普遍被覆(universal covering)とは、位相空間 $X$ の被覆写像 $p\colon\tilde X\to X$ で、被覆空間 $\tilde X$ が単連結であるもののことである。$X$ が弧状連結かつ局所弧状連結なら、普遍被覆は弧状連結なすべての被覆空間を上から覆い、そのため同型を除いてただ一つに決まる。普遍被覆をもつ空間は半局所単連結であり、逆に弧状連結かつ局所弧状連結で半局所単連結な空間は、基点から出る道のホモトピー類の空間として普遍被覆をもつ。被覆変換群は基本群 $\pi_1(X)$ と同型で、$X$ は $\tilde X$ を基本群の作用で割った空間になり、例として $\mathbb{R}\to S^1$ や $n\ge2$ での $S^n\to\mathbb{RP}^n$ がある。
空間 $X$ の普遍被覆は、$X$ の被覆空間のうち単連結なもの、すなわち $X$ のループの巻き付きをすべてほどいた被覆である。円周 $S^1$ に対する実数直線 $\mathbb{R}$($t\mapsto(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$)、トーラスに対する平面、$n\ge2$ のときの実射影空間 $\mathbb{RP}^n$ に対する球面 $S^n$ が典型例である。
普遍被覆が「普遍」と呼ばれるのは、$X$ が弧状連結かつ局所弧状連結なら、$X$ の弧状連結な被覆空間をすべて上から覆い(thm-ucov-universal)、そのため同型を除いてただ一つに決まる(cor-ucov-unique)からである。存在するための条件は半局所単連結性であり(prop-ucov-necessary、thm-ucov-existence)、普遍被覆は基点から出る道のホモトピー類の空間として具体的に構成できる。普遍被覆の被覆変換群は基本群と同型で、$X$ は普遍被覆を基本群の作用で割った空間になる。この記事では、普遍性・一意性・存在定理を証明し、条件を外すと何が崩れるかを例で確かめる。
これは被覆空間の記事の定義「普遍被覆と被覆変換」と同じである。二つの被覆 $q_1\colon E_1\to X$、$q_2\colon E_2\to X$ の間の連続写像 $f\colon E_1\to E_2$ で $q_2\circ f=q_1$ を満たすものを被覆の射といい、それが同相写像のとき被覆の同型という(被覆空間の記事の定義「被覆の圏」)。
$$
\xymatrix{
E_1 \ar[rr]^{f} \ar[dr]_{q_1} & & E_2 \ar[dl]^{q_2} \\
& X &
}
$$
この記事の主な定理では、底空間 $X$ を弧状連結かつ局所弧状連結空間と仮定する。このとき被覆空間 $E$ も局所弧状連結であり(局所弧状連結空間の記事の系「被覆写像と局所弧状連結性」)、$E$ が連結であることと弧状連結であることは同値になる(同記事の系「開集合の連結成分」)。
普遍被覆を「連結な被覆で、他のすべての連結な被覆を覆うもの」と普遍性で定義する流儀もある。$X$ が弧状連結かつ局所弧状連結で普遍被覆をもてば、二つの定義は一致する(cor-ucov-unique の 2)。Mun00 §80(p. 484)と Hat02 §1.3(p. 68)は、この記事と同じく単連結性で定義する。局所弧状連結でない空間では、単連結な被覆が「連結な被覆をすべて覆う」という意味の普遍性をもつとは限らず、二つの流儀が食い違う(ex-ucov-counterexamples の 4 行目)。
$X$ の点 $x_0$ から出る道を被覆空間に持ち上げると、終点は道のホモトピー類だけで決まる。被覆空間が単連結なら、逆に被覆空間の各点は、基点からそこへ行く道のホモトピー類でちょうど一つずつ表される。したがって普遍被覆の点とは「$x_0$ から出る道の、端点を止めた変形類」であり、$X$ の同じ点に着く道でも、異なるループを巻いてから着けば普遍被覆では別の点になる。円周では「何周したか」が実数直線の整数部分として記録される。この見方がそのまま普遍被覆の構成(thm-ucov-existence)になり、基本群のループ $[\alpha]$ は「先に $\alpha$ を回る」ことで普遍被覆の点を動かす被覆変換として働く。
$X$ を弧状連結かつ局所弧状連結な空間、$p\colon\tilde X\to X$ を普遍被覆とし、$x_0\in X$、$\tilde x_0\in p^{-1}(x_0)$ とする。$q\colon E\to X$ を被覆写像で $E$ が弧状連結なものとし、$e_0\in q^{-1}(x_0)$ とする。このとき、被覆の射 $f\colon\tilde X\to E$($q\circ f=p$)で $f(\tilde x_0)=e_0$ を満たすものがただ一つ存在し、$f$ はそれ自身被覆写像である。
