BEST定理

同義語:BESTの定理BEST theorem

概要

BEST定理(BEST theorem)とは、均衡していて孤立点のない有限の多重有向グラフ $D$ と辺 $e$ について、$e$ から始まる Euler 巡回の個数が、$e$ の始点 $w$ に向かう有向全域木の個数 $\tau_w(D)$ と各頂点の $(\deg^+(v)-1)!$ の積に等しいという定理である。Euler 巡回で各頂点を最後に出る辺を集めると $w$ に向かう有向全域木になることが証明の鍵で、名は van Aardenne-Ehrenfest、de Bruijn、Smith、Tutte に由来する。$\tau_w(D)$ は根によらず、出次数の Laplacian 行列の小行列式や固有値の積で計算できる。応用として、$k$ 文字の位数 $n$ の巡回 de Bruijn 列は $(k!)^{k^{n-1}}/k^n$ 個ある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Euler閉路, 有向全域木, 行列木定理, 有向グラフ

辺が 1 つの連結成分に収まる有向グラフが、すべての辺をちょうど 1 回ずつ通る閉じた経路(Euler 閉路)をもつかどうかは、各頂点の入次数と出次数が等しいかどうかで判定できる(Euler閉路 の命題「有向 Euler 閉路の条件」)。では、Euler 閉路は、どの辺から書き始めるかの違い(巡回的なずらし)を同一視すると何通りあるか。BEST 定理は、入次数と出次数が各頂点で等しく、孤立点のない有向グラフ $D$ について、その個数が
$$ \tau_w(D)\prod_{v\in V}\bigl(\deg^+(v)-1\bigr)! $$
に等しいと答える($w$ は任意の頂点)。ここで $\tau_w(D)$ は頂点 $w$ に向かう有向全域木の個数で、行列木定理 の有向版により行列式で計算できる。名前は van Aardenne-Ehrenfest、de Bruijn、Smith、Tutte の頭文字による。
鍵になるのは、Euler 閉路をたどったとき、各頂点を最後に出る辺を集めると $w$ に向かう有向全域木になる、という観察である。この記事では、この対応を逆向きにも作って定理を証明し、行列式と固有値による公式を導く。応用として、長さ $n$ のすべての語を、連続する $n$ 文字としてちょうど 1 回ずつ含む巡回列(巡回的なずらしを同一視した de Bruijn 列)の個数が $(k!)^{k^{n-1}}/k^n$ であることを示す。

設定

この記事の有向グラフは、Euler閉路 の記事の「有向グラフの場合」の多重有向グラフ $D=(V,E,i,t)$ とする。$V$ と $E$ は有限集合で、各辺 $e$ に始点 $i(e)$ と終点 $t(e)$ が定まる。ループ($i(e)=t(e)$)と平行な辺を許し、平行な辺は区別する。出次数 $\deg^+(v)$ と入次数 $\deg^-(v)$ は $v$ から出る辺と $v$ に入る辺の本数で、ループは両方に $1$ ずつ数える。すべての頂点で $\deg^+(v)=\deg^-(v)$ のとき、$D$ は均衡しているという。

Euler 巡回と Euler 閉路

辺の列 $(e_1,e_2,\dots,e_m)$ で、$E$ のすべての辺がちょうど 1 回ずつ現れ($m=|E|$)、$t(e_j)=i(e_{j+1})$($1\le j< m$)かつ $t(e_m)=i(e_1)$ となるものを、$e_1$ から始まる Euler 巡回 という。辺 $e$ から始まる Euler 巡回の個数を $\varepsilon(D,e)$ と書く。
Euler 巡回 $(e_1,\dots,e_m)$ の巡回的なずらし $(e_j,\dots,e_m,e_1,\dots,e_{j-1})$ もまた Euler 巡回である。ずらしで移り合う Euler 巡回を同じものとみなした同値類を Euler 閉路 といい、その個数を $\mathrm{ec}(D)$ と書く。

