離散群の体の上の表現が、有限次拡大の上で小さな階数の因子をもつ組成列をもてば、ある次数から上の混合 ℓ 進 Chern 類は捩れになる。本頁は原論文の小節 5.5〜5.8 に沿って、群の有理係数のコホモロジー次元を使う形(Proposition 5.5)と、基礎体のコホモロジー次元を使う対称な形(Proposition 5.7)をこの数え上げで証明し、その途中で要る Tate 捩れの不変元の消滅を確かめる。最後に、有限群の表現を数体の整数環の上で考える原論文の提案を扱い、整数環の開集合の上の有限性の断定は未完結として記録する。
前提知識: 群のコホモロジー, コホモロジー次元, Künneth公式, エタールコホモロジー, Tate捩れ, 旗多様体, Dedekind環
$G$ は離散群で、体 $k$(または環)のスペクトルに自明に作用する。$\ell$ は $k$ の標数と異なる素数、$E$ は $G$ の $k$ 上の有限次元の表現で、$c_i(E)(\ell)\in H^{2i}(k,G;T_\ell^{\otimes i})$ はその混合 ℓ 進 Chern 類である(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』)。$\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)$ は $\mathbf Q[G]$ 加群を係数とする $G$ のコホモロジー次元、$\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(X)$ は記号表のとおり、$H^+(G,\mathbf Z)=\bigoplus_{q>0}H^q(G,\mathbf Z)$ とする。$G$ 安定な部分空間の増大列 $0=F_0\subset F_1\subset\cdots\subset F_s=E$ を長さ $s$ のフィルトレーションといい、原論文の「組成列」をこの意味に読む(因子 $F_\alpha/F_{\alpha-1}$ が既約とは限らない。既約と読んでも下の証明はそのまま通る)。
本頁の主結果は次の七つである。
原論文 Gro68d の §5 は、基礎体が分離閉でない算術的な場合を扱う。§4 の幾何的な場合(本書『4-2 位数の上界と第一 Chern 類での最良性』『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)と違い、素体上有限生成の体の上でも混合 ℓ 進 Chern 類は捩れとは限らない(本書『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』)。捩れでない例は、階数 $n$ の自由アーベル群 $\mathbf Z^n$ の $n$ 個の指標の直和の $c_n$ として作られた。
では、どういう群と表現なら捩れでない類が現れないか。原論文の小節 5.4(本書『6-4 コホモロジー次元による消滅』)は、有限生成アーベル群では階数を超える次数の類が捩れであることを示し、$\mathbf Z^n$ を階数の小さい群に替えられないことを確かめた。その議論の芯は、Chern 類の積が Künneth 分解の正次数の部分に入り、群のコホモロジーの次数の上限を超えると消える、という数え上げである。小節 5.5 はこれを、群のコホモロジー次元が有限な一般の離散群と、階数 1 とは限らない因子をもつフィルトレーションへ広げる(Proposition 5.5)。原論文は、同じ議論を「対称な形で」繰り返せば、群の次元の代わりに基礎体の次元を使えると続け(小節 5.6)、その帰結を Proposition 5.7 として置く。どちらも証明は数行で、Proposition 5.7 には明示の証明が無い。
小節 5.8 は話を変え、基礎を体でなく環、とくに数体の整数環に取る利点を述べる。整数環の上の表現の類は分数体の上の類より細かい不変量を与えうるし、大域体の Galois コホモロジーは巨大だが整数環の開集合のコホモロジーは扱いやすいだろう、というのが原論文の見通しである。原論文はそのコホモロジーが「執筆の時点では決定されていないようだ」とも書く(印字 p. 283)。
主結果の仮定と結論に出る量を先に定める。群のコホモロジー次元は本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』、スキームのコホモロジー次元は本書『6-4 コホモロジー次元による消滅』でも定めたものを、ここで短く繰り返す。
$r_\tau(d)$ は「大きい方から $d$ 個の因子の階数の和」で、原論文の (5.21) の $r$ である。次の補題が、主結果 1・5 の証明の組み合わせの部分を全部引き受ける。
型 $\tau=(r_1\ge\cdots\ge r_s)$ と整数 $d\ge0$、$i>r_\tau(d)$ を固定する。整数の組 $(i_1,\dots,i_s)$ が $0\le i_\alpha\le r_\alpha$ と $i_1+\cdots+i_s=i$ を満たすなら、$i_\alpha\ne0$ となる $\alpha$ の個数は $d$ より大きい。
