位相幾何学

同義語:topologyトポロジー

概要

位相幾何学(topology)とは、位相空間と連続写像を研究し、とくに同相写像で変わらない位相的性質と位相不変量によって空間を調べる数学の分野である。連結性・コンパクト性などを扱う一般位相、基本群やホモロジーを使う代数的位相幾何学、多様体を扱う微分位相幾何学、曲面・3 次元多様体・結び目を扱う低次元位相幾何学に分かれ、空間を区別・分類すること、埋め込みと補集合を調べること、不動点や零点の存在を示すことが主な問いである。自分自身と交わらない平面の折れ線の閉曲線(単純多角形)の補集合はちょうど 2 つの連結成分をもつことが、交わりの個数の偶奇を数える議論で証明できる。

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前提知識: 位相空間, 連続写像, 同相写像

位相幾何学(topology)は、図形を曲げたり伸ばしたりする連続的な変形で変わらない性質を研究する数学の分野である。ゴムでできた円周は正方形の周にも楕円にも変形できるが、切ったり貼ったりしなければ線分にも 8 の字にもならない。長さ・角・面積は変形で変わるので、位相幾何学では使わない。代わりに「つながっているか」「穴がいくつあるか」「図形が平面を何個の部分に分けるか」のような、つながり方だけで決まる性質を調べる。
この記事では、まず位相的性質と位相不変量を定義し、位相幾何学の主な問いと代表的な定理を、それを扱う記事とともに一覧にする。続いて、平面の中の自分自身と交わらない折れ線の閉曲線が平面をちょうど 2 つの部分に分けること(多角形の Jordan 曲線定理)を完全に証明し、仮定を 1 つずつ外した反例を示す。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。

定義

位相空間 $X$ は、集合と、開集合とよぶ部分集合の族の組である(位相空間)。$\mathbb{R}^n$ には通常の距離から定まる位相を入れる(Euclid空間)。位相空間の間の写像 $f\colon X\to Y$ は、開集合の逆像が開集合であるとき連続であり(連続写像)、連続な全単射で逆写像も連続なものを同相写像、同相写像が存在する $X,Y$ を同相であるという(同相写像)。

位相的性質と位相不変量

位相空間についての性質 $\mathsf{P}$ が、$X$ と $Y$ が同相で $X$ が $\mathsf{P}$ をもてば $Y$ も $\mathsf{P}$ をもつ、という条件を満たすとき、$\mathsf{P}$ を位相的性質という。位相空間に数・群などを対応させる規則 $I$ で、$X$ と $Y$ が同相ならば $I(X)$ と $I(Y)$ が等しい(群なら同型)ものを位相不変量という。
位相幾何学とは、位相空間と連続写像を研究し、とくに位相的性質と位相不変量によって空間と写像を調べる数学の分野である。

連結性(連結空間)、コンパクト性(コンパクト空間)、Hausdorff 性(Hausdorff空間)は位相的性質であり、連結成分の個数も、同相写像が成分を全単射に写すので(連結成分)位相不変量である。前の 3 つの性質の証明は次にある(同相写像 の命題「位相的性質の例」)。2 つの空間が同相でないことを示すには、一方だけがもつ位相的性質を見つければよい。たとえば $\mathbb{R}$ から 1 点を除くと連結でなくなるが、$\mathbb{R}^2$ から 1 点を除いても連結なので、$\mathbb{R}$ と $\mathbb{R}^2$ は同相でない(同相写像 の例「直線と平面、閉区間と円周」)。
位相幾何学は扱う空間と道具によって、おおよそ次の分野に分かれる。

