最近の用語解説

冪零根基

冪零根基(nilradical)とは、可換環 $A$ の冪零元全体の集合 $\operatorname{nil}(A)=\{x\in A\mid x^n=0\text{ となる }n\ge1\text{ がある}\}$ のことである。これは $A$ のイデアルであり、すべての素イデアルの共通部分に一致するので、素スペクトルのすべての点で値が $0$ になる元の全体とみなせる。剰余環 $A/\operatorname{nil}(A)$ は $0$ 以外に冪零元をもたない被約環になる。イデアル $I$ に対しては、何乗かすると $I$ に入る元の全体として根基 $\sqrt{I}$ が定まり、$I$ を含む素イデアル全体の共通部分に等しい。冪零根基はすべての極大イデアルの共通部分である Jacobson根基に含まれるが、両者は一般に異なる。
3時間前

Bézoutの等式

Bézoutの等式(Bézout's identity)とは、少なくとも一方が $0$ でない整数 $a,b$ の最大公約数 $d=\gcd(a,b)$ が、ある整数 $x,y$ により $d=ax+by$ と書けるという定理である。$ax+by$ の形の整数全体はちょうど $d$ の倍数全体であり、係数 $x,y$ は Euclid の互除法の各段を記録する拡張互除法で計算できる。合同式の逆元の存在、1 次不定方程式 $ax+by=c$ の可解条件 $d\mid c$、互いに素であることの判定はこの等式から従う。単項イデアル整域では $(a,b)=(d)$ として同じ主張が成り立つが、$\mathbb{Z}[x]$ の $2$ と $x$ のように、最大公約元 $1$ が線形結合で書けない環もある。
3時間前

離散付値環

離散付値環(discrete valuation ring)とは、商体 $K$ 上の全射な離散付値 $v\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ によって $\{x\mid v(x)\ge0\}\cup\{0\}$ と表される整域のことであり、DVR と略される。$v(\pi)=1$ となる一意化元 $\pi$ をとると、$0$ でない元は $\pi^nu$($u$ は単元)と一意に書け、イデアルは $(\pi^n)$ だけである。体でない整域について、離散付値環であることは、局所単項イデアル整域であること、極大イデアルが単項な Noether 局所環であること、1 次元の正則局所環であることと同値である。代表例は $\mathbb{Z}_{(p)}$、$k[\![t]\!]$、$\mathbb{Z}_p$ で、曲線の点の局所環や数論の局所理論の基本となる。
4時間前

Gauss整数

Gauss整数(Gaussian integer)とは、実部と虚部がともに整数である複素数 $a+bi$ のことであり、その全体 $\mathbb{Z}[i]$ は複素数体の部分環をなす整域(Gauss 整数環)である。ノルム $N(a+bi)=a^2+b^2$ は乗法的で、単元は $\pm1,\pm i$ の 4 つに限る。ノルムを用いた余りのある割り算ができるので $\mathbb{Z}[i]$ は Euclid 整域であり、素因数分解が一意に定まる。素数 $p$ は、$p=2$ なら $-i(1+i)^2$ となり、$p\equiv1\pmod4$ なら $5=(2+i)(2-i)$ のように 2 つの共役な Gauss 素数の積に分解し、$p\equiv3\pmod4$ なら分解しない。この分類から Fermat の二平方定理が従う。
4時間前

既約多項式

既約多項式(irreducible polynomial)とは、体 $K$ 上の次数 $1$ 以上の多項式で、定数でない 2 つの多項式の積に分解しないもののことである。既約性は係数の体に依存し、$x^2+1$ は $\mathbb{R}$ 上既約だが $\mathbb{C}$ 上は $(x-i)(x+i)$ と分解する。体上の多項式環では、既約であることは素元であること、$(f)$ が極大イデアルであること、$K[x]/(f)$ が体であることと同値で、既約多項式は整数における素数の役割を果たす。2 次・3 次なら根の有無で判定でき、整数係数では Gauss の補題と Eisenstein の判定法が基本の道具である。有限体上では各次数の既約多項式の個数が Möbius 関数による公式で与えられる。
4時間前