$S=\{\alpha: i_\alpha\ne0\}$ とおく。$|S|\le d$ と仮定すると、$S$ の元の階数 $r_\alpha$ の和は、大きい方から $|S|$ 個の階数の和以下で、それは $r_\tau(d)$ 以下である($|S|\le\min(d,s)$ なので)。よって $i=\sum_{\alpha\in S}i_\alpha\le\sum_{\alpha\in S}r_\alpha\le r_\tau(d)$ となり、$i>r_\tau(d)$ に反する。
補題は階数の並べ方にしかよらない。これを Chern 類に移すには、因子の Chern 類の積が Künneth 分解のどこに入るかを知る必要があり、そのための入力を次に集める。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に SGA1、SGA4、EGA2、EGA4、Ser62 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。群の側の事実は本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』、エタールの側の事実は本書『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』に要点がある。
最初の主結果は、群の有理係数のコホモロジー次元 $d$ と、フィルトレーションの大きい方から $d$ 個の因子の階数だけで、捩れになる次数の範囲が決まることを言う。
$G$ を離散群で $H_i(G,\mathbf Z)$ がすべて有限型 $\mathbf Z$ 加群、$d:=\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)<\infty$ とする。$k$ を体、$E$ を $G$ の $k$ 上の表現とし、ある有限次拡大 $k'/k$ の上で $E\otimes_kk'$ が型 $\tau=(r_1\ge\cdots\ge r_s)$ のフィルトレーションをもつとする。$r:=r_\tau(d)$ とおくと、$k$ の標数と異なる任意の素数 $\ell$ と $i>r$ について $c_i(E)(\ell)\in H^{2i}(k,G;T_\ell^{\otimes i})$ は捩れである。
段 1($k=k'$ への帰着).Chern 類の逆像との両立(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「逆像との両立と正規化」。ℓ 進では本書『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』)により、制限 $\operatorname{res}\colon H^{2i}(k,G;T_\ell^{\otimes i})\to H^{2i}(k',G;T_\ell^{\otimes i})$ は $c_i(E)(\ell)$ を $c_i(E\otimes_kk')(\ell)$ に移す。後者が $m$ 倍で消えるなら、引用する事実 3 により $[k':k]\,m\,c_i(E)(\ell)=0$ である。よって $k'$ の上で示せばよく、以下 $k=k'$ とする。
段 2(加法性による分解).フィルトレーションの因子を $E_1,\dots,E_s$($\operatorname{rang}E_\alpha$ を並べ替えたものが $\tau$)とする。加法性(本書 2-3)を $s-1$ 回使うと $c(E)=\prod_\alpha c(E_\alpha)$ で、$j>\operatorname{rang}E_\alpha$ なら $c_j(E_\alpha)=0$(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定義「Chern 類」)なので
$$c_i(E)(\ell)=\sum_{i_1+\cdots+i_s=i,\ 0\le i_\alpha\le\operatorname{rang}E_\alpha}c_{i_1}(E_1)(\ell)\cdots c_{i_s}(E_s)(\ell)$$
である。補題(因子の数え上げ)を階数の組に当てると、$i>r$ のとき右辺の各項で $i_\alpha\ne0$ となる $\alpha$ は $d$ 個より多い。
段 3(有理化した Künneth 分解での居場所).$H_*(G,\mathbf Z)$ は有限型なので、引用する事実 1 の有理係数の分解が $X=\operatorname{Spec}k$ で使える。$j\ge1$ について、$c_j(E_\alpha)(\ell)$ の $\mathbf Q_\ell(j)$ 係数への像を $\gamma_{\alpha,j}$ とすると、その $q=0$ の成分は、引用する事実 2 と本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「作用群を忘れる写像との両立」により $G$ を忘れた通常の Chern 類の有理像で、引用する事実の後に述べたとおり $0$ である。したがって $\gamma_{\alpha,j}\in\bigoplus_pH^p(k,\mathbf Q_\ell(j))\otimes H^{\ge1}(G,\mathbf Q)$ である。
