多重ポリログ

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$\newcommand{\bp}{\boldsymbol{p}}$ $\newcommand{\be}{\boldsymbol{e}}$ $\newcommand{\bf}{\boldsymbol{f}}$ $\newcommand{\sh}{\mathbin{\text{ш}}}$ $\newcommand{\fH}{\mathfrak{H}}$ $\newcommand{\cA}{\mathcal{A}}$ $\newcommand{\cS}{\mathcal{S}}$ $\newcommand{\bbZ}{\mathbb{Z}}$ $\newcommand{\bbQ}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\bbD}{\mathbb{D}}$ $\newcommand{\bbC}{\mathbb{C}}$ $\newcommand{\hcA}{\widehat{\cA}}$ $\newcommand{\hcS}{\widehat{\cS}}$ $\newcommand{\emp}{\varnothing}$ $\newcommand{\bc}{\boldsymbol{c}}$ $\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}}$ $\newcommand{\bl}{\boldsymbol{l}}$ $\newcommand{\bh}{\boldsymbol{h}}$ $\newcommand{\bz}{\boldsymbol{z}}$ $\newcommand{\ep}{\varepsilon}$ $\newcommand{\bep}{\boldsymbol{\ep}}$ $\newcommand{\dep}{\mathrm{dep}}$ $\newcommand{\dch}{\mathrm{dch}}$ $\newcommand{\wt}{\mathrm{wt}}$ $\newcommand{\Li}{\mathrm{Li}}$ $\newcommand{\li}{\mathrm{li}}$ $\newcommand{\vv}[2]{\begin{array}{c}#1\\ #2\end{array}}$

多重ポリログ (multiple polylogarithm) とは、Riemannゼータ関数を多重ゼータ値に一般化したのと同様に、ポリログ関数を一般化した関数である。文脈によってさまざまな定義が用いられる。

定義

$\bbD=\{z\in\bbC\mid |z|<1\},~\overline{\bbD}=\{z\in\bbC\mid |z|\le 1\}$ と書く。

定義 1 (多重ポリログ)
  • インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ と複素数 $z_{1},\ldots,z_{r}$ であって各 $1\le i\le r$ で $z_{i}z_{i+1}\cdots z_{r}\in\overline{\bbD}$ かつ $(k_{r},z_{r})\neq (1,1)$ を満たすものに対し

\[\Li_{\bk}^{\ast}(z_{1},\ldots,z_{r})=\sum_{0<n_{1}<\cdots<n_{r}}\frac{z_{1}^{n_{1}}\cdots z_{r}^{n_{r}}}{n_{1}^{k_{1}}\cdots n_{r}^{k_{r}}}\] とおき、調和型多重ポリログ (multiple polylogarithm of harmonic type) と呼ぶ。また、インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ と $z_{1},\ldots,z_{r}\in\bbD$ (ただし $(k_{r},z_{r})\neq (1,1)$) に対し \[\Li_{\bk}^{\sh}(z_{1},\ldots,z_{r})=\sum_{0<n_{1}<\cdots<n_{r}}\frac{z_{1}^{n_{1}}z_{2}^{n_{2}-n_{1}}\cdots z_{r}^{n_{r}-n_{r-1}}}{n_{1}^{k_{1}}\cdots n_{r}^{k_{r}}}\] とおき、シャッフル型多重ポリログ (multiple polylogarithm of shuffle type) と呼ぶ。

  • インデックス $\bk$ と $z\in\overline{\bbD}$ に対し、$\Li_{\bk}(z)=\Li^{\ast}_{\bk}(1,\ldots,1,z)=\Li^{\sh}_{\bk}(z,\ldots,z)$ とおく。これのことも「多重ポリログ」と呼ぶことが多く、区別のために一般の場合は 多変数多重ポリログ (multivariable multiple polylogarithm) とすることもある。とくに、これの深さ $1$ の場合 $\Li_{k}(z)=\sum_{n=1}^{\infty}z^{n}n^{-k}$ を単に ポリログ (polylogarithms) と呼ぶことが多い (polylogarithmの訳語として多重対数を用いるのが一般的だが、これだと $\Li_{\bk}$ が「多重多重対数」となってしまうため、この分野では単にポリログとすることが多い)。

