Max Noetherの定理(標準埋め込み)(Max Noether's theorem on canonical curves)とは、代数閉体上の超楕円的でない種数 $g\ge3$ の曲線では、すべての $n\ge1$ について $n$ 重の正則微分の空間 $L(nK)$ が正則微分形式の $n$ 次の積で張られる、すなわち掛け算 $\operatorname{Sym}^nL(K)\to L(nK)$ が全射であるという定理である。このような曲線は標準写像で $\mathbb{P}^{g-1}$ の次数 $2g-2$ の曲線として埋め込まれ、定理はこの標準曲線が射影正規であることと同値である。その結果、標準曲線を含む 2 次超曲面の空間の次元は $(g-2)(g-3)/2$ と種数だけで決まる。超楕円的な曲線では $n=2$ で全射にならない。
前提知識: Riemann–Rochの定理, 標準因子, Cliffordの定理(代数曲線), 射影正規, 射影空間への射
種数 $g\ge2$ の曲線 $X$ の正則微分形式 $\omega_1,\dots,\omega_g$ を並べると、写像 $P\mapsto[\omega_1(P):\dots:\omega_g(P)]$ が得られる。これを標準写像という。曲線が超楕円的でなければ、標準写像は $X$ を $\mathbb{P}^{g-1}$ の次数 $2g-2$ の曲線として埋め込む。これが標準埋め込みで、像を標準曲線という。
Max Noether の定理(Max Noether's theorem on canonical curves)は、標準曲線の上の関数が座標の多項式で尽くされることを述べる。すなわち、超楕円的でない種数 $g\ge3$ の曲線では、すべての $n\ge1$ について、$n$ 次の正則微分($n$ 重の微分形式)はすべて $\omega_1,\dots,\omega_g$ の $n$ 次の多項式で書ける。言い換えると、標準曲線は射影正規であり、標準環 $\bigoplus_{n\ge0}L(nK)$ は次数 $1$ の元で生成される。超楕円的な曲線では、すでに $n=2$ でこれが成り立たない。
この定理から、標準曲線を含む $n$ 次超曲面の個数(線形独立なものの最大数)が種数だけで決まる。たとえば種数 $4$ の標準曲線を含む 2 次曲面はただ 1 つで、種数 $5$ では 3 つである。この記事では、まず標準写像が埋め込みになる条件を示す。次に標数 $0$ の場合に Max Noether の定理を証明する。証明の柱は、基点のない線形系の 2 次元部分空間による掛け算の核を計算する補題(lem-mnc-pencil)と、標準曲線の上に「よい」$g-2$ 点を選べること(prop-mnc-good-points)である。
この記事では $k$ を代数閉体とし、曲線とは $k$ 上の滑らかで連結な射影代数曲線 $X$ のこととする。$k=\mathbb{C}$ なら、曲線はコンパクトで連結なリーマン面と同じものである。関数体 $k(X)$、位数 $\operatorname{ord}_P$、因子、線形同値 $\sim$、$L(D)=\{f\in k(X)^\times\mid\operatorname{div}f+D\ge0\}\cup\{0\}$、$\ell(D)=\dim_kL(D)$、標準因子 $K$、種数 $g$ の記号は Riemann–Rochの定理 の節「設定と記号」と同じである。完備線形系 $\lvert D\rvert$、特殊因子、$g^r_d$ の記号は Cliffordの定理(代数曲線) の定義「完備線形系と特殊因子」に従う。種数 $g\ge2$ の曲線が超楕円的であるとは、$\ell(H)=2$ となる次数 $2$ の因子 $H$ をもつことをいう(同記事の定義「超楕円的な曲線」)。
$f\in L(D)$ と $h\in L(E)$ の積は $L(D+E)$ に入る。この記事では $L(D)\cdot L(E)\subset L(D+E)$ を積 $fh$ の張る部分空間とする。$K$ を 1 つ固定し、
$$
R_n:=\underbrace{L(K)\cdots L(K)}_{n}\subset L(nK)\qquad(n\ge1),\qquad R_0:=k
$$
とおく。$R_n$ は対称積から $L(nK)$ への掛け算の写像 $\operatorname{Sym}^nL(K)\to L(nK)$ の像である。$K$ を線形同値な別の因子 $K'=K+\operatorname{div}u$ に替えると、$f\mapsto fu^{-1}$ により $L(nK)$ と $R_n$ はまとめて移り合うので、$R_n=L(nK)$ かどうかは $K$ の取り方によらない。
