Landau記号

同義語:ランダウの記号ランダウ記号Landau notation

概要

Landau記号(Landau notation)とは、$x\to a$ のときの二つの関数の大きさを比較する記法 $O$, $o$ の総称である。$f(x)=O(g(x))$ は $a$ の近くで $|f(x)|\le C|g(x)|$ となる定数 $C$ があること、$f(x)=o(g(x))$ は任意の $\varepsilon>0$ に対し $a$ の近くで $|f(x)|\le\varepsilon|g(x)|$ となること($g\neq 0$ なら $f/g\to 0$)を意味する。ここから漸近同値 $f\sim g$ や同じ位数を表す $\Theta$ が派生し、微分可能性 $f(a+h)=f(a)+f'(a)h+o(h)$、Taylor の定理の剰余項、素数定理 $\pi(x)\sim x/\log x$ の表現に用いられる。

$$\newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{rank}[0]{\mathrm{rank}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} $$

前提知識: 関数の極限, 数列, 数列の極限, 近傍, 上極限

定義

以下、$a$ は実数または $\pm\infty$ とし、$f,g$ は $a$ のある除外近傍(関数の極限。$a$ が実数なら $\{x\mid 0<|x-a|<\delta\}$、$a=+\infty$ なら $\{x\mid x>M\}$、$a=-\infty$ なら $\{x\mid x< M\}$ の形の集合。定義域が片側だけのときは対応する片側の集合)で定義された実数値または複素数値の関数とする。$a$ を複素数とし、除外近傍を $\{z\mid 0<|z-a|<\delta\}$ としても、以下はそのまま成り立つ。

Landau の $O$ 記号

ある定数 $C>0$ と $a$ のある除外近傍 $V$ が存在して、すべての $x\in V$ に対し
$$ |f(x)|\le C\,|g(x)| $$
が成り立つとき、
$$ f(x)=O(g(x))\quad(x\to a) $$
と書き、これを Landau の $O$ 記号(Landau's big-O notation)という。「$f$ は $g$ の定数倍で上から抑えられる」と読む。

Landau の $o$ 記号

任意の $\varepsilon>0$ に対し $a$ のある除外近傍 $V$ が存在して、すべての $x\in V$ に対し
$$ |f(x)|\le\varepsilon\,|g(x)| $$
が成り立つとき、
$$ f(x)=o(g(x))\quad(x\to a) $$
と書き、これを Landau の $o$ 記号(Landau's little-o notation)という。「$f$ は $g$ に比べて無視できるほど小さい」と読む。$g$ が $a$ のある除外近傍で $0$ にならないとき、この条件は
$$ \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=0 $$
と同値である(prop-landau-quotient-form)。

差の評価と記号の組合せ

関数 $f,g,h$ について、$f(x)-g(x)=O(h(x))$($x\to a$)のとき
$$ f(x)=g(x)+O(h(x))\quad(x\to a) $$
と書き、$f(x)-g(x)=o(h(x))$ のとき $f(x)=g(x)+o(h(x))$ と書く。「$f$ と $g$ の差が $h$ に比べて無視できる(または $h$ の定数倍で抑えられる)」ことを表す。より一般に、式 $\varphi(\lambda(x)h(x))$ の形で、$\lambda(x)\to0$($x\to a$)となる関数 $\lambda$ が存在して $f(x)=\varphi(\lambda(x)h(x))$ と書けるとき、$f(x)=\varphi(o(h(x)))$ と書く。たとえば $f(x)=(1+o(1))\varphi(x)$ は、$\lambda(x)\to0$ なるある $\lambda$ で $f(x)=(1+\lambda(x))\varphi(x)$ と書けることを意味し、$\varphi$ が $0$ にならないなら $f(x)/\varphi(x)\to1$ と同値である。$O$ についても同様に、$\lambda$ が $a$ の近くで有界なとき $f(x)=\varphi(O(h(x)))$ と書く。