$$
\xymatrix{
\tilde X \ar@{.>}[rr]^{f} \ar[dr]_{p} & & E \ar[dl]^{q} \\
& X &
}
$$
段 1($f$ の存在と一意性):$\tilde X$ と $E$ は局所弧状連結な $X$ の被覆空間なので局所弧状連結であり(局所弧状連結空間の記事の系「被覆写像と局所弧状連結性」)、ともに弧状連結である。$\tilde X$ は単連結なので $p_*\pi_1(\tilde X,\tilde x_0)$ は自明な部分群であり、$q_*\pi_1(E,e_0)$ に含まれる。したがって持ち上げの判定法(被覆変換群の記事の補題「持ち上げの判定法」を、被覆 $q$ と写像 $p\colon\tilde X\to X$ に当てる)により、$p$ の $q$ に沿った持ち上げ $f\colon\tilde X\to E$ で $f(\tilde x_0)=e_0$ となるものがただ一つ存在する。$q\circ f=p$ は持ち上げであることの言い換えである。
段 2($f$ は全射):$e\in E$ をとり、$E$ の中の $e_0$ から $e$ への道 $\beta$ をとる。$q\circ\beta$ は $X$ の中の $x_0$ から出る道なので、$p$ に沿った持ち上げ $\tilde\beta$ で $\tilde\beta(0)=\tilde x_0$ となるものがある(被覆空間の記事の定理「道の持ち上げ」)。$f\circ\tilde\beta$ は $q\circ f\circ\tilde\beta=p\circ\tilde\beta=q\circ\beta$ を満たし $e_0$ から始まるので、$q\circ\beta$ の $q$ に沿った持ち上げで始点が $\beta$ と同じである。持ち上げの一意性により $f\circ\tilde\beta=\beta$ であり、$e=\beta(1)=f(\tilde\beta(1))$ である。
段 3($f$ は被覆写像):$e\in E$ をとり、$x:=q(e)$ とおく。$x$ の均一被覆近傍を $p$ と $q$ のそれぞれについてとり、その共通部分の中に、局所弧状連結性により弧状連結な開集合 $W\ni x$ をとる。均一被覆近傍の開部分集合は均一に被覆される(被覆空間の記事の注意「定義の流儀」)ので、$W$ は $p$ についても $q$ についても均一に被覆される。$q$ についての $W$ 上のシートで $e$ を含むものを $W_e$ とする。
$p$ についての $W$ 上のシート $V$ を一つとる。$V$ は $W$ と同相なので弧状連結であり、$q(f(V))=p(V)=W$ なので $f(V)\subset q^{-1}(W)$ である。$q^{-1}(W)$ は $q$ のシートたちの互いに交わらない開集合の和であり、弧状連結な $f(V)$ はそのうちの一つのシート $W'$ に含まれる。$V$ の上では $q|_{W'}\circ f|_V=p|_V$ なので
$$
f|_V=(q|_{W'})^{-1}\circ p|_V\colon V\to W'
$$
であり、これは同相写像 $p|_V\colon V\to W$ と $(q|_{W'})^{-1}\colon W\to W'$ の合成なので同相写像である。
$f^{-1}(W_e)\subset p^{-1}(W)$ であり、$p^{-1}(W)$ は $p$ のシートの和で、各シートは丸ごと一つの $q$ のシートに写る。よって $f^{-1}(W_e)$ は、$f(V)\subset W_e$ となる $p$ のシート $V$ 全体の和であり、それらは互いに交わらない $\tilde X$ の開集合で、それぞれ $f$ により $W_e$ の上へ同相に写る。すなわち $W_e$ は $f$ について均一に被覆される。$E$ の各点がこのような開近傍をもち、段 2 により $f$ は全射なので、$f$ は被覆写像である。$\square$
段 3 は Mun00 §80 Lemma 80.2 (a)(p. 485)、定理全体は Theorem 80.3(p. 486)と同じ内容である。
$X$ を弧状連結かつ局所弧状連結な空間とする。
