原論文の序論のうち、係数を 1 の冪根に取り替えて mod $n$ と $\ell$ 進の Chern 類を定める構想(小節 0.3〜0.4)、分類空間の代数的な代用品としての群の作用する集合のトポス(小節 0.6 前半)、de Rham 型の変種と分類トポスの予告(小節 0.7〜0.8)、算術的な証明の他の例と位相・幾何・算術の関係についての所見(小節 0.10〜0.11)を扱う。群の作用する集合のトポスが群のコホモロジーと表現をそのまま与えることを証明し、原論文が他所に送った主張は原論文の状態とともに記録して、以後の章への地図とする。
$G$ は離散群、$k$ は体とする。$\mathbf B_G$ は $G$ が左から作用する集合と $G$ 写像のなす圏($G$ 集合のトポス)、$e$ はその終対象(一点集合)である。$k$ を $G$ が自明に作用する環とみて、環付きトポス $(\mathbf B_G,k)$ を考える。$n$ は $k$ の標数と素な整数、$\ell$ は $k$ の標数と異なる素数である。
本頁の主結果は次の三つである。
本書『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』で見たとおり、整係数の第一 Chern 類は、有限群では指標を同型 $\varphi\colon\mathbf Q/\mathbf Z\to\mu_\infty(\mathbf C)$ で読み替えた準同型であり、$\varphi$ が体の同型で動くことが純代数的な定義を妨げていた。原論文 Gro68d の小節 0.3(印字 p. 218)はここから逆に、係数 $\mathbf Z$ を基礎体に関手的に付く群、具体的には 1 の $n$ 乗根の群 $\mu_n(k)$ に替えればよいと考える。行列式と Kummer 列の余境界で、mod $n$ の第一 Chern 類 $c_1(E)\in H^2(G,\mu_n(k))$ が代数的に定まる。加法性に合わせるには高次の類を $H^{2i}(G,\mu_n(k)^{\otimes i})$ に置くことが実際上強いられる、と原論文は述べ、$n=\ell^\nu$ の極限をとれば $\ell$ 進の類が得られる(小節 0.4)。
問題はこの高次の類を代数的にどう作るかである。小節 0.6(印字 pp. 221–222)は、分類空間 $B_G$ の代数的な代用品がすでにあると指摘する。$G$ 集合のトポス $\mathbf B_G$ である。そのアーベル群対象のコホモロジーは群のコホモロジーそのものであり、表現はその上の局所自由加群になる。そこで Grothendieck 1958 Gro58 の射影束による Chern 類の構成を、局所環付きトポスの上の局所自由加群へ言い換えればよい(原論文 §1)。群と表現の場合、それは射影空間 $P(E)$ を作用群つきスキームとみた混合エタールコホモロジーを通る(原論文 §2)。
序論はこの構想に、得られる帰結(0.5 の捩れ定理)、基礎体が代数閉でない場合の豊かさ(0.6 後半)、de Rham 型の変種(0.7)、層の見方による分類空間論(0.8)、平坦束の特性類(0.9)、算術的な証明の他の例(0.10)、位相と代数幾何の関係(0.11)を重ねていく。本書はこれを主題ごとに分けて扱う。序論の各小節と本書の頁の対応は次のとおりである。
| 原論文の序論 | 内容 | 本書の頁 |
|---|---|---|
| 0.1〜0.2 | 位相的定義と整係数の障害 | 『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』 |
| 0.3〜0.4 | mod $n$ と $\ell$ 進の類の構想 | 本頁(定義の記録)、『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』、『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』 |
| 0.5 | Galois 不変性と捩れ、有理 Chern 類の消滅 | 『4-1 Galois 不変性と円分指標』〜『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』 |
| 0.6 前半 | 群のトポスと §1・§2 の計画 | 本頁、『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』 |
| 0.6 後半 | 代数閉でない体の上の混合 Chern 類 | 『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』 |
