複素コボルディズム

同義語:complex cobordism

概要

複素コボルディズム(complex cobordism)とは、接束に安定的な複素構造を入れた閉多様体を、同じ構造をもつ多様体の境界になるかどうかで分類する理論で、同境類は環 $\Omega^U_*$ をなし Thom スペクトラム $MU$ のホモトピー群と同型になる。境界になる多様体の Chern 数は $0$ で、Milnor と Novikov は $\Omega^U_*$ が偶数次の生成元の多項式環であり、複素同境類が Chern 数で決まることを示した。複素向きをもつコホモロジー理論は $\mathbb{CP}^\infty$ を通じて形式群則を定め、Quillen は $MU$ の形式群則が普遍的であることを示した。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: コボルディズム, Chern類, 概複素構造, 形式群, 一般コホモロジー理論

複素コボルディズム(complex cobordism)は、接束に(安定的な)複素構造を入れた閉多様体を、同じ構造をもつ多様体の境界になるかどうかで分類する理論である。同境類の全体は非交和と直積で次数付き可換環 $\Omega^U_*$ をなし、Thom スペクトラム $MU$ のホモトピー群 $\pi_*(MU)$ と同型になる。$MU$ は一般コホモロジー理論 $MU^*(-)$ を定め、これが複素コボルディズム理論である。
複素コボルディズム環は Milnor と Novikov によって多項式環 $\mathbb Z[x_1,x_2,\dots]$($x_i$ は次数 $2i$)と決定され、2 つの多様体が複素同境であることは Chern 数がすべて等しいことと同値である。さらに Quillen は、$MU$ が複素射影空間 $\mathbb{CP}^\infty$ を通じて定める形式群則が普遍的な形式群則であること、すなわち $\pi_*(MU)$ が Lazard 環と同型であることを示した。これにより、安定ホモトピー論と形式群の代数が結びつく。この記事では、安定複素構造と Chern 数を定義し、境界になる多様体の Chern 数が $0$ であることを証明する。次に複素向きをもつコホモロジー理論から形式群則が得られることを証明し、通常のコホモロジーと $K$ 理論の例と Quillen の定理を述べる。

安定複素多様体と Chern 数

多様体は滑らかでコンパクトとし、境界付きの場合も含める。実ベクトル束 $\varepsilon^k$ は階数 $k$ の自明束を表す。

安定複素構造

多様体 $M$ の 安定複素構造とは、ある $k\ge0$ について、複素ベクトル束 $\xi$ と実ベクトル束の同型 $TM\oplus\varepsilon^k\cong\xi_{\mathbb R}$($\xi_{\mathbb R}$ は $\xi$ を実ベクトル束とみたもの)の組である。$\xi$ に自明な複素直線束を足し、同型に $\varepsilon^2\cong\mathbb C$ を足して得られるものは同じ安定複素構造とみなす。安定複素構造を与えた多様体を 安定複素多様体という。

複素ベクトル束は標準的な向きをもつので(概複素構造 の命題「次元の偶数性と標準的な向き」)、安定複素多様体は向き付けられる。概複素多様体(とくに複素多様体)は $k=0$ の安定複素多様体である。$\mathbb R^{n+1}$ の中の球面 $S^n$ では $TS^n\oplus\varepsilon^1\cong\varepsilon^{n+1}$ なので(法束が自明)、$n$ が奇数なら $TS^n\oplus\varepsilon^1\cong\mathbb C^{(n+1)/2}_{\mathbb R}$ という安定複素構造が入る。$n$ が偶数でも $\varepsilon^1$ をもう 1 つ足せば同様である。
$W$ が境界付きの安定複素多様体で $TW\oplus\varepsilon^k\cong\xi_{\mathbb R}$ なら、外向きの法線ベクトル場が $TW|_{\partial W}\cong T(\partial W)\oplus\varepsilon^1$ を与えるので、$\partial W$ に安定複素構造 $T(\partial W)\oplus\varepsilon^{k+1}\cong(\xi|_{\partial W})_{\mathbb R}$ が入る。これを 誘導された安定複素構造という。
$TM\oplus\varepsilon^k\cong\xi_{\mathbb R}$ に $\varepsilon^2$ を足し、$\varepsilon^2=\mathbb R^2$ を複素共役な複素構造で $\mathbb C$ とみると、$\xi\oplus\mathbb C$ による安定複素構造で向きが逆のものが得られる。これを $-M$ と書く。自明な複素直線束を足しただけなので、$-M$ の Chern 類は $M$ と同じである。閉じた安定複素多様体 $M_0,M_1$ が 複素同境であるとは、$M_0$ と $-M_1$ の非交和が、ある安定複素多様体の境界として(誘導された構造を含めて)現れることをいう。これは同値関係で、$n$ 次元の閉じた安定複素多様体の同境類の全体は非交和でアーベル群 $\Omega^U_n$ をなし、直積で次数付き可換環 $\Omega^U_*=\bigoplus_n\Omega^U_n$ になる(Rav04 §4.1, p. 104。この記事では証明しない)。
$M$ を閉じた安定複素多様体で実次元 $2n$ とし、$TM\oplus\varepsilon^k\cong\xi_{\mathbb R}$ とする。$c_i(M):=c_i(\xi)\in H^{2i}(M;\mathbb Z)$ は、自明な直線束を足しても変わらないので(Chern類 の例「自明束と自明な直和因子」)、安定複素構造だけで決まる。$n$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$($i_1+\cdots+i_r=n$)について
$$ c_I[M]:=\bigl\langle c_{i_1}(M)\cdots c_{i_r}(M),\ [M]\bigr\rangle\in\mathbb Z $$
を $M$ の Chern 数という。$[M]\in H_{2n}(M;\mathbb Z)$ は向きの定める基本類である。実次元が奇数なら Chern 数はすべて $0$ と定める。

