基礎体が分離閉でなければ、離散群の表現の ℓ 進混合 Chern 類は、第一 Chern 類に限らず任意の次数で捩れでなくなりうる。本頁は原論文の小節 5.3.2 に沿って、$n$ 変数の有理関数体の上の自由アーベル群 $\mathbf Z^n$ の表現で第 $n$ Chern 類が捩れでない例を作る。鍵は、変数の Kummer 類の cup 積が留数写像で消えないことである。
$k_0$ は任意の体、$\ell$ は $k_0$ の標数と異なる素数、$t,t_1,\dots,t_n$ は不定元とする。群は体のスペクトルに自明に作用し、表現は指標の直和で与える。$\mathbf Z$ の $k_0(t)$ 上の階数 1 の表現 $L$ を $1\mapsto t$ で、$\mathbf Z^n$ の $k=k_0(t_1,\dots,t_n)$ 上の表現を $E=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$($L_i$ は $i$ 番目の座標の生成元に $t_i$ を掛ける指標)で定める。$u_1\in H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)$、$u_n\in H^n(\mathbf Z^n,\mathbf Z)$ は標準生成元、$\kappa(a)$ は $a$ の ℓ 進 Kummer 類である。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文の §4 は、分離閉体の上の表現について、体の自己同型が Chern 類に円分指標の冪で働くことから、有限生成の群の表現の ℓ 進 Chern 類が捩れであることを示した(本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)。§5 は基礎体が分離閉でない「算術的」な場合に移り、小節 5.3 の冒頭で、事情がまったく違うと述べる。定義体が素体の上で有限型でも、ℓ 進混合 Chern 類は捩れとは限らない。
階数 1 ではこれは指標の値の問題で、体が素体の上で有限型なら、指標の第一 Chern 類が捩れになるのは値が 1 の冪根に入るときに限る(本書『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』)。原論文の 5.3.2 は、これを積にして高い次数の例を作る。自由アーベル群 $\mathbf Z^n$ を $n$ 個の独立な変数に掛け算で働かせると、第 $n$ Chern 類は $n$ 個の第一 Chern 類の積になり、Künneth 公式でそれを「変数の Kummer 類の積」と「群の側の最高次の生成元」の積に分けられる。残るのは、Kummer 類の積が消えないことである。原論文はこれを補題 5.3.1 に帰着させ、その補題の証明は Laurent 級数体の上の「明示的な局所計算」として SGA4 の第 X 講に送る(印字 pp. 278–279)。本頁はその局所計算を留数写像で書き、例全体を閉じる。
この例は、原論文が §4 で示した捩れ性が、体の自己同型の群が十分大きいこと、すなわち基礎体が分離閉であることに本質的に依っていることを示す。捩れでない部分は、体の Galois コホモロジーと群のコホモロジーの両方に次数をもつ混合の成分に現れる。
Künneth 公式の分解を書くために、体のコホモロジー類と群のコホモロジー類から混合コホモロジーの類を作る積を定める。
$K$ を体、$G$ を離散群とし、$G$ は $\operatorname{Spec}K$ に自明に作用するとする。$\operatorname{Spec}K$ 上のエタール層 $F$ に自明な作用(すべての $\theta_g$ が恒等写像)を入れて $(\operatorname{Spec}K,G)$ 上の層とみる。作用群つきスキームの射 $p=(\mathrm{id},G\to\{e\})\colon(\operatorname{Spec}K,G)\to(\operatorname{Spec}K,\{e\})$(作用が自明なので射の条件を満たす)による引き戻しを $p^*$、スペクトル系列の端写像 $H^j(G,\mathbf Z)=E_2^{j,0}\to H^j(K,G;\mathbf Z)$ を $e$ と書く。$a\in H^q(K,F)$、$b\in H^j(G,\mathbf Z)$ に対し
$$a\otimes b:=p^*a\cup e(b)\in H^{q+j}(K,G;F)$$
とおき、$a$ と $b$ の外部積という。$e$ は $(\operatorname{Spec}K,G)$ から $G$ 集合のトポスへの射による引き戻しと言ってもよい。$T_\ell^{\otimes i}$ 係数では成分ごとに定める。
$p^*$ も $e$ も作用群つきスキームの射による引き戻しと両立するので、外部積は群を動かす射 $(q,\gamma)$ について $(q,\gamma)^*(a\otimes b)=q^*a\otimes\gamma^*b$ を満たす。本書『6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数』の Künneth 公式は、$H_*(G,\mathbf Z)$ が有限型自由のとき、外部積の和 $\bigoplus_{q+j=m}H^q(K,F)\otimes H^j(G,\mathbf Z)\to H^m(K,G;F)$ が同型であることを言う。$G=\mathbf Z^n$ はこの仮定を満たす。