| 0.7 | de Rham 型・Hodge 型の変種 | 本頁(予告の記録)、第 7 章 |
| 0.8 | 分類トポスと普遍類 | 本頁 |
| 0.9 | 平坦束の有理特性類と付録の予告 | 第 8 章 |
| 0.10〜0.11 | 算術的証明の他の例、位相との関係 | 本頁 |
序論が本文の番号で予告する箇所の行き先は、4.11 の位数の評価が『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』、4.14 a) のコンパクト複素解析多様体の問いが『5-2 固有性と代数性を外した場合』、§6 が第 7 章、付録が第 8 章である。
まず小節 0.3〜0.4 が置く mod $n$ と $\ell$ 進の類の定義を記録し、次に主結果 1 のための $G$ 集合のトポスの言葉を用意する。
$k$ を代数閉体、$n$ を $k$ の標数と素な整数とし、$\mu_n(k)$ を $k$ の 1 の $n$ 乗根の群とする。$G$ が自明に作用する加群の完全列
$$0\to\mu_n(k)\to k^*\xrightarrow{x\mapsto x^n}k^*\to0$$
を Kummer列 と呼び、その余境界を $\partial\colon H^1(G,k^*)\to H^2(G,\mu_n(k))$ と書く。$G$ の $k$ 上の有限次元表現 $E$ の行列式 $d=\det E\colon G\to k^*$、$d(g)=\det(g_E)$ を $H^1(G,k^*)=\operatorname{Hom}(G,k^*)$ の元とみて、
$$c_1(E):=\partial(d)\in H^2(G,\mu_n(k))$$
を $E$ の mod $n$ の第一 Chern 類という(原論文 (0.7)〜(0.10))。
Kummer 列が完全であるのは、$k$ が代数閉で $n$ が標数と素なので、$X^n-a$($a\ne0$)が根をもち、$\mu_n(k)$ が位数 $n$ の巡回群になるからである。$\mu_n(k)$ は $\mathbf Z/n$ と同型だが、同型は標準的でない。$\det$ は直和と拡大について乗法的なので、$c_1$ は表現の完全列 $0\to E'\to E\to E''\to0$ について $c_1(E)=c_1(E')+c_1(E'')$ を満たす。
原論文((0.11)、印字 p. 219)は、表現の拡大についての加法性 $c_i(E)=\sum_{j+k=i}c_j(E')c_k(E'')$ を保つには、高次の mod $n$ の類を $H^{2i}(G,\mu_n(k)^{\otimes i})$($i$ 個のテンソル積)に置くことが「実際上強いられる」と述べる。論証ではなく係数の選び方の動機で、原論文の状態は発見的な要請である。本書の読み:cup 積は $H^{2j}(G,\mu_n^{\otimes j})\times H^{2k}(G,\mu_n^{\otimes k})\to H^{2i}(G,\mu_n^{\otimes i})$($j+k=i$)を与え、$c_1$ の係数が $\mu_n$ である以上、積 $c_1(L_1)\cdots c_1(L_i)$ の住む群はこれ以外にない。この類の構成は本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』で行う。
$\ell$ 進の類は、$n=\ell^\nu$ の類を $\nu$ について束ねて得る。
$k$ を代数閉体、$\ell$ を $k$ の標数と異なる素数とする。$T_\ell(k):=\varprojlim_\nu\mu_{\ell^\nu}(k)$(遷移は $\ell$ 乗)を $k$ の Tate 加群といい、そのテンソル冪 $T_\ell(k)^{\otimes i}$($i\in\mathbf Z$)を考える。これらは $\mathbf Z_\ell$ と同型だが、同型は標準的でない。$G$ が自明に作用するものとして
$$H^j(G,T_\ell(k)^{\otimes i}):=\varprojlim_\nu H^j(G,\mu_{\ell^\nu}(k)^{\otimes i})$$
とおく(原論文 (0.12)(0.13) の前。原論文は $\ell$ を標数と素な整数として書くが、本書は素数に限る)。mod $\ell^\nu$ の Chern 類の両立する族はこの極限の元を定め、それを $\ell$ 進 Chern 類 $c_i(E)\in H^{2i}(G,T_\ell(k)^{\otimes i})$ という(原論文 (0.13))。