点 $P$ が線形系 $\lvert D\rvert$ の基点であるとは、$\ell(D-P)=\ell(D)\ge1$、つまり $\lvert D\rvert$ のすべての因子が $P$ を含むことをいう。Riemann–Roch の定理から次の数値がすぐ分かる(Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」)。
| 因子 | 次数 | $\ell$ |
|---|---|---|
| $K$ | $2g-2$ | $g$ |
| $nK$($n\ge2$、$g\ge2$) | $(2g-2)n$ | $(2n-1)(g-1)$ |
| $\deg D>2g-2$ の $D$ | $\deg D$ | $\deg D+1-g$ |
$\deg D\ge2g$ なら、どの点 $P$ でも $D$ と $D-P$ はともに次数が $2g-2$ より大きいので $\ell(D-P)=\ell(D)-1$ であり、$\lvert D\rvert$ は基点をもたない。
$\ell(D)=m+1\ge2$ で $\lvert D\rvert$ が基点をもたないとき、$L(D)$ の基底 $f_0,\dots,f_m$ をとると、射 $\varphi_D\colon X\to\mathbb{P}^m$ が定まる。点 $P$ では、$P$ での位数が $-\,(D\text{ の }P\text{ での係数})$ に等しい $f_i$ が少なくとも 1 つあるので、$t$ を局所パラメータ、$c$ をその係数として $\varphi_D(P)=[(t^cf_0)(P):\dots:(t^cf_m)(P)]$ と定める。超平面 $\sum_ia_iy_i=0$ の引き戻しは有効因子 $\operatorname{div}\bigl(\sum_ia_if_i\bigr)+D$ であり、$\varphi_D$ の像はどの超平面にも含まれない(射影空間への射)。
$g\ge2$ なら $\lvert K\rvert$ は基点をもたない(標準因子 の命題「標準線形系は基点をもたない」)。$\varphi_K\colon X\to\mathbb{P}^{g-1}$ を標準写像という。
$X$ を種数 $g\ge2$ の曲線とする。標準写像 $\varphi_K$ が閉埋め込みであるための必要十分条件は、$X$ が超楕円的でないことである。種数 $2$ の曲線はつねに超楕円的なので、このとき $g\ge3$ である。
曲線の上の基点のない完備線形系 $\lvert D\rvert$ が閉埋め込みを与えるのは、すべての点 $P,Q$($P=Q$ も含む)について $\ell(D-P-Q)=\ell(D)-2$ となるときに限る(Har77 IV, Proposition 3.1 (b)、p. 307。この記事では証明しない)。$D=K$ に Riemann–Roch の定理を当てると $\ell(K-P-Q)=\ell(P+Q)+g-3$ なので、条件は「すべての $P,Q$ について $\ell(P+Q)=1$」と同値である。$\ell(P+Q)\ge2$ となる $P,Q$ があることは、$\ell(H)=2$ となる次数 $2$ の有効因子 $H=P+Q$ があること、すなわち $X$ が超楕円的であることにほかならない(次数 $2$ の因子で $\ell=2$ のものは、$\ell\ge1$ なので有効因子と線形同値である)。$g=2$ では $K$ 自身が $\ell(K)=2$ の次数 $2$ の因子なので、$X$ は超楕円的である。$\square$
この定理は Har77 IV, Proposition 5.2(p. 341)である。超楕円的でない種数 $g\ge3$ の曲線の像 $\varphi_K(X)\subset\mathbb{P}^{g-1}$ を標準曲線、$\varphi_K$ を標準埋め込みという。標準曲線は超平面に含まれない次数 $2g-2$ の滑らかな曲線で、その超平面切断はちょうど $\lvert K\rvert$ の因子である。$\varphi_K$ は基底の取り方を除いて曲線だけで決まるので、標準曲線は $\mathbb{P}^{g-1}$ の射影変換を除いて一意である。
超楕円的な場合には、標準写像は 2 対 1 の写像を経由する。
