閉部分多様体のPoincaré双対

同義語:閉Poincaré双対Poincaré双対類closed Poincaré dualPoincaré dual of a closed submanifold

概要

閉部分多様体のPoincaré双対(closed Poincaré dual)とは、向き付けられた $n$ 次元多様体 $M$ の向き付けられた $k$ 次元閉部分多様体 $S$ に対し、コンパクト台のすべての閉 $k$ 形式 $\omega$ について $\int_S\omega=\int_M\omega\wedge\eta_S$ をみたす類 $\eta_S\in H^{n-k}(M)$ である。$S$ の管状近傍に台をもつ法束の Thom 形式を $0$ で延ばしたものが代表を与え、$S$ のいくらでも小さな近傍に台をとれる。$S$ がコンパクトなら、すべての閉形式について同じ等式をみたすコンパクト台の双対もあり、穴あき平面の円周では閉双対が $0$ でもコンパクト双対は $0$ でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: コンパクト台de Rhamコホモロジー, Poincaré双対, Thom同型, 管状近傍定理

向き付けられた $n$ 次元多様体 $M$ の中の、向き付けられた $k$ 次元の閉部分多様体 $S$ について、$S$ の上で $k$ 形式を積分する操作は、$M$ 上のある $n-k$ 次の閉形式 $\eta_S$ を掛けて $M$ 全体で積分する操作に置き換えられる:
$$ \int_S\omega=\int_M\omega\wedge\eta_S\qquad(\omega\text{ はコンパクト台の閉 }k\text{ 形式}). $$
この類 $[\eta_S]\in H^{n-k}(M)$ を $S$ の閉 Poincaré 双対(closed Poincaré dual)という。$S$ がコンパクトなら、すべての閉 $k$ 形式に対して同じ等式が成り立つコンパクト台の類 $\eta'_S\in H^{n-k}_c(M)$ もあり、こちらをコンパクト Poincaré 双対という。
閉 Poincaré 双対は、$S$ のまわりの管状近傍に台をもち、各法方向の円板の上で積分が $1$ になる形式で代表される。すなわち $S$ の法束の Thom 類を $0$ で延ばしたものである。部分多様体という幾何的な対象をコホモロジー類に変えるこの対応は、横断的な交わりを外積に、逆像を引き戻しに写し、代数幾何のサイクル類や Gysin写像 の原型になっている。
この記事では、2 つの双対を定義して一意性を述べ、Thom 形式を管状近傍から $0$ で延ばしたものが閉 Poincaré 双対であることを、台の調整まで含めて証明する。穴あき平面の半直線と円周について双対を全部計算し、半直線の閉双対は $d\theta/2\pi$ で $0$ でないこと、円周の閉双対は $0$ だがコンパクト双対は $0$ でないことを示す。

定義

多様体は Hausdorff で第 2 可算な、境界のない $C^\infty$ 級多様体とする。$M$ を向き付けられた $n$ 次元多様体、$S\subset M$ を $k$ 次元の部分多様体で $M$ の閉集合であるもの(閉部分多様体)とし、$S$ にも向きを与え、包含を $i\colon S\hookrightarrow M$ と書く。
$\omega\in\Omega^k_c(M)$ なら $\operatorname{supp}i^*\omega\subset S\cap\operatorname{supp}\omega$ はコンパクトなので $\int_Si^*\omega$ が定まり、$\omega=d\alpha$($\alpha\in\Omega^{k-1}_c(M)$)なら Stokes の定理により $\int_Si^*d\alpha=\int_Sd(i^*\alpha)=0$ である。よって $\int_S$ は線型写像 $H^k_c(M)\to\mathbb R$ を定める(コンパクト台de Rhamコホモロジー)。同様に、閉形式 $\omega$ とコンパクト台の閉形式 $\eta$ の積分 $\int_M\omega\wedge\eta$ は類だけで決まる。

閉 Poincaré 双対とコンパクト Poincaré 双対
  1. 類 $\eta_S\in H^{n-k}(M)$ が $S$ の閉 Poincaré 双対であるとは、すべての閉形式 $\omega\in\Omega^k_c(M)$ について $\int_Si^*\omega=\int_M\omega\wedge\eta_S$ が成り立つことをいう。
  2. $S$ がコンパクトのとき、類 $\eta'_S\in H^{n-k}_c(M)$ が $S$ のコンパクト Poincaré 双対であるとは、すべての閉形式 $\omega\in\Omega^k(M)$ について $\int_Si^*\omega=\int_M\omega\wedge\eta'_S$ が成り立つことをいう。