射影極限で定めるので、連続コホモロジーとの差($\varprojlim^1$ の項)は原論文も本書も扱わない。mod $\ell^\nu$ の類が $\nu$ について両立することは本書『2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類』で示す。原論文はこの類が整係数の超越的な類の「最良の代数的近似」で、基礎体についての関手性を含む望ましい性質をすべてもつと評価する。これは評価であって証明すべき主張の形ではなく、中身は第 2 章から第 4 章で順に確かめる。
離散群 $G$ について、$G$ が左から作用する集合を $G$ 集合、作用と可換な写像を $G$ 写像といい、そのなす圏を $\mathbf B_G$ と書く。終対象 $e$ は一点集合である。
$\mathbf B_G$ は $G$ を一つの対象からなる圏とみたときの前層の圏と同じもので、トポス である。終対象を覆う族の定義は、このトポスの標準的な位相での被覆(全射になる族)を書き下したものである。原論文は $\mathbf B_G$ を分類空間 $B_G$ の「代数的な代用品」と呼ぶ。本頁の証明を読むと、$G$ に左移動で作用させた $G$ 集合 $G$ が普遍被覆 $E_G$ の役を、終対象 $e$ が底 $B_G$ の役を果たすことが分かる。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書の第 0 章、CE56、SGA4 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。
原論文は小節 0.6 で、$\mathbf B_G$ のコホモロジーが群のコホモロジーであることを「定義そのものから」とし、表現が局所自由有限型の加群であることを一文で述べる。前者は実際に定義から従うが、後者は局所自由の意味をトポスの被覆で読む必要があるので、被覆についての補題から始める。
段 1(被覆).$\coprod_jU_j\to e$ が全射であることは、合併が空でないこと、すなわちある $U_j$ が空でないことと同じである。
段 2(同値).$p\colon X\to G$ を $G$ 写像とする。$p(gx)=gp(x)$ なので、写像 $G\times X_1\to X$、$(g,x)\mapsto gx$ は $G$ 写像で、$p(gx)=g$ より $G$ 上の射である。逆写像は $y\mapsto(p(y),p(y)^{-1}y)$ で与えられ、$p(p(y)^{-1}y)=p(y)^{-1}p(y)=1$ だから確かに $X_1$ に入る。したがって $X\cong G\times X_1$ で、この同一視は $X$ について自然である。$G$ 上の $G$ 写像 $G\times F\to G\times F'$ は $(1,f)$ の像 $(1,h(f))$ で決まり、$(g,f)\mapsto(g,h(f))$ となるので、射の集合も $\operatorname{Map}(F,F')$ と一致する。
補題の 2 は、$G$ 集合 $G$ の上では $G$ の作用が「ほどける」ことを言っている。加群をこの上に制限すると、下部の $k$ ベクトル空間だけが残る。これで主結果 1 を示せる。
$G$ を離散群、$k$ を体とする。
段 1(アーベル群対象と大域切断).上の定義(G 集合のトポスと環付きトポス)の 1 のとおり、アーベル群対象は $G$ 加群で、射はアーベル群の準同型でもある $G$ 写像、すなわち $G$ 加群の準同型である。$e$ から $M$ への $G$ 写像は、一点の像 $m$ で決まり、$G$ 写像であることは $gm=m$(すべての $g$)と同値なので、$\Gamma(M)=M^G$。
段 2(導来関手).段 1 によりアーベル群対象の圏は $\mathbf Z[G]$ 加群の圏と同じで、$\Gamma$ は $M\mapsto M^G$ と同じ関手である。引用する事実 1 によりその右導来関手は群のコホモロジーで、引用する事実 2 によりトポスのコホモロジーも同じ右導来関手として定義されているので、$H^i(\mathbf B_G,M)=H^i(G,M)$。
段 3(加群と表現).$k$ には $G$ が自明に作用するので、$k\times M\to M$ が $G$ 写像であることは $g(\lambda m)=\lambda(gm)$ と同値である。したがって加群とは、$G$ が $k$ 線形に作用する $k$ ベクトル空間であり、加群の射は $G$ と可換な $k$ 線形写像である。