$X$ を種数 $g\ge2$ の超楕円的な曲線、$H$ を $\ell(H)=2$ の次数 $2$ の有効因子、$x\in L(H)$ を定数でない関数とする。$K:=(g-1)H$ と選ぶと $L(K)$ は $1,x,\dots,x^{g-1}$ を基底にもち、標準写像は次数 $2$ の写像 $x\colon X\to\mathbb{P}^1$ と $(g-1)$ 次の Veronese 写像 $\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^{g-1}$、$[s:t]\mapsto[s^{g-1}:s^{g-2}t:\dots:t^{g-1}]$ の合成である。とくに、$n\ge0$ について $R_n$ は $x$ の次数 $n(g-1)$ 以下の多項式の全体であり、$\dim R_n=n(g-1)+1$ である。
Cliffordの定理(代数曲線) の命題「超楕円曲線の上の線形系」の 2 により $(g-1)H\sim K$ なので、$K=(g-1)H$ と選べる。同命題の証明のとおり $x^i$ の極の因子は $iH$ であり、$1,x,\dots,x^{g-1}$ は $L((g-1)H)$ の線形独立な元である。$\ell(K)=g$ なのでこれが基底である。この基底で $\varphi_K(P)=[1:x(P):\dots:x(P)^{g-1}]$ であり、Veronese 写像の $[1:x]$ での値に等しい。積 $x^{i_1}\cdots x^{i_n}$($0\le i_j\le g-1$)は $x^0,\dots,x^{n(g-1)}$ をすべて与え、それらは線形独立なので $\dim R_n=n(g-1)+1$ である。$\square$
$k$ の標数を $0$ とし、$X$ を超楕円的でない種数 $g\ge3$ の曲線とする。このとき、すべての $n\ge0$ について
$$
R_n=L(nK)
$$
が成り立つ。すなわち掛け算の写像 $\operatorname{Sym}^nL(K)\to L(nK)$ は全射である。
$n=0,1$ では明らかであり、内容があるのは $n\ge2$ である。証明は、次の節で道具を用意したあと、節「定理の証明」で与える(prf-mnc-main)。
系として次が従う。
$k$ の標数を $0$ とし、$X\subset\mathbb{P}^{g-1}$ を種数 $g\ge3$ の標準曲線とする。
$\mathbb{P}^{g-1}$ の $n$ 次斉次多項式を標準曲線に制限する写像は、座標を $L(K)$ の基底に替える写像 $\operatorname{Sym}^nL(K)\to L(nK)$ と同じものである(射影空間への射)。1:射影正規 の注意「完備線型系による埋め込み」により、標準埋め込みが射影正規であることは、すべての $n\ge2$ でこの写像が全射であることと同値である。これは thm-mnc-main である。2:$L(nK)=R_n$ は $L(K)$ の元の $n$ 個の積の和なので明らかである。3:制限写像の核が $I_n$ で、全射なので $\dim I_n=\dim\operatorname{Sym}^nL(K)-\ell(nK)$ である。$\dim\operatorname{Sym}^nL(K)=\binom{g-1+n}{n}$ と $\ell(nK)=(2n-1)(g-1)$ を代入する。$n=2$ では $\frac{g(g+1)}{2}-3(g-1)=\frac{(g-2)(g-3)}{2}$ である。$\square$
この記事では標数 $0$ で証明するが、Max Noether の定理は任意の標数の代数閉体の上で成り立つ(Har77 IV, 演習 5.5 の注(p. 348)。そこでは Saint-Donat の論文が挙げられている。この記事では証明しない)。同じ注は、$X$ が $g^1_3$ をもつ場合と、$g=6$ で $X$ が $g^2_5$ をもつ場合を除けば、標準曲線は 2 次超曲面の交わりであることも述べている(Enriques と Petri による。この記事では証明しない)。
2 次元の部分空間 $W\subset L(D)$ を $\lvert D\rvert$ の中の鉛筆という。$W$ の基底 $f_1,f_2$ について有効因子 $\operatorname{div}f_1+D$ と $\operatorname{div}f_2+D$ の台が交わらないとき、鉛筆 $W$ は基点をもたないという。
$D,F$ を因子とし、$W=\langle f_1,f_2\rangle\subset L(D)$ を基点をもたない鉛筆とする。掛け算の写像
$$
\mu\colon W\otimes L(F)\to L(D+F),\qquad f_1\otimes a+f_2\otimes b\mapsto f_1a+f_2b
$$
の核は $L(F-D)$ と同型である。とくに $\dim\bigl(W\cdot L(F)\bigr)=2\ell(F)-\ell(F-D)$ である。