Euler閉路 の記事の「有向 Euler 閉路」は始点を指定した閉じた有向の小道で、辺の列として書けば Euler 巡回にあたる。この記事の Euler 閉路は、それを巡回的なずらし(どの辺から書き始めるか)で同一視した類であり、類 1 つは $\lvert E\rvert$ 個の Euler 巡回からなる。各 Euler 閉路は、どの辺 $e$ についても、$e$ から始まる表し方をちょうど 1 つもつ(辺は 1 回ずつしか現れないから)。したがって、$E\neq\emptyset$ なら任意の辺 $e$ について
$$ \mathrm{ec}(D)=\varepsilon(D,e) $$
であり、とくに $\varepsilon(D,e)$ は $e$ によらない。

頂点に向かう有向全域木

$w\in V$ とする。ループを含まない辺の集合 $F\subset E$ で、次を満たすものを、$w$ に向かう有向全域木という。

  1. $w$ 以外の各頂点 $u$ から出る $F$ の辺はちょうど 1 本で、$w$ から出る $F$ の辺はない。
  2. $F$ の辺だけを使う有向閉路がない。
    その個数を $\tau_w(D)$ と書く。

1 のもとで、$u\neq w$ から出る $F$ の辺の終点を $u$ の親とよぶ。2 により、親をたどると頂点がくり返さないので、どの頂点からも有限回で $w$ に着く。辺の向きをすべて逆にした有向グラフ $D^{\mathrm{op}}$ では、これは $w$ を根とする有向全域木(有向全域木 の命題「有向木の特徴づけ」の条件 3)にあたる。したがって $\tau_w(D)$ は、有向全域木 の記事の記号では $\tau_w(D^{\mathrm{op}})$ である。同じ記事の $\tau_r(D)$ は根から外へ向かう有向全域木の個数で、この記事の $\tau_w(D)$ とは向きが逆である。
出次数の Laplacian 行列 $L=L(D)$ を、$V\times V$ 行列で
$$ L_{uv}:=\begin{cases}-(\text{$u$ から $v$ への辺の本数})&(u\neq v)\\ \deg^+(u)-(\text{$u$ でのループの本数})&(u=v)\end{cases} $$
と定める。各行の和は $0$ である。$L$ から $w$ の行と列を除いた行列を $L[w]$ と書く。有向全域木 の記事の定理「有向グラフの行列木定理」を $D^{\mathrm{op}}$ に使い、平行な辺の本数を重みにとると(同じ記事の「根に向かう有向全域木と Euler 閉路」の節)、
$$ \tau_w(D)=\det L[w] $$
である。

BEST 定理

最後に出る辺

$D$ を均衡していてどの頂点も $\deg^+\ge1$ である有向グラフ、$C=(e_1,\dots,e_m)$ を Euler 巡回とし、$w:=i(e_1)$ とする。$w$ 以外の各頂点 $u$ について、$u$ から出る辺のうち $C$ で最後に現れるものを $\ell(u)$ とする。このとき $\ell(u)$ はループでなく、$F_C:=\{\ell(u)\mid u\neq w\}$ は $w$ に向かう有向全域木である。

