Kleinの壺

同義語:クラインの壺Klein bottle

概要

Kleinの壺(Klein bottle)とは、正方形の上下の辺をそのまま、左右の辺を上下を反転して貼り合わせて得られる閉曲面である。2 つの Möbius の帯を縁の円周どうしで貼り合わせた空間とも、円周の反転による写像トーラスとも、平面を等長変換の群で割った空間とも同相である。基本群は $\langle\alpha,\beta\mid\alpha\beta\alpha^{-1}\beta\rangle$、ホモロジーは $H_1\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$、$H_2=0$ で、Euler 標数はトーラスと同じ $0$ だが向き付け可能でない。射影平面 2 つの連結和と同相で、$\mathbb{R}^4$ には埋め込めるが $\mathbb{R}^3$ には埋め込めない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 商空間(位相), Möbiusの帯, 基本群, 被覆変換群

正方形の上下の辺をそのまま貼ると円柱ができ、さらに左右の辺をそのまま貼るとトーラスになる。左右の辺を上下を反転して貼ると Klein の壺 ができる。Klein の壺はトーラスと同じくコンパクトで連結な曲面で、Euler 標数もトーラスと同じ $0$ だが、向き付け可能でなく、トーラスとは同相でない。違いはホモロジーに位数 $2$ の元として現れる:$H_1(K)\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$、$H_2(K)=0$ である。Klein の壺は、2 つの Möbiusの帯 を縁どうしで貼り合わせた空間とも、円周の反転による写像トーラス(円周の上の自明でない円周束)とも同相である。また $\mathbb{R}^4$ には埋め込めるが $\mathbb{R}^3$ には埋め込めない。

定義

以下 $I=[0,1]$、$S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$ とする。

Klein の壺

正方形 $I^2$ の上で
$$ (s,0)\sim(s,1)\quad(s\in I),\qquad (0,t)\sim(1,1-t)\quad(t\in I) $$
が生成する同値関係による商空間 $K:=I^2/{\sim}$ を Klein の壺(Klein bottle)という。商写像を $q\colon I^2\to K$、$q(s,t)$ を $[s,t]$ と書く。

これは 商空間(位相) の例「正方形の対辺を貼り合わせた空間」や トーラス の例「反例:Klein の壺」と同じ定義である。正方形の 4 隅はすべて 1 点に写る($(0,0)\sim(1,1)\sim(1,0)\sim(0,1)$)。左辺の向きを下から上にとり、これを $b$、底辺を $a$ とすると、境界を反時計回りに読んだ記号列は($b$ の向きを付け替えて)$aba^{-1}b$ である。したがって $K$ は 閉曲面の分類定理 の記号列 $aba^{-1}b$ の貼り合わせ空間であり、同記事の命題「固有な記号列の空間は閉曲面」により 閉曲面(コンパクト・連結・Hausdorff な 2 次元位相多様体)である。

3 つの模型

平面 $\mathbb{R}^2$ の変換
$$ \alpha(x,y):=\bigl(x+\tfrac12,\,-y\bigr),\qquad \beta(x,y):=(x,\,y+1) $$
が生成する群を $\Gamma$ とする。$\Gamma$ の元はすべて $g_{m,n}(x,y)=\bigl(x+\frac m2,\,(-1)^my+n\bigr)$($m,n\in\mathbb{Z}$)の形で、$\Gamma$ は $\mathbb{R}^2$ に被覆空間作用で作用する(被覆変換群 の例「トーラスから Klein の壺への 2 重被覆」)。$\rho(z):=\bar z$ を $S^1$ の反転とする。

