de Rham 型と Hodge 型の Chern 類を、離散群が自己同型で作用するスキームの上に広げ、群の表現の類として定める。作用群つきの射影束公式を、作用のない場合の射影束公式から作用を忘れる関手を通して導き、実解析多様体と可微分多様体の上の変種が何を与えるかを確かめる。最後に、係数環の微分形式が消えるとき、たとえば完全体や有理数体の代数拡大や整数環の上では、この理論が一つも 0 でない類を与えないことを示す。
$S$ はスキーム(多くは $\operatorname{Spec}\mathbf Z$)、$X$ は $S$ 上のスキーム(原論文の約束により分離性を仮定しない)で Zariski 位相で考え、$G$ は $X$ に $S$ 自己同型で作用する離散群、$\mathbb E$ は $(X,G)$ 上の階数 $r$ の作用つき局所自由加群とする。作用群つきの de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーを $H^n_{\mathrm{DR}}(X/S,G)=\mathbb H^n(X,G;\Omega^\bullet_{X/S})$、$H^{p,q}_{\mathrm{Hdg}}(X/S,G)=H^q(X,G;\Omega^p_{X/S})$ と書き(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』)、$\operatorname{Filt}^p$ は愚直な切り落としの像による減少フィルトレーションとする。射影束は本書の規約 $P=P(\mathbb E)$($\mathbb E$ のファイバーの直線の空間)、$\xi=c_1(\mathcal O_P(1))$ である。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文の小節 6.1〜6.4(本書『7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列』)は、スキーム $X/S$ の de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーに値をとる Chern 類を定めた。第一 Chern 類は可逆層の類の対数微分で直接定まり、高次の類は射影束の上の関係式で定まる。後者に要る射影束公式 (6.10) を原論文は Illusie の準備中の論文(原論文の文献 [24])に委ね、Chern 類の通常の形式が成り立つことは「疑いない」として仮定に置いた。
本書の主題は離散群の表現である。$\ell$ 進の場合(原論文 §2、本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』『2-2 射影束公式』)と同じく、de Rham 型でも作用群つきの理論があれば、体や環 $A$ の上の群 $G$ の表現 $E$ に、群の超コホモロジー $\mathbb H^{2i}(G,\Omega^\bullet_{A/\mathbf Z})$ に値をとる類が得られる。原論文の小節 6.5(印字 pp. 288–289)は、それまでの展開がすべて環付きトポスの一般的な文脈で意味をもち、エタールトポスに移す必要もないと述べ、離散群が前スキームに作用する場合には「n° 2 と同様に進めれば」鍵となる結果(射影束公式)が混合超コホモロジーでも成り立つ、とだけ書く。本頁の主結果 1 はこの一文を証明に書き直したものである。
原論文は続けて、複素解析空間、実解析多様体、可微分多様体の上の変種に触れる(小節 6.5 末、印字 pp. 289–290)。Hodge 変種は実解析的・可微分な場合には群が消えて興味を失い、de Rham 変種は複素係数の通常の Chern 類に戻る。主結果 2 はこの二つの観察を確かめる。
小節 6.6(印字 pp. 290–291)は、環 $A$ の上の表現の類を具体的に考える。体 $k$ の上では基礎環を素体やその代数閉包に替えても何も変わらないこと(主結果 3)を注意したうえで、$\Omega^1_{A/\mathbf Z}=0$ のときには類がすべて消えることを示す(主結果 4)。これは、算術的な $\ell$ 進の理論が標数 $p$ の代数閉体の上でも豊かな捩れ類をもつ(本書『4-2 位数の上界と第一 Chern 類での最良性』)のと対照的で、de Rham 型の理論が係数環の微分の大きさだけで決まることを示す。係数環が大きい場合は次頁『7-3 係数環が大きい場合と ℓ 進との食い違い』で扱う。
作用群つきの類を定めるには、作用群つきの層の超コホモロジーと、その中の基本類が要る。