位相幾何学の主な問い

  1. 見分ける。 2 つの空間が同相かどうかを判定する。同相であることは同相写像を作れば示せるが、同相でないことを示すには、位相的性質や位相不変量が必要になる。$m\ne n$ のとき $\mathbb{R}^m$ と $\mathbb{R}^n$ が同相でないこと(次元の位相不変性)は、$m,n\ge2$ では 1 点を除いて連結性を比べる議論では示せず、ホモロジー を使う。
  2. 分類する。 ある種類の空間を同相を除いてすべて挙げる。連結な閉曲面は、球面、いくつかのトーラスの連結和、いくつかの射影平面の連結和のどれか 1 つに同相である(閉曲面の分類)。分類には、Euler標数 のような不変量が、どの空間とどの空間が同相でないかを教える。
  3. 埋め込みと分離。 空間を別の空間の中に置いたとき、どのように置けるか、補集合はどうなるかを問う。平面の中の円周と同相な図形は平面を 2 つの部分に分ける(Jordan曲線定理)。3 次元空間の中の円周の置き方を調べるのが 結び目 の理論である。
  4. 方程式の解の存在。 連続写像の不動点や零点の存在を、つながり方だけから示す。中間値の定理、Brouwerの不動点定理、Borsuk–Ulamの定理 がこの型である。

代表的な定理

位相幾何学の基本となる定理を、それを扱う記事とともに挙げる。

定理主張の要点記事
中間値の定理区間の上の連続関数は途中の値をすべてとる中間値の定理
連結性・コンパクト性の保存連結空間・コンパクト空間の連続像は連結・コンパクト連結空間, コンパクト空間
コンパクトから Hausdorff への連続全単射同相写像になる同相写像
Urysohn の補題正規空間の交わらない閉集合は連続関数で分けられるUrysohnの補題
Tychonoff の定理コンパクト空間の直積はコンパクトTychonoffの定理
Brouwer の不動点定理閉円板からそれ自身への連続写像は不動点をもつBrouwerの不動点定理
Borsuk–Ulam の定理球面 $S^n$ から $\mathbb{R}^n$ への連続写像は、ある対蹠点で等しい値をとるBorsuk–Ulamの定理
Jordan 曲線定理平面の中の単純閉曲線の補集合はちょうど 2 つの連結成分をもつJordan曲線定理
閉曲面の分類連結な閉曲面は向き付け可能性と Euler 標数で決まる閉曲面の分類
Poincaré 予想単連結な 3 次元閉多様体は 3 次元球面に同相Poincaré予想

位相幾何学の考え方は、Euler による 2 つの観察にさかのぼる。Königsberg の 7 つの橋をちょうど 1 回ずつ渡って戻る道は存在しないこと(Euler閉路、一筆書きとグラフ)は、橋の長さや配置の角度によらず、陸地と橋のつながり方だけで決まる。凸多面体の頂点・辺・面の数 $V,E,F$ が $V-E+F=2$ を満たすこと(Eulerの多面体定理(高校数学))も、多面体を変形しても変わらない量であり、これは Euler標数 の出発点になった。

代表例:多角形の Jordan 曲線定理

平面の中の円周と同相な図形(単純閉曲線)の補集合がちょうど 2 つの連結成分をもつことが Jordan曲線定理 である。直観には明らかに見えるが、一般の単純閉曲線は至るところで振動しうるので、証明には ホモロジー などの道具を使う。曲線が有限個の線分からなる場合には、交わりの個数の偶奇を数える初等的な証明ができる。ここではその場合を完全に証明する。この証明は、「補集合の連結成分の個数」という位相不変量を、平面の局所的な形と大域的な数え上げで決める典型例である。

単純多角形

点 $a,b\in\mathbb{R}^2$ を結ぶ線分を $[a,b]=\{(1-s)a+sb\mid 0\le s\le1\}$ と書く。

単純多角形

$n\ge3$ とし、$\mathbb{R}^2$ の相異なる点 $v_1,\dots,v_n$ をとる。添字は $n$ を法として読み($v_{n+1}=v_1$、$v_0=v_n$)、$e_i:=[v_i,v_{i+1}]$ とおく。次の 2 条件を満たすとき、$P:=e_1\cup\cdots\cup e_n$ を単純多角形、$v_i$ を頂点、$e_i$ を辺という。
(a) 隣り合う辺 $e_{i-1},e_i$ の共通部分は $\{v_i\}$ だけである。
(b) 隣り合わない 2 辺は交わらない。

