Grothendieckの分解定理(射影直線上のベクトル束)(Grothendieck's splitting theorem)とは、体 $k$ 上の射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の上の階数 $n$ のベクトル束は、整数 $a_1\ge\dots\ge a_n$ を用いて $\mathcal{O}(a_1)\oplus\dots\oplus\mathcal{O}(a_n)$ と同型になり、この整数の列は同型類から一意に決まる、という定理である。2 枚のアフィン直線の貼り合わせで書くと、Laurent 多項式を成分とする可逆行列に左から $k[t]$ 上、右から $k[t^{-1}]$ 上の可逆行列を掛けて $\operatorname{diag}(t^{a_1},\dots,t^{a_n})$ にできるという行列の分解と同値である。楕円曲線の上などでは成り立たない。
前提知識: 局所自由層, 射影直線, 可逆層, 単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理
Grothendieckの分解定理(Grothendieck's splitting theorem)は、体 $k$ 上の射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の上のベクトル束(有限階数の局所自由層)が、すべて可逆層 $\mathcal{O}(a)$ の直和に分解し、現れる整数の組が順序を除いて一意に定まることを主張する定理である。
$\mathbb{P}^1_k$ は 2 つのアフィン直線 $\operatorname{Spec}k[t]$ と $\operatorname{Spec}k[u]$($u=t^{-1}$)を貼り合わせたものなので、ベクトル束は「重なり $\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ の上の可逆な行列」で与えられる。この言葉では定理は、Laurent 多項式を成分とする可逆行列が、左から $t$ の多項式の可逆行列、右から $t^{-1}$ の多項式の可逆行列を掛けて、対角行列 $\operatorname{diag}(t^{a_1},\dots,t^{a_n})$ にできるという行列の分解定理になる(cor-gst-matrix)。この記事では、この 2 枚の座標近傍の記述だけを使って、存在と一意性を初等的に証明する。
ベクトル束の分類は、底の曲線が複雑になると急に難しくなる。射影平面の接層や楕円曲線上の分裂しない拡大のように、可逆層の直和にならない束がある(反例の節)。射影直線はすべてのベクトル束が分解する特別な曲線であり、Hirzebruch曲面や射影束の分類、正則ベクトル束の研究の出発点になる。
$k$ を体とし、$\mathbb{P}^1:=\mathbb{P}^1_k$ を 射影直線 の定義「射影直線(貼り合わせによる定義)」のとおり、$U_0=\operatorname{Spec}k[t]$ と $U_\infty=\operatorname{Spec}k[u]$ を $u=t^{-1}$ で貼り合わせたものとする(同記事の $U_1$ をここでは $U_\infty$ と書く)。環を
$$
R_0:=k[t],\qquad R_\infty:=k[u]=k[t^{-1}],\qquad R:=k[t,t^{-1}]
$$
とおき、$R_0,R_\infty$ を $R$ の部分環とみる。$R$ の元は Laurent 多項式で、$t$ の冪の指数が非負のものの和が $R_0$、非正のものの和が $R_\infty$ である。$R$ の単元は $ct^m$($c\in k^\times$、$m\in\mathbb{Z}$)に限り、$R_0,R_\infty$ の単元は $k^\times$ である。
この記事でベクトル束とは、$\mathbb{P}^1$ 上の有限階数の局所自由層のことをいう。行列の群 $\mathrm{GL}_n(R)$ などは成分がその環に入る可逆行列の群である。ベクトルは列ベクトルとし、$e_1,\dots,e_n$ を標準基底とする。
$\mathcal{E}$ を階数 $n$ のベクトル束とする。$\Gamma(U_0,\mathcal{E})$ は階数 $n$ の自由 $R_0$ 加群、$\Gamma(U_\infty,\mathcal{E})$ は階数 $n$ の自由 $R_\infty$ 加群である。