次に、原論文 5.3.2 の表現を置く。原論文の記号をそのまま使うが、印字の誤りは下の注意で読み替える。
$k_0$ を任意の体、$\ell$ を $k_0$ の標数と異なる素数とする。
(1) $\mathbf Z$ は $\operatorname{Spec}k_0(t)$ に自明に作用し、$L$ は $\mathbf Z$ の $k_0(t)$ 上の階数 1 の表現で、$1\in\mathbf Z$ が $t$ 倍で働くもの、すなわち指標 $\mathbf Z\to k_0(t)^*$、$1\mapsto t$ の定める表現とする。
(2) $n\ge1$、$k=k_0(t_1,\dots,t_n)$ とし、$t\mapsto t_i$ の定める体の埋め込み $k_0(t)\to k$ を $q_i\colon\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k_0(t)$ と書く。$\mathbf Z^n$ は $\operatorname{Spec}k$ に自明に作用し、$L_i$ は指標 $g=(g_1,\dots,g_n)\mapsto t_i^{g_i}$ の定める表現、$E:=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$ とする。
(3) $u_1\in H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)=\operatorname{Hom}(\mathbf Z,\mathbf Z)$ は恒等写像、$e_i^*\in H^1(\mathbf Z^n,\mathbf Z)=\operatorname{Hom}(\mathbf Z^n,\mathbf Z)$ は第 $i$ 座標、$u_n:=e_1^*\cup\cdots\cup e_n^*\in H^n(\mathbf Z^n,\mathbf Z)$ とする。
$\mathrm{pr}_i\colon\mathbf Z^n\to\mathbf Z$ を第 $i$ 射影とすると、$(q_i,\mathrm{pr}_i)\colon(\operatorname{Spec}k,\mathbf Z^n)\to(\operatorname{Spec}k_0(t),\mathbf Z)$ は作用群つきスキームの射であり、$L$ の逆像は指標 $g\mapsto q_i(t)^{g_i}=t_i^{g_i}$、すなわち $L_i$ である。$\mathrm{pr}_i^*u_1=e_i^*$ である。
最後に、Kummer 類の記号を繰り返しておく。
体 $K$ と、$K$ の標数と素な整数 $m$ について、Kummer 列 $1\to\mu_m\to\mathbf G_m\xrightarrow{m}\mathbf G_m\to1$ の余境界を $\delta_m\colon K^*\to H^1(K,\mu_m)$ と書き、$\delta_m(a)$ を $a$ の Kummer 類という。Hilbert 90 により $\delta_m$ は同型 $K^*/K^{*m}\cong H^1(K,\mu_m)$ を与える。素数 $\ell$ について $\kappa(a):=(\delta_{\ell^\nu}(a))_\nu\in H^1(K,T_\ell)$ を ℓ 進 Kummer 類という。$K\subset K'$ への制限は $\delta_m(a)$ を $\delta_m(a)$ に移す。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に SerGal64、Ser62、SGA4 で、該当箇所の番号は本頁では確かめていない。要点は本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』にある。
まず第一 Chern 類の側で、原論文が $\xi$ と呼ぶ類が変数の Kummer 類そのものであることを確かめる。これで例の問題は体の Galois コホモロジーの問題に移る。
定義(5.3.2 の表現)の (1) の $L$ について、各 $\nu$ で
$$c_1^{(\ell^\nu)}(L)=\pm\,\delta_{\ell^\nu}(t)\otimes u_1\in H^2\bigl(k_0(t),\mathbf Z;\mu_{\ell^\nu}\bigr)$$
であり、符号は $\nu$ にも $k_0$ にもよらない。したがって $c_1(L)(\ell)=\xi\otimes u_1$ となる $\xi\in H^1(k_0(t),T_\ell)$ がただ一つあり、$\xi=\pm\kappa(t)$ である。$\xi_i:=q_i^*\xi$ とおくと $\xi_i=\pm\kappa(t_i)\in H^1(k,T_\ell)$ である。
$K=k_0(t)$、$G=\mathbf Z$、$n=\ell^\nu$ と書く。