$G$ が $X$ に $S$ 自己同型で作用するとき、各 $g\in G$ は複体の同型 $g^*\Omega^\bullet_{X/S}\cong\Omega^\bullet_{X/S}$ を与え(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定義「Kähler 微分と de Rham 複体」の (1))、$\Omega^\bullet_{X/S}$ は Zariski 位相の $X$ 上の作用群つきの層の複体になる。作用群つきの層の圏 $(X_{\mathrm{Zar}},G)$ を、本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の定義(作用群つきのエタール層)でエタール景を Zariski 位相に替えて定め、$\Gamma^G(F)=\Gamma(X,F)^G$ の右導来関手を複体に延ばして
$$H^n_{\mathrm{DR}}(X/S,G):=\mathbb H^n(X,G;\Omega^\bullet_{X/S}),\qquad H^{p,q}_{\mathrm{Hdg}}(X/S,G):=H^q(X,G;\Omega^p_{X/S})$$
とおく(原論文 (6.15)(6.16))。$\operatorname{Filt}^pH^n_{\mathrm{DR}}(X/S,G)$ を $\mathbb H^n(X,G;\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/S})$ の像とする。$X=\operatorname{Spec}A$ で $G$ が $X$ に自明に作用するとき、準連接層の高次コホモロジーが消えるので、これらは群の超コホモロジー $\mathbb H^n(G,\Omega^\bullet_{A/\mathbf Z})$、群のコホモロジー $H^q(G,\Omega^p_{A/\mathbf Z})$ になる($S=\operatorname{Spec}\mathbf Z$ のとき。原論文 (6.15 bis)(6.16 bis))。
本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の補題(作用を忘れる関手の随伴と単射的対象)とその証明は、各 $g^*$ が層の圏の自己同値であることしか使わないので、Zariski 位相でもそのまま成り立つ。以下この補題を Zariski 位相で使い、とくに $\mathbb H^n(X,G;K)=H^nR\Gamma(G,R\Gamma(X,K))$ と、作用を忘れる関手 $\omega$ が完全で同型を反映し順像と可換であることを使う。
$\mathbb L$ を $(X,G)$ 上の $G$ 線形化された可逆層とする。$\mathbb L$ の $\mathcal O_X^*$ トルソー $\operatorname{Isom}(\mathcal O_X,\mathbb L)$ は作用群つきのトルソーで、その類を $\eta\in H^1(X,G;\mathcal O_X^*)$ と書く(トポスの $H^1$ とトルソーの対応。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の引用する事実 4)。対数微分 $D(f)=df/f\colon\mathcal O_X^*\to\mathcal Z^1\subset\Omega^1_{X/S}$ は作用と両立するので
$$c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L):=D(\eta)\in H^{1,1}_{\mathrm{Hdg}}(X/S,G),\qquad c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L):=\phi^1D(\eta)\in H^2_{\mathrm{DR}}(X/S,G)$$
とおく。$\phi^1$ は複体の射 $\mathcal Z^1[-1]\to\Omega^\bullet_{X/S}$(次数 1 での包含)が誘導する写像である(原論文 (6.7)(6.8) の作用群つき版)。$\pi\colon P=P(\mathbb E)\to X$ の上で $\mathcal O_P(1)$ は $G$ 線形化され、$\xi:=c_1(\mathcal O_P(1))$ を de Rham 型・Hodge 型のそれぞれでとる。$1,\xi,\dots,\xi^{r-1}$ が基底になるとき、関係式
$$\sum_{i=0}^r\pi^*c_i(\mathbb E)\,\xi^{r-i}=0,\qquad c_0(\mathbb E)=1$$