1 では台がコンパクトな $\omega$ だけを試すので、$\eta_S$ の台はコンパクトでなくてよい。2 では $S$ がコンパクトなので任意の閉形式を $S$ の上で積分でき、その代わり $\eta'_S$ にコンパクト台を求める。$S$ の向きを逆にすると両方の双対は $-1$ 倍になる。

一意性とコンパクト双対の像

積分の対が定める写像 $H^{n-k}(M)\to H^k_c(M)^*$、$[\eta]\mapsto\bigl([\omega]\mapsto\int_M\omega\wedge\eta\bigr)$ と、次数 $k$ と $n-k$ を入れ替えた同じ形の写像 $H^k(M)\to H^{n-k}_c(M)^*$ がどちらも同型であるとする。このとき閉 Poincaré 双対とコンパクト Poincaré 双対は存在すれば一意である。さらに $S$ がコンパクトなら、コンパクト Poincaré 双対の $H^{n-k}(M)$ への像(台の条件を忘れる写像による像)は閉 Poincaré 双対である。

閉双対の一意性は仮定の前半の単射性そのものである。コンパクト双対については、$\eta'\in H^{n-k}_c(M)$ がすべての $[\omega]\in H^k(M)$ について $\int_M\omega\wedge\eta'=0$ をみたすとする。仮定の後半 $H^k(M)\cong H^{n-k}_c(M)^*$ を使うと、$H^{n-k}_c(M)$ 上のどの線型形式も $\eta'$ で $0$ になるので $\eta'=0$ である。最後の主張は、コンパクト双対の等式がコンパクト台の $\omega$ についても成り立つことと閉双対の一意性による。$\square$

仮定は、$M$ が有限個の開集合からなる良い開被覆をもてば両方とも成り立つ(Poincaré双対 の定理「de Rham コホモロジーの双対」)。この 2 つの双対の定義は BT82 (5.13)・(5.14)(pp. 50–51)による。

Thom 形式による構成

存在は、法方向の小さな円板に集中した形式を作ることで示す。$\pi\colon E\to S$ を向き付けられた階数 $n-k$ のベクトル束とし、$E$ に「$S$ の向きに続けてファイバーの向き」となる局所積の向きを入れる。$E$ の閉形式 $\Phi\in\Omega^{n-k}(E)$ がThom 形式であるとは、$\Phi$ が垂直コンパクト台をもち($S$ のコンパクト集合の逆像との台の交わりがコンパクト。ファイバーに沿った積分 の定義「垂直コンパクト台」)、各ファイバー $E_x$ の上の積分が $1$ であることをいう。$S$ が $E$ を自明にする有限個の開集合で覆えるとき、Thom 形式の類は Thom同型 の Thom 類である(同記事の命題「Thom 類の特徴づけと Thom 同型の逆写像」)。

向きの合った管状近傍

$S\subset M$ の管状近傍とは、$S$ 上のベクトル束 $\pi\colon E\to S$ と、$E$ から $S$ を含む $M$ の開集合 $T$ の上への微分同相写像 $\varphi\colon E\to T$ で、零切断 $s$ について $\varphi\circ s=i$ となるものの組をいう(Hir76 p. 109)。$E$ が向き付けられ、局所積の向きについて $\varphi$ が向きを保つとき、向きの合った管状近傍という。