定義からすぐにわかるように、調和型とシャッフル型の間には \[\Li_{\bk}^{\sh}(z_{1}\cdots z_{r},z_{2}\cdots z_{r},\ldots,z_{r-1}z_{r},z_{r})=\Li_{\bk}^{\ast}(z_{1},\ldots,z_{r})\] という簡明な関係がある (もちろん双方の収束域が問題になるが、$\bk$ を固定したときに $\bbD^{\dep(\bk)}$ においては $\Li^{\ast}_{\bk}$ も $\Li_{\bk}^{\sh}$ も絶対収束する)。これらの名称の違いはそれぞれに調和関係式とシャッフル関係式が成り立つことによる (次節参照)。

複シャッフル関係式

$\bbC$ の部分集合 $S$ であって $0$ と $0$ でない元を必ず含むものに対し非可換多項式環 $\fH_{S}=\bbQ\langle e_{z}\mid z\in S\rangle$ を考え、その部分代数 \[\fH^{0}_{S}=\bbQ\oplus\bigoplus_{\substack{z,z'\in S\\ z\neq 0\\ z'\neq 1}}e_{z}\fH_{S}e_{z'}\subseteq \fH^{1}_{S}=\bbQ\oplus\bigoplus_{z\in S\setminus\{0\}}e_{z}\fH_{S}\] を定めておく。$\fH^{1}_{S}$ 上の (($S$ が積閉でないと $\fH^{1}_{S}$ に閉じない。)) 調和積を $w,w'\in\fH^{1}_{S}$ と $z,z'\in S$ および $k,l\in\bbZ_{\ge 1}$ に対し \begin{gather} 1\ast w=w\ast 1=w,\\ we_{z}e_{0}^{k-1}\sh w'e_{z'}e_{0}^{l-1}=(w\sh w'e_{z'}e_{0}^{l-1})e_{z}e_{0}^{k-1}+(we_{z}e_{0}^{k-1}\sh w')e_{z'}e_{0}^{l-1}+(w\sh w')e_{zz'}e_{0}^{k+l-1} \end{gather} を $\bbQ$ 双線型に延長して定め、また $\fH_{S}$ 上のシャッフル積を $w,w'\in\fH_{S}$ と $z,z'\in S$ に対し \begin{gather} 1\sh w=w\sh 1=w,\\ we_{z}\sh w'e_{z'}=(w\sh w'e_{z'})e_{z}+(we_{z}\sh w')e_{z'} \end{gather} を $\bbQ$ 双線型に延長して定める (これらはともにHoffman代数における同名の概念の一般化である: $S=\{0,1\}$ とすれば一致する)。また、$\bullet\in\{\ast,\sh\}$ に対し $\bbQ$ 線型写像 $L\colon\fH_{S}^{0}\to\bbC$ を \[L^{\bullet}(e_{z_{1}}e_{0}^{k_{1}-1}\cdots e_{z_{r}}e_{0}^{k_{r}-1})=\Li_{k_{1},\ldots,k_{r}}^{\bullet}(z_{1},\ldots,z_{r})\qquad (z_{1},\ldots,z_{r}\in S,\,k_{1},\ldots,k_{r}\in\bbZ_{\ge 1})\] で定めておく。

定理 2 (多重ポリログの複シャッフル関係式)