$U_0$ はアフィンなので、$\Gamma(U_0,\mathcal{E})$ は有限生成射影加群である(局所自由層 の定理「アフィンスキーム上の局所自由層と射影加群」)。射影加群は自由加群の直和因子なので捩れをもたず、単項イデアル整域 $R_0$ 上の捩れのない有限生成加群は自由である(単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理)。階数は生成点での局所化から $n$ である。$U_\infty$ も同じである。$\square$
lem-gst-free により $\Gamma(U_0,\mathcal{E})$ の基底 $\varepsilon^0_1,\dots,\varepsilon^0_n$ と $\Gamma(U_\infty,\mathcal{E})$ の基底 $\varepsilon^\infty_1,\dots,\varepsilon^\infty_n$ がとれる。重なり $U_0\cap U_\infty=\operatorname{Spec}R$ の上ではどちらも $\Gamma(U_0\cap U_\infty,\mathcal{E})$ の $R$ 基底なので、$\varepsilon^\infty_j=\sum_iM_{ij}\varepsilon^0_i$ となる $M\in\mathrm{GL}_n(R)$ がただ 1 つある。これを $\mathcal{E}$ の変換行列という。$\mathcal{E}$ の大域切断は、$U_0$ の上の切断 $\sum_if_i\varepsilon^0_i$ と $U_\infty$ の上の切断 $\sum_jh_j\varepsilon^\infty_j$ で重なりの上で一致するものの組なので、
$$
\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E})\cong\{(f,h)\in R_0^n\times R_\infty^n\mid f=Mh\}
$$
である。逆に、任意の $M\in\mathrm{GL}_n(R)$ について、自由加群 $R_0^n$ と $R_\infty^n$ を重なりの上で $f=Mh$ により貼り合わせると、変換行列が $M$ のベクトル束 $\mathcal{E}_M$ が得られる。
$M,M'\in\mathrm{GL}_n(R)$ について、$\mathcal{E}_M\cong\mathcal{E}_{M'}$ であるための必要十分条件は、$A\in\mathrm{GL}_n(R_0)$ と $B\in\mathrm{GL}_n(R_\infty)$ で $M'=AMB$ となるものがあることである。また、整数 $m$ と $M\in\mathrm{GL}_n(R)$、$N\in\mathrm{GL}_l(R)$ について次が成り立つ。
要点:同型は各座標近傍の上の基底の取り替えで、重なりの上で両立するものである。
同型 $\mathcal{E}_M\to\mathcal{E}_{M'}$ は、$U_0$ と $U_\infty$ の上の同型、すなわち $A\in\mathrm{GL}_n(R_0)$ による $f\mapsto Af$ と $B'\in\mathrm{GL}_n(R_\infty)$ による $h\mapsto B'h$ で、重なりの上で両立するもの、つまり $f=Mh$ から $Af=M'B'h$ が従うものである。これは $AM=M'B'$、すなわち $M'=AMB$($B:=B'^{-1}$)と同値である。
1:$m$ 次の斉次多項式 $F(x_0,x_1)$ は $U_0$ の上で $F(1,t)=F/x_0^m$、$U_\infty$ の上で $F(u,1)=F/x_1^m$ を与え、両者の比は $(x_1/x_0)^m=t^m$ である。$\mathcal{O}(m)$ の $U_0$ の基底を $x_0^m$、$U_\infty$ の基底を $x_1^m$ にとると、$x_1^m=t^mx_0^m$ なので変換行列は $t^m$ である。
2:$\varepsilon^\infty_j\otimes x_1^m=\sum_iM_{ij}t^m\,\varepsilon^0_i\otimes x_0^m$ である。3 は基底を並べればよい。$\square$
$\mathcal{O}(m)$ の大域切断は $f=t^mh$($f\in R_0$、$h\in R_\infty$)の組で、$f$ の指数は $0$ 以上、$t^mh$ の指数は $m$ 以下なので、$f$ は次数 $m$ 以下の多項式に限り、それを決めれば $h=t^{-m}f$ が決まる。したがって
$$
\dim_k\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(m))=\max(m+1,0)
$$