段 4(局所自由なら有限次元).族 $(U_j)$ が終対象を覆い、$M|_{U_j}\cong k^{n_j}|_{U_j}$ とする。上の補題の 1 により、ある $U_j$ は空でない。その点 $u\in U_j$ をとる。同型 $M\times U_j\to k^{n_j}\times U_j$ は $U_j$ 上の射で、各ファイバーの上で $k$ 線形な全単射である($k|_{U_j}$ 加群の同型だから)。$u$ の上のファイバーに制限すると、$k$ 線形な全単射 $M\cong k^{n_j}$ が得られる。よって $\dim_kM=n_j$ は有限である。空でない $U_j$ のどれを取っても同じ議論が通るので、$n_j=\dim_kM$。
段 5(有限次元なら局所自由).$\dim_kM=n$ とし、$k$ 線形同型 $\phi\colon M\to k^n$ を一つとる。上の補題の 1 により、一点の族 $(G)$ は終対象を覆う。$G$ 上の射
$$M\times G\to k^n\times G,\qquad(m,g)\mapsto(\phi(g^{-1}m),g)$$
は各ファイバーで $k$ 線形な全単射である。$h\in G$ の作用と可換であることは、$(hm,hg)\mapsto(\phi(g^{-1}h^{-1}hm),hg)=(\phi(g^{-1}m),hg)$ が $(\phi(g^{-1}m),g)$ の $h$ 倍($k^n$ には自明に作用する)に等しいことから分かる。したがって $M|_G\cong k^n|_G$ で、$M$ は局所自由有限型である。
段 5 の同型は、上の補題の 2 の同値で見れば、$M|_G$ が下部のベクトル空間 $M$ に対応することを具体的に書いたものである。有限型の条件を外すと、同じ構成で任意の表現が局所自由(階数は無限でもよい)になる。これで、分類空間の代わりに $\mathbf B_G$ を使っても、群のコホモロジーと表現という Chern 類の入力は何も失われないことが分かった。
$\mathbf B_G$ と分類空間 $B_G$ の関係は次のとおりである。被覆空間の理論により、$B_G$ の上の局所定数層(層としての被覆空間)は $\pi_1(B_G)=G$ の作用する集合と対応し、$G$ 集合 $G$ には普遍被覆 $E_G$ が対応する。自明な係数では $H^*(B_G,M)=H^*(G,M)$ である(本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』)。これらは本頁の主結果には使わない。原論文は小節 0.8 で、この見方を代数群・群スキーム・位相群へ一般化したものを「分類空間の理論の層の見方」と呼ぶ。
$\mathbf B_G$ の上の表現は局所自由加群なので、局所環付きトポスの上の局所自由加群の Chern 類が作れれば、表現の Chern 類が得られる。原論文はこの方針を次のように具体化する。
原論文(小節 0.6 中、印字 p. 222)は、Grothendieck 1958 Gro58 の射影束による Chern 類の構成を任意の局所環付きトポスの上の局所自由有限型加群へ言い換えること(§1 で素描)、それがエタールコホモロジー SGA4 を本質的に使うこと、群と表現の場合には射影空間 $P(E)$ を離散作用群つきスキームとみた混合エタールコホモロジーを通ること、§2 で GroT57 を手本に混合エタールコホモロジーと混合 Chern 類を定め、それが (0.11) の類を特別な場合として含むことを予告する。原論文の状態は計画である。実行は本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』『2-2 射影束公式』『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』。続けて原論文は、基礎体が代数閉でないとき類が $H^{2i}(\operatorname{Spec}k,G;\mu_n^{\otimes i})$ に入り、群と基礎体の Galois 群の両方のコホモロジーを拾うことを述べる((0.14)(0.15))。これは本書『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』で扱う。
表現の Chern 類を作る道は $\ell$ 進に限らない。原論文は同じ枠組みで別のコホモロジーを使う変種を予告し、その性質を先取りして述べる。
