Weyl群(Weyl group)とは、コンパクト Lie 群 $G$ とその極大トーラス $T$ に対し、$T$ の正規化群を $T$ で割った群 $W(G,T)=N_G(T)/T$ のことであり、ルート系の鏡映が生成する群 $W(R)$ も同じ名で呼ぶ。$W(G,T)$ は $T$ に共役で作用し、$G$ の共役類や類関数は $T$ 上の $W$ 不変なものとして調べられる。ユニタリ群 $\mathrm{U}(n)$ では $T$ は対角行列、$N_G(T)$ は単項ユニタリ行列の群で、$W\cong S_n$ は対角成分の並べ替え、すなわち $A_{n-1}$ 型のルート系の鏡映の群として働く。元が 3 個以上の体の上の一般線形群の Weyl 群も $S_n$ であり、Bruhat 分解や旗多様体の固定点に現れる。
Weyl 群 には 2 つの顔がある。1 つは、ルート系 $R$ の各ルートに関する鏡映が生成する有限群 $W(R)$ である(ルート系 の定義「ルート系のWeyl群」)。もう 1 つは、コンパクトな Lie 群 $G$ とその極大トーラス $T$ に対し、$T$ を自分自身に写す元の群 $N_G(T)$ を $T$ で割った群 $W(G,T)=N_G(T)/T$ である。ユニタリ群 $\mathrm{U}(n)$ では $T$ は対角行列の群、$N_G(T)$ は置換行列に対角行列を掛けた行列の群で、$W(G,T)$ は対称群 $S_n$ になる。これは $A_{n-1}$ 型のルート系の Weyl 群と一致し、2 つの顔が同じものを見ていることが分かる。
$W(G,T)$ は $T$ に共役で作用し、$\mathrm{U}(n)$ や $\mathrm{SU}(n)$ などでは $G$ の共役類が $T$ を $W$ で割ったものと対応する。$\mathrm{U}(n)$ では、行列の共役類が固有値の組(並べ方を忘れたもの)で決まるという線形代数の事実が、ちょうどこの対応である。この記事では、$W(G,T)$ を定義し、一般のコンパクトな行列群で $N_G(T)/Z_G(T)$ が有限であることを証明する。主定理として $\mathrm{U}(n)$ と $\mathrm{SU}(n)$ の Weyl 群を $S_n$ と決定し(thm-weyl-un)、共役類・類関数との関係、ルートに関する鏡映の実現、任意の体の上の一般線形群の Weyl 群、旗の固定点との関係を証明する。
この記事では、$G$ を $\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ のコンパクトな部分群(したがって閉部分群)とし、$M_N(\mathbb{C})$ の位相を入れる。このような $G$ は Lie 群である(Lie群 の定理「閉部分群定理(Cartan)」)。$r\ge0$ に対し $\mathbb{T}^r:=\mathbb{R}^r/\mathbb{Z}^r$ と書き、$(S^1)^r$ と同一視する。
$G$ の部分群 $T$ で、位相群として $\mathbb{T}^r$($r\ge0$)と同型なものを $G$ の トーラス という。$G$ のトーラス $T$ が、$T$ を真に含む $G$ のトーラスをもたないとき、$T$ を $G$ の 極大トーラス(maximal torus)という。
$T$ を $G$ のトーラスとする。
$$
N_G(T):=\{g\in G\mid gTg^{-1}=T\},\qquad Z_G(T):=\{g\in G\mid gt=tg\ (t\in T)\}
$$
をそれぞれ $T$ の 正規化群、中心化群 という。$T\subset Z_G(T)\subset N_G(T)$ であり、$T$ と $Z_G(T)$ は $N_G(T)$ の正規部分群である。$T$ が極大トーラスのとき、剰余群
$$
W(G,T):=N_G(T)/T
$$
を $G$ の($T$ に関する)Weyl 群(Weyl group)という。
$T$ は可換なので、$n\in N_G(T)$ の剰余類 $w=nT$ について $w\cdot t:=ntn^{-1}$ は代表元 $n$ の取り方によらず、$W(G,T)$ は $T$ に自己同型として作用する。$Z_G(T)$ の元は $T$ に自明に作用するので、この作用が忠実になるのは $Z_G(T)=T$ のときである。$g\in G$ で共役な極大トーラス $gTg^{-1}$ については、$n\mapsto gng^{-1}$ が同型 $W(G,T)\cong W(G,gTg^{-1})$ を与える。
