前提知識:イデアルと座標環、Zariski位相、Hilbert零点定理
affine代数的集合 $X$ と $f\in k[X]$ に対し
$$
D_X(f)=\{p\in X\mid f(p)\ne0\}
$$
でした。この集合では $1/f$ は全点で定義できるため、
$$
\frac{a}{f^n}\qquad(a\in k[X],\ n\ge0)
$$
を関数として許すのが自然です。
代数側で「$f$ を可逆にする」操作がlocalizationです。本章では環論03の局所化を使用形まで再構成し、
$$
\Gamma(D_X(f),\mathcal O_X)\cong k[X]_f
$$
を証明します。局所化の一般論、加群の局所化、完全性、flat性は03「環と加群」を証明正本とし、本章は主開集合、正則関数、affine実現、貼り合わせを担当します。
可換環 $A$ の部分集合 $S$ が
$$
1\in S,\qquad s,t\in S\Longrightarrow st\in S
$$
を満たすとき、$S$ をmultiplicative subset|multiplicative subsetという。通常は $0\notin S$ とする。
$A\times S$ の元 $(a,s)$ を形式的な分数 $a/s$ と考えます。零因子がある環では、後から分母にする元を掛ければ等しくなることまで許す必要があります。
$(a,s),(b,t)\in A\times S$ に対し、ある $u\in S$ が存在して
$$
u(at-bs)=0
$$
となるとき $(a,s)\sim(b,t)$ と定める。これをlocalization equivalence relation|局所化の分数同値という。
関係 $\sim$ は同値関係である。
反射性は $1(as-as)=0$、対称性は $u(at-bs)=0$ なら $u(bs-at)=0$ であることから従います。
推移性を示します。$(a,s)\sim(b,t)$、$(b,t)\sim(c,r)$ とし、
$$
u(at-bs)=0,\qquad v(br-ct)=0
$$
とします。すると
$$
uvt(ar-cs)=uvr(at-bs)+uvs(br-ct)=0.
$$
$uvt\in S$ なので $(a,s)\sim(c,r)$ です。□
$A\times S$ を上の同値関係で割った集合に
$$
\frac{a}{s}+\frac{b}{t}=\frac{at+bs}{st},
\qquad
\frac{a}{s}\frac{b}{t}=\frac{ab}{st}
$$
で演算を定めた環を、$A$ の $S$ によるlocalization|局所化といい $S^{-1}A$ と書く。
演算がrepresentativeによらないことを確認します。$a/s=a'/s'$、$b/t=b'/t'$ とし、
$$
u(as'-a's)=0,\qquad v(bt'-b't)=0
$$
とします。積について
$$
uv(ab\,s't'-a'b'\,st)
=uv\{bt'(as'-a's)+a's(bt'-b't)\}=0.
$$
和についても展開すると
$$
uv\{tt'(as'-a's)+ss'(bt'-b't)\}=0
$$
です。従って加法・乗法はwell-definedで、環公理は共通分母へ直して $A$ の環公理に帰着します。
標準写像
$$
\iota:A\longrightarrow S^{-1}A,\qquad a\longmapsto a/1
$$
は一般にはinjectiveではありません。定義から
$$
\frac{a}{1}=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
sa=0\text{ for some }s\in S.
$$
局所化は、分母候補で消される元を0にします。
この同値条件をkernel of the localization map|局所化標準写像のkernel判定と呼びます。
環準同型 $\varphi:A\to B$ が全ての $s\in S$ を $B$ のunitへ送るとする。このとき一意な環準同型
$$
\widetilde\varphi:S^{-1}A\longrightarrow B
$$
が存在して $\widetilde\varphi(a/1)=\varphi(a)$ を満たす。
存在するなら
$$
\widetilde\varphi(a/s)=\varphi(a)\varphi(s)^{-1}
$$
でなければなりません。この式で写像を定めます。
$a/s=b/t$ なら、ある $u\in S$ に対し $u(at-bs)=0$ です。$B$ へ移すと
$$
\varphi(u)(\varphi(a)\varphi(t)-\varphi(b)\varphi(s))=0.
