擬リーマン多様体において、近傍 $C$ の任意の2点を結ぶ $C$ に含まれる測地線がただ一つ存在するとき $U$ を測地的凸近傍と呼んだ。測地的凸近傍の因果的性質に関する類似がcausally convex近傍(因果的凸近傍)である。
時空 $(M,g)$ において、近傍 $U,V,\ V\subset U$ に対して、$V$ の2点を結ぶ $U$ に含まれるcausal曲線が $V$ に含まれるとき、$V$ は $U$ の中で因果的凸であるという。
特に、$U=M$ のとき、$V$ は因果的凸近傍であるという。
次の定理は適当に小さな近傍の中で因果的凸となる近傍が存在することを主張する。
時空 $(M,g)$ の任意の点 $p$ に対して、適当な近傍 $U\ni p$ があり、$p\in V\subset U$ となる近傍 $V$ で $U$ の中で因果的凸となるものが存在する。
$p$ の正規近傍 $(U,\{x^0,x^1,\cdots,x^n\})$ を取る。
今、$g_p=-(dx^0)_p^2+\sum_(dx^i)_p^2$ である。
$U$ 上で平坦な計量 $g^+:=-4(dx^0)_p^2+\sum_(dx^i)_p^2$ を定義すると、$T_pM$ の $g_p$ に関してcausalなベクトルは $g^+_p$ に関してtimelikeである。
$g,g^+$ の連続性より必要なら $U$ を小さく取り直すことで、$U$ 上で $g$ に関するcausalベクトルが $g^+$ に関するtimelikeベクトルになるようにできる。
十分小さい $\epsilon>0$ に対して、$p^+:=(\epsilon,0,\cdots,0),\ p^-:=(-\epsilon,0,\cdots,0)$ とするとき、$V:=I_{g^+}^-(p^+)\cap I_{g^+}^+(p^-)\subset U$ となる。
ここで $I^\pm_{g^+}$ は $g^+$ に関するchronological future, pastである。
$g^+$ は平坦であるから $V$ は $U'$ の中で $g^+$ に関して因果的凸である(Minkowski時空の因果的性質)。
$U$ 上で $g$ に関するcausal曲線は $g^+$ に関するtimelike曲線であるから、$V$ は $U$ の中で $g$ に関して因果的凸である。
次の系は任意の時空の任意の点の近傍で成り立ち、因果構造を論じるのにしばしば有用である。
時空 $(M,g)$ の任意の点 $p$ に対して、適当な近傍 $U\ni p$ があり、$p\in V_n\subset U$ となる近傍の族 $\{V_n\}$ で $\bigcap_nV_n=\{p\}$ かつ $U$ の中で因果的凸となるものが存在する。
上の証明で、$p^+_n:=(\epsilon/n,0,\cdots,0),\ p^n_-:=(-\epsilon/n,0,\cdots,0)$ とするとき、$V_n:=I_{g^+}^-(p^+_n)\cap I_{g^+}^+(p^-_n)\subset U$ と定義すればよい。