$G=\mathrm{U}(n)$ で考える。ユニタリ行列は、正規直交基底をとり直せば対角行列になる(ユニタリ行列 の定理「ユニタリ行列のユニタリ対角化」)。しかし対角化の結果は一意でなく、基底の順序を入れ替えれば対角成分も入れ替わる。Weyl 群 $S_n$ は、この「対角化の結果の曖昧さ」を測る群である。対角行列の群 $T$ を自分自身に写す共役は、座標軸を並べ替えることしかできない(lem-weyl-monomial)。
ルート系の側から見ると、$T$ の Lie 環 $\mathfrak{t}=i\mathbb{R}^n$ 上で、座標 $i$ と $j$ の入れ替えは $e_i-e_j$ に直交する超平面に関する鏡映である。こうして Weyl 群は「$T$ の上の鏡映の群」として現れ、この鏡映は $\mathrm{U}(n)$ の中の $\mathrm{SU}(2)$ の元で実現される(prop-weyl-reflections)。
$G=\mathrm{SO}(3)$、$T:=\{R_3(\theta)\}$($e_3$ を軸とする角 $\theta$ の回転)とする。$T\cong\mathbb{T}^1$ である。$g\in N_G(T)$ なら、$T$ の元すべてが固定するベクトルの全体 $\mathbb{R}e_3$ を $g$ は自分自身に写すので $ge_3=\pm e_3$ である。$ge_3=e_3$ なら $g$ は $e_3$ の安定化群 $\mathrm{SO}(2)=T$ に属する(直交群 の定理「球面への推移的な作用」)。$s:=\operatorname{diag}(1,-1,-1)\in\mathrm{SO}(3)$ は $se_3=-e_3$ を満たし、$sR_3(\theta)s^{-1}=R_3(-\theta)$ である。$ge_3=-e_3$ なら $sg$ は $e_3$ を固定するので $g\in sT$ である。よって $N_G(T)=T\cup sT$、$Z_G(T)=T$ であり、$W(\mathrm{SO}(3),T)\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は $T$ に $\theta\mapsto-\theta$ で作用する。$T$ を真に含むトーラス $T_1$ があれば、$T_1$ は可換なので $T_1\subset Z_G(T)=T$ となり矛盾するので、$T$ は極大トーラスである。
$A_{n-1}$ 型のルート系 $\{e_i-e_j\}$ の Weyl 群は $S_n$、$B_n$ 型は符号付き置換の群 $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^n\rtimes S_n$、$D_n$ 型は偶数個の符号を反転する符号付き置換の群 $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{n-1}\rtimes S_n$ である(ルート系 の例「$A_{n-1}$ 型」「$B_{n}$ 型」「$D_{n}$ 型」)。ルート系の Weyl 群は単純鏡映を生成元とする Coxeter系 である(Coxeter系 の定理「ルート系のWeyl群はCoxeter系」)。たとえば $S_n$ は隣接互換 $s_i=(i\ i+1)$ で生成され、関係式 $s_i^2=1$、$(s_is_{i+1})^3=1$、$(s_is_j)^2=1$($\lvert i-j\rvert\ge2$)をもつ(Coxeter系 の例「対称群の場合」)。
| 群 $G$ | 極大トーラス | Weyl 群 | ルート系の型 |
|---|---|---|---|
| $\mathrm{U}(n)$、$\mathrm{SU}(n)$ | 対角行列 | $S_n$ | $A_{n-1}$ |
| $\mathrm{SO}(2n+1)$ | $2\times2$ の回転ブロック $n$ 個 | $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^n\rtimes S_n$ | $B_n$ |
| $\mathrm{Sp}(n)$ | 対角行列 | $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^n\rtimes S_n$ | $C_n$ |
