前頁の捩れ定理と定理 4.13 は、射影的で滑らかな多様体の上で述べられている。本頁は原論文の注意 4.14 を扱い、固有性を外すと結論が壊れることを、乗法群の積に整数格子を自明に作用させた作用つき自明束の上で、混合 ℓ 進 Chern 類がちょうど生成元になる計算で示す。同じ例をコンパクトなトーラスに引き戻すと、定理 4.13 の可微分多様体への類似が偽であることも分かる。複素解析的な変種についての原論文の問いと、固有な場合への拡張の期待は記録として置く。
$i\ge1$ とする。$k$ は分離閉体、$\ell$ は $k$ の標数と異なる素数、$X=\mathbf G_{m,k}^i=\operatorname{Spec}k[t_1^{\pm1},\dots,t_i^{\pm1}]$、$G=\mathbf Z^i$(基底 $e_1,\dots,e_i$)は $X$ に自明に作用する。$\mathbb E=\mathcal O_X^i$ の上で $e_m$ は第 $m$ 成分を $t_m$ 倍し、他の成分を動かさない(原論文 (4.21))。位相の側では $T^i=(S^1)^i\subset(\mathbf C^*)^i$ を座標 $z_1,\dots,z_i$ のトーラスとし、$\mathbf Z^i$ を同じ式で自明束 $T^i\times\mathbf C^i$ に作用させる。
本頁の主結果は次の二つである。
前頁の定理 4.13(本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』の主結果「射影多様体に作用する群の混合有理類の消滅」)の証明は、有限体への特殊化と Weil 予想を通る。原論文の注意 4.14(印字 pp. 268–270)は、この仮定の形がどこまで本質的かを三つの面から論じる。
a) では、$X$ が一点なら定理 4.13 は系 4.11 に帰するが、系 4.11 と違って定理 4.13 には Weil 予想によらない超越的な証明、すなわちコンパクトな解析多様体(Kähler 多様体でもよい)でも通用する証明は無さそうだと述べ、$i=1$ で $X$ が代数的でない複素トーラスの場合でさえ、対応する複素解析的な主張が正しいかを知らないと書く。b) では、Weil 予想と特異点解消を認めれば、4.12・4.13 は射影的でも滑らかでもない固有なスキームで成り立つはずだとしたうえで、固有性の仮定は $X$ が滑らかでも本質的だとし、その反例として (4.21) を挙げる。c) では、本質的に同じ例から、定理 4.13 の可微分多様体版が偽であることを導き、定理 4.13 を一般化する主張を微分幾何の方法で示すことは起こりそうにないと結ぶ。
前頁の証明で固有性が効いたのは、空間の側のコホモロジーの Frobenius の固有値が Chern 類の固有値 $q^{-i}$ を避けることであった。固有でない多様体では固有値の絶対値が次数と釣り合わず、この回避が崩れる。本頁の計算は、その崩れがちょうど Chern 類の居場所で起こることを示す。
主結果 1 の計算は、作用が自明なときに混合コホモロジーを分解する公式を土台にする。まず直線束の作用を群の指標として書く。
$k$、$X=\mathbf G_{m,k}^i$、$G=\mathbf Z^i$ を上のとおりとする。$1\le j\le i$ について、$\mathcal O_X$ に $e_m$ が $t_j^{\delta_{jm}}$ 倍で作用するものを作用つき可逆層 $\mathbb L_j$ とし、$\mathbb E:=\mathbb L_1\oplus\cdots\oplus\mathbb L_i$ とおく。$G$ は $X$ に自明に作用するので、作用つき可逆層 $\mathcal O_X$ の作用は準同型 $G\to\Gamma(X,\mathcal O_X^*)$ と同じもので、$\mathbb L_j$ は準同型 $\chi_j\colon e_m\mapsto t_j^{\delta_{jm}}$ に当たる。$v_j\in H^1(G,\mathbf Z)=\operatorname{Hom}(G,\mathbf Z)$ を第 $j$ 座標とする。
$\chi_j$ は $t_j$ と $v_j$ から $\chi_j(g)=t_j^{v_j(g)}$ と書ける。この「単元と群の 1 次の類の積」という形が、Künneth 公式の中で第一 Chern 類の位置を決める。