で定まる $c_i(\mathbb E)$ を作用群つきの de Rham 型・Hodge 型の Chern 類という。Hodge 型では $\xi$ が $(1,1)$ 型なので $c_i(\mathbb E)\in H^{i,i}_{\mathrm{Hdg}}(X/S,G)$ である。$X=\operatorname{Spec}A$ のとき、$A$ 上の表現 $E$ の類を $c_i(E)$ と書く。
階数 1 の場合は $P=X$、$\mathcal O_P(-1)=\mathbb L$、$\xi=c_1(\mathbb L^\vee)=-c_1(\mathbb L)$ なので、関係式は $\xi+c_1=0$ で、$c_1(\mathbb L)$ は上の対数微分の類と符号なしで一致する(本書の射影束の規約。原論文 §6 の印字の読み方は本書『7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列』)。体 $k$ の上で $G$ が自明に作用するとき、指標 $\chi\colon G\to k^*$ の定める 1 次元表現 $L_\chi$ の類は $\eta=\chi\in H^1(G,k^*)=\operatorname{Hom}(G,k^*)$ で、$c_1^{\mathrm{Hdg}}(L_\chi)$ は $g\mapsto d\chi(g)/\chi(g)$ である。原論文の指標の記号は $\phi$ だが、本書は $\chi$ と書く。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書の第 0 章と頁 7-1、GodTAF58、EGA4 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。1・2 は原論文自身が証明していない入力である。
まず射影束公式を作用群つきに移し、類を定める。証明の要は、$X$ の開集合ごとの射影束公式が、層の複体の射が擬同型であることと同じだという点にある。
$\pi\colon P=P(\mathbb E)\to X$、$\xi$ を上の定義(作用群つきの基本類と Chern 類)のとおりとし、引用する事実 1 を仮定する。
段 1(層の複体の射).作用の両立する複体の射 $\pi^{-1}\Omega^\bullet_{X/S}\to\Omega^\bullet_{P/S}$ と、$\Omega^\bullet_{P/S}$ の外積がある。$\xi^j\in\mathbb H^{2j}(P,G;\Omega^\bullet_{P/S})$ を作用群つきの層の導来圏 $D(P_{\mathrm{Zar}},G)$ の射 $\mathbf Z[-2j]\to\Omega^\bullet_{P/S}$ とみて、外積と合成すると射 $\pi^{-1}\Omega^\bullet_{X/S}[-2j]\to\Omega^\bullet_{P/S}$ を得る。$\pi^{-1}$ と $R\pi_*$ の随伴により、$D(X_{\mathrm{Zar}},G)$ の射
$$\Phi=\sum_{j< r}\Phi_j\colon\bigoplus_{j=0}^{r-1}\Omega^\bullet_{X/S}[-2j]\to R\pi_*\Omega^\bullet_{P/S}$$
が定まる。$R\Gamma^G_X$ を施し、$R\Gamma^G_X\circ R\pi_*=R\Gamma^G_P$(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の補題(作用を忘れる関手の随伴と単射的対象)の 5 の Zariski 版)を使うと、$\Phi$ が誘導する写像は 1 の写像 $(a_j)\mapsto\sum\pi^*(a_j)\xi^j$ である。
段 2(作用を忘れて擬同型を確かめる).作用を忘れる関手 $\omega$ は逆像・順像・外積と可換で、$\xi$ を作用のない基本類に移す。したがって $\omega\Phi$ は作用のない場合の同じ射である。$X$ の開集合 $U$ について $R\Gamma(U,\omega\Phi)$ が誘導する写像は、$U$ と $\mathbb E|_U$ についての射影束公式の写像で、引用する事実 1 により同型である。有界下の複体 $K$ のコホモロジー層 $\mathcal H^q(K)$ は前層 $U\mapsto\mathbb H^q(U,K)$ の層化なので、$\omega\Phi$ はすべてのコホモロジー層に同型を誘導し、擬同型である。$\omega$ は完全で、作用群つきの層が $0$ であることは作用を忘れて確かめられるから、$\Phi$ の写像錐のコホモロジー層は $0$ で、$\Phi$ は $D(X_{\mathrm{Zar}},G)$ の同型である。段 1 の最後の言い換えにより 1 の de Rham の部分を得る。
