座標近傍とする滑らかな境界付き多様体であり、境界付き多様体 の定理「内部の点と境界の点は交わらない」により $\partial N=N\cap\partial M=\partial M$ である。thm-col-main を $N$ に使えば、$N$ の開集合 $V$ と微分同相写像 $c\colon\partial M\times[0,1)\to V$ が得られる。$V$ は $M$ の開集合でもあるので、これが求めるカラーである。$\square$
$M$ を滑らかな境界付き多様体とする。滑らかな関数 $f\colon M\to[0,\infty)$ で、$f^{-1}(0)=\partial M$ であり、各 $p\in\partial M$ で $df_p\ne0$(座標近傍で $\partial f/\partial x^n(p)>0$)となるものがある。
thm-col-main のカラー $c\colon\partial M\times[0,1)\to V$ をとり、$\tau\colon V\to[0,1)$ を $c^{-1}$ の第 2 成分とする。$\{V,\operatorname{Int}M\}$ は $M$ の開被覆なので、これに従属する滑らかな 1 の分割 $\{\psi,1-\psi\}$($\operatorname{supp}\psi\subset V$、$\operatorname{supp}(1-\psi)\subset\operatorname{Int}M$)がある(Lee13 Theorem 2.23)。
$$
f:=\psi\,\tau+(1-\psi)
$$
とおく($\psi\tau$ は $V$ の外で $0$ とする)。$f\ge0$ である。$p\in\partial M$ では $1-\psi$ の台の外にあるので $\psi(p)=1$、$\tau(p)=0$ で $f(p)=0$ である。$p\notin\partial M$ なら、$\psi(p)<1$ のとき $1-\psi(p)>0$ から、$\psi(p)=1$ のとき $p\in V\setminus\partial M$ で $\tau(p)>0$ から、$f(p)>0$ である。よって $f^{-1}(0)=\partial M$ である。閉集合 $\operatorname{supp}(1-\psi)$ は $\partial M$ と交わらないので、$\partial M$ のある開近傍の上で $\psi=1$、$f=\tau$ である。$\tau$ はカラーの座標 $(p,t)$ で $t$ そのものであり、$\partial/\partial t$ は境界で内向きなので $df_p\ne0$ である。
$c$ は微分同相写像で $\partial M\times\{0\}$ を $\partial M$ に写す。$p\in\partial M$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$ と $\partial M$ の座標 $y$ をとり、$h:=\varphi\circ c\circ(y^{-1}\times\mathrm{id})$ とおく。$h$ は境界を境界に写すので、境界付き多様体 の補題「外向きかどうかは座標によらない」の証明と同じく $\partial h^n/\partial t>0$ である。$f\circ\varphi^{-1}$ は $h^{-1}$ の最後の成分に等しいので、その $\partial/\partial x^n$ は $Dh^{-1}$ の $(n,n)$ 成分 $1/(\partial h^n/\partial t)>0$ である($Dh$ の第 $n$ 行は $(0,\dots,0,\partial h^n/\partial t)$)。$\square$
$M$ を滑らかな境界付き多様体とし、$\partial M$ はコンパクトであるとする。包含写像 $\iota\colon\operatorname{Int}M\hookrightarrow M$ はホモトピー同値である。
カラー $c\colon\partial M\times[0,1)\to V$ をとる。連続関数 $\lambda\colon[0,1)\to(0,1)$ を $0\le t\le1/2$ で $\lambda(t)=1/4+t/2$、$1/2\le t<1$ で $\lambda(t)=t$ と定める。$K:=c(\partial M\times[0,1/2])$ はコンパクト集合の連続像なのでコンパクトであり、Hausdorff 空間 $M$ の閉集合である。$s\in[0,1]$ について
$$
H_s(x):=\begin{cases}c\bigl(p,(1-s)t+s\lambda(t)\bigr)&x=c(p,t)\in V,\\ x&x\in M\setminus K\end{cases}
$$
とおく。重なり $V\setminus K=c(\partial M\times(1/2,1))$ の上では $\lambda(t)=t$ なので 2 つの式は一致し、$V$ と $M\setminus K$ は $M$ を覆う開集合なので、$H\colon M\times[0,1]\to M$ は連続である。$H_0=\mathrm{id}_M$ であり、$r:=H_1$ は $\lambda>0$ なので $\operatorname{Int}M$ に値をとる。$r$ を $\operatorname{Int}M$ への写像とみると、$\iota\circ r=H_1$ は $H$ により $\mathrm{id}_M$ とホモトピックである。$t>0$ なら $(1-s)t+s\lambda(t)>0$ なので $H_s(\operatorname{Int}M)\subset\operatorname{Int}M$ であり、$H$ を $\operatorname{Int}M\times[0,1]$ に制限すると $r\circ\iota$ と $\mathrm{id}_{\operatorname{Int}M}$ のホモトピーになる。$\square$