$$
$\varphi(u)$ はunitなので括弧内が0です。さらに $\varphi(s),\varphi(t)$ のinverseを掛ければ二つの分数の像は等しく、well-definedです。加法・乗法を保つことは分数計算から従い、一意性は上の強制された式から従います。□
これをuniversal property of localization|局所化の普遍性と呼びます。局所化は「$S$ の元を全て可逆にする最小の環」です。
$f\in A$ に対し
$$
S_f=\{1,f,f^2,\ldots\}
$$
で局所化した環をprincipal localization|principal localizationといい $A_f=S_f^{-1}A$ と書く。
$A_f$ の元は $a/f^n$ の形です。等号
$$
\frac{a}{f^m}=\frac{b}{f^n}
$$
は、ある $N\ge0$ に対し
$$
f^N(f^na-f^mb)=0
$$
となることと同値です。一般の座標環は零因子を持ち得るため、$f^N$ をcancelしてはいけません。
$f,g\in A$ に対し自然な同型
$$
(A_f)_g\cong A_{fg}
$$
がある。
$(A_f)_g$ では $f,g$ がunitなので $fg$ もunitです。$A_{fg}$ の普遍性から $A_{fg}\to(A_f)_g$ を得ます。
逆に $A_{fg}$ では
$$
f^{-1}=g(fg)^{-1},\qquad g^{-1}=f(fg)^{-1}
$$
なので $f,g$ はともにunitです。普遍性を二回適用して逆向きの写像を得ます。二つの合成は $A$ の元と $f^{-1},g^{-1}$ 上で恒等なので全体で恒等です。□
これはiterated principal localization|principal localizationの反復公式です。幾何側の
$$
D_X(f)\cap D_X(g)=D_X(fg)
$$
に対応します。
$X$ をaffine代数的集合、$U\subseteq X$ をZariski open subsetとする。関数 $\phi:U\to k$ が各点 $p\in U$ のあるopen neighborhood $W\subseteq U$ 上で
$$
\phi(q)=\frac{a(q)}{b(q)}\qquad(q\in W)
$$
と書け、$a,b\in k[X]$ かつ $b$ が $W$ の全点で非零であるとき、$\phi$ を $U$ 上のregular function on an open subset|正則関数という。その全体を $\Gamma(U,\mathcal O_X)$ と書く。
表示 $a/b$ は点ごと、近傍ごとに変わってよいことが重要です。主開集合では全ての局所表示を一つの $f$ の冪を分母に持つ分数へまとめられます。
自然な写像
$$
\rho_f:A_f\longrightarrow\Gamma(D_X(f),\mathcal O_X),
\qquad
\frac{a}{f^n}\longmapsto\left(p\mapsto\frac{a(p)}{f(p)^n}\right)
$$
が定まります。
$A=k[X]$ とする。写像 $\rho_f$ はinjectiveである。
$a/f^n$ が零関数だとします。$D_X(f)$ 上で $a=0$ です。積 $fa$ は、$f=0$ の点でも $f\ne0$ の点でも0なので $X$ 全体で消えます。座標環 $A=k[X]$ はreducedであり、全点で消える元は0なので
$$
fa=0\quad\text{in }A.
$$
従って局所化の等号条件から $a/f^n=0$ です。□
これはinjectivity of functions on a principal open set|主開集合上の分数表示のinjectivityです。
環 $B$ と $g_1,\ldots,g_r\in B$ が
$$
\sqrt{(g_1,\ldots,g_r)}=B
$$
を満たすとする。各 $i$ に $s_i\in B_{g_i}$ が与えられ、全ての $i,j$ について $s_i,s_j$ の像が $B_{g_ig_j}$ で一致するなら、一意な $s\in B$ が存在して、その像は各 $B_{g_i}$ で $s_i$ に一致する。
分母の指数を増やし、全ての $i$ について
$$
s_i=\frac{a_i}{g_i^m}
$$
と同じ $m$ で書きます。pairは有限個なので、compatibilityの等号条件に現れる指数も一つの $e$ で揃えられ、
$$
(g_ig_j)^e(g_j^ma_i-g_i^ma_j)=0
$$
が全ての $i,j$ について成り立ちます。
$n=m+e$、$t_i=g_i^ea_i$ と置くと
$$
g_j^nt_i=g_i^nt_j.
$$
$(g_1,\ldots,g_r)$ のradicalが全環なら $(g_1^n,\ldots,g_r^n)$ もproperでないので、ある $c_i\in B$ が
$$
1=\sum_i c_ig_i^n
$$
を満たします。
$$
s=\sum_i c_it_i
$$
と置きます。$B_{g_j}$ では
$$
g_j^ns=\sum_i c_ig_j^nt_i
=\sum_i c_ig_i^nt_j=t_j.
$$
従って $s=t_j/g_j^n=a_j/g_j^m=s_j$ です。
一意性について、$s,s'$ が同じ局所像を持つなら、共通指数 $E$ を選んで全ての $i$ について $g_i^E(s-s')=0$ とできます。$1=\sum_i d_ig_i^E$ と書けば
$$
s-s'=\sum_i d_ig_i^E(s-s')=0.