$E_i:=\operatorname{div}f_i+D\ge0$ とおく。$c\in L(F-D)$ なら $c f_2,cf_1\in L(F)$ であり、$f_1\otimes cf_2-f_2\otimes cf_1$ は核に入る。この対応 $c\mapsto f_1\otimes cf_2-f_2\otimes cf_1$ は線形で、$f_1,f_2$ が線形独立なので単射である。逆に $f_1a+f_2b=0$ とし、$c:=a/f_2=-b/f_1$ とおく($a=0$ なら $b=0$ で $c=0$)。$a\in L(F)$ から $\operatorname{div}c+F-D=(\operatorname{div}a+F)-E_2\ge-E_2$、同様に $b$ から $\operatorname{div}c+F-D\ge-E_1$ である。$E_1$ と $E_2$ の台は交わらないので、各点で左辺の係数は $0$ 以上であり、$c\in L(F-D)$ である。このとき $a=cf_2$、$b=-cf_1$ なので、核の元は上の形をしている。次元の式は $\dim(W\otimes L(F))=2\ell(F)$ から従う。$\square$
この補題は Castelnuovo による「基点のない鉛筆の技法」と呼ばれる議論の曲線の場合である。$\ell(D)\ge2$ で $\lvert D\rvert$ が基点をもたなければ、基点のない鉛筆はつねにある。実際 $0\ne f_1\in L(D)$ をとり、$\operatorname{div}f_1+D$ の台の各点 $q$ で「$q$ で消える」元のなす $L(D)$ の真の部分空間を除けば、$k$ は無限体なので、残りから $f_2$ を選べる。
$\mathbb{P}^m$ の曲線 $Y$ の点 $y$ からの射影 $\pi_y$ とは、$y$ を通らない超平面 $\Lambda\cong\mathbb{P}^{m-1}$ をとり、$y$ と異なる点 $z$ に直線 $yz$ と $\Lambda$ の交点を対応させる写像である。$Y$ の滑らかな点 $P$ での接線を $L_P$ と書く。
$k$ の標数を $0$ とし、$m\ge3$、$Y\subset\mathbb{P}^m$ をどの超平面にも含まれない既約な曲線、$f\colon X\to Y$ を滑らかな曲線 $X$ からの双有理な射とする。このとき無限個の点 $y\in Y$ について、$\pi_y\circ f$ から延びる射 $X\to\mathbb{P}^{m-1}$ はその像の上への双有理な射である。
要点:射影がほとんどの点で双有理でないなら、接線が 2 本ずつ交わることを示し、すると接線がすべて 1 点を通るので、標数 $0$ では $Y$ が直線になって矛盾する。
$Y$ は超平面に含まれないので直線ではなく、直線と有限個の点でしか交わらない。$f$ は $Y$ の滑らかな点の集合 $Y^\circ$(有限個を除いた全体)の上で同型である。$y\in Y$ について $\psi_y:=\pi_y\circ f$ は滑らかな曲線からの有理写像なので射に延び、像 $Z_y$ は点ではない(点なら $Y$ は $y$ を通る直線に含まれる)。標数 $0$ なので、$\psi_y\colon X\to Z_y$ の次数が $1$ でなければ、$Z_y$ の有限個を除くすべての滑らかな点 $z$ の上で、$\psi_y$ のファイバーは 2 点以上からなり、$\psi_y$ はそこで不分岐である。この $y$ を悪い点と呼び、有限個を除くすべての点が悪いと仮定して矛盾を導く。
段 1:悪い点 $y\in Y^\circ$ と、上の性質をもつ $z$ のファイバーの相異なる 2 点 $x,x'$ で $P:=f(x)$、$Q:=f(x')$ が $Y^\circ\setminus\{y\}$ に入るものをとる(有限個を除くすべての $z$ でとれる)。$f$ は $Y^\circ$ の上で単射なので $P\ne Q$ で、$P,Q,y$ は 1 直線上にある。$\pi_y$ は $\mathbb{P}^m\setminus\{y\}$ の上の滑らかな写像で、その微分の核は $y$ への方向である。$\psi_y$ が $x$ で不分岐なので $y\notin L_P$ であり、$\pi_y(L_P)$ は $Z_y$ の $z$ での接線 $T$ に等しい。同様に $\pi_y(L_Q)=T$ である。よって $L_P$ と $L_Q$ は $y$ と $T$ の張る平面に含まれ、交わる。したがって、悪い点 $y$ ごとに、有限個を除くすべての $P\in Y^\circ$ について、$y\in PQ$ かつ $L_P\cap L_Q\ne\emptyset$ となる $Q\in Y^\circ\setminus\{P\}$ がある。
