テンソル場(tensor field)とは、可微分多様体 $M$ の各点 $p$ に、接空間 $T_pM$ と余接空間 $T_p^*M$ の上の多重線形写像($(r,s)$ 型テンソル)を割り当てたもの、すなわちテンソル束の切断のことであり、Riemann 計量・微分形式・曲率はその例である。滑らかさは局所座標での成分の滑らかさ、またはベクトル場と 1 形式を入れた値の滑らかさで判定できる。ベクトル場と 1 形式の組から関数への写像がテンソル場から来るための必要十分条件は、関数倍について多重線形であることであり、Lie 括弧や共変微分はこの条件を満たさない。共変テンソル場は滑らかな写像で引き戻すことができ、はめ込みによる Riemann 計量の引き戻しは Riemann 計量になる。
Riemann 計量は各点の接空間に内積を 1 つずつ与えたものであり、微分形式は各点に交代多重線形形式を 1 つずつ与えたものである。このように、多様体の各点 $p$ に接空間 $T_pM$ とその双対 $T_p^*M$ の上の多重線形写像(テンソル)を滑らかに割り当てたものをテンソル場という。この記事では、テンソル場をテンソル束の切断として定義し、滑らかさの判定条件を示したうえで、ベクトル場の組から関数への写像がテンソル場から来るための必要十分条件が「関数倍について線形であること」であることを証明する。最後に、共変テンソル場が滑らかな写像で引き戻せること、とくにはめ込みによる Riemann 計量の引き戻しが Riemann 計量であることを示す。成分の変換則と添字による計算は テンソル解析 の記事が扱う。
この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $n$ 次元の $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、$r,s\ge0$ を整数とする。$M$ 上の滑らかなベクトル場の全体を $\mathfrak{X}(M)$、滑らかな 1 形式(余接ベクトルの場)の全体を $\Omega^1(M)$、滑らかな関数の全体を $C^\infty(M)$ と書く。座標近傍 $(U;x^1,\dots,x^n)$ の座標ベクトル場を $\partial_j:=\partial/\partial x^j$、座標 1 形式を $dx^i$ と書く。$dx^i|_p$ は $\partial_j|_p$ の双対基底である(余接空間 の記事の定理(座標微分が双対基底になる))。
有限次元の実ベクトル空間 $V$ に対し、多重線形写像
$$
A\colon\underbrace{V^*\times\cdots\times V^*}_{r}\times\underbrace{V\times\cdots\times V}_{s}\to\mathbb{R}
$$
の全体を $T^{(r,s)}(V)$ と書き、その元を $(r,s)$ 型テンソルという。$T^{(r,s)}(V)$ は $V^{\otimes r}\otimes(V^*)^{\otimes s}$(テンソル積)と自然に同型で、$\dim T^{(r,s)}(V)=(\dim V)^{r+s}$ である。$T^{(0,0)}(V)=\mathbb{R}$、$T^{(1,0)}(V)=V^{**}=V$、$T^{(0,1)}(V)=V^*$ である。
滑らかな $(r,s)$ 型テンソル場の全体を $\mathcal{T}^{(r,s)}(M)$ と書く。各点ごとの和と関数倍により、$\mathcal{T}^{(r,s)}(M)$ は $C^\infty(M)$ 上の加群である。$(1,0)$ 型の滑らかなテンソル場はベクトル場、$(0,1)$ 型は 1 形式、$(0,0)$ 型は関数である。各点で対称かつ正定値な共変 2 テンソル場が Riemann 計量(リーマン多様体)であり、各点で交代的な共変 $s$ テンソル場が $s$ 次の微分形式(微分形式)である。
$M$ の座標近傍 $(U,\varphi)$、$\varphi=(x^1,\dots,x^n)$ ごとに
$$
\Phi_U\colon\pi^{-1}(U)\to U\times\mathbb{R}^{n^{r+s}},\qquad A_p\mapsto\bigl(p,\ (A^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}(p))\bigr)
$$
と定めると、$\pi\colon T^{(r,s)}TM\to M$ はこれらを局所自明化とする階数 $n^{r+s}$ の滑らかなベクトル束(ベクトル束)になる。
要点:座標を取り替えると成分は Jacobi 行列の成分の積の和で変換されるので、変換関数は $C^\infty$ 級であり、ベクトル束の再構成の方法で位相と多様体の構造が入る。