Klein の壺の 3 つの模型
  1. 平面の商:$[s,t]\mapsto\Gamma\cdot(s/2,\,t)$ は同相写像 $K\to\mathbb{R}^2/\Gamma$ である。
  2. 反転の写像トーラス:$T_\rho:=(I\times S^1)/\bigl((0,z)\sim(1,\bar z)\bigr)$ とすると、$[s,t]\mapsto[s,e^{2\pi it}]$ は同相写像 $K\to T_\rho$ である。とくに $[s,t]\mapsto e^{2\pi is}$ は $K$ を、円周をファイバーとする円周の上のファイバー束にする。
  3. 2 つの Möbius の帯:$K_1:=q\bigl(I\times[\frac14,\frac34]\bigr)$、$K_2:=q\bigl(I\times([0,\frac14]\cup[\frac34,1])\bigr)$ はどちらも Möbius の帯 $M$ と同相で、$K=K_1\cup K_2$、$K_1\cap K_2$ は両方の縁の円周である。さらに $K$ は、2 つの $M$ を縁 $\partial M$ の恒等写像で貼り合わせた空間 $M\cup_{\partial M}M$ と同相である。

要点:どれも、正方形からの写像が $\sim$ を保ち、同一視される点の組がちょうど $\sim$ の組であることを確かめ、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射は同相写像であること(商写像 の系「コンパクト空間からHausdorff空間への連続全射」)を使う。3 では、$K_1$ は横線 $t=\frac12$ を芯とする帯、$K_2$ は上下の辺($t=0\sim1$)を芯とする帯で、正方形の左右の貼り合わせ $t\mapsto1-t$ が両方の帯を裏返す。

詳しい証明を開く

$K$ は Hausdorff である(上の注意)。

1. $f(s,t):=\Gamma\cdot(s/2,t)$ とおく。$(s,1)=\beta(s,0)$ の組と、$(\frac12,1-t)=\beta\alpha(0,t)$ の組は同じ軌道に写るので、$f$ は連続写像 $\bar f\colon K\to\mathbb{R}^2/\Gamma$ を誘導する。全射:$(x,y)$ に $g_{m,0}$ を当てて $x$ 座標を $[0,\frac12)$ に、さらに $g_{0,n}$ を当てて $y$ 座標を $[0,1)$ に移せる。単射:$p=(x,y)$、$p'=(x',y')$ を $[0,\frac12]\times I$ の点とし、$p'=g_{m,n}(p)$ とする。$|x'-x|\le\frac12$ から $m\in\{0,\pm1\}$ である。$m=0$ なら $y'=y+n$ で、$p=p'$ か、$\{y,y'\}=\{0,1\}$ で $x=x'$ である。$m=\pm1$ なら $\{x,x'\}=\{0,\frac12\}$ で $y+y'=n\in\{0,1,2\}$ であり、$n=1$ なら $y'=1-y$、$n=0,2$ なら $y=y'\in\{0,1\}$ である。どの場合も $(2x,y)\sim(2x',y')$ である(隅は 1 点に写る)。$\mathbb{R}^2/\Gamma$ は Hausdorff である:軌道 $\Gamma p\ne\Gamma p'$ について、$\Gamma p'$ は離散な閉集合なので $d:=\inf_g|p-gp'|>0$ であり、$\Gamma$ は等長変換で作用するので、半径 $d/2$ の開円板 $B(p)$、$B(p')$ の像は交わらない開集合である(商写像 $\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2/\Gamma$ は開写像)。よって $\bar f$ は同相写像である。

2. $I\times I\to I\times S^1$、$(s,t)\mapsto(s,e^{2\pi it})$ はコンパクトから Hausdorff への連続全射なので商写像であり、$q$ は各ファイバー $\{(s,0),(s,1)\}$ の上で一定なので、連続写像 $g\colon I\times S^1\to K$、$g(s,e^{2\pi it})=[s,t]$ が定まる。$g(0,e^{2\pi it})=[0,t]=[1,1-t]=g(1,e^{-2\pi it})$ なので $g$ は $T_\rho$ からの連続写像 $\bar g$ を誘導し、$[s,t]\mapsto[s,e^{2\pi it}]$ がその逆写像である(どちらも $\sim$ と $(0,z)\sim(1,\bar z)$ を対応させる)。$T_\rho$ はコンパクトで $K$ は Hausdorff なので $\bar g$ は同相写像である。$T_\rho\to I/\{0,1\}\cong S^1$ は、$0< s< 1$ の部分では直積 $(0,1)\times S^1$ の射影である。$s=0\sim1$ の近くでは、$s<\frac12$ の点 $[s,z]$ を $(s,z)$ に、$s>\frac12$ の点 $[s,z]$ を $(s-1,\bar z)$ に送る写像が、$(0,z)\sim(1,\bar z)$ の両側で同じ値 $(0,z)$ をとり、$(-\frac12,\frac12)\times S^1$ との同相を与える。よってファイバー $S^1$ の束である。

