分離閉でない体の上では、群の表現の混合 $\ell$ 進 Chern 類は、基礎体が素体上有限生成であっても捩れになるとは限らない。本頁は、原論文の序論の小節 0.6 と小節 5.3 の冒頭に沿って、指標の第一 Chern 類が $0$ になる条件と捩れになる条件を指標の値で書き、有理数体の上の簡単な例から、捩れでない第一 Chern 類が多くの体の上にあることを示す。
$k$ は体、$\ell$ は $k$ の標数と異なる素数、$G$ は離散群で $\operatorname{Spec}k$ に自明に作用する。指標 $\varphi\colon G\to k^*$ の定める 1 次元表現を $L_\varphi$ と書き、$c_1(\varphi)(\ell):=c_1(L_\varphi)(\ell)\in H^2(\operatorname{Spec}k,G;T_\ell)$ をその $\ell$ 進第一 Chern 類とする。体 $k$ が素体上有限型であるとは、素体上有限生成な体であることをいう。
本頁の主結果は次の七つである。
原論文の序論は、離散群の表現の Chern 類を $H^{2i}(G,\mu_n(k)^{\otimes i})$ に値をとる類として構想し、分離閉体の上ではそれが群のコホモロジーだけで書けることを見た(本書『1-2 序論の構想と群のトポス』)。小節 0.6 の後半(印字 pp. 222–223)で原論文は、この定義が基礎体の任意な場合を含むずっと豊かなものだと注意する。任意の体 $k$ の上の表現の類は混合コホモロジー (0.14) に入り、群のコホモロジーと Galois 群 $\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ のコホモロジーが同時に現れる。代数閉包へ移す写像 (0.15) は「一般には単射からほど遠く」、$k$ が有限型でも、$\bar k$ の上では捩れである $\ell$ 進類が $k$ の上では捩れとは限らない、と原論文は述べ、それを「例で見る」と予告する。さらに基礎環を小さくできるための必要条件が得られること、それが仮想表現で十分でもあるかという問いを添えて小節を閉じる。
予告の例に当たるのが小節 5.3(印字 pp. 276–277)である。原論文はそこで、前節の「幾何的」な場合と違い、定義体が素体上有限型でも混合 $\ell$ 進類は捩れとは限らないと述べ、第一 Chern 類を指標の値で調べる。$c_1$ が $0$ になる条件、素体上有限型の体の無限に $\ell$ で割れる元の決定(原論文は「容易に確かめられる」とだけ書く)、そこから (5.15)(5.16) と、捩れでない類の存在を導く。存在の後半(任意の体の非代数的な拡大の場合)には証明が無い。
本頁の主結果 1・2 の例は、原論文が 0.6 で「後に示す」とした主張に本書が立てた例である。原論文が §5 で挙げる例は主結果 7 の型の準同型 $\mathbf Z\to k^*$ で、主結果 2 はその最も簡単な場合に当たるが、原論文が 0.6 で念頭に置いた例がこれと同じかは本書は確かめていない。原論文は序論の後の小節で「0.6 で指摘した否定的な結果」に触れる(印字 p. 229。本書『1-2 序論の構想と群のトポス』)。それは主結果 2 の内容を指すと読むのが自然だが、確定はしない。
指標の第一 Chern 類は、可逆層の類に Kummer 列の余境界を当てたものである。まずその形を確かめる。
$\varphi\colon G\to k^*$ を準同型とし、$L_\varphi$ を $k$ に $g\in G$ が $\varphi(g)$ 倍で働く 1 次元表現、すなわち $(\operatorname{Spec}k,G)$ 上の $G$ 線形化された可逆層とする。許容される $n$ について $c_1^{(n)}(\varphi):=c_1(L_\varphi)=\partial\,cl(L_\varphi)\in H^2(\operatorname{Spec}k,G;\mu_n)$ とし、$\ell$ 進の類を $c_1(\varphi)(\ell):=(c_1^{(\ell^\nu)}(\varphi))_\nu\in H^2(\operatorname{Spec}k,G;T_\ell)$ とする。$G$ の $k$ 上の有限次元表現 $E$ については $c_1(E)=c_1(\det E)$ なので(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「第一 Chern 類は行列式の第一 Chern 類」)、第一 Chern 類の問題は指標 $\det E\colon G\to k^*$ の問題に帰する。
