本書の目的と原論文の位置づけ、本書の方針、章立て(第 0〜8 章、全 32 頁)と各章の要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案、状態札の読み方と本書全体の集計、第 3 巻『Chern 類の公理的理論』との関係をまとめる。分野ごとの要点は本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』から『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』までの四頁に、全頁に共通する記号と約束、射影束の規約、原論文の引き方は本書『0-6 記号と約束』に分けて置く。
本書は、A. Grothendieck の論文「Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets」(IHÉS、1966 年 12 月の原稿。論文集『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』、North-Holland・Masson、1968 年、印字 215–305 頁の Exposé VIII。本書では Gro68d と引く)を道案内にして、離散群の線形表現の Chern類 を代数的・算術的に扱う方法を主題ごとに解説する。原論文の出発点は、離散群の複素表現の位相的な Chern 類を、複素数体の位相を使わずに定められるかという問いである。原論文は、体の自己同型で不変な整係数の理論は作れないことを確かめ(§0)、1 の冪根の捩れを係数とするエタールコホモロジーで作用群つきスキームの Chern 類を定め(§1・§2)、位相的な類と比べ(1.8・§3)、体の自己同型が Chern 類に働く様子から捩れ定理を導く(§4)。その系が、有限生成とは限らない任意の離散群の複素表現の有理 Chern 類が $0$ になるという、超越的に知られていた結果の算術的な再発見である。さらに、基礎体が分離閉でない場合の捩れでない類(§5)、de Rham 型と Hodge 型の Chern 類(§6)、付録として Milnor の定理の一般化(§7)を扱う。
本書は原論文の翻訳ではない。原論文の流れを八つの主題に組み直し、前提知識の第 0 章を加えて 9 章 32 頁とした。第 1 章以後の各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表、という同じ形で書いてある。「この頁で示すこと」には主結果の名前と原論文の番号・印字頁、状態札が並び、「定義と準備」の中の「引用する事実」には、その頁が証明せずに使う事実が、要点を置いた第 0 章の頁とともに列挙してある。
本書の方針は三つある。第一に、原論文が「直ちに確かめられる」「読者に任せる」で済ませた段を補って閉じる。位相的な第一 Chern 類が指標そのものであること(『1-1』)、Chern 類の加法性を台つきコホモロジーで直接示すこと(『2-3』)、原論文が「容易」とした位相空間での両立(『3-1』)、第一 Chern 類での位数の上界の達成(『4-2』)などがそれに当たる。第二に、原論文の主張と後の数学を分ける。原論文が期待・予想・仮定(「admettrons」)・問いとして述べたことは原論文の状態として記録し、Deligne による Weil 予想の証明、局所モノドロミーの定理の証明、Deligne–Sullivan の定理、結晶 Chern 類など後代の結果は、時点を明記して各頁の「その後の発展」に分けて書く。後代の名称(同変エタールコホモロジー、Tate 捩れ、型 FP 無限大など)を説明に使うときも、原論文自身の用語としては帰属させない。第三に、各主結果に本書の判定として状態札を付ける。札の意味と数え方は下の「状態札の読み方」にある。
使い方は三通りを想定している。
章ごとに、頁と原論文の対応と要点を挙げる。各頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果を要約したもので、詳しくは各頁の冒頭を見よ。
| 章 | 頁 | 原論文 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 第 0 章 前提知識と読み方 | 0-1〜0-6 | — | 読み方、分野ごとの前提(四頁)、記号と約束 |
| 第 1 章 整係数の障害と序論の構想 | 1-1、1-2 | 0.1〜0.11(印字 215–231) | 位相的 $c_1$ と指標、整係数の不変な理論の不可能性、群のトポス、序論の予告 |