$\partial M$ がコンパクトでなくても包含写像はホモトピー同値である(Lee13 Theorem 9.26、p. 223)が、上の証明のままでは $K$ が閉集合にならないことがある(ex-col-counterexamples の 2 行目)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ベクトル場が境界で内向き | $\mathbb{H}^2$ 上の $X=\partial/\partial x^1$(境界に接する) | 境界からの流れ出し $\Phi$ がカラーを与える |
| $\partial M$ がコンパクト | $M=\mathbb{H}^2\setminus\{0\}$ とカラー $c(u,t)=(u,t)$ | $c(\partial M\times[0,1/2])$ が $M$ の閉集合である |
| 部分多様体が境界である | 開いた Möbius の帯の中心の円周 $C$ | $C$ の近傍 $U$ と同相写像 $S^1\times(-1,1)\to U$ で $S^1\times\{0\}$ を $C$ に写すものがある |
| 流れの時間が点ごとに変えられる | ex-col-basic の 3 の $M=\{0\le y< e^{-x^2}\}$ | 定数 $\varepsilon>0$ で $(x,t)\mapsto(x,t)$($0\le t<\varepsilon$)が $M$ への写像になる |
1 行目:$X$ の流れで境界の点を動かす写像 $\Psi((u,0),t):=(u+t,0)$ は境界にとどまり、$\Psi((0,0),1)=\Psi((1,0),0)$ なので $\Psi$ は単射でなく、像は $\partial\mathbb{H}^2$ に含まれて $\partial\mathbb{H}^2$ の近傍にならない。破れているのは def-col-curve の「$t>0$ で $\operatorname{Int}M$ に入る」ことで、lem-col-local の 2 の証明で使った $\widetilde F^n>0$ が成り立たない。
2 行目:$\partial M=(\mathbb{R}\setminus\{0\})\times\{0\}$ はコンパクトでない。$c(u,t)=(u,t)$ は $\partial M\times[0,1)$ から開集合 $\{(u,y)\mid u\ne0,\ 0\le y<1\}$ への微分同相写像なのでカラーである。ところが $c(\partial M\times[0,1/2])=\{u\ne0,\ 0\le y\le1/2\}$ の点 $(1/k,1/4)$ は $M$ の点 $(0,1/4)$ に収束するので、この集合は $M$ の閉集合でない。cor-col-homotopy の証明の $r$ は $(1/k,1/4)\mapsto(1/k,3/8)$、$(0,1/4)\mapsto(0,1/4)$ なので連続でない。ただし結論のホモトピー同値そのものは成り立つ(Lee13 Theorem 9.26)。
4 行目は ex-col-basic の 3 で確かめた。
開いた Möbius の帯 $N$ を、$\mathbb{R}\times(-1,1)$ の $\tau(x,y)=(x+1,-y)$ で生成される作用による商とし(向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 3)、$C$ を $y=0$ の像とする。$N$ は境界のない多様体で、$C$ はコンパクトな余次元 $1$ の部分多様体である。$0<\varepsilon<1$ について $B_\varepsilon$ を $\{\lvert y\rvert<\varepsilon\}$ の像とする。$\tau$ は $\mathbb{R}\times(-\varepsilon,0)$ を $\mathbb{R}\times(0,\varepsilon)$ に写すので、$B_\varepsilon\setminus C$ は連結な $\mathbb{R}\times(0,\varepsilon)$ の像であり、連結である。
$C$ の開近傍 $U$ と同相写像 $g\colon S^1\times(-1,1)\to U$ で $g(S^1\times\{0\})=C$ となるものがあったとする。$C$ はコンパクトなので、ある $\varepsilon$ で $B_\varepsilon\subset U$ である($C$ は $[0,1]\times\{0\}$ の像なので、$[0,1]$ のコンパクト性からチューブ補題の議論で幅 $\varepsilon$ が一様にとれる)。$U\setminus C$ は交わらない 2 つの開集合 $g(S^1\times(0,1))$、$g(S^1\times(-1,0))$ の和なので、連結な $B_\varepsilon\setminus C$ はどちらか一方、たとえば前者に含まれる。$g^{-1}(B_\varepsilon)$ は $S^1\times\{0\}$ を含む開集合なので、$S^1$ のコンパクト性からある $\eta>0$ で $S^1\times(-\eta,\eta)\subset g^{-1}(B_\varepsilon)$ となる。すると $g(S^1\times(-\eta,0))\subset B_\varepsilon\setminus C\subset g(S^1\times(0,1))$ となり、2 つの開集合が交わらないことに反する。満たす性質は「$C$ はコンパクトな余次元 $1$ の部分多様体である」、破る含意は「余次元 $1$ の閉部分多様体は両側カラーをもつ」である。$C$ は境界ではないので、thm-col-main とは矛盾しない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する