係数体の微分形式が消えないとき、離散群の表現の de Rham 型・Hodge 型の Chern 類は $0$ にならない。指標の Hodge 型の第一 Chern 類が値の対数微分そのものであることから出発し、それが de Rham 型でも消えないことを留数と Cartier 作用素で確かめ、有理関数体の上で任意の次数の $0$ でない類を作って、複素数体の上でも捩れでない類が残ることを示す。最後に、有理数体の上では $\ell$ 進の第一 Chern 類が捩れでないのに de Rham 型の類が $0$ になる食い違いを示し、原論文がそこから予想した $p$ 進 Chern 類の姿を記録する。
$k$ は体、$P$ はその素体、$G$ は $\operatorname{Spec}k$ に自明に作用する離散群で、$G$ の $k$ 上の表現の de Rham 型・Hodge 型の Chern 類を $\mathbb H^{2i}(G,\Omega^\bullet_{k/P})$、$H^i(G,\Omega^i_{k/P})$ にとる(本書『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』。係数を $\mathbf Z$ 上でとっても同じ)。指標 $\chi\colon G\to k^*$ の定める 1 次元表現を $L_\chi$ と書き、$c_1(\chi):=c_1(L_\chi)$ とする。$\ell\ne\operatorname{char}k$ は素数で、$\ell$ 進の類は $H^{2i}(k,G;T_\ell^{\otimes i})$ にとる。
本頁の主結果は次の五つである。
前頁『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』は、係数環の絶対的な微分 $\Omega^1_{A/\mathbf Z}$ が消えると、de Rham 型・Hodge 型の Chern 類がすべて $0$ になることを示した。とくに標数 $p$ の代数閉体の上では理論が空である。原論文の小節 6.7(印字 pp. 291–293)は、これが標数 $0$ の $\mathbf Q$ 上代数的でない代数閉体、たとえば $\mathbf C$ や、完全でない体の上では一変することを示す。そこでは指標 $\chi$ の Hodge 型の $c_1$ は、値 $\chi(g)$ の対数微分 $d\chi(g)/\chi(g)$ という具体的な形をもち、$\chi$ が $\overline{\mathbf Q}$ の上で定義されない限り $0$ でない。
原論文はさらに、「標準的なスペクトル系列」を見れば Hodge 型が $0$ でないとき de Rham 型も $0$ でないと述べ、その根拠の事実($dy/y=dx$ なら $dx=dy=0$)を「困難なく確かめられる」とだけ書く。続けて小節 5.3.2 の $\ell$ 進の例(本書『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』)と同じ手順で任意の次数の例ができ、標数 $0$ では拡大体に移っても類が消えないことを「容易に」見る、とする。結論は下線を引いて強調される:離散群の複素表現についての算術的な de Rham 型・Hodge 型の Chern 類の理論は決して自明でなく、しかも $\ell$ 進の理論(第 4 章)と違って、$\mathbf Q$ 上のベクトル空間の中に $0$ でない、したがって捩れでない類がある。
小節 6.8(印字 pp. 293–294)は、この違いが見かけほど不自然でない理由を述べる。真に算術的な $\ell$ 進の類は素体上有限型の体の上で定義されるもので、そこでは捩れでない不変量を与え、絶対的に有限型の体にとどまる限り拡大で壊れない。複素数体に移ると $\ell$ 進の類は捩れになる(本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)が、de Rham 型の類は残る。ところが有理数体そのものの上では逆のことが起こる。$\ell$ 進の $c_1$ は捩れでないことがあるのに、de Rham 型の $c_1$ は $0$ である。原論文はこれを「anomalie」と呼び、de Rham より細かいコホモロジーで解消されることを期待して、標数 $p$ の完全体の上の表現の「$p$ 進 Chern 類」の姿を予想する。
$G$ が $k$ に自明に作用するので、作用群つきの de Rham コホモロジーは群の超コホモロジーになる(本書『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』の定義(作用群つきの de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー))。そのスペクトル系列を明示しておく。