スキーム $Y$ の上の単元 $u\in\Gamma(Y,\mathcal O_Y^*)$ と許容される $n$ について、Kummer 列 $0\to\mu_n\to\mathbf G_m\xrightarrow{n}\mathbf G_m\to0$ の余境界 $H^0(Y,\mathbf G_m)\to H^1(Y,\mu_n)$ による $u$ の像を $\kappa_n(u)$ と書き、$u$ の Kummer 類という(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定理「Kummer 列の完全性と 1 の冪根の層」)。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に SGA4、SGA4h、Hir56、Bor53 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。要点は第 0 章の頁『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』にある。
最初に、各 $\mathbb L_j$ の第一 Chern 類を Künneth 公式の成分として読む。
$n$ を $k$ で可逆な整数とする。引用する事実 2 の同型で、$c_1(\mathbb L_j)\in H^2(X,G;\mu_n)$ は、成分 $H^1(X,\mu_n)\otimes H^1(G,\mathbf Z)$ の元 $\varepsilon\,\kappa_n(t_j)\otimes v_j$ に対応する。ここで $\varepsilon=\pm1$ はトルソーと余輪体の対応の約束だけで決まり、$j$ と $n$ によらない。
段 1(可逆層の類).$\mathbf G_m$ に $G$ は自明に作用する($G$ は $X$ に自明に作用し、$\mathbf G_m$ の作用は標準的なもの)。引用する事実 2 を $A=\mathbf G_m$、$m=1$ に当てると $H^1(X,G;\mathbf G_m)\cong H^1(X,\mathbf G_m)\oplus H^0(X,\mathbf G_m)\otimes H^1(G,\mathbf Z)$ で、第二の成分は $u\otimes v\mapsto(g\mapsto u^{v(g)})$ により $\operatorname{Hom}(G,\Gamma(X,\mathcal O_X^*))$ と同一視され、これはスペクトル系列の端 $E_2^{1,0}=H^1(G,H^0(X,\mathbf G_m))\to H^1(X,G;\mathbf G_m)$ の像である。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「体の上の作用つき可逆層の類」と同じ議論(体の代わりに $\Gamma(X,\mathcal O_X^*)$ を使う)で、作用つき可逆層 $\mathcal O_X$ の類はその作用を与える準同型の $\varepsilon$ 乗に当たる。よって $cl(\mathbb L_j)=(t_j\otimes v_j)^{\varepsilon}$、加法的に書けば $\varepsilon\,\mathrm{pr}_1^*(t_j)\cup\mathrm{pr}_2^*(v_j)$ である。
段 2(余境界).$c_1(\mathbb L_j)=\partial\,cl(\mathbb L_j)$(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「逆像との両立と正規化」の 3)。Kummer 列は $(X,G)$ 上の自明な作用の層の完全列で、$\mathrm{pr}_1^*$ は余境界と可換である。引用する事実 3 により $\partial(\mathrm{pr}_1^*t_j\cup\mathrm{pr}_2^*v_j)=\mathrm{pr}_1^*\kappa_n(t_j)\cup\mathrm{pr}_2^*v_j$ で、これは成分 $\kappa_n(t_j)\otimes v_j$ である。
各 $\mathbb L_j$ の類は「空間の 1 次」と「群の 1 次」の積に入る。$i$ 個を掛けると、空間の側も群の側も最高次数 $i$ に達する。
$k$ を分離閉体、$\ell\ne\operatorname{char}k$、$X=\mathbf G_{m,k}^i$、$G=\mathbf Z^i$、$\mathbb E=\mathbb L_1\oplus\cdots\oplus\mathbb L_i$ を定義(乗法群の積の上の作用つき自明束)のとおりとする。
段 1(通常の類).$\omega\mathbb E=\mathcal O_X^i$ で、$\omega\mathbb L_j=\mathcal O_X$ の類は $0$ なので $c_1(\mathcal O_X)=0$、加法性(本書 2-3。本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「加法性」)により $c(\omega\mathbb E)=c(\mathcal O_X)^i=1$ である。これが 1 である。