| 第 2 章 算術的 Chern 類の構成 | 2-1〜2-4 | §1 の 1.1〜1.7、§2(231–240、244–248) | 混合エタールコホモロジー、射影束公式、Chern 類の三つの性質、係数の変更と ℓ 進類 |
| 第 3 章 超越的 Chern 類との比較 | 3-1〜3-3 | 1.8、§3(240–244、248–255) | 位相空間での比較、古典位相との比較、ℓ 進類から整係数類へ |
| 第 4 章 幾何的な場合の捩れ定理 | 4-1〜4-3 | 0.5、4.1〜4.12(220–221、255–264) | Galois 不変性、位数の上界、総括定理と複素表現の有理 Chern 類の消滅 |
| 第 5 章 Weil 予想と射影多様体 | 5-1、5-2 | 4.12〜4.14(264–270) | 有限体上の捩れと特殊化、固有性・代数性を外した反例 |
| 第 6 章 算術的な場合:捩れでない類とコホモロジー次元 | 6-1〜6-5 | 0.6、§5(222–223、270–283) | Künneth 公式、指標の $c_1$、Kummer 類の積、コホモロジー次元による消滅、組成列と整数環 |
| 第 7 章 de Rham 型と Hodge 型の Chern 類 | 7-1〜7-4 | 0.7、§6(223、283–296) | 対数微分による定義、係数環の大小、ℓ 進との食い違い、Atiyah 類 |
| 第 8 章 平坦束の特性類と Milnor の定理 | 8-1〜8-3 | 0.9、§7(226–227、297–302) | 簡約群と可換群、構造論による帰着、代数性が外せないこと |
第 1 章は原論文の序論を二頁に分ける。『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』は、離散群の 1 次元複素表現の位相的な第一 Chern 類が、約束だけで決まる普遍符号を除いて指標の余境界に等しいことを示し、複素数体の自己同型が 1 の冪根を動かすことから、位数 3 以上の巡回群では体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類が存在しないことを証明する。原論文はこの否定を位数 2 にも述べるが、位数 2 では成り立たないので、訂正した形を主結果とし、原論文の形が破れることを注意に書いた。『1-2 序論の構想と群のトポス』は、群の作用する集合のトポスによる群コホモロジーの表示を閉じ、分類トポスと普遍類、局所モノドロミーの定理など、序論が予告して他所に送る主張を原論文の状態のまま記録して、以後の章への地図とする。
第 2 章は原論文の §1・§2 を四頁に分ける。『2-1』は作用群つきのエタール層がトポスをなすこと、混合コホモロジーのスペクトル系列、Kummer 列の完全性を示す。『2-2』はエタールの射影束公式を作用群つきで証明し、原論文の (1.12)(2.4) が和の上限を欠く点を訂正した形で述べる。『2-3』は射影束公式から Chern 類を定め、逆像との両立・正規化・加法性を示し、特徴づけと公式集を第 3 巻から引く。『2-4』は係数を動かすときの両立と ℓ 進 Chern 類を扱う。
第 3 章は、算術的な類が位相的な整係数の類の還元であることを示す。『3-1』は Hausdorff かつパラコンパクトな作用群つき空間で、通常の射影束で作った類について比較を閉じ、原論文の相対スキームとしての射影束で作った類との一致は未完結に残す。『3-2』は複素数体上有限型かつ分離的なスキームで比較を閉じ、『3-3』は ℓ 進類から整係数類を取り戻す条件と、有限係数では見えない無限に ℓ で割れる元を特定する。
第 4 章と第 5 章は捩れ定理である。『4-1』『4-2』『4-3』は、分離閉体の上の表現の ℓ 進 Chern 類が、表現の類が体の自己同型で不変なら捩れであることと位数の上界を示し、複素表現の有理 Chern 類の消滅を導く。原論文 4.6 の「第一 Chern 類で上界は最良でない」という例は誤りで、本書は上界が第一 Chern 類では常に達成されることを示した。『5-1』は射影的で滑らかな多様体への一般化を Weil 予想の下で示し、『5-2』は固有性と代数性が外せないことを示す。
第 6 章は基礎体が分離閉でない算術的な場合で、ℓ 進の類が捩れにならない例とコホモロジー次元による消滅を扱う。原論文 (5.1) の帰納極限の公式は無限生成の群で成り立たないので、型 FP 無限大の群に限った形を主結果とした。第 7 章は同じ問いを de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーで考え、高次の類に要る射影束公式を原論文どおり入力に置く。Atiyah 類の特性多項式による構成は、$i!$ が可逆な底に限った形を主結果とした。第 8 章は、複素代数群への離散群の準同型が分類空間の正次数の有理コホモロジーに $0$ を誘導するという原論文の Théorème 7.1 を証明し、実半単純群と Serre の複素 Lie 群の例で代数性が外せないことを示す。