辺 $e_j$ の $C$ での番号 $j$ を $\mathrm{pos}(e_j)$ と書く。$u\neq w$ とし、$\ell(u)=e_j$ とする。$t(e_j)=:u'$ とおく。
$u'\neq w$ なら $\mathrm{pos}(\ell(u'))>j$ であることを示す。$u'\neq w$ なので $j< m$ である($t(e_m)=i(e_1)=w$ だから)。よって $e_{j+1}$ があり、$i(e_{j+1})=t(e_j)=u'$ である。$\ell(u')$ は $u'$ から出る辺のうち最後のものなので、$\mathrm{pos}(\ell(u'))\ge j+1$ である。
とくに $e_j$ がループなら $u'=u\neq w$ で、$\ell(u)$ より後に $u$ から出る辺があることになり、$\ell(u)$ の選び方に反する。よって $\ell(u)$ はループでない。$F_C$ は条件 1 を満たす($u\neq w$ からは $\ell(u)$ だけ、$w$ からは出ない)。$F_C$ に有向閉路 $u_0\to u_1\to\dots\to u_s=u_0$ があれば、各 $u_k$ は $w$ でなく($w$ から出る $F_C$ の辺はない)、上で示したことから $\mathrm{pos}(\ell(u_0))<\mathrm{pos}(\ell(u_1))<\dots<\mathrm{pos}(\ell(u_s))=\mathrm{pos}(\ell(u_0))$ となって矛盾する。よって条件 2 も満たす。$\square$

BEST 定理

$D$ を均衡していて、どの頂点も出次数が $1$ 以上である有限の多重有向グラフとする。辺 $e$ をとり、$w:=i(e)$ とする。このとき
$$ \varepsilon(D,e)=\tau_w(D)\prod_{v\in V}\bigl(\deg^+(v)-1\bigr)! $$
が成り立つ。

順序の組.$w$ に向かう有向全域木 $F$ と、各頂点 $v$ から出る辺の並べ方 $\sigma_v$($\deg^+(v)$ 本の辺の並び)の組 $(F,(\sigma_v)_v)$ で、次を満たすものを $F$ に合う並べ方 とよぶ。

  • $v\neq w$ では、$\sigma_v$ の最後の辺は $v$ から出る $F$ の辺である。
  • $v=w$ では、$\sigma_w$ の最初の辺は $e$ である。
    各 $v$ について、残りの $\deg^+(v)-1$ 本の並べ方は自由なので、$F$ に合う並べ方は $\prod_v(\deg^+(v)-1)!$ 通りある。Euler 巡回の集合から、このような組の全体への全単射を作れば、主張が従う。

巡回から組へ.$e$ から始まる Euler 巡回 $C$ に、lem-best-last-exit の $F_C$ と、各 $v$ から出る辺を $C$ に現れる順に並べた $\sigma_v$ を対応させる。$\sigma_v$ の最後は $\ell(v)\in F_C$、$\sigma_w$ の最初は $e_1=e$ なので、これは $F_C$ に合う並べ方である。$C$ は $(\sigma_v)$ から決まる。実際、$e_1=e$ であり、$e_1,\dots,e_j$ が決まれば、$e_{j+1}$ は $\sigma_{t(e_j)}$ の中で、それまでに $t(e_j)$ から出た辺の次の辺である。よってこの対応は単射である。
組から巡回へ.$F$ に合う並べ方 $(\sigma_v)$ を与える。辺 $e$ を通って出発し、その後は、いま居る頂点 $v$ から出る未使用の辺のうち $\sigma_v$ で最も前のものを通る、という規則で進み、居る頂点から出る未使用の辺がなくなったら止まる。こうして得た辺の列を $W$ とする。
(a) $W$ は $w$ で止まる。途中で頂点 $v\neq w$ に居るとき、$W$ は $v$ に入った回数が $v$ から出た回数より $1$ 多い(出発点が $w$ なので)。入った回数は $\deg^-(v)=\deg^+(v)$ 以下なので、出た回数は $\deg^+(v)$ 未満であり、$v$ から出る未使用の辺が残っている。
(b) $W$ はすべての辺を使う。止まった時点で $w$ から出る辺はすべて使われている。各頂点で入った回数と出た回数は等しい($W$ は $w$ から出て $w$ で終わる)。未使用の辺が残ったとし、未使用の辺が出ている頂点の集合を $U$ とする。$w\notin U$ である。$u\in U$ なら、$\sigma_u$ の順に辺を使うので、最後の辺 $f_u\in F$ は未使用である。$f_u$ の終点 $u'$ について、$u'$ に入った回数は $\deg^-(u')$ 未満なので、出た回数も $\deg^+(u')$ 未満で、$u'\in U$ である。こうして $U$ の頂点から親をたどると $U$ の中にとどまるが、親をたどれば $w\notin U$ に着くので矛盾する。
(a)(b) により $W$ は $e$ から始まる Euler 巡回である。作り方から、$W$ が各 $v$ から出る辺の順は $\sigma_v$ であり、$v\neq w$ から最後に出る辺は $\sigma_v$ の最後の辺、すなわち $v$ から出る $F$ の辺である。よって $F_W=F$ であり、$W$ は前段の対応で $(F,(\sigma_v))$ に写る。逆に前段の $C$ から作った組にこの手続きを当てると、$C$ と同じ規則で辺が選ばれるので $C$ に戻る。2 つの対応は互いに逆である。
$F$ の選び方は $\tau_w(D)$ 通りなので、$\varepsilon(D,e)=\tau_w(D)\prod_v(\deg^+(v)-1)!$ である。$\square$