段 3(Hodge の場合).$\xi\in H^1(P,G;\Omega^1_{P/S})$ と外積 $\Omega^a\otimes\Omega^b\to\Omega^{a+b}$ から、段 1 と同じく射 $\Phi^p=\sum_j\Phi^p_j\colon\bigoplus_{j< r}\Omega^{p-j}_{X/S}[-j]\to R\pi_*\Omega^p_{P/S}$ が定まり、段 2 と同じく引用する事実 1 の Hodge の部分から同型になる。これで 1 を得る。
段 4(類の定義と作用を忘れる写像).偶数次の類は互いに可換なので、1 により $\xi^r=-\sum_{i=1}^r\pi^*(c_i)\,\xi^{r-i}$ となる $c_i\in H^{2i}_{\mathrm{DR}}(X/S,G)$ がただ一組ある。Hodge では $\xi^r$ が $(r,r)$ 型なので $c_i$ は $(i,i)$ 型の成分だけをもつ。これが 2 である。作用を忘れる写像は $\pi^*$ と積と可換で $\xi$ を $\xi$ に移すので、関係式を関係式に移し、係数の一意性(作用のない場合の射影束公式)から 3 を得る。
段 2 で使ったのは、開集合ごとの射影束公式が層の複体の擬同型と同じだということだけである。原論文 小節 6.5(印字 p. 289)の「相対スキームの理論も、Illusie の計算を移すことも要らず、n° 2 と同様に進めればよい」という一文の中身はこれで、$\ell$ 進の場合に本書『2-2 射影束公式』が導来圏の一つの射で作用群つきの公式を導いたのと同じ形である。入力の射影束公式そのものは、原論文の時点では証明されていない。
原論文 小節 6.5(印字 pp. 288–289)は、小節 6.1〜6.4 の展開が一般の環付きトポスの文脈で意味をもち、エタールトポスへ移す必要もないと述べる。de Rham 複体と対数微分の定義はたしかにどの環付きトポスでも意味をもつが、射影束公式の入力を一般の環付きトポスで述べるには相対スキームとしての射影束の理論が要り、原論文にはない(本書『2-2 射影束公式』の注意(一般の局所環付きトポスの場合)と同じ事情)。本書は作用群つきスキームの場合だけを主結果とした。$X$ が複素解析空間なら、正則な微分形式で同じ構成を行うと解析的な変種が得られ、原論文は Hodge の場合で $X$ が滑らかならこれが本質的に Atiyah Ati57 で知られていると書く。解析的な射影束公式は本書では確かめていない。
実解析的・可微分な場合には、正則性がないので状況が変わる。Hodge 変種は群そのものが消え、de Rham 変種は位相的な Chern 類に戻る。
$X$ を可算基をもつ実解析多様体または可微分多様体とし、$G$ は単位群とする。$\Omega^p_X$ は実解析的(resp. $C^\infty$)な複素数値 $p$ 形式の層、$\mathcal O_X=\Omega^0_X$ とする。
段 1(Hodge 変種).可微分な場合、$\Omega^p_X$ は $C^\infty$ 関数の層の上の加群なので細層で、正の次数のコホモロジーが消える。実解析的な場合、$\Omega^p_X$ は実解析関数の層の上の局所自由加群、したがって連接解析層で、Cartan の定理 B の実解析版により正の次数のコホモロジーが消える(引用する事実 6)。$i\ge1$ なら $H^i(X,\Omega^i_X)=0$ で 1 を得る。
段 2(de Rham の同型と第一 Chern 類).de Rham の定理により $\Omega^\bullet_X$ は定数層 $\mathbf C$ の細層による分解で、$H^n_{\mathrm{DR}}(X)\cong H^n(X,\mathbf C)$ は環の同型である。$0\to\mathbf Z\to\mathcal O_X\xrightarrow{\exp(2\pi i\,\cdot)}\mathcal O_X^*\to0$ は(局所的に対数がとれるので)完全で、$0\to\mathbf C\to\mathcal O_X\xrightarrow{d}\mathcal Z^1\to0$ は Poincaré の補題により完全である。