| $\mathrm{SO}(2n)$ | $2\times2$ の回転ブロック $n$ 個 | $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{n-1}\rtimes S_n$ | $D_n$ |
$\mathrm{U}(n)$、$\mathrm{SU}(n)$ の行はこの記事で証明する(thm-weyl-un)。$\mathrm{SO}(3)$ は $n=1$ の $B_1$ で、ex-weyl-so3 で確かめた。ほかの行はこの記事では証明しない(FH91 §26.2、pp. 442–443)。
$f\colon\mathbb{T}^r\to\mathbb{T}^r$ を連続な準同型とする。このとき整数行列 $B\in M_r(\mathbb{Z})$ で $f(x+\mathbb{Z}^r)=Bx+\mathbb{Z}^r$ となるものがただ 1 つある。
要点:$f$ を $\mathbb{R}^r$ の連続写像に持ち上げると、加法性のずれが $\mathbb{Z}^r$ に値をとる連続関数になり $0$ である。連続で加法的な写像は線形で、$\mathbb{Z}^r$ を $\mathbb{Z}^r$ に写す。
$\pi\colon\mathbb{R}^r\to\mathbb{T}^r$ は被覆写像(円周の被覆 $\mathbb{R}\to S^1$ の直積)であり、$\mathbb{R}^r$ は単連結なので、$f\circ\pi$ は $F(0)=0$ を満たす連続写像 $F\colon\mathbb{R}^r\to\mathbb{R}^r$ に持ち上がる(Hat02 Proposition 1.33、p. 61)。$f$ は準同型なので $D(x,y):=F(x+y)-F(x)-F(y)$ は $\mathbb{Z}^r$ に値をとり、$(x,y)$ について連続で $D(0,0)=0$ である。$\mathbb{R}^r\times\mathbb{R}^r$ は連結で $\mathbb{Z}^r$ は離散なので $D\equiv0$、すなわち $F$ は加法的である。加法的なら $F(qx)=qF(x)$($q\in\mathbb{Q}$)で、連続性から実数倍も保つので $F$ は線形であり、行列 $B$ で表される。$F(\mathbb{Z}^r)\subset\pi^{-1}(f(0))=\mathbb{Z}^r$ なので $Be_i\in\mathbb{Z}^r$、すなわち $B$ は整数行列である。$f(x+\mathbb{Z}^r)=\pi(F(x))=Bx+\mathbb{Z}^r$ である。一意性:$B,B'$ がともに条件を満たせば $(B-B')x\in\mathbb{Z}^r$($x\in\mathbb{R}^r$)であり、$x=te_i$($t$ は小さい実数)を考えると $B-B'=O$ である。$\square$
$G\subset\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ をコンパクトな部分群、$T$ を $G$ のトーラスとする。このとき $N_G(T)/Z_G(T)$ は有限群である。とくに $Z_G(T)=T$ なら $N_G(T)/T$ は有限群である。
要点:自明でないトーラスの自己同型 $c$ は、整数行列で表されるので、ある点を距離 $\frac12$ 以上動かす。一方、単位元に近い $n$ による共役はどの点も少ししか動かさないので、自明な自己同型を与える。よって $n\mapsto(T\text{ への共役})$ は局所定数で、コンパクトな $N_G(T)$ の上では有限個の値しかとらない。
$\phi\colon\mathbb{T}^r\to T$ を位相群の同型とし、$n\in N:=N_G(T)$ に対し $c_n(x):=\phi^{-1}(n\phi(x)n^{-1})$ とおく。$c_n$ は $\mathbb{T}^r$ の連続な自己同型で、$c_n=\mathrm{id}$ は $n\in Z_G(T)$ と同値であり、$c_{nm}=c_n\circ c_m$ である。
段 1(恒等写像から離れた自己準同型):$\mathbb{T}^r$ に距離 $d(x+\mathbb{Z}^r,y+\mathbb{Z}^r):=\min_{k\in\mathbb{Z}^r}\max_i\lvert x_i-y_i-k_i\rvert$ を入れる。$c$ を $\mathbb{T}^r$ の連続な自己同型で $c\ne\mathrm{id}$ とする。$\mathbb{T}^r$ は可換なので $x\mapsto c(x)-x$ は連続な準同型であり、lem-weyl-endomorphism により整数行列 $B\ne O$ で表される。$B$ の $0$ でない成分 $b_{ij}$ のうち絶対値が最大のものを $b$ とし、$x:=\frac{1}{2b}e_j$ とおくと、$Bx$ の第 $i$ 成分は $\frac12$ なので $d(c(x),x)\ge\frac12$ である。
