globally hyperbolic時空が因果階層の中で一番狭いクラスである。
この時空の性質は物理的に見て極めて自然な要請である。
また数学的にはリーマン多様体におけるコンパクト多様体に類似の地位を占めておりしばしば扱いやすい時空である。
ここではglobally hyperbolic時空の定義やいくつかの有名な事実をまとめる。
globally hyperbolic時空
時空 がglobally hyperbolic(大域双曲的)であるとは、(i) causalであり、(ii) 任意の に対して、 がコンパクトとなることである。
globally hyperbolic時空はcausally simple時空である。
任意の に対して、 が閉であることを示せばよい。
に対して、点列 で かつ となるものを取ることが出来る。
に対して、 は の近傍であるから としてよい。
よって であるからglobally hyperbolicの仮定より である。
従って、 である。
上の証明から分かるように、定義の条件(ii)が成り立てば は閉である。
条件(i)を単にcausalとした場合でもcausally simple時空となりstrongly causal時空であることが分かる。
従って条件(i)はcausalでもstrongly causalでもどちらでもよいし、strongly causalという条件は少し冗長であるからcausalとした方が経済的である。
しかし、条件(i)としてstrongly causalが採用されることが多い。
時空のあるachronalな位相的超曲面 上で場の初期条件を定めた時、それが時間発展して より未来の時空領域の任意の点における場の値が一意的に定まるという状況は物理的にはごく自然なことである。
globally hyperbolic時空はこのような性質を持つ時空としても特徴づけることができる。
domain of dependence
を時空として、 をachronal部分集合とする。
のfuture domanin of dependence(未来依存領域) とは、 の点 で を通る全ての延長不可能な過去向き時間的曲線が と交わるという性質を満たすものの集合である。
past domanin of dependence も過去と未来を入れ替えて同様に定義する。
を のdomain of dependenceという。
future domain of dependenceは の情報のみから古典論的に完全に予測し得る時空の領域である。
Cauchy horizon
achronal set に対して、 のfuture Cauchy horizon(未来Cauchy地平面) は と定義される。
past Cauchy horizon も同様である。
を のCauchy horizonと呼ぶ。
achronal set が閉集合のときは、 である。
以下に定義するCauchy超曲面はこの集合(位相的超曲面となる)の情報のみから古典論的に時空全体を完全に予測することのできるものである。
Cauchy超曲面
時空 の''Cauchy超曲面''とは次の同値な条件を満たす の部分集合 のことである。
(i) の任意の延長不可能な時間的曲線は唯一点において と交わる。
(ii) はachronalで .
(iii) はachronalで .
Cauchy超曲面 は次の性質を持つことが知られている。
は閉集合であり、位相的超曲面である。
である。
が空間的な場合は任意の延長不可能な因果的曲線と唯一点で交わる(このとき は少なくとも 級である)。
コンパクト集合 に対して、 はコンパクトである。
関数 が ある に対して、 を満たすとき はCauchyであるという。
次の定理はGerochにより示された顕著な結果である。
globally hyperbolic時空のCauchy超曲面による特徴づけ
時空 がglobally hyperbolicであることとCauchy超曲面 を持つことは同値である。
さらにこのとき、Cauchy time functionが存在し、また任意のCauchy超曲面は と同相であり、 は と同相である。