である(射影直線 の定理「自己同型群と Picard 群」の 3 と同じ)。また $1\times1$ の変換行列は $R$ の単元 $ct^m$ で、prop-gst-double-coset により $\mathcal{E}_{ct^m}\cong\mathcal{O}(m)$ なので、可逆層は $\mathcal{O}(m)$ のどれかと同型で、上の次元から $m$ は一意である。以下、$h^0(\mathcal{E}):=\dim_k\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E})$ と書く。
$k$ を体、$\mathcal{E}$ を $\mathbb{P}^1_k$ 上の階数 $n\ge1$ のベクトル束とする。このとき整数 $a_1\ge a_2\ge\dots\ge a_n$ があって
$$
\mathcal{E}\cong\mathcal{O}(a_1)\oplus\mathcal{O}(a_2)\oplus\dots\oplus\mathcal{O}(a_n)
$$
となる。整数の列 $(a_1,\dots,a_n)$ は $\mathcal{E}$ の同型類だけで決まる。
存在は次の節の prf-gst-existence で、一意性はその次の節の prop-gst-uniqueness で示す。どちらも prop-gst-double-coset の行列の記述だけを使う。
列 $(a_1,\dots,a_n)$ を $\mathcal{E}$ の分解型(splitting type)という。prop-gst-double-coset により、この定理は次の行列の分解と同値である。
任意の $M\in\mathrm{GL}_n(k[t,t^{-1}])$ に対して、$A\in\mathrm{GL}_n(k[t])$、$B\in\mathrm{GL}_n(k[t^{-1}])$ と整数 $a_1\ge\dots\ge a_n$ があって
$$
M=A\,\operatorname{diag}(t^{a_1},\dots,t^{a_n})\,B
$$
となる。整数 $a_1,\dots,a_n$ は $M$ だけで決まる。
$\det A$ と $\det B$ はそれぞれ $R_0$、$R_\infty$ の単元、すなわち $k^\times$ の元なので、$\det M=ct^{a_1+\dots+a_n}$($c\in k^\times$)である。したがって $\sum_ia_i$ は $\det M$ の指数で、$\det\mathcal{E}\cong\mathcal{O}(\sum_ia_i)$ の次数($\mathcal{E}$ の次数)である。分解型は階数と次数だけでは決まらない(ex-gst-jump)。
証明の方針は次のとおりである。$\mathcal{E}(-a)$ が $0$ でない大域切断をもつような最大の整数 $a$ をとり、その切断がどの点でも消えないことを示して、$\mathcal{O}(a)$ を部分束として取り出す。商は階数が 1 つ小さいので帰納法で分解し、最後に拡大が分裂することを行列の計算で確かめる。
$M\in\mathrm{GL}_n(R)$ とし、$M$ の成分に現れる $t$ の指数がすべて $-N$ 以上 $N$ 以下となる整数 $N\ge0$ をとる。このとき $m<-N$ なら $\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E}_M(m))=0$、$m\ge N$ なら $\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E}_M(m))\ne0$ である。
要点:$h$ の成分の指数は $0$ 以下なので、$t^mMh$ の指数は $m+N$ 以下である。
prop-gst-double-coset の 2 により、$\mathcal{E}_M(m)$ の大域切断は $f=t^mMh$($f\in R_0^n$、$h\in R_\infty^n$)の組である。$m<-N$ のとき、$h$ の成分の指数は $0$ 以下なので $t^mMh$ の成分の指数は $m+N$ 以下でどれも負であり、これが $R_0^n$ に入るのは $0$ のときだけである。よって $f=0$、$M$ は可逆だから $h=0$ である。$m\ge N$ のとき、$h:=e_1$ とおくと $t^mMe_1$ の成分の指数は $m-N\ge0$ 以上なので $f:=t^mMe_1\in R_0^n$ であり、$(f,e_1)$ は $0$ でない大域切断である。$\square$