段 1(可逆層の類を外部積で書く).$t\in K^*=H^0(K,\mathbf G_m)$ は $G$ 不変なので、$(\operatorname{Spec}K,G)$ 上の射 $\alpha\colon\mathbf Z\to\mathbf G_m$、$1\mapsto t$ を定める。引用する事実 2 により $p^*t\cup e(u_1)=\alpha_*(e(u_1))$ であり、端写像 $e$ は係数について自然なので、これは $e(\alpha_*u_1)$ に等しい。$\alpha_*u_1\in H^1(G,K^*)=\operatorname{Hom}(\mathbf Z,K^*)$ は $1\mapsto t$ である。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「体の上の作用つき可逆層の類」により、端写像 $H^1(G,K^*)\to H^1(K,G;\mathbf G_m)$ は同型で、指標 $\chi$ を $cl(L_\chi)$ に(トルソーとコサイクルの対応の約束によっては $cl(L_\chi)^{-1}$ に)移す。よって $cl(L)=\pm\,t\otimes u_1$(和の記号で書いた符号)であり、符号はその約束だけで決まる。
段 2(余境界をとる).$c_1^{(n)}(L)=\partial\,cl(L)$ である(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「逆像との両立と正規化」)。引用する事実 2 により $e(u_1)$ との cup 積は Kummer 列の余境界と符号を除いて可換なので、$\partial(p^*t\cup e(u_1))=\pm\,\partial(p^*t)\cup e(u_1)$。$p$ による逆像は完全で Kummer 列を Kummer 列に移すので $\partial(p^*t)=p^*\delta_n(t)$。よって $c_1^{(n)}(L)=\pm\,\delta_n(t)\otimes u_1$ で、符号は段 1 と引用する事実 2 の約束だけで決まり、$n$ にも $K$ にもよらない。
段 3(ℓ 進の類と一意性).遷移写像 $\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mu_{\ell^\nu}$ は Kummer 類を Kummer 類に移し、外部積と両立するので、段 2 の等式は成分ごとに ℓ 進の等式 $c_1(L)(\ell)=\pm\kappa(t)\otimes u_1$ を与える。$H_*(\mathbf Z,\mathbf Z)$ は $\mathbf Z$(次数 0)と $\mathbf Z$(次数 1)で有限型自由なので、本書 6-1 の Künneth 公式により $a\mapsto a\otimes u_1$ は $H^1(K,T_\ell)$ から $H^2(K,\mathbf Z;T_\ell)$ の直和因子への同型である。よって $\xi$ は一意で $\xi=\pm\kappa(t)$。最後に、外部積の引き戻しとの両立と Kummer 類の自然性から $q_i^*\kappa(t)=\kappa(t_i)$ で、$\xi_i=\pm\kappa(t_i)$ である。
これで、原論文が (5.18) で Künneth 分解の成分として定めた $\xi$ は、具体的に変数 $t$ の Kummer 類であることが分かった。本書『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』の例「無限巡回群と Kummer 類」が、本書 2-1 の分解で同じ成分 $(0,\pm\kappa(t))$ を別の道で求めている。$c_1(L)(\ell)$ が群の側の正の次数の成分 $H^1(K,T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)$ だけに入ることも、上の等式から直接読める。
原論文は 5.3.2(印字 pp. 277–278)で次のように印字する。本書はいずれも誤植として読み替え、主結果には数えない。
(a) 体の埋め込みは「$k(t)\to k$」と印字されるが、$t\mapsto t_i$ の定める $k_0(t)\to k$ と読む。
(b) (5.18) の右辺の群は「$H^1(k(t_0),T_\ell)$」と印字されるが、$H^1(k_0(t),T_\ell)$ と読む。
(c) 指標は「$\mathbf Z\to k_0(t)$」と印字されるが、値は乗法群 $k_0(t)^*$ にある。
(d) (5.18) は $H^2(\operatorname{Spec}k_0(t),\mathbf Z;T_\ell)$ と $H^1(k_0(t),T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)$ を記号「$\simeq$」で結ぶが、前者は後者を直和因子として含むと読む。直前で原論文が使うと書く Künneth の同型 (5.4) は直和の形で、原論文は印字 p. 279 で第一 Chern 類が群の正次数の成分に入ると正しく述べ、印字 p. 281 の (5.24) は同じ状況を包含で書く。「$\simeq$」の形に理由は添えられていない。