$B\subset k$ を部分環($\mathbf Z$、$P$、または部分体 $k_0$)、$\Omega^\bullet_k:=\Omega^\bullet_{k/B}$ とする。愚直なフィルトレーション $\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_k$ から、群の超コホモロジーのスペクトル系列
$$E_1^{p,q}=H^q(G,\Omega^p_k)\Longrightarrow\mathbb H^{p+q}(G,\Omega^\bullet_k)$$
が得られ、収束先のフィルトレーションは $\operatorname{Filt}^p$、$E_1$ の微分 $d_1\colon E_1^{p,q}\to E_1^{p+1,q}$ は外微分 $d\colon\Omega^p_k\to\Omega^{p+1}_k$ が誘導する写像である。系列は乗法的で、$\operatorname{Filt}^a\cdot\operatorname{Filt}^b\subset\operatorname{Filt}^{a+b}$ である(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定義「複体の超コホモロジー」の (2)〜(4))。$G$ は係数に自明に作用するので、$H^1(G,M)=\operatorname{Hom}(G,M)$ である。
このスペクトル系列の $E_\infty^{p,p}$ は、de Rham 型の類を Hodge 型の類と比べる場所である。第一 Chern 類については次の事実を前頁と頁 7-1 から引く。
指標 $\chi\colon G\to k^*$ について、$L_\chi$ の類 $\eta\in H^1(\operatorname{Spec}k,G;\mathcal O^*)$ は、$\operatorname{Spec}k$ の Zariski 位相が一点なので $H^1(G,k^*)=\operatorname{Hom}(G,k^*)$ の元 $\chi$ である(トルソーとコサイクルの対応の約束によっては $\chi^{-1}$。本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の例(体の上の作用つき可逆層の類)と同じ。以下の主張は符号によらない)。$c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi):=D(\eta)$、$c_1^{\mathrm{DR}}(\chi):=\phi^1D(\eta)$ と定める(本書『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』の定義(作用群つきの基本類と Chern 類))。$c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)$ は $\operatorname{Filt}^1$ に入り、$\operatorname{Filt}^1/\operatorname{Filt}^2$ での像は $E_\infty^{1,1}$ の中の $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)$ の類である(本書『7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列』の主結果(de Rham 型の第一 Chern 類はフィルトレーション 1 にあり、Hodge 型に一致する)の作用群つきの形。証明は複体の射 $\mathcal Z^1[-1]\to\sigma_{\ge1}\Omega^\bullet\to\Omega^1[-1]$ だけを使い、射影束公式にも仮定にも依らない)。とくに $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)$ はスペクトル系列の永続的な cycle である。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書の第 0 章、EGA4、Ser62、SerGal64 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。6〜8 は本書の他の頁の主結果である。
第一 Chern 類は射影束公式にも仮定にも依らずに計算できる。まず Hodge 型を値の対数微分として書き、次にそれが de Rham 型に持ち上がって消えないことを示す。
記号をこの頁の冒頭のとおりとする。
段 1(群の同一視).$\operatorname{Spec}k$ の Zariski 位相は一点なので、作用群つきのコホモロジーは群のコホモロジーで、$H^{1,1}_{\mathrm{Hdg}}(k/P,G)=H^1(G,\Omega^1_{k/P})$。$G$ は係数に自明に作用するので $H^1=\operatorname{Hom}$ である。上の定義(指標の de Rham 型・Hodge 型の第一 Chern 類)により $\eta=\chi\in\operatorname{Hom}(G,k^*)$ で、$D\colon k^*\to\Omega^1_{k/P}$ が誘導する $H^1(G,k^*)\to H^1(G,\Omega^1_{k/P})$ は $\chi\mapsto D\circ\chi$ である。よって $u(g)=D(\chi(g))=d\chi(g)/\chi(g)$ で 1 を得る。