$\Phi_U$ は各ファイバー上で線形同型である(成分は基底 $\partial_{i_1}\otimes\cdots\otimes dx^{j_s}$ に関する座標)。2 つの座標近傍 $(U;x^i)$、$(\tilde U;\tilde x^i)$ の重なりでは、接空間 の記事の命題(微分の局所座標表示)から $\partial_j=\frac{\partial\tilde x^k}{\partial x^j}\tilde\partial_k$、$dx^i=\frac{\partial x^i}{\partial\tilde x^l}d\tilde x^l$ であり、多重線形性により $A^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}=\frac{\partial x^{i_1}}{\partial\tilde x^{l_1}}\cdots\frac{\partial x^{i_r}}{\partial\tilde x^{l_r}}\,\frac{\partial\tilde x^{k_1}}{\partial x^{j_1}}\cdots\frac{\partial\tilde x^{k_s}}{\partial x^{j_s}}\,\tilde A^{l_1\cdots l_r}{}_{k_1\cdots k_s}$ となる(テンソル解析 の記事の定義($(p,q)$型テンソル場の成分による定義(別流儀))の変換則と同じもの)。よって変換関数 $g_{U\tilde U}\colon U\cap\tilde U\to GL(n^{r+s},\mathbb{R})$ の各成分は Jacobi 行列の成分の積の和であり、$C^\infty$ 級である。ベクトル束 の記事の命題(変換関数の連続性・コサイクル条件と束の再構成)の 2 により、変換関数 $g_{\tilde UU}$ をもつベクトル束 $E$ が作られる。$\Phi_{\tilde U}\circ\Phi_U^{-1}(p,a)=(p,g_{\tilde UU}(p)a)$ なので、全単射 $E\to T^{(r,s)}TM$、$[U,p,a]\mapsto\Phi_U^{-1}(p,a)$ が矛盾なく定まる。これで $E$ の位相を移すと、$\pi^{-1}(U)$ は開集合で $\Phi_U$ は同相写像になる。さらに $(\varphi\times\mathrm{id})\circ\Phi_U$ を座標近傍とすると、座標変換は $(x,a)\mapsto\bigl(\tilde\varphi\circ\varphi^{-1}(x),\ g_{\tilde UU}(\varphi^{-1}(x))a\bigr)$ で $C^\infty$ 級なので、$T^{(r,s)}TM$ は $n+n^{r+s}$ 次元の多様体になる(Hausdorff 性は同命題の最後の主張、第 2 可算性は $M$ を覆う可算個の座標近傍から従う)。この構造で $\pi$ は $C^\infty$ 級、$\Phi_U$ は微分同相写像である。$\square$
$(r,s)=(1,0)$ のときこの構造は接束(接束)の構造、$(0,1)$ のときは余接束の構造である。
テンソル場は「各点に 1 つずつ置かれた多重線形写像」であり、その値 $A_p$ は点 $p$ の接ベクトル・余接ベクトルだけを入力とする。したがってベクトル場 $X_1,\dots,X_s$ を入れて得られる関数 $A(X_1,\dots,X_s)$ の点 $p$ での値は、$X_b$ の $p$ での値だけで決まり、$X_b$ が $p$ の近くでどう変化しているかにはよらない。この「各点の値だけで決まる」性質は、代数的には「関数 $f$ を掛けたベクトル場を入れると、値も $f$ 倍になる」という $C^\infty(M)$ 線形性として表れる(thm-tf-characterization)。逆に Lie 括弧 $[X,Y]$ や外微分 $d\omega$ は入力の微分を含むので、関数倍について線形でなく、テンソル場ではない。
$A$ を $(r,s)$ 型テンソル場(滑らかとは限らない)とする。次は同値である。
1 ⇔ 2:座標近傍 $(U,\varphi)$ と prop-tf-bundle の座標近傍 $(\varphi\times\mathrm{id})\circ\Phi_U$ に関する $A|_U$ の局所表示は $x\mapsto\bigl(x,\ (A^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}(\varphi^{-1}(x)))\bigr)$ である。$C^\infty$ 級であることは局所的な性質なので、$A$ が $C^\infty$ 級であることと、すべての座標近傍で成分が $C^\infty$ 級であることは同値である。
2 ⇒ 3 は明らか。3 ⇒ 2:任意の座標近傍 $(\tilde U;\tilde x^i)$ と点 $p\in\tilde U$ をとり、3 の族の座標近傍 $(U;x^i)$ で $p\in U$ となるものをとる。$U\cap\tilde U$ 上で $\tilde A$ の成分は、prf-tf-bundle の変換則($x$ と $\tilde x$ の役割を入れ替えたもの)により、$C^\infty$ 級関数 $\partial\tilde x^l/\partial x^i$、$\partial x^k/\partial\tilde x^j$ と $A$ の成分の積の和なので $C^\infty$ 級である。$p$ は任意なので $\tilde A$ の成分は $\tilde U$ 上で $C^\infty$ 級である。