(d) の読み替えは形式だけのものではない。印字のまま同型と読むと、原論文が $k_0$ の例に挙げる素体の上で偽になる。それを確かめておく。
$k_0=\mathbf Q$、$K=\mathbf Q(t)$ とする。Künneth 公式により $H^2(\operatorname{Spec}K,\mathbf Z;T_\ell)=H^2(K,T_\ell)\oplus H^1(K,T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)$ なので、印字の同型が成り立つのは $H^2(K,T_\ell)=0$ のときに限る。引用する事実 6 により $H^2(K,\mu_{\ell^\nu})=\operatorname{Br}(K)[\ell^\nu]$ で、遷移写像は $\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mu_{\ell^\nu}$($\ell$ 乗)と、中央の $\mathbf G_m$ の $\ell$ 乗と右の $\mathbf G_m$ の恒等写像とが Kummer 列の射をなすことから、$\operatorname{Br}(K)[\ell^{\nu+1}]\to\operatorname{Br}(K)[\ell^\nu]$ の $\ell$ 倍である。よって $H^2(K,T_\ell)=\varprojlim(\operatorname{Br}(K)[\ell^\nu],\ell)=T_\ell\operatorname{Br}(K)$(Tate 加群)。$\operatorname{Br}(\mathbf Q)$ は、$2$ での不変量が $a$、$3$ での不変量が $-a$、他の素点で $0$ の元($a\in\mathbf Q_\ell/\mathbf Z_\ell$)からなる、$\mathbf Q_\ell/\mathbf Z_\ell$ に同型な部分群を含み、$\operatorname{Br}(\mathbf Q)\to\operatorname{Br}(K)$ は単射である。射影極限は左完全なので $T_\ell\operatorname{Br}(K)\supset T_\ell(\mathbf Q_\ell/\mathbf Z_\ell)\cong\mathbf Z_\ell\neq0$。したがって印字の同型は成り立たない。直した形(直和因子として含む)では、上の定理(5.3.2 の類と Kummer 類の一致)がそのまま $\xi$ を定め、以後の論証はこの形で通る。
これで例の問題は、体 $k$ の Galois コホモロジーの中で Kummer 類の積 $\kappa(t_1)\cup\cdots\cup\kappa(t_n)$ が捩れでないことに帰着した。それを示すのが次の補題で、変数を一つずつ足すたびに積が消えないことを保証する。
$k_1$ を体、$K=k_1(t)$ を有理関数体、$m$ を $k_1$ の標数と素な整数、$F$ を $m$ で消える $\operatorname{Spec}k_1$ 上のエタールアーベル層とする。このとき
$$\phi_K\colon H^i(k_1,F)\to H^{i+1}(K,F\otimes\mu_m),\qquad x\mapsto\operatorname{res}_{K/k_1}(x)\cup\delta_m(t)$$
はすべての $i\ge0$ で単射である。
段 1(完全体への帰着).$k_1^{\mathrm{perf}}$ を $k_1$ の完全閉包とすると、$k_1^{\mathrm{perf}}/k_1$ と $k_1^{\mathrm{perf}}(t)/k_1(t)$ はどちらも純非分離である(後者は $k_1$ の元の $p$ 冪乗根で生成される)。引用する事実 1 により、制限は同型 $H^*(k_1,F)\cong H^*(k_1^{\mathrm{perf}},F)$、$H^*(K,-)\cong H^*(k_1^{\mathrm{perf}}(t),-)$ を与え、これらは制限・cup 積・$t$ の Kummer 類と両立する。したがって $\phi_K$ の単射性は $k_1^{\mathrm{perf}}$ の場合に帰着し、以下 $k_1$ は完全とする。
段 2(Laurent 級数体へ移す).$\Lambda=k_1(\!(t)\!)$ とおく。$K\subset\Lambda$ への制限は cup 積と Kummer 類と両立するので、$\operatorname{res}_{\Lambda/K}\circ\phi_K=\phi_\Lambda$($\phi_\Lambda(x)=\operatorname{res}_{\Lambda/k_1}(x)\cup\delta_m(t)$)である。合成が単射なら初めの写像も単射なので、$\phi_\Lambda$ の単射性を示せばよい。原論文が「a priori に強い主張」と呼ぶのはこの $\phi_\Lambda$ の単射性である。