段 2(消える条件).$\chi(g)$ は単元なので $u(g)=0$ と $d\chi(g)=0$ は同値である。引用する事実 1 により、標数 $0$ では $dx=0$ は $x$ が $\mathbf Q$ 上代数的であることと、標数 $p$ では $x\in k^p$ と同値である。これで 2 を得る。
段 3(存在).$\Omega^1_{k/P}$ は $dx$($x\in k$)で生成されるので、$\Omega^1_{k/P}\ne0$ なら $dx\ne0$ となる $x$ があり、$d0=0$ だから $x\ne0$。$\chi(1)=x$ と定めると $u(1)=dx/x\ne0$。$\Omega^1_{k/P}\ne0$ の言い換えは引用する事実 1 による。
原論文は条件 2 を「$\chi$ が $\overline{\mathbf Q}$(resp. $k^p$)の上で定義される」と言い換える。Hodge 型の第一 Chern 類は、値の代数的な部分を見ずに、超越的な部分だけを微分で拾う。これが de Rham 型でも見えることを示すには、次の事実が要る。
体 $k$ の元 $x\in k$、$y\in k^*$ が $\Omega^1_{k/P}$ で $dy/y=dx$ を満たすなら、$dx=dy=0$ である。
段 1(標数 $p$).$dx$ と $dy/y$ は閉形式で、Cartier 作用素について $C(dx)=0$、$C(dy/y)=dy/y$(引用する事実 3)。$dy/y=dx$ に $C$ を当てると $dy/y=0$、したがって $dy=0$、$dx=dy/y=0$。
段 2(標数 $0$ の帰着).$L=\mathbf Q(x,y)\subset k$ とする。$k/L$ は分離的なので $\Omega^1_{L/\mathbf Q}\otimes_Lk\to\Omega^1_{k/\mathbf Q}$ は単射で(引用する事実 1)、関係式は $\Omega^1_{L/\mathbf Q}$ で成り立つ。$\operatorname{deg.tr}(L/\mathbf Q)=0$ なら $dx=dy=0$。$2$ なら $dx,dy$ は基底なので $dy-y\,dx=0$ はありえない。
段 3(超越次数 1).$k_1$ を $L$ の中の $\mathbf Q$ の代数閉包とする。$L$ は有限生成なので $k_1$ は数体で、$\Omega^1_{L/\mathbf Q}=\Omega^1_{L/k_1}$(第一基本完全列と $\Omega^1_{k_1/\mathbf Q}=0$)。標数 $0$ で $k_1$ は $L$ の中で代数的に閉じているので、$L':=L\otimes_{k_1}\overline{\mathbf Q}$ は体で、$\overline{\mathbf Q}$ 上の滑らかな射影曲線 $C$ の関数体であり、$\Omega^1_{L/k_1}\otimes_LL'=\Omega^1_{L'/\overline{\mathbf Q}}$ である。関係式 $dy/y=dx$ は $C$ の有理微分の等式になり、各点 $Q$ で $\operatorname{ord}_Q(y)=\operatorname{res}_Q(dy/y)=\operatorname{res}_Q(dx)=0$(引用する事実 2)。よって $\operatorname{div}(y)=0$ で $y$ は $\overline{\mathbf Q}$ の元、したがって $y\in L\cap\overline{\mathbf Q}=k_1$ で $dy=0$、$dx=dy/y=0$。
$c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)\ne0$ なら、$c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)\in\operatorname{Filt}^1\mathbb H^2(G,\Omega^\bullet_{k/P})$ の $E_\infty^{1,1}=\operatorname{Filt}^1/\operatorname{Filt}^2$ での像は $0$ でなく、とくに $c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)\ne0$ である。