原論文(小節 0.7、印字 pp. 223–224)は、$\ell$ 進の代わりに de Rham コホモロジーまたは Hodge コホモロジーを使うと、作用つき局所自由加群、とくに離散群の表現の Chern 類の二つの変種が得られると予告し、次の四点を証明なしに述べる。(a) これらは基礎体(環)の絶対微分に結びつくので、基礎体が $\mathbf C$ でも専ら算術的な性質をもつ。(b) $\ell$ 進類との関係は、スキームのコホモロジーの同種の問いの特別な場合で、まだ解明されていない。(c) 剰余標数についての仮定なしに作れる。(d) $G$ が有限で基礎体が標数 0 なら de Rham 型の類はすべて 0 で、数体の整数環の上でも $i>1$ の $c_i$ は 0 である。定義が第 7 章まで無いので、本頁では判定しない(本書『7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列』『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』『7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類』)。(d) の前半の型だけは次のように読める:類が $H^{2i}(G,V)$($V$ は $\mathbf Q$ 上のベクトル空間)に値をとるなら、$G$ が有限のとき $H^{2i}(G,V)$($i\ge1$)は $|G|$ 倍で 0 になり、かつ $|G|$ 倍は $V$ の自己同型なので 0 である(本書『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』の補題(有限群での余境界の同型)の段 2 と同じ論法)。
原論文の小節 0.8 は、$\mathbf B_G$ の構成を群スキームへ広げ、Chern 類の構成全体を一つの普遍的な状況に集める見通しを述べる。
原論文(小節 0.8、(0.16)、印字 pp. 224–226)の主張を本書の言葉で述べる。$\mathbf B_G$ の構成は、$G$ を体の上の代数群、任意の底の上の群スキーム、位相群に替えても直ちに一般化する。$S=\operatorname{Spec}\mathbf Z[\ell^{-1}]$(de Rham・Hodge 型では $S=\operatorname{Spec}\mathbf Z$)の上の有限型スキームのエタール景のトポスに、作用群スキーム $\mathrm{GL}(n)_S$ を付けたものを $\mathrm{GL}(n)$ の分類トポス $\mathbf B_{\mathrm{GL}(n)}$ と呼び、局所環付きトポスの上の階数 $n$ の局所自由加群の $\ell$ 進 Chern 類の構成は、この普遍的な状況での同じ構成に帰着する。普遍 Chern 類は
$$c_i\in H^{2i}(\mathbf B_{\mathrm{GL}(n)},T_\ell^{\otimes i})$$
である。原論文はさらに、(a) この分類トポスの(捩れた定数 $\ell$ 進係数の)コホモロジーが $S$ 上の Grassmann スキームのコホモロジーと同型で、(b) その同型のもとで $c_i$ は Grassmann スキームの上の適当なサイクルの類で、古典的な Schubert サイクルで表せ、(c) 同じ道で直交束の Stiefel–Whitney 類の理論、とくに非退化二次形式を保つ表現の Stiefel–Whitney 類が得られる、と予告する。証明はすべて Giraud の準備中の著作(原論文の文献 [15])に送られ、紙面に無い。
本書が閉じられない段は三つある。第一に、分類トポスの普遍性($S$ 上の局所環付きトポス $X$ の上の階数 $n$ の局所自由加群と、$X$ から $\mathbf B_{\mathrm{GL}(n)}$ へのトポスの射との対応)が原論文に構成されていない。第二に、(a) の「Grassmann スキーム」は有限次元の Grassmann スキームの帰納系の極限と読むほかなく、その比較の定理がない。第三に、普遍類の存在自体が、分類トポスの上の射影束公式を要する。普遍性と普遍類が与えられれば、個々の局所自由加群の類が分類射による引き戻しで得られることは関手性から形式的に従うが、本書はその前提を立てられないので、主張全体を未完結とする。
係数の選び方についての原論文の観察、すなわち $\ell$ 進 Chern 類の係数 $T_\ell^{\otimes i}$ が正則スキームの上の余次元 $i$ のサイクルの類の係数と同じであることは、どちらも Kummer 列 $0\to\mu_n\to\mathbf G_m\to\mathbf G_m\to0$ から出発して $\mu_n$ の $i$ 個の積に値をとる、という共通の源から読み取れる。これは所見であって、本書は主張として数えない。
