因子臨界グラフ(factor-critical graph)とは、どの 1 頂点を取り除いても残りが完全マッチングをもつ有限グラフである。頂点数は奇数で、グラフは連結であり、奇閉路、頂点数が奇数の完全グラフ、Petersen グラフから 1 頂点を除いたグラフなどが例である。1 頂点から始めて奇数長の耳(両端だけを共有する道か、1 頂点だけを共有する閉路)を次々に加えて組み立てられることと同値である(Lovász の定理)。Gallai–Edmonds の分解定理や Edmonds の花アルゴリズムで、最大マッチングの構造を担う。
前提知識: マッチング(グラフ理論), Tutteの定理, 閉路
因子臨界グラフ(factor-critical graph)とは、どの 1 頂点を取り除いても残りのグラフが完全マッチングをもつグラフである。頂点数が奇数のグラフはそれ自身は完全マッチングをもたないが、因子臨界グラフでは、どの頂点を 1 つ余らせても残りの頂点をすべて辺で組にできる。奇数長の閉路、頂点数が奇数の完全グラフ、Petersenグラフ から 1 頂点を除いたグラフなどが例である。
因子臨界グラフは、一般のグラフの最大マッチングの構造に現れる。Gallai–Edmondsの分解定理 では、ある最大マッチングで飽和されない頂点の集合の各成分が因子臨界であり、Edmondsの花アルゴリズム が縮める奇閉路(花)も因子臨界グラフである。この記事では、基本性質と Tutte の条件・最大マッチングによる言い換えを述べたあと、主定理として、グラフが因子臨界であることと、1 頂点から始めて奇数長の「耳」を次々に付け加えて組み立てられることが同値であるという L. Lovász の定理(1972 年。Seb19 p. 2)を証明する。
この記事のグラフは有限の単純無向グラフ $G=(V,E)$ とする。マッチング、飽和、完全マッチング、最大マッチング、マッチング数 $\nu(G)$ の用語は マッチング(グラフ理論) に従う。$X\subset V$ について $G-X$ は $V\setminus X$ 上の誘導部分グラフで、$G-v:=G-\{v\}$ と書く。ちょうど 1 頂点だけを飽和しないマッチングを ほぼ完全マッチング(near-perfect matching)という。
頂点を 1 つ以上もつグラフ $G$ が 因子臨界(factor-critical)であるとは、$G$ のどの頂点 $v$ についても $G-v$ が完全マッチングをもつことをいう。
$G-v$ の完全マッチングは、$G$ の $v$ だけを飽和しないほぼ完全マッチングと同じものである。したがって $G$ が因子臨界であることは、「どの頂点 $v$ についても、$v$ だけを飽和しないほぼ完全マッチングがある」と言い換えられる。
1 頂点のグラフ $K_1$ は因子臨界である($K_1-v$ は頂点のないグラフで、空集合が完全マッチングである)。長さ $2m+1$ の閉路 $C_{2m+1}$ から 1 頂点を除くと $2m$ 頂点の道が残り、その辺を 1 本おきにとれば完全マッチングになるので、$C_{2m+1}$ は因子臨界である。$G$ が因子臨界なら、$G$ に同じ頂点集合の上で辺を加えたグラフも因子臨界である(完全マッチングはそのまま残る)。
$G=(V,E)$ を因子臨界グラフとする。
1:頂点 $v$ をとると、$G-v$ の完全マッチングは $|V|-1$ 個の頂点を 2 個ずつ組にするので、$|V|-1$ は偶数である。完全マッチングをもつグラフの頂点数は偶数なので、$G$ は完全マッチングをもたない。
2:$G$ が 2 つ以上の連結成分(グラフ)をもつとし、成分 $K$ を 1 つとる。$K$ の外の頂点 $v$ をとると、$K$ は $G-v$ の成分でもあり、$G-v$ の完全マッチングの辺は成分の中にあるので、$K$ の頂点数は偶数である。どの成分 $K$ にも外の頂点があるので、すべての成分の頂点数が偶数となり、$|V|$ が奇数であることに反する。
3:次数 $0$ の頂点は、2 により $|V|=1$ のときしかない。次数 $1$ の頂点 $x$ があり、その唯一の隣接頂点を $y$ とする。$G-y$ では $x$ は孤立点なので、$G-y$ の完全マッチングは $x$ を飽和できず矛盾する。$\square$
因子臨界性は、Tutteの定理 の Tutte の条件と、最大マッチングで飽和されない頂点の言葉でも述べられる。$H$ の連結成分のうち頂点数が奇数のものの個数を $o(H)$ と書く(Tutteの定理 の定義「奇成分と Tutte の条件」)。