分野ごとに、本書で要る水準の目安を示す。「◎」は本書の多くの頁で証明の中で使うもの、「○」は一部の章で使うもの、「△」は言明の理解のために触れるだけのものである。
| 分野 | 主な内容 | 水準の目安 | 主に使う章 | 第 0 章の頁 |
|---|---|---|---|---|
| 群のコホモロジー | 長完全列、普遍係数、制限・転送・Shapiro の補題、Hochschild–Serre のスペクトル系列、射有限群、コホモロジー次元、型 FP 無限大 | ◎ CE56 程度。普遍係数の完全列を自分で使えること | 全章 | 0-2 |
| 分類空間と平坦束 | 離散群と Lie 群の分類空間、付随束、平坦束と基本群の表現、Borel 構成 | ◎ 第 1・3・8 章の証明の中心 | 1・3・8 章 | 0-2、0-4 |
| エタールコホモロジーと Galois コホモロジー | エタール景とトポス、Kummer 列と Hilbert 90、Tate 捩れと円分指標、固有底変換、射影空間、Artin の比較定理、体のコホモロジー次元 | ◎ SGA4 の主張の形を知っていれば証明は引用でよい | 2〜7 章 | 0-3 |
| Weil 予想 | Frobenius の固有値の絶対値の言明、特殊化 | ○ 言明だけ。第 5 章は原論文どおり仮定として使う | 5 章 | 0-3 |
| 位相的 Chern 類 | Hirzebruch の Chern 類、指数列による第一 Chern 類、Leray–Hirsch の定理 | ◎ Hir56 の言明の水準 | 1・3・5・8 章 | 0-4 |
| Lie 群と代数群 | 極大コンパクト部分群、Chern–Weil 理論、Chevalley の分解、単冪根基、同種写像、中心拡大と Euler 類、一意化 | ○ 第 8 章で必須 | 8 章 | 0-4 |
| de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー | Kähler 微分、超コホモロジー、Hodge–de Rham スペクトル系列、Cartier 作用素、代数曲線の留数、Atiyah 拡大 | ○ 第 7 章で必須。証明は第 2 巻『代数的 de Rham コホモロジー』に委ねる | 7 章 | 0-5 |
| Chern 類の公理的理論 | 射影束公式による定義、旗束と分裂原理、一意性、双対・外冪・テンソル積の公式 | ○ 第 2 章で引く。第 3 巻の主結果を言明の形で知っていること | 2 章 | 第 3 巻 |
| 代数的整数論 | 円分体と円分多項式、$\ell$ 進単数群、差積、局所体の馴分岐 | △〜○ 第 4・6・7 章の計算で使う | 4・6・7 章 | 0-3 |
第 0 章に頁を設けない事実(四元数群の表現、有限型の体の単数群の有限生成性、Brauer の定理など)は、使う頁の「引用する事実」で出典とともに述べる。
行は本書の頁、列は第 0 章の頁と第 3 巻『Chern 類の公理的理論』である。「◎」はその頁の証明の中心で使うもの、「○」は一部の段や引用で使うもの、空欄はほとんど使わないものを表す。印は各頁の「引用する事実」に挙げられた事実と、本文が引く頁から付けた。「頁の前提」の列には、その頁の前に読んでおくとよい本書の頁を番号で挙げた(第 0 章の頁は省く)。括弧内は、その頁から主結果を一つだけ引くものである。
| 頁 | 群のコホモロジー・分類空間(0-2) | エタール・Galois(0-3) | 位相的 Chern 類・平坦束・群(0-4) | de Rham・Hodge(0-5) | 第 3 巻 | 頁の前提 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型 | ◎ | ◎ | なし | |||
| 1-2 序論の構想と群のトポス | ○ | ○ | ○ | 1-1 | ||
| 2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー | ○ | ◎ | なし | |||
| 2-2 射影束公式 | ◎ | ○ | 2-1 | |||
| 2-3 Chern 類の定義と三つの性質 | ○ | ◎ | 2-1、2-2 | |||
| 2-4 係数の変更と ℓ 進 Chern 類 | ○ | ○ | 2-1、2-3 | |||
| 3-1 位相空間の場合の比較 | ◎ | 2-1、2-2(1-1) | ||||