段 3(馴分岐商のスペクトル系列).$M$ を $m$ で消える $\pi_{k_1}$ 加群とし、$\pi_\Lambda\to\pi_{k_1}$ を通して $\pi_\Lambda$ 加群とみる(惰性群 $I$ は自明に作用する)。$m$ は $p$ と素なので、引用する事実 4 により $H^q(W,M)=0$($q>0$)で、$H^*(\Lambda,M)=H^*(\pi_\Lambda/W,M)$ である。正規部分群 $I/W$ に Hochschild–Serre のスペクトル系列を当てると $E_2^{a,b}=H^a(\pi_{k_1},H^b(I/W,M))$ で、$I/W$ は副巡回的なので $b\ge2$ で $0$、$H^0(I/W,M)=M$、$H^1(I/W,M)=\operatorname{Hom}(I/W,M)=M\otimes\mu_m^{\otimes(-1)}$(引用する事実 3 の標準的な全射 $I/W\to\mu_m$ による)である。馴分岐商は分裂するので、引用する事実 3 により $E_2^{a,0}\to H^a(\Lambda,M)$ は単射で、系列は $E_2$ で退化する。$E^{a,1}$ への射影を
$$r\colon H^{a+1}(\Lambda,M)\to H^a\bigl(k_1,M\otimes\mu_m^{\otimes(-1)}\bigr)$$
と書き、留数写像という。$E^{a,0}$ からの写像は $\operatorname{res}_{\Lambda/k_1}$(膨張)である。
段 4(留数で cup 積を取り出す).$\delta_m(t)$ の $I/W$ への制限は $\sigma\mapsto\sigma(t^{1/m})/t^{1/m}$ で、標準的な全射そのものなので、$r(\delta_m(t))=\pm1\in H^0(k_1,\mathbf Z/m)$ である(符号は留数の約束による)。引用する事実 4 によりスペクトル系列は乗法的で、$E_\infty^{a,0}\otimes E_\infty^{0,1}\to E_\infty^{a,1}$ は $E_2$ の cup 積から誘導される。$x\in H^a(k_1,F)$ の膨張は $E^{a,0}$ にあり、$\delta_m(t)$ は $E^{0,1}$ に像 $r(\delta_m(t))$ をもつので、
$$r\bigl(\operatorname{res}_{\Lambda/k_1}(x)\cup\delta_m(t)\bigr)=\pm\,x\cup r(\delta_m(t))=\pm\,x\in H^a\bigl(k_1,F\otimes\mu_m\otimes\mu_m^{\otimes(-1)}\bigr)=H^a(k_1,F)$$
である。よって $r\circ\phi_\Lambda=\pm\mathrm{id}$ で、$\phi_\Lambda$ は単射である。段 2 により $\phi_K$ も単射である。
段 4 の等式は、留数写像が $\phi_\Lambda$ の左逆を与えることを言っている。有理関数体 $K$ では $t=0$ 以外の点の情報が加わるが、単射性は Laurent 級数体へ制限してから確かめればよいので失われない。
原論文は補題 5.3.1 の証明として、$K$ を $k_1(\!(t)\!)$ に替えた強い主張を示せばよく、それは明示的な局所計算であるとだけ書き、計算を SGA4 の第 X 講の第 2 節に送る(印字 pp. 278–279)。本書の段 2 はこの帰着を、段 3・4 はその局所計算を留数写像による形で書いたもので、使うのは馴分岐商の分裂と Hochschild–Serre のスペクトル系列の乗法性だけである。段 1 の完全体への帰着は原論文に書かれておらず、馴分岐商の分裂を完全体の上で引くために本書が足した。SGA 4 の該当箇所が同じ計算であるかは、本書は確かめていない。また原論文は補題を小節 5.3.2 の中に置き、番号 5.3.1 の段落は無い。補題を後に置いた番号づけとして読む。
補題を変数の数について繰り返し当てると、Kummer 類の積の位数が求まる。
$k_0$ を体、$\ell$ を $k_0$ の標数と異なる素数、$k=k_0(t_1,\dots,t_n)$ とする。各 $\nu\ge1$ で
$$x_\nu:=\delta_{\ell^\nu}(t_1)\cup\cdots\cup\delta_{\ell^\nu}(t_n)\in H^n\bigl(k,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n}\bigr)$$
の位数はちょうど $\ell^\nu$ である。したがって $\kappa(t_1)\cup\cdots\cup\kappa(t_n)\in H^n(k,T_\ell^{\otimes n})$ は捩れでない。