漸近同値と $\Theta$ 記号

$f(x)=(1+o(1))g(x)$($x\to a$)が成り立つとき、$f$ と $g$ は $x\to a$ で漸近的に等しい(asymptotically equivalent)といい、
$$ f(x)\sim g(x)\quad(x\to a) $$
と書く。$g$ が $a$ の近くで $0$ にならないなら、これは $\lim_{x\to a}f(x)/g(x)=1$ と同値である。また、$f(x)=O(g(x))$ かつ $g(x)=O(f(x))$(いずれも $x\to a$)が成り立つとき
$$ f(x)=\Theta(g(x))\quad(x\to a) $$
と書き、「$f$ と $g$ は同じ位数である」という。

数列に対する Landau 記号

数列(数列) $(a_n)_{n\in\mathbb{N}}$, $(b_n)_{n\in\mathbb{N}}$ について、ある定数 $C>0$ と $N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\ge N$ で $|a_n|\le C|b_n|$ となるとき $a_n=O(b_n)$ と書き、任意の $\varepsilon>0$ に対しある $N$ が存在して $n\ge N$ で $|a_n|\le\varepsilon|b_n|$ となるとき $a_n=o(b_n)$ と書く(いずれも $n\to\infty$ を省略する)。$b_n\ne0$($n$ が十分大きいとき)なら、$a_n=o(b_n)$ は $\lim_{n\to\infty}a_n/b_n=0$ と同値である。$a_n\sim b_n$, $a_n=\Theta(b_n)$ も関数の場合と同様に定める。

記法と成立条件

等号の意味と記号の乱用

$O(g)$ は本来、def-landau-big-o の条件を満たす関数全体の集合を表す。「$f=O(g)$」の等号は標準的な記号の乱用であり、実際には帰属 $f\in O(g)$ を意味する。したがってこの等号は対称でなく、$O(g)=f$ とは書かない。「$f=g+O(h)$」は $f-g\in O(h)$ の意味であり、$O(x)=O(x^2)$($x\to\infty$)のような式は「左辺の集合が右辺の集合に含まれる」と読む。また $O(1)$ は「$a$ の近くで有界な関数」、$o(1)$ は「$x\to a$ で $0$ に収束(収束)する関数」を表す。

極限点の指定

$O$, $o$, $\sim$ はすべて「$x\to a$」という極限操作に相対的な記号であり、$a$ を省略してはならない。同じ二つの関数でも、$x\to0$ と $x\to\infty$ で大小関係が逆転する(ex-landau-counterexample-limit-point)。文脈から明らかなときに限り「$(x\to a)$」を省略する。数列については常に $n\to\infty$ である。

添字つきの記号

定数 $C$ や除外近傍 $V$ が、他の変数やパラメータ $y$ に依存することを明示したいとき、$f(x,y)=O_y(g(x,y))$, $f(x,y)=o_y(g(x,y))$ と書く。すなわち $O_y$ は「各 $y$ を固定するごとに $x\to a$ で $O$ である(ただし定数は $y$ によってよい)」ことを表す。たとえば任意の $\varepsilon>0$ に対し $\log x=o_\varepsilon(x^\varepsilon)$($x\to+\infty$)である(ex-landau-log-power)。添字がないときは、定数が他のパラメータによらないことを主張していると読む流儀が多い。

Vinogradov の記号

解析的整数論では $f(x)=O(g(x))$ を
$$ f(x)\ll g(x)\quad\text{または}\quad g(x)\gg f(x)\quad(x\to a) $$
と書くことが多い。これを Vinogradov の記号という。パラメータ依存も $f\ll_y g$ のように添字で示す。$f\ll g$ かつ $g\ll f$、すなわち $f=\Theta(g)$ を $f\asymp g$ と書く(MV07 の記法の節)。