成分が $2\pi i$ 倍、$2\pi i$ 倍、$D$ の短完全列の射があり($D(\exp(2\pi if))=2\pi i\,df$)、本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定理(対数微分と指数列の比較)と同じ論法(二つの完全列と余境界の自然性だけを使う)により、可逆層 $\mathbb L$ について $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)=\pm2\pi i\,\iota\,\delta_{\exp}(\eta)$ が普遍的な符号で成り立つ。本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理(指数列と第一 Chern 類)の (2) により $\delta_{\exp}(\eta)$ は普遍符号 $\varepsilon_2$ を除いて位相的な $c_1(\mathbb L)$ である($C^\infty$ の変換関数の類は連続の変換関数の類に写り、余境界は包含と両立する)。符号をまとめて $\epsilon$ とおくと $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)=2\pi i\,\epsilon\,\iota\,c_1(\mathbb L)$。
段 3(射影束).$P=P(\mathbb E)$ はファイバー $\mathbf{CP}^{r-1}$ の $C^\infty$ 束で、$x=\iota\,c_1(\mathcal O_P(1))$ とおくと、Leray–Hirsch の定理(複素係数)と射影空間のコホモロジーにより $1,x,\dots,x^{r-1}$ は $H^*(P,\mathbf C)$ の $H^*(X,\mathbf C)$ 上の基底で、位相的 Chern 類は $\sum_{i=0}^r\iota\,c_i(\mathbb E)\,x^{r-i}=0$ を満たす(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理(射影束のコホモロジーと Leray–Hirsch の定理)の (4))。段 2 により $\xi=\lambda x$、$\lambda=2\pi i\,\epsilon\ne0$ なので、$1,\xi,\dots,\xi^{r-1}$ も基底である。関係式に $\lambda^r$ を掛けると $\sum_i(\lambda^i\iota\,c_i(\mathbb E))\,\xi^{r-i}=0$ で、係数の一意性から $c_i^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)=\lambda^i\iota\,c_i(\mathbb E)$ を得る。
de Rham 変種は、整係数の情報を複素係数に移して捨てたうえで、通常の Chern 類をそのまま再現する。原論文は実解析多様体でも同じと読める書き方をしており、段 2・3 は Cartan の定理 B と実解析的な形式の Poincaré の補題があれば同じく通るが、本書は後者の段を書かず、主結果は可微分多様体に限った。可微分な場合の射影束公式は Leray–Hirsch の定理から出るので、Illusie の結果も Chern 類の形式の仮定も要らない。
以下は $X=\operatorname{Spec}A$ に $G$ が自明に作用する場合、すなわち環 $A$ の上の表現の場合である。
$k$ を体、$P$ をその素体、$k_0$ を $k$ の中の $P$ の代数閉包とする。
段 1(素体まで).第一基本完全列 $k\otimes_P\Omega^1_{P/\mathbf Z}\to\Omega^1_{k/\mathbf Z}\to\Omega^1_{k/P}\to0$ と、$\Omega^1_{P/\mathbf Z}=0$($\mathbf Q$ は $\mathbf Z$ の局所化、$\mathbf F_p$ は商)から $\Omega^1_{k/\mathbf Z}\cong\Omega^1_{k/P}$(引用する事実 5)。
段 2(代数閉包まで).$P$ は完全なので $k_0/P$ は分離代数的で、$\Omega^1_{k_0/P}=0$。第一基本完全列 $k\otimes_{k_0}\Omega^1_{k_0/P}\to\Omega^1_{k/P}\to\Omega^1_{k/k_0}\to0$ から $\Omega^1_{k/P}\cong\Omega^1_{k/k_0}$。外冪と微分は $\Omega^1$ とその普遍導分から決まるので、複体の同型を得て 1 となる。
段 3(標数 $p$).$\mathbf F_p$ 上の導分 $\partial$ は $\partial(a^p)=pa^{p-1}\partial a=0$ を満たすので $k^p$ 線形で、$\Omega^1_{k/\mathbf F_p}=\Omega^1_{k/k^p}$ である。$k_0$ は完全体の代数拡大なので完全で、$k_0=k_0^p\subset k^p$。これで 2 を得る。