この定理は Sta13 Theorem 10.2(pp. 191–192)で、そこでは基礎グラフの連結性も仮定されている。連結でないときは、Euler 巡回も $w$ に向かう有向全域木もなく、両辺は $0$ である。同書 p. 198 によると、Euler 巡回と有向全域木の対応は van Aardenne-Ehrenfest と de Bruijn によるもので、Smith と Tutte はもとの発見には関わっていない。

行列式と固有値による公式

有向全域木の個数は根によらない

$D$ が thm-best-main の仮定を満たし、Euler 巡回をもつとする。このとき $\tau_w(D)$ は $w\in V$ によらず、その共通の値を $\tau(D)$ と書くと
$$ \mathrm{ec}(D)=\tau(D)\prod_{v\in V}\bigl(\deg^+(v)-1\bigr)!=\det L[w]\prod_{v\in V}\bigl(\deg^+(v)-1\bigr)! $$
である。

各頂点 $w$ は出次数が $1$ 以上なので、$w$ から出る辺 $e$ がある。設定で見たとおり $\varepsilon(D,e)=\mathrm{ec}(D)$ は $e$ によらない。thm-best-main の右辺の積は $w$ によらない正の整数なので、$\tau_w(D)=\mathrm{ec}(D)/\prod_v(\deg^+(v)-1)!$ も $w$ によらない。最後の等式は設定の $\tau_w(D)=\det L[w]$ による。$\square$

これは Sta13 Corollary 10.3(p. 193)と Corollary 10.5(p. 194)の内容である。一般の有向グラフでは、根に向かう有向全域木の個数は根によって変わる(有向全域木 の例「4 頂点の例」の辺の向きを逆にしたもの)。均衡していることがそれを根によらなくしている。

固有値による公式

$D$ が cor-best-root の仮定を満たし、$N:=|V|$ とする。$L$ の固有値(複素数、重複を込めて $N$ 個)は $0$ を含むので、それを $\mu_1=0$ とし、残りを $\mu_2,\dots,\mu_N$ とすると
$$ \tau(D)=\frac1N\,\mu_2\mu_3\cdots\mu_N $$
である。

$L$ の各行の和は $0$ なので、すべての成分が $1$ のベクトルは固有値 $0$ の固有ベクトルである。固有多項式は $\det(\lambda I-L)=\lambda\prod_{j\ge2}(\lambda-\mu_j)$ と書け、$\lambda$ の 1 次の係数は $(-1)^{N-1}\mu_2\cdots\mu_N$ である。一方、$\lambda I-L$ の各列を $\lambda\mathbf e_v$ と $-L$ の列の和とみて行列式を列ごとに展開すると、$\lambda\mathbf e_v$ を 1 つの列 $v$ だけで選んだ項の和が $\lambda$ の 1 次の項で、その係数は $\sum_{w}\det\bigl((-L)[w]\bigr)=(-1)^{N-1}\sum_w\det L[w]$ である。よって $\sum_w\det L[w]=\mu_2\cdots\mu_N$ である。cor-best-root により左辺の各項は $\tau(D)$ なので、主張を得る。$\square$