Hardy–Littlewood の $\Omega$ 記号

$f(x)=o(g(x))$ の否定を表す記号として、Hardy と Littlewood は次を導入した(Knu76, MV07)。ある定数 $C>0$ について $|f(x)|>C|g(x)|$ となる $x$ が $a$ にいくらでも近いところに存在するとき $f(x)=\Omega(g(x))$ と書く。$g>0$ のとき、派生して、ある $C>0$ について $f(x)>Cg(x)$ となる $x$ が $a$ にいくらでも近く存在するとき $f(x)=\Omega_+(g(x))$、ある $C>0$ について $f(x)<-Cg(x)$ となる $x$ が $a$ にいくらでも近く存在するとき $f(x)=\Omega_-(g(x))$ と書く。$g$ が $a$ の近くで正なら、上極限・下極限を用いて
$$ f=\Omega(g)\iff\limsup_{x\to a}\left|\frac{f(x)}{g(x)}\right|>0,\qquad f=\Omega_+(g)\iff\limsup_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}>0,\qquad f=\Omega_-(g)\iff\liminf_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}<0 $$
と言い換えられる。一方、計算量(計算量理論)の解析では Knuth による別の定義 $f=\Omega(g)\iff g=O(f)$(ある $c>0$ が存在して十分大きい $x$ で $|f(x)|\ge c|g(x)|$)が標準であり(Knu76)、同じ記号 $\Omega$ が分野によって異なる意味を持つ。本記事の $\Theta$ は Knuth の意味の $O$ と $\Omega$ の両方が成り立つことに相当する。

性質

商による言い換え

$g$ が $a$ のある除外近傍で $0$ にならないとする。このとき次が成り立つ。

  1. $f(x)=O(g(x))$($x\to a$)であることと、$f/g$ が $a$ のある除外近傍で有界であることとは同値である。
  2. $f(x)=o(g(x))$($x\to a$)であることと、$\lim_{x\to a}f(x)/g(x)=0$ とは同値である。

$g\ne0$ となる除外近傍を $V_0$ とする。(1) $|f(x)|\le C|g(x)|$ が除外近傍 $V$ で成り立てば、$V\cap V_0$ 上で $|f(x)/g(x)|\le C$ である。逆に $|f/g|\le C$ が除外近傍 $V\subset V_0$ で成り立てば、$V$ 上で $|f(x)|\le C|g(x)|$ である。(2) $f=o(g)$ とすると、$\varepsilon>0$ に対し除外近傍 $V$ で $|f(x)|\le\varepsilon|g(x)|$、したがって $V\cap V_0$ 上で $|f(x)/g(x)|\le\varepsilon$ となり、これは $\lim_{x\to a}f(x)/g(x)=0$ の定義($\le\varepsilon$ と $<\varepsilon$ の違いは $\varepsilon$ を取り直せば吸収できる)である。逆も同じ書き換えによる。$\square$

基本演算規則

$x\to a$ に関して次が成り立つ($k,\ell$ は定数)。

  1. $f$ が $a$ のある除外近傍で有界(特に定数)ならば $f(x)=O(1)$。$f(x)\to0$ ならば $f(x)=o(1)$。
  2. $f=o(g)$ ならば $f=O(g)$。
  3. (推移律)$f=O(g)$ かつ $g=O(h)$ ならば $f=O(h)$。$f=o(g)$ かつ $g=O(h)$、または $f=O(g)$ かつ $g=o(h)$ ならば $f=o(h)$。
  4. (和)$f_1=O(g_1)$ かつ $f_2=O(g_2)$ ならば $kf_1+\ell f_2=O(|g_1|+|g_2|)$。$f_1=o(g_1)$ かつ $f_2=o(g_2)$ ならば $kf_1+\ell f_2=o(|g_1|+|g_2|)$。特に $g_1,g_2\ge0$ なら右辺を $O(g_1+g_2)$, $o(g_1+g_2)$ に置き換えてよく、$g_1=g_2=g$ なら $O(g)+O(g)=O(g)$, $o(g)+o(g)=o(g)$ である。
  5. (積)$f_1=O(g_1)$ かつ $f_2=O(g_2)$ ならば $f_1f_2=O(g_1g_2)$。$f_1=O(g_1)$ かつ $f_2=o(g_2)$ ならば $f_1f_2=o(g_1g_2)$。
  6. (商)$f_1=O(g_1)$ かつ $f_2=O(g_2)$ で、$f_2,g_2$ が $a$ のある除外近傍で $0$ にならないならば $f_1/g_2=O(g_1/f_2)$。
  7. (定数倍)定数 $c\ne0$ に対し、$f=O(g)$, $cf=O(g)$, $f=O(cg)$ は互いに同値である。$o$ についても同様。