閉部分多様体は管状近傍をもつ(Hir76 Theorem 5.2, p. 110。管状近傍定理 の節「補足」)。零切断の点 $0_x$ で $d\varphi$ は $T_xS\oplus E_x\to T_xM$ の同型なので、$E_x$ に「$T_xS$ の正の基底に $E_x$ の基底を続けたものの $d\varphi$ による像が $T_xM$ の正の基底になる」向きを入れれば、$E$ は向き付けられ、$\varphi$ は零切断の近くで向きを保つ。$E$ の各連結成分は零切断と交わり、向きを保つかどうかは局所定数なので、$\varphi$ は全体で向きを保つ。こうして向きの合った管状近傍がとれる。$E$ は $S$ の法束に同型である。
Thom 形式は、$E$ が自明なら $\mathrm{pr}^*\bigl(f(t)\,dt_1\wedge\cdots\wedge dt_{n-k}\bigr)$($f$ は積分 $1$ のコンパクト台の関数)で与えられ、$S$ が $E$ を自明にする有限個の開集合で覆えるなら Thom同型 の定理「Thom 同型」による Thom 類の代表がそうである。どの $S$ の上でも存在することは BT82 Remark 6.17.1(p. 64)が述べ、証明は同書 §12(Theorem 12.2・Proposition 12.3, pp. 131–132)にある(この記事では証明しない)。

台の調整

$(E,\varphi)$ を向きの合った管状近傍、$\Phi$ を $E$ の Thom 形式、$W'\subset M$ を $S$ の開近傍とする。$E$ のファイバー計量 $\lvert\cdot\rvert$ と正の $C^\infty$ 級関数 $\varepsilon$ を適当にとって $D:=\{v\in E\mid\lvert v\rvert\le\varepsilon(\pi v)\}$ とおくと、$\operatorname{supp}\Phi'\subset D$ となる Thom 形式 $\Phi'$ があり、次をみたす。

  1. $\varphi(D)\subset W'$ である。
  2. $M$ の任意のコンパクト集合 $L$ について $D\cap\varphi^{-1}(L)$ はコンパクトである。
  3. $D$ の任意の閉部分集合 $F$ について $\varphi(F)$ は $M$ の閉集合である。

要点:$M$ の固有な関数 $h$ を使い、$\varphi(v)$ が $\pi(v)$ から $h$ の値で $1$ 以上離れないように円板を細くとる。Thom 形式はファイバーごとの線型な縮小で引き戻して台を円板に入れる。

証明を開く

固有な関数.$M$ のコンパクト集合の列 $K_1\subset\operatorname{int}K_2\subset K_2\subset\cdots$ で和が $M$ になるものをとり(1の分割 の補題「コンパクト集合による近似列」)、$K_m$ の近傍で $1$、$\operatorname{int}K_{m+1}$ の中にコンパクト台をもつ連続関数 $\chi_m\colon M\to[0,1]$ をとって $h:=\sum_m(1-\chi_m)$ とおく。$K_m$ の上では $m'\ge m$ の項が消えるので和は局所有限で $h\le m-1$、$K_{m+1}$ の外では $m'\le m$ の項が $1$ なので $h\ge m$ である。よって $h^{-1}([0,c])$ はコンパクトであり、$h$ は固有な連続関数である。

円板.1 の分割でファイバー計量をとる。$W:=\{v\in E\mid h(\varphi(v))>h(\pi(v))-1\}\cap\varphi^{-1}(W')$ は零切断を含む開集合である($h(\pi v)$ は $h(i(\pi v))$ の意味)。$x\in S$ ごとにコンパクト近傍 $K_x$ と $r_x>0$ を、$K_x$ の上の $\lvert v\rvert< r_x$ が $W$ に入るようにとれる(とれなければ $\lvert v_j\rvert\to0$、$v_j\notin W$ となる $K_x$ 上の点列があり、部分列は零切断の点に収束して $W$ が開であることに反する)。$\{\operatorname{int}K_x\}$ に従属する 1 の分割 $\{\psi_\alpha\}$ と対応する $r_\alpha$ で $\varepsilon:=\frac12\sum_\alpha\psi_\alpha r_\alpha$ とおくと、各点 $y$ で $2\varepsilon(y)$ は $y\in K_\alpha$ となる $r_\alpha$ たちの凸結合でその最大値以下なので、$D\subset W$ である。同じく、$\Phi$ が垂直コンパクト台なので $K_\alpha$ の上の $\operatorname{supp}\Phi$ で $\lvert v\rvert\le R_\alpha$ となる $R_\alpha\ge1$ をとり、$R:=\sum_\alpha\psi_\alpha R_\alpha$ とおくと、上界の凸結合なので $\operatorname{supp}\Phi\subset\{\lvert v\rvert\le R(\pi v)\}$ である。