互いに素

互いに素(coprime)とは、2 つの整数 $a,b$ の最大公約数が $1$ であること、すなわち $\pm1$ 以外に共通の約数をもたないことをいう。Bézout の等式により、これは $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ が存在すること、イデアルの言葉では $(a)+(b)=\mathbb{Z}$ と同値である。一般の可換環ではイデアル $I,J$ が $I+J=A$ を満たすとき互いに素といい、対ごとに互いに素なイデアルについて $A/(I_1\cdots I_n)\cong\prod A/I_i$ という中国剰余定理が成り立つ。$6,10,15$ のように全体の最大公約数が $1$ でも対ごとには互いに素でない例があり、$\mathbb{Z}[x]$ の $2$ と $x$ は共通の約数が単元だけだがイデアルとしては互いに素でない。
4時間前

素数

素数(prime number)とは、$2$ 以上の整数で、正の約数が $1$ と自分自身だけであるもののことである。$2,3,5,7,11,\dots$ と無限に続き(Euclid の証明)、$2$ 以上のすべての整数は素数の積としてただ 1 通りに書ける(算術の基本定理)。一意性の鍵は、素数 $p$ が $ab$ を割り切れば $a$ か $b$ を割り切るという Euclid の補題で、Bézout の等式から従う。$1$ は素数に含めない。含めると分解の一意性が崩れ、環論的には $1$ が単元だからである。$x$ 以下の素数の個数 $\pi(x)$ は $x/\log x$ に漸近する(素数定理)。環論では素数は整数環の素元、$(p)$ は素イデアルであり、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体になる。
4時間前

交代群

交代群(alternating group)とは、$n$ 次対称群 $S_n$ の偶置換全体、すなわち符号準同型 $\operatorname{sgn}\colon S_n\to\{\pm1\}$ の核 $A_n$ のことである。$n\ge2$ では $S_n$ の指数 $2$ の正規部分群で位数は $n!/2$ であり、$S_n$ の指数 $2$ の部分群はこれだけである。$n\ge3$ では 3 文字の巡回置換で生成され、$n\ge5$ では単純群になる。$A_4$ は位数 $12$ だが位数 $6$ の部分群をもたず、Lagrange の定理の逆が成り立たない例を与える。$A_5$ は正二十面体の回転群と同型である。
4時間前

部分加群

部分加群(submodule)とは、環 $R$ 上の加群 $M$ の部分集合 $N$ で、加法群の部分群であり、かつスカラー倍 $rx$($r\in R$、$x\in N$)で閉じているもののことである。ベクトル空間の部分空間、アーベル群の部分群、環の左イデアルはいずれも部分加群である。部分加群の共通部分と和は部分加群になり、準同型の核と像も部分加群である。部分加群 $N$ で割った商加群 $M/N$ の部分加群は、$N$ を含む $M$ の部分加群と一対一に対応する。ベクトル空間と違い、部分加群は補加群をもつとは限らない。たとえば $\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}$ の部分加群 $2\mathbb{Z}$ は、$\mathbb{Z}$ の直和因子にならない。
4時間前

分離拡大

分離拡大(separable extension)とは、代数拡大 $L/K$ のうち、$L$ のすべての元の最小多項式が重根をもたない(分離多項式である)もののことである。既約多項式 $f$ が分離的であることは $f'\neq0$ と同値なので、標数 $0$ の体や有限体の上の代数拡大はすべて分離拡大であり、分離的でない拡大は標数 $p$ の完全でない体の上にだけ現れる。典型的な反例は $\mathbb{F}_p(t^{1/p})/\mathbb{F}_p(t)$ で、$x^p-t=(x-t^{1/p})^p$ となる。分離拡大は推移的で、有限次分離拡大は 1 つの元で生成される(原始元定理)。Galois 拡大は正規かつ分離的な拡大として定義される。
4時間前