3. $M=([0,1]\times[-1,1])/\bigl((0,u)\sim(1,-u)\bigr)$(Möbiusの帯 の定義「Möbius の帯」)とし、$h_1,h_2\colon M\to K$ を$$h_1[s,u]:=\bigl[s,\tfrac12+\tfrac u4\bigr],\qquad h_2[s,u]:=\begin{cases}[s,\frac u4]&(u\ge0),\\ [s,1+\frac u4]&(u\le0)\end{cases}$$で定める。$h_2$ は $u=0$ で $[s,0]=[s,1]$ により矛盾なく定まる。$(0,u)\sim(1,-u)$ について、$h_1$ では $[0,\frac12+\frac u4]=[1,\frac12-\frac u4]$、$h_2$ では $u>0$ のとき $[0,\frac u4]=[1,1-\frac u4]$、$u< 0$ のとき $[0,1+\frac u4]=[1,-\frac u4]$ であり、どれも $(0,t)\sim(1,1-t)$ の形なので、$h_1,h_2$ は $M$ から連続に定まる。$I\times[\frac14,\frac34]$ の 2 点が $\sim$ で同一視されるのは $(0,t)\sim(1,1-t)$ の組だけで、$I\times([0,\frac14]\cup[\frac34,1])$ では $(s,0)\sim(s,1)$ と $(0,t)\sim(1,1-t)$ の組だけである。これらはちょうど $M$ の同一視に対応するので、$h_1,h_2$ は単射で、像はそれぞれ $K_1,K_2$ であり、コンパクトから Hausdorff への写像として埋め込みである。$K_1\cap K_2=q(I\times\{\frac14,\frac34\})$ は $h_1(\partial M)=h_2(\partial M)$ であり、縁の上では $h_2^{-1}h_1[s,u]=[s,-u]$ である。$\psi[s,u]:=[s,-u]$ は $M$ の同相写像なので、$M\cup_{\partial M}M$ の 1 つ目の $M$ を $h_1$、2 つ目を $h_2\circ\psi$ で $K$ に送る写像は、縁の上で一致する連続な全単射であり、同相写像である。$\square$

1 の模型は普遍被覆 $\mathbb{R}^2\to K$ を与え、3 の分解は Hat02 Example 2.47(pp. 150–151)が Mayer–Vietoris 完全列で $H_*(K)$ を計算するのに使うもの、2 の写像トーラスは同書 Example 2.48(pp. 151–152)の例である。Möbiusの帯 の注意「Klein の壺」も 3 の分解を述べている。

ホモロジーと基本群

Δ 複体の構造とホモロジー

正方形を、$(0,1)$ と $(1,0)$ を結ぶ対角線で 2 つの三角形に分ける。辺を
$$ a:\ (0,0)\to(1,0)\ \ (\text{底辺。上辺と同一視}),\qquad b:\ (0,0)\to(0,1)\ \ (\text{左辺。右辺 }(1,1)\to(1,0)\text{ と同一視}),\qquad c:\ (0,1)\to(1,0) $$
と向き付け、三角形の頂点を $A=[(0,0),(0,1),(1,0)]$、$B=[(0,1),(1,1),(1,0)]$ の順に並べる。各三角形から $I^2$ への線形写像と $q$ の合成を $A,B$ の特性写像とする。