段 4(積の消滅).分解は cup 積の環の同型で、$(a\otimes x)(b\otimes y)=\pm(ab)\otimes(xy)$ なので、$d$ 個より多い $\gamma_{\alpha,i_\alpha}$($i_\alpha\ne0$)の積は $H^*(k,\mathbf Q_\ell(i))\otimes H^{>d}(G,\mathbf Q)$ に入る。定義(有理係数のコホモロジー次元とフィルトレーションの型)の (1) により $H^{>d}(G,\mathbf Q)=0$ なので、各項の有理像は $0$、よって各項は捩れであり、有限和の $c_i(E)(\ell)$ も捩れである($H^{2i}(k,G;T_\ell^{\otimes i})$ の元が捩れであることは $\mathbf Q_\ell$ 係数への像が $0$ であることと同値)。
原論文は証明の中で「5.7 と注意 5.1.3 により」と書く(印字 p. 281)。Proposition 5.7 は 5.5 の後に来る拡張なので、ここの「5.7」は式 (5.7)、すなわち上の証明の段 3 が使う有理化した Künneth 公式を指すと読む。こう読めば論証は循環しない。
主結果 1 がいつ情報をもつかは、型と $d$ の大小で決まる。次の主結果はそれと、仮定の「有限次拡大の上で」の意味を扱う。
主結果 1 の記号で、次が成り立つ。
(1) $d\ge s$ なら $r=\operatorname{rang}E$ で、主結果 1 の結論は Chern 類の定義から従う $c_i(E)=0$($i>\operatorname{rang}E$)に含まれる。$d< s$ なら、主結果 1 は「$c_i(E)(\ell)$($r< i\le\operatorname{rang}E$)のどれかが捩れでなければ、どの有限次拡大の上でも $E$ は型 $\tau$ のフィルトレーションをもたない」という、混合 ℓ 進 Chern 類による必要条件を与える。
(2) 型 $\tau$ を固定する。$E\otimes_kk'$ が型 $\tau$ の $G$ 安定なフィルトレーションをもつ有限次拡大 $k'/k$ があることと、$k$ を含むある代数閉体 $K$ について $E\otimes_kK$ が型 $\tau$ の $G$ 安定なフィルトレーションをもつことと、$k$ を含むすべての代数閉体 $K$ についてそうであることは同値である。
段 1((1) の前半).$d\ge s$ なら $r_\tau(d)$ はすべての因子の階数の和で、$\operatorname{rang}E$ に等しい。後半は主結果 1 の対偶である。
段 2(旗の閉部分スキーム).$\tau$ の成分の並べ方は有限通りなので、並べ方を一つ固定して示せばよい。その並べ方の次元の旗を分類する $k$ スキーム $\operatorname{Fl}(E)$ は射影的である(引用する事実 7)。$g\in G$ ごとに「旗が $g$ で安定」は閉条件なので、すべての $g$ についての条件の共通部分として閉部分スキーム $Z\subset\operatorname{Fl}(E)$ が定まる(閉部分スキームの族の共通部分は、イデアル層の和が定める閉部分スキームである)。$k$ を含む体 $L$ について、$Z(L)$ は $E\otimes_kL$ の $G$ 安定な旗、すなわちその並べ方の型のフィルトレーションの集合である。
段 3(同値).$Z(k')\ne\emptyset$ となる有限次拡大 $k'$ があれば、$k'$ は $k$ を含む任意の代数閉体 $K$ に埋め込めるので $Z(K)\ne\emptyset$ である。$Z(K)\ne\emptyset$ となる代数閉体 $K$ が一つでもあれば $Z$ は空でなく、引用する事実 7 により剰余体が $k$ 上有限次の閉点 $z$ をもつので、$k'=\kappa(z)$ で $Z(k')\ne\emptyset$ である。これで三つの条件は同値である。
原論文は (2) を $G$ が有限生成の場合の注として述べ、「純粋に幾何的な」条件と呼んで EGA4 9.1 の標準的な論法に委ねる(印字 pp. 280–281)。上の証明は $G$ の有限生成性を使っていない。これは本書の論証の側の注で、原論文が有限生成性を必要と述べているわけではない。
小節 5.6 は、群の側の次元の代わりに底の側の次元で積を消す。そのためには、Künneth 分解のうち底の次数 $0$ の成分が Chern 類に寄与しないことが要る。それが (5.23) である。
$\ell$ を素数とする。
(1) $X$ が $\mathbf Z[\ell^{-1}]$ 上、または標数が $\ell$ でない素体の上で有限型の、空でない連結スキームなら、$i\ge1$ について $H^0(X,T_\ell^{\otimes i})=0$ である。
(2) $k$ が素体 $P$ 上有限生成の体で $\operatorname{char}k\ne\ell$ なら、$i\ge1$ について $H^0(\operatorname{Spec}k,T_\ell^{\otimes i})=0$ である。
(3) (1)(2) は連結成分が有限個のスキームについても成分ごとに成り立つ。