$L_\varphi\otimes L_\psi=L_{\varphi\psi}$ なので、第一 Chern 類の加法性(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定理「可逆層の類のエタール表示」の 3)により $c_1(\varphi\psi)=c_1(\varphi)+c_1(\psi)$、とくに $m\,c_1(\varphi)=c_1(\varphi^m)$ である。この等式は射影束公式を使わない。
アーベル群 $M$ の元 $x$ が無限に $\ell$ で割れるとは、すべての $\nu\ge0$ で $x\in\ell^\nu M$ となることをいう。乗法群 $k^*$ では、すべての $\nu$ で $x=y_\nu^{\ell^\nu}$ となる $y_\nu\in k^*$ があることである。
$k$ の標数と素な位数 $m$ の 1 の冪根 $x$ で $m$ が $\ell$ と素なものは、無限に $\ell$ で割れる。実際、$a\ell^\nu\equiv1\pmod m$ となる整数 $a$ をとれば $x=(x^a)^{\ell^\nu}$ である。主結果 5 はこの逆が素体上有限型の体で成り立つことを言う。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に SerGal64、SGA4、RoqUnit57、EGA4、ZS60 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。第 0 章の頁『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』に要点がある。
指標の第一 Chern 類が $0$ かどうかは、指標が準同型として $n$ 乗の形に書けるかどうかで決まる。本頁の主結果の多くは、この補題を体の算術に翻訳したものである。
$n$ を $k$ の標数と素な整数とする。
段 1(可逆層の類).本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「体の上の作用つき可逆層の類」により、混合コホモロジーのスペクトル系列の $E_2^{0,1}=H^1(k,\mathbf G_m)^G$ は Hilbert 90(引用する事実 1)で消え、$H^1(\operatorname{Spec}k,G;\mathbf G_m)\cong H^1(G,k^*)=\operatorname{Hom}(G,k^*)$(作用は自明)である。同じ例により、この同型は $cl(L_\varphi)$ を約束によって $\varphi$ か $\varphi^{-1}$ に移す。
段 2(Kummer 列).本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定理「Kummer 列の完全性と 1 の冪根の層」により、Kummer 列は $(\operatorname{Spec}k_{\text{ét}},G)$ 上の完全列で、長完全列 $H^1(\mathbf G_m)\xrightarrow{n}H^1(\mathbf G_m)\xrightarrow{\partial}H^2(\mu_n)$ を与える。段 1 の同型は群の同型なので、$H^1(\mathbf G_m)$ の $n$ 倍は準同型の $n$ 乗に当たる。$c_1^{(n)}(\varphi)=\partial(\varphi^{\varepsilon})$ が $0$ であることは $\varphi^{\varepsilon}=\psi^n$ となる $\psi$ があることで、それは $\varphi=(\psi^{\varepsilon})^n$ と同じである。
段 3(拡大).$s^*L_\varphi$ は $k'$ に $g$ が $\varphi(g)$ 倍で働く表現である。第一 Chern 類は作用群つきスキームの射による逆像と両立する(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定理「可逆層の類のエタール表示」の 3)。
補題の (2) を $n=\ell^\nu$ で使えば、$\ell$ 進の類についての条件が得られる。これが原論文の 5.3 の最初の主張である。
$c_1(\varphi)(\ell)=0$ であるための必要十分条件は、すべての $\nu\ge1$ で $\varphi=\psi_\nu^{\ell^\nu}$ となる準同型 $\psi_\nu\colon G\to k^*$ があることである。このとき、すべての $g\in G$ について $\varphi(g)$ は $k^*$ の無限に $\ell$ で割れる元である。