境界の Chern 数は 0

閉じた安定複素多様体 $M$ が、誘導された安定複素構造を含めてある安定複素多様体 $W$ の境界 $\partial W$ であるなら、$M$ の Chern 数はすべて $0$ である。

$M$ の実次元を $2n$、$i\colon M\to W$ を包含とし、$TW\oplus\varepsilon^k\cong\xi_{\mathbb R}$ とする。誘導された構造の定義により $M$ の安定複素構造は $\xi|_M=i^*\xi$ で与えられるので、Chern 類の自然性(Chern類 の定義「Chern類の公理的定義」)により $c_j(M)=i^*c_j(\xi)$ である。よって分割 $I$ について
$$ c_I[M]=\bigl\langle i^*\bigl(c_{i_1}(\xi)\cdots c_{i_r}(\xi)\bigr),[M]\bigr\rangle=\bigl\langle c_{i_1}(\xi)\cdots c_{i_r}(\xi),\ i_*[M]\bigr\rangle $$
である。向き付けられたコンパクトな境界付き多様体 $W$ は相対基本類 $[W,M]\in H_{2n+1}(W,M;\mathbb Z)$ をもち、対の完全列の境界準同型で $\partial[W,M]=\pm[M]$ となる(MS74 Theorem 4.9 の証明, p. 52 の議論を整数係数で行う。同書 §16, p. 186)。完全列 $H_{2n+1}(W,M)\xrightarrow{\partial}H_{2n}(M)\xrightarrow{i_*}H_{2n}(W)$ により $i_*[M]=\pm i_*\partial[W,M]=0$ であり、$c_I[M]=0$ である。$\square$

これは向き付けられた多様体の Pontryagin 数についての Pontryagin の補題(MS74 Lemma 17.3, p. 202)と同じ議論である。Chern 数は非交和について加法的で、$-M$ では基本類の符号だけが変わるので $c_I[-M]=-c_I[M]$ である。よって $M_0\sqcup(-M_1)$ が境界なら $c_I[M_0]=c_I[M_1]$ であり、各 $c_I$ は準同型 $c_I\colon\Omega^U_{2n}\to\mathbb Z$ を定める。

複素射影空間の Chern 数

$\mathbb{CP}^n$ の接束の全 Chern 類は $(1+a)^{n+1}$($a$ は超平面類)である(複素射影空間の接束 の定理「全 Chern 類」)。$\langle a^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=1$ なので、
$$ c_n[\mathbb{CP}^n]=n+1,\qquad c_1^n[\mathbb{CP}^n]=(n+1)^n $$
である(MS74 pp. 183–184)。とくに $[\mathbb{CP}^n]$ は $\Omega^U_{2n}$ の無限位数の元である($m[\mathbb{CP}^n]$ の $c_n$ は $m(n+1)\neq0$)。$n=1$ では $c_1[\mathbb{CP}^1]=2$ で、$\mathbb{CP}^1$ は複素多様体の構造では境界にならない。一方、同じ $S^2$ に $TS^2\oplus\varepsilon^2\cong\mathbb C^2_{\mathbb R}$ による安定複素構造を入れると、それは $D^3$ の安定複素構造 $TD^3\oplus\varepsilon^1\cong\mathbb C^2_{\mathbb R}$ から誘導され、境界になる。安定複素構造の選び方で同境類は変わる。