小節 0.9 は平坦束の有理特性類が消えるという既知の定理を述べ直し(第 8 章)、著者はその代数性の仮定の深い理由が 0.5 の算術的な証明にあると考える、と書く。小節 0.10 はこれを受けて、主張は位相的・幾何的なのに自然な(あるいは唯一知られた)証明が絶対有限型の体や環への還元による算術的なものである定理の例を挙げる。
原論文(小節 0.10、印字 p. 228)は第一の例として Lazard の定理 Laz55 を引く:体 $k$ の上のアフィン空間 $k^n$ に多項式で与えられた群法則は冪零である。有限体の場合に帰着して示され、そこでは自明だ、と原論文は書く。本書の注:有限体 $\mathbf F_q$ の上では点の群は位数 $q^n$ の $p$ 群なので冪零だが、冪零類は $q$ とともに増えうるので、有限体の場合から一般の体へ戻すには冪零類の一様な上界が要る。原論文はこの段を書かず、本書は Laz55 を開いていないので、帰着の成否は判定しない。第二の例として、標数 0 のアーベル多様体の族の理論を有限剰余体の状況へ還元する結果 Gro66b を挙げるが、内容は紙面に無い。原論文の状態はどちらも引用である。
第三の例が、原論文が「証明なしに」掲げる次の定理である。0.5 と同じく 1 の冪根の Galois 的性質に依り、さらに Hironaka Hir64 の特異点解消を使う、とだけ書かれている。
原論文(小節 0.10、印字 pp. 228–229。下線つきの無番号の定理)の主張を本書の言葉で述べる。$f\colon X\to S$ を複素解析空間の固有射とし、$S$ は非特異な 1 次元、$X$ は $S$ に相対的に代数的(たとえば $S\times\mathbf P^r_{\mathbf C}$ の閉解析部分空間で、$f$ は第一射影の制限)とする。このとき離散部分集合 $T\subset S$ があって、
1 の局所定数性は、$S-T$ の上で $f$ が固有な沈め込みになるように $T$ を選べれば引用する事実 3 から出る。定理の中身は 2 の冪単性である。例と反例の節で、$n(s)=1$ とは限らないことを具体的な族で確かめる。
原論文(印字 p. 229)の本文は、相対的な代数性の仮定を外したとき同種の主張が成り立つかは知らないとし、否と疑う、と書く。同じ注意を、Gro66b の結果を代数的な底の上の複素トーラスの解析的な族で仮に述べ直したものにも向ける。ところが脚注は、執筆後に Griffiths のプレプリント(Lefschetz の技法による超越的な証明)を知り、私信によれば代数性の仮定は要らず、代わりに $X$ と一般のファイバーの非特異性を仮定する、と書く。紙面の上では本文と脚注が食い違ったまま残り、本書も判定しない。原論文は続けて「0.6 で指摘した否定的結果」と 4.14 a) の問いと比べよ、と書く。前者は、有限生成の体の上の $\ell$ 進 Chern 類が捩れとは限らないという結果(本書『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』)を指すと読むのが自然だが、本書は確定しない。後者は本書『5-2 固有性と代数性を外した場合』で扱う。
原論文(小節 0.11、印字 pp. 229–231)は序論を次の所見で閉じる。位相の多くの主張は、抽象的な代数多様体やスキームの上でも(エタール位相を使って)意味をもち証明でき、しばしば一般のスキームの定理の特別な場合である。ただし射影多様体の超平面切断についての Lefschetz 型の定理の最も深いものには、まだエタールコホモロジーによる証明がない。コンパクト Lie 群は複素化 Che46 に替えられ、その普遍束と分類空間は複素 Stiefel 多様体と Grassmann 多様体の帰納極限として代数的であり、分類空間の整係数コホモロジーは(捩れを除き、群が連結なら)Chow 環と解釈できる(Séminaire Chevalley『Anneaux de Chow et applications』CheACh58 所収の Grothendieck の講演「Torsion homologique et sections rationnelles」Gro58c(原論文の文献 [18])で指摘済み、と原論文は書く)。位相的な $K(B_G)$ も連接層の $K$ 群の射影極限と解釈でき、表現環と $K$ 群を比べる Atiyah(原論文の文献 [6]、未公刊の謄写版)・Segal–Anderson AndTh・Karoubi Kar68 の定理を一般の底の上で考え直させる。準複素コボルディズム環の生成元が簡単な射影多様体であること(Milnor と Novikov。原論文は Tho59 を引く)も挙げる。いずれも所見で、証明すべき主張の形ではない。