$L^{\ast}$ は調和積 $\ast$ が入った $\bbQ$ 代数 $\fH_{\overline{\bbD}}^{0}$ から $\bbC$ への準同型であり、$L^{\sh}$ はシャッフル積 $\sh$ が入った $\bbQ$ 代数 $\fH_{\overline{\bbD}}^{0}$ から $\bbC$ への準同型である。とくに、$z\in\bbD$ に対し $\bk\mapsto\Li_{\bk}(z)$ を $\bbQ$ 線型に拡張すると $\Li_{\bk\sh\bl}(z)=\Li_{\bk}(z)\Li_{\bl}(z)$ が成り立つ (インデックス同士のシャッフル積は多重ゼータ値#複シャッフル関係式を参照)。

調和積は級数による定義から多重ゼータ値の場合と同様にできて、シャッフル積は次の表示から従う:

定理 3 (シャッフル型多重ポリログの反復積分表示)

インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ と複素数 $z,z_{1},\ldots,z_{r}$ であって各 $1\le j\le r$ ごとに $0<|z_{j}|\le |z|\le 1$ であるものに対し、$t\mapsto tz$ で定まる path を $\dch_{0,z}$ と書くと \[\Li_{\bk}^{\sh}(z_{1},\ldots,z_{r-1},z_{r}z)=(-1)^{r}I_{\dch_{0,z}}(0;e_{z/z_{1}}e_{0}^{k_{1}-1}\cdots e_{z/z_{r}}e_{0}^{k_{r}-1};z)\] が成り立つ。


よく知られた関係式族

複シャッフル関係式以外に、多重ポリログの有名な関係式族を以下にいくつか挙げる。変数はすべて現れる多重ポリログが収束するものとし、範囲は省略している。

定理 4 ($5$ 項関係式; Spence, Abel, etc.)

\begin{align} &\Li_{2}(x)+\Li_{2}(y)+\Li_{2}(1-xy)+\Li_{2}\left(\frac{1-x}{1-xy}\right)+\Li_{2}\left(\frac{1-y}{1-xy}\right)\\ &=\zeta(2)-\log(x)\log(1-x)-\log(y)\log(1-y)+\log\left(\frac{1-x}{1-xy}\right)\log\left(\frac{1-y}{1-xy}\right) \end{align} が成り立つ。


以後、$3$ 変数関数 $f(x,y,z)$ に対し \[\bigoplus_{\mathrm{Cyc}(x,y,z)}f(x,y,z)=f(x,y,z)+f(y,z,x)+f(z,x,y)\] とおく。

定理 5 ($6$ 項関係式; Kummer-Newman)

$1/x+1/y+1/z=1$ のとき \[\Li_{2}(x)+\Li_{2}(y)+\Li_{2}(z)=\bigoplus_{\mathrm{Cyc}(x,y,z)}\left(\Li_{2}\left(-\frac{xy}{z}\right)\right)\] が成り立つ。


定理 6 ($22$ 項関係式; Goncharov)

整数 $k\ge 2$ に対し \[\mathcal{L}_{k}(z)=\mathrm{Re}\left(\left(1+(i-1)\frac{1+(-1)^{k}}{2}\right)\sum_{j=0}^{k}\frac{2^{j}B_{j}}{j!}(\log |z|)^{j}\Li_{k-j}(z)\right)\] とおくと \begin{align} \mathcal{L}_{3}(-xyz)+\bigoplus_{\mathrm{Cyc}(x,y,z)}\left(\mathcal{L}_{3}(z)+\sum_{a\in\{-x,1/y,1/yz\}}\mathcal{L}_{3}\left(a\frac{yz-z+1}{zx-x+1}\right)+\sum_{a\in\{1,z,zx\}}\mathcal{L}_{3}\left(\frac{zx-x+1}{a}\right)\right)=3\mathcal{L}_{3}(1) \end{align} が成り立つ。ここで $B_{j}$ は \[\frac{x}{1-e^{-x}}=\sum_{j=0}^{\infty}\frac{B_{j}}{j!}x^{j}\] で定まる $j$ 番目のBernoulli数である。