段 2:$S:=\{(P,Q)\in Y^\circ\times Y^\circ\mid L_P\cap L_Q\ne\emptyset\}$ は閉集合である($L_P$ は $P$ について代数的に動き、2 直線が交わることは 4 点の行列式が $0$ という閉条件である)。$S\ne Y^\circ\times Y^\circ$ と仮定する。既約な曲面の真の閉集合なので、$S$ は有限個の既約成分 $S_1,\dots,S_r$ をもち、それぞれ曲線か点である。悪い点 $y$ について $A_y:=\{(P,Q)\in S\mid P\ne Q,\ y\in PQ\}$ は $S$ から対角線を除いた集合の閉部分集合で、段 1 から無限集合である。よってある $S_i$ は $A_y$ の無限個の点を含む。$S_i$ は対角線に含まれない既約な曲線で、$A_y\cap S_i$ は $S_i$ から対角線との有限個の交点を除いた既約な曲線の閉集合で無限なので、それと一致する。悪い点は無限個あり成分は有限個なので、相異なる悪い点 $y_1,y_2$ と共通の $S_i$ がある。すると $S_i$ の対角線にない点 $(P,Q)$ について直線 $PQ$ は $y_1,y_2$ を通り、直線 $y_1y_2$ に等しい。$S_i$ は曲線なので $P$ か $Q$ は無限個の値をとり、$Y$ は直線 $y_1y_2$ と無限個の点で交わる。これは矛盾である。よって $S=Y^\circ\times Y^\circ$、すなわちどの 2 本の接線も交わる。
段 3:すべての接線が同じ直線なら $Y$ はその直線に含まれるので、$L_P\ne L_Q$ となる $P,Q$ がある。$A:=L_P\cap L_Q$、$\Pi$ を $L_P,L_Q$ の張る平面とする。$m\ge3$ なので $Y\not\subset\Pi$ で、$Y\cap\Pi$ は有限である。$R\in Y^\circ\setminus\Pi$ なら $L_R\not\subset\Pi$ なので $L_R\cap\Pi$ は 1 点で、それは $L_R\cap L_P$ と $L_R\cap L_Q$ の両方なので $A$ である。閉条件なのですべての $R\in Y^\circ$ で $A\in L_R$ となる。$A$ からの射影を $Y$ に制限すると、$Y^\circ\setminus\{A\}$ のすべての点で微分が $0$ になる。標数 $0$ では定数でない曲線の射の微分は有限個の点を除いて $0$ でないので、この射影は定数で、$Y$ は $A$ を通る直線に含まれる。これは矛盾である。$\square$
段 2・3 の議論は Har77 IV, Proposition 3.8 の証明(p. 311)と同じ方針である。正標数では段 3 の最後が成り立たず、すべての接線が 1 点を通る曲線(標数 $2$ の 2 次曲線)がある(同書 IV, Example 3.8.2・Theorem 3.9、p. 312)。
$k$ の標数を $0$ とし、$X$ を超楕円的でない種数 $g\ge3$ の曲線とする。相異なる点 $p_1,\dots,p_{g-2}$ で、$E:=p_1+\dots+p_{g-2}$ について $\ell(K-E)=2$ であり、$\lvert K-E\rvert$ が基点をもたないものがある。
要点:標準曲線を曲線上の点から次々に射影し、各段で像の上への写像が双有理であることを lem-mnc-projection で保つ。
$0\le j\le g-2$ について、相異なる点 $p_1,\dots,p_j$ で $E_j:=p_1+\dots+p_j$ が次をみたすものを順に作る。(a) $\ell(K-E_j)=g-j$ で $\lvert K-E_j\rvert$ は基点をもたない。(b) $j\le g-3$ なら、$\varphi_j:=\varphi_{K-E_j}\colon X\to\mathbb{P}^{g-1-j}$ は像 $Y_j$ の上への双有理な射である。$j=0$ では thm-mnc-canonical-embedding により成り立つ。