射影極限の元が $0$ であることは、すべての成分 $c_1^{(\ell^\nu)}(\varphi)$ が $0$ であることと同じで、上の補題(指標の類と Kummer 列)の 2 により主張の条件と同値である。このとき $\varphi(g)=\psi_\nu(g)^{\ell^\nu}$ である。
原論文は $\psi$ を $G\to k$ と印字する(印字 p. 276)が、$\ell^\nu$ 乗が意味をもつのは乗法群に値をとるときなので、本書は $G\to k^*$ と読む。後半の「値が無限に割れる」は必要条件にすぎず、準同型として割れることとは違う。その差は例と反例の節の例「位数 ℓ の指標」で見る。
補題を有理数体に当てると、原論文の 0.6 が予告した二つの現象がすぐに見える。まず、代数閉包へ移すと混合コホモロジーの類が消えることがある。
$k=\mathbf Q$、$G=\mathbf Z/4=\langle g\rangle$、$n=2$ とし、$d\colon G\to\mathbf Q^*$ を $d(g)=-1$ で定め、$E=L_d$ とする。$c_1(E)\in H^2(\operatorname{Spec}\mathbf Q,G;\mu_2)$ は $0$ でない。一方、原論文の (0.15) による像 $c_1(E\otimes\bar{\mathbf Q})\in H^2(\operatorname{Spec}\bar{\mathbf Q},G;\mu_2)=H^2(G,\mu_2(\bar{\mathbf Q}))$ は $0$ である。
段 1(有理数体の上).$\mathbf Q^*$ の捩れ元は $\pm1$ だけなので、$\operatorname{Hom}(\mathbf Z/4,\mathbf Q^*)=\{1,d\}$ である。準同型 $\psi$ の平方は $\psi(g)^2\in\{(\pm1)^2\}=\{1\}$ なので自明な指標である。よって $d$ は準同型の平方でなく、上の補題(指標の類と Kummer 列)の 2 により $c_1(E)\neq0$ である。
段 2(代数閉包の上).$e(g)=\sqrt{-1}$ で定まる $e\colon G\to\bar{\mathbf Q}^*$ について $e^2=d$ なので、上の補題の 2 と 3 により $c_1(E\otimes\bar{\mathbf Q})=0$ である。右辺の群の同一視は本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「分離閉体の上の点」による。
この例は階数 1 の表現だけを使うので、射影束公式を経由しない。群を $\mathbf Z/2$ にすると、$\bar{\mathbf Q}$ の上でも符号の指標は平方にならず、類は消えない。位数 4 の群は、$-1$ の平方根が $\mathbf Q$ に無いことを見るための最小の選び方である。次に、$\ell$ 進の類が捩れでなくなる例を見る。
$k=\mathbf Q$、$G=\mathbf Z$、$\varphi(1)=2$ とする。すべての素数 $\ell$ について $c_1(\varphi)(\ell)\in H^2(\operatorname{Spec}\mathbf Q,\mathbf Z;T_\ell)$ は捩れでない。一方、$\varphi$ を $\bar{\mathbf Q}^*$ に値をとる指標とみた $\ell$ 進類は $0$ である。
段 1(準同型の冪).$\mathbf Z$ からの準同型は $1$ の値で決まるので、$\varphi^m=\psi^{\ell^\nu}$ となる $\psi$ があることは、$2^m$ が $\mathbf Q^*$ で $\ell^\nu$ 乗であることと同じである。
段 2(捩れでないこと).$m\ge1$ で $m\,c_1(\varphi)(\ell)=0$ とすると、定義の直後の加法性により $c_1(\varphi^m)(\ell)=0$ で、上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)と段 1 により、すべての $\nu$ で $2^m=b_\nu^{\ell^\nu}$($b_\nu\in\mathbf Q^*$)である。$\ell^\nu>m$ となる $\nu$ をとり 2 進付値を比べると $m=\ell^\nu v_2(b_\nu)$ となり、$0< m<\ell^\nu$ に反する。
段 3(代数閉包の上).$\bar{\mathbf Q}$ では $2$ はすべての $\ell^\nu$ 乗根をもつので、上の補題の 2 と 3 によりすべての成分が $0$ である。