2 ⇒ 4:座標近傍 $U$ 上で $\omega^a=\omega^a_i\,dx^i$、$X_b=X_b^j\,\partial_j$ と書くと、係数は $C^\infty$ 級であり(ベクトル場 の記事の命題(滑らかさの同値な言い換え)と、$(0,1)$ 型に当てた 1 ⇔ 2)、多重線形性により
$$
A(\omega^1,\dots,X_s)=A^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}\,\omega^1_{i_1}\cdots\omega^r_{i_r}\,X_1^{j_1}\cdots X_s^{j_s}
$$
は $U$ 上で $C^\infty$ 級である。
4 ⇒ 2:座標近傍 $(U;x^i)$ と $p_0\in U$ をとる。ベクトル場 の記事の補題(隆起関数の存在と局所関数の延長)により、$\rho\in C^\infty(M)$ で $\operatorname{supp}\rho\subset U$、$p_0$ の開近傍 $U'$ 上で $\rho\equiv1$ となるものがある。$U$ 上で $\rho\,\partial_j$、$\rho\,dx^i$、$U$ の外で $0$ と定めたものを $E_j\in\mathfrak{X}(M)$、$\varepsilon^i\in\Omega^1(M)$ とする(係数 $\rho$ は同じ補題の 2 により $C^\infty$ 級)。$U'$ 上で
$$
A(\varepsilon^{i_1},\dots,\varepsilon^{i_r},E_{j_1},\dots,E_{j_s})=A^{i_1\cdots i_r}{}_{j_1\cdots j_s}
$$
であり、左辺は 4 により $C^\infty$ 級である。$p_0$ は任意なので、成分は $U$ 上で $C^\infty$ 級である。$\square$
Lee13 Proposition 12.19(pp. 317–318)が共変テンソル場について同じ判定を述べている(証明は演習とされている)。
滑らかな $(r,s)$ 型テンソル場 $A$ は、thm-tf-smoothness の 4 により写像
$$
\mathcal{A}\colon\Omega^1(M)^r\times\mathfrak{X}(M)^s\to C^\infty(M),\qquad(\omega^1,\dots,X_s)\mapsto A(\omega^1,\dots,X_s)
$$
を定める。この写像は$C^\infty(M)$ 上で多重線形である。すなわち各変数について、$f,g\in C^\infty(M)$ に対し $\mathcal{A}(\dots,f\alpha+g\beta,\dots)=f\,\mathcal{A}(\dots,\alpha,\dots)+g\,\mathcal{A}(\dots,\beta,\dots)$ が成り立つ(各点 $p$ で $A_p$ が多重線形であることから従う)。次の定理は、この性質がテンソル場を特徴づけることを述べる。
写像 $\mathcal{A}\colon\Omega^1(M)^r\times\mathfrak{X}(M)^s\to C^\infty(M)$ について、次は同値である。
2 ⇒ 1 は上で述べた。1 ⇒ 2 を示す。記号を簡単にするため、ベクトル場の変数について述べる(1 形式の変数についても、座標ベクトル場 $\partial_j$ を座標 1 形式 $dx^i$ に替えて同じ議論が通る)。
局所性。ある変数 $X_b$ が点 $p$ の開近傍 $U$ 上で恒等的に $0$ なら、$\mathcal{A}(\dots,X_b,\dots)(p)=0$ である。実際、$\operatorname{supp}\rho\subset U$、$\rho(p)=1$ となる隆起関数 $\rho$(ベクトル場 の記事の補題(隆起関数の存在と局所関数の延長))をとると、$\rho X_b=0$ なので、線形性により
$$
0=\mathcal{A}(\dots,\rho X_b,\dots)(p)=\rho(p)\,\mathcal{A}(\dots,X_b,\dots)(p)=\mathcal{A}(\dots,X_b,\dots)(p)
$$
である。
各点性。$X_b|_p=0$ なら $\mathcal{A}(\dots,X_b,\dots)(p)=0$ である。実際、$p$ のまわりの座標近傍 $(U;x^i)$ 上で $X_b=X^j\partial_j$ と書くと $X^j(p)=0$ である。$\operatorname{supp}\rho\subset U$ で $p$ の開近傍 $U'$ 上で $\rho\equiv1$ となる $\rho$ をとり、$E_j:=\rho\,\partial_j$、$f^j:=\rho X^j$($U$ の外では $0$)とおくと、$E_j\in\mathfrak{X}(M)$、$f^j\in C^\infty(M)$ で、$U'$ 上で $X_b=f^jE_j$ である。局所性を差 $X_b-f^jE_j$ に当て、線形性を使うと
