本書は、A. Grothendieck が 1966 年に IHÉS でまとめた論文「Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets」(『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』、North-Holland・Masson、1968 年、215–305 頁)を道案内にして、離散群の線形表現の Chern 類を代数的・算術的に扱う方法を解説する参考書である。原論文は、体の自己同型で不変な整係数の理論が作れないことから出発し、1 の冪根の捩れを係数とするエタールコホモロジーで作用群つきスキームの Chern 類を定め、位相的な Chern 類と比べたうえで、体の自己同型が Chern 類に働く様子から、有限生成の群の複素表現の有理 Chern 類が 0 になることを示した。Weil 予想の下での射影多様体への一般化、捩れにならない算術的な例、de Rham 型の類、Milnor の定理の一般化も含む。 本書は翻訳ではない。整係数の障害と序論の構想、算術的 Chern 類の構成、超越的 Chern 類との比較、幾何的な場合の捩れ定理、Weil 予想と射影多様体、算術的な場合、de Rham 型と Hodge 型の Chern 類、平坦束の特性類と Milnor の定理、という主題ごとに八つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 原論文は「容易に確かめられる」「読者に任せる」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って閉じ、第 1〜8 章の 131 個の主結果を、本書の中で証明し切れたもの(完結、11 件)、引用した定理に依るもの(条件付き、111 件)、証明を閉じられなかったもの(未完結、9 件)に分けて札で示す。原論文の印字のままでは成り立たない主張(7 件)は、独立の状態札を立てず、訂正した主張だけを主結果として札を付け、原論文の形がどの反例で破れるかをその頁の注意に書く。誤植は訂正した形で述べて根拠を注意に書く。原論文が予想や期待として述べたことは原論文の状態として記録し、後代の結果とは時点を明記して分ける。Chern 類の公理的な扱いは第 3 巻『Chern 類の公理的理論』に委ねる。 読むには、スキーム論、群のコホモロジー、エタールコホモロジーの初歩、位相的な Chern 類が要る。第 5 章からは Weil 予想の言明、第 7 章からは de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー、第 8 章からは Lie 群と代数群の構造が加わる。すべてを先に学ぶ必要はなく、要点は第 0 章に、頁ごとに要る前提の対応表と読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と射影束の規約、原論文の引き方は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、目次の各章の説明に書いた。
本書を読むのに要る分野を一覧にし、要点を書き、本書での使いどころと教科書への案内を添える章である。群のコホモロジー、転送、Hochschild–Serre のスペクトル系列、分類空間、コホモロジー次元(0-2)、エタール景と Galois コホモロジー、Kummer 列と Hilbert 90、Tate 捩れ、固有底変換、Artin の比較定理、Weil 予想の言明(0-3)、Hirzebruch の Chern 類、Borel 構成、平坦束と基本群の表現、Chern–Weil 理論、代数群の構造(0-4)、Kähler 微分、超コホモロジー、Hodge–de Rham スペクトル系列、Atiyah 類(0-5)の順に並べる。Chern 類の公理的な扱いは第 3 巻に委ねる。頁ごとの前提の対応表と読む順序は 0-1 に、記号と射影束の規約、原典の引き方、状態札の意味は 0-6 にまとめる。
原典の序論 0.1〜0.11 のうち、整係数の理論が持てない理由と全体の構想を扱う章である。1-1 は離散群の複素表現の位相的な第一 Chern 類が行列式の指標そのものであることを示し、複素数体の自己同型が 1 の冪根を動かすことから、体の同型で不変な整係数の純代数的な第一 Chern 類は位数 3 以上の巡回群では存在しないことを証明する。原典はこの否定を位数 2 にも述べるが、位数 2 では指標の値が符号だけで自己同型に動かされないので、偽として反例と訂正形を示した。1-2 は群の作用する集合のトポスによる群コホモロジーの表示を証明し、de Rham 型の変種、分類トポスと普遍類、局所モノドロミーの定理など、序論が予告して他所に送る主張を原典の状態とともに記録し、以後の章への地図とする。局所モノドロミーの定理には後に SGA 7 で証明が与えられた。
原典 §1・§2 に当たり、作用群つきスキームのエタールコホモロジーに、1 の冪根の捩れを係数とする Chern 類を作る章である。2-1 は作用群つきのエタール層がトポスをなすこと、混合コホモロジーのスペクトル系列、Kummer 列の完全性を示す。2-2 はエタールの射影束公式を、固有底変換と射影空間のコホモロジーから導来圏の一つの射として証明する。原典の (1.12) と (2.4) は和の上限を書かず、(1.12) はその範囲に理由を添えているので、偽として反例と訂正形を示し、一般の局所環付きトポスの場合は未完結に残した。2-3 は射影束公式から Chern 類を定め、関手性・正規化・加法性を示す。一意性と公式集は第 3 巻を引き、加法性は台つきコホモロジーで直接閉じる。2-4 は係数を動かすときの両立と ℓ 進 Chern 類を扱い、原典の「n 乗」を「m 乗」と読む誤植を直した。