本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「無限巡回群の自明な作用」と本書『6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数』の定理「Künneth 公式」の分解で見ると、この類は $H^1(\mathbf Q,T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)$ の成分に入り、そこでは $2$ の $\ell$ 進 Kummer 類 $\pm\kappa(2)$ である。$\bar{\mathbf Q}$ に移ると $H^1(\bar{\mathbf Q},T_\ell)=0$ でこの成分ごと消える。分離閉体の上では捩れであるはずの類(本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)が、基礎体の Galois コホモロジーを通して捩れでなくなる。
原論文は 0.6 の最後で、この豊かさを逆向きに使う。表現がより小さな環の上で定義されるなら、その Chern 類はより小さな環の混合コホモロジーから来なければならない。
$A\subset k$ を $n$ が可逆な部分環とし、$G$ は $\operatorname{Spec}A$ に自明に作用するとする。$E_A$ を $(\operatorname{Spec}A,G)$ 上の作用つき局所自由加群で $E\cong E_A\otimes_Ak$ となるものとする。射 $h\colon(\operatorname{Spec}k,G)\to(\operatorname{Spec}A,G)$ について $c_i(E)=h^*c_i(E_A)$ であり、とくに $c_i(E)$ は $H^{2i}(\operatorname{Spec}A,G;\mu_n^{\otimes i})\to H^{2i}(\operatorname{Spec}k,G;\mu_n^{\otimes i})$ の像に入る。$\ell$ 進の類についても同じである。
$h^*E_A=E_A\otimes_Ak\cong E$ なので、本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「逆像との両立と正規化」による。$\ell$ 進の類は成分ごとに同じである。
$A$ を部分体 $k_1\subset k$ にとれば、表現が $k_1$ の上で定義されるための条件になる。この条件がどこまで効くかの例は例と反例の節に置く。原論文は、この条件が 0.5 の末に述べた条件よりずっと強いと注意したうえで、次の問いを出す。
原論文は小節 0.6 の最後(印字 p. 223)で、実際の表現ではなく仮想表現(表現環 $R_k(G)$ の元)で考えるなら、上の定理(基礎環を小さくするための必要条件)のコホモロジー的な必要条件がどこまで十分でもあるか、を疑問符つきで問う。原論文はこれに答えておらず、本書も答えをもたない。この問いは原論文の問いとして記録するにとどめ、主結果にはしない。
上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)の条件を指標の像の言葉に直すには、どの元が無限に $\ell$ で割れるかを知る必要がある。原論文は、素体上有限型の体ではそれが $\ell$ と素な位数の 1 の冪根に限ることを「容易に確かめられる」とだけ書く(印字 p. 276)。本書はそれを付値と単数群で閉じる。
$k$ を素体上有限型の体とする。$k^*$ の元が無限に $\ell$ で割れるための必要十分条件は、それが $\ell$ と素な位数の 1 の冪根であることである。また $k$ の 1 の冪根の群 $\mu(k)$ は有限である。
段 1(よい整域).$k$ を体として生成する有限個の元をとり、それらで $\mathbf Z$ 上生成される部分環を $R_0$ とする。$R_0$ の $k$ の中での正規化 $R$ は、引用する事実 4 により $R_0$ の上で有限なので、$\mathbf Z$ 上有限型のネーター正規整域で、商体は $k$ である。引用する事実 3 により $R^*$ は有限生成アーベル群で、その捩れ部分群は $R$ の中の 1 の冪根の群 $\mu(R)$(有限巡回群)である。$R^*\cong\mu(R)\times\mathbf Z^s$ と書く。