段 1(極限への分解).記号表の約束により $H^0(X,T_\ell^{\otimes i})=\varprojlim_\nu H^0(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i})$ である。$\ell$ は $X$ 上可逆なので、$\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i}$ は局所定数な層である(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定理「Kummer 列の完全性と 1 の冪根の層」)。
段 2(閉点への制限).(1) で閉点 $x$ を一つとる。$X$ が $\mathbf Z[\ell^{-1}]$ 上または $\mathbf F_p$($p\ne\ell$)上有限型なら $\kappa(x)$ は有限体、$\mathbf Q$ 上有限型なら数体である。引用する事実 5 により $H^0(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i})$ は $(\mathbf Z/\ell^\nu)(i)$ の $\operatorname{Gal}(\kappa(x)^{\mathrm s}/\kappa(x))$ 不変元に単射に入り、その群は円分指標 $\chi$ の $i$ 乗で働く。極限をとると $H^0(X,T_\ell^{\otimes i})$ は $\mathbf Z_\ell(i)$ の不変元に単射に入る。
段 3(不変元の消滅).引用する事実 6 により $\chi$ の像は無限なので、$u=\chi(\sigma)$ が 1 の冪根でない $\sigma$ がある($\mathbf Z_\ell^*$ の捩れは有限なので、無限な部分群は 1 の冪根でない元を含む)。$u^i\ne1$ で、不変元 $z$ は $(u^i-1)z=0$ を満たす。$\mathbf Z_\ell(i)$ は捩れの無い $\mathbf Z_\ell$ 加群なので $z=0$ である。
段 4(体のスペクトル).(2) では段 2 の単射は恒等写像で、$\operatorname{Gal}(k^{\mathrm s}/k)$ が $\chi^i$ で働く。標数 $p>0$ なら、$k$ の中の $\mathbf F_p$ の代数閉包 $\mathbf F_q$ は有限体で(引用する事実 6)、制限 $\operatorname{Gal}(k^{\mathrm s}/k)\to\operatorname{Gal}(\bar{\mathbf F}_p/\mathbf F_q)$ は全射(Galois 理論:$\operatorname{Gal}(k\bar{\mathbf F}_p/k)\cong\operatorname{Gal}(\bar{\mathbf F}_p/\bar{\mathbf F}_p\cap k)$)、$\chi$ はこれを通るので像は $q$ の生成する閉部分群である。標数 $0$ なら、$k\cap\mathbf Q(\mu_{\ell^\infty})$ は $k$ の中の $\mathbf Q$ の代数閉包に含まれ、それは数体なので、同じ Galois 理論で $\chi$ の像は $\operatorname{Gal}(\mathbf Q(\mu_{\ell^\infty})/\mathbf Q)\cong\mathbf Z_\ell^*$ の開部分群である。どちらも無限なので、段 3 がそのまま使える。(3) は成分ごとに (1)(2) を当てればよい。
原論文は条件を「$X$ が $\operatorname{Spec}\mathbf Z$ 上または素体上有限型なら」と想起として書く(印字 p. 281)。$T_\ell$ を係数にとる以上 $\ell$ は $X$ 上可逆でなければならないので、(1) では $\mathbf Z[\ell^{-1}]$ 上とした。
主結果 5 は $X=\operatorname{Spec}k$($k$ は素体上有限生成)に (5.23) を使う。体のスペクトルが素体上有限型であるのは、$k$ が素体上有限次のとき、すなわち $k$ が有限体か数体のときに限る(Zariski の補題)。したがって $k$ が有限体か数体なら (1) の条件で足りるが、超越次数が正の体では $\operatorname{Spec}k$ は素体上有限型でないので、原論文の想起の条件はこの場合を覆わない。本頁は (2) でこの場合を別に示した。
(5.23) が手に入れば、Künneth 分解から底の次数 $0$ の成分が消え、Chern 類はすべて底の正次数の部分に住む。
$G$ がスキーム $X$ に自明に作用し、$\ell$ は $X$ 上可逆とする。引用する事実 1 の Künneth 公式が成り立ち($H_*(G,\mathbf Z)$ が有限型自由なら整係数で、有限型なら有理係数で)、$X$ が (5.23)、すなわち $H^0(X,T_\ell^{\otimes i})=0$($i\ge1$)を満たすとする。
(1) $i\ge1$ について $H^*(X,G;T_\ell^{\otimes i})=H^+(X,T_\ell^{\otimes i})\otimes_{\mathbf Z}H^*(G,\mathbf Z)$(有理係数では $H^*(X,G;\mathbf Q_\ell(i))=H^+(X,\mathbf Q_\ell(i))\otimes_{\mathbf Q}H^*(G,\mathbf Q)$)である。