段 1(帰納法).$k_j:=k_0(t_1,\dots,t_j)$($k_0$ は $j=0$)とし、$x^{(j)}:=\delta(t_1)\cup\cdots\cup\delta(t_j)\in H^j(k_j,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes j})$($x^{(0)}=1\in H^0(k_0,\mathbf Z/\ell^\nu)$)の位数が $\ell^\nu$ であることを $j$ について帰納的に示す。$j=0$ では $x^{(0)}=1$ の位数は $\ell^\nu$ である。$j\to j+1$ では、上の補題(Kummer 類の cup 積の単射性)を $k_1=k_j$、$K=k_{j+1}=k_j(t_{j+1})$、$m=\ell^\nu$、$F=\mu_{\ell^\nu}^{\otimes j}$ に当てる。$\delta(t_i)$($i\le j$)の $k_{j+1}$ への制限は $k_{j+1}$ の中の $\delta(t_i)$ で、cup 積は制限と可換なので $\phi_{k_{j+1}}(x^{(j)})=x^{(j+1)}$ である。単射は元の位数を保つので、$x^{(j+1)}$ の位数も $\ell^\nu$ である。$j=n$ で $x_\nu=x^{(n)}$ を得る。
段 2(ℓ 進の積).ℓ 進の cup 積は成分ごとに定まるので、$\kappa(t_1)\cup\cdots\cup\kappa(t_n)$ の $\bmod\ell^\nu$ 成分は $x_\nu$ である。ある整数 $N=N'\ell^a$($N'$ は $\ell$ と素)でこの積が消えるとすると、すべての $\nu$ で $Nx_\nu=0$ となるが、$\nu>a$ では $x_\nu$ の位数 $\ell^\nu$ は $N$ を割らない。これは矛盾である。
この定理は体 $k_0$ に何も仮定していない。$k_0$ が代数閉体、たとえば $\mathbf C$ でも、$\mathbf C(t_1,\dots,t_n)$ の上の Kummer 類の積は捩れでない。捩れでないことを生むのは $k_0$ の算術ではなく、変数による純超越拡大の Galois コホモロジーである。
二つの結果を合わせると、原論文 5.3.2 の例が閉じる。第 $n$ Chern 類を第一 Chern 類の積に分け、各因子を上の定理(5.3.2 の類と Kummer 類の一致)で Kummer 類と群の生成元の外部積に書く。
定義(5.3.2 の表現)の (2) の $E=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$ について
$$c_n(E)(\ell)=\pm\,(\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n)\otimes u_n\in H^n(k,T_\ell^{\otimes n})\otimes H^n(\mathbf Z^n,\mathbf Z)\subset H^{2n}\bigl(\operatorname{Spec}k,\mathbf Z^n;T_\ell^{\otimes n}\bigr)$$
であり、この類は捩れでない。
段 1(第一 Chern 類の積に分ける).加法性(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「加法性」、ℓ 進では成分ごと)により $c(E)=\prod_{i=1}^n(1+c_1(L_i))$ で、次数 $2n$ の部分をとると $c_n(E)=c_1(L_1)\cup\cdots\cup c_1(L_n)$ である。
段 2(各因子を外部積で書く).$L_i$ は作用群つきスキームの射 $(q_i,\mathrm{pr}_i)$ による $L$ の逆像なので、逆像との両立(本書 2-3 の定理「逆像との両立と正規化」)と、上の定理(5.3.2 の類と Kummer 類の一致)、外部積の引き戻しとの両立により
$$c_1(L_i)(\ell)=(q_i,\mathrm{pr}_i)^*(\xi\otimes u_1)=q_i^*\xi\otimes\mathrm{pr}_i^*u_1=\xi_i\otimes e_i^*$$
である。
段 3(積を並べ替える).$\xi_i\otimes e_i^*=p^*\xi_i\cup e(e_i^*)$ で、cup 積は結合的かつ次数つき可換(引用する事実 2)なので、$n$ 個の積の因子を並べ替えて
$$\prod_i\bigl(p^*\xi_i\cup e(e_i^*)\bigr)=\pm\,p^*(\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n)\cup e(e_1^*\cup\cdots\cup e_n^*)=\pm\,(\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n)\otimes u_n$$
を得る($p^*$ と $e$ は環準同型である)。係数の $T_\ell^{\otimes1}$ の $n$ 個の積は $T_\ell^{\otimes n}$ である。