$$
よって $s=s'$ です。□
これをlocalization patching lemma|局所化の貼り合わせ補題と呼びます。後のsheaf axiomのaffine版を、分数計算だけで先取りしています。
$k$ をalgebraically closed field、$X$ をaffine代数的集合、$A=k[X]$、$f\in A$ とする。自然な写像
$$
\rho_f:A_f\longrightarrow\Gamma(D_X(f),\mathcal O_X)
$$
は環同型である。
injectivityは証明済みです。$\phi\in\Gamma(D_X(f),\mathcal O_X)$ を取ります。
各点の局所表示と主開集合基底から、$D_X(f)$ は主開集合 $D_X(g_\lambda)$ で覆われ、その上で $\phi=a_\lambda/b_\lambda$ と書け、$b_\lambda$ はそこで非零です。$D_X(f)$ はNoetherian空間のopen subsetなのでquasi-compactです。従って有限部分被覆
$$
D_X(f)=D_X(g_1)\cup\cdots\cup D_X(g_r)
$$
を選べます。
$D_X(g_i)\subseteq D_X(b_i)$ なので $V_X(b_i)\subseteq V_X(g_i)$ です。零点定理から
$$
g_i^{N_i}=b_ic_i
$$
となる $N_i\ge1$ と $c_i\in A$ があります。従って $A_{g_i}$ では $b_i^{-1}=c_i/g_i^{N_i}$ で、局所表示は $s_i=a_ic_i/g_i^{N_i}\in A_{g_i}$ です。
重なり $D_X(g_ig_j)$ で二つは同じ関数です。injectivityを $g_ig_j$ に適用すると、$s_i,s_j$ は $A_{g_ig_j}$ で同じ元です。
$B=A_f$ とします。被覆条件から
$$
V_X(g_1,\ldots,g_r)\cap D_X(f)=\varnothing.
$$
従って $V_X(g_1,\ldots,g_r)\subseteq V_X(f)$ であり、零点定理からある $M$ について
$$
f^M\in(g_1,\ldots,g_r)\subseteq A.
$$
$A_f$ では $f^M$ がunitなので、$g_i$ は $B$ のunit idealを生成します。
さらに各 $D_X(g_i)$ は $D_X(f)$ に含まれるので $V_X(f)\subseteq V_X(g_i)$ です。零点定理からある $L_i$ について
$$
g_i^{L_i}=f d_i
$$
となります。従って $A_{g_i}$ では $f$ がunitです。局所化の普遍性と反復公式から
$$
B_{g_i}=(A_f)_{g_i}\cong A_{fg_i}\cong A_{g_i}.
$$
よって先ほどの $s_i\in A_{g_i}$ を $s_i\in B_{g_i}$ と見なせます。
localization patching lemmaを $B=A_f$ に適用すると、各 $s_i$ を貼り合わせる一意な $s\in A_f$ が存在します。$\rho_f(s)$ と $\phi$ は各 $D_X(g_i)$ 上で一致するので全体で一致します。従って $\rho_f$ はsurjectiveです。□
これがcoordinate ring of a principal open set|主開集合の正則関数環定理です。局所的に異なる分母を用いても、主開集合全体では $f$ の一つの冪を共通分母にできます。
$X\subseteq\mathbb A_k^n$、$f\in k[X]$ とし、
$$
Y=\{(p,t)\in X\times\mathbb A_k^1\mid tf(p)=1\}
$$
と置きます。
$D_X(f)$ はaffine代数的集合
$$
Y=V(I(X),tf-1)\subseteq\mathbb A_k^{n+1}
$$
と正則同型であり、
$$
k[Y]\cong k[X]_f
$$
である。
$A=k[X]$ とします。まず
$$
B=A[t]/(tf-1)
$$
と置きます。商では $t$ が $f$ のinverseです。普遍性から
$$
A_f\longrightarrow A[t]/(tf-1),\qquad a/f^n\longmapsto at^n
$$
が定まります。逆向きには $t\mapsto1/f$ と送ります。二つの写像は $A,t$ および $A,1/f$ 上で互いに逆なので同型です。
$A$ はreducedであり、その局所化 $A_f$ もreducedです。実際 $(a/f^n)^N=0$ なら、ある $m$ について $f^ma^N=0$、従って $(f^ma)^N=0$ です。$A$ のreduced性から $f^ma=0$ となり $a/f^n=0$ です。従って $B\cong A_f$ はreducedで、$(I(X),tf-1)$ はradical idealです。Hilbert零点定理からこれは $Y$ の消滅idealそのものなので
$$
k[Y]=B\cong A_f.