以下、除外近傍の共通部分はまた除外近傍であることを繰り返し使う。
(1) $|f(x)|\le C$ が除外近傍で成り立てば、$g\equiv1$ として $|f(x)|\le C|1|$ である。$f(x)\to0$ なら任意の $\varepsilon>0$ に対し除外近傍で $|f(x)|\le\varepsilon=\varepsilon|1|$ である。
(2) $o$ の定義を $\varepsilon=1$ に適用すると、ある除外近傍で $|f(x)|\le|g(x)|$ となるので、$C=1$ として $f=O(g)$ である。
(3) $|f|\le C_1|g|$ が $V_1$ で、$|g|\le C_2|h|$ が $V_2$ で成り立てば、$V_1\cap V_2$ で $|f|\le C_1C_2|h|$ である。次に $f=o(g)$, $g=O(h)$ とする。$\varepsilon>0$ に対し、$|g|\le C_2|h|$ が $V_2$ で成り立つとし、$o$ の定義を $\varepsilon/C_2$ に適用して $|f|\le(\varepsilon/C_2)|g|$ が $V_1$ で成り立つとすると、$V_1\cap V_2$ で $|f|\le\varepsilon|h|$ である。$f=O(g)$, $g=o(h)$ の場合は、$|f|\le C_1|g|$ と $|g|\le(\varepsilon/C_1)|h|$ を合わせればよい。
(4) $|f_1|\le C_1|g_1|$ が $V_1$ で、$|f_2|\le C_2|g_2|$ が $V_2$ で成り立てば、$V_1\cap V_2$ で三角不等式から
$$ |kf_1+\ell f_2|\le|k|C_1|g_1|+|\ell|C_2|g_2|\le\max\{|k|C_1,|\ell|C_2\}\,(|g_1|+|g_2|) $$
である。$o$ の場合は、$\varepsilon>0$ に対し $C_1,C_2$ を $\varepsilon/(|k|+1)$, $\varepsilon/(|\ell|+1)$ に置き換えれば $|kf_1+\ell f_2|\le\varepsilon(|g_1|+|g_2|)$ を得る。$g_1,g_2\ge0$ なら $|g_1|+|g_2|=g_1+g_2$ である。
(5) $|f_1|\le C_1|g_1|$, $|f_2|\le C_2|g_2|$ が共通の除外近傍で成り立てば $|f_1f_2|\le C_1C_2|g_1g_2|$ である。$f_2=o(g_2)$ の場合は、$\varepsilon>0$ に対し $C_2$ を $\varepsilon/C_1$ に置き換えれば $|f_1f_2|\le\varepsilon|g_1g_2|$ を得る。
(6) $|f_1|\le C_1|g_1|$ と $|f_2|\le C_2|g_2|$ が、$f_2,g_2\ne0$ となる共通の除外近傍で成り立つとする。後者から $1/|g_2|\le C_2/|f_2|$ なので
$$ \left|\frac{f_1}{g_2}\right|\le\frac{C_1|g_1|}{|g_2|}\le C_1C_2\left|\frac{g_1}{f_2}\right| $$
である。
(7) $|f|\le C|g|$ と $|cf|\le|c|C|g|$ と $|f|\le(C/|c|)|cg|$ は同じ除外近傍で互いに同値である。$o$ については $\varepsilon$ を $|c|\varepsilon$, $\varepsilon/|c|$ に取り替えればよい。$\square$