段 4(捩れでないこと).$H_*(\mathbf Z^n,\mathbf Z)$ は有限型自由なので、本書 6-1 の Künneth 公式により $a\mapsto a\otimes u_n$ は $H^n(k,T_\ell^{\otimes n})\otimes H^n(\mathbf Z^n,\mathbf Z)=H^n(k,T_\ell^{\otimes n})\otimes\mathbf Zu_n$(引用する事実 5)から直和因子への同型である。よって $N\,c_n(E)(\ell)=0$ なら $N(\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n)=0$ である。上の定理(5.3.2 の類と Kummer 類の一致)により $\xi_i=\pm\kappa(t_i)$ なので、上の定理(Kummer 類の積は捩れでない)により $\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n$ は捩れでなく、$c_n(E)(\ell)$ も捩れでない。
こうして、素体の上で有限型の体($k_0$ が素体のとき)の上でも、任意の次数 $n$ で捩れでない ℓ 進混合 Chern 類が得られた。類は体の側の次数 $n$ と群の側の次数 $n$ に分かれて住み、どちらの側だけを見ても見えない。
$E$ を $k$ の分離閉包 $k^{\mathrm s}$ に係数拡大すると、$c_n(E\otimes k^{\mathrm s})(\ell)$ は $H^{2n}(\operatorname{Spec}k^{\mathrm s},\mathbf Z^n;T_\ell^{\otimes n})=\varprojlim_\nu H^{2n}(\mathbf Z^n,\mu_{\ell^\nu}(k^{\mathrm s})^{\otimes n})$(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「分離閉体の上の点」)にあり、$\mathbf Z^n$ のコホモロジーは次数 $n$ を超えて消えるので $0$ である。一方 $\xi_1\cup\cdots\cup\xi_n$ は $k^{\mathrm s}$ に制限すると $H^n(k^{\mathrm s},\cdot)=0$ に落ちる。上の定理の類は、体の Galois コホモロジーと群のコホモロジーが同じ次数 $n$ ずつ組み合わさった成分にだけある。分離閉体の上の表現の有理 Chern 類が $0$ になるという第 4 章の結論(本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)と矛盾しないのはこのためで、第 4 章の議論が基礎体の分離閉性を本質的に使うことを示している。群の階数が $n$ より小さいと第 $n$ Chern 類は必ず捩れになることは、本書『6-4 コホモロジー次元による消滅』で示す。
最も簡単な場合から始める。
$n=1$ では $k=k_0(t_1)$、$E=L_1$ で、上の定理(自由アーベル群の上の捩れでない高次の類)は $c_1(L_1)(\ell)=\pm\kappa(t_1)\otimes u_1$ が捩れでないことを言う。$\kappa(t_1)$ が捩れでないことは、上の補題を $i=0$、$F=\mathbf Z/\ell^\nu$ に当てて $\mathbf Z/\ell^\nu\to H^1(k,\mu_{\ell^\nu})$、$1\mapsto\delta_{\ell^\nu}(t_1)$ が単射であることから従う。直接には、$t_1$ の付値 $v$($t_1=0$ での位数)が $H^1(k,\mu_{\ell^\nu})\cong k^*/k^{*\ell^\nu}\to\mathbf Z/\ell^\nu$ を与え、$\delta_{\ell^\nu}(t_1)\mapsto1$ となることからも分かる。これは本書『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』の、1 の冪根でない値をもつ指標の第一 Chern 類が捩れでないという結果の特別な場合である。
$k_0=\mathbf C$、$n=2$、$k=\mathbf C(t_1,t_2)$ とする。$\mathbf Z^2$ の表現 $E=L_1\oplus L_2$ は、二つの可換な対角行列 $\operatorname{diag}(t_1,1)$、$\operatorname{diag}(1,t_2)$ で与えられる。上の定理により $c_2(E)(\ell)=\pm(\kappa(t_1)\cup\kappa(t_2))\otimes u_2$ は捩れでない。$\mathbf C$ は 1 の冪根をすべて含むので、$\mu_{\ell^\nu}$ は $\operatorname{Spec}k$ の上で定数層 $\mathbf Z/\ell^\nu$ と同型で、$\bmod\ell^\nu$ 成分 $\delta(t_1)\cup\delta(t_2)$ は $H^2(k,\mathbf Z/\ell^\nu)$ の位数 $\ell^\nu$ の元とみなせる。基礎体 $\mathbf C$ のコホモロジーは正の次数で消えるので、この元は $\mathbf C$ から来たものではなく、二つの変数から生じている。一方、上の注意(捩れでない類の住む場所と第 4 章との対照)のとおり、同じ表現を $k$ の代数閉包に係数拡大すると $c_2$ は $0$ になる。複素数を含む体の上の表現でも、基礎体が分離閉でなければ有理 Chern 類は消えるとは限らない。