$j\le g-3$ まで作れたとする。$Y_j$ はどの超平面にも含まれない既約な曲線である。$\varphi_j$ は双有理なので、有限個を除くすべての $p\in X$ で、$\varphi_j^{-1}(\varphi_j(p))=\{p\}$ であり $\varphi_j$ の微分は $p$ で $0$ でない。$j\le g-4$ なら $g-1-j\ge3$ なので、lem-mnc-projection により、そのような $p$ で $p\notin\{p_1,\dots,p_j\}$ かつ $y:=\varphi_j(p)$ からの射影が $Y_j$ を双有理に写すものがとれる。$j=g-3$ なら、そのような $p$ を $p_1,\dots,p_j$ と異なるようにとるだけでよい。$p_{j+1}:=p$ とおく。
座標を $y=[1:0:\dots:0]$ となるようにとり、対応する $L(K-E_j)$ の基底を $h_0,\dots,h_{m}$($m=g-1-j$)とする。$h_1,\dots,h_m$ は $y$ を通る超平面に対応し、$p$ で消える元の全体 $L(K-E_j-p)$ を張る。よって $\ell(K-E_{j+1})=m=g-(j+1)$ である。点 $q\ne p$ が $\lvert K-E_{j+1}\rvert$ の基点であることは $\varphi_j(q)=y$ と同値で、$p$ の選び方から起こらない。$p$ が基点であることは、$h_1,\dots,h_m$ がすべて $p$ で 2 位以上消えること、すなわち $\varphi_j$ の微分が $p$ で $0$ であることと同値で、これも起こらない。よって (a) が成り立つ。$\varphi_{j+1}=[h_1:\dots:h_m]$ は $\pi_y\circ\varphi_j$ を延ばしたものなので、$j+1\le g-3$ なら $p$ の選び方から (b) が成り立つ。$j=g-2$ まで来ると $E:=E_{g-2}$ が求めるものである。$\square$
要点:$n=2$ では、鉛筆の補題で $L(2K-E)$ を得てから、点を 1 つずつ外して $L(2K)$ まで戻る。$n=3$ では標準因子の点を 1 つずつ足す議論、$n\ge4$ では鉛筆の補題だけで済む。
$n=2$。prop-mnc-good-points の $E=p_1+\dots+p_{g-2}$ をとり、$E_j:=p_1+\dots+p_j$ とする。$\ell(K)=g$、$\ell(K-E)=2$ で、点を 1 つ外すごとに $\ell$ は高々 $1$ しか下がらないから、$\ell(K-E_j)=g-j$ である。とくに $p_{j+1}$ は $\lvert K-E_j\rvert$ の基点でない。$L(K-E_j)\subset L(K)$ なので $M_j:=L(K-E_j)\cdot L(K)\subset R_2\cap L(2K-E_j)$ である。$\deg(2K-E_j)\ge3g-2>2g-2$ なので $\ell(2K-E_j)=3g-3-j$ である。
$j=g-2$:$W:=L(K-E)$ は基点のない鉛筆である。lem-mnc-pencil を $D=K-E$、$F=K$ に当てると、$\dim M_{g-2}=2g-\ell(E)$ である。Riemann–Roch の定理から $\ell(E)=\ell(K-E)+(g-2)+1-g=1$ なので $\dim M_{g-2}=2g-1=\ell(2K-E)$、すなわち $M_{g-2}=L(2K-E)$ である。
$j$ から $j-1$ へ($1\le j\le g-2$):$M_j=L(2K-E_j)$ とする。$p_j$ は $\lvert K-E_{j-1}\rvert$ の基点でないので、$s\in L(K-E_{j-1})$ で $s\notin L(K-E_j)$ となるものがある。$\lvert K\rvert$ は基点をもたないので $t\in L(K)$ で $t\notin L(K-p_j)$ となるものがある。$p_j$ は $E_{j-1}$ に現れないので、積 $st$ は $L(2K-E_{j-1})$ に入り $L(2K-E_j)$ に入らない。よって $\dim M_{j-1}\ge\dim M_j+1=\ell(2K-E_{j-1})$ で、$M_{j-1}=L(2K-E_{j-1})$ である。$j=1$ まで下りると $R_2\supset M_0=L(2K)$ を得る。