原論文は最後に、位相・幾何・算術の相互関係はこれから増えて密になるだろうと見通して序論を終える。本書の第 2 章以降は、その見通しの最初の実例である算術的 Chern 類を、定義から捩れ定理と Milnor の定理の一般化まで順に追う。
mod $n$ の第一 Chern 類の計算と、それが体の同型で係数ごと移ること、代数閉でない体での Kummer 列、局所モノドロミーの冪の必要性を見る。
$k$ を代数閉体、$G=\mathbf Z/m=\langle g\rangle$、$n$ を標数と素とする。自明な係数 $A$ について $H^2(G,A)\cong A/mA$ で、Kummer 列の長完全列の一部 $H^1(G,k^*)\xrightarrow{n}H^1(G,k^*)\xrightarrow{\partial}H^2(G,\mu_n(k))\to H^2(G,k^*)$ から、$\partial$ は $\operatorname{Hom}(G,k^*)/n\operatorname{Hom}(G,k^*)$ を $H^2(G,\mu_n(k))\cong\mu_n(k)/\mu_n(k)^m$ に単射に埋め込む。$\operatorname{Hom}(G,k^*)\cong\mu_m(k)$($\chi\mapsto\chi(g)$、ここで $m$ も標数と素とする)なので、左辺は $\mu_m(k)/\mu_m(k)^n\cong\mathbf Z/\gcd(m,n)$、右辺も $\mathbf Z/\gcd(m,n)$ で、$\partial$ は同型である。したがって忠実な指標 $\chi$ の mod $n$ の第一 Chern 類 $c_1(L_\chi)=\partial(\chi)$ は $H^2(G,\mu_n(k))$ の生成元で、位数は $\gcd(m,n)$ である。$m\mid n$ なら位数 $m$ で、本書『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』の整係数の $c_1$ と同じ情報をもつ。
整係数の類との違いは、係数が $\mu_n(k)$ そのものであることにある。体の同型で移すと、係数も一緒に移る。
$\sigma\colon k\to k'$ を代数閉体の同型とし、$E$ を $G$ の $k$ 上の表現、$\sigma_*E$ を $\sigma$ で移した $k'$ 上の表現(行列の成分に $\sigma$ を当てたもの)とする。$\sigma$ は Kummer 列の同型 $(0\to\mu_n(k)\to k^*\to k^*\to0)\to(0\to\mu_n(k')\to k'^*\to k'^*\to0)$ を与え、$\det(\sigma_*E)=\sigma\circ\det E$ だから、余境界の自然性により
$$c_1(\sigma_*E)=\sigma_*\bigl(c_1(E)\bigr),\qquad\sigma_*\colon H^2(G,\mu_n(k))\xrightarrow{\sim}H^2(G,\mu_n(k'))$$
である。$k=k'$ のとき $\sigma_*$ は係数 $\mu_n(k)$ への $\sigma$ の作用で、$c_1$ は「不変」ではなく「係数の作用と両立する」。本書『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』で整係数の $c_1$ が $u\,c_1$ に動いたのは、係数 $\mathbf Z$ がこの作用を受け止められなかったからで、ここではその動きが係数 $\mu_n(k)$ への作用として吸収される。この両立を高次の類と一般の部分体へ広げたものが本書『4-1 Galois 不変性と円分指標』の主結果である。
上の定義(表現の mod n の第一 Chern 類)から、$k$ が代数閉であるという仮定を外す。$k=\mathbf Q$、$n=2$ とすると、$x\mapsto x^2$ は $\mathbf Q^*$ の上で全射でない($2$ は平方でない)ので、$0\to\mu_2(\mathbf Q)\to\mathbf Q^*\to\mathbf Q^*\to0$ は完全でなく、余境界 $\partial$ は定義できない。原論文が小節 0.6 で、代数閉でない体の上の表現の類を群のコホモロジーでなく混合エタールコホモロジー $H^{2i}(\operatorname{Spec}k,G;\mu_n^{\otimes i})$ に置くのはこのためで、そこでは Kummer 列がエタール層の完全列として意味をもつ(本書『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』)。