最近の参考書

結晶コホモロジーの構想(Grothendieck「Crystals and the de Rham cohomology of schemes」を読む)の表紙
結晶コホモロジーの構想(Grothendieck「Crystals and the de Rham cohomology of schemes」を読む)
本書は、A. Grothendieck が 1966 年に IHÉS で行った 5 回の講演の記録「Crystals and the De Rham cohomology of schemes」(J. Coates と O. Jussila による記録。『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』、North-Holland・Masson、1968 年、306–358 頁)を道案内にして、標数 p の代数多様体に対する p 進コホモロジーの構想、後の結晶コホモロジーの出発点を解説する参考書である。講義は代数的 de Rham コホモロジーの限界の検討から始め、ℓ 進コホモロジーでは見えない p 捩れを捉える理論への要請を列挙し、Monsky–Washnitzer の持上げの方法、接続と stratification、無限小トポスと標数 0 の基本定理を経て、divided power を備えた結晶トポスの定義を提案する。 本書は翻訳ではない。de Rham コホモロジーの批判と p 進理論の要請、Monsky–Washnitzer の方法、接続と Gauss–Manin 接続、無限小トポスと stratifying トポス、基本定理と Čech 計算、結晶トポスの構想、という主題ごとに六つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 講義録は着想と見込みを多く含む。本書は、講義が一行で済ませた段(形式的持上げの一意性、Cartan のホモトピー公式、標数 p の楕円曲線族での標準的な stratification の非存在、形式 Poincaré 補題と基本定理の証明など)を補って閉じ、第 1〜6 章の 89 個の主結果を、本書の中で証明し切れたもの(完結、13 件)、引用した定理に依るもの(条件付き、66 件)、証明を閉じられなかったもの(未完結、10 件)、そのままでは成り立たないもの(偽、0 件)に分けて札で示す。印字の誤り(対数の符号など)は訂正した形で述べ、根拠を注意に書く。講義が「期待する」と述べた見込み(結晶トポスの二つの性質、二つの予想、Monsky–Washnitzer コホモロジーの有限性など)は原論文の状態として記録し、Berthelot の結晶コホモロジー(1974 年)など後代の理論での定着を時点を明記して分けて書く。 読むには、スキーム論と連接層のコホモロジー、代数的 de Rham コホモロジーと比較定理、エタールコホモロジーの初歩が要る。第 2 章からは Witt ベクトルと形式スキーム、第 4 章からは景とトポスと微分作用素の初歩が加わる。すべてを先に学ぶ必要はなく、要点は第 0 章に、頁ごとに要る前提の対応表と読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と約束、原論文の引き方は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、目次の各章の説明に書いた。
1日前
Chern 類の公理的理論(Grothendieck「La théorie des classes de Chern」を読む)の表紙
Chern 類の公理的理論(Grothendieck「La théorie des classes de Chern」を読む)
本書は、A. Grothendieck の論文「La théorie des classes de Chern」(Bulletin de la Société Mathématique de France 第 86 巻、1958 年、137–154 頁)を道案内にして、代数的ベクトル束の Chern 類の公理的理論を解説する参考書である。原論文は Borel と Serre による Riemann–Roch の定理の解説論文の付録として書かれた 18 頁の短い論文で、非特異な代数多様体の上のベクトル束の Chern 類を、Grassmann 多様体を使わずに、射影束のサイクル類環の構造だけから定義し、関手性・正規化・加法性の三つの性質で一意に特徴づけた。Chow 環でも Hodge 型のコホモロジーでも整係数コホモロジーでも同じ議論が通るこの定式化は、その後の交叉理論と Riemann–Roch の定理の標準的な道具になった。 