縮小.$\lambda:=R/\varepsilon$、$m(v):=\lambda(\pi v)\,v$ とおき、$\Phi':=m^*\Phi$ とする。$m$ はファイバーごとに正の数を掛ける微分同相写像なので、$\Phi'$ は閉で、各ファイバーの積分は $\Phi$ と同じ $1$ であり、$\operatorname{supp}\Phi'=m^{-1}(\operatorname{supp}\Phi)\subset D$ である。$D$ は $S$ のコンパクト集合の上でコンパクトなので $\Phi'$ は垂直コンパクト台をもつ。

性質.1 は $D\subset\varphi^{-1}(W')$ による。2:$L$ の上で $h\le c$ とすると、$v\in D\cap\varphi^{-1}(L)$ について $h(\pi v)< h(\varphi(v))+1\le c+1$ なので $\pi v$ はコンパクト集合 $S\cap h^{-1}([0,c+1])$ に入る($S$ は閉集合)。$D$ のその上の部分はコンパクトで、$\varphi^{-1}(L)$ は閉なので主張が従う。3:$\varphi(v_j)\to y$($v_j\in F$)とすると、$L:=\{y\}\cup\{\varphi(v_j)\}$ はコンパクトなので、2 により $v_j$ の部分列は $F$ の点 $v$ に収束し、$\varphi(v)=y$ である。$\square$

閉 Poincaré 双対は法束の Thom 形式で代表される

$(E,\varphi)$ を $S$ の向きの合った管状近傍、$\Phi'$ と $D$ を lem-pdsub-support の Thom 形式と円板の束とし、$T:=\varphi(E)$ とする。$M$ 上の形式 $\eta$ を、$T$ の上では $(\varphi^{-1})^*\Phi'$、$M\setminus\varphi(D)$ の上では $0$ と定めると、$\eta$ は $C^\infty$ 級の閉 $n-k$ 形式で、その類は $S$ の閉 Poincaré 双対である。$S$ がコンパクトなら $\eta$ はコンパクト台をもち、$H^{n-k}_c(M)$ での類はコンパクト Poincaré 双対である。

零切断への変形と射影公式

形式の定義.lem-pdsub-support の 3 により $\varphi(D)$ は閉集合なので、$T$ と $M\setminus\varphi(D)$ は $M$ を覆う 2 つの開集合である。共通部分 $T\setminus\varphi(D)$ の上では $\Phi'=0$ なので 2 つの定義は一致し、$\eta$ は $C^\infty$ 級の閉形式である。$S$ がコンパクトなら $D$ はコンパクトで、$\operatorname{supp}\eta\subset\varphi(D)$ もコンパクトである。
零切断への変形.$\chi\colon\mathbb R\to[0,1]$ を、$t\le0$ で $0$、$t\ge1$ で $1$ の $C^\infty$ 級関数とし、$F(t,v):=\chi(t)v$ とおく。$F\colon\mathbb R\times E\to E$ は $F(1,\cdot)=\mathrm{id}_E$、$F(0,\cdot)=s\circ\pi$ をみたす。閉形式 $\omega\in\Omega^k(M)$ について $\theta:=F^*\varphi^*\omega$ とおき、de Rhamコホモロジー の補題「ホモトピー作用素」の作用素 $K$ を使うと、$d\theta=0$ と $\varphi\circ s=i$ から
$$ \varphi^*\omega-\pi^*i^*\omega=d\tau,\qquad\tau:=K\theta $$
である。$K\theta$ の点 $v$ での値は $\theta$ の $[0,1]\times\{v\}$ の上の値だけで決まるので、$L:=\operatorname{supp}\omega$ とおくと、$\operatorname{supp}\tau$ は閉集合 $G:=\{v\mid\text{ある }\mu\in[0,1]\text{ で }\mu v\in\varphi^{-1}(L)\}$ に含まれる($[0,1]$ はコンパクトなので $G$ は閉)。
台のコンパクト性.まず $L$ がコンパクトとする。$D$ は各ファイバーで原点を中心とする円板なので、$v\in G\cap D$ なら $\mu v\in C:=D\cap\varphi^{-1}(L)$ であり、$C$ は lem-pdsub-support の 2 によりコンパクトである。よって $\pi(v)=\pi(\mu v)$ はコンパクト集合 $\pi(C)$ に入り、$G\cap D$ はコンパクト集合 $D\cap\pi^{-1}(\pi(C))$ の閉部分集合である。したがって $\varphi^*\omega\wedge\Phi'$(台は $C$ に含まれる)、$\tau\wedge\Phi'$(台は $G\cap D$ に含まれる)、$\pi^*i^*\omega\wedge\Phi'$(台は $D\cap\pi^{-1}(\operatorname{supp}i^*\omega)$ に含まれる)はどれもコンパクト台をもつ。$S$ がコンパクトなら、$L$ が何であっても 3 つの台はコンパクト集合 $D$ に含まれる。
積分の計算.$\eta$ の台は $T$ に含まれ、$\varphi$ は向きを保つので
$$ \int_M\omega\wedge\eta=\int_E\varphi^*\omega\wedge\Phi'=\int_E\pi^*(i^*\omega)\wedge\Phi'+\int_Ed\tau\wedge\Phi' $$
である。$\Phi'$ は閉なので $d\tau\wedge\Phi'=d(\tau\wedge\Phi')$ で、Stokes の定理により第 2 項は $0$ である。第 1 項は、ファイバーに沿った積分 の定理「ファイバーに沿った積分の性質」の 3(Fubini)と 2(射影公式)により
$$ \int_E\pi^*(i^*\omega)\wedge\Phi'=\int_S\pi_*\bigl(\pi^*(i^*\omega)\wedge\Phi'\bigr)=\int_Si^*\omega\wedge\pi_*\Phi'=\int_Si^*\omega $$
である($\pi_*\Phi'$ は各ファイバーでの積分で、定数関数 $1$)。$\omega$ がコンパクト台なら閉双対の等式、$S$ がコンパクトなら任意の閉 $\omega$ についてコンパクト双対の等式が得られた。$\square$