したがって、ベクトル束 $\mathcal{E}$ について集合 $\{m\in\mathbb{Z}\mid\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E}(-m))\ne0\}$ は空でなく上に有界であり、その最大値
$$
a(\mathcal{E}):=\max\{m\in\mathbb{Z}\mid\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{E}(-m))\ne0\}
$$
が定まる。$\mathcal{O}(a)\to\mathcal{E}$ の $0$ でない射は $\mathcal{E}(-a)$ の $0$ でない大域切断と同じものなので、$a(\mathcal{E})$ は $\mathcal{E}$ に $0$ でない射を送り込める $\mathcal{O}(a)$ の $a$ の最大値である。
$\mathcal{E}=\mathcal{E}_M$、$a:=a(\mathcal{E})$ とし、$(f,h)$ を $\mathcal{E}(-a)$ の $0$ でない大域切断とする($f=t^{-a}Mh$)。このとき $f$ の成分は $R_0$ の単位イデアルを生成し、$h$ の成分は $R_\infty$ の単位イデアルを生成する。
要点:$f$ の成分に共通の既約因子があれば、それで割って $\mathcal{E}(-a-d)$($d\ge1$)の $0$ でない切断が作れ、$a$ の最大性に反する。
$R_0$ は単項イデアル整域なので、成分が単位イデアルを生成しないことは、成分すべてを割り切る既約多項式 $\pi(t)$ があることと同値である。$d:=\deg\pi\ge1$ とし、$\tilde\pi(u):=u^d\pi(1/u)\in R_\infty$ とおくと $\pi=t^d\tilde\pi$ であり、$\tilde\pi(0)$ は $\pi$ の最高次の係数なので $0$ でない。よって $\tilde\pi$ と $u$ は $R_\infty$ で互いに素である。
$f=\pi f'$($f'\in R_0^n$)と書き、$w:=t^{a+d}M^{-1}f'\in R^n$ とおく。$Mh=t^af=t^{a+d}\tilde\pi f'$ から $h=\tilde\pi w$ である。十分大きい $N$ について $u^Nw\in R_\infty^n$ であり、$\tilde\pi$ と $u^N$ は互いに素だから $1=\alpha\tilde\pi+\beta u^N$($\alpha,\beta\in R_\infty$)と書けて、$w=\alpha h+\beta u^Nw\in R_\infty^n$ となる。$f'=t^{-a-d}Mw$ なので $(f',w)$ は $\mathcal{E}(-a-d)$ の $0$ でない大域切断であり、$a+d>a$ は $a$ の最大性に反する。
$h$ についても同じである。$R_\infty$ の既約多項式 $\rho(u)$(次数 $e\ge1$)が $h$ の成分すべてを割り切るとし、$\tilde\rho(t):=t^e\rho(1/t)\in R_0$ とおくと $\rho=u^e\tilde\rho$、$\tilde\rho$ と $t$ は互いに素である。$h=\rho h'$ とし $w':=t^{-a-e}Mh'\in R^n$ とおくと $f=t^{-a}M\rho h'=\tilde\rho w'$ であり、上と同じ議論で $w'\in R_0^n$ となる。$(w',h')$ は $\mathcal{E}(-a-e)$ の $0$ でない大域切断で、矛盾する。$\square$
$P$ を単項イデアル整域、$f\in P^n$ をその成分が単位イデアルを生成するベクトルとする。このとき第 1 列が $f$ の行列 $A\in\mathrm{GL}_n(P)$ がある。
要点:$f$ の張る直和因子の補空間が自由加群になる。
$\sum_iw_if_i=1$ となる $w_i\in P$ をとり、$\lambda(x):=\sum_iw_ix_i$ とおく。$x=\lambda(x)f+(x-\lambda(x)f)$ により $P^n=Pf\oplus\ker\lambda$ であり、$Pf\cong P$ である。$\ker\lambda$ は自由加群の直和因子なので捩れのない有限生成加群で、単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理 により階数 $n-1$ の自由加群である。その基底 $c_2,\dots,c_n$ と $f$ を並べた行列 $A=(f\,|\,c_2\,|\cdots|\,c_n)$ は $P^n$ の基底を列にもつので可逆である。$\square$