(2) (1) の右辺の元(次数 $i\ge1$ の係数をもつもの)の $m$ 個の積は、$m>\operatorname{cd}_\ell(X)$ なら $0$、有理係数で $m>\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(X)$ なら $0$ である。
(3) とくに、$X$ の上の作用つきベクトル束 $\mathbb E_1,\dots,\mathbb E_m$ と $j_\alpha\ge1$ について、$\prod_\alpha c_{j_\alpha}(\mathbb E_\alpha)(\ell)$ は $m>\operatorname{cd}_\ell(X)$ なら $0$、$m>\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(X)$ なら捩れである。
段 1(等号).Künneth の分解は $\bigoplus_{p+q=n}H^p(X,\cdot)\otimes H^q(G,\cdot)$ で、仮定 (5.23) により $p=0$ の項が消える。よって (1) の等号が成り立つ。
段 2(積の次数).分解は cup 積の環の同型なので、(1) の右辺の元の $m$ 個の積は $\bigoplus_{p\ge m}H^p(X,\cdot)\otimes H^*(G,\cdot)$ に入る。$p>\operatorname{cd}_\ell(X)$ なら各 $H^p(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i})=0$ で、極限の $H^p(X,T_\ell^{\otimes i})$ も $0$ である。$p>\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(X)$ なら、$\nu$ によらない $\ell^s$ が各 $H^p(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i})$ を消すので極限も $\ell^s$ で消え、$\mathbf Q_\ell$ 係数では $0$ である。これが (2) である。
段 3(Chern 類).$c_j(\mathbb E)(\ell)$($j\ge1$)は $H^{2j}(X,G;T_\ell^{\otimes j})$ の元で、段 1 によりこの群は (1) の右辺の形をしている。(2) を当てれば (3) を得る(有理係数では、有理像が $0$ であることが捩れであることと同値)。
原論文の (5.24) は $\supset$ と書く(印字 p. 281)。包含はそれだけで正しいが、Chern 類がこの部分に入ると言うには等号が要り、上のとおり仮定の下で等号が成り立つ。
原論文は「5.4 の議論を対称な形で繰り返せる」と書き、帰結を Proposition 5.7 として述べるだけで証明を書かない。主結果 1 の証明の段 3・4 で、群のコホモロジーの代わりに体のコホモロジーの次数を数えればよい。
$G$ を離散群で $H_i(G,\mathbf Z)$ がすべて有限型とする($\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)$ は無限でもよい)。$k$ を素体 $P$ 上有限生成の体、$\ell\ne\operatorname{char}k$ とし、$d:=\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k)$ とおく。このとき $d\le\varepsilon_k+\operatorname{deg.tr}(k/P)$($\varepsilon_k=1$:標数正、$\varepsilon_k=2$:標数 $0$)であり、$E$ が有限次拡大の上で型 $\tau$ のフィルトレーションをもつなら、$i>r_\tau(d)$ で $c_i(E)(\ell)$ は捩れである。$\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)<\infty$ でもあれば、$d=\operatorname{Inf}(\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G),\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k))$ として同じことが成り立つ。
段 1(上界).$d$ の上界は引用する事実 4 である。以下では $d$ の値でなく、「$p>d$ なら $H^p(k,\mathbf Q_\ell(j))=0$」だけを使う。