$$
射影 $\pi:Y\to D_X(f)$ は正則かつbijectiveで、逆写像は
$$
p\longmapsto(p,1/f(p))
$$
です。最後の成分は主開集合の関数環定理により正則なので、両者は正則同型です。□
これはaffine realization of a principal open set|主開集合のaffine実現です。例えば
$$
D_{\mathbb A^1}(x)=\mathbb A^1\setminus\{0\}
$$
は双曲線 $V(tx-1)\subseteq\mathbb A^2$ と同型で、関数環は $k[x,x^{-1}]$ です。
$D_X(fg)\subseteq D_X(f)$ に対するrestrictionは、代数側では
$$
A_f\longrightarrow A_{fg},\qquad
\frac{a}{f^n}\longmapsto\frac{ag^n}{(fg)^n}
$$
です。これはrestriction map on principal opens|主開集合間のrestriction mapであり、包含と逆向きに関数環の写像を与えます。この反変性が「前層と層」のstructure sheafになります。
$$
X=V(xy)\subseteq\mathbb A_k^2,\qquad
A=k[x,y]/(xy)
$$
とします。$A_x$ では $x$ がunitなので $xy=0$ から $y=0$ です。従って
$$
A_x\cong k[x,x^{-1},y]/(y)\cong k[x,x^{-1}].
$$
幾何的には $D_X(x)$ は $y$-axis全体と原点を消し、$x$-axisから原点を除いた部分だけを残します。これはlocalization removes components|局所化による成分の除去の最小例です。
$A=k[x,y]/(xy)$ とする。$A_y$ を計算し、$D_X(y)$ の幾何的な形を説明せよ。
$A_y$ では $y$ がunitなので $xy=0$ から $x=0$ です。従って
$$
A_y\cong k[x,y,y^{-1}]/(x)\cong k[y,y^{-1}].
$$
$D_X(y)$ は $y$-axisから原点を除いた部分です。□
$A=k[x]$ とし、$A_x$ と $k[x,t]/(tx-1)$ の同型を具体的に書き、互いに逆であることを生成元上で確かめよ。
$$
\Phi:A_x\to k[x,t]/(tx-1),\qquad \Phi(a/x^n)=at^n
$$
と
$$
\Psi:k[x,t]/(tx-1)\to A_x,\qquad \Psi(x)=x,\quad\Psi(t)=1/x
$$
を取ります。$\Psi(tx-1)=0$ なのでwell-definedです。$A_x$ は $x,x^{-1}$ で、商環は $x,t$ で生成され、両合成はそれぞれの生成元を固定します。従って互いに逆です。□
$A=k[x]$ において $D(x)$ と $D(1-x)$ が $\mathbb A_k^1$ を覆うことを示せ。$D(x)$ 上の $x^2/x$ と $D(1-x)$ 上の $x(1-x)/(1-x)$ を貼り合わせ、大域関数を求めよ。
$x$ と $1-x$ が同時に0になる点はなく、$1=x+(1-x)$ なので二つの主開集合は全体を覆います。各局所関数はそれぞれの開集合で $x$ に等しいため、重なりでも一致します。貼り合わせで得る大域関数は $x$ です。□
$f\in A$ と $m\ge1$ に対し $D_X(f)=D_X(f^m)$ を示し、自然な同型 $A_f\cong A_{f^m}$ を普遍性から構成せよ。
体の中で $f(p)\ne0$ と $f(p)^m\ne0$ は同値なので主開集合は等しいです。$A_f$ では $f^m$ がunitなので $A_{f^m}\to A_f$ を得ます。逆に $A_{f^m}$ では
$$
f^{-1}=f^{m-1}(f^m)^{-1}
$$
なので $f$ がunitであり $A_f\to A_{f^m}$ を得ます。両写像は $A$ と指定されたinverseを固定するので互いに逆です。□
$X=\mathbb A_k^2$、$f=x$ とする。$y/x^2$ を $D_X(x)$ 上の正則関数として記述し、$D_X(xy)$ へ制限したときの $A_{xy}$ における表示を書け。
$A=k[x,y]$ なので $y/x^2\in A_x$ が正則関数を表します。$A_x\to A_{xy}$ による像は、共通分母 $(xy)^2$ を用いれば
$$
\frac{y}{x^2}=\frac{y^3}{x^2y^2}=\frac{y^3}{(xy)^2}
$$
です。$A_{xy}$ では $x,y$ がともにunitなので $yx^{-2}$ という表示も有効です。□
局所化は指定した元を可逆にする普遍的な環です。幾何側では $f$ が消えない主開集合 $D_X(f)$ に対応し、その正則関数環は $k[X]_f$ になります。有限個の局所分数を貼り合わせる補題により、点ごとのquotient表示が一つの局所化元へまとまることも証明しました。
次の頁では一点 $p$ の全ての開近傍を同時に見るため、$p$ で消えない全関数を分母にしたlocal ring $\mathcal O_{X,p}$ を構成します。そこでfunction germ、maximal ideal、residue field、接空間への入口が得られます。
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