段 2(積への分解).加法性(本書 2-3)と正規化により $c(\mathbb E)=\prod_{j=1}^i(1+c_1(\mathbb L_j))$ で、次数 $2i$ の部分は $c_i(\mathbb E)=c_1(\mathbb L_1)\cup\cdots\cup c_1(\mathbb L_i)$ である(原論文 (4.23))。$n=\ell^\nu$ として上の補題を当て、引用する事実 3 の次数つき可換性で $\mathrm{pr}_1^*$ の因子と $\mathrm{pr}_2^*$ の因子をまとめると
$$c_i^{(n)}(\mathbb E)=\pm\,\mathrm{pr}_1^*\bigl(\kappa_n(t_1)\cup\cdots\cup\kappa_n(t_i)\bigr)\cup\mathrm{pr}_2^*\bigl(v_1\cup\cdots\cup v_i\bigr)$$
を得る。符号は $\varepsilon^i$ と並べ替えの符号で、$n$ によらない。
段 3(次数の数え上げ).引用する事実 2 により $H^{2i}(X,G;\mu_n^{\otimes i})\cong\bigoplus_{p+q=2i}H^q(X,\mu_n^{\otimes i})\otimes H^p(G,\mathbf Z)$ である。引用する事実 1 により $q>i$ で $H^q(X,\cdot)=0$、$H^p(\mathbf Z^i,\mathbf Z)=\bigwedge^p\mathbf Z^i$ は $p>i$ で $0$ なので、残るのは $p=q=i$ の項 $H^i(X,\mu_n^{\otimes i})\otimes\bigwedge^i\mathbf Z^i\cong\mathbf Z/n\otimes\mathbf Z$ だけで、その生成元は $(\kappa_n(t_1)\cup\cdots\cup\kappa_n(t_i))\otimes(v_1\cup\cdots\cup v_i)$ である。段 2 により $c_i^{(n)}(\mathbb E)$ はその $\pm1$ 倍で、2 を得る。
段 4(ℓ 進の極限).本書『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』の主結果「係数を動かしたときの両立」により、遷移写像は $c_i^{(\ell^{\nu+1})}(\mathbb E)$ を $c_i^{(\ell^\nu)}(\mathbb E)$ に送る。2 により遷移写像は生成元を生成元に送る全射 $\mathbf Z/\ell^{\nu+1}\to\mathbf Z/\ell^\nu$ で、射影極限は $\mathbf Z_\ell$、$c_i(\mathbb E)(\ell)$ はその基底である。$\ell^Mc_i(\mathbb E)(\ell)$ の第 $\nu$ 成分は $\nu>M$ で $0$ でないので、捩れでない。
$k=\bar{\mathbf F}_p$ とすると、$X$、$\mathbb E$、$G$ の作用はすべて $\mathbf F_p$ の上で定義され、$X$ は滑らかで、通常の類は $0$ である。本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』の主結果「有限体上で Weil 予想の下に混合類は捩れ」の結論は、この $X$ では破れる。その理由を前頁の証明の中で特定しておく。
$X_0=\mathbf G_{m,\mathbf F_p}^i$ で前頁の算術的 Frobenius $\Phi$ を計算する。$t_j$ は $\mathbf F_p$ 上で定義されるので $\kappa(t_j)\in H^1(X,\mu_{\ell^\nu})$ は $\Phi$ で固定され、係数の捩れを外すと $\Phi$ は $H^1(X,\mathbf Z/\ell^\nu)$ に $p^{-1}$ 倍で、$H^t(X,\mathbf Z/\ell^\nu)$ に $p^{-t}$ 倍で働く。したがって幾何的 Frobenius の $H^t(X,\mathbf Q_\ell)$ の上の固有値は $p^t$ で、$1\le t\le i$ ではその絶対値は $p^{t/2}$ でない。前頁の定理の状況は射影的な $X_0$ に限るが、その仮定 (b) をこの $X$ にそのまま当てはめると、$j=1,\dots,i$ で文字どおりに破れる($i< j<2i$ では $H^j=0$ で空虚に成り立つ)。したがって上の定理は、(b) を残したまま固有性だけを外した主張の反例ではない。示しているのは、Weil 予想を認めて仮定から落とした形の主張(原論文 4.14 b) が念頭に置く形で、射影的で滑らかな場合には今日では無条件の定理)が、固有性を外すと偽になることである。証明がどこで止まるかも見ておく。前頁の零化多項式は $P_t(x)=(x-p^{-t})^{\binom it}$ で、Chern 類の固有値 $\beta=p^{-i}$ で値をとると、$t\ne i$ では $0$ でなく、$t=i$ でだけ $0$ になる。前頁の定理の証明は $E_\infty^{i,i}$ の段で止まり、上の定理の類はまさに $E_2^{i,i}=H^i(G,H^i(X))$ にある。(b) が破れる次数 $1,\dots,i$ のうち、証明を実際に止めるのは $t=i$ の一つだけである。