漸近同値と $\Theta$ が定める同値関係

$a$ のある除外近傍で $0$ にならない関数全体の集合を $\mathcal{F}_a$ とする。$\mathcal{F}_a$ 上の関係 $f\sim g$($x\to a$)および $f=\Theta(g)$($x\to a$)は、いずれも $\mathcal{F}_a$ 上の同値関係である。

$f,g,h\in\mathcal{F}_a$ とし、prop-landau-quotient-form により $O$・$o$ の部分は商の形で議論する。
$\Theta$ について。反射律:$|f|\le1\cdot|f|$ なので $f=O(f)$、よって $f=\Theta(f)$。対称律:定義が $f,g$ について対称である。推移律:$f=\Theta(g)$, $g=\Theta(h)$ なら $f=O(g)$, $g=O(h)$ から prop-landau-basic-rules (3) により $f=O(h)$、同様に $h=O(g)$, $g=O(f)$ から $h=O(f)$、よって $f=\Theta(h)$。
$\sim$ について。$f,g$ が $0$ にならない除外近傍上では $f\sim g\iff\lim_{x\to a}f(x)/g(x)=1$ である。反射律:$f/f=1$。対称律:$f/g\to1\ne0$ なら、商の極限の性質により $g/f=1/(f/g)\to1$。推移律:$f/g\to1$, $g/h\to1$ なら、積の極限の性質により $f/h=(f/g)(g/h)\to1$。$\square$

和と積分の平均化
  1. $(b_n)$ を非負の実数列で $\sum_{k=1}^\infty b_k=+\infty$ を満たすものとし、$a_n=o(b_n)$ とする。このとき $\sum_{k=1}^{n}a_k=o\!\left(\sum_{k=1}^{n}b_k\right)$($n\to\infty$)である。
  2. $f,g$ を $[c,\infty)$ 上の関数で、任意の有界閉区間 $[c,R]$ 上でRiemann積分可能なものとし、$g\ge0$、$\int_c^\infty g(t)\,dt=+\infty$、$f(x)=o(g(x))$($x\to+\infty$)とする。このとき $\int_c^x f(t)\,dt=o\!\left(\int_c^x g(t)\,dt\right)$($x\to+\infty$)である。
  1. $\varepsilon>0$ をとる。$a_n=o(b_n)$ から、ある $n_0$ が存在して $n>n_0$ で $|a_n|\le(\varepsilon/2)b_n$ となる。よって $n>n_0$ で
    $$ \left|\sum_{k=n_0+1}^{n}a_k\right|\le\frac\varepsilon2\sum_{k=n_0+1}^{n}b_k\le\frac\varepsilon2\sum_{k=1}^{n}b_k $$
    である。$\sum b_k=+\infty$ なので、$\left|\sum_{k=1}^{n_0}a_k\right|\le(\varepsilon/2)\sum_{k=1}^{n_1}b_k$ となる $n_1$ がとれる。$n>\max\{n_0,n_1\}$ なら、$b_k\ge0$ より $\sum_{k=1}^{n_1}b_k\le\sum_{k=1}^{n}b_k$ なので
    $$ \left|\sum_{k=1}^{n}a_k\right|\le\left|\sum_{k=1}^{n_0}a_k\right|+\left|\sum_{k=n_0+1}^{n}a_k\right|\le\frac\varepsilon2\sum_{k=1}^{n}b_k+\frac\varepsilon2\sum_{k=1}^{n}b_k=\varepsilon\sum_{k=1}^{n}b_k $$
    である。
  2. $\varepsilon>0$ をとる。$f=o(g)$ から、ある $x_0\ge c$ が存在して $t>x_0$ で $|f(t)|\le(\varepsilon/2)g(t)$ となる。よって $x>x_0$ で $\left|\int_{x_0}^{x}f(t)\,dt\right|\le(\varepsilon/2)\int_{x_0}^{x}g(t)\,dt\le(\varepsilon/2)\int_c^x g(t)\,dt$ である。$\int_c^\infty g=+\infty$ なので $\left|\int_c^{x_0}f(t)\,dt\right|\le(\varepsilon/2)\int_c^{x_1}g(t)\,dt$ となる $x_1$ がとれ、$x>\max\{x_0,x_1\}$ で (1) と同様に $\left|\int_c^x f(t)\,dt\right|\le\varepsilon\int_c^x g(t)\,dt$ を得る。$\square$