段 4(群と類).$G$ は $k$ に自明に作用するので、1・2 の複体の同型は $G$ の超コホモロジーの同型を誘導する。類を比べるには射影束 $P(E)$ の上でも同じ同型が要る。$k$ 上の任意のスキーム $Y$ について、第一基本完全列 $\mathcal O_Y\otimes\Omega^1_{B'/B}\to\Omega^1_{Y/B}\to\Omega^1_{Y/B'}\to0$($B\to B'$ は $\mathbf Z\to P$、$P\subset k_0$、標数 $p$ では $\mathbf F_p\subset k^p$)の左の写像の像は、$\Omega^1_{B'/B}$ の元が $\Omega^1_{k/B}$ で消える(段 1〜3)ので $0$ であり、$\Omega^\bullet_{Y/B}\to\Omega^\bullet_{Y/B'}$ は $G$ と両立する同型である。これを $Y=P(E)$ に当てると、同型は対数微分 $D$ と両立して基本類 $\xi$ を $\xi$ に移す。係数の一意性から Chern 類も一致し、3 を得る。
原論文は標数 $p$ で $k_0$ を「より大きい体 $k_1=P(k^p)$」に替えてよいと書く。$P\subset k^p$ なので $k_1=k^p$ である。原論文の印字「$k$ の中の $P$ の代数閉包 $k_0$」は「$K$ の中の」と印字されているが、この段落に $K$ は現れず、$k$ と読む。係数の複体が $\Omega_{k/k_0}$ で決まることから、微分が消える体では理論が空になることが次に分かる。
de Rham 型の消滅には、類がフィルトレーション 1 に入ること(引用する事実 4)が要る。これは $c_i$ がフィルトレーション $i$ に入るという原論文 小節 6.4 の期待より弱いが、係数環が小さいときにはこれで足りる。
$A$ を $\Omega^1_{A/\mathbf Z}=0$ となる環とし、$G$ を $A$ に自明に作用する離散群、$E$ を $G$ の $A$ 上の有限階数の表現($G$ の作用をもつ有限生成射影 $A$ 加群)とする。
段 1(例の確かめ).標数 $p$ の完全体では $a=(a^{1/p})^p$ なので $da=p(a^{1/p})^{p-1}d(a^{1/p})=0$。$\Omega^1_{\mathbf Q/\mathbf Z}=0$(局所化)で、$\mathbf Q$ の代数拡大は分離代数的なので $\Omega^1_{K/\mathbf Q}=0$、第一基本完全列から $\Omega^1_{K/\mathbf Z}=0$。$\Omega^1_{\mathbf Z/\mathbf Z}=0$ で、Kähler 微分は局所化と可換である(引用する事実 5)。
段 2(Hodge 型).$i\ge1$ で $\Omega^i_{A/\mathbf Z}=\bigwedge^i\Omega^1_{A/\mathbf Z}=0$ なので $H^i(G,\Omega^i_{A/\mathbf Z})=0$。
段 3(de Rham 型).$\sigma_{\ge1}\Omega^\bullet_{A/\mathbf Z}=0$ なので $\operatorname{Filt}^1H^*_{\mathrm{DR}}(A/\mathbf Z,G)=0$ で、de Rham 複体から $\mathcal O=\Omega^\bullet/\sigma_{\ge1}$ への写像は恒等写像 $H^*(G,A)\to H^*(G,A)$ である。引用する事実 4 を $X=\operatorname{Spec}A$ に当てると $c_i^{\mathrm{DR}}(E)\in\operatorname{Filt}^1=0$。$G=\mathbf Z$ では $H^1(\mathbf Z,\mathbf Z)=\operatorname{Hom}(\mathbf Z,\mathbf Z)=\mathbf Z$。
段 4(代数閉体).代数閉体は完全なので 1 の場合に入る。
Hodge 型の消滅は定義だけから出るが、de Rham 型の消滅は群 $H^{2i}(G,A)$ が $0$ でなくても起こり、フィルトレーション 1 の主張を通して Chern 類の形式の仮定に依る。原論文はこの段を小節 6.4 の期待に依らせて書く。