頂点を 1 つ以上もつグラフ $G=(V,E)$ について、次は同値である。
頂点 $v$ を固定する。$(G-v)-T=G-(T\cup\{v\})$ なので、Tutteの定理 の主定理「Tutte の定理」を $G-v$ に当てると、$G-v$ が完全マッチングをもつことは、すべての $T\subset V\setminus\{v\}$ について $o\bigl(G-(T\cup\{v\})\bigr)\le|T|$ であることと同値である。$S:=T\cup\{v\}$ とおけば $|T|=|S|-1$ であり、$T$ が $V\setminus\{v\}$ の部分集合を動くとき $S$ は $v$ を含む $V$ の部分集合をちょうど 1 回ずつ動く。よって $G-v$ が完全マッチングをもつことは、$v$ を含むすべての $S\subset V$ について $o(G-S)\le|S|-1$ であることと同値である。これをすべての $v$ についてあわせると、空でないすべての $S$ についての条件 2 になる。$\square$
条件 2 で $S=\{v\}$ とおくと $o(G-v)=0$、すなわち $G-v$ のどの成分も頂点数が偶数である。これは prop-fc-basic の 1・2 の議論と同じ内容である。
$G$ の頂点 $v$ を飽和しない最大マッチングがあるような $v$ の全体を $D(G)$ と書く(Gallai–Edmondsの分解定理 の定義「分解の 3 つの集合」)。
頂点を 1 つ以上もつグラフ $G=(V,E)$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2:$|V|=2k+1$ とすると(prop-fc-basic の 1)、どのマッチングも偶数個の頂点しか飽和しないので $\nu(G)\le k$ であり、$G-v$ の完全マッチングは大きさ $k$ で $v$ を飽和しない最大マッチングである。連結性は prop-fc-basic の 2 による。
2 ⇒ 1 は Gallai の補題であり、この記事では証明しない(証明は Gallai–Edmondsの分解定理 の補題「Gallai の補題」)。$\square$
2 の連結性は外せない。2 つの三角形の交わりのない和 $2K_3$ では、最大マッチングは各三角形から 1 本ずつの辺からなり、どの頂点もそれを避ける選び方があるので $D=V$ であるが、頂点数 $6$ は偶数なので因子臨界でない。
奇閉路に、両端を共有する奇数長の道を付け加えても因子臨界性は保たれる。この操作を繰り返してグラフを組み立てるのが耳分解である。
$H$ をグラフ $G$ の部分グラフとする。
$G_0$ は 1 頂点なので、最初の耳 $P_1$ は閉じた耳、すなわち閉路である。閉路から始めて耳を付け加える流儀もあり(Seb19 p. 2)、$G$ が 2 頂点以上なら同じことである。ただしその流儀で奇耳分解を考えるときは、最初の閉路の長さも奇数とする(そうしないと、耳を 1 つも加えない偶数長の閉路が、すべての耳が奇数長の耳分解をもつことになる)。
グラフ $G=(V,E)$ が $r$ 個の耳をもつ耳分解をもつとする。
1:長さ $\ell$ の耳は、開いていても閉じていても、$\ell$ 本の辺と $\ell-1$ 個の内部の頂点を加える。よって 1 つの耳ごとに「辺の本数 $-$ 頂点の個数」はちょうど $1$ 増える。$G_0$ では $0-1=-1$ なので、$G_r=G$ では $|E|-|V|=-1+r$ である。
2:$i$ についての帰納法で、$G_i$ が連結で、$G_i$ のどの辺も $G_i$ の閉路の上にあることを示す($i=0$ では辺がない)。閉じた耳 $P_i$ は $G_{i-1}$ の頂点 1 個を含む閉路なので、$G_i$ は連結で、$P_i$ の辺は $P_i$ の上にある。開いた耳 $P_i$ の端点を $a\ne b$ とすると、$G_{i-1}$ は連結なので $G_{i-1}$ に $a$ から $b$ への道 $Q$ がある。$Q$ の辺は $G_{i-1}$ の辺で $P_i$ の辺は $G_{i-1}$ の辺でなく、$Q$ と $P_i$ の共有点は $a,b$ だけなので、$Q$ と $P_i$ をつないだものは閉路である。$\square$
まず、奇数長の耳を加えても因子臨界性が保たれることを示す。