$n=3$。$0\ne s_0\in L(K)$ をとり、$Z:=\operatorname{div}s_0+K=x_1+x_2+\dots+x_{2g-2}$(同じ点が繰り返し現れてよい)とし、$Z_j:=x_1+\dots+x_j$ とおく。$N:=L(K)\cdot L(2K)\subset R_3$ である($R_2=L(2K)$ による)。$s_0L(2K)=L(3K-Z)$ は $N$ に入り、その次元は $\ell(2K)=3g-3$ である。$0\le j\le2g-3$ について、$N\cap L(3K-Z_j)$ が $L(3K-Z_{j+1})$ に入らない元をもつことを示す。$x:=x_{j+1}$ とおく。$j=0$ なら、$x$ で消えない $s\in L(K)$ と $t\in L(2K)$ の積をとる。$j\ge1$ なら $A:=x_1$、$A':=Z_j-x_1$ とする。$\lvert K-x_1\rvert$ は基点をもたない(基点 $x$ があれば $\ell(K-x_1-x)=\ell(K-x_1)$ で、Riemann–Roch の定理から $\ell(x_1+x)=2$ となり、$X$ が超楕円的になる)。$\deg(2K-A')=4g-4-(j-1)\ge2g$ なので $\lvert 2K-A'\rvert$ も基点をもたない。よって $s\in L(K-A)$ と $t\in L(2K-A')$ を、$x$ での位数がそれぞれ最小になるようにとれる($s\notin L(K-A-x)$、$t\notin L(2K-A'-x)$)。位数は足し合わされるので、$st\in L(3K-Z_j)$ だが $st\notin L(3K-Z_{j+1})$ である。この $2g-2$ 段から $\dim N\ge(3g-3)+(2g-2)=5g-5=\ell(3K)$ となり、$R_3=L(3K)$ である。
$n\ge4$。$R_{n-1}=L((n-1)K)$ とする。基点のない鉛筆 $W\subset L(K)$ をとる。lem-mnc-pencil を $D=K$、$F=(n-1)K$ に当てると、$\dim\bigl(W\cdot L((n-1)K)\bigr)=2(2n-3)(g-1)-(2n-5)(g-1)=(2n-1)(g-1)=\ell(nK)$ である($n-2\ge2$ なので $\ell((n-2)K)=(2n-5)(g-1)$)。よって $R_n\supset W\cdot R_{n-1}=L(nK)$ である。$\square$
$n=2$ の段で標数 $0$ を使ったのは prop-mnc-good-points だけである。$n=3$ と $n\ge4$ の段は、$R_2=L(2K)$ を認めれば任意の標数で成り立つ。$n=3$ で鉛筆の補題だけでは足りないのは、$W\cdot L(2K)$ の次元が $2(3g-3)-g=5g-6$ で、$\ell(3K)$ に $1$ だけ届かないからである。
cor-mnc-consequences の 3 の値を小さい種数で並べると次のようになる。
| 種数 $g$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ | $7$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 標準曲線のある空間 | $\mathbb{P}^2$ | $\mathbb{P}^3$ | $\mathbb{P}^4$ | $\mathbb{P}^5$ | $\mathbb{P}^6$ |
| 次数 $2g-2$ | $4$ | $6$ | $8$ | $10$ | $12$ |
| $\dim I_2$ | $0$ | $1$ | $3$ | $6$ | $10$ |
| $\dim I_3$ | $0$ | $5$ | $15$ | $31$ | $54$ |
超楕円的でない種数 $3$ の曲線の標準曲線は $\mathbb{P}^2$ の滑らかな 4 次曲線 $X=V_+(F)$ であり、逆に滑らかな平面 4 次曲線の標準因子は直線との交わりで、$X\subset\mathbb{P}^2$ は標準埋め込みである(Har77 IV, Example 5.2.1(p. 342)、II, Example 8.20.3(p. 183))。この場合は thm-mnc-main を直接確かめられる。完全列 $0\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}(n-4)\xrightarrow{F}\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}(n)\to\mathcal{O}_X(n)\to0$ と $H^1(\mathbb{P}^2,\mathcal{O}(n-4))=0$(Har77 III, Theorem 5.1, p. 225)により、$n$ 次斉次多項式の制限 $H^0(\mathbb{P}^2,\mathcal{O}(n))\to H^0(X,\mathcal{O}_X(n))=L(nK)$ は全射である。核は $F$ の倍元で、$\dim I_n=\binom{n-2}{2}$ となり、cor-mnc-consequences の 3 の式 $\binom{n+2}{2}-(4n-2)=\frac{(n-2)(n-3)}{2}$ と一致する。この場合、標準曲線は 2 次超曲面の交わりではなく、イデアルは 1 つの 4 次式で生成される。