Milnor–Novikov の定理
  1. $\Omega^U_*$ は多項式環 $\mathbb Z[x_1,x_2,\dots]$($x_i\in\Omega^U_{2i}$)と同型である。とくに奇数次の $\Omega^U_n$ は $0$ である。
  2. 2 つの閉じた安定複素多様体が複素同境であることと、Chern 数がすべて等しいことは同値である。
Milnor–Novikov の定理の出典

1 は Rav04 Theorem 3.1.5(p. 61)で、Thom の同型 $\Omega^U_*\cong\pi_*(MU)$(下の節)と Adams スペクトル系列で証明されている。2 は同書 p. 104 がこの計算の帰結として述べている。どちらもこの記事では証明しない。$n$ の分割 $(i_1,\dots,i_r)$ ごとの積 $\mathbb{CP}^{i_1}\times\cdots\times\mathbb{CP}^{i_r}$ の Chern 数の行列は正則である(MS74 Theorem 16.7, p. 193)。1 により $\Omega^U_{2n}$ は分割の個数と同じ階数の自由アーベル群なので、これらの積の類は $\Omega^U_{2n}\otimes\mathbb Q$ の基底になり、$\Omega^U_*\otimes\mathbb Q$ は複素射影空間の類で生成される多項式環 $\mathbb Q\bigl[\,[\mathbb{CP}^1],\ [\mathbb{CP}^2],\dots\bigr]$ である。

Thom スペクトラム $MU$

$BU(n)$ を $U(n)$ の分類空間、$\gamma^n$ をその上の普遍な複素 $n$ 次元ベクトル束とし、$MU(n)$ を $\gamma^n$ の Thom空間 とする。包含 $BU(n)\to BU(n+1)$ による $\gamma^{n+1}$ の引き戻しは $\gamma^n\oplus\mathbb C$ で、その Thom 空間は $\Sigma^2MU(n)$ なので、写像 $\Sigma^2MU(n)\to MU(n+1)$ が得られる。こうしてできるスペクトラム(スペクトル(ホモトピー論))を Thom スペクトラム $MU$ という。そのホモトピー群は $\pi_m(MU)=\operatorname{colim}_n\pi_{m+2n}(MU(n))$ である。
Thom の Pontryagin–Thom 構成は、閉じた安定複素多様体を十分大きな次元の Euclid 空間に埋め込み、法束の分類写像と法束の管状近傍のつぶしから $S^{m+2n}\to MU(n)$ を作るもので、同型 $\Omega^U_m\cong\pi_m(MU)$ を与える(Rav04 p. 104。この記事では証明しない)。ここでは安定複素構造を接束でなく安定法束の複素構造で与える流儀をとっており、$TM\oplus\nu\cong\varepsilon^N$ により 2 つの流儀は互いに移り合う。直積は $MU$ の積 $MU(m)\wedge MU(n)\to MU(m+n)$($\gamma^m\times\gamma^n$ の分類写像の Thom 空間)に対応し、$MU$ は可換な環スペクトラムとして乗法的な一般コホモロジー理論 $MU^*(-)$ を定める。$MU^*(-)$ を 複素コボルディズム理論という。係数環は $MU^{-m}(\mathrm{pt})=\pi_m(MU)\cong\Omega^U_m$ である。

複素向きと形式群則

乗法的なコホモロジー理論 $E^*(-)$(可換な環スペクトラム $E$ が定めるもの。一般コホモロジー理論)について、$E^*:=E^*(\mathrm{pt})$ と書く。

複素向き

$E$ の 複素向きとは、元 $x_E\in\tilde E^2(\mathbb{CP}^\infty)$ で、$\mathbb{CP}^1\subset\mathbb{CP}^\infty$ への制限が、懸垂同型 $\tilde E^2(\mathbb{CP}^1)=\tilde E^2(S^2)\cong E^0$ で $1$ に対応するものである。複素向きを固定した $E$ を 複素向き付けられた理論という。

これは Rav04 Definition 4.1.1(p. 104)の定義である。整数係数の通常のコホモロジー $H$ は $\mathbb{CP}^\infty$ の超平面類 $x_H=c_1(\gamma^1)$ で複素向き付けられる(Rav04 Example 4.1.2)。$MU$ は、$\mathbb{CP}^\infty=BU(1)\simeq MU(1)\to\Sigma^2MU$ が定める類 $x_{MU}\in MU^2(\mathbb{CP}^\infty)$ で複素向き付けられる(同 Example 4.1.3)。