1:thm-ucov-universal により、基点を保つ被覆の射 $f\colon\tilde X_1\to\tilde X_2$ と $g\colon\tilde X_2\to\tilde X_1$ がある。$g\circ f$ と $\mathrm{id}$ はどちらも $p_1$ の $p_1$ に沿った持ち上げで、$\tilde x_1$ で一致するので、$\tilde X_1$ が連結であることから $g\circ f=\mathrm{id}$ である(被覆空間の記事の定理「持ち上げの一意性」)。同様に $f\circ g=\mathrm{id}$ なので、$f$ は同相写像である。一意性は thm-ucov-universal の一意性による。
2:$E$ が単連結なら、$E\to X$ は普遍被覆なので thm-ucov-universal による。逆に、後者の性質をもつとし、$p\colon\tilde X\to X$ を普遍被覆とする。性質を $Y=\tilde X$ に当てて、被覆の射 $h\colon E\to\tilde X$ をとる。$e_0\in E$ を一つとり $\tilde x_1:=h(e_0)$ とおくと、thm-ucov-universal により被覆の射 $f\colon\tilde X\to E$ で $f(\tilde x_1)=e_0$ となるものがある。$h\circ f$ と $\mathrm{id}$ はどちらも $p$ の $p$ に沿った持ち上げで $\tilde x_1$ で一致するので、$h\circ f=\mathrm{id}$ である。よって $f$ は単射であり、thm-ucov-universal により全射な被覆写像、したがって連続な全単射の開写像(被覆写像は開写像)なので同相写像である。$E$ は単連結な $\tilde X$ と同相なので単連結である。$\square$
1 により、普遍被覆は(存在すれば)同型を除いて一つに決まり、「$X$ の普遍被覆」と呼んでよい。
普遍被覆があるためには、小さいループが空間の中で縮むことが必要である。$X$ が半局所単連結であるとは、各点 $x$ が近傍 $U$ をもち、$U$ の中の $x$ を基点とするループがすべて $X$ の中で定値ループと道としてホモトピックになることをいう(半局所単連結空間の記事の定義「半局所単連結空間」)。
位相空間 $X$ が普遍被覆をもてば、$X$ は弧状連結かつ半局所単連結である。
$p\colon\tilde X\to X$ を普遍被覆とする。$X=p(\tilde X)$ は弧状連結な $\tilde X$ の連続像なので弧状連結である。$x\in X$ の均一被覆近傍 $U$ と、$x$ の上の点 $\tilde x$ を含むシート $\tilde U$ をとる。$\lambda$ を $U$ の中の $x$ を基点とするループとすると、$\tilde\lambda:=(p|_{\tilde U})^{-1}\circ\lambda$ は $\tilde U$ の中の $\tilde x$ を基点とするループである。$\tilde X$ は単連結なので、$\tilde\lambda$ から定値ループへの道のホモトピー $\tilde H$ がある。$p\circ\tilde H$ は $\lambda=p\circ\tilde\lambda$ から定値ループへの $X$ の中の道のホモトピーである。$\square$
Hat02 §1.3(p. 63)、Mun00 §80 Lemma 80.4(p. 486)にある。逆に、局所弧状連結性を加えればこの条件は十分である。
$X$ を弧状連結、局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、$x_0\in X$ とする。$x_0$ から出る道 $\gamma$ の道のホモトピー類 $[\gamma]$ 全体の集合を $\tilde X$ とし、$p\colon\tilde X\to X$ を $p([\gamma]):=\gamma(1)$ で定める。$\tilde X$ に下の証明の段 3 の位相を入れると、$p$ は $X$ の普遍被覆である。
道の積・逆の道・道のホモトピーは道(位相)と基本群の記事の記法で書く。道の積は道のホモトピー類の上で矛盾なく定まり、類の上では結合的で、$[\gamma\cdot\bar\gamma]$ は定値道の類である(基本群の記事の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」と定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」)。以下この性質は断らずに使う。$p$ は、道のホモトピーが終点を止めるので矛盾なく定まり、$X$ が弧状連結なので全射である。