超楕円的でない種数 $4$ の曲線の標準曲線 $X\subset\mathbb{P}^3$ は次数 $6$ である。cor-mnc-consequences の 3 により、$X$ を含む 2 次曲面は定数倍を除いてただ 1 つ $Q$ であり、$X$ を含む 3 次曲面の空間は 5 次元である。そのうち $Q$ と 1 次式の積は 4 次元しかないので、$Q$ で割り切れない 3 次式 $G$ がある。$X$ は既約で平面に含まれないので $Q$ は既約であり($Q$ が 2 平面の和なら $X$ はその一方に含まれる)、$Q$ で割り切れない $G$ とは共通成分をもたない。$X\subset Q\cap V_+(G)$ で、両辺の次数はともに $6$ なので、$X$ は $Q$ と $V_+(G)$ の完全交叉である。Har77 IV, Example 5.2.2(p. 342)は、Riemann–Roch の定理から $\dim I_2\ge1$、$\dim I_3\ge5$ を出して同じ結論を得ている。Max Noether の定理はこれらの不等式が等式であることを示す。
超楕円的でない種数 $5$ の曲線の標準曲線 $X\subset\mathbb{P}^4$ は次数 $8$ で、$X$ を含む 2 次超曲面の空間はちょうど 3 次元である。$X$ が $g^1_3$ をもたなければ、$X$ はこの 3 つの 2 次超曲面の完全交叉である(Har77 IV, 演習 5.5 の注、p. 348。この記事では証明しない)。$g^1_3$ $\lvert P+Q+R\rvert$ をもつ場合は、Riemann–Roch の定理から $\ell(K-P-Q-R)=3$ となるので、因子 $P+Q+R$(点は重複してもよい)は標準曲線の上で 1 本の直線に乗る。この直線を含まない 2 次超曲面と直線の交わりは重複度込みで高々 2 点だが、$X$ を含む 2 次超曲面は直線の上の重複度込み 3 点 $P+Q+R$ を含むので、$X$ を含む 2 次超曲面はすべてこの直線を含み、それらの交わりは $X$ より大きい。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ が超楕円的でない | 種数 $g\ge3$ の超楕円的な曲線 | $R_2=L(2K)$($\dim R_2=2g-1<3g-3$) |
| $g\ge3$ | 種数 $2$ の曲線 | $R_3=L(3K)$($\dim R_3=4<5$。$R_2=L(2K)$ は成り立つ) |
| 線形系が標準線形系 | 種数 $3$ の平面 4 次曲線の $D=K-p+q$($p\ne q$) | $L(D)\cdot L(D)=L(2D)$(左辺は $3$ 次元以下、右辺は $6$ 次元) |
各行を確かめる。
1 行目:prop-mnc-hyperelliptic-map から $\dim R_2=2(g-1)+1=2g-1$ であり、$\ell(2K)=3g-3$ である。$g\ge3$ なら $3g-3-(2g-1)=g-2>0$ である。同じく $\dim R_n=n(g-1)+1$ は $\ell(nK)=(2n-1)(g-1)$ より $(n-1)(g-1)-1$ だけ小さく、$n\ge2$ のすべてで全射でない。
2 行目:種数 $2$ の曲線は超楕円的である(thm-mnc-canonical-embedding)。prop-mnc-hyperelliptic-map から $\dim R_2=3=\ell(2K)$、$\dim R_3=4$、$\ell(3K)=5$ である。
3 行目:$K-D=p-q$ は次数 $0$ の因子で、種数が $1$ 以上なので $p\not\sim q$ であり(Riemann–Rochの定理 の定理「射影直線の特徴づけ」)、主因子でない。次数 $0$ の因子の $\ell$ は主因子のとき $1$、そうでないとき $0$ なので $\ell(K-D)=0$ で、Riemann–Roch の定理から $\ell(D)=4+1-3=2$ である。$L(D)\cdot L(D)$ は 2 次元の空間の対称積の像なので $3$ 次元以下である。$\deg 2D=8>4$ なので $\ell(2D)=8+1-3=6$ である。
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