段 2(局所定数):$\phi^{-1}$ はコンパクト空間 $T$ 上の連続写像なので一様連続であり、$\delta>0$ を $\|t-t'\|<\delta$ なら $d(\phi^{-1}(t),\phi^{-1}(t'))<\frac12$ となるようにとれる($\|\cdot\|$ は $M_N(\mathbb{C})$ の作用素ノルム)。$T$ は有界なので、$u\in N$ が単位元 $I$ に十分近ければ、すべての $t\in T$ について $\|utu^{-1}-t\|<\delta$ となる。このとき $d(c_u(x),x)<\frac12$($x\in\mathbb{T}^r$)なので、段 1 により $c_u=\mathrm{id}$ である。よって $I$ の開近傍 $U$ で、$u\in U\cap N$ なら $c_u=\mathrm{id}$ となるものがある。
段 3(有限性):$N$ は閉集合 $G$ の中で $nTn^{-1}=T$ という閉条件で定まるのでコンパクトである。$N$ は開集合 $nU$($n\in N$)で覆われるので、有限個 $n_1U,\dots,n_mU$ で覆われる。$n\in n_kU\cap N$ なら $c_n=c_{n_k}\circ c_{n_k^{-1}n}=c_{n_k}$ である。よって $n\mapsto c_n$ の像は高々 $m$ 個であり、その核が $Z_G(T)$ なので、$N/Z_G(T)$ は有限群である。$\square$
この証明は、単位元の近くの共役が「少しだけしか動かさない」のに対し、自明でないトーラスの自己同型は必ず「大きく動かす」ことを使っている。トーラスの自己同型の群は整数行列の群で離散的なので、連続に動く共役は飛び移れない。
各行・各列に $0$ でない成分がちょうど 1 つある正則行列を 単項行列 という。体 $K$ について、単項行列は対角行列と置換行列 $P_\sigma$(第 $j$ 列が $e_{\sigma(j)}$)の積 $DP_\sigma$ にただ 1 通りに書ける。
$K$ を体、$D\subset\mathrm{GL}_n(K)$ を対角行列からなる部分群とし、どの $i\ne j$ についても $(i,i)$ 成分と $(j,j)$ 成分が異なる $d\in D$ があるとする。
1:$Ad=dA$ の $(i,j)$ 成分は $a_{ij}d_j=d_ia_{ij}$ であり、$d_i\ne d_j$ となる $d$ をとれば $a_{ij}=0$($i\ne j$)である。
2:まず、$D$ のすべての元の固有ベクトルになる $v\ne0$(同時固有ベクトル)は、ある $e_i$ の定数倍であることを示す。$v=\sum_kv_ke_k$ で $v_i\ne0$、$v_j\ne0$($i\ne j$)なら、$dv=\lambda v$ の第 $i$・第 $j$ 成分から $d_i=\lambda=d_j$ がすべての $d\in D$ で成り立ち、仮定に反する。次に $g\in\mathrm{GL}_n(K)$ が $gDg^{-1}=D$ を満たすとする。$d\in D$ に対し $d':=g^{-1}dg\in D$ なので $d(ge_i)=gd'e_i=d'_i\,ge_i$ であり、$ge_i$ は同時固有ベクトルである。よって $ge_i\in Ke_{\sigma(i)}$ となる $\sigma(i)$ がある。$g$ は正則なので $ge_1,\dots,ge_n$ は線形独立で $\sigma$ は単射、したがって置換であり、$g$ は単項行列である。$\square$
$\mathrm{U}(n)$ の対角行列の群を $T:=\{\operatorname{diag}(z_1,\dots,z_n)\mid\lvert z_k\rvert=1\}$、$T':=T\cap\mathrm{SU}(n)$ とする。
$n\ge1$ とする。