段 2(割れる元は単数).$x\in k^*$ が無限に $\ell$ で割れるとし、$x=y_\nu^{\ell^\nu}$($y_\nu\in k^*$)とする。$R$ の高さ 1 の素イデアル $\mathfrak q$ の付値について $v_{\mathfrak q}(x)=\ell^\nu v_{\mathfrak q}(y_\nu)$ がすべての $\nu$ で成り立つので $v_{\mathfrak q}(x)=0$、したがって $v_{\mathfrak q}(y_\nu)=0$ である。引用する事実 4 により $x$、$x^{-1}$、$y_\nu$、$y_\nu^{-1}$ は $R$ に入り、$x,y_\nu\in R^*$ である。
段 3(1 の冪根であること).$y_\nu=(\zeta_\nu,w_\nu)$ と書くと $x=(\zeta_\nu^{\ell^\nu},\ell^\nu w_\nu)$ である。$x$ の $\mathbf Z^s$ 成分はすべての $\ell^\nu\mathbf Z^s$ に入るので $0$ で、$w_\nu=0$、$x=\zeta_\nu^{\ell^\nu}$ である。$\mu(R)$ の位数を $m'\ell^a$($m'$ は $\ell$ と素)とすると、$\mu(R)$ の $\ell^a$ 乗の全体は位数 $m'$ の部分群なので、$x$ の位数は $m'$ を割り、$\ell$ と素である。逆向きは定義の直後に見た。
段 4(有限性).1 の冪根は $\mathbf Z$ 上整なので正規な $R$ に入り、$\mu(k)=\mu(R)$ は有限である。
段 2 は「無限に割れる元は付値をもたない」という一行の観察で、段 3 は単数群の有限生成性がそれを 1 の冪根に閉じ込める。素体上有限型という仮定は、この二つの事実を同時に使うために要る。これで (5.15)(5.16) が出る。
$k$ を素体上有限型の体、$\varphi\colon G\to k^*$ を指標とする。
段 1(1 の必要性).上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)により各 $\varphi(g)$ は無限に $\ell$ で割れ、上の定理(素体上有限型の体の無限に ℓ で割れる元)により $\ell$ と素な位数の 1 の冪根である。それらは有限群 $\mu(k)$ の $\ell$ と素な位数の部分群に入るので、$\varphi(G)$ は位数が $\ell$ と素な有限群である。
段 2(1 の十分性).$\varphi(G)$ の位数を $m$($\ell$ と素)とすると $\varphi^m=1$ である。各 $\nu$ で $a\ell^\nu\equiv1\pmod m$ となる $a$ をとれば $\varphi=(\varphi^a)^{\ell^\nu}$ で、上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)により $c_1(\varphi)(\ell)=0$ である。この向きは任意の体で成り立つ。
段 3(2).定義の直後の加法性により $m\,c_1(\varphi)=c_1(\varphi^m)$ である。$m\,c_1(\varphi)(\ell)=0$ なら 1 により $\varphi^m(G)$ は有限群で、各 $\varphi(g)^m$ は 1 の冪根、したがって $\varphi(g)$ も 1 の冪根である。逆に $\varphi(G)\subset\mu(k)$ で $|\mu(k)|=m$ なら $\varphi^m=1$ で $m\,c_1(\varphi)=c_1(1)=0$ である。
1 の十分性の段と 2 の十分性の段は基礎体によらない。素体上有限型の仮定が効くのは、類の消滅から指標の像の有限性を導く向きだけである。そこから、捩れでない類がどこにでもあることが分かる。
段 1(1).上の定理(素体上有限型の体の無限に ℓ で割れる元)により $\mu(k)$ は有限で、$k$ は無限体なので、1 の冪根でない $t\in k^*$ がある。$\varphi(1)=t$ とすれば $\varphi(\mathbf Z)\not\subset\mu(k)$ で、上の定理(第一 Chern 類が 0、捩れであることの指標の像による特徴づけ)の 2 により $c_1(\varphi)(\ell)$ は捩れでない。
段 2(2 の帰着).$m\ge1$ で $m\,c_1(\varphi)(\ell)=0$ とすると $c_1(\varphi^m)(\ell)=0$ で、上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)により $x:=\varphi(g)^m$ は無限に $\ell$ で割れる。ここで $g$ は $\varphi(g)\notin k_0'$ となる元である。$x$ が $k_0$ 上代数的なら $\varphi(g)$ も代数的で $k_0'$ に入るので、$x$ は $k_0$ 上超越的である。