段 1(像の所在).上の定義(指標の de Rham 型・Hodge 型の第一 Chern 類)により、$c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)$ の $E_\infty^{1,1}$ での像は、永続的な cycle $u=c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)\in E_1^{1,1}$ の類である。
段 2(入ってくる微分).$E_\infty^{1,1}$ は永続的な cycle を、$(1,1)$ に入る微分の像の和で割ったものである。$d_r\colon E_r^{1-r,r}\to E_r^{1,1}$ は $r\ge2$ では $1-r<0$ なので $0$ で、残るのは $d_1\colon E_1^{0,1}=H^1(G,k)=\operatorname{Hom}(G,k)\to\operatorname{Hom}(G,\Omega^1_{k/P})$、$a\mapsto d\circ a$ だけである。
段 3(事実の適用).$u=d\circ a$ とすると、各 $g$ で $d\chi(g)/\chi(g)=d(a(g))$ で、上の補題(対数微分が完全形式に等しければ両方が消える)により $d\chi(g)=0$、すなわち $u=0$ となり仮定に反する。よって $u$ の類は $E_\infty^{1,1}$ で $0$ でない。
原論文は「標準的なスペクトル系列が示す」とだけ書き、補題の事実を括弧の中で「困難なく確かめられる」とする。これで第一 Chern 類については、Hodge 型と de Rham 型が同時に消えるか同時に消えないかのどちらかで、消えない条件は主結果 1 の対数微分の条件で読める。
高次の例は、小節 5.3.2 の $\ell$ 進の例と同じく自由アーベル群の指標の直和で作る。$\ell$ 進の例で Kummer 類の積が留数で消えないこと(本書『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』)に当たるのは、次の補題である。
$k_0$ を任意の体、$k=k_0(t_1,\dots,t_n)$、$\omega:=\frac{dt_1}{t_1}\wedge\cdots\wedge\frac{dt_n}{t_n}\in\Omega^n_{k/k_0}$ とする。$\omega$ は $d\Omega^{n-1}_{k/k_0}$ に属さない。
段 1(Laurent 級数への埋め込み).$K=k_0(t_1,\dots,t_{n-1})$、$t=t_n$ とし、$k\subset K(\!(t)\!)$ とみる。$\widehat\Omega^m$ を、$\alpha_j\in\Omega^m_{K/k_0}$、$\beta_j\in\Omega^{m-1}_{K/k_0}$ による下に有界な和 $\sum_jt^j(\alpha_j+\beta_j\wedge dt)$ の全体とし、$d(\sum_ja_jt^j)=\sum_jda_j\,t^j+\sum_jja_jt^{j-1}dt$ を項ごとに延ばして微分次数付き代数とする。$K(\!(t)\!)\to\widehat\Omega^1$ は $k_0$ 導分なので、Kähler 微分の普遍性から微分次数付き代数の射 $\Omega^\bullet_{k/k_0}\to\widehat\Omega^\bullet$ を得る。
段 2(留数).$\operatorname{Res}\colon\widehat\Omega^m\to\Omega^{m-1}_{K/k_0}$ を $\sum_jt^j(\alpha_j+\beta_j\wedge dt)\mapsto\beta_{-1}$ と定める。$d(t^j\alpha)=t^jd\alpha+(-1)^mjt^{j-1}\alpha\wedge dt$ の $t^{-1}dt$ の係数は $j=0$ のときの $0$ で、$d(t^j\beta\wedge dt)=t^jd\beta\wedge dt$ だから、$\operatorname{Res}\circ d=d\circ\operatorname{Res}$ である。
段 3(帰納法).$\omega=\omega'\wedge t^{-1}dt$、$\omega':=\frac{dt_1}{t_1}\wedge\cdots\wedge\frac{dt_{n-1}}{t_{n-1}}$ なので $\operatorname{Res}(\omega)=\omega'$。$\omega=d\eta$ なら $\omega'=d\operatorname{Res}(\eta)$ で、$\omega'$ は $\Omega^\bullet_{K/k_0}$ で完全形式になる。$n$ についての帰納法で $n=1$ に帰着し、そこでは $\omega'=1\in\Omega^0_{k_0/k_0}=k_0$ が次数 $-1$ の元(すなわち $0$)の微分になり、$1=0$ となって矛盾する。
拡大体に移っても類が消えないことは、体の上の複体の分裂から出る。
$G$ は体の拡大 $k\subset k'$ に自明に作用するとする。