1:$i\ne j$ について、第 $i$ 成分が $-1$ でほかが $1$ の対角行列は $T$ に属するので、$T$ は lem-weyl-monomial の仮定を満たす。その 1 により $T$ と可換な行列は対角行列で、対角なユニタリ行列は $T$ の元なので $Z_{\mathrm{U}(n)}(T)=T$ である。$T\cong\mathbb{T}^n$ は $\theta\mapsto\operatorname{diag}(e^{2\pi i\theta_k})$ による。$T$ を含むトーラス $T_1$ は可換なので $T_1\subset Z_{\mathrm{U}(n)}(T)=T$ であり、$T$ は極大である。
2:lem-weyl-monomial の 2 により $g\in N_{\mathrm{U}(n)}(T)$ は単項行列で、$g=DP_\sigma$ と書ける。$P_\sigma$ はユニタリなので $D=gP_\sigma^{-1}$ もユニタリな対角行列、すなわち $D\in T$ である。逆に $P_\sigma\operatorname{diag}(z_k)P_\sigma^{-1}e_{\sigma(j)}=P_\sigma\operatorname{diag}(z_k)e_j=z_je_{\sigma(j)}$ なので、3 の式が成り立ち、$tP_\sigma$ は $T$ を正規化する。
3:$P_\sigma P_\tau=P_{\sigma\tau}$ なので $\sigma\mapsto P_\sigma T$ は準同型で、2 により全射である。$P_\sigma\in T$ なら $P_\sigma$ は対角行列なので $\sigma=\mathrm{id}$ であり、単射である。
4:$i\ne j$ について、第 $i$ 成分が $\sqrt{-1}$、第 $j$ 成分が $-\sqrt{-1}$、ほかが $1$ の対角行列は $T'$ に属するので、$T'$ も lem-weyl-monomial の仮定を満たす。1 と同じく $Z_{\mathrm{SU}(n)}(T')=T'$ で、$T'\cong\mathbb{T}^{n-1}$($\operatorname{diag}(z_1,\dots,z_{n-1},(z_1\cdots z_{n-1})^{-1})$ と書ける)は極大トーラスである。$g\in N_{\mathrm{SU}(n)}(T')$ は単項行列 $tP_\sigma$($t\in T$)であり、$\sigma$ は $g$ で決まる。$gT'\mapsto\sigma$ は準同型で、核は対角な $\mathrm{SU}(n)$ の元、すなわち $T'$ である。全射:$\det P_\sigma=\operatorname{sgn}\sigma$ なので、$t_\sigma:=\operatorname{diag}(\operatorname{sgn}\sigma,1,\dots,1)$ とおくと $t_\sigma P_\sigma\in\mathrm{SU}(n)$ で、2 によりこれは $T$ を、したがって $T'=T\cap\mathrm{SU}(n)$ を正規化する。$\square$
$G=\mathrm{U}(n)$、$T$、$W=W(G,T)\cong S_n$ を上のとおりとする。
要点:1・2 は ユニタリ群 の定理「共役類は固有値で決まる」と thm-weyl-un の 3 による。3 の全射は、$g$ に共役な $T$ の元での値で $f$ を定め、連続性を $G$・$T$ のコンパクト性による部分列の議論で示す。
1・2:ユニタリ群 の定理「共役類は固有値で決まる」の 1・3 であり、3 の並べ替えは thm-weyl-un の 3 により $W$ の作用そのものである。
3:$f$ が類関数なら $f\vert_T$ は $W$ で不変であり($w\cdot t$ は $t$ と共役)、1 により $f$ は $f\vert_T$ で決まるので単射である。全射:$\varphi$ を $T$ 上の $W$ で不変な連続関数とし、$g\in G$ に対し $f(g):=\varphi(t)$($t\in T$ は $g$ に共役な元)とおく。1 により $t$ は存在し、2 と $\varphi$ の $W$ 不変性により $f(g)$ は $t$ の選び方によらない。$f$ は類関数で $f\vert_T=\varphi$ である。連続性:$g_k\to g$ とし、$g_k=h_kt_kh_k^{-1}$($h_k\in G$、$t_k\in T$)と書く。任意の部分列は、$G$ と $T$ のコンパクト性により、$h_k\to h$、$t_k\to t$ となる部分列をさらに含む。そのとき $g=hth^{-1}$ なので $f(g)=\varphi(t)=\lim\varphi(t_k)=\lim f(g_k)$ である。どの部分列も $f(g)$ に収束する部分列を含むので $f(g_k)\to f(g)$ である。$\square$