これは BT82 (6.23)・Proposition 6.24(pp. 66–67)の内容で、上の証明は台がコンパクトでない場合の積分の収束を lem-pdsub-support で確かめている。$W'$ は $S$ の任意の開近傍でよいので、閉 Poincaré 双対は $S$ のいくらでも小さな近傍に台をもつ形式で代表される(局所化、同書 Proposition 6.25, p. 67)。$M$ がベクトル束 $E$ の全空間で $S$ が零切断なら、$\varphi=\mathrm{id}$ とでき、Thom 類が零切断の Poincaré 双対になる(Thom同型 の命題「零切断の Poincaré 双対」)。
法束の向きの約束は、$\eta_S$ を $\omega$ の右に置く等式に合わせたものである。$\int_S\omega=\int_M\eta_S\wedge\omega$ と左に置く流儀では、$\omega\wedge\eta_S=(-1)^{k(n-k)}\eta_S\wedge\omega$ なので、法束の向きを $E\oplus TS$ の順で決めることになる。

例

1 点の双対

$S=\{p\}$($k=0$、向きは $+1$)とする。閉 $0$ 形式は局所定数関数なので、連結な $M$ では、コンパクト双対の等式は $\int_M\eta'=1$ を意味し、$p$ のまわりの全積分 $1$ の山形の $n$ 形式がコンパクト双対である。$M=\mathbb R^n$ では $H^n(\mathbb R^n)=0$ なので閉双対は $0$ である(BT82 Example 5.15, p. 52)。

以下、$M:=\mathbb R^2\setminus\{0\}$ に標準の向きを入れ、極座標を $(r,\theta)$ とする。$dx\wedge dy=r\,dr\wedge d\theta$ なので $dr\wedge d\theta$ は正の向きである。$\rho\colon(0,\infty)\to\mathbb R$ を積分 $1$ のコンパクト台の $C^\infty$ 級関数とし、$\rho(r)\,dr$ を $M$ 上の形式とみなす。半直線 $S_1:=\{(x,0)\mid x>0\}$ に $x$ の増える向き、単位円 $S_2:=\{r=1\}$ に反時計回りの向きを入れる。どちらも $M$ の閉部分多様体である。