$H$ を因子臨界グラフ、$P$ を $H$ の長さが奇数の耳(開いていても閉じていてもよい)とする。このとき $H\cup P$ は因子臨界である。
$P=x_0x_1\cdots x_\ell$、$\ell=2s+1$ とする(閉じた耳なら $x_\ell=x_0$)。内部の頂点は $x_1,\dots,x_{2s}$ の $2s$ 個である。$H\cup P$ の頂点 $z$ をとり、$z$ だけを飽和しないほぼ完全マッチングを作る。
頂点を 1 つ以上もつグラフ $G=(V,E)$ について、次は同値である。
2 ⇒ 1:奇耳分解 $G_0\subset\cdots\subset G_r=G$ をとる。$G_0=K_1$ は因子臨界であり、lem-fc-add-ear により $G_{i-1}$ が因子臨界なら $G_i$ も因子臨界である。
1 ⇒ 2:頂点 $v$ を固定し、$G-v$ の完全マッチング $M$ をとる。$M$ は $v$ だけを飽和しない。$G$ の部分グラフ $H$ で、次の 2 条件を満たすものを考える。
(a) $H$ は $v$ だけからなる $H_0$ から始まる奇耳分解をもつ。
(b) $M$ の辺で、一方の端点だけが $V(H)$ に属するものはない。
$H=H_0$ は (a)(b) を満たす($v$ は $M$ で飽和されない)。(a)(b) を満たす $H$ で $V(H)\ne V$ のものから、(a)(b) を満たし頂点が真に多い $H'$ を作る。
$G$ は連結(prop-fc-basic の 2)なので、$V(H)$ に属さない頂点 $y$ で、$V(H)$ のある頂点 $h$ と隣接するものがある。$G-y$ の完全マッチング $N$ をとり、頂点集合 $V$、辺集合 $M\triangle N$(対称差)のグラフを考える。各頂点には $M$ の辺と $N$ の辺が高々 1 本ずつ接続するので、このグラフの次数は $2$ 以下である。$v$ は $N$ だけで飽和されるので次数 $1$、$y$ は $M$ だけで飽和されるので次数 $1$、ほかの頂点は $M$ と $N$ の両方で飽和されるので次数 $0$ か $2$ である。よって $v$ を含む成分は道で、もう一方の端点は次数 $1$ の頂点 $y$ である。この道を
$$
v=q_0,\ q_1,\ \dots,\ q_t=y
$$
とする。$v$ での辺は $N$ に属し、辺は $N$ と $M$ に交互に属するので、$q_kq_{k+1}$ は $k$ が偶数なら $N\setminus M$、奇数なら $M\setminus N$ に属する。$y$ での最後の辺は $M$ に属するので、$t$ は偶数である。
$q_j\notin V(H)$ となる最小の $j$ をとる($q_t=y$ なのでとれ、$j\ge1$)。辺 $q_{j-1}q_j$ は $V(H)$ とその外を結ぶので (b) により $M$ に属さず、$j-1$ は偶数、すなわち $j$ は奇数である。$t$ は偶数なので $j< t$ であり、$q_jq_{j+1}\in M$ である。(b) により、$M$ で $V(H)$ の外の頂点と組む頂点は $V(H)$ の外にあるので、$q_{j+1}\notin V(H)$ である。
頂点数が $3$ 以上の因子臨界グラフでは、どの辺もある閉路の上にある。すなわち、取り除くと連結でなくなる辺(橋)はない。
thm-fc-lovasz により奇耳分解があるので、lem-fc-ear-count の 2 による。閉路の上の辺を除いても、その閉路の残りの道で両端が結ばれるので連結性は保たれる。$\square$
頂点数 $3$ 以上の因子臨界グラフは 2-連結とは限らない(ex-fc-examples の 4)。
Edmondsの花アルゴリズム は、奇閉路を 1 点に縮めて探索を続ける。因子臨界な部分グラフを縮めることと因子臨界性の関係は次のとおりである。$H$ を $G$ の部分グラフとするとき、$V(H)$ を 1 つの新しい頂点 $h$ に置き換えたグラフ $G/H$ を次で定める:頂点集合は $(V\setminus V(H))\cup\{h\}$、辺は $G-V(H)$ の辺と、$V(H)$ のある頂点と $G$ で隣接する $y\notin V(H)$ についての辺 $hy$ である。
$H$ をグラフ $G$ の因子臨界な部分グラフとする。$G/H$ が因子臨界ならば、$G$ も因子臨界である。