したがって $\mathrm{U}(n)$ 上の類関数は、固有値 $z_1,\dots,z_n$ の対称な関数にほかならない。跡 $\operatorname{tr}(g^m)=z_1^m+\dots+z_n^m$ や、固有多項式の係数(基本対称式)がその例である。有限次元表現の指標は類関数なので、$T$ 上の $W$ 不変な関数として調べられる。これが Weyl の指標公式の出発点であり、Weyl の積分公式は $G$ 上の類関数の積分を、ルートで決まる $T$ 上の重み関数 $\prod_{\alpha}(1-e^{\alpha})$ を掛けた $T$ 上の積分の $\frac{1}{\lvert W\rvert}$ 倍に書き直す(FH91 §26.2、(26.19)、p. 443)。
$T$ の Lie 環は $\mathfrak{t}:=\{\operatorname{diag}(\sqrt{-1}x_1,\dots,\sqrt{-1}x_n)\mid x\in\mathbb{R}^n\}$ で、$x\in\mathbb{R}^n$ と同一視する。$\exp\colon\mathfrak{t}\to T$ は全射で、$n\in N_{\mathrm{U}(n)}(T)$ による共役 $X\mapsto nXn^{-1}$ は $\mathfrak{t}$ を保つ。
$n\ge2$、$1\le i< j\le n$ とし、$s_{ij}\in\mathrm{SU}(n)$ を $s_{ij}e_i:=e_j$、$s_{ij}e_j:=-e_i$、ほかの $e_k$ は動かさない行列とする。
要点:$s_{ij}$ は $e_i,e_j$ の平面の $\frac\pi2$ 回転で、単項行列として互換 $(i\ j)$ を与え、$\mathfrak{t}\cong\mathbb{R}^n$ では第 $i$・第 $j$ 座標の入れ替え、すなわち $e_i-e_j$ に関する鏡映として働く。
1:$Y:=E_{ji}-E_{ij}$ は $e_i,e_j$ の張る平面で $\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ として働き、ほかの $e_k$ を $0$ に写す。この $2\times2$ 行列の $2$ 乗は $-I_2$ なので $e^{sY}$ はこの平面で $\begin{pmatrix}\cos s&-\sin s\\\sin s&\cos s\end{pmatrix}$、ほかでは恒等写像であり、$s=\frac\pi2$ で $s_{ij}$ になる。この平面の上の $2\times2$ 行列は行列式 $1$ のユニタリ行列なので $\mathrm{SU}(2)$ の元である。
2:$s_{ij}$ は単項ユニタリ行列で、$e_i,e_j$ の行き先が入れ替わるので、thm-weyl-un の 2 の形 $tP_{(i\ j)}$($t\in T$)に書ける。
3:$s_{ij}\operatorname{diag}(\sqrt{-1}x)s_{ij}^{-1}$ は、thm-weyl-un の 3 により $x_i$ と $x_j$ を入れ替えた対角行列である。一方、$x-(x,e_i-e_j)(e_i-e_j)=x-(x_i-x_j)(e_i-e_j)$ は $x$ の第 $i$・第 $j$ 座標を入れ替えたベクトルである。互換は $S_n$ を生成するので、後半が従う。$\square$
$\mathbb{R}^n$ を座標の和が $0$ の超平面 $V$ と直線 $\mathbb{R}(1,\dots,1)$ に分けると、$W$ は直線を動かさず、$V$ の上では $A_{n-1}$ 型のルート系の Weyl 群 $S_n$ として働く(ルート系 の例「$A_{n-1}$ 型」)。直線の部分は $\mathrm{U}(n)$ の中心 $\{zI\}$ の Lie 環にあたる。一般に、連結なコンパクト Lie 群 $G$ の各ルート $\alpha$ について、$G$ の中の $\mathrm{SU}(2)$(またはその商)の元で $\alpha$ に関する鏡映を実現するものがあり、$W(G,T)$ は $G$ のルート系の Weyl 群と同型である(FH91 §26.2、Claim 26.15、p. 441)。