段 3(付値).$k_0(x)$ の上の $x$ 進付値 $v_1$($k_0$ の上で自明、$v_1(x)=1$)をとる。$k$ は $k_0(x)$ の有限生成拡大なので、引用する事実 5 により $k$ の離散付値 $v$ で $v|_{k_0(x)}=e\,v_1$($e\ge1$)となるものがある。$x=y_\nu^{\ell^\nu}$ から $e=v(x)=\ell^\nu v(y_\nu)$ がすべての $\nu$ で成り立ち、$\ell^\nu$ がすべて $e$ を割ることになって矛盾する。
原論文は 2 を 1 に続けて「この結果は…でも有効である」と述べるだけで、証明を添えない(印字 p. 277)。上の段 2・3 は、上の定理(素体上有限型の体の無限に ℓ で割れる元)の証明の段 2 と同じく、無限に割れる元は付値をもたないという観察を、$k_0$ の上で自明な付値に当てたものである。1 は $k$ が数体の場合を含み、そこでは 2 は使えない。こうして、分離閉体の上の捩れ定理とは対照的に、算術的な基礎体の上の $\ell$ 進第一 Chern 類は一般に捩れでないことが分かった。高次の類の例は本書『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』が作る。
まず、主結果 7 の 1 から有限体が除かれている理由を見る。
$k=\mathbf F_q$、$\ell\nmid q$ とする。$k^*$ は位数 $q-1$ の巡回群で、すべての元が 1 の冪根なので $\mu(k)=k^*$ である。上の定理(第一 Chern 類が 0、捩れであることの指標の像による特徴づけ)の 2 により、任意の群 $G$ と任意の指標 $\varphi$ について $c_1(\varphi)(\ell)$ は捩れで、1 により、$\varphi(G)$ の位数が $\ell$ と素であることと $c_1(\varphi)(\ell)=0$ は同値である。たとえば $\ell\mid q-1$ のとき、位数 $\ell$ の指標 $\mathbf Z\to\mathbf F_q^*$ の類は $0$ でない捩れ元である。有限体の上の高次の類の捩れ性は、本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』で Frobenius の重みから扱われる。
上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)の後半は必要条件にすぎない。値がすべて無限に割れても、指標が準同型として割れるとは限らない。
$k$ を 1 の原始 $\ell$ 乗根 $\zeta$ を含む体、$G=\mathbf Z/\ell=\langle g\rangle$、$\varphi(g)=\zeta$ とする。準同型 $\psi\colon G\to k^*$ について $\psi^\ell(g)=\psi(g^\ell)=1$ なので、$\varphi$ は準同型の $\ell$ 乗でない。上の補題(指標の類と Kummer 列)の 2 により $c_1^{(\ell)}(\varphi)\ne0$、したがって $c_1(\varphi)(\ell)\ne0$ である。一方 $\ell\,c_1(\varphi)=c_1(\varphi^\ell)=0$ なので、$c_1(\varphi)(\ell)$ は位数 $\ell$ の捩れ元である。$k=\mathbf C$ にとると、$\zeta$ は $\mathbf C^*$ で無限に $\ell$ で割れるが類は $0$ でない。$k=\mathbf Q(\zeta)$ にとると、これは上の定理(第一 Chern 類が 0、捩れであることの指標の像による特徴づけ)の 1 の、$\varphi(G)$ の位数が $\ell$ と素でない場合に当たる。
次の反例は、主結果 5・6 の仮定「素体上有限型」が外せないことを示す。
外す条件は、基礎体が素体上有限型であることである。$k=\bigcup_\nu\mathbf Q(2^{1/\ell^\nu})$(実数の $\ell^\nu$ 乗根を次々に添加した体)とする。これは $\mathbf Q$ の無限次の代数拡大で、素体上有限型でない。$\varphi\colon\mathbf Z\to k^*$ を $\varphi(1)=2$ とすると、$\psi_\nu(1)=2^{1/\ell^\nu}$ により $\varphi=\psi_\nu^{\ell^\nu}$ がすべての $\nu$ で成り立ち、上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)により $c_1(\varphi)(\ell)=0$ である。ところが $\varphi(\mathbf Z)=2^{\mathbf Z}$ は無限群で、$2$ は 1 の冪根でない。よって (5.15)(5.16) の「類が $0$(あるいは捩れ)なら像は 1 の冪根の有限群」の向きが破れ、主結果 5 の「無限に割れる元は 1 の冪根」も破れる。同じ $\varphi$ を $\mathbf Q$ の上で考えると、主結果 2 のとおり類は捩れでない。$k=\mathbf C$ にとっても同じことが起こる。