穴あき平面の半直線と円周の双対
  1. $H^1(M)$ は $d\theta/2\pi$ の類で、$H^1_c(M)$ は $\rho(r)\,dr$ の類で生成される 1 次元の空間であり、$\int_M\rho(r)\,dr\wedge d\theta/2\pi=1$ である。
  2. 半直線 $S_1$ の閉 Poincaré 双対は $[d\theta/2\pi]$ である。
  3. 円周 $S_2$ の閉 Poincaré 双対は $0$ であり、コンパクト Poincaré 双対は $-[\rho(r)\,dr]$ である。

1.$(\theta,r)$ により $M$ は $S^1\times(0,\infty)$ に微分同相で、$u=\log r$ により $S^1\times\mathbb R$ に微分同相である。ホモトピー不変性により $H^1(M)\cong H^1(S^1)\cong\mathbb R$(de Rhamコホモロジー の例「円周の de Rham コホモロジー」)で、閉形式 $d\theta/2\pi$ は $\int_{S_2}d\theta/2\pi=1\ne0$ なので完全でなく、生成元である。コンパクト台の Poincaré の補題(コンパクト台de Rhamコホモロジー の定理「コンパクト台の Poincaré の補題」)により $H^1_c(S^1\times\mathbb R)\cong H^0_c(S^1)=\mathbb R$ で、生成元は $u$ についての積分 $1$ の山形の 1 形式であり、$M$ に移すと積分 $1$ の $\rho(r)\,dr$ の形になる。積分 $1$ の 2 つの $\rho$ の差は、コンパクト台の原始関数 $\int_0^r(\rho_1-\rho_2)$ をもつので類は $\rho$ によらない。最後の等式は $\int_0^\infty\rho\,dr\cdot\int_0^{2\pi}d\theta/2\pi=1$ である。対が $0$ でないので、1 次元の空間どうしの積分の対は完全対であり、prop-pdsub-unique の仮定がこの $M$ と $k=1$ について成り立つ。
2.閉形式 $\omega\in\Omega^1_c(M)$ は、1 により $\omega=c\,\rho(r)\,dr+dg$($g\in\Omega^0_c(M)$)と書ける。$S_1$ の上で $r=x$ なので $\int_{S_1}i^*\omega=c\int_0^\infty\rho(x)\,dx+0=c$ であり($g|_{S_1}$ はコンパクト台)、$\int_M\omega\wedge d\theta/2\pi=c+\int_Md(g\,d\theta/2\pi)=c$ である。
3.$S_2$ の上で $dr=0$ なので、閉形式 $\omega=c\,\rho(r)\,dr+dg\in\Omega^1_c(M)$ について $\int_{S_2}i^*\omega=0$ である。閉双対を $a[d\theta/2\pi]$ とし $\omega=\rho(r)\,dr$ を試すと、1 により $0=\int_M\rho(r)\,dr\wedge a\,d\theta/2\pi=a$ である。コンパクト双対を $b[\rho(r)\,dr]$ とし、任意の閉形式 $\omega=a\,d\theta/2\pi+dg$($g\in\Omega^0(M)$)を試すと、$\int_{S_2}i^*\omega=a$、$\int_M\omega\wedge b\rho\,dr=\frac{ab}{2\pi}\int_Md\theta\wedge\rho\,dr+\int_Md(gb\rho\,dr)=-ab$ である。すべての $a$ で $a=-ab$ なので $b=-1$ である。$\square$

thm-pdsub-thom の構成でも同じ答えが出る。$S_1$ では、接ベクトル $\partial_x$ に続けて正の向きになる法方向は $\partial_y$ なので、Thom 形式は $\sigma(y)\,dy$($\sigma$ は積分 $1$ の山形関数)を細い帯に切ったものになり、$S_2$ との交点 $(1,0)$ を下から上へ横切るので $\int_{S_2}$ の値は $1$、すなわち $[d\theta/2\pi]$ である。$S_2$ では、反時計回りの接ベクトルに続けて正の向きになる法方向は内向き $-\partial_r$ なので、法座標 $1-r$ の山形の形式 $\sigma(1-r)\,d(1-r)=-\sigma(1-r)\,dr$ がコンパクト双対を与え、3 の符号と一致する。また $\rho(r)\,dr=d\bigl(\int_0^r\rho\bigr)$ は普通の意味では完全なので、$S_2$ のコンパクト双対の $H^1(M)$ への像は $0$ で、prop-pdsub-unique のとおり閉双対 $0$ と一致する。
半直線は $0$ を除いた平面の中で「無限遠まで伸びる閉じたサイクル」であり、円周は穴をまわる普通のサイクルである。閉双対とコンパクト双対は、それぞれ局所有限な鎖のホモロジーと普通の(コンパクトな鎖の)ホモロジーに対応している(BT82 Example-Exercise 5.16・Remark 5.17, p. 52)。