整数 $a,b_2,\dots,b_n$ がすべての $j$ について $b_j\le a+1$ をみたすとし、$D:=\operatorname{diag}(t^{b_2},\dots,t^{b_n})$、$r=(r_2,\dots,r_n)\in R^{n-1}$(行ベクトル)とする。このとき
$$
M=\begin{pmatrix}t^a&r\\0&D\end{pmatrix}
$$
の束は $\mathcal{O}(a)\oplus\mathcal{O}(b_2)\oplus\dots\oplus\mathcal{O}(b_n)$ と同型である。
行ベクトル $p\in R_0^{n-1}$、$q\in R_\infty^{n-1}$ について
$$
\begin{pmatrix}1&p\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}t^a&r\\0&D\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&q\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}t^a&r+pD+t^aq\\0&D\end{pmatrix}
$$
であり、左右の行列はそれぞれ $\mathrm{GL}_n(R_0)$、$\mathrm{GL}_n(R_\infty)$ の元である。各 $j$ について $r_j+p_jt^{b_j}+t^aq_j=0$ となる $p_j\in R_0$、$q_j\in R_\infty$ を選べればよい。$p_jt^{b_j}$ は指数が $b_j$ 以上の項の任意の和、$t^aq_j$ は指数が $a$ 以下の項の任意の和になりうる。$b_j\le a+1$ なので、どの整数 $i$ も $i\ge b_j$ か $i\le a$ をみたし、$r_j$ の各項 $ct^i$ をどちらかで打ち消せる。こうして右上が $0$ になり、prop-gst-double-coset の 3 から結論が従う。$\square$
条件 $b_j\le a+1$ は、拡大 $0\to\mathcal{O}(a)\to\mathcal{E}\to\mathcal{O}(b_j)\to0$ の類が属する群 $\operatorname{Ext}^1(\mathcal{O}(b_j),\mathcal{O}(a))\cong H^1(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(a-b_j))$ が $0$ になる条件 $a-b_j\ge-1$(射影直線 の定理「自己同型群と Picard 群」の 3)と同じである。上の計算は、その消滅を Čech の言葉で直接確かめたものにあたる。$b_j=a+2$ では分裂しない拡大がある(ex-gst-jump)。
階数 $n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では、変換行列は $R$ の単元 $ct^m$ であり、$\mathcal{E}\cong\mathcal{O}(m)$ である。
$n\ge2$ とし、$\mathcal{E}=\mathcal{E}_M$、$a:=a(\mathcal{E})$、$(f,h)$ を $\mathcal{E}(-a)$ の $0$ でない大域切断とする。lem-gst-nonvanishing と lem-gst-unimodular により、第 1 列が $f$ の $A\in\mathrm{GL}_n(R_0)$ と第 1 列が $h$ の $B\in\mathrm{GL}_n(R_\infty)$ がある。$M':=A^{-1}MB$ の第 1 列は $A^{-1}Mh=A^{-1}t^af=t^ae_1$ なので
$$
M'=\begin{pmatrix}t^a&r\\0&M_1\end{pmatrix}\qquad(r\in R^{n-1},\ M_1\in\mathrm{M}_{n-1}(R))
$$
と書け、$\det M'=t^a\det M_1$ が $R$ の単元だから $M_1\in\mathrm{GL}_{n-1}(R)$ である。帰納法の仮定と prop-gst-double-coset により、$A_1\in\mathrm{GL}_{n-1}(R_0)$、$B_1\in\mathrm{GL}_{n-1}(R_\infty)$ で $A_1M_1B_1=D:=\operatorname{diag}(t^{b_2},\dots,t^{b_n})$ となるものがある。$\operatorname{diag}(1,A_1)\,M'\operatorname{diag}(1,B_1)$ をあらためて $M'$ と書くと、$M'=\begin{pmatrix}t^a&r\\0&D\end{pmatrix}$($r$ は取り替えた行ベクトル)であり、$\mathcal{E}\cong\mathcal{E}_{M'}$ である。