最後に、局所モノドロミーの定理で冪 $n(s)$ が本当に要ることを、楕円曲線の簡単な族で確かめる。
上の注意(局所モノドロミーの定理)の 2 で、冪 $L_s^{n(s)}$ を $L_s$ そのもの($n(s)=1$)に替えた主張は成り立たない。$S=\mathbf C$、$X$ を $S\times\mathbf P^2_{\mathbf C}$ の中の $y^2z=x^3+tz^3$($t\in S$)で定まる閉部分空間、$f$ を第一射影とする。$t\ne0$ ではファイバー $E_t$ は滑らかな楕円曲線で($x^3+t$ は重根をもたない)、$T=\{0\}$ ととれる。要点のみ述べる。$t=e^{i\theta}$ と $s=e^{i\theta/6}$ について、$E_1\to E_t$、$(x,y)\mapsto(s^2x,s^3y)$ は同型で、$\theta$ について連続である。$\theta$ が $0$ から $2\pi$ まで動くと $s$ は $1$ から $\zeta=e^{\pi i/3}$ へ動くので、原点のまわりのループに沿った $E_1$ の移動は自己同型 $\alpha\colon(x,y)\mapsto(\zeta^2x,-y)$ で与えられる。$\alpha$ は位数 6 で、原点 $[0:1:0]$ を固定する。引用する事実 3 により $E_1\cong\mathbf C/\Lambda$ で $\alpha$ は $z\mapsto\rho z$($\rho$ は 1 の原始 6 乗根。$\alpha^*(dx/y)=-\zeta^2\,dx/y$ から読める)で与えられ、$H^1(E_1,\mathbf C)$ に固有値 $\rho,\bar\rho$ で作用する。したがってモノドロミー $L_0$ は位数 6 で、固有値が 1 でないので冪単でなく、$L_0^m$ が冪単になるのは $6\mid m$ のときに限る。この族は相対的に代数的なので、定理の 2 は $n(0)=6$ で成り立つ。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Gro68d の小節 0.3〜0.4、0.6 前半、0.7〜0.8、0.10〜0.11 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:係数の取り替えの構想、序論と本書の頁の対応 | 小節 0.3〜0.6 | 218–222 |
| 定義(表現の mod n の第一 Chern 類) | 小節 0.3、(0.7)〜(0.10) | 218–219 |
| 注意(高次の類の係数の要請) | (0.11) | 219 |
| 定義(ℓ 進係数の群のコホモロジー) | 小節 0.4、(0.12)(0.13) | 219–220 |
| 定義(G 集合のトポスと環付きトポス)、補題(G 集合のトポスの被覆と局所化)、定理(群の作用する集合のトポスによる群コホモロジーの表示) | 小節 0.6 前半(「定義そのものから」) | 221–222 |
| 注意(分類空間との関係) | 小節 0.6、0.8 冒頭 | 221、224–225 |
| 注意(§1・§2 の計画と豊かな類) | 小節 0.6 中〜後半、(0.14)(0.15) | 222–223 |
| 注意(de Rham 型・Hodge 型の類の予告) | 小節 0.7 | 223–224 |
| 注意(分類トポスと普遍類) | 小節 0.8、(0.16) | 224–226 |
| 注意(Lazard の定理とアーベル多様体の族) | 小節 0.10 前半 | 228 |
| 注意(局所モノドロミーの定理)、注意(代数性を外した場合の本文と脚注の食い違い) | 小節 0.10 の下線つきの定理と脚注 | 228–229 |
| 注意(位相の定理とスキームの定理) | 小節 0.11 | 229–231 |
| 例(巡回群の mod n の第一 Chern 類)、例(mod n の類は体の同型で係数ごと移る)、例(反例:代数閉でない体では Kummer 列は群の完全列でない)、例(反例:局所モノドロミーは冪単とは限らない) | 原論文になし(本書が足した例) | — |
原論文の小節 0.10 の定理の印字「$\operatorname{pr}_2$」と「$V^i$」は、本頁ではそれぞれ第一射影と $H^i(X_{s_0},\mathbf Q)$ と読んだ。
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