段 1(Hodge).$\Omega^p_{k/P}\otimes_kk'\to\Omega^p_{k'/P}$ は単射(引用する事実 1)なので、$\Omega^p_{k/P}\to\Omega^p_{k'/P}$ は $k$ 線形な単射で、$k$ 線形に分裂する。$G$ は自明に作用するので分裂は $G$ 加群の分裂で、$H^q(G,-)$ は単射を与える。
段 2(コホモロジーへの帰着).$\iota\colon\Omega^\bullet_{k/\mathbf Q}\to\Omega^\bullet_{k'/\mathbf Q}$ は $\mathbf Q$ 上の複体の射なので、コホモロジーで単射なら、引用する事実 4 によりホモトピーを除く左逆 $\rho$ をもち、$\rho_*\iota_*=\mathrm{id}$ から群の超コホモロジーでも単射である。$\Omega^\bullet$ は有限生成な部分拡大の帰納極限と可換なので、$k'/k$ は有限生成としてよく、$k\subset k(T_1,\dots,T_m)\subset k'$(後半は有限次)と分けられる。
段 3(1 変数の純超越拡大).閉形式 $\omega\in\Omega^\bullet_{k/\mathbf Q}$ が $\Omega^\bullet_{k(T)/\mathbf Q}$ で $d\eta$ になるとする。$\Omega^\bullet_{k(T)/\mathbf Q}$ は $\Omega^\bullet_{k[T]_f/\mathbf Q}$($0\ne f\in k[T]$)の帰納極限なので、$f$ をとり直せば $\eta\in\Omega^\bullet_{k[T]_f/\mathbf Q}$ で、$\omega=d\eta$ がすでに $\Omega^\bullet_{k[T]_f/\mathbf Q}$ で成り立つ。$k$ は無限体なので $f(a)\ne0$ となる $a\in k$ があり、$k$ 代数の準同型 $k[T]_f\to k$、$T\mapsto a$ が誘導する微分次数付き代数の射は $\Omega^\bullet_{k/\mathbf Q}$ の上で恒等なので、$\omega=d(\eta|_{T=a})$。
段 4(有限次拡大).$\Omega^p_{k'/\mathbf Q}=\Omega^p_{k/\mathbf Q}\otimes_kk'$(引用する事実 1)で、跡 $\operatorname{Tr}(\omega\otimes b):=\operatorname{Tr}_{k'/k}(b)\,\omega$ を定める。Galois 閉包 $k''$ への $k$ 埋め込み $\sigma_1,\dots,\sigma_m$ について $\operatorname{Tr}=\sum_i\sigma_i$ で、各 $\sigma_i$ は $k$ 代数の射なので $d$ と可換だから、$\operatorname{Tr}$ は複体の射である。$\operatorname{Tr}\circ\iota=[k':k]$ は標数 $0$ で可逆なので、$\iota(\omega)=d\eta$ なら $\omega=d([k':k]^{-1}\operatorname{Tr}\eta)$。
$n\ge1$、$k=k_0(t_1,\dots,t_n)$ とし、$k_0$ が素体なら係数を $\Omega^\bullet_{k/P}$、任意の体なら $\Omega^\bullet_{k/k_0}$ にとる。$G=\mathbf Z^n$(基底 $e_1,\dots,e_n$)、$L_i$ を $e_j\mapsto t_i^{\delta_{ij}}$ の指標の表現、$E=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$ とし、引用する事実 6 を仮定する。
段 1(Hodge).引用する事実 6 により $c(E)=\prod_i(1+c_1(L_i))$ で、次数 $2n$ の成分は $c_n(E)=\prod_ic_1(L_i)$。主結果 1 により $c_1(L_i)=u_i$、$u_i(e_j)=\delta_{ij}\,dt_i/t_i$、すなわち $u_i=\frac{dt_i}{t_i}\otimes e_i^*$。引用する事実 5 の cup 積の記述から $u_1\cdots u_n=\pm\,\omega\otimes(e_1^*\wedge\cdots\wedge e_n^*)$。$dt_1,\dots,dt_n$ は $\Omega^1_{k/k_0}$ の基底なので $\omega\ne0$ で、係数を $\Omega_{k/P}$ にとっても $\Omega_{k/P}\to\Omega_{k/k_0}$ で $0$ でない元に写るから $0$ でない。