計算と応用

多項式の増大度

$x\to+\infty$ のとき、$x\ge1$ で $|3x^2+5x+7|\le3x^2+5x^2+7x^2=15x^2$ なので $3x^2+5x+7=O(x^2)$ であり、$3x^2+5x+7\ge3x^2$ なので $x^2=O(3x^2+5x+7)$ でもある。よって $3x^2+5x+7=\Theta(x^2)$ である。さらに $(5x+7)/x^2\to0$ から $5x+7=o(x^2)$ であり、$3x^2+5x+7=3x^2+o(x^2)=(3+o(1))x^2$、すなわち $3x^2+5x+7\sim3x^2$ である。同様に $x^2+x+1=o(x^3)$ かつ $x^2+x+1=x^2+o(x^2)=(1+o(1))x^2$($x\to+\infty$)が成り立つ。「主要項と、それに比べて無視できる残りの項」という分解が Landau 記号の典型的な使い方である。

対数と冪

$x>1$ に対し、対数関数(対数関数)について $\log x=x^{\log\log x/\log x}$ であり、$\log\log x/\log x\to0$($x\to+\infty$)なので、def-landau-composite の意味で $\log x=x^{o(1)}$($x\to+\infty$)である。また任意の $\varepsilon>0$ に対し $\log x/x^\varepsilon\to0$ なので $\log x=o(x^\varepsilon)$ であるが、$x^\varepsilon$ が $\log x$ を上回り始める位置は $\varepsilon$ に依存する。この依存を明示して $\log x=o_\varepsilon(x^\varepsilon)$ と書く(rem-landau-subscript)。

有界な関数と $O$ 記号

$|\sin x|\le|x|$(すべての実数 $x$)なので $\sin x=O(x)$ は $x\to0$ でも $x\to\pm\infty$ でも成り立つ。$x\to+\infty$ では $|\sin x|\le1\le x$($x\ge1$)からも従う。また $x\ge1$ で $|2x+1+1/x|\le2x+x+x=4x$ なので $2x+1+1/x=O(x)$($x\to+\infty$)である。

微分可能性の $o$ 記号による表示

関数 $f$ が点 $a$ で微分可能(導関数)で微分係数が $f'(a)$ であることは、
$$ f(a+h)=f(a)+f'(a)h+o(h)\quad(h\to0) $$
と同値である。実際、$r(h):=f(a+h)-f(a)-f'(a)h$ とおくと、$h\ne0$ で $r(h)/h=\bigl(f(a+h)-f(a)\bigr)/h-f'(a)$ なので、prop-landau-quotient-form により $r(h)=o(h)$ は $\lim_{h\to0}\bigl(f(a+h)-f(a)\bigr)/h=f'(a)$ と同値である。より高次の近似として、$f$ が $a$ の近くで $n-1$ 回微分可能で $a$ で $n$ 回微分可能なら
$$ f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k+o\bigl((x-a)^n\bigr)\quad(x\to a) $$
が成り立つ(Peano 剰余付きの Taylor の定理はTaylorの定理を参照)。

漸近同値の計算

$x\to0$ のとき、$\frac1{1-x}-(1+x)=\frac{x^2}{1-x}$ であり $\frac{x^2}{1-x}\Big/x^2=\frac1{1-x}\to1$ なので、$\frac1{1-x}-(1+x)\sim x^2$ である。調和級数の部分和については $\sum_{k=1}^{n}\frac1k=\log n+\gamma+O(1/n)$($\gamma$ は Euler の定数(Eulerの定数))が成り立ち(Apo76 Theorem 3.2)、特に $\sum_{k=1}^{n}1/k\sim\log n$ である。$x$ 以下の素数(素数)の個数を $\pi(x)$ とすると、素数定理は
$$ \pi(x)\sim\frac{x}{\log x}\quad(x\to+\infty) $$
と表される(Apo76 Chapter 13)。