| 3-2 エタールコホモロジーと古典位相の比較 | ◎ | 2-2、2-3、3-1 | ||||
| 3-3 ℓ 進類から整係数類へ | ◎ | ○ | ○ | 3-2 | ||
| 4-1 Galois 不変性と円分指標 | ◎ | ○ | 2-1、2-3 | |||
| 4-2 位数の上界と第一 Chern 類での最良性 | ◎ | ○ | 4-1 | |||
| 4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類 | ◎ | ○ | 4-1、4-2、3-2、3-3(1-1) | |||
| 5-1 有限体上の捩れと特殊化 | ◎ | ○ | 2-3、2-4、3-2、3-3、4-3 | |||
| 5-2 固有性と代数性を外した場合 | ○ | ◎ | ◎ | 5-1(6-1) | ||
| 6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数 | ◎ | ◎ | 2-1 | |||
| 6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体 | ◎ | 2-1、2-3 | ||||
| 6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類 | ○ | ◎ | 2-3、2-4、6-1 | |||
| 6-4 コホモロジー次元による消滅 | ◎ | ◎ | 2-1、2-3、6-1 | |||
| 6-5 表現の組成列と基礎環上の類 | ○ | ◎ | 2-3、2-4、6-1、6-4 | |||
| 7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列 | ○ | ◎ | ○ | (3-1、3-2) | ||
| 7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合 | ○ | ◎ | 7-1、2-1 | |||
| 7-3 係数環が大きい場合と ℓ 進との食い違い | ○ | ○ | ◎ | 7-1、7-2、6-2(6-4) | ||
| 7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類 | ○ | ◎ | ○ | 7-1、7-2、7-3(6-1、6-4) | ||
| 8-1 Milnor の定理の一般化:簡約群と可換群 | ◎ | ◎ | (4-3) | |||
| 8-2 構造論による帰着と定理の証明 | ◎ | ◎ | 8-1 | |||
| 8-3 代数性は外せない:注意と反例 | ◎ | ◎ | 8-1、8-2(1-1、4-3) |
表から読み取れることを四つ挙げておく。
原論文の順序は §0 から §7 まで一本道だが、本書は四つの道筋を想定している。どの道筋でも、各頁の冒頭の「この頁で示すこと」に主結果と原論文の番号・印字頁、状態札がまとめてあるので、まずそこだけを全頁通して読み、原論文のどの主張がどこまで閉じているかの全体像を先につかむのも一つの方法である。
原論文の主定理である、表現の ℓ 進 Chern 類の捩れ性と複素表現の有理 Chern 類の消滅へ、最短で向かう道筋である。
『1-1 位相的 Chern 類と体の自己同型』→『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』→『2-2 射影束公式』→『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』→『4-1 Galois 不変性と円分指標』→『4-2 位数の上界と第一 Chern 類での最良性』→『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』
『1-1』で、整係数の不変な理論が作れないこと、すなわち体の自己同型が Chern 類を動かすことを見る。第 2 章で ℓ 進 Chern 類を作り、第 4 章でその自己同型の作用から位数の上界を得る。『4-3』の主結果のうち、総括定理と ℓ 進類の捩れ性は第 4 章の中で閉じるが、有理 Chern 類の消滅と整係数の類の捩れ性は、算術的な類と位相的な類の比較を使う。そこへ進むときは『3-1 位相空間の場合の比較』→『3-2 エタールコホモロジーと古典位相の比較』→『3-3 ℓ 進類から整係数類へ』を挟む。続けて『5-1 有限体上の捩れと特殊化』『5-2 固有性と代数性を外した場合』へ進めば、射影多様体への一般化とその限界が分かる。
基礎体が分離閉でないときに何が起こるかを追う道筋である。