すべての $j$ で $b_j\le a$ であることを示す。ある $j$ で $b_j\ge a+1$ とする。$\mathcal{E}_{M'}(-a-1)$ の切断 $(f',h')$ を $h':=ve_1+e_j$($v\in R_\infty$)の形で探すと、
$$
t^{-a-1}M'h'=\bigl(t^{-1}v+t^{-a-1}r_j\bigr)e_1+t^{b_j-a-1}e_j
$$
であり、$e_j$ の係数は $R_0$ に入る。$t^{-a-1}r_j$ を指数が $0$ 以上の部分 $p$ と負の部分 $q$ に分け、$v:=-tq$ とおくと、$q$ の指数は $-1$ 以下なので $v\in R_\infty$ で、$e_1$ の係数は $p\in R_0$ になる。こうして $\mathcal{E}(-a-1)$ の $0$ でない大域切断が得られ、$a$ の最大性に反する。
よって $b_j\le a\le a+1$ であり、lem-gst-extension により $\mathcal{E}\cong\mathcal{O}(a)\oplus\bigoplus_{j\ge2}\mathcal{O}(b_j)$ である。整数を大きい順に並べ替えればよい(このとき $a_1=a$ である)。$\square$
$\mathcal{E}\cong\bigoplus_{i=1}^n\mathcal{O}(a_i)$ とし、$\varphi(m):=h^0(\mathcal{E}(m))$ とおく。このとき
$$
\varphi(m)=\sum_{i=1}^n\max(a_i+m+1,0),\qquad \varphi(m)-\varphi(m-1)=\#\{i\mid a_i\ge-m\}
$$
であり、各整数 $c$ について $\#\{i\mid a_i=c\}=\bigl(\varphi(-c)-\varphi(-c-1)\bigr)-\bigl(\varphi(-c-1)-\varphi(-c-2)\bigr)$ である。
$\mathcal{E}(m)\cong\bigoplus_i\mathcal{O}(a_i+m)$ なので、$\mathcal{O}(m)$ の大域切断の次元の式から第 1 式が従う。$\max(a+m+1,0)-\max(a+m,0)$ は $a+m\ge0$ のとき $1$、そうでないとき $0$ なので第 2 式が従い、$\#\{i\mid a_i\ge c\}-\#\{i\mid a_i\ge c+1\}=\#\{i\mid a_i=c\}$ から第 3 式が従う。$\square$
$\varphi(m)=h^0(\mathcal{E}(m))$ は $\mathcal{E}$ の同型類だけで決まるので、prop-gst-uniqueness により各整数が分解型に現れる回数が決まり、thm-gst-main の一意性が従う。cor-gst-matrix は thm-gst-main を $\mathcal{E}_M$ に当てはめ、prop-gst-double-coset で行列に戻したものである。
存在の証明から、$a_1=a(\mathcal{E})$ は「$\mathcal{O}(a)\to\mathcal{E}$ の $0$ でない射がある最大の $a$」である。ただし、$\mathcal{O}(a)$ を部分層として含むことと直和因子であることは違う。たとえば $\mathcal{O}(2)\oplus\mathcal{O}$ の第 1 因子に $\mathcal{O}(1)$ を $x_0$ 倍で入れた部分層は、商が $x_0=0$ の点で捩れをもつので部分束ではなく、直和因子にもならない。存在の証明で取り出した $\mathcal{O}(a)$ は、lem-gst-nonvanishing により商が局所自由になる部分束である。
$U_0$ の上で $\Omega^1_{\mathbb{P}^1/k}$ は $dt$ を基底とする自由加群、$U_\infty$ の上では $du$ を基底とする自由加群である。$t=u^{-1}$ から $dt=-u^{-2}du=-t^2du$、すなわち $du=-t^{-2}dt$ なので、変換行列は $-t^{-2}$ であり、$\Omega^1_{\mathbb{P}^1/k}\cong\mathcal{O}(-2)$ である。双対をとって接層は $\mathcal{T}_{\mathbb{P}^1}\cong\mathcal{O}(2)$ である(接層)。