段 1(よい開集合):$X$ の開集合 $U$ で、弧状連結であり、$U$ の中のループ(基点は $U$ のどの点でもよい)がすべて $X$ の中で定値道とホモトピックになるものをよい開集合と呼び、その全体を $\mathcal{U}$ とする。よい開集合に含まれる弧状連結な開集合はよい開集合である。$\mathcal{U}$ は $X$ の開基である。
$x\in X$ と $x$ を含む開集合 $O$ をとる。半局所単連結性により、$x$ の近傍 $N$ で、$N$ の中の $x$ を基点とするループが $X$ の中で縮むものがある。局所弧状連結性により、弧状連結な開集合 $U$ で $x\in U\subset O\cap N$ となるものがある。$u\in U$ を基点とする $U$ の中のループ $\lambda$ に対し、$U$ の中の $x$ から $u$ への道 $\beta$ をとると、$\beta\cdot\lambda\cdot\bar\beta$ は $N$ の中の $x$ を基点とするループなので $X$ の中で縮み、$[\lambda]=[\bar\beta][\beta\cdot\lambda\cdot\bar\beta][\beta]=[\bar\beta\cdot\beta]=[c_u]$ である。よって $U\in\mathcal{U}$ で、$x\in U\subset O$ である。前半の主張は、小さい開集合の中のループは大きい開集合の中のループでもあることから従う。
(b):$[\gamma']=[\gamma\cdot\eta]$($\eta$ は $U$ の中の道)とする。$U_{[\gamma']}$ の元 $[\gamma'\cdot\mu]$ は $[\gamma\cdot(\eta\cdot\mu)]$ に等しく、$\eta\cdot\mu$ は $U$ の中の $\gamma(1)$ から出る道なので $U_{[\gamma]}$ に属する。逆に $U_{[\gamma]}$ の元 $[\gamma\cdot\mu]$ は $[\gamma\cdot\eta\cdot\bar\eta\cdot\mu]=[\gamma'\cdot(\bar\eta\cdot\mu)]$ に等しく、$\bar\eta\cdot\mu$ は $U$ の中の $\gamma'(1)=\eta(1)$ から出る道なので $U_{[\gamma']}$ に属する。
(c):$V_{[\gamma]}\subset U_{[\gamma]}\cap p^{-1}(V)$ は定義から明らか。逆に $[\gamma\cdot\eta]\in U_{[\gamma]}$ で $\eta(1)\in V$ とする。$V$ は弧状連結なので $V$ の中の $\gamma(1)$ から $\eta(1)$ への道 $\eta'$ があり、$\eta,\eta'$ はよい開集合 $U$ の中の同じ端点の道なので、($\ast$) により $[\gamma\cdot\eta]=[\gamma\cdot\eta']\in V_{[\gamma]}$ である。
段 3(位相):$\mathcal{B}:=\{U_{[\gamma]}\}$ は $\tilde X$ のある位相の開基になる。実際、各 $[\gamma]\in\tilde X$ は $\gamma(1)$ を含む $U\in\mathcal{U}$ について $U_{[\gamma]}$ に属する($\eta$ を定値道にとる)。また $[\gamma'']\in U_{[\gamma]}\cap V_{[\gamma']}$ なら、(b) により $U_{[\gamma]}=U_{[\gamma'']}$、$V_{[\gamma']}=V_{[\gamma'']}$ であり、段 1 により $W\in\mathcal{U}$ で $\gamma''(1)\in W\subset U\cap V$ となるものをとれば、(c) により $[\gamma'']\in W_{[\gamma'']}\subset U_{[\gamma]}\cap V_{[\gamma']}$ である。$\tilde X$ にはこの開基の生成する位相を入れる。