本書は原論文の翻訳ではない。原論文の節の順序ではなく、射影束と旗多様体による分裂、公理系とそのモデル、Chern 類の定義と特徴づけ、λ 環と Chow 環への応用、正則切断の零点サイクル、という主題ごとに五つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応という同じ形で書いてある。 原論文は「いつものように旗多様体へ移って」「形式的に確かめられる」「ここでは証明しない」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って証明を閉じ、各主張が、本書の中で証明し切れたもの(完結)、引用した定理に依るもの(条件付き)、証明を閉じられなかったもの(未完結)、そのままでは成り立たないもの(偽)のどれに当たるかを区別して示す。λ 環の構造を与える普遍多項式の存在、横断性の局所計算、Chow 環と $K$ 群の随伴次数付き環の比較の式は本書で補い、原論文が証明を与えない式は、後代の Chern 指標による説明と分けて扱う。 読むには、スキーム論と局所自由層、Chow 環と交叉理論の初歩、層コホモロジーの基本が要る。第 2 章の後半では Hodge 型のコホモロジーと Leray スペクトル系列が、第 4 章では Grothendieck 群と対称関数が加わる。すべてを先に学ぶ必要はない。分野ごとの要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案は第 0 章の「本書の読み方」に、全頁に共通する記号と約束は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、下の目次の各章の説明に書いた。
4日前
代数的 de Rham コホモロジー(Grothendieck の de Rham コホモロジー論文を読む)の表紙
代数的 de Rham コホモロジー(Grothendieck の de Rham コホモロジー論文を読む)
本書は、A. Grothendieck の論文「On the de Rham cohomology of algebraic varieties」(Publications Mathématiques de l'IHÉS 第 29 巻、1966 年、95–103 頁)を道案内にして、代数的 de Rham コホモロジーの理論を解説する参考書である。原論文は M. F. Atiyah に宛てた 1963 年 10 月の書簡の抜粋に、同年 11 月と 1965 年 7 月の注を付けた 9 頁の短い論文で、複素数体上の非特異な代数多様体の複素係数コホモロジーが、代数的な微分形式の複体だけで計算できるという比較定理を示した。この定理は、Atiyah と Hodge の第二種積分の理論を純代数的なものに置き換え、Hodge–de Rham スペクトル系列、周期、Gauss–Manin 接続、標数 p の結晶コホモロジーへ続く道を開いた。 本書は原論文の翻訳ではない。書簡の順序ではなく、代数的 de Rham コホモロジーの定義、比較定理とその証明、第二種積分と周期、Hodge–de Rham スペクトル系列、相対 de Rham コホモロジーと標数 p、という主題ごとに五つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応という同じ形で書いてある。 原論文は書簡なので、多くの段が「標準的な議論で」「容易に確かめられる」で済まされている。本書はその段を補って証明を閉じ、各主張が、本書の中で証明し切れたもの(完結)、引用した定理に依るもの(条件付き)、証明を閉じられなかったもの(未完結)、そのままでは成り立たないもの(偽)のどれに当たるかを区別して示す。原論文の後半にある期待や推測は、著者自身が注で撤回したもの(標数 p での Betti 数との一致は Serre の反例で破れる)と、後に定理になったもの(Gauss–Manin 接続、標数 p での退化)を分けて扱い、後代の結果は引用であることを明示する。 読むには、可換環論とホモロジー代数、スキーム論と連接層のコホモロジー、複素解析空間と GAGA の初歩が要る。第 3 章からは Hodge 理論と楕円曲線の周期、第 4 章と第 5 章ではアーベル多様体とエタールコホモロジーの初歩が加わる。すべてを先に学ぶ必要はない。分野ごとの要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案は第 0 章の「本書の読み方」に、全頁に共通する記号と約束は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、下の目次の各章の説明に書いた。