$\lambda\in k$ について
$$
M_\lambda:=\begin{pmatrix}t^{-1}&\lambda\\0&t\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_2(R)
$$
とおく。$M_0=\operatorname{diag}(t^{-1},t)$ の束は $\mathcal{O}(1)\oplus\mathcal{O}(-1)$ で、分解型は $(1,-1)$ である。$\lambda\ne0$ のとき $\operatorname{diag}(1,\lambda)M_\lambda\operatorname{diag}(1,\lambda^{-1})=M_1$ であり、$B:=\begin{pmatrix}1&0\\-u&1\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_2(R_\infty)$ について
$$
M_1B=\begin{pmatrix}t^{-1}-u&1\\-tu&t\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\-1&t\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_2(R_0)
$$
なので、$M_\lambda$ の束は自明束 $\mathcal{O}^{\oplus2}$ で、分解型は $(0,0)$ である。どの $\lambda$ でも第 1 列から部分束 $\mathcal{O}(-1)$ と商 $\mathcal{O}(1)$ の完全列 $0\to\mathcal{O}(-1)\to\mathcal{E}_{M_\lambda}\to\mathcal{O}(1)\to0$ ができ、$\lambda\ne0$ ではこれが分裂しない(真ん中が $\mathcal{O}(-1)\oplus\mathcal{O}(1)$ と同型でない)。lem-gst-extension で $b=a+2$ のときにあたる。
この例は、階数と次数が同じ(階数 $2$、次数 $0$)でも分解型が違う束があること、また連続的な族の中で分解型が特別な値 $\lambda=0$ で跳ぶことを示す。$h^0(\mathcal{E}_{M_\lambda}(-1))$ は $\lambda\ne0$ で $0$、$\lambda=0$ で $1$ である。
$\mathbb{P}^1$ の Euler 列 $0\to\Omega^1_{\mathbb{P}^1/k}\to\mathcal{O}(-1)^{\oplus2}\to\mathcal{O}\to0$ は、ex-gst-cotangent により $0\to\mathcal{O}(-2)\to\mathcal{O}(-1)^{\oplus2}\to\mathcal{O}\to0$ であり、分裂しない(分裂すれば $\mathcal{O}(-1)^{\oplus2}\cong\mathcal{O}(-2)\oplus\mathcal{O}$ となり、thm-gst-main の一意性に反する)。真ん中の束は分解するが、この部分束 $\mathcal{O}(-2)$ は直和因子ではない(Har77 V, Caution 2.15.1, p. 378)。
各行は thm-gst-main の仮定を 1 つだけ外したもので、どれも結論の「可逆層 $\mathcal{O}(a)$ の直和に分解する」が成り立たない(4 行目は対象を連接層に広げた場合である)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 底が射影直線 → 射影平面 $\mathbb{P}^2_k$ | 接層 $\mathcal{T}_{\mathbb{P}^2}$ | 可逆層の直和に分解しない |
| 底の種数が $0$ → 楕円曲線 $C$ | $\mathcal{O}_C$ の $\mathcal{O}_C$ による分裂しない拡大 $\mathcal{E}$ | 可逆層の直和に分解しない |
| 底が体の上 → 環 $k[\lambda]$ の上の $\mathbb{P}^1_{k[\lambda]}$ | ex-gst-jump の $M_\lambda$ を $\mathrm{GL}_2(k[\lambda][t,t^{-1}])$ の元とみた束 | $\bigoplus_i\mathcal{O}(a_i)$ と同型でない |