『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』→『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』→『6-1 作用が自明なときの Künneth 公式と普遍係数』→『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』→『6-3 Kummer 類の積と捩れでない高次の類』→『6-4 コホモロジー次元による消滅』→『6-5 表現の組成列と基礎環上の類』
『6-2』は第一 Chern 類が捩れにならない例を Kummer 理論で作り、『6-3』はその積で高次の例を作る。『6-4』『6-5』は逆に、コホモロジー次元が類の消滅と定義体の超越次数の下界を与えることを示す。射影束公式の証明(『2-2』)は、Chern 類の定義を認めれば飛ばせる。
同じ問いを de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーで考え、ℓ 進の類との違いを見る道筋である。
本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』→『2-1 作用群つきスキームの混合エタールコホモロジー』(作用群つきの層の定義と、作用を忘れる関手の補題だけ)→『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』(射影束の関係式による定義の型だけ)→『7-1 定義と Hodge–de Rham スペクトル系列』→『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』→『6-2 指標の第一 Chern 類と基礎体』→『7-3 係数環が大きい場合と ℓ 進との食い違い』→『7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類』
『7-1』の超越的な類との比較の段だけは『3-1』『3-2』を引く。『7-3』の食い違いの例は、有理数体の上で ℓ 進の類が捩れでないこと(『6-2』)と、de Rham 型の類が $0$ になることを並べるので、『6-2』をその前に読む。『7-3』の係数環が大きい場合の段は、『6-4 コホモロジー次元による消滅』のトレース論法を言明の形で引く。
付録の §7 と序論 0.9 だけを、位相の側から読む道筋である。
本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』・本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』→『8-1 Milnor の定理の一般化:簡約群と可換群』→『8-2 構造論による帰着と定理の証明』→『8-3 代数性は外せない:注意と反例』
簡約群の場合は Chern–Weil 理論で閉じるので、算術的な Chern 類はほとんど要らない。『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』の主結果「複素表現の有理 Chern 類は 0」は、『8-1』の序論の同値と『8-3』の段 a) の算術的な置き換えにだけ、言明の形で引く。『8-3』の反例のうち有限性を外す例は、『1-1』の位相的 $c_1$ の表示を使う。
各主結果には、本書の判定として状態札を一つ付ける。[完結]は本書の中で証明し切ったもの、[条件付き:…]は引用した定理に依るもの(何を引用したかを札の中に書く)、[未完結:…]は証明を閉じられなかったもの(何が足りないかを書く)である。
本書の基準は厳しい。第 0 章で証明なしに述べる標準的な定理(Hilbert 90、Kummer 理論、円分多項式の既約性、Giraud の判定、合成関手と Hochschild–Serre のスペクトル系列、固有底変換、Artin の比較定理、Leray–Hirsch の定理、Chern–Weil 理論、代数群の構造論、一意化など)を引いた段が一つでもあれば[条件付き]とする。[完結]に残るのは、定義、初等的なホモロジー代数(長完全列、余境界の自然性、普遍係数、自由な鎖複体の分解)、初等的な群論と体論、本書の他の頁で[完結]とした主張だけで閉じるものである。条件は伝わる。混合コホモロジーの枠組み(『2-1』)と射影束公式(『2-2』)が条件付きなので、混合 Chern 類を使う主結果はすべて条件付きになる。したがって[条件付き]は証明の欠落を意味せず、何に依って閉じたかを示す札である。[未完結]は本書が閉じられなかった段が実際にある主張で、各頁の本文と注意にその段を書いてある。