最後に、主結果 3 の必要条件が実際に働く小さな例を挙げる。
$k=\mathbf Q(\sqrt2)$、$G=\mathbf Z$、$\varphi(1)=\sqrt2$、$n=2$ とする。本書『6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数』の定理「Künneth 公式」により、$K=k$ と $K=\mathbf Q$ で $H^2(\operatorname{Spec}K,\mathbf Z;\mu_2)\cong H^2(K,\mu_2)\oplus H^1(K,\mu_2)\otimes u_1$ で、この分解は $\mathbf Q\subset k$ による引き戻しと両立する(写像 $a\otimes b\mapsto\mathrm{pr}^*(a)\cup b$ が引き戻しと可換なため)。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「無限巡回群の自明な作用」により、$c_1^{(2)}(\varphi)$ の成分は $(0,\kappa(\sqrt2))$ である($\kappa$ は $H^1(k,\mu_2)$ での Kummer 類。符号は mod 2 では効かない)。これが $\mathbf Q$ の上の類 $(y_0,y_1)$ の像なら、$\kappa(\sqrt2)$ は $H^1(\mathbf Q,\mu_2)=\mathbf Q^*/\mathbf Q^{*2}$ から来る。すなわちある $a\in\mathbf Q^*$ で $\sqrt2/a\in k^{*2}$ となる。ノルムをとると $N_{k/\mathbf Q}(\sqrt2/a)=-2/a^2$ が $\mathbf Q$ の平方になり、負の数なので不可能である。よって主結果 3 の必要条件が破れ、$L_\varphi$ は $\mathbf Q$ の上の表現から来ない。値 $\sqrt2$ が $\mathbf Q$ に無いことからも分かる結論だが、Chern 類がそれを検出している。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 0.6 の後半と小節 5.3 の冒頭である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:任意の体の上の類は混合コホモロジーに入る | 小節 0.6 後半、(0.14) | 222 |
| 定理(代数閉包への写像は単射でない) | (0.15) とその直後(主張のみ。例は本書が立てた) | 223 |
| 定理(有限生成の体の上の ℓ 進類は捩れとは限らない) | 小節 0.6(有限型の $k$ の上の $\ell$ 進類。例は後に示すと予告。本頁の例は本書が立てた) | 223 |
| 定理(基礎環を小さくするための必要条件)、注意(原論文の問い:必要条件は十分か) | 小節 0.6 末 | 223 |
| 背景と動機:「0.6 で指摘した否定的な結果」 | 序論の後の小節 | 229 |
| 定義(指標の第一 Chern 類)、補題(指標の類と Kummer 列)、定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件) | 小節 5.3 冒頭((1.16) による $c_1$ の帰着) | 276 |
| 定理(素体上有限型の体の無限に ℓ で割れる元) | 小節 5.3(「容易に確かめられる」) | 276 |
| 定理(第一 Chern 類が 0、捩れであることの指標の像による特徴づけ) | (5.15)(5.16) | 276 |
| 定理(捩れでない第一 Chern 類の存在) | 小節 5.3 の (5.16) の後 | 277 |
原論文 5.3 の $\psi\colon G\to k$ は $G\to k^*$ と読んだ(上の定理(指標の第一 Chern 類が 0 になる条件)の直後の語り)。
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