原論文 小節 6.6(印字 p. 291)は、「ここではすべての $j$ で $\operatorname{Filt}^{j-1}H^j_{\mathrm{DR}}(A/\mathbf Z,G)=0$」と印字し、小節 6.4 の期待(de Rham 型の $c_i$ はフィルトレーション $i$ にある)を認めて de Rham 型の消滅を導く。本書の番号づけ(愚直な切り落とし $\sigma_{\ge p}$ の像を $\operatorname{Filt}^p$ とする)で印字どおりに読むと、$j=0$ では $\operatorname{Filt}^{-1}H^0=H^0(G,A)=A^G$、$j=1$ では $\operatorname{Filt}^0H^1=H^1(G,A)$ で、$G=\mathbf Z$、$A=\mathbf Z$ ならどちらも $\mathbf Z\ne0$ となり成り立たない。また $j=2i$ の条件 $\operatorname{Filt}^{2i-1}H^{2i}=0$ は、$i\ge2$ では $\operatorname{Filt}^i\supset\operatorname{Filt}^{2i-1}$ なので $c_i\in\operatorname{Filt}^i$ の消滅を与えない。同じ頁の冒頭の、de Rham 複体が次数 $0$ の成分 $A$ だけになるという文が正しい形 $\operatorname{Filt}^1H^j=0$(すべての $j$)を与え、指数 $j-1$ には理由が添えられていないので、本書は印字を誤植として $\operatorname{Filt}^1$ と読む。なお、$\operatorname{Filt}'_mH^j:=\operatorname{Im}\mathbb H^j(\sigma_{\ge j-m})$ と数える番号づけなら $\operatorname{Filt}'_{j-1}H^j=\operatorname{Filt}^1H^j$ で、印字はそのまま正しく、$c_i\in\operatorname{Filt}^iH^{2i}=\operatorname{Filt}'_iH^{2i}\subset\operatorname{Filt}'_{2i-1}H^{2i}=0$ から論証にも足りる。原論文は番号づけを明示しないので、二つの番号づけの混入と読むのが自然である。
最初の例は、de Rham 型の理論が整係数の位相的な類をどれだけ落とすかを示す。
$G=\mathbf Z/2$、$A=\mathbf Z$、$\chi\colon G\to\mathbf Z^*=\{\pm1\}$ を自明でない指標とし、$E=L_\chi$ とする。de Rham 型の係数の群は $H^2_{\mathrm{DR}}(\mathbf Z/\mathbf Z,G)=H^2(\mathbf Z/2,\mathbf Z)\cong\mathbf Z/2$ で $0$ でないが、上の定理(微分形式が消える係数環では理論が空になる)により $c_1^{\mathrm{DR}}(E)=0$ である。直接にも、$D(\chi(g))=d(\pm1)/(\pm1)=0$ から $c_1^{\mathrm{Hdg}}=0$、$c_1^{\mathrm{DR}}=\phi^1(0)=0$ と分かる。一方、$E\otimes\mathbf C$ の位相的な第一 Chern 類は $H^2(\mathbf Z/2,\mathbf Z)\cong\mathbf Z/2$ の生成元である(本書『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』の主結果(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)により、有限群では $c_1$ は指標 $\chi\neq1$ そのものに対応する)。
$k=\overline{\mathbf F}_p$、$\ell\ne p$ を素数、$G=\mathbf Z/\ell$、$\chi\colon G\to k^*$ を忠実な指標とする。$k$ は完全なので、上の定理により $L_\chi$ の Hodge 型・de Rham 型の $c_1$ は $0$ である。一方 mod $\ell$ の算術的 Chern 類は $0$ でない。実際、$G$ は $k^*$ に自明に作用し、$k^*$ の $\ell$ 乗写像は全射で核は $\mu_\ell(k)$ なので、長完全列 $H^1(G,k^*)\xrightarrow{\ell}H^1(G,k^*)\xrightarrow{\partial}H^2(G,\mu_\ell(k))$ がある。$H^1(G,k^*)=\operatorname{Hom}(\mathbf Z/\ell,k^*)$ の元はすべて $\ell$ 乗で自明になるので $\ell$ 倍は $0$ 写像で、$\partial$ は単射である。$c_1(L_\chi)=\partial\chi\ne0$ となる(分離閉体の上の混合コホモロジーは群のコホモロジーである。本書『4-1 Galois 不変性と円分指標』の定理(分離閉体の上の作用つきベクトル束は群の表現)の 1)。$p$ と素な係数の理論は捩れ類を見るが、微分形式の理論はこの体の上では何も見ない。