$$
\mathcal{A}(\dots,X_b,\dots)(p)=\mathcal{A}(\dots,f^jE_j,\dots)(p)=f^j(p)\,\mathcal{A}(\dots,E_j,\dots)(p)=0
$$
である($f^j(p)=\rho(p)X^j(p)=0$)。線形性と合わせると、$\mathcal{A}(\omega^1,\dots,X_s)(p)$ は各変数の $p$ での値だけで決まる。
テンソル場の構成。$p\in M$、$\alpha^a\in T_p^*M$、$v_b\in T_pM$ に対し、$\omega^a_p=\alpha^a$、$X_b|_p=v_b$ となる $\omega^a\in\Omega^1(M)$、$X_b\in\mathfrak{X}(M)$ をとって
$$
A_p(\alpha^1,\dots,\alpha^r,v_1,\dots,v_s):=\mathcal{A}(\omega^1,\dots,\omega^r,X_1,\dots,X_s)(p)
$$
と定める。このような延長は存在する($v=v^j\partial_j|_p$ なら、上の $\rho$ について $v^j\rho\,\partial_j$ をとればよい。$\alpha$ についても同様)。各点性により右辺は延長の選び方によらず、延長を線形にとれるので $A_p$ は多重線形である。こうして得たテンソル場 $A$ について $A(\omega^1,\dots,X_s)=\mathcal{A}(\omega^1,\dots,X_s)$ は $C^\infty$ 級なので、thm-tf-smoothness の 4 により $A$ は滑らかである。$A_p$ の値はすべて $\mathcal{A}$ で決まるので、$A$ は一つに決まる。$\square$
写像 $\mathcal{B}\colon\mathfrak{X}(M)^s\to\mathfrak{X}(M)$ が $C^\infty(M)$ 上で多重線形なら、滑らかな $(1,s)$ 型テンソル場 $B$ で、$\omega(\mathcal{B}(X_1,\dots,X_s))(p)=B_p(\omega_p,X_1|_p,\dots,X_s|_p)$ がすべての $\omega\in\Omega^1(M)$ について成り立つものがただ一つ存在する。とくに $\mathcal{B}(X_1,\dots,X_s)(p)$ は $X_1|_p,\dots,X_s|_p$ だけで決まる。
$\mathcal{A}(\omega,X_1,\dots,X_s):=\omega(\mathcal{B}(X_1,\dots,X_s))$ は $C^\infty(M)$ 上で多重線形なので、thm-tf-characterization により対応する $(1,s)$ 型テンソル場 $B$ がある。$B_p(\cdot,v_1,\dots,v_s)\in(T_p^*M)^*=T_pM$ が $\mathcal{B}(X_1,\dots,X_s)(p)$ に一致する($T_p^*M$ のすべての元との対が一致するので)。$\square$
Lee13 Lemma 12.24(pp. 318–319)が共変テンソル場の場合を述べている。この判定は、接続の捩率 $T(X,Y)=\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]$ や曲率 $R(X,Y)Z$ が $(1,2)$ 型・$(1,3)$ 型のテンソル場であることを示すときに使われる。$[fX,Y]=f[X,Y]-Y(f)X$ を使うと $T(fX,Y)=fT(X,Y)$ となる(Riemann接続 の記事の命題(捩率のテンソル性))。
各点で $\delta_p(\alpha,v):=\alpha(v)$ と定めた $(1,1)$ 型テンソル場 $\delta$ は滑らかで、成分はどの座標近傍でも $\delta^i{}_j=dx^i(\partial_j)$、すなわち Kronecker のデルタである。対応する $C^\infty(M)$ 多重線形写像は $(\omega,X)\mapsto\omega(X)$ である。
$\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ の Euclid 計量 $g=dx\otimes dx+dy\otimes dy$ は $(0,2)$ 型テンソル場で、極座標 $x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ では $dx=\cos\theta\,dr-r\sin\theta\,d\theta$、$dy=\sin\theta\,dr+r\cos\theta\,d\theta$ を代入して $g=dr\otimes dr+r^2\,d\theta\otimes d\theta$ となる。成分 $(g_{ij})$ は座標によって変わるが、テンソル場 $g$ そのものは同じである。