4日前
Brauer群の理論(GrothendieckのBrauer群 I–III を読む)の表紙
Brauer群の理論(GrothendieckのBrauer群 I–III を読む)
本書は、A. Grothendieck の連続講演「Le groupe de Brauer」I(Azumaya 代数)・II(コホモロジー論)・III(補足と計算)を道案内にして、スキームの Brauer 群の理論を解説する参考書である。I と II は Séminaire Bourbaki の 1964/65 年と 1965/66 年の講演で、III を加えた 3 篇が論文集『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』(North-Holland・Masson、1968 年)に収められている。原論文は、体の中心単純環の同値類として古典的に定義されていた Brauer 群を、スキームの上の理論に作り直し、エタールコホモロジーの言葉で計算できるようにして、双対性と双有理不変量へつないだ。 本書は原論文の翻訳ではない。原論文の節の順序ではなく、Azumaya 代数、コホモロジー的 Brauer 群、低次元の計算、fppf 位相、純性と双有理不変性、双対性、高次の双有理不変量と予想、という主題ごとに七つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応という同じ形で書いてある。 原論文は、当時の読者が EGA と SGA 4 を手元に置いていることを前提に、多くの段を「よく知られている」「直ちに分かる」で済ませている。本書はその段を補って証明を閉じ、各主張が、本書の中で証明し切れたもの(完結)、引用した定理や仮定に依るもの(条件付き)、証明を閉じられなかったもの(未完結)、印字のままでは成り立たないもの(偽)のどれに当たるかを区別して示す。エタールコホモロジーの基本定理、曲面の交叉理論、Weil 予想の Deligne による証明など、外部から引く結果は引用であることを明示し、各頁の末尾に原論文の番号と頁との対応表を置く。 読むには、可換環論、ホモロジー代数、スキーム論、層とエタールコホモロジー、Galois コホモロジーと類体論の初歩が要る。第 2 章の後半からは代数曲面と ℓ 進の道具が、第 7 章の最後では Hodge 理論の初歩が加わる。すべてを先に学ぶ必要はない。分野ごとの要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案、全頁に共通する記号と約束は、第 0 章の頁「本書の読み方」と「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、下の目次の各章の説明に書いた。
7日前
ネットとフィルターによる位相空間論の表紙
ネットとフィルターによる位相空間論
旧Mathpediaの二つの完成稿を、原稿ごとの境界と番号体系を保って二部構成にした参考書である。第I部はネット、第II部はフィルターを用いて、閉包・連続性・Hausdorff性・コンパクト性・直積位相・Tychonoffの定理を並行して扱う。さらに、二つの定式化を往復するための編集補節を加えた。 【第I部・ネット】 本稿においては、ネットの収束を用いた位相空間論の基本的議論を説明する。ネットは単純に述べれば点列を一般化した概念である。位相空間論においてネットを用いるメリットは、位相的性質をネットの収束により直観的に扱うことが出来る点であり、複雑な関数空間の位相を取り扱う関数解析の議論においては頻繁に用いられる。点列は、距離空間に代表される第一可算空間における収束の問題を扱うのに十分有効であるが、関数解析学における弱位相、弱 $*$-位相のような第一可算性のない位相における収束の問題を扱う際、必ずしも十分ではない。しかし点列の収束をネットの収束に一般化することで、位相空間の可算性に関わらず点列による収束の議論と全く同様の議論が有効になる。また、ネットの概念を用いればある種の命題の証明がほとんど自明化されることもある。ネットはフィルターと同値な概念であり、同様にフィルターによる位相空間論も展開されるが、こちらは集合論の議論において用いられることが多い。本稿においてはネットによる閉性、連続性、Hausdorff 性、コンパクト性などの基本的な位相的性質の特徴付けを行う。また点列との対比のため可算性のある位相空間において、それらの点列による特徴付けを、実際に位相空間の可算性を用いて行う。