段 2(de Rham).引用する事実 6 により $c_n^{\mathrm{DR}}(E)=\prod_ic_1^{\mathrm{DR}}(L_i)$。各因子は $\operatorname{Filt}^1$ に入り $E_\infty^{1,1}$ での像が $u_i$ の類なので、スペクトル系列の乗法性から積は $\operatorname{Filt}^n$ に入り、$E_\infty^{n,n}$ での像は $u_1\cdots u_n$ の類である。$(n,n)$ に入る微分は、$r\ge2$ では始点 $E_r^{n-r,n+r-1}$ が $H^{n+r-1}(\mathbf Z^n,-)=0$ の部分商なので $0$ で、$d_1\colon H^n(G,\Omega^{n-1}_k)\to H^n(G,\Omega^n_k)$、すなわち $d\otimes1\colon\Omega^{n-1}_k\otimes\bigwedge^n\to\Omega^n_k\otimes\bigwedge^n$ だけである。よって像が $0$ であることは $\omega$ が完全形式であることと同値で、上の補題(有理関数体の対数形式の積は完全形式でない)により $0$ でない。
段 3(拡大).Chern 類は体の拡大と両立する(引用する事実 6)。標数 $0$ の拡大は分離的なので、上の補題(拡大での単射性)の 1・2 により類は $k'$ の上でも $0$ でない。$\mathbf C$ は $\mathbf Q$ 上無限の超越次数をもつので $k\subset\mathbf C$ にとれる。$\mathbb H^*(G,\Omega^\bullet_{\mathbf C/\mathbf Q})$ と $H^*(G,\Omega^*_{\mathbf C/\mathbf Q})$ は $\mathbf C$ ベクトル空間なので、$0$ でない元は捩れでない。
これで原論文の下線の結論、離散群の複素表現の算術的な de Rham 型・Hodge 型の Chern 類の理論が自明でないことが、原論文の仮定の下で確かめられた。$\ell$ 進の類は複素数体の上では捩れになる(本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』)ので、両者はここで振る舞いを分ける。
原論文は括弧の中で、拡大で類が消えないことは「より一般に分離的な拡大で」成り立つと書く。Hodge 型は上の補題(拡大での単射性)の 1 がそれを与える。de Rham 型で標数 $p$ の分離的な拡大を扱うには、要点のみ述べると、Cartier 同型 $H^i(\Omega^\bullet_{K/\mathbf F_p})\cong\Omega^i_{K/\mathbf F_p}$(引用する事実 3)が体の拡大について自然なので、コホモロジーの単射性が 1 の単射性に帰し、あとは $\mathbf F_p$ 上の複体について段 2 と同じく引用する事実 4 を使えばよい。非分離的な拡大では類は消えうる(下の反例)。
原論文の小節 6.8 は、de Rham 型との違いを説明するために、$\ell$ 進の類の側の事情をまとめる。本書はその主張を次の形で確かめる。
$\ell$ は以下の体の標数と異なる素数とする。
段 1(有限生成な定義体).生成元 $g_1,\dots,g_s$ の $g_j^{\pm1}$ を $E$ の基底で行列に書き、その成分で素体上生成される体を $k$ とする。同じ行列で $k^r$ に $G$ を作用させると、生成元の間の関係式は $K$ の中で成り立つので $k$ の中でも成り立ち、$E_0$ が得られる。
段 2(有限次の部分).$k\subset k(T_1,\dots,T_m)\subset k'$ と分ける。有限次拡大では、引用する事実 7 により制限の核は各 $\nu$ で $[k':k]$ 倍で消えるので、射影極限の核も $[k':k]$ 倍で消え、$\otimes\mathbf Q$ で $0$ になる。
段 3(1 変数の純超越拡大).$K=k(T)$ とする。$k$ の完全閉包 $k^{\mathrm{pf}}$ について $k^{\mathrm{pf}}/k$ と $k^{\mathrm{pf}}(T)/K$ は純非分離なので、コホモロジーは変わらず(引用する事実 9)、$k$ は完全としてよい。$L=k(\!(T)\!)\supset K$、$M=\mu_{\ell^\nu}^{\otimes i}(k^{\mathrm s})$ とする。$M$ は $\pi_L\to\pi_k$ を通じて $\pi_L$ 加群で、pro-$p$ の $W$ は $\ell$ 捩れ加群に自明に作用して正の次数のコホモロジーをもたないので、$R\Gamma(\pi_L,M)=R\Gamma(\pi_L/W,M)$。射影 $q\colon\pi_L/W\to\pi_k$ と切断 $s$(引用する事実 9)について $s^*\circ q^*=(q\circ s)^*=\mathrm{id}$ が連続余鎖の水準で成り立つので、$R\Gamma(k,M)\to R\Gamma(L,M)$ は分裂する単射である。