$\mathcal{B}(X,Y):=[X,Y]$(Lie括弧)は $\mathbb{R}$ 上で双線形だが、$C^\infty(M)$ 上で線形でない。$M=\mathbb{R}$、$X:=\partial_x$、$Y:=x\,\partial_x$ とすると $[X,Y]=\partial_x(x)\,\partial_x=\partial_x$ である。$Y|_0=0$ なのに $[X,Y]|_0=\partial_x|_0\neq0$ なので、$[X,Y]$ の $0$ での値は $X|_0$、$Y|_0$ だけでは決まらず、$[\cdot,\cdot]$ はどの $(1,2)$ 型テンソル場からも来ない。満たす性質は「$\mathbb{R}$ 上で双線形」、満たさない性質は「$C^\infty(M)$ 上で多重線形」(第 2 変数では $[X,fY]=f[X,Y]+X(f)Y$、第 1 変数では $[fX,Y]=f[X,Y]-Y(f)X$)であり、破る含意は cor-tf-vector-valued の結論「値は各点の入力だけで決まる」である。共変微分 $(X,Y)\mapsto\nabla_XY$ も第 1 変数については $C^\infty(M)$ 線形だが第 2 変数についてはそうでなく、テンソル場でない。外微分も同じ理由でテンソル場の間の各点ごとの写像ではない(外微分 の記事の例(反例:外微分は関数線型でない))。
共変テンソル場は、任意の滑らかな写像で引き戻せる。
$F\colon M\to N$ を $C^\infty$ 級写像、$A$ を $N$ 上の共変 $s$ テンソル場とする。$M$ 上の共変 $s$ テンソル場 $F^*A$ を
$$
(F^*A)_p(v_1,\dots,v_s):=A_{F(p)}\bigl(dF_p(v_1),\dots,dF_p(v_s)\bigr)\qquad(v_b\in T_pM)
$$
で定め、$A$ の $F$ による引き戻し(pullback)という。
$F\colon M\to N$、$G\colon N\to P$ を $C^\infty$ 級写像、$A$、$B$ を $N$ 上の共変テンソル場、$f$ を $N$ 上の関数とする。
1:接空間 の記事の命題(微分の局所座標表示)により $dF_p(\partial_{x^j}|_p)=\frac{\partial F^i}{\partial x^j}(p)\,\partial_{y^i}|_{F(p)}$ である。これを定義に代入し、$A_{F(p)}$ の多重線形性を使うと式を得る。右辺は $C^\infty$ 級関数の積の和である。$F(U)\subset V$ となる座標近傍 $U$ は $M$ を覆うので、thm-tf-smoothness の 3 により $F^*A$ は滑らかである。
2:各点で、定義の右辺が $A$ について線形であり、$(fA)_{F(p)}=f(F(p))A_{F(p)}$、$(A\otimes B)_{F(p)}(dF_pv_1,\dots)=A_{F(p)}(dF_pv_1,\dots)\,B_{F(p)}(\dots)$ であることから従う。
3:接空間 の記事の定理(連鎖律)$d(G\circ F)_p=dG_{F(p)}\circ dF_p$ を定義に代入すると $((G\circ F)^*A)_p(v_1,\dots)=A_{G(F(p))}(dG\,dF_pv_1,\dots)=(G^*A)_{F(p)}(dF_pv_1,\dots)=(F^*(G^*A))_p(v_1,\dots)$ である。$\mathrm{id}_N$ の微分は恒等写像である。
4:対称性は $g$ の対称性から従う。$v\in T_pM$ について $(F^*g)_p(v,v)=g_{F(p)}(dF_pv,dF_pv)\ge0$ であり、$g$ は正定値なので、等号は $dF_pv=0$ のときに限る。よって $(F^*g)_p$ が正定値であることは、$dF_pv=0$ となる $v$ が $0$ だけであること、すなわち $dF_p$ が単射であることと同値である。滑らかさは 1 による。$\square$
Lee13 Proposition 12.25(p. 320)が 2・3 と滑らかさを、Corollary 12.28(p. 320)が 1 の成分の式にあたる主張を述べている(命題の証明は演習とされている)。$S\subset N$ が部分多様体で $\iota\colon S\hookrightarrow N$ が包含写像なら、$\iota$ ははめ込みなので $\iota^*g$ は $S$ の Riemann 計量であり、これを誘導計量という(リーマン多様体 の記事の例(埋め込まれた部分多様体))。