$G$ の頂点 $z$ をとる。$z\in V(H)$ のとき:$G/H-h=G-V(H)$ の完全マッチングに $H-z$ の完全マッチングを加えると、$G-z$ の完全マッチングになる。$z\notin V(H)$ のとき:$G/H-z$ の完全マッチング $N$ で $h$ と組む頂点を $y$ とし、$y$ と $G$ で隣接する $x\in V(H)$ をとる。$N$ の辺 $hy$ を $G$ の辺 $xy$ に置き換え、$H-x$ の完全マッチングを加えると、$G-z$ の完全マッチングになる。$\square$
逆は成り立たない。道 $v_1v_2v_3v_4$ のすべての頂点を頂点 $c$ と結んだ 5 頂点のグラフ(車輪グラフ の扇 $F_4$)は長さ $5$ の閉路 $c,v_1,v_2,v_3,v_4,c$ を含むので因子臨界であるが、三角形 $H=cv_2v_3$ を縮めると、$h$ が $v_1,v_4$ と隣接し $v_1,v_4$ は隣接しない道 $P_3$ になり、因子臨界でない。
$W_{2m}$ の奇耳分解の一つは、閉じた耳 $h,v_1,v_2,h$、開いた耳 $v_2v_3v_4h,\ v_4v_5v_6h,\ \dots,\ v_{2m-2}v_{2m-1}v_{2m}h$(長さ $3$ が $m-1$ 個)、残りの $m$ 本の辺 $hv_3,hv_5,\dots,hv_{2m-1},v_{2m}v_1$(長さ $1$)である。耳は $1+(m-1)+m=2m$ 個で、$|E|-|V|+1=4m-(2m+1)+1$ に一致する。
次の表は、各行で仮定を 1 つだけ外したときに結論が成り立たなくなる例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-fc-lovasz の 2 の「耳の長さが奇数」 | 本のグラフ $B$ と、長さ $3,2,2$ の耳からなる耳分解 | 因子臨界であること |
| lem-fc-add-ear の「$H$ が因子臨界」 | $H=K_2$(辺 $ab$)と長さ $3$ の開いた耳 $axyb$ | $H\cup P$ が因子臨界であること |
| prop-fc-contract の「$H$ が因子臨界」 | 閉路 $C_4$ と、その 1 辺からなる $H$ | $G$ が因子臨界であること |
| prop-fc-gallai の 2 の「連結」 | 三角形 2 つの交わりのない和 $2K_3$ | $G$ が因子臨界であること |
1 行目:$B$ は、隣接する 2 頂点 $a,b$ と、$a,b$ の両方とだけ隣接する 3 頂点 $c,d,e$ からなる 5 頂点のグラフである。$G_0=\{a\}$、閉じた耳 $abca$(長さ $3$)、開いた耳 $adb$、$aeb$(長さ $2$)は耳分解である。$B-a$ は $b$ を中心とする星 $K_{1,3}$ で、どのマッチングも辺 1 本なので完全マッチングをもたない。よって $B$ は頂点数が奇数でも因子臨界でない。
2 行目:$K_2$ は頂点数が偶数なので因子臨界でない。$K_2\cup P$ は閉路 $a,x,y,b,a$、すなわち $C_4$ で、頂点数 $4$ が偶数なので因子臨界でない。
3 行目:$C_4$(頂点 $1,2,3,4$)と $H=$ 辺 $12$ について、$G/H$ では $h$ が $3,4$ と隣接し $3,4$ も隣接するので三角形で、因子臨界である。$C_4$ は頂点数が偶数なので因子臨界でない。
4 行目:prop-fc-gallai の直後に見た。
prop-fc-basic と cor-fc-bridgeless の必要条件を重ねても、因子臨界であることは従わない。
| みたす性質 | 例 | 因子臨界でない理由 |
|---|---|---|
| 頂点数が奇数で連結 | 道 $P_3$ | 中央の頂点を除くと孤立点が 2 つ残る |
| さらに最小次数 $2$ 以上 | 2 つの三角形を長さ $2$ の道で結んだ 7 頂点のグラフ | 道の中央の頂点を除くと三角形 2 つが残る |
| さらに 2-連結 | 完全二部グラフ $K_{2,3}$ | 2 頂点の側の頂点を除くと $K_{1,3}$ が残る |
2 行目のグラフは橋をもつ(cor-fc-bridgeless)。3 行目は、より一般に、頂点数 $2$ 以上の二部グラフは因子臨界でないことの例である(Gallai–Edmondsの分解定理 の補足「二部グラフ」)。
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