原論文の計算は (4.22) の Künneth 公式を $H^*(X,G;\mathbf Z_\ell)=\bigotimes^iH^*(\mathbf G_m,\mathbf Z;\mathbf Z_\ell)$ の形で書き、$i=1$ の因子の計算に帰している(印字 pp. 269–270)。その印字には係数の読み替えが要る。
原論文は $\xi\in H^2(\mathbf G_m,\mathbf Z;\mathbf Z_\ell)=H^2(\mathbf G_m,\mathbf Z;\mathbf Z_\ell)\otimes_{\mathbf Z_\ell}T_\ell(k)$ と印字する(印字 p. 269)が、右辺の $\otimes T_\ell(k)$ と $c_1$ の値域から、左辺の係数は $T_\ell$ と読む。また $H^*(X_0,\mathbf Z;\mathbf Z_\ell)\simeq H^*(X_0,\mathbf Z)\otimes_{\mathbf Z}H^*(\mathbf Z,\mathbf Z_\ell)=\mathbf Z_\ell[u,v]/(u^2,v^2)$ と印字するが、$\mathbf Z$ 係数のエタールコホモロジーでは $H^1(\mathbf G_m,\mathbf Z)=0$ で次数 1 の $u$ が現れないので、$H^*(X_0,\mathbf Z_\ell)\otimes_{\mathbf Z}H^*(\mathbf Z,\mathbf Z)$ と読む。どちらも誤植として扱い、主結果には数えない。原論文は最後の同型が $\mathbf Z_\ell\cong T_\ell(k)$ の選び方によること、捩れを入れた $H^2(X_0,\mathbf Z;T_\ell)\cong H^1(X_0,T_\ell)\otimes H^1(\mathbf Z,\mathbf Z_\ell)\cong\mathbf Z_\ell$ は標準的で、$\xi$ が $1$ に当たることを添える(印字 p. 270)。これは上の補題(作用つき直線束の第一 Chern 類)の $i=1$ の場合で、標準的でない選択は $\kappa$ の中に吸収されている。
同じ例を複素数体の上で解析化し、$(\mathbf C^*)^i$ の中のコンパクトなトーラスに制限すると、可微分多様体の上の命題になる。原論文はこの制限を指示するだけなので、本頁は Borel 構成の上で直接計算する。
$T^i=(S^1)^i$、$G=\mathbf Z^i$ は $T^i$ に自明に作用し、$E=T^i\times\mathbf C^i$ の上で $e_m$ は第 $m$ 成分を座標 $z_m$ 倍する。このとき $E$ の通常の Chern 類は $c(E)=1$ だが、混合有理類 $c_i(E)_{\mathbf Q}\in H^{2i}(T^i,G;\mathbf Q)$ は $0$ でない。したがって「コンパクトな可微分多様体 $X$ の上の複素ベクトル束 $E$ で $c_i(E)_{\mathbf Q}=0$ なら、$(X,E)$ に作用する任意の離散群 $G$ について混合有理類 $c_i(E)_{\mathbf Q}\in H^{2i}(X,G;\mathbf Q)$ は $0$」という主張は偽である。
段 1(Borel 構成).$G$ は $T^i$ に自明に作用するので、引用する事実 4 により $T^i_G=B_G\times T^i=T^i\times T^i$ で、$E_G\times_GE=(\mathbf R^i\times T^i\times\mathbf C^i)/\mathbf Z^i$、$n\cdot(s,x,w)=(s+n,x,(z_j(x)^{n_j}w_j)_j)$ である。これは直線束 $\mathcal L_1\oplus\cdots\oplus\mathcal L_i$ に分かれ、$\mathcal L_j$ は射 $T^i\times T^i\to S^1\times S^1$、$(s,x)\mapsto(s_j\bmod1,z_j(x))$ による直線束 $\Lambda$ の引き戻しである。混合コホモロジーは Borel 構成の特異コホモロジーに等しく(本書『3-3 ℓ 進類から整係数類へ』の引用する事実 3)、混合 Chern 類は $E_G\times_GE$ の Chern 類である。