段 2(帰着と分解).主結果 1 の証明の段 1 と同じく $k=k'$ に帰着する。そのとき $\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k')\le d$ である。実際、$\pi\colon\operatorname{Spec}k'\to\operatorname{Spec}k$ は有限なので順像 $\pi_*$ は完全で、$\ell$ 捩れの層 $F$ について $H^p(k',F)=H^p(k,\pi_*F)$ であり(本書『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』)、$\pi_*F$ も $\ell$ 捩れなので、$p>d$ なら $F$ によらない $\ell^s$ で消える。分解は主結果 1 の証明の段 2 と同じで、補題(因子の数え上げ)により $i>r_\tau(d)$ の各項は $i_\alpha\ne0$ の因子を $d$ 個より多くもつ。
段 3(底の正次数への所在).$k$ に主結果 3 の (2) を当てると $\operatorname{Spec}k$ は (5.23) を満たす。$H_*(G,\mathbf Z)$ は有限型なので、主結果 4 の有理係数の形により、各 $c_{i_\alpha}(E_\alpha)(\ell)$($i_\alpha\ge1$)の有理像は $H^+(k,\mathbf Q_\ell(i_\alpha))\otimes H^*(G,\mathbf Q)$ に入り、その $d$ 個より多い積は底の次数が $d$ を超えるので $0$ である(主結果 4 の (2)。$k=k'$ に帰着した後の体で使う)。よって各項は捩れで、$c_i(E)(\ell)$ も捩れである。
段 4(二つの上界の最小).$r_\tau(d)$ は $d$ について単調増加なので、$\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)$ と $\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k)$ のうち小さい方を与える主結果(主結果 1 または上の主張)を使えばよい。
ここの $\varepsilon_k$ は原論文の Proposition 5.7 の $\varepsilon$ で、原論文の (5.14) の $\varepsilon\in\{0,1\}$(本書『6-4 コホモロジー次元による消滅』)とは別の量である。同じ文字で印字されているので、本頁は添字を付けて区別した。また原論文は $\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k)$ が $\varepsilon+\operatorname{deg.tr}k/P$ に「等しい」と書くが(印字 p. 282)、上の証明が使うのは上界だけで、本書は等号を確かめていない(本書『6-4 コホモロジー次元による消滅』の注意「原論文の不等号と等号、文献の所在」)。上界の値を $d$ にとっても $r_\tau$ の単調性により結論は成り立つ。
二つの主結果を並べると、捩れにならない高次の類を作るには、群の次元と体の次元の両方が十分大きくなければならない。この二つの上界がどこまで鋭いかは、下の例と反例で確かめる。
小節 5.8 は、基礎を体でなく環に取る利点を述べる。まず、有限群の表現はいつでも整数環の上に降りることを確かめる。
$G$ を冪指数 $m$ の有限群とする。
(1) $G$ の標数 $0$ の代数閉体の上の表現は、すべて $\mathbf Q(\mu_m)$ の上で定義される。
(2) $K$ を数体、$A$ をその整数環、$V$ を $G$ の $K$ 上の表現とすると、$G$ で安定な $A$ 部分加群 $L\subset V$ で、有限生成な局所自由 $A$ 加群であり $L\otimes_AK=V$ となるもの($G$ 安定な格子)がある。
(3) (2) の格子は $V$ から同型を除いても決まらない。$G=\mathbf Z/2$、$A=\mathbf Z$、$V=\mathbf Q^2$(生成元は座標の入れ替え)の格子 $L_1=\mathbf Z^2$ と $L_2=\mathbf Z(e_1+e_2)\oplus\mathbf Z(e_1-e_2)$ は $A[G]$ 加群として同型でない。
段 1((1)).引用する事実 8 である。
段 2((2)).$V$ の $K$ 上の基底が張る $A$ 部分加群 $L_0$ をとり、$L:=\sum_{g\in G}gL_0$ とおく。$G$ は有限なので $L$ は有限生成で、$G$ で安定、$V$ を $K$ 上張る。$V$ の部分加群なので捩れが無く、引用する事実 9 により局所自由である。$L\otimes_AK\to V$ は全射で、両辺の $K$ 上の次元は $L$ の階数に等しいので同型である。
段 3((3)).$L_1\otimes\mathbf F_2$ は群環 $\mathbf F_2[G]$ で、$G$ の固定元は $\mathbf F_2(e_1+e_2)$ の 1 次元だけなので、自明な表現の二つの和ではない。$L_2\otimes\mathbf F_2$ では生成元が $e_1+e_2\mapsto e_1+e_2$、$e_1-e_2\mapsto-(e_1-e_2)\equiv e_1-e_2$ と働くので自明な表現の二つの和である。同型な格子の法 $2$ の還元は同型なので、$L_1\not\cong L_2$ である。両方とも $\mathbf Q$ 上では $V$ を与える。