$P$ は有界な閉集合(コンパクト)であり、閉区間 $[0,n]$ を頂点を順にたどる折れ線へ写す連続写像の像なので連結である(連結空間 の定理「連続像は連結」)。$\mathbb{R}^2\setminus P$ は開集合である。その連結成分(連結成分)も開集合である。実際、成分 $U$ の点 $x$ のまわりの開円板で $\mathbb{R}^2\setminus P$ に含まれるものは連結で $U$ と交わるので、$U$ の極大性により $U$ に含まれる。同じ理由で、$\mathbb{R}^2\setminus P$ に含まれる連結な集合は、それと交わる成分に含まれる。

単純多角形の局所的な形

$P$ を単純多角形、$p\in P$ とする。十分小さい $r>0$ をとると、開円板 $B:=\{x\mid\lvert x-p\rvert < r\}$ について、$B\setminus P$ はちょうど 2 つの弧状連結な開集合 $S_1,S_2$ の和であり、$P\cap B$ の各点は $S_1$ の閉包と $S_2$ の閉包の両方に属する。

要点:$p$ を含まない辺は $p$ から正の距離にあるので、小さい円板の中では $P$ は直径 1 本か、$p$ から出る半径 2 本に見える。

詳しい証明を開く

$p$ を含まない辺の和集合 $K$ はコンパクトで $p\notin K$ なので、$p$ から $K$ への距離は正である。$r$ をこの距離より小さくとる。

$p$ が辺 $e_i$ の端点でない点のとき、(a)(b) により $p$ を含む辺は $e_i$ だけで、$e_i$ の端点 $v_i,v_{i+1}$ は他の辺に含まれるので $\lvert p-v_i\rvert,\lvert p-v_{i+1}\rvert>r$ である。よって $P\cap B=e_i\cap B$ は $B$ の直径であり、$B\setminus P$ は 2 つの開いた半円板 $S_1,S_2$ に分かれる。半円板は凸なので弧状連結であり、直径の各点は両側の半円板の点の極限である。

$p=v_i$ のとき、$p$ を含む辺は $e_{i-1},e_i$ だけであり($v_i$ は他の辺に含まれない)、$v_{i-1},v_{i+1}$ は他の辺に含まれるので $\lvert p-v_{i\pm1}\rvert>r$ である。よって $P\cap B$ は $p$ から $v_{i-1}$ の向きと $v_{i+1}$ の向きに出る 2 本の半径であり、(a) によりこの 2 つの向きは異なる。$B$ から 2 本の半径を除くと、2 つの開いた扇形 $S_1,S_2$ が残る。$p$ を中心とする極座標で、扇形は $\{(\rho,\theta)\mid 0 < \rho < r,\ \alpha < \theta < \beta\}$ の連続像なので弧状連結であり、2 本の半径の各点($p$ を含む)は両方の扇形の点の極限である。$\square$

定理と証明

多角形の Jordan 曲線定理

$P\subset\mathbb{R}^2$ を単純多角形とする。このとき $\mathbb{R}^2\setminus P$ はちょうど 2 つの連結成分をもち、一方は有界、他方は有界でない。さらに、$P$ はどちらの成分の境界とも一致する。

有界な成分を $P$ の内部、有界でない成分を外部という。証明は 3 段からなる。成分の境界が $P$ 全体であることから成分が高々 2 つであることを導き(段 1・2)、交わりの個数の偶奇で少なくとも 2 つあることを示す(段 3)。