複素射影空間の $E$ コホモロジー

$E$ を複素向き付けられた理論とする。

  1. $E^*(\mathbb{CP}^\infty)=E^*[\![x_E]\!]$ である。
  2. $E^*(\mathbb{CP}^\infty\times\mathbb{CP}^\infty)=E^*[\![x_E\otimes1,1\otimes x_E]\!]$ であり、3 つの積についても同様である。
補題の出典

これは Rav04 Lemma 4.1.4 の (a)・(b)(p. 105)で、Atiyah–Hirzebruch スペクトル系列が退化することから得られる(この記事では証明しない)。

$\mathbb{CP}^\infty=BU(1)$ は複素直線束を分類し、直線束のテンソル積 $L_1\otimes L_2$ を分類する写像 $t\colon\mathbb{CP}^\infty\times\mathbb{CP}^\infty\to\mathbb{CP}^\infty$ がある。直線束のテンソル積は同型を除いて結合的・可換で、自明な直線束が単位元なので、$t$ はホモトピーを除いて結合的・可換で、基点 $*$ を単位元とする($t(-,*)\simeq\mathrm{id}$)。

複素向きから得られる形式群則

$E$ を複素向き付けられた理論とし、$t^*(x_E)=F_E(x_E\otimes1,1\otimes x_E)$ により冪級数 $F_E(X,Y)\in E^*[\![X,Y]\!]$ を定める(cc-lem-cpinfty の 2)。このとき $F_E$ は $E^*$ の偶数次の部分の上の一次元可換形式群則である。すなわち
$$ F_E(X,0)=X,\qquad F_E(X,Y)=F_E(Y,X),\qquad F_E(F_E(X,Y),Z)=F_E(X,F_E(Y,Z)) $$
が成り立つ。

$x:=x_E$ とする。$x$ は次数 $2$ で、$F_E(X,Y)=\sum a_{ij}X^iY^j$ の両辺の次数を比べると $a_{ij}\in E^{2-2i-2j}$ なので、係数は偶数次の元で、互いに可換である。
単位律:$j\colon\mathbb{CP}^\infty\to\mathbb{CP}^\infty\times\mathbb{CP}^\infty$、$j(z)=(z,*)$ とすると $t\circ j\simeq\mathrm{id}$ である。$j^*(x\otimes1)=x$、$j^*(1\otimes x)$ は 1 点 $*$ への制限を経由するので、$\tilde E^2(\mathrm{pt})=0$ から $0$ である。$j^*$ は環準同型で冪級数と両立する(cc-lem-cpinfty の同型は自然である)ので、$x=j^*t^*x=j^*F_E(x\otimes1,1\otimes x)=F_E(x,0)$ であり、cc-lem-cpinfty の 1 により $F_E(X,0)=X$ である。$F_E(0,Y)=Y$ も同様である。
可換性:$\tau$ を因子の入れ替えとすると $t\circ\tau\simeq t$ なので、$F_E(x\otimes1,1\otimes x)=\tau^*t^*x=F_E(\tau^*(x\otimes1),\tau^*(1\otimes x))=F_E(1\otimes x,x\otimes1)$ であり、cc-lem-cpinfty の 2 により $F_E(X,Y)=F_E(Y,X)$ である。
結合性:$t\circ(t\times\mathrm{id})\simeq t\circ(\mathrm{id}\times t)$ を $\mathbb{CP}^\infty$ の 3 つの積の上で引き戻す。$x_1,x_2,x_3$ を 3 つの因子からの $x$ の引き戻しとすると、$(t\times\mathrm{id})^*(t^*x)=F_E\bigl((t\times\mathrm{id})^*(x\otimes1),x_3\bigr)=F_E(F_E(x_1,x_2),x_3)$ であり、同様に $(\mathrm{id}\times t)^*(t^*x)=F_E(x_1,F_E(x_2,x_3))$ である。cc-lem-cpinfty の 2 の 3 つの積の版により、2 つの冪級数は等しい。$\square$

これは Rav04 Lemma 4.1.4 (c)(p. 105)で、そこでは $\mathbb{CP}^\infty$ が結合的・可換な単位元つきの H 空間であることから従うと述べられている。