段 4($p$ は被覆写像):まず $p$ は連続である。$X$ の開集合 $O$ と $[\gamma]\in p^{-1}(O)$ に対し、$\gamma(1)\in V\subset O$ となる $V\in\mathcal{U}$ をとれば $[\gamma]\in V_{[\gamma]}\subset p^{-1}(O)$ だからである。次に、$p|_{U_{[\gamma]}}\colon U_{[\gamma]}\to U$ は同相写像である。(a) により全単射で、連続であり、$U_{[\gamma]}$ の開集合は開基の元 $W_{[\gamma']}\subset U_{[\gamma]}$ の和で、その像 $p(W_{[\gamma']})=W$ は開集合だから、開写像でもある。最後に $U\in\mathcal{U}$ について、$p^{-1}(U)$ は $\gamma(1)\in U$ となる $[\gamma]$ についての $U_{[\gamma]}$ の和であり、(b) により二つの $U_{[\gamma]}$、$U_{[\gamma']}$ は一致するか交わらない。よって $p^{-1}(U)$ は互いに交わらない開集合の和で、各々が $U$ の上へ同相に写る。$\mathcal{U}$ は $X$ を覆うので、$p$ は被覆写像である。
段 5($\tilde X$ は弧状連結):$\tilde x_0:=[c_{x_0}]$ とおく。$x_0$ から出る道 $\gamma$ と $t\in I$ に対し $\gamma_t(s):=\gamma(ts)$ とおき、$\Gamma(t):=[\gamma_t]$ と定める。$\Gamma$ は $\tilde X$ の中の $\tilde x_0$ から $[\gamma]$ への道であり、$p\circ\Gamma=\gamma$ を満たす。
$t_0\in I$ をとり、$\gamma(t_0)$ を含む $U\in\mathcal{U}$ と、$J:=I\cap(t_0-\delta,t_0+\delta)$ について $\gamma(J)\subset U$ となる $\delta>0$ をとる。$t\in J$ に対し、$\eta_t(s):=\gamma(t_0+s(t-t_0))$ は $U$ の中の $\gamma(t_0)$ から $\gamma(t)$ への道である。$\gamma_{t_0}\cdot\eta_t=\gamma\circ\varphi$、$\gamma_t=\gamma\circ\psi$ と書ける。ここで $\varphi(s)=2st_0$($s\le1/2$)、$\varphi(s)=t_0+(2s-1)(t-t_0)$($s\ge1/2$)、$\psi(s)=ts$ であり、どちらも $I$ から $I$ への連続写像で $0\mapsto0$、$1\mapsto t$ を満たす。$H(s,u):=\gamma((1-u)\varphi(s)+u\psi(s))$ は端点 $\gamma(0)$、$\gamma(t)$ を止めた道のホモトピーなので、$\Gamma(t)=[\gamma_{t_0}\cdot\eta_t]\in U_{[\gamma_{t_0}]}$ である。$p(\Gamma(t))=\gamma(t)$ なので、$J$ の上で $\Gamma=(p|_{U_{[\gamma_{t_0}]}})^{-1}\circ\gamma$ であり、段 4 によりこれは連続である。$\Gamma(0)=[c_{x_0}]$、$\Gamma(1)=[\gamma]$ である。
この構成は Hat02 §1.3(pp. 63–65)、Mun00 §82 Theorem 82.1(p. 495)と同じものである。prop-ucov-necessary と合わせて次を得る。
弧状連結かつ局所弧状連結な空間 $X$ について、$X$ が普遍被覆をもつことと、$X$ が半局所単連結であることは同値である。
普遍被覆をもてば半局所単連結であることは prop-ucov-necessary、逆は thm-ucov-existence による。$\square$
この系は Mun00 §82 Corollary 82.2(p. 498)であり、半局所単連結空間の記事の定理「普遍被覆の存在(引用)」の内容である。多様体と CW複体は局所可縮なので、弧状連結ならこれらの条件を満たし、普遍被覆をもつ(被覆空間の記事の注意「分類定理の証明について」)。
普遍被覆 $p\colon\tilde X\to X$ の被覆変換群($p\circ\sigma=p$ を満たす同相写像 $\sigma$ の群)は基本群 $\pi_1(X,x_0)$ と同型であり、ファイバー $p^{-1}(x_0)$ に自由かつ推移的に作用する(被覆変換群の記事の系「普遍被覆の被覆変換群」)。thm-ucov-existence の構成では、$[\alpha]\in\pi_1(X,x_0)$ は $[\gamma]\mapsto[\alpha\cdot\gamma]$(先に $\alpha$ を回ってから $\gamma$ をたどる)として働く。