反例:極限点を変えると成り立たない評価

$x=O(x^2)$ は $x\to+\infty$ では成り立つ($x\ge1$ で $x\le x^2$)という性質を満たすが、$x\to0$ では成り立たないという性質を持つ。実際、定数 $C>0$ と除外近傍 $\{0<|x|<\delta\}$ で $|x|\le Cx^2$ が成り立つとすると、$1\le C|x|$ となるが、$|x|<1/C$ をとれば矛盾する(prop-landau-quotient-form で言えば $x/x^2=1/x$ は $0$ の近くで非有界である)。したがって「$x\to a$」の指定を省略した「$x=O(x^2)$」という主張には意味がない。同じ例は、$O$ が対称でないことも示す:$x\to+\infty$ で $x=O(x^2)$ だが $x^2=O(x)$ ではない。

反例:和の規則で絶対値が必要な理由

$x\to0$ で $g_1(x)=x$, $g_2(x)=-x$, $f_1(x)=x^2$, $f_2(x)=0$ とすると、$f_1=o(g_1)$, $f_2=o(g_2)$ という性質を満たすが、$f_1+f_2=x^2$ は $o(g_1+g_2)=o(0)$ という性質を満たさない($|x^2|\le\varepsilon\cdot0$ は $x\ne0$ で成り立たない)。したがって「$f_1=o(g_1)$ かつ $f_2=o(g_2)$ $\Rightarrow$ $f_1+f_2=o(g_1+g_2)$」という含意は成り立たず、prop-landau-basic-rules (4) の右辺を $o(|g_1|+|g_2|)$ とするか、$g_1,g_2\ge0$ を仮定する必要がある。

補足

歴史。 大文字の $O$ は Bachmann が1894年の著書で導入し、Landau が1909年の素数分布に関する著書で $o$ とともに広めたため、これらは Landau の記号と呼ばれる。$\Omega$ は Hardy と Littlewood が1914年に $o$ の否定として導入し、Knuth は1976年に計算量解析の必要から $\Omega$ と $\Theta$ を現在の計算機科学で標準となった意味に定義し直した(以上 Knu76)。Vinogradov の記号 $\ll$ は解析的整数論で標準的に用いられる(MV07)。
流儀の違い。 教科書によっては $g$ を実数値かつ最終的に正な関数に限り、$|g(x)|$ を単に $g(x)$ と書く。本記事は複素数値の $f,g$ も許す一般の定義を採り、$o$ を「任意の $\varepsilon$ に対する評価」で定義した(deB81 Chapter 1)。この定義は $g$ が $0$ になる点があっても意味を持ち、その場合 $f=o(g)$ は $g=0$ となる $a$ の近くの点で $f=0$ であることを含む。
漸近展開。 $f(x)=c_0+c_1(x-a)+\cdots+c_n(x-a)^n+o((x-a)^n)$ のように、Landau 記号によって誤差の位数を明示した近似の列を漸近展開という。Taylor の定理の Peano 形(ex-landau-derivative)はその一例であり、Stirlingの公式やΓ関数の漸近展開など、収束しない級数(級数)による近似も同じ枠組みで扱われる(deB81)。

関連項目

参考文献

[1]
N. G. de Bruijn, Asymptotic Methods in Analysis, Dover ed. (reprint of the 3rd ed., North-Holland, 1970), Dover Publications, 1981, Chapter 1(Introduction:§1.2–1.5 The O-symbol, the o-symbol, asymptotic equivalence)
[2]
Tom M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, 1976, §3.2(The big oh notation)、Theorem 3.2(調和数の漸近評価)、Chapter 13(素数定理)

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