通常コホモロジーと $K$ 理論
  1. $E=H$(整数係数)、$x_H=c_1(\gamma^1)$ のとき、$t^*\gamma^1=\gamma^1\boxtimes\gamma^1$ の第 1 Chern 類は $c_1(\gamma^1)\otimes1+1\otimes c_1(\gamma^1)$ なので(Chern類 の命題「直線束のテンソル積」)、$F_H(X,Y)=X+Y$(加法形式群則、形式群 の例「加法形式群」)である。
  2. 複素 $K$ 理論では、$\mathbb{CP}^1=S^2$ の上の $[\gamma]-1$ は $\tilde K(S^2)$ の生成元である(位相的K理論 の定理「射影直線上の関係式」とその後の段落)。$\tilde K(S^2)\cong K^{-2}$ によるその像を $\beta$ とすると、Bott 周期性により $\beta$ は $K^*$ の可逆元で(位相的K理論 の節「一般コホモロジー論として」)、$x_K:=\beta^{-1}([\gamma^1]-1)\in\tilde K^2(\mathbb{CP}^\infty)$ は複素向きである。直線束について $[L_1\otimes L_2]-1=([L_1]-1)+([L_2]-1)+([L_1]-1)([L_2]-1)$ なので、形式群則は $F_K(X,Y)=X+Y+\beta XY$ である(乗法形式群則、形式群 の例「乗法形式群」、Rav04 Example A2.1.4 (b), p. 342)。
Quillen の定理

Lazard 環を $L$、その上の普遍な形式群則を $F$ とする(Rav04 Theorem A2.1.8, pp. 343–344)。$F_{MU}$ を定める環準同型 $\theta_{MU}\colon L\to\pi_*(MU)$ は同型である。$L$ は多項式環 $\mathbb Z[x_1,x_2,\dots]$($|x_i|=2i$)である(Lazard。同 Theorem A2.1.10, p. 344)。

Quillen の定理の出典

Rav04 Theorem 4.1.6(p. 105)である(この記事では証明しない)。$F_{MU}$ の有理化の対数は $\log(X)=\sum_{n\ge0}\frac{[\mathbb{CP}^n]}{n+1}X^{n+1}$ で与えられる(Mishchenko の定理、Rav04 Theorem 4.1.5, p. 105。標数 $0$ の形式群則が対数をもつことは 形式群 の定理「形式群の対数」)。$E$ の複素向きは環スペクトラムの乗法的な写像 $MU\to E$ と一対一に対応する(Rav04 Lemma 4.1.13, p. 109)。その写像が誘導する環準同型 $\pi_*(MU)\to E^{-*}$ は $F_{MU}$ を $F_E$ に写すので、Quillen の定理と合わせると、$F_E$ を分類する $L\to E^{-*}$ は $MU\to E$ から得られる。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\partial W$ の安定複素構造が $W$ から誘導される(cc-thm-boundary)複素多様体としての $\mathbb{CP}^1$(多様体としては $D^3$ の境界)境界の Chern 数は $0$
$E$ が複素向きをもつ(cc-thm-fgl)実 $K$ 理論 $KO$$E^*(\mathbb{CP}^\infty)$ から形式群則が得られること

1 行目:$\mathbb{CP}^1=S^2$ は向き付けられた多様体として $D^3$ の境界だが、$c_1[\mathbb{CP}^1]=2\neq0$ である(cc-ex-cpn)。cc-thm-boundary により、$D^3$ のどの安定複素構造も $\mathbb{CP}^1$ の複素構造を誘導しない。2 行目:$KO$ は複素向きをもたない環スペクトラムの例として挙げられている(Rav04 p. 104)。
$H$ と $K$ の形式群則は、$\mathbb Z$ の上では同型でない(形式群 の例「反例:$\mathbb Z$ 上では乗法形式群と加法形式群は同型でない」)。$\mathbb Q$ を係数に含めると、どの形式群則も対数によって加法形式群則と同型になる(形式群 の定理「形式群の対数」)。$F_K$ の対数は $\beta^{-1}\log(1+\beta X)$ である($1+\beta F_K(X,Y)=(1+\beta X)(1+\beta Y)$ の対数をとる)。

補足

複素コボルディズムは安定ホモトピー論の計算の中心にある。$MU$ を使った Adams スペクトル系列(Adams–Novikov スペクトル系列)の $E_2$ 項は、Quillen の定理により形式群則とその同型の代数で記述される(Rav04 第 4 章)。素数 $p$ で局所化した $MU$ は、Brown–Peterson スペクトラム $BP$ を乗法的なレトラクトにもち、$\pi_*(BP)=\mathbb Z_{(p)}[v_1,v_2,\dots]$($|v_n|=2(p^n-1)$)である(同 Theorem 4.1.12, p. 108)。
向きを考えない同境では Stiefel–Whitney 数が、向き付けられた同境では Pontryagin 数と Stiefel–Whitney 数が同様の役割を果たす(コボルディズム の定理「Pontryagin と Thom の定理」)。

関連項目

参考文献

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