Klein の壺の Δ 複体構造とホモロジー
  1. 頂点 $v=[0,0]$、辺 $a,b,c$、三角形 $A,B$ は $K$ の Δ複体 の構造であり、境界は
    $$ \partial A=c-a+b,\qquad \partial B=b-c+a,\qquad \partial a=\partial b=\partial c=0 $$
    である。
  2. $K$ の特異ホモロジーは
    $$ H_0(K)\cong\mathbb{Z},\qquad H_1(K)\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2,\qquad H_n(K)=0\ \ (n\ge2) $$
    であり、$H_1(K)$ の $\mathbb{Z}$ の生成元は $[a]$、位数 $2$ の元は $[b]$ である。
  3. $K$ の Euler 標数は $\chi(K)=1-3+2=0$ である。
  1. 開いた三角形、開いた辺(底辺と上辺、左辺と右辺はそれぞれ 1 本に同一視される)、1 点に写る 4 隅で $K$ が分割され、各特性写像はその内部で単射である。三角形の面を確かめる:$A$ の面 $[(0,1),(1,0)]$、$[(0,0),(1,0)]$、$[(0,0),(0,1)]$ はそれぞれ $c,a,b$ である。$B$ の面 $[(1,1),(1,0)]$ は、$(1,1-\lambda)\sim(0,\lambda)$ により $b$ と同じ写像であり、$[(0,1),(1,0)]$ は $c$、$[(0,1),(1,1)]$ は $(\lambda,1)\sim(\lambda,0)$ により $a$ である。よって $\partial A=c-a+b$、$\partial B=b-c+a$ で、頂点は 1 つなので $\partial_1=0$ である。$K$ は Hausdorff なので、位相の条件は Δ複体 の補題「有限個の単体で覆われる Hausdorff 空間」から従う。
  2. $w:=a+b-c$ とおくと $\{a,b,w\}$ は $\Delta_1(K)$ の基底で($c=a+b-w$)、$\partial B=w$、$\partial A=2b-w$ である。よって $\operatorname{Im}\partial_2$ は $w$ と $2b$ で生成され、$H^\Delta_1(K)=\Delta_1/\operatorname{Im}\partial_2\cong\mathbb{Z}a\oplus(\mathbb{Z}/2)b$ である。$\partial(pA+qB)=(q-p)a+(p+q)b+(p-q)c=0$ なら $p=q=0$ なので $H^\Delta_2(K)=0$ であり、$H^\Delta_0(K)\cong\mathbb{Z}$ である。単体的ホモロジー の定理「単体的ホモロジーと特異ホモロジーの一致」により、特異ホモロジーも同じである。
  3. 単体の個数の交代和で、単体的ホモロジー の系「単体的ホモロジーの位相不変性」の 3 による。$\square$

同じ結果は、thm-klein-models の 3 の分解に Mayer–Vietoris 完全列を当てても得られる。2 つの帯の共通部分の円周は、各帯の芯を 2 周するので(Möbiusの帯 の命題「縁の円周」の 2)、$H_1(K_1\cap K_2)\to H_1(K_1)\oplus H_1(K_2)$ は $1\mapsto(2,\pm2)$ であり、その余核が $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$ になる(Hat02 Example 2.47、pp. 150–151)。

基本群

Klein の壺の基本群

$\pi_1(K)\cong\Gamma$ であり、$\Gamma$ は表示
$$ \Gamma\cong\langle\alpha,\beta\mid\alpha\beta\alpha^{-1}\beta\rangle $$
をもつ。$\Gamma$ は可換でなく、アーベル化は $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$ である。

$\mathbb{R}^2$ は単連結で $\Gamma$ は被覆空間作用で作用するので、thm-klein-models の 1 と 被覆変換群 の系「普遍被覆の被覆変換群」により $\pi_1(K)\cong\Gamma$ である。表示を示す。$\alpha^{-1}(x,y)=(x-\frac12,-y)$ なので $\alpha\beta\alpha^{-1}(x,y)=(x,y-1)$、すなわち $\alpha\beta\alpha^{-1}=\beta^{-1}$ である。$G:=\langle a,b\mid aba^{-1}b\rangle$ とすると、$a\mapsto\alpha$、$b\mapsto\beta$ は全射準同型 $\varphi\colon G\to\Gamma$ を定める。$G$ では $ab^{\pm1}=b^{\mp1}a$、$a^{-1}b^{\pm1}=b^{\mp1}a^{-1}$ なので、どの元も $b^na^m$ の形に書ける。$\varphi(b^na^m)=\beta^n\alpha^m=g_{m,n}$ は $(m,n)$ が異なれば異なるので、$\varphi$ は単射である。$\alpha\beta\ne\beta\alpha$($\alpha\beta\alpha^{-1}=\beta^{-1}\ne\beta$)なので可換でない。アーベル化では関係が $2b=0$ になるので $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$ である。$\square$