段 1:各成分 $U$ の境界は $P$ である。 $\partial U\subset P$ を示す。$q\in\partial U$ が $P$ に属さないとすると、$q$ のまわりの開円板で $\mathbb{R}^2\setminus P$ に含まれるものは連結で $U$ と交わるので $U$ に含まれ、$q\in U$ となる。$U$ は開集合なので $U\cap\partial U=\emptyset$ であり、矛盾する。次に $\partial U\ne\emptyset$ である。$U$ は空でなく、$P\ne\emptyset$ なので $U\ne\mathbb{R}^2$ であり、$\partial U=\emptyset$ なら $U$ は $\mathbb{R}^2$ の開かつ閉な真部分集合となって $\mathbb{R}^2$ の連結性に反する。
$\partial U$ が $P$ の中で開集合であることを示す。$p\in\partial U$ をとり、lem-top-local の円板 $B$ と $S_1,S_2$ をとる。$p$ は $U$ の閉包に属するので $U$ は $B$ と交わり、$U\cap B\subset B\setminus P=S_1\cup S_2$ なので、ある $S_k$ が $U$ と交わる。$S_k$ は連結で $P$ と交わらないので $S_k\subset U$ である。lem-top-local により $P\cap B$ の各点は $S_k$ の閉包、したがって $U$ の閉包に属し、$U$ には属さないので、$P\cap B\subset\partial U$ である。$P\cap B$ は $P$ の中での $p$ の近傍である。境界は閉集合なので $\partial U$ は $P$ の中で開かつ閉であり、空でない。$P$ は連結なので $\partial U=P$ である。
段 2:成分は高々 2 つである。 辺 $e_1$ の端点でない点 $p_0$ をとり、lem-top-local の円板 $B_0$ と 2 つの半円板 $S_1,S_2$ をとる。段 1 により $p_0$ はどの成分 $U$ の境界にも属するので、段 1 と同じ議論で $U$ は $S_1$ か $S_2$ を含む。異なる成分は交わらないので、成分は高々 2 つである。
段 3:成分は少なくとも 2 つである。 単位ベクトル $u$ を、どの 2 頂点の差 $v_j-v_k$($j\ne k$)とも平行でないようにとる(除く向きは有限個)。$u$ に直交する単位ベクトルを $w$ とし、$h(x):=\langle x,w\rangle$(高さ)、$g(x):=\langle x,u\rangle$($u$ の向きの位置)とおく。$u$ の選び方から、頂点の高さ $h(v_1),\dots,h(v_n)$ は相異なる。各辺 $e_i$ について、$h(v_i)$ と $h(v_{i+1})$ の小さいほうを左端、大きいほうを右端とする半開区間を $J_i$ とする。$t$ が $h(v_i)$ と $h(v_{i+1})$ の間にあるとき、$e_i$ の点で高さが $t$ のものはただ 1 つあり、それを $c_i(t)$ と書く。$c_i(t)$ は $t$ について連続である。
$x\notin P$ について、$N(x)$ を、$h(x)\in J_i$ かつ $g(c_i(h(x)))>g(x)$ を満たす辺 $e_i$ の個数とする。これは $x$ から $u$ の向きに出る半直線と $P$ の交わりを数えたものである(頂点を通るときは半開区間 $J_i$ で数え方を決めている)。$g(c_i(h(x)))=g(x)$ となることはない。$h$ と $g$ が一致すれば $c_i(h(x))=x$ となり、$x\notin P$ に反するからである。
(i) $N$ の偶奇は $\mathbb{R}^2\setminus P$ の上で局所的に一定である。 点 $x\notin P$ と、$x$ に十分近い点 $y\notin P$ を比べる。$h(x)$ が辺 $e_i$ の端点の高さのどちらとも異なれば、$y$ が $x$ に近いとき「$h(y)\in J_i$」は「$h(x)\in J_i$」と同値であり、$g(c_i(h(y)))-g(y)$ の符号は連続性により $x$ での符号と同じなので、$e_i$ の寄与は変わらない。$h(x)$ がある頂点 $v_j$ の高さに等しいときは、その $j$ はただ 1 つで、影響を受けるのは $v_j$ を端点にもつ $e_{j-1},e_j$ の 2 辺だけである。この 2 辺の寄与の和の偶奇が変わらないことは、下の折りたたみで確かめる。
(ii) 偶奇の異なる 2 点がある。 辺 $e_1$ の端点でない点 $p_1$ を、高さ $h(p_1)$ がどの頂点の高さとも異なるようにとる($e_1$ の点の高さは区間をなすので可能)。lem-top-local の円板 $B_1$(半径 $r_1$)をとり、$0 < \varepsilon < r_1$ について $y_\pm:=p_1\pm\varepsilon u$ とおく。$u$ は $e_1$ と平行でないので、線分 $[y_-,y_+]$ は $P$ と $p_1$ だけで交わり、$y_\pm\notin P$ である。$y_+$ と $y_-$ の高さは等しく、それを $\eta$ とすると、$h(c_i(\eta))=\eta$ となる点 $c_i(\eta)$ は $y_\pm$ を通る直線の上にある。$g(c_i(\eta))>g(y_-)$ と $g(c_i(\eta))>g(y_+)$ が食い違うのは $c_i(\eta)\in[y_-,y_+]$、すなわち $c_i(\eta)=p_1$ のときに限り、それは $i=1$ のときだけである($p_1$ は $e_1$ 以外の辺に含まれない)。$\eta$ は $h(v_1),h(v_2)$ の真に間にあるので $\eta\in J_1$ であり、$g(y_-) < g(p_1) < g(y_+)$ である。よって $N(y_-)=N(y_+)+1$ となる。
(i) により、$N$ の偶奇は $\{0,1\}$ への局所定数関数であり、各連結成分の上で一定である(局所定数関数で 1 つの値の逆像は開かつ閉なので)。(ii) の $y_-,y_+$ は偶奇が異なるので、異なる成分に属する。段 2 と合わせて、成分はちょうど 2 つである。
有界性。 $P$ は有界なので、$P\subset\{x\mid\lvert x\rvert\le M\}$ となる $M$ がある。$\{x\mid\lvert x\rvert>M\}$ は連結(弧状連結)で $P$ と交わらないので、1 つの成分に含まれ、その成分は有界でない。他方の成分はこれと交わらないので $\{x\mid\lvert x\rvert\le M\}$ に含まれ、有界である。$\square$