原論文の主張が印字のままでは成り立たないとき、本書はそれを独立の主結果として立てない。訂正した主張を主結果とし、「この頁で示すこと」では状態札の後に、原論文の形がどの反例で破れるかを一文で添え、原論文の印字が偽であることと反例を、その頁の注意に書く。このように扱った原論文の主張は七つある。『1-1』の小節 0.2 の否定的主張の位数 2 の場合、『2-2』の (1.12) と (2.4) の和の範囲、『4-2』の小節 4.6 の第一 Chern 類の例、『4-3』の Remarques 4.12 b) の括弧内の同型、『6-1』の (5.1) の帰納極限の公式、『7-4』の (6.24)(6.25) の一般の底への移行である。これとは別に、原論文の誤植(理由の添えられていない文字や番号の誤り)は訂正した形で読み、頁の注意に「印字は…、…と読む」と書く。偽と誤植の区別の基準と誤植の一覧は本書『0-6 記号と約束』にある。
状態札とは別に、原論文自身の確信度(定理、主張、期待、予想、仮定、問い)を各頁の本文で添える。原論文で期待や仮定だった主張が後代に定理になっていても、本書の状態札はその頁で証明を閉じたかどうかだけで決まる。たとえば『5-1』の Théorème 4.13 は、原論文どおり Weil 予想を仮定に置いた形で[条件付き]であり、Deligne Del74(1974 年)による Weil 予想の証明は「その後の発展」に書く。
第 1〜8 章の 26 頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果の状態札を数えた(2026 年 9 月 24 日時点の各頁による実測)。主結果は合わせて 131 個で、内訳は次のとおりである。
| 章 | 頁 | 主結果 | 完結 | 条件付き | 未完結 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第 1 章 | 1-1、1-2 | 7 | 2 | 3 | 2 |
| 第 2 章 | 2-1〜2-4 | 16 | 0 | 15 | 1 |
| 第 3 章 | 3-1〜3-3 | 15 | 4 | 9 | 2 |
| 第 4 章 | 4-1〜4-3 | 17 | 3 | 13 | 1 |
| 第 5 章 | 5-1、5-2 | 6 | 0 | 6 | 0 |
| 第 6 章 | 6-1〜6-5 | 34 | 0 | 32 | 2 |
| 第 7 章 | 7-1〜7-4 | 22 | 1 | 20 | 1 |
| 第 8 章 | 8-1〜8-3 | 14 | 1 | 13 | 0 |
| 合計 | 26 頁 | 131 | 11 | 111 | 9 |
[完結]の 11 個は、有限群の余境界の同型(『1-1』)、群のトポスによる群コホモロジーの表示(『1-2』)、ℓ 進類と整係数類の関係の四つ(『3-3』)、第一 Chern 類での上界の達成(『4-2』)、有限生成性が外せないことと有理化の写像の単射性(『4-3』)、特性多項式の係数を与える線形形式(『7-4』)、ホモロジーが有限型なら捩れと有理類の消滅が同値なこと(『8-3』)で、どれも群のコホモロジーと普遍係数、階数 1 の計算、初等的な代数だけで閉じる。
[未完結]の 9 個を、扱う頁とともに挙げる。
| 頁 | 主結果 | 足りないもの |
|---|---|---|
| 1-2 | 分類トポスと普遍類 | 原論文は Giraud の準備中の著作に送り、証明が無い |
| 1-2 | 局所モノドロミーの定理 | 原論文は証明なしと明言する |
| 2-2 | 一般の局所環付きトポスの場合 | 局所環付きトポスのエタール景と、相対スキームへの固有底変換の延長が原論文に無い |
| 3-1 | 原論文の (1.30) の類との一致 | 相対スキームとしての射影束のエタールトポスが原論文に構成されていない |
| 3-2 | 局所有限型の場合と分離的でない場合 | 比較定理の局所有限型への延長を特定できない。分離的でないと解析空間が Hausdorff でない |
| 4-2 | 標準仮定 (K) を外した標数 p の分離閉体の場合 | 原論文が訴える自己同型の延長がこの場合には出ない |
| 6-1 | ℓ 進の整数形の一般の場合 | 有限でない群の射影系での $\varprojlim^1$ の処理 |
| 6-5 | 整数環の開集合の上の有限性の断定 | 整数環の開集合のエタールコホモロジーの有限性を名指しの形で確かめていない |
| 7-1 | de Rham と Hodge の射影束公式 | 原論文は準備中の Illusie の論文に委ね、証明が無い。以後の頁は入力として置く |
このうち局所モノドロミーの定理には、後に SGA 7 SGA7I(1972 年)で証明が与えられた(『1-2』の「その後の発展」。本書は確かめていない)。原論文が予想した $p$ 進 Chern 類の方向には Berthelot–Illusie BI70(1970 年)の結晶 Chern 類がある(『7-3』)。