アーベル化が $H_1(K)$ と一致するのは、Hurewiczの定理 の 1 次の場合($H_1$ は基本群のアーベル化)の例である。$m$ が偶数の $g_{m,n}$ からなる指数 $2$ の部分群 $\Gamma_0\cong\mathbb{Z}^2$ は平行移動の群で、$\mathbb{R}^2/\Gamma_0$ はトーラスであり、$\mathbb{R}^2/\Gamma_0\to\mathbb{R}^2/\Gamma=K$ はトーラスから Klein の壺への 2 重被覆である(被覆変換群 の例「トーラスから Klein の壺への 2 重被覆」)。

曲面としての性質

向き付け不可能性と連結和
  1. $K$ は向き付け可能でない閉曲面である。
  2. $K$ はトーラスと同相でない。
  3. $K$ は、実射影平面 $\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ から開円板を除いたもの 2 つを、縁の円周で貼り合わせた空間と同相である。すなわち $K\cong\mathbb{R}\mathrm{P}^2\#\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ である。
  1. thm-klein-models の 3 により、$K$ は開いた Möbius の帯 $h_1(M^\circ)$ を開集合として含む。$M^\circ$ は滑らかな多様体として向き付け可能でなく(Möbiusの帯 の注意「Möbius の帯は向き付け可能でない」)、向き付け可能多様体 の命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」により位相多様体としても向き付け可能でない。位相多様体の向きは開集合へ制限でき(開集合 $U\ni x$ について切除により $H_2(U,U\setminus\{x\})\cong H_2(K,K\setminus\{x\})$ であり、局所整合性の開球は $U$ の中に小さくとり直せる)、同相写像で移せるので、$K$ が向き付け可能なら $h_1(M^\circ)$ も $M^\circ$ も向き付け可能になる。よって $K$ は向き付け可能でない。2. $H_1(T^2)\cong\mathbb{Z}^2$ は位数 $2$ の元をもたないが、$H_1(K)$ はもつ(prop-klein-homology)。3. Möbiusの帯 の命題「射影平面は Möbius の帯に円板を貼ったもの」により、$\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ から、同命題の閉円板(北の極冠の像)の内部を除いた部分は $M$ と同相で、その縁は円板の境界である。よって thm-klein-models の 3 の $M\cup_{\partial M}M$ は、この形の 2 つの空間を縁で貼り合わせたものである。$\square$

閉曲面の分類定理 では、記号列 $aba^{-1}b$ は射影型で $aabb$ に同値であり、Klein の壺は $P_2$(射影平面 2 つの連結和)にあたる(同記事の例「記号列から曲面を読む」)。トーラスと Klein の壺は Euler 標数がともに $0$ の閉曲面で、向き付け可能性によって区別される。

埋め込み

$\mathbb{R}^4$ への埋め込み

$\theta=2\pi t$、$\phi=2\pi s$ として
$$ F[s,t]:=\Bigl((2+\cos\theta)\cos\phi,\ (2+\cos\theta)\sin\phi,\ \sin\theta\cos\tfrac\phi2,\ \sin\theta\sin\tfrac\phi2\Bigr) $$
は、$K$ から $\mathbb{R}^4$ への埋め込み(像の上への同相写像)である。