原論文は基礎体を名指しせず、有限群の「任意の」線形表現が数体の上で定義できると想起する(印字 p. 282)。本頁は (1) の形、すなわち代数閉体の上の表現についての Brauer の定理として読んだ。
原論文の想起を「標数 $0$ の任意の体 $K$ の上の表現が、$K$ に含まれる数体の上で定義される」と読むと成り立たない。$G$ を位数 $8$ の四元数群、$K$ を $\mathbf Q$ 上の円錐曲線 $x^2+y^2+z^2=0$ の関数体とする。$\mathbf Q$ は $K$ の中で代数的に閉じているので、$K$ に含まれる数体は $\mathbf Q$ だけである。四元数環 $(-1,-1)_{\mathbf Q}$ はこの円錐曲線に付随する四元数環で、$K$ の上で分裂するので、$G$ は $K$ 上の 2 次元の表現(標準表現)をもつ。しかしこの表現は $\mathbf Q$ 上では 2 次元で実現できない($\mathbf Q$ 上の Schur 指数が 2)。原論文の文脈は有限群の複素表現の Chern 類なので、(1) の読みで十分である。
格子が一つ選べれば、その上で Chern 類を定めることができる。原論文はそのための局所化の約束を置く。
$A$ を数体 $K$ の整数環、$\ell$ を素数、$A':=A[\ell^{-1}]$ とする。$G$ の $A$ 上の表現、すなわち $G$ 安定な有限生成局所自由 $A$ 加群 $E$ について、$\operatorname{Spec}A'$ に $G$ を自明に作用させ、
$$c_i(E\otimes_AA')(\ell)\in H^{2i}(\operatorname{Spec}A',G;T_\ell^{\otimes i})$$
を $E$ の基礎環の上の混合 ℓ 進 Chern 類という。$A'$ の剰余標数はすべて $\ell$ と異なるので、$\ell$ の冪は $A'$ で許容され、本書『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』の定義がそのまま使える。
$A'$ への局所化は、ℓ 進係数を使うために剰余標数を $\ell$ と素にする操作で、$\ell$ の上の素点の情報を捨てる。生成点 $\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}A'$ への引き戻しは、逆像との両立により $c_i(E\otimes_AA')(\ell)$ を分数体の上の類 $c_i(E\otimes_AK)(\ell)$ に移す。原論文はここから、基礎環の上の類が分数体の上の類より細かい不変量で、$\ell$ を動かせば $A$ への降ろし方の違いを見分けられるかもしれないという期待を述べる(印字 p. 283)。これは期待であり、本頁は判定しない。
原論文は、大域体の Galois コホモロジーが巨大であるのに対し、整数環の開集合のような環の側は多くの場合 $\mathbf Z_\ell$ 上有限型の混合 ℓ 進コホモロジーを与える、と評価し、その途中で「$G$ の整係数ホモロジーが有限型で、数体の整数環の $\operatorname{Spec}$ の開集合の上で考えるとき、とくにそうなる」と断定する(印字 p. 283)。この断定には証明が無い。閉じるには、(a) $\ell$ が可逆な開集合 $U\subset\operatorname{Spec}A$ の上の $H^q(U,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i})$ の有限性(S 整数環のエタールコホモロジーの有限性。Artin–Verdier AV64 の型)、(b) 各段の有限性から $\varprojlim_\nu$ が $\mathbf Z_\ell$ 上有限生成になること(遷移写像の核と余核を法 $\ell$ の段で抑える議論)、(c) 混合コホモロジーへの移行(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』のスペクトル系列と $H_*(G,\mathbf Z)$ の有限性)が要る。本書は (a) を名指しできる形で確かめていないので未完結とする。原論文は同じ箇所で、これらのコホモロジー群は「執筆の時点では決定されていないようだ」とも書く。
これで小節 5.5〜5.8 の主張はすべて扱った。第 7 章では同じ問いを de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーで考え、原論文は微分形式の次数による消滅(本書『7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類』)を本頁の二つの上界と対比する。
最初の例は、主結果 1 の上界が改良できないことを、捩れでない類の既知の例で確かめる。