頂点の高さでの場合分け

$h(x)=h(v_j)$ とする。$v_j\ne x$ で高さが等しいので $g(v_j)\ne g(x)$ である。$y$ が $x$ に近いとき、$c_{j-1}(h(y))$、$c_j(h(y))$(定義されるとき)は $v_j$ に近い。

$g(v_j) < g(x)$ のときは、$y$ が $x$ に近ければ $g(c_i(h(y))) < g(y)$($i=j-1,j$)なので、2 辺の寄与はともに $0$ である。

$g(v_j)>g(x)$ のときは、$y$ が $x$ に近ければ $g(c_i(h(y)))>g(y)$ なので、$e_i$ の寄与は「$h(y)\in J_i$」が成り立つかどうかで決まる。$\eta_j:=h(v_j)$ とおく。$h(v_{j-1})$ と $h(v_{j+1})$ の一方が $\eta_j$ より小さく他方が大きいときは、$\eta_j$ の下側に伸びる辺の区間は $\eta_j$ を右端にもち $\eta_j$ を含まない半開区間、上側に伸びる辺の区間は $\eta_j$ を左端として含む半開区間なので、$h(y) < \eta_j$ なら前者だけ、$h(y)\ge\eta_j$ なら後者だけが寄与し、和はつねに $1$ である。2 つとも $\eta_j$ より大きいときは、2 つの区間はどちらも $\eta_j$ を左端として含むので、和は $h(y)\ge\eta_j$ なら $2$、そうでなければ $0$ である。2 つとも $\eta_j$ より小さいときは、2 つの区間はどちらも $\eta_j$ を右端として含まないので、和は $h(y) < \eta_j$ なら $2$、そうでなければ $0$ である。いずれの場合も和の偶奇は $y$ によらない。

証明の (ii) と有界性の議論から、外部の点 $x$ では、$u$ の向きに十分遠くまで進んだ点で $N=0$ となるので $N(x)$ は偶数、内部の点では奇数である。すなわち、頂点を通らない半直線が $P$ と奇数回交わるのは、出発点が内部にあるときに限る。半直線の向きが 2 頂点の差と平行な場合も、半直線が頂点を通らなければ、向きを少し回して段 3 の条件を満たす向きにしても交わる辺とその個数は変わらないので、同じことが成り立つ。これは点が多角形の内側にあるかどうかを計算機で判定するときに使われる方法である。