実際、$\sigma_\alpha([\gamma]):=[\alpha\cdot\gamma]$ は類の上で矛盾なく定まり、終点を変えないので $p\circ\sigma_\alpha=p$ を満たし、$\sigma_{\bar\alpha}$ を逆写像にもつ。さらに段 2 の集合 $U_{[\gamma]}$ を $U_{[\alpha\cdot\gamma]}$ の上へ全単射に写し、そこでは $\sigma_\alpha=(p|_{U_{[\alpha\cdot\gamma]}})^{-1}\circ p|_{U_{[\gamma]}}$ なので連続である。よって $\sigma_\alpha$ は被覆変換であり、$\sigma_\alpha\circ\sigma_\beta=\sigma_{\alpha\cdot\beta}$ かつ $\sigma_\alpha(\tilde x_0)=[\alpha]$ である。被覆変換は 1 点での値で決まる(被覆変換群の記事の補題「被覆変換は 1 点で決まる」)ので、どの被覆変換 $\sigma$ も $\sigma(\tilde x_0)=[\alpha]$ となる $\sigma_\alpha$ に等しく、$[\alpha]\mapsto\sigma_\alpha$ が上の同型を与える。普遍被覆は正則被覆なので、$\tilde X$ を被覆変換群で割った空間は $X$ と同相である(被覆変換群の記事の命題「被覆変換群の作用は被覆空間作用」)。
さらに、$\pi_1(X,x_0)$ の部分群 $H$ に対し、$\tilde X$ を $H$ の作用で割った空間 $\tilde X/H\to X$ は、$H$ に対応する被覆空間である(Hat02 §1.3 Proposition 1.36、p. 66)。こうして弧状連結な被覆空間の同型類は $\pi_1(X,x_0)$ の部分群の共役類と一対一に対応する(被覆空間の記事の定理「普遍被覆の存在と被覆空間の分類」)。thm-ucov-universal は、この対応で自明な部分群が他のすべての部分群に含まれることの、被覆の側での表れである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 半局所単連結性(thm-ucov-existence) | ハワイの耳飾り $\mathbb{H}$ | 普遍被覆が存在すること |
| 被覆空間の単連結性(thm-ucov-universal) | 円周の 2 重被覆 $S^1\to S^1$、$z\mapsto z^2$ | 他の弧状連結な被覆($\mathbb{R}\to S^1$)を覆うこと |
| 覆われる側の被覆の弧状連結性(thm-ucov-universal) | 円周の自明な 2 重被覆 $S^1\sqcup S^1\to S^1$ | 被覆の射 $f$ が全射(被覆写像)であること |
| 底空間の局所弧状連結性(普遍性を連結な被覆で述べる流儀、rem-ucov-conventions) | ワルシャワ円 $W$ と恒等写像 $W\to W$ | 単連結な被覆が連結な被覆をすべて覆うこと |
1 行目:$\mathbb{H}$ は弧状連結かつ局所弧状連結である(局所弧状連結空間の記事の例「ハワイの耳飾りの局所弧状連結性」)が、半局所単連結でない(半局所単連結空間の記事の命題「Hawaiianイヤリングは半局所単連結でない」)。prop-ucov-necessary により $\mathbb{H}$ は普遍被覆をもたない。
2 行目:$s(z)=z^2$ は弧状連結な被覆である(被覆空間の記事の例「円周の $n$ 重被覆」)が、$\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ なので被覆空間 $S^1$ は単連結でない。被覆の射 $f\colon S^1\to\mathbb{R}$($e\circ f=s$)があるとすると、誘導準同型について $s_*=e_*\circ f_*$ は $\pi_1(\mathbb{R})=\{1\}$ を経由するので自明である。ところが被覆写像の誘導準同型は単射であり(被覆空間の記事の定理「基本群との関係」の 1)、$\pi_1(S^1)$ は自明でないので矛盾する。よって $s$ は $e$ を覆わない。
3 行目:$E:=S^1\times\{1,2\}$、$q(z,j):=z$ は被覆だが弧状連結でない。$e\colon\mathbb{R}\to S^1$ から $E$ への被覆の射は、$\mathbb{R}$ が連結なので像が一方の $S^1\times\{j\}$ に入り、全射でない。
