はじめに

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\operatorname{ind}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\mathrm{rank}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

篩法 (sieve method) は、全体集合から、与えられた条件をすべて満足する(あるいはいずれも満足しない)ものの個数を評価する技法である。

たとえば、与えられた実数 $X>0$ について
$$\sqrt{X}< p\leq X$$
の範囲にある素数 $p$ 全体は、後述のように $X$ 以下の整数で、$\sqrt{X}$ 以下のいずれの素数でも割り切れないもの全体と一致する。
また、$p, p+2$ が双子素数の対で、$p$ が上記の範囲にあるための必要十分条件は、$p+2$ が素数の平方でなく、かつ $p$$\sqrt{X}$ 以下のどの素数で割っても余りが $0, p-2$ とはならないことである。

最も古い篩法は、与えられた範囲内の素数をすべて発見するEratosthenesの篩である。LegendreはEratosthenesの篩をもとに集合の数え上げとして定量化することで、与えられた数 $X$ 以下の素数の個数 $\pi(X)$$X$ に対する比 $\pi(X)/X$$0$ に近づくことを示した。

本格的な篩法の発展は1910年代に始まる。1911年にMerlinがEratosthenesの篩を拡張することで双子素数問題やGoldbach予想の研究に利用できるかも知れないと主張したが、Merlinは第一次世界大戦で戦死してしまった。
BrunはMerlinの議論に触発され、本格的に篩法を研究し、組合せ論的な議論を工夫することで1915年に双子素数の逆数の和が収束することを証明し、さらに1920年に次の一連の定理を証明した。

  1. $n, n+2$ がどちらも重複も含めて$9$個以下の素因数しかもたない整数 $n$ が無限に多く存在する。
  2. $X$ が大きいとき、$X$ 以下の双子素数の個数は $100X/\log^2 X$ より小さい。
  3. $n$ が十分大きい偶数のとき、$n$ は重複も含めて$9$個以下の素因数しかもたない$2$つの整数の和としてあらわされる。
  4. $n$ が大きいとき、$n$$n+\sqrt{n}$ の間には、重複も含めて$11$個以下の素因数しかもたない整数が存在する。

その後、Selbergが $\lambda^2$ 法を用いて、より単純な篩法を構成した。Selbergの篩は当初は個数の上からの評価しか得られなかったが、その後、下からの評価が得られるようになり、Jing-run Chen(陳景潤)はこの方法により、十分大きな偶数が素数と、$2$個以下の素因数しかもたない整数の和としてあらわされること、および $p+2$$2$個以下の素因数しかもたない素数 $p$ が無限に多く存在することを示した。

一方、RosserとIwaniecはBrunとは別の組合せ論的な構成法を用いて特殊な場合に上からの評価と下からの評価を改良し、Iwaniecはこの方法を用いて $x^2+y^2+1$ の形の素数が無限に多く存在することを示した。Iwaniecはさらに誤差項を詳しく調べることで、$n^2+1$ の形の、$2$個以下の素因数しかもたない整数が無限に多く存在することを示した。

また、Goldston, Pintz, YıldırımはSelbergの$\lambda^2$法を変形した新しい篩の議論を導入し、$n$ 番目の素数 $p_n$$n+1$ 番目の素数 $p_{n+1}$ の間隔について
$$\liminf \frac{p_{n+1}-p_n}{\log p_n}=0$$
となることを示し、Yitang Zhang(張益唐)はこの方法を改良して
$$\liminf (p_{n+1}-p_n)<7\times 10^7$$
を示した。その後Polymath projectが
$$\liminf (p_{n+1}-p_n)\leq 246$$
を示した。

篩法の解説書としてはHRがChenの定理の証明まで解説した古典的名著である。Natは加法的整数論について取り扱っているが、そのうち、6章・9章・10章では篩法の解説と、双子素数予想やGoldbach予想への応用について分かりやすく説明している。Greは数論における篩法の基礎理論について詳しく取り扱っている。

記法

$O$ 記号については Landau記号 を参照。
また、$O^*(T)$ は絶対値が $T$ 以下の量をあらわす。たとえば
$$F(X)=G(X)+O^*(H(X))$$

$$\abs{F(X)-G(X)}\leq H(X)$$
を意味する。

参考文献

[1]
George Greaves, Sieves in Number Theory, Spriner-Verlag, 2001
[2]
Heini Halberstam and Hans Egon-Richert, Sieve Methods, 2nd Edition, Dover publications, 2011
[3]
Melvyn B. Nathanson, Additive Number Theory: The Classical Bases, Graduate Texts in Mathematics, 164, Springer-Verlag, 1996
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