$G=\mathbf Z^n$、$k_0$ を体、$k=k_0(t_1,\dots,t_n)$、$E=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$($L_j$ は $j$ 番目の座標と $1\mapsto t_j$ の合成で定まる指標)とする。$H_*(\mathbf Z^n,\mathbf Z)=\bigwedge^*\mathbf Z^n$ は有限型自由で、$H^q(\mathbf Z^n,\mathbf Q)=\bigwedge^q\mathbf Q^n$ は $q=n$ で $0$ でなく、$\mathbf Z^n$ の有理係数のコホモロジー次元は $n$ である(本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』)。型は $(1,\dots,1)$($s=n$)で $r=r_\tau(n)=n$ なので、主結果 1 が言うのは「$i>n$ で捩れ」で、これは $c_i=0$($i>\operatorname{rang}E$)と同じである。一方 $c_n(E)(\ell)$ は捩れでない(本書『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』の主結果「自由アーベル群の上の捩れでない高次の類」)。したがって結論の「$i>r$」を「$i\ge r$」に強めることはできない。同じ例に主結果 5 を当てると、$c_n(E)(\ell)$ が捩れでないことから $\operatorname{cd}_{\mathbf Q_\ell}(k)\ge n$ でなければならないことも分かる($k_0$ が素体のとき)。
$G$ が有限群なら、$\mathbf Q[G]$ 加群 $M$ と $q>0$ について $H^q(G,M)$ は $|G|$ 倍で消え、$|G|$ 倍は $M$ の自己同型なので $H^q(G,M)=0$ である。よって $\operatorname{cd}_{\mathbf Q}(G)=0$ で、$H_i(G,\mathbf Z)$ は有限型(有限群のホモロジーは正次数で有限)である。$d=0$ なら $r_\tau(0)=0$ なので、主結果 1 は型によらず「$i\ge1$ で $c_i(E)(\ell)$ は捩れ」を与える。有限群の表現の Chern 類が捩れであることの、この頁の枠組みでの再確認である。
次の反例は、主結果 3 の有限性の仮定を外すと (5.23) が崩れ、主結果 4 の等号も崩れることを示す。
外す条件は、主結果 3 の「$k$ は素体上有限生成」である。$k=\mathbf Q(\mu_{\ell^\infty})$ は $\mathbf Q$ 上代数的だが有限生成でない。$k$ はすべての $\ell$ 冪乗根を含むので、$\operatorname{Gal}(k^{\mathrm s}/k)$ は $\mu_{\ell^\nu}$ に自明に働き、$H^0(\operatorname{Spec}k,T_\ell^{\otimes1})=\varprojlim_\nu\mu_{\ell^\nu}(k)\cong\mathbf Z_\ell$ は $0$ でない(円分指標の像が $\{1\}$ で、主結果 3 の証明の段 3 が使えない)。このとき主結果 4 の等号も成り立たない。$G=\mathbf Z$ が自明に作用するとき、Künneth 分解の $p=0$ の項 $H^0(k,T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)\cong\mathbf Z_\ell$ は $H^1(k,G;T_\ell)$ の $0$ でない直和因子で、$H^+(k,T_\ell)\otimes H^*(G,\mathbf Z)$ に含まれない。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 5.5〜5.8 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(有理係数のコホモロジー次元とフィルトレーションの型)、補題(因子の数え上げ) | Proposition 5.5 の仮定、(5.21) と証明の数え上げ | 280–281 |
| 定理(群の次元と組成列の因子の階数による捩れ性) | Proposition 5.5、(5.22)、証明(「5.7 と注意 5.1.3 により」) | 280–281 |
| 定理(フィルトレーションの存在は幾何的な条件) | 5.5 の後の注(「純粋に幾何的」、[EGA IV 9.1]) | 280–281 |
| 定理(Tate 捩れの不変元の消滅)、注意(体のスペクトルの場合を別に示す理由) | 5.6、(5.23)(「rappelons-le」) | 281 |
| 定理(Künneth 分解での Chern 類の所在) | 5.6、(5.24) と積の消滅 | 281 |
| 定理(体の次元による捩れ性) | Proposition 5.7 と $d=\operatorname{Inf}(\cdot,\cdot)$ | 282 |
| 定理(有限群の表現の数体上の定義と整数環上の格子)、注意(任意の基礎体の中での降下と読むと偽) | 5.8 前半 | 282 |
| 定義(基礎環の上の混合 ℓ 進 Chern 類) | 5.8、$A'=A[\ell^{-1}]$ | 282–283 |
| 注意(整数環の開集合の上の有限性の断定) | 5.8 後半 | 283 |
原論文の Proposition 5.5 の証明にある「5.7」は式 (5.7) と読み、(5.24) の $\supset$ は仮定の下で等号である(上の本文)。
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