次の二つの反例は、上の二つの定理の仮定を外したときに何が起こるかを示す。
外す条件は、微分形式が代数的(または正則)であることである。$X$ を可微分多様体、$\mathbb E$ を階数 $r\ge2$ の $C^\infty$ 複素ベクトル束、$P=P(\mathbb E)$ とする。上の定理(解析的な変種)の 1 により $H^1(P,\Omega^1_P)=0$ なので、Hodge 変種の基本類 $\xi=D(\eta)$ は $0$ である。もし $1,\xi,\dots,\xi^{r-1}$ が基底なら、$\xi=0$ から $r=1$ でなければならず矛盾する。基底でなくとも、$H^{0,0}_{\mathrm{Hdg}}(P)=\Gamma(P,\mathcal O_P)$ は $\pi^*\Gamma(X,\mathcal O_X)$ より真に大きい(ファイバーの上で定数でない $C^\infty$ 関数がある)ので、Hodge 変種の射影束公式は成り立たない。原論文は群 $H^i(X,\Omega^i_X)$ の消滅だけを理由に、Hodge 変種は「もはや興味をもたらさない」と書く(印字 p. 289)。この反例が示すのはそれより強く、類が定義されても $0$ にしかならないうえ、そもそも関係式で高次の類を定める段が働かない。
外す条件は $\Omega^1_{A/\mathbf Z}=0$ である。$A=\mathbf Q(t)$(有理関数体)、$G=\mathbf Z$、$\chi(1)=t$ とすると、$c_1^{\mathrm{Hdg}}(L_\chi)\in H^1(\mathbf Z,\Omega^1_{\mathbf Q(t)/\mathbf Q})=\operatorname{Hom}(\mathbf Z,\Omega^1_{\mathbf Q(t)/\mathbf Q})$ は $1\mapsto dt/t\ne0$ である($dt$ は $\Omega^1_{\mathbf Q(t)/\mathbf Q}$ の基底)。したがって上の定理(微分形式が消える係数環では理論が空になる)の結論は成り立たない。de Rham 型の類も $0$ でないこと、任意の次数の例、複素数体への拡大で消えないことは、本書『7-3 係数環が大きい場合と ℓ 進との食い違い』で示す。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 6.5〜6.6 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(作用群つきの de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー) | (6.15)(6.16)、(6.15 bis)(6.16 bis) | 289–290 |
| 定義(作用群つきの基本類と Chern 類) | 小節 6.5((6.7)(6.8)(6.11)(6.12) の作用群つき版) | 289 |
| 定理(作用群つきの射影束公式と類の定義) | 小節 6.5(「n° 2 と同様に進めればよい」) | 288–289 |
| 注意(環付きトポスの一般の場合と複素解析空間) | 小節 6.5 冒頭と末([3] の引用) | 288–289 |
| 定理(解析的な変種) | 小節 6.5 末 | 289–290 |
| 定理(係数を取り替えても複体が変わらないこと) | 小節 6.6 前半 | 290 |
| 定理(微分形式が消える係数環では理論が空になる) | 小節 6.6 後半 | 290–291 |
| 注意(原論文 6.6 のフィルトレーションの指数の読み方) | 小節 6.6($\operatorname{Filt}^{j-1}$ の印字) | 291 |
| 例(整数環の上の符号表現)、例(有限体の代数閉包の上の表現)、反例(二つ) | —(本書が足した例) | — |
原論文 小節 6.6 の「$k$ の中の $P$ の代数閉包」は「$K$ の中の」と印字され、Hodge 群の係数は $\Omega^i_{A/S}$ と印字されている箇所があるが、文脈から $\Omega^i_{A/\mathbf Z}$ と読んだ。
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