段 2(第一 Chern 類).$b_j$、$a_j\in H^1(T^i\times T^i;\mathbf Z)$ を、第一因子($B_G$)と第二因子($T^i$)の第 $j$ 座標の円周の生成元の引き戻しとする。引用する事実 4 により $c_1(\Lambda)$ は $H^2(S^1\times S^1;\mathbf Z)$ の生成元なので、$c_1(\mathcal L_j)=\pm\,b_j\cup a_j$ である。
段 3(積).Whitney 和の乗法性により $c_i(E_G\times_GE)=\prod_jc_1(\mathcal L_j)=\pm\,b_1\cdots b_i\,a_1\cdots a_i$ で、これは $H^{2i}(T^{2i};\mathbf Z)\cong\mathbf Z$ の生成元である。$H^*(T^{2i};\mathbf Q)$ は $a_j,b_j$ の外積代数なので、有理像も $0$ でない。
段 4(通常の類).$E$ は自明束なので、$G$ を忘れた類は $c(E)=1$ である。$T^i$ はコンパクトな可微分多様体で、$G$ は $(T^i,E)$ に滑らかに作用するので、段 3 は主張の反例である。
主結果 2 の入力は位相的な Chern 類とトーラスのコホモロジーで、算術的な Chern 類や Weil 予想は使わない。一方、上の定理(固有性は外せない)とは、比較を通して同じ類を見ている(下の例「解析化との比較」)。
原論文の注意 4.14 の残りの二つの文は、証明を伴う主張ではない。本書はこれらを判定の対象にせず、原論文の確信度のまま記録する。
原論文の注意 4.14 a)(印字 p. 268)は、定理 4.13 が Weil 予想によらない超越的な証明を許さないように見えると述べ、対応する主張をコンパクトな複素解析多様体(Kähler 多様体でもよい)で問う。$i=1$ で $X$ が代数的でない複素トーラスの場合でさえ、原論文は答えを知らないと書く。これは問いであり、主張ではない。上の定理(可微分多様体への類似は偽)は、複素構造を捨てると主張が偽になることを示すだけで、この問いには答えない。
原論文の注意 4.14 b) 前半(印字 pp. 268–269)は、Weil 予想と特異点解消を認めれば、4.12 と 4.13 の結果は射影的でも滑らかでもない固有なスキームで成り立つはずだとする。これは期待であり、原論文に証明は無い。前頁の零化多項式の議論は、空間の側の $H^t$($t<2i$)の Frobenius の固有値が絶対値 $q^{w/2}$、$w\le t$ の形でありさえすれば同じく通る。一方、特殊化の段(本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』の主結果「模型の閉点への特殊化」)は固有かつ滑らかな射の特殊化定理を使うので、滑らかでない場合には別の議論が要る。
最初の例は、$i=1$ なら Künneth 公式の乗法性を使わずに同じ結論が出ることを見る。
$i=1$、$X=\mathbf G_{m,k}$、$G=\mathbf Z=\langle e\rangle$、$\mathbb L$ を $e$ が $t$ 倍で作用する $\mathcal O_X$ とする。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例「無限巡回群の自明な作用」の証明は $\operatorname{Spec}k$ の代わりに任意のスキームで通り、自然で余境界と両立する分解 $H^m(X,\mathbf Z;A)\cong H^m(X,A)\oplus H^{m-1}(X,A)$ を与える。$A=\mathbf G_m$ では $cl(\mathbb L)$ の成分は $(0,t^{\pm1})$、Kummer 列の余境界をとって $c_1(\mathbb L)=(0,\pm\kappa_n(t))\in H^2(X,\mu_n)\oplus H^1(X,\mu_n)$ である。本書『0-3 エタールコホモロジーと Galois コホモロジー』の定理「射影空間と乗法群のコホモロジー」の (2) により $H^2(X,\mu_n)=0$、$H^1(X,\mu_n)\cong\mathbf Z/n$ は $\kappa_n(t)$ で生成されるので、$H^2(X,\mathbf Z;\mu_n)\cong\mathbf Z/n$ で $c_1(\mathbb L)$ は生成元である。同じ計算を $X=\operatorname{Spec}k$、$t$ の代わりに $a\in k^*$ で行うと、$k$ は分離閉なので $a$ は $n$ 乗で $\kappa_n(a)=0$、$c_1=0$ である。類が $0$ でないのは、座標関数 $t$ が $n$ 乗にならない単元だからである。