$F(\theta,\phi):=(\sin\theta\cos\phi,\ \sin\theta\sin\phi,\ \cos\theta)$($0<\theta<\pi$、$\phi\in\mathbb{R}$)と $\mathbb{R}^3$ の Euclid 計量 $\bar g=dx\otimes dx+dy\otimes dy+dz\otimes dz$ を考える。$\bar g$ の成分は $\delta_{ij}$ なので、prop-tf-pullback の 1 により $(F^*\bar g)_{ab}$ は偏導関数ベクトル $F_\theta$、$F_\phi$ の Euclid 内積である。
$$
F_\theta=(\cos\theta\cos\phi,\ \cos\theta\sin\phi,\ -\sin\theta),\qquad F_\phi=(-\sin\theta\sin\phi,\ \sin\theta\cos\phi,\ 0)
$$
から $F_\theta\cdot F_\theta=1$、$F_\theta\cdot F_\phi=0$、$F_\phi\cdot F_\phi=\sin^2\theta$ であり、
$$
F^*\bar g=d\theta\otimes d\theta+\sin^2\theta\,d\phi\otimes d\phi
$$
となる。$\sin\theta\neq0$ なのでこれは正定値であり、$F$ がこの範囲ではめ込みであることと合っている。$F$ は単位球面 $S^2$ の極を除いた部分への写像なので、これは $S^2$ の誘導計量の局所座標表示である。
$\gamma\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}^2$、$\gamma(t):=(t^2,t^3)$ と Euclid 計量 $\bar g=dx\otimes dx+dy\otimes dy$ について、prop-tf-pullback の 1 により
$$
\gamma^*\bar g=\bigl((2t)^2+(3t^2)^2\bigr)\,dt\otimes dt=(4t^2+9t^4)\,dt\otimes dt
$$
であり、$t=0$ で $0$ になる。満たす性質は「$C^\infty$ 級写像による Riemann 計量の引き戻し」、満たさない性質は「$\gamma$ が $t=0$ ではめ込み」であり、破る含意は prop-tf-pullback の 4 の結論「$F^*g$ は Riemann 計量」である。
反変テンソル場は、一般の $C^\infty$ 級写像では押し出せない。$F\colon\mathbb{R}\to S^1$、$F(t):=(\cos t,\sin t)$ は全射な局所微分同相写像であり、$\partial_\theta$ を $S^1$ の角度のベクトル場とすると $dF_t(\partial_t)=\partial_\theta|_{F(t)}$ である。$X:=t\,\partial_t$ とおくと、$F(0)=F(2\pi)$ なのに $dF_0(X_0)=0$、$dF_{2\pi}(X_{2\pi})=2\pi\,\partial_\theta|_{F(0)}$ であり、一致しない。よって「$Y_{F(t)}:=dF_t(X_t)$」は点 $F(0)$ で矛盾なく定まらない。満たす性質は「全射な局所微分同相写像」、満たさない性質は「単射」であり、破る含意は「全射な局所微分同相写像でベクトル場を $dF$ で移したものはベクトル場になる」である。$F$ が微分同相写像なら $F_*X:=dF\circ X\circ F^{-1}$ が定まり、混合型のテンソル場も移せる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $C^\infty(M)$ 上で多重線形 | Lie 括弧 $[X,Y]$ | 値が各点の入力だけで決まる |
| 第 2 変数について $C^\infty(M)$ 線形 | 共変微分 $\nabla_XY$ | 値が各点の入力だけで決まる |
| $F$ がはめ込み | 尖点 $t\mapsto(t^2,t^3)$ | $F^*g$ が Riemann 計量 |
| $F$ が単射 | 被覆 $\mathbb{R}\to S^1$ と $X=t\,\partial_t$ | ベクトル場の押し出しが定まる |
テンソル場の成分の変換則、縮約、計量による添字の上げ下げは テンソル解析 が扱う。ベクトル場の流れに沿ってテンソル場を微分したものが Lie微分 であり、接続を使って微分したものが共変微分である。任意の多様体は Riemann 計量、すなわち各点で正定値な対称共変 2 テンソル場をもつ(リーマン幾何学 の記事の命題(リーマン計量の存在))。これは正定値性が凸な条件で、1の分割 による平均で保たれることによる。各点で正定値という条件を「非退化で符号数が一定」に弱めたものが擬 Riemann 計量であり、時空 の計量はその例である。
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