両向きの辺を張った無向グラフ

連結な単純グラフ $G$ の各辺 $uv$ を 2 本の有向辺 $u\to v$、$v\to u$ に置き換えた有向グラフ $\vec G$ は均衡していて、$\deg^+(v)$ は $G$ での次数 $\deg(v)$ である。$\vec G$ の $w$ に向かう有向全域木は、$G$ の全域木の辺をすべて $w$ の方へ向けたものと一対一に対応する(有向全域木 の系「無向グラフの全域木」を $\vec G$ の逆向きに使う。$\vec G$ は逆向きにしても $\vec G$ である)。よって
$$ \mathrm{ec}(\vec G)=\tau(G)\prod_{v}\bigl(\deg(v)-1\bigr)! $$
で、$\tau(G)$ は $G$ の全域木の個数である。$\vec G$ の Euler 閉路は、$G$ のすべての辺を両方向に 1 回ずつ通って出発点に戻る巡回路である。

  1. $G=K_3$:$\tau=3$、次数はすべて $2$ なので $\mathrm{ec}=3$ である。辺 $1\to2$ から始めると、$1\to2\to3\to1\to3\to2\to1$、$1\to2\to3\to2\to1\to3\to1$、$1\to2\to1\to3\to2\to3\to1$ の 3 通りである。
  2. $G$ が $3\times3$ の格子グラフ(9 頂点 12 辺):$\tau(G)=192$ で、次数 $2$ の頂点が 4 つ、次数 $3$ が 4 つ、次数 $4$ が 1 つなので、$\mathrm{ec}(\vec G)=192\cdot(1!)^4(2!)^4\,3!=18432$ である(Sta13 Example 10.7、p. 195)。

de Bruijn 列の個数

$k\ge2$、$n\ge1$ とし、$\Sigma:=\{0,1,\dots,k-1\}$ を文字の集合とする。$\Sigma$ の文字を $k^n$ 個並べた列 $s=(s_1,\dots,s_{k^n})$ で、添字を $k^n$ を法として読んだ連続する $n$ 文字 $s_js_{j+1}\cdots s_{j+n-1}$($1\le j\le k^n$)がすべて相異なるものを、位数 $n$ の $k$ 文字の de Bruijn 列 という。長さ $n$ の語は $k^n$ 個なので、de Bruijn 列にはどの語もちょうど 1 回ずつ現れる。巡回的なずらしで移り合う de Bruijn 列を同じものとみなした類を、巡回 de Bruijn 列 という。Euler 閉路による存在の直接の証明、有向 Hamilton 閉路との対応、貪欲法とネックレスの連結による構成は de Bruijn列 の記事で扱う。
たとえば $k=2$、$n=3$ では $00010111$ が de Bruijn 列で、連続する 3 文字は巡回的に $000,001,010,101,011,111,110,100$ と読める。

de Bruijn グラフ

de Bruijn グラフ $B(k,n)$ を、頂点の集合を $\Sigma^{n-1}$(長さ $n-1$ の語。$n=1$ では空の語 1 つ)、辺の集合を $\Sigma^n$ とし、辺 $a_1a_2\cdots a_n$ の始点を $a_1\cdots a_{n-1}$、終点を $a_2\cdots a_n$ とした多重有向グラフと定める。

各頂点 $a_1\cdots a_{n-1}$ からは末尾に文字を足す $k$ 本の辺が出て、先頭に文字を足す $k$ 本の辺が入るので、$B(k,n)$ は均衡していて、すべての出次数は $k$ である。$a\cdots a$ の形の辺はループである。$n=1$ では 1 頂点に $k$ 本のループが付いたグラフになる。