定理 7 (Yamamoto)

正整数 $r,k$ (ただし $r<k$) に対し \[\sum_{\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})\in I_{0}(k,r)}\sum_{0<n_{1}<\cdots<n_{r}}\frac{1-(1-z^{n_{1}})\cdots (1-z^{n_{j+1}})}{n_{1}^{k_{1}}\cdots n_{r}^{k_{r}}}=\Li_{k}(z)\] が成り立つ。ここで $j$ は $\bk$ の最初に並ぶ $1$ の個数である。

補題 8

インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ と複素数 $0<|z|<1$ に対し \[\Li^{\star}_{\bk}(z)=\sum_{0<n_{1}\le\cdots\le n_{r}}\frac{z^{n_{r}}}{n_{1}^{k_{1}}\cdots n_{r}^{k_{r}}}\] と書くと、空でないインデックス $\bk$ に対し \[\frac{d}{dz}\Li^{\star}_{\bk_{\to}}(z)=\frac{1}{z(1-z)}\Li^{\star}_{\bk}(z),\qquad\frac{d}{dz}\Li^{\star}_{\bk_{\uparrow}}(z)=\frac{1}{z}\Li^{\star}_{\bk}(z)\] が成り立つ。ここで $\to$ や $\uparrow$ は矢印記法である。

証明

環準同型 $F\colon\fH^{1}\to\fH^{1}_{0,1}$ を $x\mapsto e_{0}$ と $y\mapsto -e_{1}$ で定めておくと、反復積分表示よりインデックス $\bk$ に対し \[\Li_{\bk}(z)=I_{\dch_{0,z}}(F(z_{\bk})),\qquad\Li^{\star}_{\bk}(z)=I_{\dch_{0,z}}(F(S^{1}(z_{\bk})))\] が成り立つことに注意する。これを用いてまず一本目の等式を示す。$S^{1}(z_{\bk_{\to}})=S^{1}(z_{\bk}y)=S^{1}(z_{\bk})(x+y)$ であるから \[\Li^{\star}_{\bk_{\to}}(z)=I_{\dch_{0,z}}(F(S^{1}(z_{\bk})(x+y)))=I_{\dch_{0,z}}(F(S^{1}(z_{\bk}))(e_{0}-e_{1}))\] であるが、反復積分表示の定義より \[\Li^{\star}_{\bk}(z)=\int_{0<t<z}I_{\dch_{0,t}}(F(S^{1}(z_{\bk})))\left(\frac{1}{t}-\frac{1}{t-1}\right)\,dt\] となるから、両辺を微分することで目的の等式を得る。二本目も同様にして \[\Li^{\star}_{\bk_{\uparrow}}(z)=I_{\dch_{0,z}}(F(S^{1}(z_{\bk}))e_{0})=\int_{0<t<z}I_{\dch_{0,t}}(F(S^{1}(z_{\bk})))\frac{1}{t}\,dt\] となることからわかる。

定理 9 (Landen接続公式; Okuda-Ueno)

インデックス $\bk$ と $\mathrm{Re}(z)<1/2$ および $|z|<1$ を満たす複素数 $z$ に対し \[\Li_{\bk}(z)=(-1)^{\mathrm{dep}(\bk)}\sum_{\bk\preceq\bl}\Li_{\bl}\left(\frac{z}{z-1}\right)\] が成り立つ。

証明 (Imatomi)