正方形と凹んだ多角形
  1. 正方形 $P=\partial([0,1]^2)$ では、内部は開正方形 $(0,1)^2$ である。点 $(\frac12,\frac12)$ から右に出る半直線は辺 $\{1\}\times[0,1]$ と 1 回交わる。
  2. 頂点を $(0,0),(4,0),(4,3),(2,1),(0,3)$ の順にとる凹んだ五角形では、点 $(2,2)$ から上に出る半直線は $P$ と交わらない($N=0$)ので、$(2,2)$ は外部にある。点 $(2,\frac12)$ から上に出る半直線は辺 $[(4,3),(2,1)]$ と $[(2,1),(0,3)]$ の共有頂点 $(2,1)$ を通るので数え方に注意が要る。少し右の点 $(2.1,\frac12)$ から上に出る半直線は辺 $[(4,3),(2,1)]$ と 1 回だけ交わるので、$(2.1,\frac12)$ は内部にあり、$(2,\frac12)$ も同じ成分に属する。

反例:仮定を外すと崩れること

thm-top-polygon-jordan の仮定は、(a) 図形が閉じていること、(b) 単純であること(自分自身と交わらない)、(c) 平面の中にあること、である。1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
(a) 閉じていること1 本の線分 $[(0,0),(1,0)]$補集合は連結で、成分は 1 つしかない(線分の外の 2 点は、線分を避けて上か下を回る折れ線で結べる)
(b) 単純であること頂点を $(0,0),(1,1),(1,0),(0,1)$ の順にとる閉じた折れ線(辺 $[(0,0),(1,1)]$ と $[(1,0),(0,1)]$ が $(\frac12,\frac12)$ で交わる 8 の字)補集合は 2 つの三角形の内部と外側の 3 つの成分をもつ
(c) 平面の中にあることトーラス $S^1\times S^1$ の中の円周 $S^1\times\{1\}$補集合 $S^1\times(S^1\setminus\{1\})$ は連結で、曲線はトーラスを分けない(Jordan曲線定理 の例「反例:トーラスの子午線」)

(c) の行が示すように、Jordan 曲線定理は平面(または球面)という空間の性質を表している。円周が分けるかどうかは、曲線の形ではなく周りの空間のつながり方で決まり、この違いはホモロジーで測られる(Jordan曲線定理)。一般の単純閉曲線についての Jordan 曲線定理は、Hat02 Proposition 2B.1 の (b) の特別な場合として証明されている(p. 169)。この記事では一般の場合を証明しない。

学ぶ順の道筋

位相幾何学の基礎は、次の順に記事をたどると学べる。各段の記事は、前の段の記事の定義と定理を使う。

  1. 準備:集合・写像・実数、距離空間 と 開集合・閉集合。具体例として Euclid空間。
  2. 位相空間:位相空間 → 連続写像 → 同相写像 → 部分空間位相・積位相・商位相 → 閉包・内部・境界。
  3. 基本的な性質:連結空間・弧状連結空間 → コンパクト空間 → Hausdorff空間 → Urysohnの補題 → Tychonoffの定理。応用として 中間値の定理。
  4. 代数的位相幾何学:ホモトピー → 基本群 → 被覆空間 → ホモロジー → Brouwerの不動点定理・Borsuk–Ulamの定理・Jordan曲線定理。全体は 代数的位相幾何学 が見渡す。
  5. 曲面と多様体:Euler標数 → 閉曲面の分類 → 位相多様体・可微分多様体 → Morse理論。
  6. その先:結び目、Poincaré予想、ホモトピー群、特性類。
    2・3 は一般位相の内容で、4 以降のどの分野でも使われる。上の代表例の定理は、2・3 の最初の数段(連続性・連結性・コンパクト性)だけで証明できる。

歴史

位相幾何学は、Euler による Königsberg の橋の問題(1736 年)と多面体の公式 $V-E+F=2$ にさかのぼる。19 世紀には Riemann が複素関数論の研究から曲面のつながり方を調べ、Jordan が単純閉曲線が平面を 2 つに分けることを主張した。1895 年の Poincaré の論文「Analysis Situs」は、基本群とホモロジーの考え方を導入し、代数的位相幾何学の出発点となった。20 世紀前半に開集合による位相空間の公理的な定義が整い、一般位相・代数的位相幾何学・微分位相幾何学が分かれて発展した。

関連項目

参考文献

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