4 行目:$W$ は弧状連結で基本群が自明なので単連結であり(局所弧状連結空間の記事の例「ワルシャワ円と持ち上げの判定法」の 1)、恒等写像 $W\to W$ は単連結な被覆である。しかし $W$ には、恒等写像が覆わない連結な 2 重被覆 $\pi\colon E\to W$ がある。したがって、普遍性を連結な被覆で述べる流儀では、$W$ の単連結な被覆は普遍性をもたない。
位相幾何学者の正弦曲線の記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」の証明の段 4 の記号を使う:$I=\{0\}\times[-1,1]$、同相写像 $h\colon W\setminus I\to(0,1)$($G$ 上で $h(x,\sin(1/x))=x/2$、$L$ 上では $h\to1$ で $(0,-1)$ に近づく)、連続写像 $q\colon W\to S^1$($W\setminus I$ 上で $q=e^{2\pi ih}$、$I$ 上で $q=1$)。
構成:$E:=\{(w,z)\in W\times S^1\mid z^2=q(w)\}$、$\pi(w,z):=w$ とおく。$s(z)=z^2$ の均一被覆近傍 $V$(シート $V_1,V_2$、$\sigma_j:=(s|_{V_j})^{-1}$)をとると、$\pi^{-1}(q^{-1}(V))$ は互いに交わらない開集合 $E\cap(q^{-1}(V)\times V_j)$($j=1,2$)に分かれ、各々は $\pi$ により $q^{-1}(V)$ の上へ同相に写る(逆写像は $w\mapsto(w,\sigma_j(q(w)))$)。よって $\pi$ は 2 重被覆である。
連結性:$W\setminus I$ 上の連続写像 $\tau_\pm(w):=(w,\pm e^{\pi ih(w)})$ は $E$ に値をとり、$E=\tau_+(W\setminus I)\cup\tau_-(W\setminus I)\cup(I\times\{1\})\cup(I\times\{-1\})$ である。4 つの集合はどれも連結である。$G$ の点 $w_k:=(1/(k\pi),0)$ は $(0,0)$ に近づき $h(w_k)\to0$ なので、$\tau_\pm(w_k)\to((0,0),\pm1)$ である。$L$ の点 $w'_k\to(0,-1)$ では $h(w'_k)\to1$ なので、$\tau_+(w'_k)\to((0,-1),-1)$ である。よって $\tau_+(W\setminus I)$ の閉包は $I\times\{1\}$ と $I\times\{-1\}$ の両方と交わり、$\tau_-(W\setminus I)$ の閉包は $I\times\{-1\}$ と交わる。連結集合 $C$ と、$C$ の閉包と交わる連結集合 $D$ の和は連結なので、4 つの和 $E$ は連結である。
覆わないこと:恒等写像から $\pi$ への被覆の射とは、連続写像 $k\colon W\to E$ で $\pi\circ k=\mathrm{id}_W$ を満たすもの(切断)である。$E$ は Hausdorff なので $k(W)=\{y\in E\mid k(\pi(y))=y\}$ は閉集合である。また $w\in W$ について、$k(w)$ を含む上のシート $\tilde V$ をとると、$N:=k^{-1}(\tilde V)$ は $w$ の開近傍で、$k(N)=\tilde V\cap\pi^{-1}(N)$ は開集合である。よって $k(W)$ は $E$ の空でない開かつ閉集合であり、$E$ は連結なので $k(W)=E$ となる。すると $\pi$ は $E$ 上で単射になるが、$\pi$ の各ファイバーは 2 点なので矛盾する。
普遍被覆は、基本群を「単連結な空間に作用する群」として実現する。単連結かつ局所弧状連結な空間 $Y$ に群 $\Gamma$ が被覆空間作用で作用していれば、$Y\to Y/\Gamma$ は普遍被覆で $\pi_1(Y/\Gamma)\cong\Gamma$ となる(被覆変換群の記事の命題「被覆空間作用による商は正則被覆」と系「普遍被覆の被覆変換群」)。トーラス、Klein の壺、レンズ空間の基本群はこの方法で計算される。逆に、空間の性質を普遍被覆の性質に帰着させることも多い。たとえば非正曲率の完備 Riemann 多様体は、普遍被覆が $\mathbb{R}^n$ と微分同相になる(ex-ucov-groups の 3)ので、$\mathbb{R}^n$(と微分同相な空間)を基本群と同型な被覆変換群で割った空間として表される(上の節の被覆変換群の命題による)。
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