代数群の言葉では、極大トーラスの代わりに対角行列の群 $D_n(K)$ を考え、その正規化群を $D_n(K)$ で割る。
$K$ を元を $3$ 個以上もつ体、$D:=D_n(K)$ を $\mathrm{GL}_n(K)$ の対角行列の全体とする。このとき $Z_{\mathrm{GL}_n(K)}(D)=D$ であり、$N_{\mathrm{GL}_n(K)}(D)$ は単項行列の全体で、$\sigma\mapsto P_\sigma D$ は同型 $S_n\cong N_{\mathrm{GL}_n(K)}(D)/D$ を与える。
$K$ は $0,1$ 以外の元 $a$ をもつ。$i\ne j$ について、第 $i$ 成分が $a$ でほかが $1$ の対角行列は $D$ に属し、$(i,i)$ 成分と $(j,j)$ 成分が異なるので、$D$ は lem-weyl-monomial の仮定を満たす。中心化群と正規化群についての主張はその 1・2 と、単項行列が $D$ を正規化すること(thm-weyl-un の 2 と同じ計算)から従い、同型は thm-weyl-un の 3 と同じ議論で示される。$\square$
$B$ を上三角行列の群とすると、$\mathrm{GL}_n(K)$ は両側剰余類 $BP_\sigma B$($\sigma\in S_n$)の交わらない和に分かれる(Bruhat 分解。旗多様体 の定理「Bruhat 分解」。$\mathrm{SL}_m(\mathbb{C})$ の場合は FH91 §23.4、Theorem 23.59、p. 396)。Weyl 群の元ごとに両側剰余類が 1 つずつ対応しているのである。上三角かつ単項な行列は対角行列なので $B\cap N=D$($N$ は単項行列の群)であり、$n=2$ では $(B,N)$ が Tits系 をなして、その Weyl 群 $N/(B\cap N)$ が $S_2$ である(Tits系 の命題「$\mathrm{GL}_2(K)$ の標準BN対」)。
$\mathbb{C}^n$ の完全旗 $0=V_0\subset V_1\subset\dots\subset V_n=\mathbb{C}^n$($\dim V_k=k$)の全体を $\operatorname{Fl}_n$ とする(旗多様体)。$\mathrm{U}(n)$ は $\operatorname{Fl}_n$ に $g\cdot(V_k)_k:=(gV_k)_k$ で作用する。$\sigma\in S_n$ に対し、$V_k=\operatorname{span}\{e_{\sigma(1)},\dots,e_{\sigma(k)}\}$ で定まる旗を $F_\sigma$ と書き、座標旗 という。
$T$ のすべての元で固定される完全旗は、座標旗 $F_\sigma$($\sigma\in S_n$)のちょうど $n!$ 個である。$W(\mathrm{U}(n),T)\cong S_n$ はこれらに $P_\tau F_\sigma=F_{\tau\sigma}$ で単純推移的に作用する。
要点:対角成分が相異なる $t\in T$ で不変な部分空間は座標ベクトルで張られるので、固定される旗は座標旗である。置換行列は座標旗を置換の合成のとおりに写す。
段 1:対角成分が相異なる $t=\operatorname{diag}(z_1,\dots,z_n)\in T$ をとる。$p_i(x):=\prod_{k\ne i}\frac{x-z_k}{z_i-z_k}$ とおくと $p_i(t)$ は $e_i$ の座標を取り出す射影 $v\mapsto v_ie_i$ である。$t$ で不変な部分空間 $V$ は $p_i(t)V\subset V$ を満たすので、$v\in V$ なら $v_ie_i\in V$ であり、$V$ はそれが含む $e_i$ の張る空間に等しい。
段 2:$T$ で固定される旗では各 $V_k$ が $t$ で不変なので、段 1 により座標ベクトルで張られ、$V_{k-1}\subset V_k$ と次元から $V_k=V_{k-1}\oplus\mathbb{C}e_{\sigma(k)}$ となる $\sigma(k)$ がただ 1 つ決まる。$\sigma$ は置換で、旗は $F_\sigma$ である。逆に座標旗は $T$ の各元で固定され、$\sigma\ne\sigma'$ なら $F_\sigma\ne F_{\sigma'}$ である。$P_\tau e_{\sigma(k)}=e_{\tau\sigma(k)}$ なので $P_\tau F_\sigma=F_{\tau\sigma}$ であり、$T$ の元は座標旗を動かさないので $W$ の作用は well-defined で、単純推移的である。$\square$