原論文は節ごとに射影束の空間と基本類の取り方が違う。本書は全体で一つの規約に統一する。階数 $r$ の局所自由加群 $\mathbb E$ に対し $P(\mathbb E)=\operatorname{Proj}\operatorname{Sym}(\mathbb E^\vee)$(点は $\mathbb E$ のファイバーの直線)、基本類を $\xi_{\mathbb E}=c_1(\mathcal O_{P(\mathbb E)}(1))$ とし、Chern 類を $\sum_{i=0}^rf^*c_i(\mathbb E)\,\xi_{\mathbb E}^{r-i}=0$、$c_0=1$ で定める。これは原論文 §2 の印字(EGA の記法で $P(\check{\mathbb E})$、$\xi=\partial\,cl(\mathcal O(1))$)と第 3 巻の規約に一致し、§6 の正規化とも整合する。§1 の印字は二通りに読め、一方の読みでは係数が $(-1)^i$ 倍になる。原論文の各節の読み替えの表は本書『0-6 記号と約束』にあり、頁の中で原論文の規約と本書の規約が違う箇所は、その場で断ってある。
本書は「古典を読む」の第 5 巻で、第 3 巻『Chern 類の公理的理論』(Grothendieck 1958 Gro58 を読む)の続きにあたる。1958 年の理論は、射影束公式を公理 A 1 として置き、横断的な切断の零点の基本類、押し出し、射影公式についての公理 A 2〜A 4 を加えて、Chow 環などの「モデル」に Chern 類を与えた。1966 年の原論文は、エタールコホモロジーについて射影束公式を定理として証明し(『2-2』)、同じ関係式で Chern 類を定める(『2-3』)。
分担は次のとおりである。射影束と標準線束、旗束と完全分裂、射影束公式から Chern 類を定める方法と一意性、双対・外冪・テンソル積の公式、λ 環と表現環の扱いは第 3 巻で扱ったので、本書は「参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』」のように引いて繰り返さない。本書で新しく証明するのは、Tate 捩れを係数とするエタールの射影束公式とその作用群つき版、エタールの場合の加法性、作用群・分類空間・体の自己同型に固有のことすべてである。加法性について一つ注意がある。第 3 巻の存在証明は公理 A 2〜A 4 を使うが、原論文のエタール理論はそれらに当たる性質(サイクル類と押し出し)を用意しない。そこで『2-3』は、第 3 巻の一意性の証明が射影束公式・関手性・正規化・加法性と旗束での単射性だけを使い、A 2〜A 4 を使わないことを確かめてから引き、加法性そのものは台つきコホモロジーの長完全列で直接閉じた。
次数の取り方が違う。第 3 巻は次数を半分に取って $A^i$ と書く(1958 年の原論文の $A^{2i}$)が、本書はコホモロジーの次数 $H^{2i}$ をそのまま使う。第 3 巻の公式を引くときは $A^i$ を $H^{2i}$ と読み替える。
他の巻との関係も挙げておく。エタールコホモロジーの初歩は第 1 巻『Brauer群の理論』の第 0 章と重なり、de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーの前提は第 2 巻『代数的 de Rham コホモロジー』に、原論文 6.8 の $p$ 進 Chern 類の予想の背景にある結晶コホモロジーの構想は、同じ論文集の Exposé IX を読む第 4 巻『結晶コホモロジーの構想』にある。これらは第 0 章の各頁から案内し、定義は本書の中でも短く繰り返す。
全頁に共通する記号($G$、$\Gamma$、$\mu_n^{\otimes i}$、$T_\ell^{\otimes i}$、$H^i(X,G;F)$、$c_i(\mathbb E)(\ell)$、$\xi_{\mathbb E}$、$\delta_{\exp}$、$\partial$、$\chi$、$\Lambda_1$、$\alpha(i)$、$\operatorname{Filt}^p$ など)、射影束の規約と原論文の各節の読み替え、比較の同型の向き、ℓ 進係数を射影極限で定める約束、原論文の番号と印字頁の引き方、原論文の誤植の読み方の一覧、約束だけで決まる符号の扱いは、本書『0-6 記号と約束』にまとめてある。Grothendieck 位相の site は「景」、topos は「トポス」と書く。
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