段 4(混合コホモロジーへ).$G$ は自明に作用するので $R\Gamma(k,G;M)=R\Gamma(G,R\Gamma(k,M))$(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』の主結果「混合コホモロジーのスペクトル系列」)で、$R\Gamma(G,-)$ は分裂する単射を保つ。よって $H^j(k,G;M)\to H^j(L,G;M)$ は単射で、これは $H^j(K,G;M)$ を経由するから $H^j(k,G;M)\to H^j(K,G;M)$ も単射である。$\nu$ について両立し、射影極限は左完全、$\otimes\mathbf Q$ は完全なので、$\mathbf Q_\ell(i)$ 係数でも単射である。Chern 類は拡大と両立する(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の主結果「逆像との両立と正規化」)ので 2 の後半を得る。
段 5(反例).$\mathbf Q$ の上の主張は下の定理(有理数体の上の ℓ 進と de Rham の食い違い)の 1 である。$K$ が代数閉体なら $H^q(K,-)=0$($q>0$)なので、混合コホモロジーのスペクトル系列は $H^2(K,\mathbf Z;\mu_{\ell^\nu})=H^2(\mathbf Z,\mu_{\ell^\nu}(K))$ を与え、無限巡回群の 2 次のコホモロジーは $0$ である(本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』の定理「巡回群と自由アーベル群のコホモロジー」の (1))。よって $c_1(\chi)(\ell)=0$。
$\ell$ 進の類は、絶対的に有限型の体にとどまる限り拡大で壊れないが、有限生成でない拡大で壊れうる。de Rham 型の類は逆に、標数 $0$ で係数を $\mathbf Q$ 上の微分にとればどの拡大でも壊れない(上の補題(拡大での単射性)の 2)。原論文の言う違いの理由はこの対比である。
$k=\mathbf Q$、$G=\mathbf Z$、$\chi\colon\mathbf Z\to\mathbf Q^*$、$\chi(1)=2$ とする。
段 1($\ell$ 進).$\mathbf Q$ の 1 の冪根の群は $\{\pm1\}$ で、$2$ は 1 の冪根でない。引用する事実 8 により $c_1(\chi)(\ell)$ は捩れでない。
段 2(de Rham 型).$\Omega^1_{\mathbf Q/\mathbf Z}=0$ なので $H^1(\mathbf Z,\Omega^1_{\mathbf Q/\mathbf Z})=0$ で Hodge 型は $0$。de Rham 複体は次数 $0$ の $\mathbf Q$ だけで $\operatorname{Filt}^1=0$、$c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)\in\operatorname{Filt}^1$(上の定義(指標の de Rham 型・Hodge 型の第一 Chern 類))なので $0$。第一 Chern 類だけの主張なので、射影束公式も Chern 類の形式の仮定も使わない。
原論文はこれを「anomalie」と呼ぶ。de Rham コホモロジーは $\mathbf Q$ の上で算術的な情報を落とし、$\ell$ 進の理論は複素数体の上で落とす。原論文はここから、de Rham より細かいコホモロジーを予想した。
原論文(印字 pp. 293–294)は、この食い違いが、de Rham コホモロジーへ写る群を与える、定義のまだ見つからないより細かいコホモロジーで解消されうるとし、Monsky–Washnitzer MW68 の始めた方向で、標数 $p$ の完全体 $k$ の上の表現の「$p$ 進 Chern 類」を探すべきだとする(脚注は同じ巻の Exposé IX の 7.4 を指す)。値域は Witt ベクトル環 $W(k)$ について $H^{2i}(G,W(k))$ であるべきで((6.20)。$H_n(G,\mathbf Z/p)$ が有限でなければ $\varprojlim_\nu H^{2i}(G,W(k)/p^\nu)$)、Frobenius $\sigma$ について $(\sigma-p^i)c^i=0$、したがって $c^i$ は捩れで、さらに($p=2$ ではそうでないかもしれないが)$c^1=0$ となるはずだ、と脚注で述べる。本書は予想そのものを判定しない。予想の内部の含意は次の形で確かめられる。$G$ が型 FP 無限大なら、有限型自由な分解から $H^{2i}(G,W(k))\cong H^{2i}(G,\mathbf Z_p)\otimes_{\mathbf Z_p}W(k)$($W(k)$ は $\mathbf Z_p$ 上平坦)で、$\sigma$ は係数に働く。$H^{2i}(G,\mathbf Z_p)=\mathbf Z_p^a\oplus T$($T$ は有限)と分けると、自由部分の座標 $w\in W(k)$ について $\sigma(w)=p^iw$ から $v_p(w)=v_p(w)+i$ となり、$i\ge1$ で $w=0$。よって $c^i$ は $T\otimes W(k)$ に入り捩れである。