この観察を固有な多様体に当てると、上の定理の仕組みがそこでは働かないことが分かる。
$k$ を分離閉体、$Y$ を $k$ 上固有で連結かつ被約なスキームとし、$G=\mathbf Z^i$ を $Y$ に自明に作用させ、$\mathcal O_Y$ に準同型 $\chi\colon G\to\Gamma(Y,\mathcal O_Y^*)$ で作用を入れる。$\Gamma(Y,\mathcal O_Y)$ は $k$ 上有限次元の被約で連結な環、すなわち $k$ の有限次拡大体 $k'$ で、$k$ が分離閉なので $k'/k$ は純非分離であり、$k'$ も分離閉である。よって $k$ で可逆な $n$ について $k'^*$ の元はすべて $n$ 乗で、$\kappa_n(u)=0$($u\in k'^*$)となる。上の補題(作用つき直線束の第一 Chern 類)と同じ計算で、この作用つき可逆層の混合第一 Chern 類は $0$ である。乗法群の積の例は、固有な多様体では大域的な単元が定数しかないために作れない。これは本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』の主結果「有限体上で Weil 予想の下に混合類は捩れ」と整合する。
最後の例は、代数的な主結果 1 と位相的な主結果 2 が、比較を通して同じ類を見ていることを確かめる。
$k=\mathbf C$ とすると $X^{\mathrm{an}}=(\mathbf C^*)^i$ で、包含 $T^i\subset(\mathbf C^*)^i$ はホモトピー同値であり、$G$ はどちらにも自明に作用し、$\mathbb E^{\mathrm{an}}$ は主結果 2 の束 $E$ に制限される。Borel 構成 $X^{\mathrm{an}}_G\simeq T^i\times T^i$ により $H^{2i}(X^{\mathrm{an}},G;\mathbf Z)\cong\mathbf Z$ である。本書『3-2 エタールコホモロジーと古典位相の比較』の主結果「算術的類は超越的類の還元」により、$c_i^{(\ell^\nu)}(\mathbb E)$ は超越的類 $c_i(\mathbb E^{\mathrm{an}})$ の $\bmod\ell^\nu$ の還元に対応し、上の定理(固有性は外せない)と、同頁の主結果「構成可能な係数の比較同型」によりそれは $H^{2i}(X^{\mathrm{an}},G;\mathbf Z/\ell^\nu)\cong\mathbf Z/\ell^\nu$ の生成元である。したがって $c_i(\mathbb E^{\mathrm{an}})$ はすべての素数 $\ell$ で割れない、すなわち $\pm1$ 倍の生成元で、上の定理(可微分多様体への類似は偽)の計算と一致する。通常の有理類は $0$ なので、本書『5-1 有限体上の捩れと特殊化』の主結果「射影多様体に作用する群の混合有理類の消滅」の結論は、$\mathbf C$ 上有限型で滑らかでも射影的でない $X$ では破れる。ただしこの $X$ の模型の閉点では Weil 予想の条件が $j=1,\dots,i$ で文字どおりには成り立たない(上の注意「前頁の証明のどこで固有性が効くか」)ので、破れるのは Weil 予想の仮定を落とした形の主張である。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の注意 4.14 a)〜c) である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 注意(複素解析的な変種と複素トーラスの問い) | 4.14 a)(一点なら 4.11 に帰すること、超越的証明の見込み、複素トーラスの問い) | 268 |
| 注意(固有な場合への拡張の期待) | 4.14 b) 前半(Weil 予想と特異点解消の下での固有スキームへの拡張) | 268–269 |
| 定義(乗法群の積の上の作用つき自明束)、補題(作用つき直線束の第一 Chern 類)、定理(固有性は外せない)、注意(前頁の証明のどこで固有性が効くか) | 4.14 b) 後半、(4.21)〜(4.23)、「容易な計算」 | 269–270 |
| 注意(原論文の Künneth 公式の印字の読み方) | 4.14 b) の $\xi$ の値域と $H^*(X_0,\mathbf Z;\mathbf Z_\ell)$ の Künneth 型の公式 | 269–270 |
| 定理(可微分多様体への類似は偽) | 4.14 c)(コンパクトトーラスへの引き戻し、微分幾何の方法への見解) | 270 |
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