次の二つの反例は、例の構成で変数が独立であることと、補題で $t$ が変数であることが外せないことを示す。
外す条件は、$\mathbf Z^n$ の各座標に独立な変数 $t_1,\dots,t_n$ を当てることである。$n=2$、$\ell$ を奇素数とし、$k=k_0(t)$ の上で $\mathbf Z^2$ の表現 $E'=L'_1\oplus L'_2$ を $L'_i\colon g\mapsto t^{g_i}$ で定める(両方の座標に同じ $t$ を当てる)。段 1〜3 の計算は同じに進み、$c_2(E')(\ell)=\pm(\kappa(t)\cup\kappa(t))\otimes u_2$ である。$x=\delta_{\ell^\nu}(t)\in H^1(k,\mu_{\ell^\nu})$ について、cup 積の次数つき可換性から $x\cup x=-\tau(x\cup x)$($\tau$ は $\mu_{\ell^\nu}\otimes\mu_{\ell^\nu}$ の因子の入れ替え)で、$\mu_{\ell^\nu}\otimes\mu_{\ell^\nu}$ は局所的に一つの元 $\zeta\otimes\zeta$ で生成されるので $\tau=\mathrm{id}$ である。よって $2(x\cup x)=0$ で、$\ell$ が奇数なので $x\cup x=0$。したがって $c_2(E')(\ell)=0$ で、上の定理の結論「捩れでない」は破れる。群の階数が 2 のままでも、表現の値が 1 変数の体に閉じ込められると高次の類は消える。
外す条件は、補題(Kummer 類の cup 積の単射性)で $\delta_m(t)$ の $t$ が $k_1$ 上超越的な変数であることである。$a\in k_1^*$ を定数とし、$x\mapsto\operatorname{res}_{K/k_1}(x)\cup\delta_m(a)$ を考える。$a$ が $k_1$ で $m$ 乗なら $\delta_m(a)=0$ なのでこの写像は $0$ で、$H^i(k_1,F)\neq0$ なら単射でない。たとえば $i=0$、$F=\mathbf Z/m$ では $1\mapsto0$ である。$a$ が $m$ 乗でない場合の例として、$k_1=\mathbf F_q$($m$ は $q$ と素)をとると、有限体のコホモロジー次元は 1(本書『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』の定理「体のコホモロジー次元」)なので、$0$ でない $x\in H^1(\mathbf F_q,\mathbf Z/m)\cong\mathbf Z/m$ について $x\cup\delta_m(a)\in H^2(\mathbf F_q,\mu_m)=0$ で、$\operatorname{res}_{K/k_1}(x)\cup\delta_m(a)=\operatorname{res}_{K/k_1}(x\cup\delta_m(a))=0$ である。一方、上の補題により $\operatorname{res}_{K/k_1}(x)\cup\delta_m(t)\neq0$ である。補題の単射性は、$t$ の定める付値の留数という、定数には無い構造から生じる。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果と用語の紹介である(時点を明記する。本書は確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 5.3.2 と、その中の Lemme 5.3.1 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:算術的な場合には捩れとは限らない | 小節 5.3 冒頭 | 276–277 |
| 定義(5.3.2 の表現) | 5.3.2、(5.17) | 277 |
| 定理(5.3.2 の類と Kummer 類の一致)、注意(原論文の (5.17)(5.18) の印字の読み替え)、注意(印字のままの (5.18) は有理数体の上で成り立たない) | 5.3.2、(5.18)(「$\simeq$」は直和因子として読む) | 277–278 |
| 定理(Kummer 類の積は捩れでない) | (5.19)(「aisément」) | 278 |
| 補題(Kummer 類の cup 積の単射性)、注意(原論文の証明の原理と本書の証明) | Lemme 5.3.1 とその証明の原理(SGA 4 X の第 2 節を引く) | 278–279 |
| 定理(自由アーベル群の上の捩れでない高次の類) | 5.3.2 の本文 | 277–278 |
| 注意(捩れでない類の住む場所と第 4 章との対照) | 5.3 冒頭の §4 との対比、5.4 の予告 | 276–277、279 |
原論文の Künneth の同型 (5.4) と注意 5.1.3 は小節 5.1 にあり、本書『6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数』が扱う。
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