長さ $n-1$ の歩道

$n\ge2$ とする。$B(k,n)$ の任意の 2 頂点 $x,y$ について、$x$ から $y$ への長さ $n-1$ の有向歩道はちょうど 1 つある。とくに $B(k,n)$ の頂点の隣接行列 $A$($A_{xy}$ は $x$ から $y$ への辺の本数)は $A^{n-1}=J$(すべての成分が $1$ の $k^{n-1}$ 次正方行列)を満たす。

頂点 $x=a_1\cdots a_{n-1}$ から出る長さ $n-1$ の歩道は、各段で末尾に足す文字 $c_1,\dots,c_{n-1}$ で決まる。1 段ごとに語の先頭が 1 文字ずつ落ちるので、$n-1$ 段の後の頂点は $c_1\cdots c_{n-1}$ である。よって $y=b_1\cdots b_{n-1}$ に着く歩道は $c_j=b_j$ のものただ 1 つである。$(A^{n-1})_{xy}$ は $x$ から $y$ への長さ $n-1$ の歩道の個数なので $1$ である。$\square$

de Bruijn 列と Euler 閉路

巡回 de Bruijn 列と $B(k,n)$ の Euler 閉路は一対一に対応する。Euler 巡回 $(e_1,\dots,e_{k^n})$ には、各辺の最後の文字を並べた列 $s_j:=(e_j\text{ の最後の文字})$ が対応する。

$N:=k^n$ とし、添字は $N$ を法として読む。Euler 巡回 $(e_1,\dots,e_N)$ では $t(e_{j-1})=i(e_j)$ なので、$e_{j-1}$ の第 $2$〜$n$ 文字は $e_j$ の第 $1$〜$n-1$ 文字に等しい。くり返すと、$e_j$ の第 $q$ 文字は $e_{j-(n-q)}$ の第 $n$ 文字 $s_{j-n+q}$ である。よって $e_j=s_{j-n+1}\cdots s_j$ であり、$s$ の連続する $n$ 文字は辺 $e_1,\dots,e_N$ を 1 回ずつ並べたものなので、$s$ は de Bruijn 列である。
逆に de Bruijn 列 $s$ から $e_j:=s_{j-n+1}\cdots s_j$ とおくと、$e_{j-1}$ の終点 $s_{j-n+1}\cdots s_{j-1}$ は $e_j$ の始点に等しく、$e_1,\dots,e_N$ は相異なる $N$ 個の語、すなわち $B(k,n)$ の辺全体なので、$(e_1,\dots,e_N)$ は Euler 巡回である。2 つの対応は互いに逆で、巡回的なずらしを巡回的なずらしに写すので、類どうしの一対一対応を与える。$\square$

de Bruijn 列の個数

$k\ge2$、$n\ge1$ について、位数 $n$ の $k$ 文字の巡回 de Bruijn 列の個数は
$$ \mathrm{ec}\bigl(B(k,n)\bigr)=\frac{(k!)^{k^{n-1}}}{k^n} $$
であり、de Bruijn 列(ずらしを区別する)の個数は $(k!)^{k^{n-1}}$ である。とくに de Bruijn 列は存在する。