$t\mapsto1-t$ で $\cos\theta$ は変わらず $\sin\theta$ は符号が変わり、$s=0$ と $s=1$ では $(\cos\frac\phi2,\sin\frac\phi2)$ が $(1,0)$ と $(-1,0)$ なので、$F(0,t)=F(1,1-t)=(2+\cos\theta,0,\sin\theta,0)$ である。$t=0,1$ でも値は等しい。よって $F$ は $K$ 上の連続写像である。単射性:$F(s,t)=F(s',t')$ とする。第 1・2 成分の長さ $2+\cos\theta>0$ と偏角から $\cos\theta=\cos\theta'$、$\phi\equiv\phi'\pmod{2\pi}$ で、$s=s'$ または $\{s,s'\}=\{0,1\}$ である。$s=s'$ なら第 3・4 成分から $\sin\theta=\sin\theta'$ で、$t=t'$ か $\{t,t'\}=\{0,1\}$ である。$s=0$、$s'=1$ なら第 3 成分から $\sin\theta=-\sin\theta'$ で、$\theta'\equiv-\theta$、すなわち $t'=1-t$(または $t,t'\in\{0,1\}$)である。どの場合も $[s,t]=[s',t']$ である。$K$ はコンパクトなので $F$ は埋め込みである。$\square$

一方、$K$ は $\mathbb{R}^3$ には埋め込めない。$\mathbb{R}^n$ のコンパクトで局所可縮な部分空間の $H_{n-2}$ には捩れがない(Hat02 Corollary 3.46、p. 256。Alexander 双対定理による。この記事では証明しない)が、$H_1(K)$ は位数 $2$ の元をもつからである。$\mathbb{R}^3$ で描かれる壺の絵は、自己交差を許した像である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
向き付け可能であること(向き付け可能な閉曲面は Euler 標数で決まる)Klein の壺とトーラスEuler 標数が等しい閉曲面が同相であること
向き付け可能であること(連結な閉 $n$ 多様体では $H_n\cong\mathbb{Z}$)Klein の壺$H_2(K)\cong\mathbb{Z}$(実際は $0$)
写像トーラスの貼り合わせ写像が恒等写像であること(このとき $S^1\times S^1$)反転 $\rho$ の写像トーラス $T_\rho\cong K$全空間が直積 $S^1\times S^1$ と同相であること
$\mathbb{R}^3$ の中にあること($\mathbb{R}^n$ で $n=3$)prop-klein-r4 の $F(K)\subset\mathbb{R}^4$$H_1$ に捩れがないこと($\mathbb{R}^4$ の中で捩れがないと保証されるのは $H_2$・$H_3$)
各行の確認を開く

1 行目:$\chi(K)=\chi(T^2)=0$ で、cor-klein-surface の 2 により同相でない。向き付け可能な閉曲面が Euler 標数で決まることは 閉曲面の分類定理 の定理「Euler 標数と型による判定」による。

2 行目:連結な閉 $n$ 多様体の $H_n(M;\mathbb{Z})$ は向き付け可能なら $\mathbb{Z}$、そうでなければ $0$ である(Hat02 Theorem 3.26、p. 236。向き付け可能多様体 の定理「最高次のホモロジーと向き」)。$K$ は cor-klein-surface の 1 により向き付け可能でなく、prop-klein-homology により $H_2(K)=0$ である。

3 行目:$T_{\mathrm{id}}=(I\times S^1)/((0,z)\sim(1,z))$ は $S^1\times S^1$ である。$T_\rho$ は thm-klein-models の 2 により $K$ と同相で、cor-klein-surface の 2 によりトーラスと同相でない。

4 行目:Hat02 Corollary 3.46 の結論は $\mathbb{R}^n$ の中の空間の $H_{n-1}$・$H_{n-2}$ についてで、$n=4$ では $H_1$ は対象外である。$F(K)$ は $K$ と同相なので $H_1(F(K))\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$ は捩れをもつ。

補足

  • 呼び名:日本語では「クラインの壺」「クラインのつぼ」とも書く。F. Klein にちなむ。
  • 束として:thm-klein-models の 2 の束では、底空間の円周を一周するとファイバーの円周の向きが反転する。Hat02 p. 442 は、これを向き付け不可能な球面束(ファイバーが $S^1$)の例として挙げている。
  • 関係する記事:Möbius の帯の側から見た分解は Möbiusの帯 の注意「Klein の壺」、トーラスとの 2 重被覆は 被覆変換群 の例「トーラスから Klein の壺への 2 重被覆」、Euler 標数による区別の限界は Euler標数 の例「反例:トーラスと Klein の壺」にある。

関連項目

参考文献

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