| 局所自由 → 連接層 | 閉点 $P$ の摩天楼層 $k(P)$ | $\mathcal{O}(a)$ の直和でない |
要点:1 行目は大域切断の次元、2 行目は部分層と商の次数、3 行目はファイバーの分解型の比較で確かめる。
1 行目:$\mathcal{T}_{\mathbb{P}^2}$ が可逆層の直和に分解しないことは 局所自由層 の注意「分裂定理の出典と限界」で、Euler 列とひねりの大域切断の次元から示されている。
2 行目:$k$ を代数閉体、$C$ を楕円曲線とする。$H^1(C,\mathcal{O}_C)$ は $1$ 次元なので、分裂しない拡大 $0\to\mathcal{O}_C\xrightarrow{\iota}\mathcal{E}\xrightarrow{\pi}\mathcal{O}_C\to0$ がある(Har77 V, 定理 2.15 の証明、p. 377)。$\mathcal{E}\cong\mathcal{L}_1\oplus\mathcal{L}_2$(可逆層)と仮定し、$\deg\mathcal{L}_1\ge\deg\mathcal{L}_2$ とする。$\det\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_C$ なので $\deg\mathcal{L}_1+\deg\mathcal{L}_2=0$ である。次の事実を使う:可逆層の $0$ でない射 $\mathcal{L}\to\mathcal{L}'$ があれば $\deg\mathcal{L}\le\deg\mathcal{L}'$ で、等号なら同型である(射は $\mathcal{L}^{\vee}\otimes\mathcal{L}'$ の $0$ でない大域切断で、その零点の因子は有効である)。(i) $\deg\mathcal{L}_1=e>0$ なら、$\iota$ の $\mathcal{L}_2$ 成分は次数 $-e<0$ の可逆層への射なので $0$ であり、$\iota$ は $\mathcal{L}_1$ に入る。$\mathcal{O}_C\to\mathcal{L}_1$ は同型でないので余核は $0$ でない捩れ層で、それは $\mathcal{E}/\iota(\mathcal{O}_C)\cong\mathcal{O}_C$ の部分層になり、矛盾する。(ii) 次数がともに $0$ なら、$\iota$ の $0$ でない成分、たとえば $\iota_1\colon\mathcal{O}_C\to\mathcal{L}_1$ は同型である。$\pi$ の $\mathcal{L}_2$ への制限が $0$ でなければ $\mathcal{L}_2\cong\mathcal{O}_C$ で、$\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_C^{\oplus2}$ となる。このとき $\pi$ は $\Gamma(C,\mathcal{O}_C)=k$ の元を成分とする行ベクトルで与えられ、$\pi(w)=1$ となる定数ベクトル $w$ が $\pi$ の切断を与えるので拡大は分裂し、矛盾する。$\pi$ の $\mathcal{L}_2$ への制限が $0$ なら、$\pi=\pi_1\circ\mathrm{pr}_1$ と書け、$\pi\circ\iota=\pi_1\circ\iota_1=0$ と $\iota_1$ が同型であることから $\pi_1=0$、よって $\pi=0$ となり全射性に反する。
3 行目:$\mathbb{P}^1_{k[\lambda]}$ の上の束 $\mathcal{E}$ を $\lambda=c$($c\in k$)のファイバー $\mathbb{P}^1_k$ に制限すると、変換行列 $M_c$ の束になる。$\mathcal{E}\cong\bigoplus_i\mathcal{O}(a_i)$ なら、すべての $c$ で制限は $\bigoplus_i\mathcal{O}(a_i)$ と同型になるが、ex-gst-jump により $c=0$ と $c=1$ で分解型が違い、thm-gst-main の一意性に反する。
4 行目:$\mathcal{O}(a)$ の $0$ でない局所切断は、$U_0$ か $U_\infty$ の上の $0$ でない多項式の局所化で、$0$ でない関数を掛けて $0$ にならない。$k(P)$ の $P$ での $0$ でない芽は、$P$ で消える関数を掛けると $0$ になるので、$k(P)$ は $\mathcal{O}(a)$ の直和の部分層にもならない。
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