$M:=k^{n-1}$ を頂点の個数とする。$n=1$ では $\tau(B(k,1))=1$(1 頂点なので有向全域木は空集合だけ)で、$\mathrm{ec}=(k-1)!=k!/k$ である。
$n\ge2$ とする。lem-best-walk により $A^{n-1}=J$ である。$A$ の固有値を重複を込めて $\lambda_1,\dots,\lambda_M$ とすると、$A$ を上三角化すれば分かるように $A^{n-1}$ の固有値は $\lambda_1^{n-1},\dots,\lambda_M^{n-1}$ である。$J$ は階数 $1$ でトレースが $M$ なので、固有値は $M$(1 個)と $0$($M-1$ 個)である。よって $0$ でない $\lambda_j$ はちょうど 1 つである。各行の和が $k$ なので $k$ は $A$ の固有値であり、$A$ の固有値は $k$(1 個)と $0$($M-1$ 個)である。$L$ の対角成分は $k-A_{xx}$、非対角成分は $-A_{xy}$ なので $L=kI-A$ で、$L$ の固有値は $0$(1 個)と $k$($M-1$ 個)である。
$B(k,n)$ は lem-best-walk により任意の 2 頂点が歩道で結ばれるので連結で、均衡しているから Euler 巡回をもつ(Euler閉路 の命題「有向 Euler 閉路の条件」)。prop-best-eigen により $\tau(B(k,n))=k^{M-1}/M=k^{k^{n-1}-n}$ であり、cor-best-root により
$$ \mathrm{ec}\bigl(B(k,n)\bigr)=k^{k^{n-1}-n}\bigl((k-1)!\bigr)^{k^{n-1}}=\frac{(k!)^{k^{n-1}}}{k^n} $$
である。prop-best-debruijn-euler により、これが巡回 de Bruijn 列の個数である。
巡回 de Bruijn 列 1 つは、ずらしの異なる $k^n$ 個の de Bruijn 列からなる。実際、$s$ を $d$($0< d< k^n$)だけずらした列が $s$ に等しければ、位置 $j$ と $j+d$ の連続する $n$ 文字が等しくなり、de Bruijn 列であることに反する。よって de Bruijn 列の個数は $k^n$ 倍の $(k!)^{k^{n-1}}$ である。$\square$

$k=2$ では、巡回 de Bruijn 列は $2^{2^{n-1}-n}$ 個、de Bruijn 列は $2^{2^{n-1}}$ 個である(Sta13 Corollary 10.11、p. 198。同書は 2 文字の場合を扱っている)。

$(k,n)$頂点数$\tau(B(k,n))$巡回 de Bruijn 列の個数
$(2,2)$$2$$1$$1$($0011$)
$(2,3)$$4$$2$$2$($00010111$、$00011101$)
$(2,4)$$8$$16$$16$
$(3,2)$$3$$3$$24$

反例の表

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
均衡している頂点 $1,2$ と辺 $a,b\colon1\to2$、$c\colon2\to1$、$e=a$$\varepsilon(D,a)=\tau_1(D)\prod(\deg^+-1)!$(右辺は $1\cdot1!\cdot0!=1$ だが Euler 巡回はない)
どの頂点も出次数が $1$ 以上有向三角形 $1\to2\to3\to1$ に孤立点 $4$ を加えたもの等式(Euler 巡回は $1$ 個だが $\tau_1(D)=0$ で、$(\deg^+(4)-1)!$ は定義されない)
始めの辺 $e$ を決める(始点 $w$ だけを決める)両向きの三角形 $\vec K_3$、$w=1$個数が $\tau_w\prod(\deg^+-1)!=3$ であること($1$ から出る Euler 巡回は $\deg^+(1)\cdot3=6$ 個)
反例の確認

1 行目:頂点 $1$ は出次数 $2$、入次数 $1$ で均衡していない。$1$ に向かう有向全域木は $\{c\}$ だけで $\tau_1=1$ である。$a$ から始まる辺の列は $a,c,b$ と進むと $2$ で止まり、$1$ に戻れないので Euler 巡回はない。2 行目:頂点 $4$ から出る辺がないので、$4$ から $1$ へたどれず $\tau_1(D)=0$ である。一方、辺 $1\to2$ から始まる Euler 巡回は $1\to2\to3\to1$ の 1 個である。孤立点を除けば定理が使える。3 行目:$w$ から出る $\deg^+(w)$ 本の辺のそれぞれから始まる巡回を合わせるので、thm-best-main の値の $\deg^+(w)$ 倍になる。

関連項目

参考文献

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