代数的集合 $V$ が $V$ とは異なる $2$ つの代数的集合 $W_1, W_2$ によって $V=W_1\cup W_2$ とあらわされないとき、
$V$ を既約 (irreducible) という。既約なアフィン代数的集合をアフィン代数多様体 (affine algebraic variety) という。
代数的集合 $V$ が既約 $\Longleftrightarrow$ $I(V)$ が素イデアル。
代数的集合 $V$ が既約でないとし、$V$ とは異なる $2$ つの代数的集合 $W_1, W_2$ によって $V=W_1\cup W_2$ とあらわされるとすると、$I(W_1), I(W_2)$ は $I(V)$ より真に大きいイデアルとなる。$F_1\in I(W_1), F_2\in I(W_2)$ がともに $I(V)$ に含まれないとする。
$P\in V$ に対して、$P\in W_i$ となる $i$ をとると、$F_i(P)=0$ だから、必ず $F_1 F_2(P)=0$ となる。よって、$F_1 F_2\in I(V)$ となるが、$F_1, F_2$ はともに $I(V)$ には含まれないから、$I(V)$ は素イデアルではない。
逆に、$I(V)$ が素イデアルでないとすると、$F_1 F_2\in I(V)$ となるが、いずれも $I(V)$ に属さない多項式 $F_1, F_2$ がとれる。
$V\cap V(F_1)$, $V\cap V(F_2)$ も代数的集合で、$F_1, F_2$ は $I(V)$ に属さないから、$F_1(P)\neq 0, F_2(Q)\neq 0$ となる $P, Q\in V$ がとれる。よって $V\cap V(F_1)$, $V\cap V(F_2)$ はともに $V$ より真に小さい代数的集合で
$$V=(V\cap V(F_1))\cup (V\cap V(F_2))$$
となるから、$V$ は既約ではない。
さらに、任意の代数的集合が、有限個の既約代数的集合の和集合に、本質的には一意的に分解される。正確にいうと、次の定理が成り立つ。
任意の代数的集合 $V$ は有限個の既約代数的集合の和集合
$$V=V_1\cup V_2\cup \cdots \cup V_r$$
としてあらわされ、かつ、どの $2$つの $V_i, V_j$ も互いに包含関係にないという条件の下では、順序を除いて一意的にあらわされる。
このような $V_i$ を $V$ の既約成分 (irreducible component) といい、上記のようにあらわすことを、$V$ の既約成分への分解 (decomposition) という。
まず、任意の代数的集合 $V$ は有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされることを示す。
$\A^n(\K)$ の代数的集合で、有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされないものが存在すると仮定し、それら全体の集合を $\SS$ とおく。また、$\SS$ に対応するイデアルの集合を $\TT=\{I(V), V\in\SS\}$ とおく。
Hilbertの基底定理
より、$\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ はNoether環なので、
Noether環の性質
から、$\TT$ は極大元 $I_0$ をもつ。$I_0=I(V_0)$ となる $V_0$ をとると、$V_0$ は $\SS$ の極小元となる。
$\SS$ に属する代数的集合は、当然それ自体既約ではありえないので、$V_0=W_1\cup W_2$ となる、$W_1, W_2\subsetneq V_0$ がとれる。
$V_0$ は $\SS$ の極小元だから、$W_1, W_2$ は有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされるので、$V_0=W_1\cup W_2$ も有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされる。これは矛盾である。
よって、任意の代数的集合 $V$ は
$$V=V_1\cup V_2\cup \cdots \cup V_r$$
と有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされるので、そのようなあらわし方が(定理に記した条件のもとで)一意的であることを示す。
$V_i\subset V_j$ となるときに $V_i$ をすべて取り除いても、和集合に変化はないので、$V$ は、どの $2$つの $V_i, V_j$ も互いに包含関係にないようにあらわすことができる。そこで
$$V=W_1\cup W_2\cup \cdots \cup W_s$$
なおかつ、どの $2$つの $W_i, W_j$ も互いに包含関係にないように有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされたとする。
各 $i=1, \ldots, r$ について
$$V_i=\bigcup_{j=1}^s (V_i\cap W_j)$$
となるが、$V_i$ は既約だから $V_i\cap W_{j(i)}=V_i$ つまり $V_i\subset W_{j(i)}$ となる $j(i)$ が存在する。同様にして、$W_{j(i)}\subset V_{k(i)}$ となる $k(i)$ が存在するが、$V_i\subset V_{k(i)}$ となるので、仮定より $i=k(i)$ でなければならず、 $V_i=W_{j(i)}$ となる。このことから $s\geq r$ となる。
同様にして、各 $j=1, \ldots, s$ について $W_j=V_{i(j)}$ となる $i(j)$ が存在するから、$r\geq s$ となるので、結局 $s=r$ で、$W_j$ は $V_i$ の順序を並び替えたものとなる。
$$XY^2=0\Longleftrightarrow X=0\lor Y=0$$
だが、$(X), (Y)$ は素イデアルなので、$V(X), V(Y)$ はともに既約な代数的集合となる。よって
$$V(XY^2)=V(X)\cup V(Y)$$
と既約成分に分解される。