複素数 $|z|<1$ を固定したとき、対応 $z_{\bk}\mapsto\Li_{\bk}(z)$ から定まる $\bbQ$ 線型写像 $\fH^{1}\to\bbC$ を $L_{z}$ と書く (ここだけの記号。前補題の証明から $L_{z}=I_{\dch_{0,z}}\circ F$ でもある)。定理の右辺はこの命題で導入した自己同型 $\phi$ を用いて $L_{z/(z-1)}(\phi(z_{\bk}))$ と書けるため、示すべき事実は任意の $w\in\fH^{1}$ に対し $L_{z}(w)=L_{z/(z-1)}(\phi(w))$ が成り立つこと、となる。一方、$S^{1}$ が $\fH^{1}$ 上で可逆であるため、$\{S^{1}(z_{\bk})\mid\bk\text{ はインデックス}\}$ が $\fH^{1}$ を生成することもわかる。したがって、任意のインデックス $\bk$ に対し $L_{z}(S^{1}(z_{\bk}))=L_{z/(z-1)}(\phi(S^{1}(z_{\bk})))$ を示せば十分である。さて$\phi(S^{1}(z_{\bk}))=-S^{1}(z_{\bk^{\vee}})$であるから、補題 8で導入した $\Li^{\star}_{\bk}(z)=L_{z}(S^{1}(z_{\bk}))$ を使えば、示すべき等式はさらに \[\Li^{\star}_{\bk}(z)=-\Li^{\star}_{\bk^{\vee}}\left(\frac{z}{z-1}\right)\] と書き直せる。これを $\bk$ の重さの帰納法で示す。$\bk=(1)$ のときは左辺が $\Li^{\star}_{1}(z)=-\log(1-z)$ に等しく、右辺は $-\Li^{\star}_{1}(z/(z-1))=\log(1-z/(z-1))$ となるから問題ない。次に適当な重さ $k$ でこの等式が成り立っていると仮定する。重さ $k+1$ のインデックス $\bk$ をとり、まず $\bk$ の最後の成分が $1$ であると仮定する。このとき重さ $k$ のインデックス $\bl$ を用いて $\bk=\bl_{\to}$ と書ける ($\to$ は矢印記法) が、Hoffman双対インデックスの定義を思い出すと $\bk^{\vee}=(\bl^{\vee})_{\uparrow}$ となる。一方で $\bk$ が $1$ で終わらなかったパターンを考えると、重さ $k$ のインデックス $\bl$ を用いて $\bk=\bl_{\uparrow}$ と書けるが、同じ議論によって $\bk^{\vee}=(\bl^{\vee})_{\to}$ となるから、結局前者のケース ($\bk=\bl_{\to}$) のみ示せば十分である。したがってここからは \[\Li^{\star}_{\bl_{\to}}(z)+\Li^{\star}_{(\bl^{\vee})_{\uparrow}}\left(\frac{z}{z-1}\right)=0\] を示すことが目標となるが、左辺を微分すると補題 8より \begin{align} \frac{d}{dz}\left(\Li^{\star}_{\bl_{\to}}(z)+\Li^{\star}_{(\bl^{\vee})_{\uparrow}}\left(\frac{z}{z-1}\right)\right) &=\frac{1}{z(1-z)}\Li^{\star}_{\bl}(z)+\left(\frac{d}{dz}\frac{z}{z-1}\right)\frac{z-1}{z}\Li^{\star}_{\bl^{\vee}}\left(\frac{z}{z-1}\right)\\ &=\frac{1}{z(1-z)}\left(\Li^{\star}_{\bl}(z)+\Li^{\star}_{\bl^{\vee}}\left(\frac{z}{z-1}\right)\right) \end{align} となり、これは帰納法の仮定により $0$ である。

多重ポリログにはOhno関係式の拡張が存在する。それを述べるために変数のついたインデックスの双対を定義する。

定義 10 (dual condition)

インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ と $\boldsymbol{z}=(z_{1},\ldots,z_{r})\in\overline{\bbD}^{\dep(\bk)}$ の組に対する条件