原典 1.8 と §3 に当たり、算術的に作った Chern 類が、位相的に作った整係数の Chern 類の還元になっていることを示す章である。3-1 は作用群つきの位相空間で指数列から整係数の類を作り、Kummer 列から作る有限係数の類がその還元であることを、二つの列を結ぶ図式の余境界の自然性で証明する。空間に Hausdorff 性とパラコンパクト性を足し、類は通常の射影束で作った。原典が相対スキームとしての射影束で作る類との一致は未完結に残す。3-2 は複素数体上有限型かつ分離的なスキームで、エタールと古典位相の比較から、算術的類が超越的類の還元であることを導く。局所有限型や分離的でない場合は未完結とした。3-3 は ℓ 進類から整係数類を取り戻す条件を普遍係数の列で調べ、有限係数では見えない部分が無限に ℓ で割れる元であることを特定する。
原典 0.5 と §4 の前半に当たり、分離閉体の上の離散群の表現の ℓ 進 Chern 類が捩れであることと、その位数の上界を示す章である。4-1 は体の自己同型が Chern 類を移すことから、表現の類が不変なら Chern 類も不変になることを導き、円分指標とその像を調べる。4-2 は円分指標の像の作用から位数の上界を得る。原典は第一 Chern 類でこの上界がすでに最良でないと例を挙げるが、その例では類は 0 でなく、第一 Chern 類では上界は常に達成されるので、原典の主張を偽とし、正しい形を本書で証明した。4-3 は総括定理を原典の群の名の誤植を直した形で述べ、複素表現の有理 Chern 類が 0 であること、整係数の類が捩れになる条件を導く。系 4.11 の添字の誤植を直し、注意 4.12 b) の同型の主張は偽として単射性に弱めた。
原典 4.12〜4.14 に当たり、分離閉体の上の射影的で滑らかな多様体に作用する群の表現へ、捩れ定理を広げる章である。5-1 は有限体の上で、Frobenius の固有値の絶対値についての Weil 予想を仮定して混合 Chern 類が捩れであることを、零化多項式の議論で任意の群について示し、模型への特殊化を経て定理 4.13 を導く。第一 Chern 類では Weil の定理で足り、仮定は要らない。Weil 予想は後に Deligne(1974 年)が証明したので、定理 4.13 は今日では無条件の定理である。5-2 は注意 4.14 を扱い、固有性を外すと結論が壊れることを乗法群の積の上の計算で、可微分多様体への類似が偽であることをトーラスの上の束で示す。原典が期待する固有な場合への拡張は Weil II(1980 年)の重みの理論から従う見込みがある。
原典 0.6 と §5 に当たり、基礎体が分離閉でない算術的な場合に、混合 ℓ 進 Chern 類が捩れにならない例と、コホモロジー次元による消滅を扱う章である。6-1 は群が自明に作用するときの Künneth 公式と普遍係数型の分解を示す。原典の帰納極限の公式は無限生成の群で偽になるので反例を与え、型 FP 無限大の群に限った形を証明した。6-2 は指標の第一 Chern 類が捩れになる条件を無限に割れる元で述べ、有限生成の体の上の ℓ 進類が捩れでない例を立てる。6-3 は Kummer 類の積が留数で消えないことから、捩れでない高次の類を作る。6-4 は群と体のコホモロジー次元から類の消滅と定義体の超越次数の下界を導き、6-5 は組成列の数え上げによる命題 5.5・5.7 と数体の整数環の上の類を扱う。ℓ 進の分解の整数版の一般形と、整数環の上の有限性は未完結に残した。
原典 0.7 と §6 に当たり、de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーに値をとる Chern 類を定め、ℓ 進の類と比べる章である。7-1 は第一 Chern 類を対数微分で定め、Hodge–de Rham スペクトル系列の中での位置を示す。高次の類に要る射影束公式は原典が準備中の論文に委ねるので未完結とし、Chern 類の形式は原典どおり仮定に置く。7-2 は作用群つきの場合を定め、係数環の微分形式が消えると理論が空になることを示す。7-3 は係数環が大きいと類が消えないことを留数で確かめ、有理数体の上で ℓ 進の類は捩れでないのに de Rham 型の類が 0 になる食い違いと、原典の p 進 Chern 類の予想を記録する。7-4 は次元による消滅、整数環の上の類、Atiyah 類を扱い、特性多項式の係数による構成が標数 2 で成り立たない反例を示した。
原典 0.9 と付録 §7 に当たり、複素代数群への離散群の準同型から来る平坦束の有理特性類が正の次数で消えるという Milnor の定理の一般化を扱う章である。8-1 は簡約群の場合を Chern–Weil 理論で、連結可換群の場合を円周群への帰着で示し、序論の同値な二つの言い方と一般線形群の場合を述べる。8-2 は単位成分、単冪根基、同種写像を使う代数群の構造論で一般の場合を簡約群と可換群に帰着し、定理 7.1 とその系を証明する。原典が段 c) の理由に挙げる単射性は群の側のもので、帰着に要るのは同じ転送の論法による離散群の側の単射性であることを本文に書く。8-3 は代数性の仮定が外せないことを、実半単純群での Riemann 面の一意化の例と、Serre による複素 Lie 群の例で示し、整係数では類が捩れとは限らないことも示す。
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