固定点の個数 $n!$ は $\operatorname{Fl}_n$ の Euler 標数に等しい(旗多様体 の例「Euler 標数の計算」)。$\operatorname{Fl}_n\cong\mathrm{U}(n)/T$(旗多様体 の注意「一般の旗多様体と実形」)とみると、$W$ は $gT\mapsto gnT$($n\in N(T)$)で $\mathrm{U}(n)/T$ に右から自由に作用している。
$G$ を Lie 環が半単純な連結コンパクト Lie 群($\mathrm{SU}(n)$、$\mathrm{SO}(n)$($n\ge3$)、$\mathrm{Sp}(n)$ など)、$T$ をその極大トーラスとする。
この定理はこの記事では証明しない(FH91 §26.2、Claim 26.15・Theorem 26.16・Corollary 26.17、p. 441。同書は証明の筋を述べ、詳しい証明は文献に譲っている)。$\mathrm{U}(n)$、$\mathrm{SU}(n)$ では thm-weyl-un と thm-weyl-conjugacy で直接確かめた。2 と thm-weyl-finite から $W(G,T)$ は有限群である。
Weyl 群は $G$ の位相にも現れ、分類空間 の記事にあるとおり、有理係数のコホモロジーについて $H^*(BG;\mathbb{Q})$ は $H^*(BT;\mathbb{Q})$ の $W$ 不変部分と同型である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T$ が極大トーラス($Z_G(T)=T$) | $G=\mathrm{U}(2)$、$T_1=\{zI\}$ | $N_G(T_1)/T_1$ が有限であること |
| $G$ が連結 | $G=\mathrm{O}(2)$、$T=\mathrm{SO}(2)$ | どの元も $T$ の元に共役であること |
| $G$ がコンパクト | $G=\mathrm{GL}_2(\mathbb{R})$、$T=\mathrm{SO}(2)$ | どの元も $T$ の元に共役であること |
| 体の元が $3$ 個以上 | $K=\mathbb{F}_2$、$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ | $N(D)/D\cong S_n$ |
1 行目:スカラー行列は中心に属するので $N_G(T_1)=Z_G(T_1)=\mathrm{U}(2)$ であり、$\mathrm{U}(2)/T_1$ は無限集合である($\mathrm{SU}(2)\cap T_1=\{\pm I\}$ なので $\mathrm{SU}(2)$ の無限個の元が異なる剰余類を与える)。$T_1$ は $T$ に真に含まれるので極大でない。thm-weyl-finite の $N/Z$ は $1$ 点で有限だが、$Z_G(T_1)\ne T_1$ である。2 行目:$\mathrm{O}(2)$ のトーラスは $\mathrm{SO}(2)$ に含まれる(連結なので単位元の成分 $\mathrm{SO}(2)$ に入る)。鏡映 $r=\operatorname{diag}(1,-1)$ の共役はすべて行列式 $-1$ なので、$\mathrm{SO}(2)$ の元に共役でない。3 行目:$\mathrm{SO}(2)$ の元の固有値は絶対値 $1$ だが、$\operatorname{diag}(2,1)$ の固有値 $2$ は共役で変わらないので、$\mathrm{SO}(2)$ の元に共役でない。4 行目:$\mathbb{F}_2$ の可逆元は $1$ だけなので $D=\{I\}$ であり、$N(D)/D=\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ は位数 $(4-1)(4-2)=6$ で、$S_2$(位数 $2$)と同型でない。
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