次の例は、複素数体の上で二つの理論が逆の振る舞いをすることを一つの指標で見せる。
$k=\mathbf C$、$G=\mathbf Z$、$\chi(1)=\pi$ とする。$\pi$ は $\mathbf Q$ 上超越的なので $d\pi\ne0$ で、主結果 1 により $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)=(1\mapsto d\pi/\pi)\ne0$、主結果 2 により $c_1^{\mathrm{DR}}(\chi)\ne0$ で、どちらも捩れでない。一方、上の定理(係数環が大きい場合)の段 5 と同じく、$\ell$ 進の $c_1(\chi)(\ell)\in H^2(\mathbf Z,T_\ell(\mathbf C))=0$ は $0$ である。$\chi(1)=2$ にとると逆に、de Rham 型は $0$ で($d2=0$)、$\ell$ 進も $\mathbf C$ の上では $0$、$\mathbf Q$ の上では捩れでない。
外す条件は、上の補題(拡大での単射性)の 1 の分離性である。$k=\mathbf F_p(t)$、$G=\mathbf Z$、$\chi(1)=t$ とすると、$t\notin k^p$ なので $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\chi)=(1\mapsto dt/t)\ne0$ である。$k'=k(t^{1/p})=\mathbf F_p(s)$($s^p=t$)に移ると、$\Omega^1_{k'/\mathbf F_p}$ で $dt=d(s^p)=ps^{p-1}ds=0$ なので、$E\otimes_kk'$ の $c_1^{\mathrm{Hdg}}$ は $0$ になる。$\chi(G)\subset k'^p$ となったからで、主結果 1 の条件 2 のとおりである。
外す条件は $\Omega^1_{k/P}\ne0$ である。$k=\mathbf F_q$ は完全なので、本書『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』の定理(微分形式が消える係数環では理論が空になる)により、$k$ の上の表現の Hodge 型・de Rham 型の類はすべて $0$ で、主結果 1 の 3 の存在は成り立たない。一方 $\ell$ 進の類は、$\mathbf F_q$ の上で指標 $\chi\colon\mathbf Z\to\mathbf F_q^*$ の値が 1 の冪根なので、引用する事実 8 により捩れである。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 6.7〜6.8 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(群の超コホモロジーの Hodge–de Rham スペクトル系列) | (6.4) の群版(「標準的なスペクトル系列」) | 292 |
| 定義(指標の de Rham 型・Hodge 型の第一 Chern 類) | (6.7)(6.8) の作用群つき版、小節 6.4 の $i=1$ | 285–286、288、291 |
| 定理(指標の Hodge 型第一 Chern 類は対数微分) | (6.17)〜(6.19) とその解釈 | 291–292 |
| 補題(対数微分が完全形式に等しければ両方が消える) | 小節 6.7 の括弧内の事実(「困難なく確かめられる」) | 292 |
| 定理(Hodge 型が 0 でなければ de Rham 型も 0 でない) | 小節 6.7 | 292 |
| 補題(有理関数体の対数形式の積は完全形式でない)、補題(拡大での単射性) | 小節 6.7(「5.3.2 と同様に」「容易に」) | 292 |
| 定理(任意次数の例)、注意(標数 p の分離的な拡大と de Rham 型) | 小節 6.7 と下線の結論 | 292–293 |
| 定理(係数環が大きい場合) | 小節 6.8 前半 | 293 |
| 定理(有理数体の上の ℓ 進と de Rham の食い違い) | 小節 6.8((5.16) の参照、「anomalie」) | 293 |
| 注意(p 進 Chern 類の予想) | 小節 6.8 末、(6.20) と脚注 | 293–294 |
原論文は指標を $\phi$ と書くが、本頁は $\chi$ と書いた(記号 $\varphi$ は比較の同型に使う)。
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