トーラスの縦の円周

$T^2=\mathbb R^2/\mathbb Z^2$(座標 $(x,y)$、向き $dx\wedge dy$)の円周 $S:=\{x=0\}$ に $y$ の増える向きを入れる。$T^2$ はコンパクトなので 2 つの双対は同じである。$\partial_y$ に続けて正の向きになる法方向は $-\partial_x$ なので、thm-pdsub-thom により $\eta_S=-[\rho(x)\,dx]$($\rho$ は $0$ の近くに台をもつ積分 $1$ の関数)である。確かめると、$\omega=dy$ について $\int_Sdy=1$、$\int_{T^2}dy\wedge(-\rho(x)\,dx)=\int\rho(x)\,dx\,dy=1$ である。

性質

閉 Poincaré 双対は幾何的な操作をコホモロジーの演算に写す。$R$、$S$ を $M$ の向き付けられた閉部分多様体で横断的に交わる(各交点で $T_xR+T_xS=T_xM$)とすると、$R\cap S$ は閉部分多様体で、適切な向きのもとで $\eta_{R\cap S}=\eta_R\wedge\eta_S$ が成り立つ。$f\colon M'\to M$ が $S$ に横断的な写像なら、$df$ で $f^{-1}(S)$ の法束を $S$ の法束の引き戻しと同一視し、その向きが合うように $f^{-1}(S)$ に向きを入れると $\eta_{f^{-1}(S)}=f^*\eta_S$ である(BT82 (6.27)–(6.31) と続く図式, pp. 68–69。この記事では証明しない)。$S$ がコンパクトで $M$ もコンパクトなら $\eta_S$ は包含の Gysin写像 による $1$ の像にあたり、特異コホモロジーでは同記事の定理「Thom同型とGysin写像」がこれを述べる。

仮定を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$S$ が $M$ の閉集合開線分 $S=(0,1)\times\{0\}\subset\mathbb R^2$閉 Poincaré 双対の存在
$S$ のコンパクト性半直線 $S_1\subset\mathbb R^2\setminus\{0\}$閉双対がコンパクト台の代表をもつこと
$S$ のコンパクト性半直線 $S_1\subset\mathbb R^2\setminus\{0\}$任意の閉 $1$ 形式 $\omega$ について $\int_{S_1}\omega$ が定まること

1 行目:$S$ は部分多様体だが閉集合でない。$g\in\Omega^0_c(\mathbb R^2)$ を $g(1,0)\ne g(0,0)$ ととると $\int_Sdg=g(1,0)-g(0,0)\ne0$ だが、どの閉形式 $\eta$ についても $\int_{\mathbb R^2}dg\wedge\eta=\int d(g\eta)=0$ なので、等式をみたす類はない。2 行目:prop-pdsub-plane により閉双対は $[d\theta/2\pi]\ne0$ だが、$H^1_c(M)\to H^1(M)$ の像は $0$ である($\rho(r)\,dr$ は普通の意味で完全)。3 行目:閉形式 $d(\log r)=dr/r$ の $S_1$ での積分 $\int_0^\infty dx/x$ は発散する。

関連項目

参考文献

[1]
Raoul Bott, Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Springer, 1982, §5 閉 Poincaré 双対 (5.13) とコンパクト Poincaré 双対 (5.14)(pp. 50–51)、Example 5.15・Example-Exercise 5.16・Remark 5.17(p. 52);§6 Remark 6.17.1(p. 64)、管状近傍と (6.23)・Proposition 6.24・6.25(pp. 66–67)、(6.27)–(6.31) と逆像の図式(pp. 68–69);§12 Theorem 12.2・Proposition 12.3(pp. 131–132)
[2]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 4 §5:管状近傍の定義(p. 109)、Theorem 5.2(多様体の中の部分多様体の管状近傍、p. 110)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する