そして最後にネットにより比較的容易な証明が可能であるTychonoff の定理を示す。 【第II部・フィルター】 本稿においては、フィルターの収束を用いた位相空間論の基本的議論を説明する。位相空間におけるフィルターは単純に述べれば点列を抽象化した概念である。位相空間論においてフィルターを用いるメリットは、位相的性質を収束を中心に扱うことと、超フィルターという強力な概念を駆使することで、収束に関わる性質(特に Hausdorff性 やコンパクト性)を上手く扱えることである。抽象的な位相空間を取り扱う一般位相の議論においては頻繁に用いられる。フィルターはネットと同値な概念であり、同様にネットによる位相空間論も展開されるが、こちらは関数解析の議論において用いられることが多い。本稿においてはフィルターによるコンパクト性やHausdorff 性などの基本的な位相的性質の特徴づけを行い、フィルターにより比較的容易な証明が可能であるTychonoff の定理を示すことを目標とする。
20日前
位相空間論の表紙
位相空間論
このテキストでは、現代数学のどの方面に進むにあたっても必要となる位相空間論の基本事項を、証明をつけた形で解説する。読者には、集合と写像の言葉への慣れを期待する。たとえば、和集合・共通部分などの集合の操作や、全射・単射・像・逆像などの概念には親しんでいるものとする。さらに、具体例を理解するためには、連続性の $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた定義や、数列の収束の定義、実数の基本性質などを理解していることが望ましい。 現代数学では、点の集まりとしての集合に構造を付加することにより、多彩な概念を構成していく。例えば、代数学においては、集合に加法や乗法などの演算という構造を付加して群、環、体などといった概念を考える。位相空間は、集合にある種の構造を付加することで、写像の連続性や点列の収束など、ある種の「近さ」にまつわる議論を可能にしたものである。つまり、端的に言えば、位相空間とは「近さ」が定義される場所である。 座標平面 $\mathbb{R}^2$ の中には、我々が慣れ親しんだ数多くの図形、たとえば、線分、円、三角形、四角形がある。こうした図形には、自然に「近さ」の概念があると考えられるが、実際にこれらの図形は $\mathbb{R}^2$ からの相対位相という自然な方法で、位相空間とみなすことができる。しかし、図形を位相空間とみなすことは、同時に「近さ」以外の要素を捨象することでもある。その結果として、通常では同じとは思えない図形が、位相空間として同一(正式な用語では「同相」)となることがある。実際、いま述べた円、三角形、四角形はすべて互いに同相である。しかし、線分はこれらと同相ではない。このように、位相空間の立場では図形がかなり「粗く」分類されることになるが、この立場での図形の分類を目指す学問が位相幾何学である。 上に述べたことからも、位相空間論は幾何学の基礎として重要なことは推察されると思うが、位相空間論の重要性は幾何学に留まるものではない。数学の様々な分野で、直観的には図形とは思えない集合に位相空間の構造を与えることで、ある種の図形的考察が可能となる。一つ例を挙げれば、関数解析学においては、関数のなす集合に位相空間としての構造を与えることで「関数空間」をつくり、関数を点とする一種の図形として取り扱うことで解析学の問題解決に豊富な道具を提供している。
20日前
微分方程式の初歩の表紙
微分方程式の初歩
常微分方程式の初期値問題から、Sobolev空間版Gaussの発散定理、楕円型正則性、調和関数、Laplace–Poisson方程式、波動方程式へ進む。
20日前
Hilbert空間上の作用素論の表紙
Hilbert空間上の作用素論
有界・非有界作用素、射影値測度、スペクトル定理、極分解、直和・テンソル積、コンパクト作用素、摂動論、作用素イデアル、von Neumann環、解析ベクトルを体系的に扱う。
20日前
複素解析の基礎の表紙
複素解析の基礎
複素微分と正則関数、冪級数、複素線積分、Cauchy理論、Laurent展開と留数、複素Banach空間値正則関数までを扱う。
20日前
Euclid空間における微積分とベクトル解析の表紙
Euclid空間における微積分とベクトル解析
Euclid空間の多変数微分法から、Euclid空間内の多様体、微分形式、計量、Riemann測度、向き、Stokesの定理までを体系的に扱う。
20日前

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