  • 各 $1\le i\le r$ に対し $\Re(z_{i})\le 1/2$ か $z_{i}=1$ のいずれかが成り立つ
  • $\mathrm{Re}(z_{1})\neq 1/2$
  • $\bk$ が許容的でなければ $|z_{r}|\neq 1$

dual condition と呼ぶ。dual conditionを満たす組 $(\bz;\bk)$ に対し、非負整数 $d$ と正整数 $a_{1},\ldots,a_{d},b_{1},\ldots,b_{d}$ およびインデックス $\bk_{1},\ldots,\bk_{d}$ (これらの深さを $r_{1},\ldots,r_{d}$ と書く) および $1$ でない複素数 $w_{1},\ldots,w_{d}$ が一意に存在して \[\left(\vv{\bz}{\bk}\right) =\left(\vv{\{1\}^{r_{1}},}{\bl_{1},}\vv{ \{1\}^{a_{1}-1},}{ \{1\}^{a_{1}-1}, }\vv{ w_{1}}{ b_{1} }\vv{ ,\ldots ,}{ ,\ldots , }\vv{ \{1\}^{r_{d}}, }{ \bl_{d}, }\vv{ \{1\}^{a_{d}-1},}{ \{1\}^{a_{d}-1}, }\vv{ w_{d},}{ b_{d}, }\vv{ \{1\}^{r_{d+1}}}{ \bl_{d+1} }\right)\] と書ける。これを用いて、非負整数 $c_{1},\ldots,c_{d}$ に対し \begin{align} \left( \vv{ \bz}{ \bk }\right)^{\dagger}_{c_{1},\ldots,c_{d}}&=\left( \vv{ \{1\}^{s_{d+1}},}{ (\bl_{d+1})^{\dagger}, }\vv{ \{1\}^{b_{d}-1},}{ \{1\}^{b_{d}-1}, }\vv{ \{w_{d}/(w_{d}-1)\}^{c_{d}+1}}{ \{1\}^{c_{d}},a_{d} }\vv{ ,\ldots ,}{ ,\ldots , }\vv{ \{1\}^{b_{1}-1},}{ \{1\}^{b_{1}-1}, }\vv{ \{w_{1}/(w_{1}-1)\}^{c_{1}+1},}{ \{1\}^{c_{1}},a_{1}, }\vv{ \{1\}^{s_{1}}}{ (\bl_{1})^{\dagger} }\right) \end{align} と定める (ここで $1\le j\le s$ に対し $s_{j}=\wt(\bl_{j})-\dep(\bl_{j})$ とおいた。$(\bl_{j})^{\dagger}$ は通常の意味での双対インデックスである)。$c_{1}=\cdots=c_{d}=0$ の場合は添字を省略する。

特別な場合として、$\bk$ が許容インデックスの場合には $(\{1\}^{\dep(\bk)};\bk)^{\dagger}=(\{1\}^{\dep(\bk^{\dagger})};\bk^{\dagger})$ となる。


定理 11 (Kawamura-Maesaka-Seki)

dual conditionを満たす組 $(\bz;\bk)$ と非負整数 $h$ に対し \[O_{h}\left(\vv{\bz}{\bk}\right)=\sum_{\substack{\be\in\bbZ_{\ge 0}^{\dep(\bk)}\\\wt(\be)=h}}\Li_{\bk\oplus\be}^{\sh}(\bz)\] と書くと \[O_{h}\left(\vv{\bz}{\bk}\right)=\sum_{i=0}^{h}\sum_{\substack{\bc\in\bbZ_{\ge 0}^{\dep(\bk)}\\\wt(\bc)=i}}O_{h-i}\left(\left(\vv{\bz}{\bk}\right)^{\dagger}_{\bc}\right)\] が成り立つ。

定理 12 (Borwein-Bradley-Broadhurst-Lisonek)

dual conditionを満たす組 $(\bz;\bk)$ に対し $(\bz';\bk')=(\bz;\bk)^{\dagger}$ と書くと \[\Li^{\sh}_{\bk}(\bz)=(-1)^{d}\Li^{\sh}_{\bk'}(\bz')\] が成り立つ ($d$ は定義 10で現れた量である)。


脚注